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東京地方裁判所 平成9年(特わ)431号 1998年5月29日

被告人

本店の所在地

東京都港区南青山三丁目一二番一二号

株式会社ル・キヤ

右代表者代表取締役

李熊

国籍

大韓民国

住居

東京都町田市小川一丁目二三番地一八

会社役員

三山熊裕こと李熊

一九六二年八月九日生

出席検察官 福垣内進

弁護人(私選) 武田喜治

主文

被告人株式会社ル・キヤを罰金一三〇〇万円に処する。

被告人李熊を懲役一〇か月に処する。

被告人李熊に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

【犯罪事実】

被告人株式会社ル・キヤ(平成六年五月二四日以前は株式会社アンファーエムズ、以下被告会社という)は、東京都港区南青山三丁目一二番一二号(平成七年一〇月三日以前は東京都港区南青山三丁目一八番九号、平成六年六月八日以前は神奈川県相模原市上鶴間三五五三番地)に本店を置いて、体型補整下着の販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人李熊(以下被告人という)は、被告会社の代表取締役として、被告会社の業務全般を統括していたものである。

被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、売上を除外し、架空の給料、賞与を計上するなどして、所得を秘匿した上、次のとおり法人税を免れた。

第一  被告人は、平成五年三月一日から平成六年二月二八日までの事業年度において、被告会社の所得金額が七二二三万三九七〇円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年四月二八日、神奈川県相模原市富士見六丁目四番一四号所轄相模原税務署において、相模原税務署長に対して、その欠損金額が九八八万四六九八円であり、納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第五二三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額二六三二万二三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  被告人は、平成六年三月一日から平成七年二月二八日までの事業年度において、被告会社の所得金額が四〇一八万〇六五七円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年五月一日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所轄麻布税務署において、麻布税務署長に対して、その欠損金額が三五六万八四二八円であり、納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第五二三号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額一四三〇万一七〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  被告人は、平成七年三月一日から平成八年二月二九日までの事業年度において、被告会社の所得金額が三七一三万九三一〇円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年四月三〇日、前記麻布税務署において、麻布税務署長に対して、その所得金額が零であり、納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成一〇年押第五二三号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額一三一五万九九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

【証拠】(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

全事実について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙四)

冒頭の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙一)

一  登記簿謄本、閉鎖登記簿謄本(二通)

第一、第二、第三の各事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙二、三、五ないし八)

一  大泉和子、富田龍己の検察官に対する各供述調書

一  売上高調査書、給料手当調査書、賞与調査書、地代家賃調査書、通信費調査書、販売手数料調査書、受取利息調査書、雑損失調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書

一  捜査報告書(三通)

第一、第二の各事実について

一  申告欠損金調査書

第一、第三の各事実について

一  支払手数料調査書

第一の事実について

一  法人税の確定申告書一袋(平成一〇年押第五二三号の1)

第二、第三の各事実について

一  消耗品費調査書、事務用品費調査書、水道光熱費調査書、運賃調査書、雑費調査書

第二の事実について

一  支払利息調査書

一  法人税の確定申告書一袋(平成一〇年押第五二三号の2)

第三の事実について

一  雑収入調査書、繰越欠損金の当期控除額調査書

一  法人税の確定申告書一袋(平成一〇年押第五二三号の3)

【法令の適用】

被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、平成七年法律第九一号(以下改正法という)附則二条二項前段により、以上は刑法四五条の前段の併合罪であるから、刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇か月に処し、改正法附則三条により刑法二五条一項を適用して、情状によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人の判示各所為は、被告会社の業務に関して行われたものであるから、被告会社については、判示各所為についていずれも法人税法一六四条一項により法人税法一五九条一項の罰金刑に処せれるべきところ、各罪について情状により同条二項を適用し、改正法附則二条二項前段により、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、改正法附則三条により被告会社について刑法四八条二項によって各罪所定の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一三〇〇万円に処することとする。

【量刑の事情】

本件は、体型補整下着の販売等を目的とする被告会社の代表取締役であった被告人が、被告会社の所得について、売上を除外し、架空の給料、賞与を計上するなどして、三事業年度にわたり、合計五三七八万三九〇〇円の法人税を免れたという事案であり、脱税税額は低額ではない。

被告人が被告会社の業務に関して行った所得秘匿行為は、特定の期間の売上を別の経営主体の売上のように仮装して除外したり、直営の店舗を代理店のように装ってその売上を除外し、あるいは、従業員でない者に給料、賞与を支払ったかのように仮装して、除外した売上や架空に計上した給料、賞与に相当する金員を簿外の預金口座に秘匿していたというものであり、その結果、被告人は、正規の税額のすべてを免れていたのであって、犯行の態様は芳しいものではなく、被告人の刑事責任は決して軽視できるものではない。

他方において、被告会社は、免れていた法人税等について、その本税はすべて納付しているが、延滞税、加算税は、分納を余儀なくされている上、本件が発覚したこともあって、業績を落とし、傘下の多くの代理店が仕入先の代理店となり、自社も仕入先の代理店になるなど、相応の経済的な制裁を受けており、経理処理について税理士から細かい指導を受けるように改めるなど改善をはかっている。また、被告人は、高等学校を卒業後、体型補整下着の製造販売会社に勤務した後、独立して仕事にいそしみ、事業を発展させてきているところ、本件によって相応の経済的な制裁を受けたこともあって、本件について反省の態度を示している。このように被告人、被告会社にとって有利な事情もある。

そこで、これらの事情を総合して考慮し、被告会社を主文の罰金刑に処し、被告人を主文の懲役刑に処した上、被告人に対する懲役刑の執行を猶予することとした。

(裁判官 山口雅髙)

別紙1

修正損益計算書

自 平成5年3月1日

至 平成6年2月28日

株式会社ル・キヤ

<省略>

別紙2

修正損益計算書

自 平成6年3月1日

至 平成7年2月28日

株式会社ル・キヤ

<省略>

別紙3

修正損益計算書

自 平成7年3月1日

至 平成8年2月29日

株式会社ル・キヤ

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

自 平成5年3月1日

至 平成6年2月28日

株式会社ル・キヤ

<省略>

ほ脱税額計算書

自 平成6年3月1日

至 平成7年2月28日

株式会社ル・キヤ

<省略>

ほ脱税額計算書

自 平成7年3月1日

至 平成8年2月29日

株式会社ル・キヤ

<省略>

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