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東京地方裁判所 平成9年(ワ)28230号 判決 1998年10月30日

奈良市富雄北二丁目三番一二号

原告

イーグルクランプ株式会社

右代表者代表取締役

津山初雄

右訴訟代理人弁護士

玉木賢明

右補佐人弁理士

畠豊彦

東京都中央区日本橋中洲三番一三号

被告

レンフロージャパン株式会社

右代表者代表取締役

伊東祐次

右訴訟代理人弁護士

近藤惠嗣

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録一ないし三記載の荷役用クランプを製造、販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一五一九万五六〇〇円及びこれに対する平成一〇年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、次の意匠権(以下、その登録意匠を「本件意匠」という。)を有する(甲第三、第四号証)。

登録番号 第六七三六九一号

出願年月日 昭和五八年一〇月一四日

登録年月日 昭和六〇年一一月二九日

意匠に係る物品 荷役用クランプ

登録意匠 本判決添付の意匠公報記載のとおり(意匠公報の図面代用写真の写しは、別紙本件意匠写真目録のとおり)

2  被告は、遅くとも平成八年五月初めころから、業として、別紙物件目録一ないし三記載の荷役用クランプ(以下、これらをまとめて「被告製品」という。)を製造販売している

3  被告製品の意匠は、別紙イ号写真目録、ロ号写真目録、ハ号写真目録のとおりであり、別紙物件目録一ないし三記載の製品ごとに全体の大きさをやや異にするが、その形状は、いずれも相似形であるということができ、被告製品の意匠は、別紙物件目録一ないし三記載の製品に共通する(以下、被告製品の意匠を「被告意匠」という。)。

二  本件は、原告が、被告に対し、被告製品の製造販売が本件意匠権を侵害するものであるとして、本件意匠権に基づき、被告製品の製造販売の差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、特許法一〇二条一項により、被告が被告製品の製造販売により得た利益相当額一五一九万五六〇〇円(被告製品の製造販売の開始から平成九年一二月二六日(本訴提起日)までの間の売上額二五三二万六〇〇〇円に利益率六〇パーセントを乗じた金額)及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

三  争点

被告意匠は本件意匠と類似するか。

四  争点に関する当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件意匠及び被告意匠は、別紙対比図面のとおり、各部分から構成されている。

(二) 意匠の要部は、看者の注意を引く部分であるが、どこが看者の注意を引くかを判断するに当たっては、意匠に係る物品の使用状態を考慮するとともに、公知意匠に見られない新規性の存否も考慮に入れるべきである。

本件意匠に係る物品(荷役用クランプ)においては、従来、柄部の外側に水平吊環部又は垂直吊環部のいずれか一つを設けたものは存在したが、本件意匠のように二つの吊環部を一つのクランプに同時に具備したものは存在しなかった。そこで、水平吊環部及び垂直吊環部を具備するということは、本件意匠のうち新規性を有する部分である。

また、荷役用クランプは、重量物の吊り上げに用いられるから、高所に吊り上げられた吊荷の安全確認のために常に注視されるものであり、吊環が一つか、直角方向に二つ設けられているかは、非常に目立ち、看者の注意を引く。 したがって、本件意匠において、水平吊環部及び垂直吊環部は、看者の注意を引く部分に当たり、本件意匠の要部である。

被告意匠は、本件意匠と同様に、水平吊環部及び垂直吊環部を具備しているから、被告意匠は本件意匠と要部が同一でる。

(三) また、垂直吊環部の一部が柄部にめりこんだ形になっている点、垂直吊環部の外側の中間から左右に下降する直線状の肩部を備えている点、短円柱を対向させた態様と短円柱連絡部の短円柱部に対する厚さの比が約七〇パーセントである点などが、本件意匠と被告意匠とでは、同一である。

(四) したがって、本件意匠と被告意匠とは、類似する。

(五) 被告意匠と本件意匠は、柄部について、本件意匠が、柄部の外側及び内側の輪郭に沿って一定幅の周縁を形成し、その間を凹部としているのに対し、被告意匠が、柄部の中央に山形状の薄い肉厚部を形成している点において相違する他、短円柱連結部の幅及び両端の態様、吊環部と柄部との接続の態様等において相違する。

しかし、本件意匠のように柄部に周縁及び凹部を設けることは、クランプの意匠においてはありふれているから、この点は、意匠の類比の判断において過大に評価すべきではないし、被告意匠において柄部中央に形成された山形状の部分は、極めて薄いレリーフ状であって、その部分を注視しなければ気が付かない程度であるから、その部分が特に看者の注意を引くということはない。また、その他の相違点も、微細なものに過ぎない。

