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東京地方裁判所 平成9年(ワ)10031号 判決 1999年9月22日

原告

株式会社バルテック

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

島田康男

右補佐人弁理士

【B】

右補佐人弁理士

【C】

被告

株式会社マツヤ商会

右代表者代表取締役

【D】

被告

有限会社ナック技研

右代表者代表取締役

【E】

右両名訴訟代理人弁護士

大野聖二

田中克幸

右両名補佐人弁理士

【F】

補助参加人

株式会社パル工業

右代表者代表清算人

【G】

主文

一  被告株式会社マツヤ商会は、原告に対し、金七五八万七二五〇円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の一及び被告株式会社マツヤ商会に生じた費用の二分の一を同被告の、その余のすべての費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告株式会社マツヤ商会は原告に対し、金五四〇〇万円及びこれに対する平成九年五月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告有限会社ナック技研は原告に対し、金一二〇〇万円及びこれに対する平成九年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記の実用新案権を有していた原告が、別紙目録記載の電動型スロットマシン(以下「被告物件」という。)を製造、販売した被告らの行為は、右実用新案権を侵害するとして、被告らに対し、損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(弁論の全趣旨で認定した事実も含む。)

1  原告の有していた実用新案権

原告は、以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。

(一) 考案の名称   電動型スロットマシンのリール停止時間間隔制御装置

(二) 出願日     昭和五八年九月二九日

(三) 出願番号    昭和五八年第一五一〇三〇号

(四) 公告日     平成四年四月一六日

(五) 公告番号    平成四年第〇一七一七八号

(六) 登録日     平成六年一二月一六日

(七) 登録番号    実用新案登録第二〇四三五一七号

(八) 実用新案登録請求の範囲 別紙「実用新案公報」写しの該当欄記載のとおり

2  被告らの行為

補助参加人は、電動型スロットマシン・商品名「スフィンクス7」を製造した(右商品は、本件考案の構成要件をすべて充足する。)。

被告株式会社マツヤ商会(以下「被告マツヤ商会」という。)は、平成八年一〇月ころ、補助参加人から、右スフィンクス7の面取り部を除いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を購入し、被告有限会社ナック技研(以下「被告ナック技研」という。)に組み立てさせて、被告物件・商品名「ラスターJ」を完成させて、納品を受け、合計二七五九台販売した。

(被告ナック技研が、被告マツヤ商会からの注文に基づき、被告物件を組み立て、完成させた行為が、本件実用新案権侵害行為に当たるか否かについては、争いがある。)。

3  構成要件の充足性

被告物件は、本件考案の構成要件をすべて充足する。

二  争点

1  補助参加人から被告マツヤ商会への実施権の譲渡

(被告らの主張)

補助参加人は、以下の経緯から、本件実用新案権について、実施権の設定を受けて、スフィンクス7を製造した。

すなわち、原告及び補助参加人は、電動型スロットマシンの製造業者を組合員とする日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協同組合」という。)に加入していた。日本電動式遊技機特許株式会社(以下「日電特許株式会社」という。)は、右日電協同組合の組合員の特許権、実用新案権を管理し、日電協同組合の組合員に対して、当然に実施権を設定する権限を有していた。補助参加人は、日電特許株式会社から、本件実用新案権について実施権を取得し、これに基づき被告物件を製造した。

被告マツヤ商会は、補助参加人から、スフィンクス7の面取り部を除いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を購入することにより右実施権を適法に承継した。

もっとも、被告マツヤ商会が補助参加人から購入した二七五九台分の部材には、日電特許株式会社の発行する証紙が貼付されているわけではない。しかし、証紙の貼付は実施料支払の手段に過ぎないので、証紙が貼付されていないからといって、直ちに実施権が与えられていなかったことを意味するものではない。

(原告の反論)

被告らの主張は争う。

日電協同組合に加入している者が、当然かつ包括的に原告の有する実用新案権につき、実施権の設定を受けられるということはない。さらに、被告マツヤ商会が補助参加人から購入した二七五九台分の部材については、日電特許株式会社の証紙の貼付がないのであるから、実施権の設定はない(確かに、原告は、補助参加人に対して、スフィンクス7の製造に関連して、本件実用新案権の通常実施権を設定した例はあるが、これは、補助参加人との個別の実施権設定契約に基づくものである。)。

原告は、被告らに対して、実施権の譲渡を認めたことはない。被告マツヤ商会は補助参加人から電動型スロットマシン製造のための部材を購入したにすぎないから、補助参加人の通常実施権を承継したとはいえない。さらに、補助参加人に設定されたのは通常実施権であるから、これを譲渡することも、第三者に実施許諾することも許されないし、実用新案権者たる原告に対して、実施権の譲渡を対抗することはできない。

