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東京地方裁判所 平成9年(ワ)5200号 判決 1999年7月12日

原告

A

右訴訟代理人弁護士

上野攝津子

北村行夫

中西義徳

小林智昭

蜂屋信雄

内田法子

渡邉良平

杉浦尚子

市毛由美子

島津秀行

被告

株式会社エーシーシープロダクション製作スタジオ

右代表者代表取締役

B

右訴訟代理人弁護士

奥野雅彦

丸山敦朗

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は,別紙物件目録<略>記載の著作物を使用したアニメーション作品「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」を頒布し,又は頒布のための広告・展示をしてはならない。

二  被告は,原告に対し,金1500万円を支払え。

第二事案の概要

本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録記載の図画(以下「本件図画」といい,同目録一ないし二二記載の図画を順に「本件図画一」ないし「本件図画二二」という。)に係る著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権に基づいて,本件図画を使用したアニメーション作品の頒布,頒布のための広告及び展示の差止め及び損害賠償の支払を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実を除き,当事者間に争いはない。)

1  当事者

原告は,中国(香港)国籍を有するデザイナーであるが,平成5年7月15日観光ビザで来日して以降,数回に渡り来日し,被告の下において,デザイン画作成等の業務に従事した。他方,被告は,アニメーション等の企画,撮影等を業とする株式会社である。

原告は,平成8年6月6日付けで被告を退職する旨届け出て以降,被告の下でデザイン製作業務に関与したことはない。

2  原告の本件図画の創作

原告は,平成5年7月ころから平成6年11月ころまでの間に,いずれも被告のために,本件図画を創作した。すなわち,本件図画一ないし五,同一八ないし二二については,平成5年7月ころ,株式会社セガ・エンタープライゼスのプレゼンテーション用ゲームソフト「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のサブキャラクターとして,本件図画六及び九については,同年11月ころ,株式会社バンプレストへのプレゼンテーション用のキャラクターとして,本件図画八については,平成6年4月上旬ころ香港滞在中に,同七については来日後の同年5月下旬に,同一〇ないし一七については,同年10月から11月ころまでの間に,70ミリ・シージー・ステイション・シミュレーション・ライド・フィルム「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「アール・ジー・ビー」という。)に用いるキャラクターとして,それぞれ創作した。被告の前二者に係る企画は採用されなかったが,被告のアール・ジー・ビーに係る企画が採用されたため,本件図画はすべて,アール・ジー・ビー用として使用されることになった。

3  被告の行為

被告は,本件図画を使用したアール・ジー・ビーを製作し,これを米国ショウスキャン社のシミュレーション・シアター・システムに用いるなどして,配給した。日本では,東京都世田谷区にあるテーマパーク「ナムコ・ワンダーエッグ2」におけるアトラクションとして上映されたが,原告の氏名は同作品において,本件図画の著作者として表示されていない(<証拠略>)。

二  争点

1  本件図画は,原,被告間の雇用契約に基づいて,職務上作成されたか。

(被告の主張)

原告と被告は,平成5年7月15日,原告が翌16日から被告の指示に従ってキャラクターデザインの原画の作成その他の労務を提供し,被告が原告に対しその対価として毎月給与を支払い,かつ,賄い付きの下宿を提供するという内容で雇用契約を締結した。本件図画は,右雇用契約に基づき職務上作成されたものである。

そして,原告が本件図画を創作したのは,法人である被告の発意に基づくもので,被告の名義の下に公表することが予定されていたものであるから,法人著作物に該当し,その著作権は被告が取得する。

(原告の反論)

原告と被告は,平成5年7月20日,原告が被告に対しキャラクターデザインの原画を作成提供し,被告が原告に対しその対価を支払うという請負契約又は準委任契約を締結した。原告の創作した本件図画は,右請負契約又は準委任契約に基づくものであるから,その著作権は原告が取得する。

2  損害賠償額はいくらか。

(原告の主張)

原告の著作権使用料相当の損害金は,1000万円を下らない。また,原告の著作者人格権侵害による損害は500万円を下らない。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

第三争点に対する判断

一  争点1(雇用契約の成否等)について

1  前記第二,一の事実及び証拠(<証拠略>)を総合すれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告は,中国本土で生まれ,昭和51年から香港に居住する者であるが,アニメーション等のデザインに興味を持ち,大学においても,グラフィックデザイン等を専攻した経歴を持つ。原告は,平成4年ころから,アニメーションの製作スタジオを経営する「香港エーシーシー・ユナイテッド・プロダクション(以下「香港エーシーシー」という。)」に在職したこともあって(もっとも,原告の職務内容は,スタッフの募集業務等であり,デザイン作業が中心ではない。),日本のアニメーション製作技術の習得を希望していた。他方,被告は,アニメーション等の企画,撮影等を業とする株式会社である。

被告代表者のBは,香港エー・シー・シーに出資していたことが契機で,原告を知るようになり,日本でアニメーション技術を習得したいという原告の希望の実現に協力することにした。Bは,研修受け入れ先を探したが,原告の日本式アニメーションの作画能力に問題があることから,適当な受け入れ先を見つけることができなかった。

原告は,平成5年7月15日,観光ビザで来日した。Bは,そのころ,原告に対し,他社における研修が困難であることを説明したところ,原告は被告において勤務することを希望したため,Bは,被告において原告を雇用することとし,賃金は月額12万円であること,原告のため賄い付きの住居を提供すること,勤務時間その他の就労条件について説明し,原告も,これらの条件を了承した。Bは,その後,被告の本社において,出勤した原告に対して,就業規則を示しながら,勤務条件等を重ねて説明をした。同就業規則中には,従業員が業務上作成した著作物の著作権は,被告に帰属する旨の条項が記載されている。そして,その際,被告は,原告に対し,原告の作業に必要な事務用品類一切を用意した。