したがって、被告意匠と本件意匠の相違点は、被告意匠と本件意匠の類似を否定するに足りるものではない。2 被告の主張

本件意匠と被告意匠は、次のような点が異なり、類似しない。

(一) 本件意匠の短円柱連結部は、内側が湾曲していて、その幅が狭く、短円柱部の内側のみを連結しているのに対し、被告意匠の短円柱連結部は、内側が直線的であり、少なくとも両端で幅が広く、短円柱の幅全体に及んでいる。本件意匠の柄部は、短円柱部の外側を連結しているのに対し、被告意匠には、垂直吊環部を頂部に取り込んだ山形状の肉厚部分があり、その底部が短円柱連結部に接しており、右山形状の肉厚部分により、柄部が左右に分断されている。本件意匠には凹部があるが、被告意匠には凹部がない。

(二) 本件意匠の水平吊環部の孔の中心はボルトの延長線上からずれているのに対し、被告意匠の水平吊環部の中心はボルトの延長線上にある。本件意匠の吊環部の厚さは柄部の厚さよりも薄いのに対して、被告意匠の吊環部の厚さは柄部よりも厚い。本件意匠の吊環部の断面は円形であるのに対し、被告意匠の吊環部の断面は長方形である。本件意匠の吊環部の孔は比較的小さいのに対し、被告意匠の孔は大きい。

(三) 本件意匠の短円柱部は外側面が傾斜しているのに対し、被告意匠の短円柱部は外側面と内側面がほぼ平行である。

第三  争点に対する判断

一1  甲第三号証、検甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、本件意匠は、荷役用クランプに係るもので、別紙対比図面の本件意匠のとおり各部分から構成されており、その基本的構成態様は、次のとおりであることが認められる。

<1> 締め付け用ハンドルを備え、吊荷を挾み締め付けるためのボルトと、開口部の反対側でそのボルトを受け止めるボルト受け止め部からなる吊荷固定部

<2> ボルトを挿通させる短円柱と、開口部の反対側において内側にボルト受け止め部を有する短円柱からなる短円柱部

<3> 開口部に沿ってその外側に存在し、開口部の両側に存在する短円柱を結び、垂直吊環部及び水平吊環部と外側において接している柄部

<4> ボルトと直行する柄部の頂上付近に設けられた垂直吊環部と、ボルトのほぼ延長線上で柄部の外側に設けられた水平吊環部からなる吊環部から構成されている。

2  甲第三号証、検甲第一、第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告意匠は、荷役用クランプに係るもので、別紙対比図面の被告意匠のとおり各部分から構成されており、その基本的構成態様は、右1の本件意匠の基本的構成態様と同一であることが認められる。なお、別紙対比図面の被告意匠のうち、茶色で表示した部分は、厚さの異なる三つの部分、すなわち、短円柱連結部、垂直吊環部の内側の部分(略三角形の部分の下部)及びその他の平板な部分からなっている(後記三2)が、右茶色で表示した部分は、被告製品の中央付近に位置し、短円柱部と吊環部を結び付けているひとまとまりの部分であるから、一体として「柄部」であるということができる。

二  本件意匠及び被告意匠の要部がいずれの部分であるかについて検討する。

甲第三号証、第五号証、乙第一号証の一ないし五、検甲第一号証及び弁論の全趣旨によると、本件意匠に係る荷役用クランプの用途は、主として、鋼材、鋼板等の重量物を開口部においてボルトで挾んで固定し、吊環部に掛けたワイヤー等をクレーンで吊るなどして、鋼材、鋼板等を吊り上げることにあること、本件意匠は、全体として偏平な形状をしており、側面部、底面部よりも正面部の方が看者の目につきやすいこと、本件意匠の正面部のうち、柄部は、正面部の中央付近に位置し、他の部分に比べて大きな面積を占めていること、以上の各事実が認められ、右認定事実によると、本件意匠のうち、吊荷固定部や吊環部は、右用途からすると、看者の注意を引く部分であり、本件意匠の要部であるということができるが、柄部も、その位置や大きさからすると、看者の注意を引く部分であり、本件意匠の要部であるというべきである。

そして、甲第六号証、検甲第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告意匠は、荷役用クランプに係るものであり、その機能、使用態様は本件意匠と同様であること、被告意匠は、全体として偏平な形状をしており、柄部が正面部の中央付近に位置し、他の部分に比べて大きな面積を占めていること、以上の各事実が認められ、右認定事実によると、被告意匠においても、吊荷固定部や吊環部とともに、柄部が要部であると認められる。

三1  そこで、本件意匠の柄部の構成について検討するに、甲第三号証及び弁論の全趣旨によると、本件意匠の柄部の構成は、次のとおりであると認められる。

<一> 柄部の左右の外縁は、下方から上方に向かうに従って、しばらくは、外側に広がるが、その後、大きな角を形成して内側上方に屈曲し、屈曲後なだらかに内側上方に向かい、頂上付近において垂直吊環部と接する。右吊環部と接触する部分は、右吊環部の孔とほぼ同心円の曲線をなし、頂上付近は、その曲線に沿ってへこんだ形状をなしている。柄部の外縁には、ほぼ一定の幅による縁取りがある周縁部があり、周縁部は、肉厚になっている。

