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東京地方裁判所 平成9年(刑わ)183号 判決 1997年7月14日

主文

被告人を懲役一年二月に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、A及びBと共謀の上、平成六年七月八日午前二時五〇分ころ、東京都世田谷区《番地略》所在のC方付近路上において、同人方玄関ドアに所携の回転弾倉式けん銃で実包三発を撃ち込み、もって、同人所有の建造物の一部である玄関ドア(損害額二五万六〇〇〇円相当)を損壊し、かつ、同人に対し、同人及びその親族の生命、身体、財産等に危害を加えるような気勢を示して脅迫した。

(証拠の標目)《略》

(補足説明)

弁護人は、被告人には建造物損壊罪、脅迫罪の共謀共同正犯は成立せず、同罪の幇助犯が成立するにすぎないと主張し、被告人も、実行行為はしておらず、ただ現場に実行行為者を案内しただけであると供述するので、被告人について判示のとおり右各罪の共同正犯を認定した理由について補足して説明する。

一  関係証拠を総合すれば、次の事実が認められる。

1  Bは、かつて甲野組系乙山組の副長を務めるとともに同組内丙川組の組長をしていたが、平成三年に暴力団員としての活動を辞めた。Bは、平成六年一月ころ、甲野組系丁原組傘下で和歌山県新宮市に本拠を置く戊田組の組長で、乙山副長当時から面識があったDから依頼され、戊田組の東京支部ないし東京連絡事務所であった株式会社甲田(以下「甲田」という。)に、同年三月ころから専務として勤務することになり、債権の回収、不動産の仲介、倒産関係商品の売買等を業務として行っていた。なお、甲田からは、Bらにより、毎日朝昼晩の三回戊田組の本部事務所に、東京支部の様子等について連絡していた。

被告人は、平成四年一二月自己の営む会社が倒産した後暴力団員と知り合い、平成六年五月には覚せい剤の入ったバッグを公衆電話ボックスに置き忘れたことから、逮捕されることをおそれ、甲田に寝泊まりするようになり、同時にBの下で同社の営業部長として勤務するようになった。

2  平成六年六月ころ、戊田組の本部長の地位にあったAは、ある総会屋から、仕事がうまくいっていないので丙山自動車の代表取締役であるEと同社の顧問弁護士であるCに嫌がらせをするよう頼まれ、これを承諾した。Aは、E及びCのそれぞれの自宅にけん銃で実包を撃ち込んで同人らを畏怖させようと考えた。

Aは、東京の地理に不案内であったため、甲田に電話を掛け、BにE及びCの自宅の場所等を調べるよう依頼した。これを受けて、Bは、被告人にE及びCの自宅がどこにあるか現地に行って調べるよう命じ、被告人は、自動車で現地に赴き、E及びCの自宅の場所を確認し、Bにその結果を報告した。Bが更にAに報告すると、Aは、後日右各場所まで案内してくれるようBに頼み、Bは、これを承諾した。

3  Aは、同年七月七日、上京して昼過ぎスーツ姿で甲田を訪ねるなどして、Bらと会った。Aは、E及びCの自宅に同日夜けん銃を撃ち込もうと考え、Bに対し、E及びCの自宅に同日夜案内するよう依頼し、いったん宿泊先のホテルに戻った。一方、Bは、被告人に、場所を確認してもらったE及びCの家を今夜案内してもらうから時間をあけておいてくれと指示した。

