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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)115号 判決 1997年9月30日

横浜市金沢区能見台六丁目一四番地の五

原告

遅澤浩一郎

東京都世田谷区桜新町一丁目一八番二一号

原告

遅澤洋

東京都世田谷区桜新町一丁目一八番五号

原告

遅澤勝三

神奈川県平塚市徳延五九四番地の五

原告

清田哲司

右四名訴訟代理人弁護士

櫻木武

佐藤典子

東京都世田谷区玉川二丁目一番七号

被告

玉川税務署長 阿部武夫

右指定代理人

小暮輝信

内田健文

河村康之

峰岡睦久

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告らの平成四年一二月二一日相続開始に係る相続税について、原告清田哲司に対して平成六年一二月七日付けで、その余の原告らに対して同月一日付けでした各更正のうち、原告清田哲司については課税価格二〇一八万四〇〇〇円、納付すべき税額一八四万三五〇〇円を、その余の原告らについては、いずれも課税価格五八五六万一〇〇〇円、納付すべき税額五三四万八八〇〇円を、それぞれ超える部分及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも、異議決定によって一部取り消された後のもの。)を、いずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成四年一二月二一日に死亡した遅澤スミヨ(以下「スミヨ」という。)の共同相続人である原告らが、右相続に係る相続税について、いずれも平成五年六月二一日に申告したところ、被告が、原告遅澤浩一郎(以下「原告浩一郎」という。)、同遅澤洋(以下「原告洋」という。)及び同遅澤勝三(以下「原告勝三」といい、右三名を総称して「原告遅澤ら」という。)に対しては平成六年一二月一日付けで、原告清田哲司(以下「原告哲司」という。)に対しては同月七日付けで、それぞれ更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成七年四月二七日付け異議決定により一部取り消された。以下、右異議決定により一部取り消された後の原告らに対する各更正を「本件各更正」と、右異議決定により一部取り消された後の原告らに対する各過少申告加算税賦課決定を「本件各賦課決定」といい、本件各更正及び本件各賦課決定を「本件各処分」と総称する。)をしたため、原告らが、その取り消しを求めた事案である。

本件においては、更正について定めた国税通則法(以下「通則法」という。)二四条の解釈並びに相続財産に含まれている別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の評価額が争点となっている。

一  関係法令等の定め

相続税法(平成六年法律第二三号による改正前のもの。以下「法」という。)では、相続により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている(法二二条)。

そして、右の評価に関して、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日直資五六、直審(資)一七。ただし、本件に適用されるのは、平成五年六月二三日改正前のもの。以下「評価通達」という。)が発出されている。評価通達において、時価とは、相続により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額によるとされ(評価通達1(2))、宅地の価額は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価することとされ(同10)、市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価については、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として、宅地の価額が概ね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)毎に国税局長が評定した各年一月一日時点の一平方メートル当たりの価額である路線価に当該土地の面積を乗ずることを基本とし、具体的状況に応じて、それに、奥行価格補正(同15)、側方路線影響加算(同16)、二方路線影響加算(同17)、三方又は四方路線影響加算(同18)、不整形地、無道路地、間口狭小地、崖地等の減価(同20)などの必要な補正を行って算定する、いわゆる路線価方式によることとされているが(同11(1)、13、14)、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するとされている(同6)。

なお、評価通達1(2)が規定する時価の意義は、地価公示法二条二項が規定する「正常な価格」と同旨であるが、同法一条が予定する標準地に係る正常な価格としての公示価格と比較した場合、評価通達が規定する路線価方式の前提となる路線価については、その概ね八割程度となるよう評定されている(甲第一六号証)。

二  争いのない事実等

1  相続の開始(甲第九号証)

平成四年一二月二一日、スミヨが死亡し、相続が開始した。スミヨの相続人は、原告浩一郎(長男)、原告洋(次男)、原告勝三(三男)並びにスミヨの養女和の代襲相続人である原告哲司、手嶋悦子及び清田芳正(以下、右相続人らを総称して「本件相続人ら」という。)である。

2  本件における課税及び不服申立ての経験(甲第一号証、第九ないし第一一号証、乙第一号証の一ないし四)

(一) 平成五年六月二一日、本件相続人らは、相続財産全部につき未分割であるとし、課税価格の合計額を二億三六二三万五〇〇〇円、納付すべき相続税の総額を二一五七万六九〇〇円とする相続税の期限内申告書(以下「本件期限内申告書」という。)を被告に提出したが、本件期限内申告書に記載された原告らそれぞれについての課税価格、納付すべき税額の内容は、別表1ないし4の各順号一の所定欄記載のとおりである。

(二) 被告は、原告哲司に対して平成六年一二月七日付けで、原告哲司を除くその余の本件相続人らに対して、同月一日付けで、それぞれ、本件期限内申告書の課税価格が過少であったとして、課税価格の合計額を二億八六四〇万一〇〇〇円、納付すべき相続税の総額を三三八三万四三〇〇円とする更正及び過少申告加算税の総額を一二二万四〇〇〇円とする賦課決定を行った(原告らそれぞれに係る右更正及び過少申告加算税賦課決定の内容は、別表1ないし4の各順号四の所定欄記載のとおりである。)。

(三) 本件相続人らは、平成七年一月二七日、前記(二)の更正及び過少申告加算税賦課決定の取消しを求め、被告に対し、異議申立てを行い、被告は、同年四月二七日付けで、原処分の一部を取り消し、課税価格の合計額を二億七四二八万一〇〇〇円、納付すべき相続税額の総額を三〇五〇万一六〇〇円、過少申告加算税の総額を八九万一〇〇〇円とする異議決定をし、右決定書謄本は同年五月二日に本件相続人らに送付された。右異議決定による一部取り消し後の原告らに係る課税価格、納付すべき税額及び過少申告加算税額の内容は、別表1ないし4の順号六の所定欄記載のとおりである。

