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東京地方裁判所 平成8年(ワ)6636号 判決 1999年7月16日

原告

出光石油化学株式会社

右代表者代表取締役

河野映二郎

右訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

富岡英次

飯田圭

右補佐人弁理士

松下満

被告

三甲株式会社

右代表者代表取締役

後藤甲平

被告

ホーマック株式会社

右代表者代表取締役

石黒靖尋

被告ら訴訟代理人弁護士

花岡巖

新保克芳

被告ら補佐人弁理士

平井保

主文

一  被告三甲株式会社は、原告に対し、金二七五五万〇九二六円及びこれに対する平成八年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ホーマック株式会社は、原告に対し、金一〇三六万五九九六円及びこれに対する平成八年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告三甲株式会社は、原告に対し、金六六一一万一〇九二円及びこれに対する平成八年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ホーマック株式会社は、原告に対し、金三六九六万〇五三六円及びこれに対する平成八年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告らに対し、被告三甲株式会社(以下「被告三甲」という。)が製造し、被告らが販売していた別紙物件目録記載の製品(以下「被告器具」といい、同目録の物件説明書記載二の各構成を「構成1」などという。)は、原告が有する実用新案権の技術的範囲に属するから、その製造及び販売は右実用新案権を侵害するものであるとして、右侵害による損害の賠償等を求める事案である。

一  争いのない事実

1(一)  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権①」といい、実用新案登録請求の範囲第(1)項記載の考案を「本件考案①」という。)を有している。

実用新案登録番号

第二〇一三四二五号

考案の名称 悪路脱出具

出願日 昭和六一年七月八日

出願番号

実願昭六一―一〇四五九八号

公開日 昭和六三年五月一九日

公開番号 昭六三―七五四〇六号

公告日 平成五年四月一二日

公告番号 平五―一三六〇二号

登録日 平成六年四月六日

実用新案登録請求の範囲第(1)項

「自動車の車輪を案内する合成樹脂製案内板に少なくとも一つの溝部とその幅方向両側から外側に向かって延出する係止突部とが該案内板と一体的に設けられ、前記溝部は案内板の長手方向に沿って延びるとともに、その幅方向両側の長手方向に沿って前記案内板の表面から裏面側を越えて下方に向けて形成された側壁を含んで構成され、かつ、前記溝部は係止突部で落とされた雪や泥等を収容あるいは排出するに充分な幅および深さとされていることを特徴とする悪路脱出具。」

(二)  本件考案①の構成要件は、次のとおり分説される。

A 自動車等の車輪を案内する合成樹脂製案内板を備えていること

B 該案内板と一体的に

Ⅰ 少なくとも一つの溝部と

Ⅱ その幅方向両側から外側に向かって延出する

係止突部とが設けられていること

C 前記溝部は

Ⅰ 案内板の長手方向に沿って延びるとともに、

Ⅱ その幅方向両側の長手方向に沿って前記案内板の表面から裏面側を越えて下方に向けて形成された側壁を含んで構成され、かつ、

Ⅲ 係止突部で落とされた雪や泥等を収容あるいは排出するに充分な幅及び深さとされていること

(三)  被告器具は、右構成要件のうち、「案内板」、「溝部」以外の構成要件を充足している。

2(一)  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権②」といい、その考案を「本件考案②」という。また、本件実用新案権①と合わせて「本件各実用新案権」、「本件各考案」という。)を有している。

実用新案登録番号

第二〇一三四二四号

考案の名称 悪路の脱出具

出願日 昭和六一年七月八日

出願番号

実願昭六一―一〇四五九七号

公開日 昭和六三年一月二五日

公開番号 昭六三―一一二〇四号

公告日 平成五年四月一二日

公告番号 平五―一三六〇一号

登録日 平成六年四月六日

実用新案登録請求の範囲

「自動車等の車輪を初期に案内する進行方向に対して登り傾斜の第一の案内面と、これに続いて形成された下り傾斜の第二の案内面とを有する案内板に、該案内板の長手方向に沿って延びる少なくとも一つの溝部を形成するとともに、この溝部は、その幅方向両側の長手方向に沿って案内板の表面から裏面側を越えて下方に向けて形成された側壁を含んで構成され、さらに、前記溝部の幅方向両側から外側に向かって延出する係止突部を前記第一、第二の案内面のうち少なくとも第一の案内面上において、前記溝部の長手方向に沿って所定間隔ごとに形成し、かつ、前記溝部とこれら係止突部との角度が係止突部の進行方向側において九〇度以下になるように設けたことを特徴とする悪路の脱出具。」

