大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成9年(ワ)27642号 判決 1999年9月29日

原告

株式会社プリンスホテル

右代表者代表取締役

元井敏文

右訴訟代理人弁護士

辻本年男

被告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

宮岡孝之

舩木秀信

主文

一  被告は、原告に対し、金七三七万七九四七円及びこれに対する平成九年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告との間で、平成七年一二月一九日ころ、原告経営の高輪プリンスホテルにおいて宴会を催し、その代金三九一万七八三二円を原告に支払うとの契約を締結した(以下、「本件契約1」という。)。

2  被告は、原告との間で、平成八年一二月二八日ころ、原告経営の東京プリンスホテルにおいて宴会を催し、その代金一二四六万〇一一五円を原告に支払うとの契約を締結した(以下、「本件契約2」という。)。

3  よって、原告は、被告に対し、本件契約1及び2に基づき、代金計一六三七万七九四七円のうち七三七万七九四七円及びこれに対する弁済期後である平成九年一二月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1については、代金額は否認するが、その余は認める。本件契約1の代金額は三〇〇万円である。

2  請求原因2は否認する。原告と本件契約2を締結したのは被告ではなく、宴会の主催者でもある飯田某(ヨシカズ)である。また、本件契約2の代金額は一二三二万二五〇〇円である。

三  抗弁(短期消滅時効 本件契約1について)

1  本件契約1に基づき宴会代金は、民法一七四条四号所定の飲食料に該当する。

2  平成八年一二月一九日は経過した。

3  被告は、原告に対し、平成一一年七月七日の本件第八回口頭弁論期日において、右時効を援用するとの意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。原告の被告に対する本件契約1に基づく債権は売掛代金債権(飲食等を含むホテルの利用の対価)である。

2  抗弁3は争う。

五  再抗弁(時効援用権の喪失)

被告は、原告に対し、平成八年一二月末日、本件契約1の債務の支払いの猶予を申し入れた。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は否認する。

理由

一  請求原因1のうち、代金額を除くその余の事実については、当事者間に争いがない。

証拠(甲六の1ないし3、七、九の1、2、一二)によれば、本件契約1の代金額は三九一万七八三二円であったことが認められる。

被告は、本件契約1の代金については、音響及び照明の代金は見積もりから控除し、会場料も無料にすることとし、結局、代金額は三〇〇万円とすることとして契約を締結した旨主張し、乙一号証中には、これに沿う被告の供述記載部分が存するが、甲六号証の1によれば、原告は、被告に対して、本件契約1に基づく宴会を開催して一週間と経過していない平成七年一二月二四日には、支払済み代金三〇〇万円を控除した残金九〇万余りの請求をしていることが認められ、右事実からすると、当初から代金を三〇〇万円と合意して本件契約1を締結したとの被告の主張等は、容易に採用できない。

二  請求原因2の事実について判断する。

1  被告は、本件契約2の当事者であることを争うので、以下、検討する。

(一)  証拠(甲一の1、三ないし五、八、一〇)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件契約1の際に、「オフィスHIRO」「カラオケスタジオ」「ぬくもり会」代表取締役甲野花子との記載がある名刺(甲八)を使用していたこと、本件契約2の際には、「オフィスHIRO」「ぬくもり会」専務取締役宮川恵子(以下、「宮川」という。)との記載のある名刺(甲三)が使用されたこと、そのため原告作成の会場ご予約確認書(甲四)の申込責任者としては宮川恵子の名が記載されているものの、本件契約2を申し込んだ当事者は「ぬくもり会」とされ、見積書(甲五)も「ぬくもり会」宛となっていること、内金六〇〇万円の領収書(甲一〇)は「ぬくもり会(オフィスHIRO)」宛とされ、残金の請求書(甲一の1)は「オフィスHIRO」宛とされていることが認められる。

他方、証拠(甲一一、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、「ぬくもり会」とは、被告が中心となった親睦団体であるが、権利能力なき社団には該当しないこと、「オフィスHIRO」という名称の会社は存在せず、被告は「オフィスHIRO」なる屋号で芸能プロダクションを営んでいたこと、宮川恵子は被告の妹で被告の業務を補助していたものであること、本件契約2に基づく宴会の開催については、訴外飯田某(以下、「飯田」という。)が被告に対し、タレントを紹介して欲しいと依頼し、被告はタレントの紹介により被告の仕事にもなることからこの申し出を了承して、本件の宴会が企画されたこと、本件契約2を締結するにあたり、被告自身が原告の担当者と打ち合わせを重ねたことが認められる。