(四) 本件相続人らは、平成七年六月一日、国税不服審判所長に対し審査請求を行ったが、同所長は、平成八年三月二一日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、原告らは、同年六月一七日、本件訴えを提起した。

3  本件各処分の根拠(甲第九号証)

被告が主張する本件各処分における課税価格、納付すべき税額算出の根拠は、別表5、6記載のとおりであり、その内訳等は次のとおりである。なお、右課税価格算出根拠のうち、原告らと被告との間で争いがあるのは本件土地の評価の点のみであり、それ以外の点については原告らと被告との間に争いはない。

(一) 課税価格の合計額

相続により取得した財産の価額及び債務等の額は別表5の符号<1>ないし<8>のとおりであり、本件相続人らの課税価格の合計額を二億七四二八万一〇〇〇円と算出した(原告ら別の内訳は別表5の符号<11>のとおり。)。

(二) 納付すべき相続税額

右課税価格の合計額二億七四二八万一〇〇〇円から、法一五条に従い、遺産に係る基礎控除として、四八〇〇万円と九五〇万円にスミヨに係る法定相続人数である六を乗じて算出した五七〇〇万円との合計額一億〇五〇〇万円を控除して、課税遺産総額一億六九二八万一〇〇〇円を求め、これに、本件相続人らの各法定相続分(原告遅澤らについては各四分の一ずつ、その余の本件相続人らについては各一二分の一ずつ)を乗じて、通則法一二八条一項を適用して、法定相続分に応ずる取得金額を、原告遅澤らについては各四二三二万円ずつ、その余の本件相続人らについては各一四一〇万六〇〇〇円ずつと算定し、右各金額につき、法一六条所定の率を適用してそれぞれ算出した金額を合計して相続税の総額三〇五〇万一六〇〇円(原告ら別の内訳は別表6の順号<6>のとおり。)を求め、法一七条に従い、右相続税の総額に原告らの各課税価格の課税価格の合計額に占める割合を乗じて(別表6の順号<7>、<8>)、通則法一一九条一項を適用して、原告らの納付すべき相続税額を、原告遅澤らについて各七五七万〇一〇〇円、原告哲司について二五九万七〇〇〇円と算出した(別表6の順号<9>)。

(三) 過少申告加算税額

原告らに対する過少申告加算税額は、本件各更正により新たに納付すべき相続税額につき、通則一一八条三項、六五条一項を適用して、原告遅澤らについては、それぞれ、二二二万円の一〇〇分の一〇である二二万二〇〇〇円と、原告哲司については、七五万円の一〇〇分の一〇である七万五〇〇〇円と、それぞれ算出した。

4  本件土地の評価

(一) 本件土地の状況等(甲第九号証、第二二号証、乙第二、第三号証)

本件土地は、別表7-1記載のとおり、A、B、Cの三つの部分に区分され、A部分(面積一一四・二七平方メートル)は、スミヨから右土地部分を使用貸借で借り受けた原告洋の居宅建物の敷地、B部分(面積二九五・八八平方メートル)は、スミヨの居宅兼アパートの建物の敷地(そのうち、居住用部分の面積は五九・一八平方メートル、貸家建付地部分の面積は二三六・七平方メートル。以下、右居住用部分を「B居住用部分」、右貸家建付地部分を「B貸家建付地部分」という。)、C部分(面積一三五・三平方メートル)は、スミヨから右土地部分を使用貸借で借り受けた原告勝三の居宅建物の敷地となっている。

また、建築基準法の規定により、本件土地については、道路に接している部分について、いずれもセットバックが義務づけられている。

(二) 被告の評価方法(甲第一号証、第七号証、乙第一号証の一ないし四、第四ないし第八号証)

被告は、本件各処分に当たり、本件土地の評価については、評価通達によることなく、次の方式により評価し、本件土地の価額を二億八四三〇万七四二五円とした(以下「被告評価額」という。)。

(1) 基本的方式

本件土地を、A、B、Cの部分に区分し、本件土地の面する路線の路線価及び裏面路線に付した仮路線価を用い、路線価は当該年の一月一日時点における実勢価格の概ね八割であるとの前提の上に立って、平成四年度の路線価を〇・八で除して得られた価格を平成四年一月一日時点の価格とし、同日らか相続開始日である同年一二月二一までの時点修正率を、地価公示法六条の規定により公示された標準地である東京都世田谷区新町二丁目四〇一番二所在の土地(住居表示・新町二丁目三四番六号、公示地番号・世田谷-六〇。以下「本件近隣公示地」という。)の同年一月一日時点の公示価格一平方メートル当たり一〇三万円と平成五年一月一日時点の公示価格一平方メートル当たり七四万五〇〇〇円を基に、別表7-5記載の計算式により、平成四年一月一日から同年一二月二一日までの一二か月間の地価下落率〇・二七七を求め、それを用いて、時点修正率〇・七二三を求めて、前記同年一月一日時点の単価を基にして、時点修正を施す方式により、相続開始日である同年一二月二一日時点の単価を求め(以下「修正単価」という。)、右修正単価を評価通達の定める路線価方式における路線価に代人して、本件土地の価格を求める。

(2) 各種補正率等の設定

被告は、本件土地につき、別表7-3記載のとおり、セットバックを要する部分が、A部分につき二三・二八〇平方メートル、B部分につき二二・〇二八五平方メートル、C部分につき一・〇〇八平方メートルの合計四六・三一六六平方メートルあり、セットバック部分の減価割合を三割とし、別表7-1記載のとおり、B、C部分が面する裏面路線の平成四年度の仮路線価を一平方メートル当たり六九万円と付し、不整形地補正率を、別表7-4記載のとおり、B部分が〇・九九、C部分が〇・九八とし、B貸家建付地部分に係る借地権割合を七割、借家権割合を三割とした。なお、B居住用部分については、租税特別措置法(平成六年法律第二二号による改正前のもの。)六九条の三第一項により、六割の減額(以下「小規模宅地等特例減価」という。)が行われることとされている。