(二)  本件考案②の構成要件は、次のとおり分説される。

A 自動車等の車輪を初期に案内する進行方向に対して登りの傾斜の第一の案内面と、これに続いて形成された下り傾斜の第二の案内面とを有する案内板を備えていること

B 該案内板の長手方向に沿って延びる少なくとも一つの溝部を形成していること

C この溝部は、その幅方向両側の長手方向に沿って案内板の表面から裏面側を越えて下方に向けて形成された側壁を含んで構成されていること

D 前記溝部の幅方向両側から外側に向かって延出する係止突部を前記第一、第二の案内面のうち少なくとも第一の案内面上において、前記溝部の長手方向に沿って所定間隔ごとに形成していること

E 前記溝部とこれら係止突部との角度が係止突部の進行方向側において九〇度以下になるように設けていること

(三)  被告器具は、右構成要件のうち、「案内板」、「溝部」以外の構成要件を充足する。

3(一)  被告三甲は、被告器具を製造し、被告らは、被告器具を販売していた。

(二)(1)  被告三甲は、遅くとも、平成三年二月五日には、本件各考案につき、出願公開されたことのみならず、その内容を知っていた。

(2) 被告三甲は、右同日から本件各考案の出願公告日の前日である平成五年四月一一日までの間、被告器具の製造及び販売により、金五二二八万〇五八七円の売上金を取得した。

(三)(1)  被告三甲は、本件各考案の出願公告日である同月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計七万〇三八五セットの被告器具を製造、販売した。

(2) 被告三甲による被告器具の販売価格は、一セット当たり平均八三一円を下らない。

(四)(1)  被告ホーマック株式会社(以下「被告ホーマック」という。)は、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計三万〇〇五一セットの被告器具を被告三甲から購入して販売した。

(2) 被告ホーマックによる被告器具の販売価格は、一セット当たり平均一七八四円を下らない。

(3) 被告ホーマックの、被告器具の購入原価は、一セット当たり平均一一九八円を超えない。

第三  争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  被告器具が本件各考案の「案内板」及び「溝部」の構成を有するか。

2  損害等

二  争点に対する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

被告器具の構成1の案内体1は、本件各考案の「案内板」を充足し、被告器具の溝状部2は、本件各考案の「溝部」を充足する。

(被告らの主張)

(一) 本件各考案は、タイヤと案内板との間に介在する雪の量を極力減少させて悪路からの脱出をはかることを目的の一つとし、そのための解決手段として、係止突部で落とされた雪を収容して地面側に排出するための溝部を案内板に設けることを開示している。

このように、本件各考案は、タイヤと案内板との間に介在する雪の量を極力減少させるべく、雪の排出先として溝を設けているのであるから、地面から案内面に雪が流入しないようにするのは当然であって、そのためには、「案内板」は孔の無い完全な板でなければならず、かつ、「溝部」の底部には、水抜き孔以上の孔が存在しないことが不可欠である。

本件各考案に係る明細書(以下それぞれ「本件考案①明細書」、「本件考案②明細書」という。)においても、わずかに溝部に水抜き孔を設けることが記載されているのみで、それ以上に孔を設ける旨の記載はなく、右各明細書中の本件各考案の実施例においても、無孔の「案内板」と「溝部」が開示されている。

被告器具は、雪道に設置したときに確実にグリップされることを目的として、案内面1A、1Bを板でなくメッシュ状にし、溝状部2も有底ではなくメッシュ状としているため、雪道で使用して荷重が加わると、溝状部を含めて、案内面全体に地面側から雪が進入するから、本件各考案のように溝部に雪を排出してタイヤと案内面との間の雪を減少させることはできない。被告器具において、タイヤに付着していた雪は、路面から進入しタイヤにより係止突部の上面の高さまで圧縮された雪の上に落下するだけであり、溝状部に入ることはないし、仮に一部の雪が溝状部に入ったとしても、その雪が路面に排出されることはない。