(二)  以上の事実、ことに、「ぬくもり会」及び「オフィスHIRO」自体には私法上の当事者能力が認められない上、被告は、本件契約2の締結に際し、当事者として名前を出すことを承諾していたのみならず(この点は、被告の自認するところである。)、積極的に交渉にも関与していたことなどの諸事情に照らすと、本件契約2は原告と被告の間で締結されたものと認めるのが相当である。

(三)  これに対し、被告は、原告と本件契約2を締結したのは飯田であって、被告は名前を貸しただけである旨主張するが、前記認定のとおり、被告の本件契約2への関与の深さからすれば、被告の右主張は到底採用できない。

また、被告は、本件契約2に際し、原告担当者に名刺を渡したのは被告の妹の宮川であり、宮川も本件契約2について原告の担当者との打ち合わせの場所に同席していたのだから、被告を契約当事者として扱う理由はない旨主張するが、前記認定のとおり、「ぬくもり会」及び「オフィスHIRO」には私法上の当事者能力がなく、宮川は、被告が経営するオフィスHIROの従業員であるから、宮川の存在は、前記認定判断を覆すものではない。

(四)  そして、他に前記認定判断を覆すに足りる証拠はない。

2  証拠(甲一の1、一一)によれば、本件契約2の代金額は一二四六万〇一一五円であったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  抗弁1の事実、すなわち、本件契約1に基づく代金債権(以下、「本件債権1」という。)が民法一七四条四号所定の債権に該当するかについて判断する。

1 民法一七四条は、そこに列挙された債権については、その額がほぼ一律に定まり、また、各債権額は少額であって、即時決済が予定されていること、他方で、頻繁に発生する債権であることから証拠書類も作成しないのが通常であることなどから、権利関係を早期に確定する必要があるため、一年の短期消滅時効にかからしめることとしたものである。

2 そこで、本件債権1の権利の性質を検討すると、前記認定の事実によれば、本件債権は、原告の経営するホテルにおいて多数の参加者を集めてディナーショーを開催する被告が原告との間で締結したホテル利用契約に基づく債権であり、参加者個人の飲食料債権そのものとは異なること、証拠(甲六の2、九の1、2)によれば、本件債権の内容は、参加者等の飲食代金を中心とするものではあるが、設営料、音響照明費も含まれていることが認められ、さらに、乙一、二号証及び弁論の全趣旨もあわせて考えれば、本件契約1は、単に飲食を提供するというよりは、オフィスヒロディナーショーという名にふさわしい内容の宴会を開催することが主目的であり、宴会の内容について交渉する過程で代金額も変更していくものであって、その代金が一律に決まるとはいえない性質のものであること、それゆえ、通常は見積りをした上で、代金額を請求する際には、内訳を示して請求しているのであって、当然、証拠書類の作成が予定されていること、この種の利用代金は、個人の飲食料とは異なり、必ずしも少額ではなく、本件債権1の金額も決して少額とはいえないものであることが認められる。

3 そうすると、本件債権1は、民法一七四条四号が予定している飲食料等とは性質を異にするから、同号所定の債権には該当せず、商行為によって生じた債権としてその消滅時効期間は五年と解すべきである。したがって、被告の消滅時効の主張は理由がない。

なお、甲七号証によれば、本件契約1に基づく代金債権のうち九五七三円は、被告が原告経営のレストランにて飲食物を注文した分であって、まさに民法一七四条四号が予定している飲食料に該当するといえそうであるが、甲一号証によれば、本件契約1においては、宴会当日または翌日のホテル内でのレストランでの飲食については宴会代金として請求するものとしていたため、通常のように即時その場で決済しなかったことが認められ、結局、右飲食代金も含めて一括して本件契約1に基づく債権として民法一七四条四号には該当しないものと解するのが相当である。

四  以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・小磯武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例