(3) 本件土地の課税価格の算定

被告は、本件土地をA、B、Cの各部分に分け、それぞれの部分が面する路線価を〇・八で除したものに、時点修正率〇・七二三及びB部分については不整形地補正率〇・九九、C部分については同〇・九八を乗じて得られた単価を基礎として、それに各部分の面積を乗じて得られた金額から、セットバック部分の減価分として、右単価にセットバック面積を乗じ、更に、セットバックによる減価割合三割を乗じて得られる金額を控除して、各部分の自用地としての価格を求め、それを合計して、本件土地の自用地としての価格の算定を行ったが、その具体的計算式は、別表7-6記載のとおりであり、A部分の価格を七四六五万八九一二円、B部分の価格を一億七八五八万二〇一九円、C部分の価格を八二四九万九〇五八円と算定した。

B部分については、更に、B貸家建付地部分、B居住用部分のそれぞれの面積に応じた自用地価格を求め、B貸家建付地部分については、借地権割合七割と借家権割合三割との乗を減価割合とする貸家建付地減価を施し、また、B居住用部分については、小規模宅地等特例減価をして、別表7-7記載の計算式により、B貸家建付地部分の価格を一億一二八六万一九二八円、B居住用部分の価格を一四二八万七五二七円と算定した。

そして、B部分を右各価格にA部分及びC部分の各自用地価格を合算した二億八四三〇万七四二五円をもって、本件土地の課税価格とした。

(三) 原告らの評価方法(甲第七ないし第九号証、乙第五号証、第七、第八号証)

原告らは、本件土地については、次の方式により評価し、本件各期限内申告に当たり、本件土地の価額を二億四六二五万九七五一円とした(以下「原告ら評価額」という。)。

(1) 基本的方式

本件土地を、A、B、Cの部分に区分し、本件土地の面する路線の平成四年路線価一平方メートル当たり七七万円を基礎として、別表9記載のとおり、近隣標準地七地点の平成四年公示価格に対する平成五年公示価格の割合を求め、その平均値七三・五パーセントにつき、三六五日を母数として、平成四年一月一日から相続開始日である同年一二月二一日までの日数三五五日に案分した割合を基礎として、時点修正を加え、相続開始日において適用すべき路線価(以下「修正路線価」という。)を一平方メートル当たり五七万一五四〇円と算定し、右修正路線価を基に、相続開始時点の本件土地の価格を求める。

(2) 各種補正率等の設定

原告らは、本件土地につき、別表8記載のとおり、セットバックを要する部分が合計四五・八一六六平方メートル(被告が前提としたセットバックを要する部分の合計面積との差異は、角切り部分の面積を〇・五平方メートルとした(原告ら)か、一平方メートルとした(被告)かの相違による。)あり、セットバック部分の減価割合を三割、B部分の貸家建付地部分に係る借地権割合を七割、借家権割合を三割(いずれも被告の計算と同じ。)としたほか、奥行価格補正率、奥行長大補正率を〇・九八とした。

(3) 本件土地の課税価格の算定

原告らは、本件土地の自用地としての価格につき、修正路線価五七万一五四〇円に、奥行価格補正率、奥行長大補正率各〇・九八を乗じて得られた単価を基礎として、それに本件土地の面積を乗じて得られた金額から、セットバック部分の減価分として、右単価にセットバック面積を乗じ、更に、セットバックによる減価割合三割を乗じて得られる金額を控除して、本件土地の自用地としての価格を二億九一八五万六〇七六円と算定したが、その具体的計算式は、別表10記載のとおりである。

次に、B部分のうち、B貸家建付地部分については、被告の評価方法と同様の貸家建付地減価を施し、また、B居住用部分については、小規模宅地等特例減価をして、別表11記載の計算式により、B貸家建付地減価額を二六五九万六九二〇円、B居住用部分減価額を一八九九万九四〇五円と算定した。

そして、本件土地の自用地としての価格二億九一八五万六〇七六円から右各減価額を控除した二億四六二五万九七五一円(なお、A、B、C各部分別の価格は別表12記載のとおりである。)をもって、本件土地の課税価格とした。

(四) 不動産鑑定士による評価額(甲第二二号証、乙第二号証)

被告が依頼した不動産鑑定士清岡明による平成四年一二月二一日における本件土地の更地としての正常価格の評価額は三億六二〇〇万円(一平方メートル当たり六六万四〇〇〇円)である(乙第二号証。以下「被告鑑定」という)。これに対し、原告らが依頼した不動産鑑定士吉海正一による平成四年一二月二一日における本件土地の更地としての正常価格の評価額は二億六四五四万三二五〇円(一平方メートル当たり約四八万五〇〇〇円)である(甲第二二号証。以下「原告ら鑑定」という。)。

三  争点

1  更正について定めた通則法二四条の解釈について

(原告ら)

申告納税制度のもとでは、納税者のなす当初申告額が納付すべき税額を第一次的に確定する効果を持つというシステムが採用されており、通則法二四条の文言上も、税務署長の調査による更正は「その他」として概括される副次的要件と解すべきであるから、更正を行い得るのは、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が「国税に関する法律の規定に従っていなかったとき」に限定されると解すべきである。したがって、本件各更正についても、被告において、本件期限内申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が「国税に関する法律の規定に従っていなかった」ことを主張、立証しなければならないところ、原告らは相続税法に従って適法に本件各期限内申告を行っており、また、相続財産に含まれる土地の評価については一義的に決まるものではなく、幅のある概念であるというべきところ、原告らの評価方法も合理性を持ったものであるから、原告らの本件各期限内申告は違法とはいい得ないものというべきであり、被告において、原告らの本件各期限内申告が違法であるとの主張、立証をしていないのであるから、本件各更正は同条に違反してなされた違法なものである。

(被告)