このように、被告器具は、本件各考案と全くその思想と作用効果を異にするものであり、その構成としても、本件各考案の「案内板」と「溝部」の要件を充足しない。

(二) 本件考案②は、脱輪防止、タイヤと案内板に介在する雪の減少によるスリップ防止の二つの作用効果により悪路からの脱出効果を高めるものであるところ、悪路脱出具に係止突部を設け、その傾斜角度を脱出具の長手方向に対して九〇度以下とすることによって、脱輪を防止して悪路からの脱出を確実に行うことは、本件考案②の出願前にすでに公知であったから、係止突部の角度によって、タイヤが案内板の中央側に案内され、脱輪が防止されるという点については、本件考案②は公知技術と変わるところがない。

本件考案②は、こうした公知例と同じ係止突部を備えただけでなく、さらに、案内板に溝部を設け、溝部にタイヤを導いて脱輪を防止すること及び溝部に雪を排出することで悪路からの脱出を図ることを特徴とするものであるから、本件考案②の「溝部」は、溝部が一列で十分に幅が広くタイヤを落ち込ませることができるようなものでなければならない。

本件考案②明細書中の「考案の詳細な説明」欄においても、「タイヤを案内板の溝部の中央側に落ち込ませる方向に案内できる角度に係止突部を延出させて脱輪防止を図り」(本件考案②の実用新案公報三欄33〜35行)とか、「タイヤを案内板11の中央部側に落ち込ませる作用がより強く働き、案内板11からの脱輪をより確実に防止できる効果が付加できる」(同公報七欄29行〜32行)などと記載されているから、溝部の中央側に「落ち込ませる」ことのない場合も、本件考案②の対象になるということ自体、右明細書の明らかな記載に反するものであるし、また、実施例の図面も、本件考案①には溝部が複数のものしか無いが、本件考案②には溝部が一つのものがある。なお、本件考案②明細書中の実施例には、溝が二列のものも示されているが、実用新案公報の記載といえども、それが考案の本質に反するものであれば、解釈の根拠に用いることはできない。

被告器具において、溝状部2は、長手方向に二列あって、その幅は狭く、その中間部に係止突部が設けられているため、被告器具は、タイヤを案内板の溝部の中央側に落ち込ませて脱輪防止を図るという本件考案②の目的を全く達成できない。

したがって、被告器具の溝状部2は、本件考案②の「溝部」を充足しない。

(原告の反論)

(一) 被告らの主張(一)について

案内板及び溝部に水抜き用の孔以上の大きさの孔を設けている悪路脱出具では、タイヤの荷重がかかり始めると、この孔から地面側の雪が進入することになるが、このような雪は、その直後に、タイヤから落下してきた雪とともに、タイヤの荷重及び回転によって溝部に収容され、さらに、溝部に設けられた孔から地面側に排出されるから、タイヤのトレッドが係止突部と接する際に、係止突部の周辺に付着等した雪がグリップ力を減殺することはない。

このように、案内板及び溝部に水抜き用の孔以上の大きさの孔が設けられてあっても、タイヤと案内板との間に介在する雪の量を極力減少させて悪路からの脱出を図るという本件各考案の目的を達成できることに変わりはないから、本件各考案の案内板は、孔等が設けられているものでも、格子状、網目状、蜂の巣状等に構成されているものでもよく、また、本件各考案の溝部は、底部に孔等を設けているものでも、さらには、底部自体を有していないものでもよい。

本件考案①の実用新案登録請求の範囲第(5)項においても、「溝部は底部が打ち抜き形成されている」ことを特徴とする悪路脱出具が明記され、また、本件考案①明細書においても、本件考案①の実施例として、溝部が無底に形成された悪路脱出具が開示され、本件考案②明細書においても、本件考案②の実施例として、溝部の底部に孔があるものや、溝部が無底であるものが開示されている。