<二> 柄部の内側は、開口部を形成しており、開口部の形状は、左右両側の短円柱の内側同士をつなぐ平たい逆U字形をなしており、その縁は、ほぼ一定の幅による縁取りがある短円柱連結部を形成しており、短円柱連結部は、肉厚となっている。

<三> 周縁部と短円柱連結部との間には、周縁部及び短円柱連結部よりも肉薄の凹部があり、凹部は、柄部の中央付近の比較的広い面積を占めており、柄部全体と相似に近い形をなしている。

2  次に、被告意匠の柄部の構成について検討するに、甲第六号証、検甲第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告意匠の柄部の構成は、次のとおりであると認められる。

<一> 柄部の、ボルトの挿通された短円柱側の外縁は、垂直吊環部の孔の下半の高さに至るまで上にまっすぐ延び、その後、丸みを帯びた大きな角を形成して内側上方に屈曲し、なだらかに内側上方に向かい、垂直吊環部の頂上付近につながる。柄部の、水平吊環部の存する側の外縁は、水平吊環部の外縁から連なり、内側に向かって上方に延び、反対側の外縁の大きな角とほぼ同じ高さにおいて、丸みを帯びた大きな角を形成して屈曲し、なだらかに内側上方に向かい、垂直吊環部の頂上付近につながる。

<二> 柄部の内側は、下方に開口したコの字形をなしており、その縁に、幅の広い肉厚の短円柱連結部を形成している。短円柱連結部のうち、左右の縦方向の部分は、左右の短円柱と同じ幅で上方に延びており、横方向の部分は、縦方向に比べて幅は狭いものの、かなりの幅があり、左右の縦方向の部分をつないでいる。

<三> 垂直吊環部及びその下方には、右吊環部を頂部付近に取り込んだ略三角形の部分が形成されており、右略三角形の部分の下方の辺は、短円柱連結部の横方向の部分の上側に接しており、右略三角形の部分の厚さは、その左右の柄部よりは厚いが短円柱連結部よりは薄い。

<四> 右略三角形の部分の外側には、左右に、それぞれ、右略三角形の部分と短円柱連結部に接して(水平吊環部が存在する側においては、水平吊環部にも接して)、外縁に丸みを帯びた大きな角(右<一>の屈曲部)を形成する平板な部分が存在する。

<五> 柄部は、短円柱連結部、右の略三角形の部分の下部、右の平板な部分によって形成されている。

3  本件意匠の柄部と被告意匠の柄部の構成を比較すると、外縁、短円柱連結部の形状が異なる他、本件意匠には、周縁部及び凹部があり、甲第三号証及び弁論の全趣旨によると、それが看者の注意を引く本件意匠の柄部の特徴的な部分となっているものと認められるのに対し、被告意匠にはそのようなものはなく、他方、被告意匠には、本件意匠にない略三角形の部分及びその左右の平板な部分が存する。以上のとおり、本件意匠の柄部と被告意匠の柄部とでは、その構成に大きな違いがあり、美感が大きく異なるものと認められる。

四  被告意匠と本件意匠とでは、要部である柄部について、右のとおり美感が大きく異なる以上、その余の点について判断するまでもなく、類似しないということができる。

五  原告は、水平吊環部及び垂直吊環部を具備するということは、新規性を有し、看者の注意を引くから、本件意匠の要部であり、本件意匠と被告意匠は、右要部を同一とし、類似する旨主張する。

しかし、水平吊環部及び垂直吊環部を具備するという点に新規性があったとしても、そのことから、直ちに、その点のみが要部であるということはできず、右二のとおり、柄部も本件意匠及び被告意匠の要部であると解すべきである。

六  よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

物件目録一

別紙イ号写真目録の写真で現される意匠の荷役用クランプ。

イ号写真目録

<省略>

物件目録二

別紙ロ号写真目録の写真で現される意匠の荷役用クランプ。

<省略>

ロ号写真目録

<省略>

物件目録三

別紙ハ号写真目録の写真で現される意匠の荷役用クランプ。

ハ号写真目録

<省略>

日本国特許庁

昭和61年(1986)3月6日発行 意匠公報(S)

G1-05

673691 意願昭58-44246 出願昭58(1983)10月14日

登録昭60(1985)11月29日

創作者 津山由蔵 奈良市富雄北2丁目3番14号

創作者 津山初雄 奈良市中町2650-175

意匠権者 イーグルクランプ株式会社 奈良市富雄北2丁目3番12号

復代理人 弁理士 桒原史生 外1名

審査官 桂澤典子

意匠に係る物品 荷役用クランプ

この意匠は図面代用写真によって表わされたものであるから細部については原本を参照されたい

<省略>

本件意匠写真目録

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対比図面

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意匠公報

<省略>

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