通則法二四条は、税務署長に、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が、その調査したところと異なる場合に、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正することを認めた規定であって、同条が規定する「納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき」とは、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が税務署長がした調査と異なる一場合であって、この場合以外にも、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が税務署長の調査したところと異なる場合が多数予想されるため、これを「その他」として並列的に揚げたものである。そして、本件各更正は、本件期限内申告書に記載された課税標準等又は税額等が、その調査したところと異なるとして、同条に基づきなされたものである。

2  本件土地の評価額について

(被告)

本件各更正の前提とした本件土地の被告評価額は、評価通達を適用して求めた価額が高額に過ぎ、評価通達によることなく評価をすべき場合に該当し、その評価方法が、相続開始日における本件土地の客観的交換価値としての時価を求めるために、本件土地の平成四年一月一日時点における実勢価格を求め、これに相続開始日までの時点修正率を乗ずるという極めて合理的なものであることに加え、<1>被告鑑定の評価額、<2>近隣標準地の公示価格を時点修正した後の価額、<3>社団法人東京都宅地建物取引業協会刊行の「地価図」における価額、<4>時点修正、場所的修正をした後の取引実例価額が、いずれも被告評価額を上回っており、適法な価額というべきである。

(原告ら)

いずれも不動産鑑定士が本件土地を鑑定評価した結果である原告ら鑑定と被告鑑定とで評価額が異なっていることからも、土地の適正な時価とは、相対的な幅のある概念であるというべきところ、原告らの本件土地の評価方法は、二年度間の路線価の連結による時点修正という、地価下降局面において極めて合理的な方式によっているのであるから、それによって得られた原告ら評価額をもって、適正な時価ではないということはできないものであり、したがって、本件各更正はいずれも違法というべきである。

四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  更正について定めた通則法二四条の解釈(争点1)について

1  法は、相続税につき申告納税方式を採用している(法二七条)ところ、申告納税方式は、納付すべき税額は納税者のする申告により確定することを原則とするものの、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合には、税務署長の処分により確定するものである(通則法一六条一項一号)。そして、更正(通則法二四条)は、納税申告書の提出があった場合において、「その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるとき」に、税務署長の調査により税額を確定する税務署長の処分に該当することになる。

2  そして、通則法一六条一項一号においては「その申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合」と「その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合」とが規定されており、法令用語としての「その他」の用法に照らせば、右の二つの場合は並列の関係にあることは明らかであり、「その他」との表記がこれに先行する文言を超える意味を有しないとか、先行する文言を補充する副次的なものにすぎないと解すべきものではない。そして、通則法二四条においては、税額確定方式を規定する通則法一六条一項一号中の「税額」との文言を納税申告書の記載事項に即して(通則法一九条一項各号列記以外の部分、二条六号)、「課税標準等又は税額等」とし、「場合」を表すのに「とき」が用いられているのであって、その趣旨は通則法一六条一項一号について既に説示したところと異なるものではない。すなわち、税額は、国税に関する法律に規定された課税標準等の算定の要件となる具体的な事実(課税要件事実)の認定及び右事実についての法律の適用によって算出されるものであるところ、税務署長が納税申告書を調査した結果、そこに記載された事実を前提としても法律の規定に従っていないために税額が過少となる場合に更正をなし得ることは当然であるが、かかる場合のみならず、税務署長が調査により真実と判断したところに照らして課税要件事実について過誤があると認められる場合にも更正をなし得るのである。

以上によれば、税務署長の処分である更正(通則法二四条)は、税務署長の調査したところと納税申告書に記載された課税標準等又は税額等が異なる場合にはなし得るものというべきであって、更正を行い得るのは納税申告書に記載された課税標準等又は課税額の計算が「国税に関する法律の規定に従っていなかったとき」に限定されるとは解されないのである。

したがって、原告らの主張は採用することはできない。

3  この点につき、原告らは、申告納税方式においては申告により税額が確定することが原則であることから、更正の適法性を主張するためには、更正の要件として申告の違法性を明らかにすることが必要である旨主張する。

しかし、納税申告書の内容が税務署長の調査の結果と異なった場合を例外的場合として、かかる場合に更正を許容することは、通則法一六条の規定する申告納税方式が予定するところというべきであり、税務署長の調査による更正は申告納税方式と何ら矛盾するものでないのである。

また、納税申告又は更正の適法性とは、課税要件事実の正しい認定及びこれに基づく税額計算の法規適合性にあるから、仮にこれらの点に関する過誤が納税者に有利に作用する場合であっても、国税に関する各法律の適用を誤ったという意味で、違法と観念されることになる。しかし、税務署長の調査の限界又は認定対象が評価的要素を含むこと等から課税標準の算定基礎となる数値について手堅い数値を採用することは課税の謙抑性によって是認されるし、また、納税者に有利な事由は納税者の権利を侵害する違法性はないから、納税者との関係で当該処分を取り消し得べき違法ということはできない(行政事件訴訟法一〇条一項参照)。したがって、すべての課税要件事実を正確に捕捉し、国税に関する各法律を適用した場合に算出されるべき課税標準等又は税額等に比して更正に係る課税標準等又は税額等が下回ったとしても、更正は適法とされ、その結果、更正の取消訴訟における更正の適法性とは、更正に係る課税標準等又は税額等があるべき課税標準等又は税額等を下回ることと理解されるのである。しかし、このことから、あるべき課税標準等又は税額等を下回る納税申告が適法となるものではないのである。

なお、税務署長の「調査したところ」とは「調査により真実と判断したところ」意味することは既に説示したとおりであり、訴訟においては、税務署長の調査したところの真実性について税務署長が立証責任を負担するのであるから、前記の説示が税務署長の恣意を許したり、申告納税方式の趣旨を損なうものでないことも明らかというべきである。

二  本件土地の評価(争点2)について

1  本件各更正の内容と原告らの主張との相違点は、原告らの課税価格の算定基礎とされた本件土地の価額の評価であるから、右に説示したとおり、更正に係わる被告評価額が法二二条に規定する時価以下であるときは、本件各更正は適法であり、被告評価額を下回る原告ら評価額が法二二条に規定する時価以下であること(仮に原告ら評価額による更正がされた場合に、これが適法とされること)は、本件各更正の適法性を覆すものではない。