被告器具は、当初、案内面1A、1B及び溝状部2を通じて、路面側から雪が進入することがあっても、タイヤが案内面上を案内されるにしたがい、進入した雪は、トレッドから落ちた雪とともに、溝状部に収容され、さらには、被告器具が置かれた地面の状態等によっては、圧縮されながら路面に排出され、その結果、タイヤのトレッドと係止突部が噛み合って必要なグリップ力を得ることができる。被告器具は、そもそも、悪路脱出具としての機能を有するのであるから、右のようなグリップ力を得るため、タイヤと案内面との間に介在する雪の量を極力減少する構造であるはずであり、実際に被告器具はこのような横成、機能を有している。

このように、被告器具の溝状部2は、本件各考案の「溝部」を充足し、被告器具の案内体1も、本件各考案の「案内板」を充足する。

(二) 被告らの主張(二)について

本件考案②は、脱輪防止と、タイヤのスリップ防止という二つの顕著な作用効果を、溝部と係止突部との組み合わせによる簡単な構成によって同時に有効に達成し得るものであるから、右効果のうち脱輪防止効果を奏する構成が公知であるからといって、何らその考案性が失われるものではない。

したがって、本件考案②の構成が、被告らの主張のように、タイヤを溝部に向かって垂直方向に落下させるものに限定される理由はない。

本件考案②の実用新案登録請求の範囲においても、被告ら主張のような限定あるいはこれを示唆する記載は何ら存在しないばかりか、「少なくとも一つの」溝部を形成する旨が明記されているし、本件考案②明細書の実施例においても、「溝部12の数は、案内板11の短寸幅方向の長さにより決定される」旨明記されている。被告らの主張は明細書の記載に基づかない主張というほかない。

3  争点2について

(原告の主張)

(一) 被告三甲に対する補償金請求

前記第二の一3(二)(1)及び(2)のとおり、被告三甲は、本件各考案につき悪意となった平成三年二月五日から本件各考案の出願公告日の前日である平成五年四月一一日までの間、被告器具の製造及び販売により合計金五二二八万〇五八七円の売上金を取得したところ、本件各考案の実施料率は少なくとも五パーセントを下らないから、右製造販売についての補償金額は、実施料相当額に相当する少なくとも二六一万四〇二九円になる。

(二) 被告らに対する損害賠償請求

(1) 侵害者利益に基づく主張(実用新案法二九条二項に基づく主張)

アⅰ 前記第二の一3(三)(1)及び(2)のとおり、被告三甲は、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計七万〇三八五セットの被告器具を製造、販売し、その販売価格は、一セット当たり平均八三一円を下らない。

ⅱ 原告は、昭和六一年八月ころから、本件各考案の実施品を製造、販売していた(以下、原告の製造、販売する本件各考案の実施品を「原告器具」という。)ところ、原告は、一か月当たり一万五〇〇〇セット、三年間で合計五四万セットの原告器具の製造能力を有し、原告器具の製造のための余力を十分に有している。

よって、原告は、右ⅰの被告器具の製造販売数量の範囲内においては、新たな開発のための投資や従業員の雇用を要さず、そのままの状態で原告器具を製造、販売できたものである。

このような場合には、被告三甲が本件各実用新案権の侵害により受けた利益は、被告器具の販売価格総額から被告器具の変動経費総額のみを控除した額と考えるのが相当であり、被告器具の開発費用、人件費、一般管理費、製造管理費は控除の対象としないものとするのが相当である。

被告らが、控除すべきと主張する項目のうち、主原料代、顔料代、電気代、ロープ、段ボール費及び運賃を被告器具の販売価格から控除することは認めるが、その余の費用は控除すべきではない。

また、歩留まりは、被告器具の製造、販売に直接関係する経費とはいい難いので、主原料代、顔料代について歩留まりを考慮すべきではない。

主原料代については81.9円、顔料代については七円、電気代については22.9円、ロープについては五円の限度で控除することを認め、段ボール費、運賃については、被告主張の金額で控除することを認める。

以上により、被告器具の販売価格から控除されるべき被告器具の変動経費は、一セット当たり平均金322.2円を越えない。

ⅲ 以上によると、被告三甲が得た利益の額は、被告器具の販売価格総額である五八五一万五三九〇円から被告器具の変動経費総額二二六七万八〇四七円を控除した三五八三万七三四三円となり、原告は同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。