なお、AもBも、未だE及びCの自宅の所在地に行ったことはなく、同所に行ったことのあるのは被告人だけであった。

4  Bは、同月八日午前一時過ぎころ、被告人に普通乗用自動車を運転させてAをホテルに迎えに行き、車に乗せた。Bは、Aがジャンパー姿の身軽な格好をし、しかも無口で緊張した様子でいるのを見て、かつて自分がけん銃を撃ち込みに行った経験から、AがE及びCの自宅にけん銃を撃ち込みに行くつもりでいることに気付いた。Bは、Aが個人的に自分に頼んできたものではなく、この件の背後には乙野組長が存在しているものと思い、当時乙野組長からは一件当たり一億円を超える債権の取立て等を四件ほど依頼され、成功報酬として案件の金額の一割ないし二割を取得できることとされていたことから、乙野組長が背後にいるAの依頼を引き受けて成功すれば、今後の取引にとってプラスになると考え、また、自分のかつての配下が引き取られている暴力団組長と乙野組長とが兄弟分であり乙野組長とは浅からざる義理人情の関係があることから、E及びCの自宅にけん銃を撃ち込むことに加担することを決意した。Aも、BがAの意図を了解した上でこれに加担しようとしているものと考えており、ここに、BとAとの間に右各犯行の共謀が成立した。

被告人は、前記のAの服装や様子を見て、E及びCの自宅に行き、嫌がらせなどをするのではないかと考えるにとどまり、けん銃を撃ち込もうとするものとは思わなかった。

5  Bは、被告人に自動車を運転させてE方に向かわせた。同人方付近に至り、被告人が、AにE方を教え、同人方の近くに車を止め、Aだけが降りてEの自宅にけん銃を撃ち込んで車に戻って来た。Bは、被告人に対し、すぐに車を発進させて世田谷のC方に向かうよう指示した。

被告人は、E方付近で待機中、けん銃の大きな発射音を数回聞いて、AがEの自宅にけん銃を撃ち込んだことを知り、次に案内するCの自宅にもAがけん銃を撃ち込むつもりであると思った。しかし、当時被告人は、置き忘れた覚せい剤の件で逮捕されることをおそれ逃走中で経済的にもゆとりのない状態であり、Bから何度も小遣いをもらうなどして面倒をみてもらっており今後も同種のことを期待していたことから、Bの頼みを断ることはできず、A及びBがけん銃を撃ち込むことに自分が加担することもやむを得ないと決意した。A及びBも、被告人が右犯行に加担しようと考えているものと思っていた。

6  そこで、被告人は、A及びBを自動車に乗せてC方に向かった。同日午前二時五〇分ころ、C方付近に至り、被告人は、C方の脇を走行しながら、Aに対し、「ここです」と言ってC方を教えた。被告人は、C方から数十メートル離れた場所に車を止め、エンジンをかけたままBと共に車内で待機し、Aが車から降りてC方前まで行き、同人方玄関ドアにけん銃で実包三発を撃ち込んで、車まで戻って来た。被告人は、Bと共にAを車に乗せ、すぐ発進して同所付近から逃走し、Aを宿泊先のホテルまで送った。

二  ところで、AがC方にけん銃を撃ち込むつもりであることを被告人が知った後の同人の行為は、Bの指示に基づき、自分が運転する自動車にAを乗せてC方付近まで行き、AにC方を教え、同人方から数十メートル離れた地点で車を止めエンジンを掛けたまま待機し、C方にけん銃を撃ち込んで戻って来たAを車に乗せて逃走したというものである。このような被告人の行為は、建造物損壊や脅迫の実行行為そのものとはいえない。しかしながら、実行行為者が、路上から住宅の玄関に向けてけん銃を撃ち込む行為を完遂し、自己の犯行であることを悟られないためには、誰にも気付かれることなく対象物に接近することのみならず、けん銃の発射音が大きく、かつ、それと分かるものであるがゆえに、けん銃を撃ち込んだ後誰にも見付けられることなく素早くその場から逃走することが肝要であり、その意味で、被告人の前記の行為は、実行行為と同程度に重要なものである。しかも、本件においては、被告人のみがC方の所在地、同人方への道順及び同人方からの逃走経路を把握していたのであるから、被告人の関与なしには実行することができなかったのであり、被告人の前記行為は、本件犯行を行うために必要不可欠のものでもあった。