なお、相続財産中の土地については、評価通達により評価することが運用上の原則となっているから、評価通達に合理性がある限り、一般の運用と異なる評価をすることは、仮にその結果が法二二条に規定する時価を超えない場合であっても、公平の原則に違反するおそれがあるというべきであるから、まず、この点を検討する。

2  評価通達に定める路線価方式について

(一) 法二二条は、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得時における時価によるものとし、評価通達においては、「時価」を、相続により財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額と定義している。時価の意義を右のように定義すると、法の予定する「時価」とは、取得時における客観的時価をいうことになるから、相続により取得された土地の時価の算定方法としては、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが、一般的にいって最も正確な方法ということになる。

(二) しかし、課税対象となる土地は全国に大量に存在し、個々の土地についてすべて個別の鑑定を行うことは著しく困難であり、不動産鑑定士による鑑定評価額についても、原告ら鑑定の評価額と被告鑑定の評価額との相違を見ても明らかなように、同一の土地の同一時点における鑑定評価額であっても、鑑定評価を行う者が異なれば、異なる鑑定評価額となる可能性が存するのであるから、市街地的形態を形成する地域にある宅地の評価につき、路線価方式により、客観的な基準に基づき算定することを予定している評価通達の定めによって評価した価額をもって、相続財産の時価とすることを原則とすることは、全国に大量に存在する課税対象土地について、相続財産の評価方法の基準化を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するとうい観点から、法が予定する「時価」への接近方法として合理性を有するものということができる。

(三) このように、評価通達に定める路線価方式は、個別的鑑定によることなく各年の一月一日時点を基準として評価される路線価に基づいて当該年に相続によって取得された宅地の評価を一律の方法で行うという手法によることになるから、路線価方式により算定された評価額が、当該宅地の取得時における客観的時価と一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきである。そして、路線価方式により算定される評価額が客観的時価を超えないときは、納税者に対する違法な侵害を構成するものではなく、路線価方式に実務的合理性があることも考えれば、路線価方式による評価は、法の趣旨に合致するものと解することができる。しかし、路線価方式により算定される評価額が客観的時価を上回る場合には、路線価方式により算定される評価額をもって法が予定する時価と見ることはできないものというべきであり、かかる場合には、評価通達の一律適用という公平の原則よりも、個別的評価の合理性を尊重すべきものというべきである。

路線価の付設に当たっては、各年の一月一日時点の公示価格の概ね八割程度に評定するという運用が行われているから、通常は、路線価方式による評価額が客観的時価を超えることはないと予想されているものと解されるが、それでもなお、路線価方式により算定される評価額が客観的時価を上回る場合には、評価通達6に定める評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合に該当するものということができる。

3  路線価方式による本件土地の評価

前記争いのない事実等に基づき、評価通達を適用して、路線価方式により、本件土地の更地価格を算定してみると、別表7-2記載のとおり、三億七一四九万二七二九円となり(なお、A、B、C三画地ごとの評価方式を採用する場合には、本件土地全体を一区画とする補正はすべきではない。)、原告ら鑑定はもちろん被告鑑定の評価額をも上回る結果となることが認められる。したがって、評価通達に基づいて算定した更地価格及び各鑑定の評価額を基礎として、B部分に関する貸家建付地減価及び小規模宅地等特例減価をして求められる本件土地の各価額は、前者によるものが後者によるものを上回ることとなる。

4  被告が評価通達によることなく本件土地の評価をしたことについて

以上によれば、評価通達の定める路線価方式により算定した本件土地の評価額をもって法が予定する時価と見ることはできないおそれが認められるものというべきであるから、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合(評価通達6)に該当するというべきである。

なお、原告らは、評価通達6においては、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価するとされているところ、被告の行った本件土地の評価は国税庁長官の指示に基づいてなされたものではないとして、本件各更正は、被告の権限外の判断による本件土地の評価に基づくものであると主張する。しかしながら、評価通達は、あくまで、国税庁内部における上位の行政組織から下位の行政組織に対する、評価に当たっての基準及び手続の指示という性格を有するものであって、評価通達自体が対外的に法規範と同様の効力を有するものではなく、既に説示したとおり、本件各処分の適法性は、原告らの課税価格を算定するに当たり被告が調査によって採用した本件土地の価額が客観的時価以内にあるか否かによって判断されるものであるから、仮に、被告が、本件土地の評価を評価通達の定める路線価方式によらずに行うに当たり、国税庁長官の個別的な指示を得ていなかったとしても、そのことの一事をもって、被告の行った本件土地の評価、ひいては、それを基礎としてなされた本件各処分が違法となるべきものでないことは明らかである。

5  被告が採用した本件土地の評価方法の合理性について

(一) 被告による本件土地の評価方法は、前記第二の二4(二)のとおり、評価通達に基づき付設されている路線価が毎年一月一日時点の時価の八割であることを前提として、本件土地が沿接する路線に係る路線価及び評価に当たって裏面道路に付設した仮路線価を〇・八で除すことにより得られた単価を、平成四年一月一日時点の客観的時価を反映したものとし、右価額を基に、本件近隣公示地の平成四年一月一日時点の価格と平成五年一月一日時点の価格の変動から算出される平成四年一二月二一日時点での時点修正率を用いた時点修正を行って得られた価額を修正単価とし、それを評価通達が定める路線価方式における路線価に代入することにより平成四年一二月二一日時点での本件土地の時価を求めるというものである。一方、評価通達の定める路線価方式は、法が予定する時価への接近方法として合理性を有するものであるところ、路線価方式においては、一年間の地価変動に対応し、評価の安全性を確保する観点から、各年の一月一日時点の公示価格に比べて路線価をその概ね八割程度に評定するという運用が行われており、路線価方式に基づいて算定された本件土地の評価額が客観的時価を上回っている可能性がある場合、その原因としては、平成四年一月一日時点の時価に比べて、同年一二月二一日時点の時価までの下落率が、前記の公示価格を基準とした約二割の減価率を超えたことによることが考えられる。そうだとすれば、同年一月一日時点の単価を求め、それを時点修正して同年一二月二一日時点の修正単価を算定した上で、路線価方式における路線価に右修正単価を代入するという被告の評価方式の基本的考え方自体は合理性を有するものというべきであるし、運用上の原則とされている評価通達による評価ともかい離するところが少ないものということができ、時点修正率の算定についても、その合理性を否定するような事情は窺われない。