イⅰ 前記第二の一3(四)(1)及び(2)のとおり、被告ホーマックは、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計三万〇〇五一セットの被告器具を被告三甲から購入して販売し、その販売価格は、一セット当たり平均一七八四円を下らない。

ⅱ 本件において、変動経費のみを被告器具の販売価格から控除すべきとするのは右アのとおりである。

被告器具の購入原価である一セット当たり平均金一一九八円を右変動経費として控除することは認める。

しかしながら、その余の経費は、右販売価格から控除されるべきでない。

ⅲ 以上によると、被告ホーマックが得た利益の額は、被告器具の販売価格総額である五三六四万〇六二〇円から被告器具の変動経費総額三五九八万〇九〇〇円を控除した一七六五万九七二〇円となり、原告は同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。

ウ 平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に被告ホーマックが被告三甲から購入して販売した合計三万〇〇五一セットの被告器具については、被告らは、共同不法行為により連帯して責任を負う。

したがって、被告三甲の利益のうち右セット分に相当する一五三〇万〇八一六円については、被告ホーマックは、被告三甲と連帯して責任を負う。

また、被告ホーマックが得た利益一七六五万九七二〇円の全額について、被告三甲は、被告ホーマックと連帯して責任を負う。

(2) 逸失利益に基づく主張(実用新案法二九条一項に基づく主張)

ア 原告は、昭和六一年八月ころから、原告器具を製造、販売し、本件各考案の出願公告日である平成五年四月一二日当時には、原告器具の製造、販売により少なくとも一セット当たり金七九〇円の利益を得ていた。

イ 被告三甲は、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、七万〇三八五セットの被告器具を製造、販売したが、原告は一か月当たり一万五〇〇〇セットの製造能力を、本件各考案の通常実施権者である株式会社小原産業(以下「小原産業」という。)は一か月当たり二万セットの製造能力を有していたから、右七万〇三八五セットのうち三万五一九三セットについては原告が、三万五一九二セットについては小原産業が、それぞれ製造、販売できたはずであるとするのが相当である。

ウ 原告が被った損害の額は、原告利益一セット当たり七九〇円に平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に原告が製造販売できた原告器具の合計数量三万五一九三セットを乗じた額である二七八〇万二四七〇円と、小原産業のライセンス品の販売価格一四五〇円に平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に小原産業が製造販売できたライセンス品の合計数量三万五一九二セットを乗じ、さらに、実施料率である五パーセントを乗じた額である二五五万一四二〇円とを加えた金額である三〇三五万三八九〇円とするのが相当である。

被告ホーマックは、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計三万〇〇五一セットの被告器具を被告三甲から購入して販売した。したがって、右三〇三五万三八九〇円の損害のうち、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に被告ホーマックが被告三甲から購入して販売した右三万〇〇五一セット分の損害一二九五万九六四六円については、被告ホーマックは、被告三甲と連帯して責任を負う。

(三) 弁護士費用

原告は、本訴の提起を余儀なくされ、原告が原告代理人らに支払を約した弁護士費用相当の損害を被った。原告は、右損害のうち、被告三甲に対し、金一〇〇〇万円(内金四〇〇万円は被告ホーマックと連帯)、被告ホーマックに対し、被告三甲と連帯して、金四〇〇万円を支払うことを求める。

(被告らの主張)

(一) 被告三甲に対する補償金請求について

本件各考案の実施料率については争う。

(二) 被告らに対する損害賠償請求について

(1) 侵害者利益に基づく主張について

ア 原告が主張するようないわゆる限界利益説に立脚したとしても、左記の各費用は、変動経費として、被告三甲の販売利益から控除されるべきである。なお、左記各費用は、被告器具一個あたりの費用であり、被告器具は、二個を一セットとして販売されている。