2  消尽

(被告らの主張)

被告マツヤ商会は、補助参加人から、補助参加人が既に製造し電動型スロットマシンとして完成していたスフィンクス7を購入した。補助参加人は、前記のとおり、本件実用新案権について、実施権の設定を受けているから、原告の同被告に対する実用新案権に基づく請求権は消尽した。

確かに、補助参加人は、日電特許株式会社に対して三〇〇〇円の特許証紙代を支払っていない。しかし、右証紙代は、本件実用新案権を含めた日電協同組合の組合会社のすべての特許権、実用新案権につき、実施権の設定を受けることの代償であり、右代償の確保の機会が付与されたことによって、原告の有する実用新案権に基づく請求権は消尽するというべきである。

また、被告マツヤ商会は、被告ナック技研をして、補助参加人から購入したスフィンクス7の面取り部分を交換させているが、補助参加人が負担する特許証紙代の対価を超えて本件考案を利用することにはならないので、右消尽するということに消長を来さない。

(原告の反論)

補助参加人は、そもそも、被告物件二七五九台について、原告から実施権の設定を受けていない以上、原告の有する実用新案権に基づく請求権は消尽しない。

被告マツヤ商会が補助参加人から購入したのは、被告物件製造のための部材に過ぎず、スフィンクス7ではないので、原告の有する実用新案権に基づく請求権は消尽しない。

3  権利濫用の有無

(被告らの主張)

原告は、電動型スロットマシン一台当たり五〇円の実施料で日電協同組合の組合員に実施許諾していながら、被告マツヤ商会に対しては、一台当たり一万八〇〇〇円という高額での損害賠償を請求している。本件考案は、財団法人保安電子通信技術協会の型式試験に合格するために必要な技術であり、本件考案以外には代替技術が存在しないから、本件考案について実施権を持たない業者は電動型スロットマシンの製造、販売に参入することができない(この事態は、違法なパテントプールの一翼を担うもので、独占禁止法にも違反する。)。補助参加人は、スフィンクス7の販売を計画した際に、約五〇〇〇台余りの特許証紙代の支払のために、実施料の受領を代理している日電特許株式会社宛に手形を振り出し、これにより本件実用新案権の実施料を原告に支払った(結局、右手形は不渡りとなっている。)。本件において実施料相当額の損害賠償請求を肯定することは、実質的に原告に二重の利得を認めることになる。これらの事情を考慮すると、原告の本件請求は権利濫用に当たり、許されるべきではない。

(原告の反論)

被告らの主張は争う。

4  損害額

(原告の主張)

被告マツヤ商会は、被告物件を一台三六万円で三〇〇〇台販売した。被告物件における本件考案の実施料率は五パーセントが相当であるから、原告の被った実施料相当損害金は五四〇〇万円となる。

三六万×三〇〇〇×〇・〇五=五四〇〇万円

被告ナック技研は、被告物件を三〇〇〇台製造して被告マツヤ商会に納品した。

一台あたりの工賃は二万円であり、利益率は二〇パーセントであるから、合計一二〇〇万円の利益を得たので、右同額が原告の被った損害額である。

二万×三〇〇〇×〇・二=一二〇〇万円

(被告らの反論)

本件実用新案権の実施料は、電動型スロットマシン一台当たり五〇円であり、被告マツヤ商会は、これを二七五九台販売したから、総額一三万七九五〇円が実施料相当の損害額である。

また、右額が相当でないとしても、実施料相当額は、本件実用新案権の寄与率、利用率を考慮すべきところ、同率は被告物件の一台当たりの額の四〇分の一を相当とすべきである。さらに、本件実用新案権が用いられている部分は、電動型スロットマシン本体ではなく、ステッピングモーターに含まれている部品である。ステッピングモーターは、独立した商品の取引対象となり、その価格は、一台当たり一三〇〇円である。そして電動型スロットマシン一台当たり三台使われることから、本件考案は、電動型スロットマシン一台当たり一〇〇円以下の価値しかない。被告マツヤ商会は、これを二七五九台販売したから、損害額は総額二七万五九〇〇円となる。

三  争点に対する判断

1  被告らの行為が本件実用新案権を侵害するか否かについて検討する。

(一) 補助参加人は、電動型スロットマシン「スフィンクス7」を製造した。次いで、被告マツヤ商会は、平成八年一〇月ころ、補助参加人からスフィンクス7の面取り部を除いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を購入し、被告ナック技研に組み立てさせて、被告物件「ラスターJ」を完成させて、合計二七五九台販売した。被告物件は、本件考案の構成要件をすべて充足する(いずれも争いない。)。