(二) 原告らは、被告が平成四年一月一日時点の路線価を〇・八で割り戻して得られた単価をもって、同日時点の時価を反映したものとする点について、路線価は公示価格の概ね八割程度であるということはいえても、本件土地に係る路線価が時価の八割であるとは限らないし、二割の減価の中には、一年間の地価変動に対応するという要素と評価の安全性を確保するという要素が含まれているとしながら、〇・八で割り戻すことは、評価の安全性の確保の観点からなされている減価分もなくしてしまうということになってしまうと主張する。たしかに、本件土地に係る路線価が時価の八割であるとは断じ得ないことは原告らが指摘するとおりであるが、前記のとおり、路線価は毎年一月一日の公示価格の概ね八割となるよう付設されており、公示価格は、適正な地価の形成に寄与することを目的として、標準地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる正常な価格として公示されるものであり(地価公示法一条、二条二項)、証拠(甲第二一号証)によれば、路線価の地価公示価格又は基準地価格に対する割合は、ごく一部の例外を除いて、八〇パーセント弱であって、本件土地と同町内にある基準地に対する割合は、平成四年において八〇パーセントであることが認められる。また、評価通達の定める路線価方式は、個々的な鑑定評価とは異なり、土地の価格形成要素のすべてを網羅するものではなく、典型的な価格形成要素についての大数的基準による評価を積み重ねて客観的時価に接近する方法であり、個別的算定要素中に具体的実情に必ずしも沿わないものがあったとしても、評価通達に定める路線価方式に準拠した評価額が客観的な時価を超えないときは、右評価をもって違法ということはできないものというべきところ、被告が前記の方式による時点修正を施した修正単価を路線価方式における路線価に代入して本件土地の評価を行っていることに照らせば、仮に本件土地に係る路線価を〇・八で割り戻すことにより得られる単価が本件土地の平成四年一月一日時点の時価と一致しなかったとしても、右修正単価を路線価方式における路線価に代入して得られた被告評価額が客観的な時価を超えないときは、右評価をもって違法ということはできないものというべきである。

6  被告評価額が、本件土地の客観的な時価を超えないものであるか否かについて

(一) 被告評価額の計算における本件土地の自用地としての価額三億三五七三万九九八九円は、被告鑑定の評価額三億六二〇〇万円を下回っており、また、証拠(乙第二号証)によれば、被告鑑定に当たって算出された本件近隣公示地の価格に基づき算出された本件土地の単位基準価格六五万八〇〇〇円を基礎として、本件土地面積を乗じた自用地価額は三億五八九〇万六一〇〇円となるから、被告評価額は右価格を下回っていることが認められる。

したがって、被告鑑定の評価額又は右鑑定における単位基準価格に基づく被告評価額におけるのと同様のB部分の貸家建付地減価及び小規模宅地等特例減価をした価額は、被告評価額を上回ることになる。

(二) しかしながら、前記のとおり、被告評価額は原告ら評価額を上回り、被告評価額における本件土地の自用地としての価額は原告ら鑑定の評価額二億六四五四万三二五〇円を上回っている。そこで、原告ら評価額、原告ら鑑定の評価額について検討する。

(三) まず、被告評価額が原告ら評価額よりも高額である点につき検討するに、前記両評価額の算定方法に照らせば、両評価額の差異の主たる原因は、被告評価額は、路線価を〇・八で割り戻して修正単価を求めているのに対し、原告ら評価額においては、割戻しをせずに、修正路線価を求めている点にあるものということができる。すなわち、被告評価額は、年初に定められる路線価が当該年における相続財産の価格評価に用いられるという運用を前提として、公示価格に概ね〇・八を乗じた価格をもって定められていることから、右〇・八の割戻しによる年初の時価を想定し、路線価方式に価格変動による最小限度の修正を施すものであるのに対して、原告ら評価額は、路線価を年初の確定的時価であると擬制して以後の価格変動による修正を施そうとするものであるから、公示価格が客観的時価に近似するものであるとすれば、むしろ、被告評価額の方が客観的時価に近似するものということができる。ともあれ、いずれの評価方式も路線価方式の修正であって、本件土地自体の客観的時価を評定するものではないから、原告ら評価額が被告評価額を下回ることは、被告評価額が客観的時価を超えることを論証するものではない。

次に、原告ら鑑定の評価額につき検討するに、証拠(甲第二二号証、乙第二号証、第一二号証)によれば、原告ら鑑定は、取引事例比較法を重視し、公示地価格との均衡に留意し、収益還元法を参考にしてなされたものであるところ、その取引事例比較法における比較対象として採用した五件の取引事例のうち三件は、異なる売主から同一の買主に対して一括売却された、隣接した一団の土地を形成する物件に関するものであり、その中には、細い通路でのみ接道している土地も含まれており、右土地の取引単価は、他の隣接地に比べて極端に低くなっており、他方、被告鑑定が採用した取引事例四件は、いずれもが独立した取引事例であって、採用した取引事例四件の対象土地は原告ら鑑定が採用した取引事例の対象土地(右一団の土地を形成する三件を除く。)に比べて、本件土地に近接した位置に所在していることが認められるのであるから、取引事例の採用の仕方においては、原告ら鑑定に比べ、被告鑑定の方がより適切であったというべきであり、また、原告ら鑑定における時点修正率は平成四年一二月から平成五年一一月までで一一パーセントというものであって、原告ら評価額における時点修正率(年率)二六・五パーセントに比しても、著しく低いものといわざるを得ないのであって、その結果、原告ら鑑定においては、取引事例比較法に基づく比準価格がより低額になっているものと認められる。したがって、そのようにして求められた比準価格を採用した原告ら鑑定の評価額をもって本件土地の客観的時価ないしそれに接近した価額であるとはいい得ないものというべきである。