ⅰ 原料代

a 主原料代 85.4円

b 顔料代 12.2円

c 材料管理費 三円

d 原料担当人件費 11.7円

ⅱ 成型機

a 電気代 40.8円

b 償却、修繕費、金利31.8円

ⅲ 仕上げ

a 人件費 31.6円

b 管理費 2.1円

ⅳ 附属品(ロープ) 一〇円

v 梱包費

a 段ボール費 三五円

b 人件費 三〇円

ⅵ 運賃 9.3円

ⅶ 金型代 四〇円

ⅷ 一般管理費 27.5円

ⅸ 販売費 二四円

被告器具一セット当たり、以上の経費の合計額を二倍した額である七八八円を経費として控除すべきであり、仮にそうでないとしても、右金額から一般管理費を控除した七三三円を経費として控除すべきである。

イ 被告ホーマックのように店舗を構えて最終ユーザー販売する業者につては、その販売費及び一般管理費を販売利益から控除するのは当然である。

特に、本件では、原告が、原告器具を自ら販売せずに、別会社であるアポロサービス株式会社を通じて販売しているから、仮に被告ホーマックの販売分だけアポロサービス株式会社の販売量が増加しても、その分に応じた同社の販売費、一般管理費充当額は原告の利益に帰属しないから、被告ホーマックの販売費及び一般管理費は、いわゆる限界利益説に立脚しても、変動経費に該当し、これを控除すべきである。

被告ホーマックの販売費及び一般管理費は、合わせて販売価格の約21.45パーセントである。

ウ 仮に被告器具の製造販売が本件各実用新案権を侵害するものとした場合、被告らが原告が主張するような共同不法行為関係にあることは認める。

(2) 逸失利益に基づく主張について

ア 原告が原告器具の製造、販売によって少なくとも一セット当たり金七九〇円の利益を得ていたことは争う。

イ 原告器具は、原告の系列のガソリンスタンドで販売されていたが、小原産業のライセンス品がホームセンターで販売され、その販売単価は原告器具を大きく下回っていた。

平成五年四月一二日ころには、小原産業の右販売もあって、悪路脱出具の販売の中心はホームセンターに移っており、このころ原告器具はほとんど販売されていなかった。原告器具がボームセンターで販売されるようになったのは、被告らが被告器具の販売を完了した平成八年暮れの時点後である。

また、原告の系列のガソリンスタンドが、被告器具等が販売されているホームセンターに近接しているともいえない。

したがって、被告器具がなければ、原告器具が販売されたはずであるとはいえない。

(三) 弁護士費用相当額の損害賠償請求については争う。

第四  当裁判所の判断

一  争点1について

1  被告器具の案内体1は、自動車等の車輪を案内する部材であり、その形状からすると、「板」ということができるから、本件各考案の「案内板」を充足する。被告器具の案内体1には、孔が存するが、有孔であるからといって、「板」に当たらないということはできない。

被告器具の溝状部2は、溝状になっているから、本件各考案の「溝部」を充足する。

2(一)  被告らは、本件各考案の作用効果を奏するためには路面から雪が進入しない構成であることが不可欠であるから、案内板は無孔のもの、溝部は水抜き孔以上の孔を有しないものに限るのであり、案内面及び溝状部がメッシュ状になっている被告器具は、本件各考案の「案内板」及び「溝部」を充足せず、本件各考案の作用効果を奏しない旨主張する。

(二)  しかしながら、前記第二の一1(一)及び2(一)のとおり、本件各考案の実用新案登録請求の範囲において、案内板及び溝部につき、右被告ら主張のような限定は何らされていないばかりか、本件考案①の実用新案登録請求の範囲の第(5)項において、溝部の底部が打ち抜き形成されているものが右考案の対象となることが明記され、また、本件考案①において、右考案の実施例として、溝部の底部が打ち抜かれて形成されている図面が開示され(第5図及び第6図)、このような構成の場合、「雪を溝部15から地面側に排出することができ、雪の収容量を増大させることができる結果、タイヤに付着した雪の量が相当にあっても、該雪を排除するに十分対応でき、雪道からの脱出効果をより向上できるという利点が付加できる。」(本件考案①の実用新案公報九欄4〜9行)と記載され(以上甲二)、本件考案②明細書においても、実施例の欄に、「前記溝部12の底面には、複数の孔を該溝部12の延出方向に沿って形成したり、あるいは溝部12の底部を打ち抜き形成してもよく、このように形成した場合には、雪や泥水を自然に排出でき、かつ、洗浄に関しての排出路となり得、また、底部を打抜き形成した場合には、タイヤに付着した雪の量が相当にあっても、これら雪を収容するのに十分対応できる」(本件考案②の実用新案公報七欄41行〜八欄4行)と記載されている(甲四)。