(二) 平成5年7月ころ,原告は,被告から,株式会社セガ・エンタープライゼスのプレゼンテーション用ゲームソフト「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のサブキャラクターの作成を指示されてデザインを作成し,さらにBの指示に基づいて,修正を加えた上,本件図画一ないし五,同一八ないし二二を完成して,Bに交付した(なお,右企画は採用されなかった。)。

原告は,在留期間の徒過を理由に一旦帰国し,同年10月31日に観光ビザで再度来日した。原告は,そのころ,被告から,株式会社バンプレストへのプレゼンテーション用のキャラクターの作成を指示されてデザインを作成し,さらにBの指示に基づいて,修正を加えた上,本件図画六及び九を完成して,Bに交付した(なお,右企画も採用されなかった。)。

原告は,平成6年1月,在留期間の徒過を理由に帰国し,平成6年5月15日,いわゆる就労ビザで来日した。被告は,そのころ,アール・ジー・ビーを企画し,被告の取締役でもある「M」ことEが描いた主人公「リュウ」を配したオリジナル・シミュレーション・ライド・フィルムを製作することとした。被告は,既に原告が作画した本件図画一ないし六,同九,同一八ないし二二を,アール・ジー・ビーに用いることとした。さらに被告は,同年3月香港滞在中の原告に対し,追加キャラクターの作成を指示し,原告はその指示に基づいて,同年4月上旬に本件図画八を,来日後の5月下旬に本件図画七を,同年10月から11月までの間に本件図画一〇ないし一七を,それぞれ完成した。

その後,平成7年3月ころから,原告と被告との間で,アール・ジー・ビーについての著作者の表示,本件図画に係る著作権の帰属等に関して,意見の対立が生じ,原告は,被告に対し,平成8年6月6日付けで退職届けを提出した。

なお,原告は,被告のために,本件図画以外に,NHKで放映されたテレビアニメーション「スクラッパーズ」のタイトル文字,株式会社タイトーの販売するゲームのコンセプトデザイン等を作成したが,いずれも,被告に報酬を請求することはなかった。

(三) 原告は,被告から,平成5年8月分ないし平成6年2月分として,毎月,基本給名目で12万円(さらに,平成5年8月分は特別手当の名目で5万円),それぞれ支給を受け,右内訳が明記された給与支払明細書の交付も受けている(なお,原告が平成6年1月29日に帰国した間の平成6年3月ないし5月分については,支給を受けていない。)。

また,原告は,同年5月15日に,いわゆる就業(ママ)ビザで来日した後から同8年6月6日に退職するまでの間は,被告から,平成6年6月分から,毎月,基本給名目で24万円,特別手当名目で1万円(さらに,平成7年5月分以降は交通費9000円)の支給を受け,これから雇用保険料(1002円又は1127円),所得税(1万3170円又は1万2800円)及び雑費(平成7年4月分まで月額4万円)の控除を受けていた。右内訳が明記された給与支払明細書の交付も受けている。

原告は,平成5年7月から同年12月までは,賄い付きで,被告従業員宅に居住したが,右費用は被告において負担した。この間は,タイムカードや欠勤届,外出届等による勤務管理はされていなかった。平成7年4月,原告は,独立して居住するようになり,右以降は,被告においてタイムカードその他の届けによる勤務管理がされた。

2  右認定した事実を基礎に検討すると,以下のとおり,原告と被告との間に,平成5年7月15日ころ,雇用契約が締結されたと解することができる。すなわち,<1>被告の代表者であるBは,原告と契約を締結するに当たって,あらかじめ勤務時間,給与等の諸条件を説明し,原告もこれを了解しているが,その合意の内容は,雇用契約と解するのが合理的であること,<2>被告から原告に対しては,原告がデザインを作成した出来高と関係なく,給与等の名目で毎月定額が支払われており,給与支払明細書が同時に交付され,また,その後,雇用保険料及び所得税の源泉徴収がされているが,このような措置に対して,原告は一切異議を述べたことはないことに照らすと,原告が支給を受けた金員の性質について,請負等の業務に対する対価と解する余地は全くないこと,<3>被告から原告に対し支給された金額の多寡については,原告に対して賄い付きの下宿を提供していたこと,被告が原告の日本式のアニメーションに関する技術習得の希望に沿って協力していた事情に照らすと,給与として必ずしも低額とはいえないこと,<4>作業の状況をみると,就業に必要な作業場所,道具についてはすべて被告が用意していること,被告は,原告に対し,デザイン作成について,個別的具体的な指示をし,その指示に従って,原告が作業をしていること等の事情を総合的に考慮すると,原告と被告との間に締結された契約は,雇用契約であると解するのが相当である。

以上によれば,本件図画は原,被告間の雇用関係に基づいて作成されたというべきであるから,本件図画は法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである。

そして,前記認定の事実に照らし,本件図画の作成は法人である被告の発意に基づくものであり,かつ,本件図画は被告の法人名義の下に公表することが予定されているものであるといえる(なお,被告の就業規則中には,著作物の作成者に著作権を留保する旨の別段の定めはなく,かえってその著作権を被告に帰属させる趣旨の定めがあることは前記認定のとおりである。)。

そうすると,本件図画は,被告に著作権が帰属することになるから,原告に著作権が帰属することを前提とする本件請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。

二  よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)

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