(四) なお、原告ら鑑定、被告鑑定のいずれも同一公示地(本件近隣公示地)の公示価格を基に本件土地の基準価格を算定しているのに、両者に相違が存する。ところで、両鑑定において取引事例比較法による比準価格は基準価格の約一・〇一倍という関係にあることが認められるから、本件土地付近の土地と本件近隣公示地との価格比は一・〇一対一程度であることが窺われる。そうだとすると、原告ら鑑定における取引事例比較法による比準価格に疑問があることは既に認定したところであるから、原告ら鑑定における規準価格にも疑問なしとしないのであり、また、原告ら鑑定が採用している一四九分の一〇〇という大幅な地域格差率の判断根拠も明らかとはいい得ないものというべきである。

(五) したがって、被告評価額が原告ら評価額及び原告ら鑑定の評価額を上回っているということから直ちに、被告評価額が本件土地の客観的時価を上回っているということはできず、前記のとおり、被告評価額が被告鑑定の評価額に基づく被告評価額におけるのと同様のB部分の貸家建付地減価及び小規模宅地等特例減価をした価額を下回っており、被告鑑定の評価額の適正性を疑わしめる事情は窺えないのであるから、被告評価額は、本件土地の客観的時価を上回るものではないというべきである。

三  本件各処分の適法性

以上によれば、本件土地の時価を被告評価額として、前記第二の二3記載の根拠に基づいてなされた本件各処分は、いずれも適法というべきである。

第四結論

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

物件目録

東京都世田谷区桜新町一丁目四四三番二

宅地 五四五・四五平方メートル

以上

別表1

本件課税処分等の経緯(原告遅澤浩一郎)

<省略>

別表2

本件課税処分等の経緯(原告遅澤洋)

<省略>

別表3

本件課税処分等の経緯(原告遅澤勝三)

<省略>

別表4

本件課税処分等の経緯(原告清田哲司)

<省略>

別表5 課税価格等の計算明細表

<省略>

別表6 相続税額の計算明細表

<省略>

別表7-1 利用区分図

<省略>

(注)

A部分は、遲澤洋の居宅敷地

B部分は、遲澤スミヨの居宅兼アパート敷地

C部分は、遲澤勝三の居宅敷地

別表7-2 評価通達に基づき算定した本件宅地の自用地としての価額

A部分

770,000円×114.27m2-770,000円×23.2801m2×0.3=82,610,197円

(注)

23.2801m2=セットバック面積

0.3=セットバック部分の評価減割合

B部分

690,000円×0.99=683,100円

683,100円×295.88m2-683,100円×22.0285円×0.3=197,601,328円

(注)

0.99=不整形地補正率

22.0285m2=セットバック面積

0.3=セットバック部分の評価減割合

C部分

690,000円×0.98=676,200円

676,200円×135.30m2-676,200円×1.008m2×0.3=91,281,204円

(注)

0.98=不整形地補正率

1.008m2=セットバック面積

0.3=セットバック部分の評価減割合

評価通達に基づき算定した本件宅地の自用地としての価額

A部分+B部分+C部分=82,610,197円+197,601,328円+91,281,204円

=371,492,729円

別表7-3 セットバックを要する面積

<省略>

別表7-4 不整形地補正

B部分

B部分の想定整形地の面積=17.90メートル×19.02メートル=340.45m2

蔭地割合=(340.45m2-295.88m2)÷340.45m2=0.13

地積区分(普通住宅地区、面積500m2以下)は、A

不整形地割合は、地積区分Aで蔭地割合が15%未満の場合は0.99

C部分

C部分の想定整形地の面積=17.90メートル×9.4メートル=168.26m2

蔭地割合=(168.26m2-135.30m2)÷168.26m2=0.196

地積区分(普通住宅地区、面積500m2以下)は、A

不整形地割合は、地積区分Aで蔭地割合が20%未満の場合は0.98

別表7-5 地価下落率及び時点修正率

地価下落率

(1,030,000円-745,000)÷1030,000円×12÷12≒=0.2766=0.277

(注)

標準地=世田谷区新町2丁目34番6号

1,030,000円=平成4年の公示価格

745,000円=平成5年の公示価格

時点修正率

1-地価下落率=1-0.277=0.723

別表7-6 本件宅地の自用地としての価額の計算

A部分

(770,000円÷0.8)×0.723=695,997円

695,997円×114.27m2-695,997円×23.2801m2×0.3=74,658,912円

(注)

0.723=時点修正率 114.27m2=A部分の面積

23.2801m2=セットバックを要する面積

0.3=セットバックを要する土地の減価割合

B部分

(690,000円÷0.8)×0.723×0.99=617,351円

617,351円×295.88m2-617,351円×22.0285m2×0.3=178,582,019円

(注)

0.723=時点修正率 0.99=不整形地補正率

295.88m2=B部分の面積 22.0285m2=セットバックを要する面積

0.3=セットバックを要する土地の減価割合

C部分

(690,000÷0.8)×0.723×0.98=611,115円

611,115円×135.30m2-611,115円×1.008m2×0.3=82,499,058円

(注)

0.723=時点修正率 0.98=不整形地補正率

135.30m2=C部分の面積 1.008m2=セットバックを要する面積

0.3=セットバックを要する土地の減価割合

本件宅地の自用地としての価額

A部分+B部分+C部分=74,658,912円+178,582,019円+82,499,058円

=335,739,989円

別表7-7 相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額の計算

B部分

貸家建付地部分

178,582,019円×236.7m2÷295.88m2×(1-0.7×0.3)=112,861,928円

(注)