(三)  また、本件各考案は、溝部がタイヤに付着した雪等を収容あるいは地面側に排出するようにして、タイヤと案内板との間に介在される雪の量を極力減少させて悪路からの脱出効果を高めたものである(本件考案①の実用新案公報四欄38行〜42行、本件考案②の実用新案公報三欄36行ないし40行、甲二、四)ところ、被告器具は、案内面及び溝状部がメッシュ状になっていても、次のとおりこのような作用効果を有するものと認められる。

① 被告器具において、悪路から脱出する際にタイヤから係止突部付近に落下した雪は、タイヤの進行にしたがって、案内体1の孔を通じて地面側に排出されるものがあるが、排出されなかった雪は、タイヤによって係止突部に押し付けられ、押し付けられた雪は、溝状部2方向に押し出されるから、溝状部に排出されることになると考えられる。

被告器具においては、溝状部2は有底ではないが、雪が堅ければ溝状部に地面から進入する雪は少なく、雪が柔らかければ、雪が進入しても、収縮性があるから、溝状部2には、右のとおり係止突部から排出された雪を収容する能力があり、右雪は収容されるものと考えられる。

② 証拠(甲二五、二六、二九)によると、北海道工業大学笠原篤教授は、自動車のタイヤの雪を赤色で着色し、被告器具を使用して自動車を雪道から脱出させ、タイヤから落下した雪が被告器具の溝状部に収容されるかどうかの実験を行ったこと、実験結果によると、溝状部に赤色で着色した雪が存すること、以上の事実が認められる。右実験において、被告器具の溝状部内にある赤色で着色した雪が、タイヤから落下した雪が溝状部内に収容されたものか、路面から溝状部を通して進入した雪がその上を通過したタイヤによって着色されたものか、路面から溝状部を通して進入した雪に赤色の着色料が染みたものかは必ずしも判別し難い。しかし、右実験において溝状部には赤色で着色した雪がかなりの量存するのであり、しかもその色が濃いものが多いこと(甲二五写真15)、タイヤに雪が付着しない状態で実験した場合(甲二五写真6)と付着した状態で実験した場合(甲二五写真13)を比較すると、タイヤに雪が付着した状態で実験した場合には、溝状部に収容される雪の量は多くなっていることからすると、タイヤから落下した雪が溝状部内に収容されたものが存するものと認められる。

証拠(乙一七)によると、被告三甲は、自動車のタイヤの雪を赤色で着色して被告器具の上を走行させて、タイヤから落下した雪(赤色で着色した雪)が被告器具の溝状部に収容されるかどうかの実験を行ったこと、右実験では、路面の雪を青色に着色して、タイヤから落下した雪と路面の雪を区別することができるようにしたこと、実験結果によると溝状部にタイヤから落下した雪(赤色で着色した雪)が存すること、以上の事実が認められるところ、証拠(甲二九)によると、右実験のような通常走行の場合、雪道から脱出する場合に比べて、タイヤの回転トルクが小さく、係止突部によって削られる雪の量も少ないものと認められるから、雪道から脱出する場合には、右実験結果よりも多くのタイヤから落下した雪(赤色で着色した雪)が溝状部に収容されるものと推認することができる。

証拠(乙一四)によると、被告三甲は、自動車のタイヤの雪を赤色で着色し、被告器具を使用して雪道から脱出させ、タイヤから落下した雪が被告器具の溝状部に収容されるかどうかの実験を行ったこと、右実験では、路面の雪を黄色に着色して、タイヤから落下した雪と路面の雪を区別することができるようにしたこと、実験結果によると、溝状部にタイヤから落下した雪(赤色で着色した雪)が存すること、以上の事実が認められるところ、弁論の全趣旨によると、右実験で使用されたタイヤは、スノータイヤ、スタッドレスタイヤなどの冬用のタイヤではなく、通常のラジアルタイヤであると認められるから、右実験は、被告器具の通常の使用態様でされたとはいえないのであるが、それども溝状部にタイヤから落下した雪(赤色で着色した雪)が存することが認められる。