よって、被告マツヤ商会が被告物件を販売した行為は、原告の有する本件実用新案権を侵害する。

(二) 被告ナック技研は、被告マツヤ商会の注文により、電動型スロットマシン「スフィンクス7」の面取り部を除いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を基礎として、「ラスターJ」用の面取り部を付けるなどして改造を加え、被告物件「ラスターJ」を完成させた。被告ナック技研の右行為は、本件考案の構成要件のすべてを充足している電動型スロットマシン「スフィンクス7」を基に被告物件としたものであるから、右行為をもって本件実用新案権を侵害したものと解することはできない。したがって、原告の有する本件実用新案権を侵害しない。

2  実施権の有無について検討する。

被告らは、補助参加人は、日電特許株式会社を介して、当然に、本件実用新案権について、実施権の設定を受けたと主張する。しかし、右主張は、以下のとおり理由がない。

すなわち、甲三、五号証、乙六、一一号証及び弁論の全趣旨によれば、日電特許株式会社は、日電協同組合に加盟している電動型スロットマシン製造業者(原告及び補助参加人を含む。)のために、加盟関係各社が有する特許権、実用新案権等の実施契約の仲介業務を行うことがあったこと、組合員の有する特許権、実用新案権等の利用を簡易迅速に図るために、日電特許株式会社の発行に係る証紙を貼付する方法が採られていたこと、他方、補助参加人が製造し、被告マツヤ商会に販売した電動型スロットマシン「スフィンクス7」については、証紙が貼付されていなかったこと、補助参加人が、証紙の代金を支払った形跡がないこと等が認められる。

右事実によれば、そもそも、日電特許株式会社が、いかなる根拠に基づき、本件実用新案権を管理する権限を有しているかは必ずしも明らかではないのみならず、仮に管理権限が付与されることがあったとしても、補助参加人が、正に本件で争われている電動型スロットマシン「スフィンクス7」二七五九台の製造に関し、本件実用新案権について実施権の設定を受けたと認定することは到底できない。

したがって、補助参加人から被告マツヤ商会へ実施権が譲渡された、あるいは、本件実用新案権に基づく請求権は消尽したとする同被告の主張は前提を欠き、採用できない。

被告マツヤ商会は、右実用新案権侵害行為について過失があったものと推定されるから(本件全証拠によるも、これを覆す事実はない。)、右各行為により原告が生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害額について検討する。

乙一〇号証によれば、被告マツヤ商会は、平成九年一月に、被告物件六五〇台を一台当たり二七万五〇〇〇円で、株式会社福山企画に販売したことが認められ、右事実によれば、同被告が、被告物件二七五九台について、平均すると右同額で販売したことが推認できる。この点につき、原告は、被告マツヤ商会が株式会社萬両園に対し、被告物件(ラスターJ)一一台を三八万円で売却したので、被告物件すべてにつき右同額で販売したと推認すべきである旨主張するが、甲六、七号証によれば、右売買契約は、最終的には解約され、代金が売主である同被告から買主である株式会社萬両園に返済されていることが認められ、右事実を考慮すると、右金額をもって被告物件すべての平均販売金額と解することは相当でない。

次に、本件考案の内容が、電動型スロットマシンに関するリール停止時間間隔制御装置に係る考案であるが、従来の電動型スロットマシンにおいては、遊技者が、複数の停止スイッチを同時に押すと、それぞれのスイッチに対応したリールが一緒に止まっていたのに対し、本件考案は、競技者が同時に停止スイッチを押した場合、いずれか一つのリールだけが止まり、他は止まらないようにすることを目的としたものであること、右装置は、ステッピングモータに組み込まれて使用されること、ステッピングモータは、独立の取引の対象になり得ること、スロットマシーンには、三個のステッピングモータが使用され、その価格は、おおむね三九〇〇円位(三個当たり)であったこと、原告は、日電協同組合の組合員に対して、本件実用新案権について、極く低額の実施料で実施を許諾した例があったこと等の事実が認められる。

右認定した事実を総合すると、被告物件の売上に対する本件考案の寄与度を二〇パーセントとし、本件考案の実施料を五パーセントと解するのが相当である。

そうすると、被告マツヤ商会は、原告に対し、以下のとおり算定した、七五八万七二五〇円を賠償する義務がある。

二七万五〇〇〇×二七五九×〇・二×〇・〇五=七五八万七二五〇円

四  被告マツヤ商会は、原告が同被告に対し請求権を行使することが権利の濫用に当たる旨主張するが、本件全証拠によっても、右主張を裏付ける事実はない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)

<以下省略>

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