178,582,019円=B部分全体の自用地としての価額

236.7m2=貸家建付地部分の面積

295.88m2=B部分全体の面積

0.7=本件宅地の借地権割合

0.3=借家権割合

居住用部分について租税特別措置法六九条の3第1項適用後の相続税の課税価格に算入される価額

178,582,019円×59.18m2÷295.88m2×(1-0.6)=14,287,527円

(注)

178,582,019円=B部分全体の自用地としての価額

59.18m2=居住用部分の面積

295.88m2=B部分全体の面積

0.6=本件特例の適用により減額される割合

相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額

A部分+B部分(貸家建付地部分+居住用部分)+C部分

=74,658,912円+112,861,928円+14,287,527円+82,499,058円

=284,307,425円

別表8

セットバックを要する面積

<省略>

(注1)外縁部分がセットバック部分

<1>正面路線部分のセットバックを要する面積

1.27メートル×(10.35メートル-1.09メートル)=11.7602m2

<2>裏面路線部分のセットバックを要する面積

0.18メートル×(24.62メートル-1.09メートル)=4.2354m2

<3>側方路線部分のセットバックを要する面積

1.09メートル×26.9メートル=29.321m2

<4>スミキリを要する部分2ケ所の面積

(1.0メートル×0.5メートル÷2)×2=0.5m2

<5>セットバックを要する面積の合計額

11.7602m2+4.2354m2+29.321m2+0.5m2=45.8166m2

(注2)裏面路線におけるセットバックが63.5センチメートルとなる理由

<1>4メートル・・・・・二項道路の要求する道幅

<2>(2.73+0.91)メートル=3.64メートル・・・・・現実の道幅

<3><1>-<2>=0.36メートル・・・・・2項道路としてセットバックする総量

<4>0.36メートル÷2=18センチメートル・・・・・片側土地所有者のセットバックすべき道幅

<5>0.91メートル÷2=45.5センチメートル・・・・・三尺公道で敷地とっている部分

<6>18センチメートル+45.5センチメートル=63.5センチメートル

別表9

時点修正した正面路線価

<1>平成4年分正面路線価 770,000

<2>近隣公示地 H5年公示価 H4年公示価 前年比

新町1-16-13 765,000 1,010,000 75.74%

新町2-34-6 745,000 1,030,000 72.33%

桜新町1-35-15 850,000 1,170,000 72.65%

用賀1-1-5 850,000 1,130,000 75.22%

用賀2-3-1 1,210,000 1,690,000 71.60%

用賀4-28-4 820,000 1,120,000 73.21%

深沢8-13-32 937,000 1,270,000 73.78%

<3>近隣公示地の前年比の平均値(平均下落率) 73.50%

<4><1>×<3>=565,950・・・・・平成5年分正面路線価予測値

<5>355÷365・・・・・時点修正率

<6><1>-(<1>-<4>)×<5>=571,540・・・・・H4年修正路線価

770,000-(770,000-565,950)×355÷365=571,540

<1>-<1>×(1-<3>)×<5>=571,540・・・・・H4年修正路線価

770,000-770,000×(1-73.5%)×355÷365=571,540

別表10

本件土地の更地(自用地)としての価額

<1>571,540・・・・・修正路線価

<2>0.98・・・・・奥行価格補正率

<3>0.98・・・・・奥行長大補正率

<4><1>×<2>×<3>=548,906・・・・・自用地m2単価

<5>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<6><4>×<5>=299,400,777・・・・・セットバック減価前の価額

<7>45.8166・・・・・セットバックを要する面積(m2)

<8>0.3・・・・・セットバック減価率

<9><6>×<7>÷<5>×<8>=7,544,701・・・・・セットバック減価の額

<10><6>-<9>=291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

別表11

本件土地の課税価格

<1>291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

<2>59.18・・・・・B部分のうち××××の自己居住用使用分(m2)

<3>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<4>0.6・・・・・特別措置法69条の3<1>の居住用部分特例減価率

<5><1>×<2>÷<3>×<4>=18,999,405・・・・・特別措置法69条の3<1>の減価額

<6>236.70・・・・・B部のうち××××のアパート敷地使用分(m2)

<7>0.7・・・・・本件宅地における借地権割合

<8>0.3・・・・・本件宅地における借家権割合

<9><7>×<8>=0.21・・・・・本件宅地における貸家建付地減価割合

<10><1>×<6>÷<3>×<9>=26,596,920・・・・・貸家建付地減価の額

<11><1>-<5>-<10>=246,259,751・・・・・本件土地の課税価格

別表12

ABC各部分の課税価格の参考計算

A部分

<1>291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

<2>114.27・・・・・A部分の面積(m2)

<3>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<4><1>×<2>÷<3>=61,142,898

B部分のうち居住用家屋の敷地に相当する部分

<1>291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

<2>59.18・・・・・B部分のうち××××の自己居住用使用分(m2)

<3>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<4>0.6・・・・・特別措置法69条の3<1>の居住用部分特例減価率

<5><1>×<2>÷<3>×(1-<4>)=12,666,270

B部分のうち貸家の敷地に相当する部分

<1>291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

<2>236.70・・・・・B部のうち××××のアパート敷地使用分(m2)

<3>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<4>0.21・・・・・本件宅地における貸家建付地減価割合

<5><1>×<2>÷<3>(1-<4>)=100,055,080

C部分

<1>291,856,076・・・・・更地(自用地)価額

<2>135.30・・・・・C部分の面積(m2)

<3>545.45・・・・・本件宅地面積(m2)

<4><1>×<2>÷<3>=72,395,503

本件宅地の課税価額

A部分+B部分(居住用)+B部分(貸家用)+C部分

=61,142,898+12,666,270+100,055,080+72,395,503

=246,259,751

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