次に、本件に関与した者の関係等をみると、B及び被告人は、実行行為者であるAの所属する暴力団戊田組の東京支部に所属していたものである。Bは、戊田組の組長との取引等に今後何らかのプラスになることを期待するなどしてAの計画が成功するようこれに加担したものであり、BがAとの共同正犯に当たることは明らかである。そして、被告人は、警察に追われる身で、経済的にもゆとりのない状態であり、今後も引き続きBから小遣いをもらえることを期待するなどしてBの指示に従い、BがAとの関係で行うべき行為を行ったものである。さらに、前示のとおり被告人の行為は本件犯行に必要不可欠のものであったが、被告人は、C方への案内を断れば本件犯行は行われ得ないことを知りながら、あえて前記の行為に及んだものである。

右にみたような(一)被告人の行為が本件犯行において占める役割及び重要性、(二)被告人とA及びBとの関係、(三)被告人が本件犯行に関与した際の心理状態に照らすと、A、B及び被告人の三者はそれぞれの置かれた立場に応じてC所有の建造物の損壊行為及びCに対する脅迫行為の実現に向けて一体となったものであり、Aの行った実行行為は、その共同意思の下に行われた三者共同のものであると認められる。したがって、被告人には判示建造物損壊罪及び脅迫罪の共同正犯が成立することは明らかである。なお、被告人が被害者方への案内を断ることができなかったのは、Bからの頼みであることのほか、Aがけん銃を持っており恐ろしく思ったことにもよると認められるが、そのことは量刑に影響する一事情にとどまり、共同正犯性についての右判断に消長を来すものではない。

(法令の適用)

被告人の判示所為のうち、建造物損壊の点は平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、二六〇条に、脅迫の点は同法六〇条、二二二条に該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い建造物損壊罪の刑で処断し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一五〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が共犯者二名と共謀の上、深夜、被害者方の玄関ドアにけん銃で実包三発を撃ち込み、ドアの三か所に穴を開け、内側に亀裂を作り、建造物を損壊するとともに被害者を脅迫したという事案であり、一つ間違えば家人に対し重大な結果が生じかねない極めて危険な犯行である上、被害者が顧問弁護士をしている企業の事業運営に絡むトラブルに起因して敢行されたものであり、酌量の余地のない悪質な犯行である。玄関ドアの厚さ約四センチメートルの半分近くまで弾丸がめり込むほどのけん銃の威力をも併せ考えると、被害者及びその家人の受けた恐怖ないし精神的衝撃は大きかったと認められる。加えて、玄関ドアの損害も二五万六〇〇〇円と高額に上るものであり、未だ示談が成立しておらず、被害感情が強いのも十分首肯できる。また、人の寝静まった深夜、閑静な住宅街でけん銃が発射されたことが付近住民に大きな恐怖感を与えたことも無視できない。そして、被告人は、実行行為にこそ関与していないものの、前記のとおり、世話になっている共犯者Bとの今後の関係を良好に保つ必要があることから同人の頼みを断れず、実行行為と同じくらい重要で、かつ、本件に必要不可欠である自動車による現場への案内、現場での待機、自動車による現場からの逃走を担ったものである。これらの事情にかんがみると、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。

しかしながら、他方、被告人は、一軒目に案内したE宅付近での銃声を聞いて実行行為者であるAの意図が分かったものの、Bからの頼みであったことのほか、Aがけん銃を持っており恐ろしく思ったことからも、C方への案内を断り切れず、本件犯行に至ってしまったという事情があること、本件犯行前の覚せい剤約九グラムの所持により本件犯行後の平成八年に懲役三年、執行猶予四年、保護観察付きの確定判決を受けているところ、本件犯行と右覚せい剤取締法違反の罪とは同時審判の可能性があったものであり、その場合の量刑との均衡を全く考慮しないわけにはいかないこと、被告人が被害者に謝罪文を送付し、本件犯行について反省の態度を示していること、被告人の弟が今後被告人を監督し、精神的にも経済的にも援助する旨約束していることなど被告人のために酌むべき事情も認められる。

そこで、以上の諸事情を総合考慮した上で、被告人に対しては、主文の刑を科するのが相当であると判断した。

(検察官丸山恭公判出席、求刑懲役二年)

(裁判官 伊名波宏仁)

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