③ 右①、②で述べたところを総合すると、被告器具は、溝状部がタイヤに付着した雪を収容するものであり、タイヤと案内面との間に介在する雪の量を極力減少させて悪路からの脱出効果を高めたものということができる。

(四)  以上によると、本件各考案が、「案内板」及び「溝部」を、被告らの主張のように限定しているとは解されず、また、被告器具のような構造のものであっても、溝部がタイヤに付着した雪を収容し、タイヤと案内板との間に介在する雪の量を極力減少させて悪路からの脱出をはかるという本件各考案の作用効果を奏するものと認められるから、被告らの右主張は採用することができない。

3(一)被告らは、本件考案②の「溝部」は、一例で十分に幅が広く、タイヤを落ち込ませることができるものでなければならない旨主張する。

(二)  しかしながら、前記第二の一2(一)のとおり、本件考案②の実用新案登録請求の範囲において、溝部の数について、「少なくとも一つの溝部」と、一列のものに限定しない旨明記され、溝部の幅についても何ら限定がない。本件考案②において、溝部が二つある構成の図面が開示されており(第1図、第2図)、右明細書中に、「溝部12の数は、案内板11の短寸幅方向の長さにより決定されるもので、必要により、三列以上設ける構成であっても」「差し支えない」旨の記載もある(本件考案②の実用新案公報七欄32〜36行)。そして、このように多数の溝部がある場合には、それぞれの溝部の幅は必然的に狭いものにならざるを得ないと考えられる。

(三)  また、証拠(乙四、五)によると、自動車の車輪を初期に案内する進行方向に対して登り傾斜の第一の案内面と、これに続いて形成された下り傾斜の第二の案内面とを有する自動車の悪路脱出装置において、突起を右案内面に設け、案内面の長手方向と突起との角度が九〇度以下になるようにして、タイヤを案内面の中央方向に移動させ、脱輪を防止する装置が、本件考案②の出願当事知られていたことが認められる。

本件考案②は、タイヤを案内板の溝部の中央側に落ち込ませる方向に案内できる角度に係止突部を延出させて脱輪防止を図り、案内板に溝部を形成して該溝部がタイヤに付着した雪等を収容あるいは地面側に排出するようにし、タイヤと案内板との間に介在される雪の量を極力減少させ、これによりタイヤのスリップを防止して悪路からの脱出効果を高めたものである(本件考案②の実用新案公報三欄33〜40行、甲四)。このように、本件考案②は、脱輪防止とタイヤのスリップ防止という二つの効果を、溝部と係止突部との組み合わせによって達成するものであるから、右効果のうち脱輪防止効果を奏する構成が公知であるからといって、被告ら主張のように「溝部」を解釈しなければ考案性が失われるというものではない。なお、右の明細書の記載における「タイヤを案内板の溝部の中央側に落ち込ませる方向に案内できる」の「落ち込ませる」は、「移動させる」の意味であると解される。

(四)  さらに、本件考案②明細書には、「タイヤを案内板11の中央部側に落ち込ませる作用がより強く働き、案内板11からの脱輪をより確実に防止できる効果が付加できる」(本件考案②の実用新案公報七欄29〜32行)との記載があるが、この記載は、溝部が一列で係止突部を溝部側が低くなるように構成した実施例について、脱輪をより確実に防止できる効果を有する旨延べたものであって(以上甲四)、このような一実施例の記載から、本件考案②の「溝部」につき被告ら主張のように解することはできない。

(五)  したがって、被告らの右主張を採用することはできず、被告器具の溝状部2が、一列で十分に幅が広く、タイヤを落ち込ませることができるものでなくとも、本件考案②の「溝部」を充足する。

4 以上のとおり、被告器具は、本件各考案の「案内板」「溝部」の要件を充足していると認められ、また、被告器具が本件各考案のその余の構成要件を充足していることは当事者間に争いがない。

したがって、被告器具は、本件各考案の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属するものと認められる。

そうすると、被告らによる被告器具の製造販売は本件各実用新案権を侵害するものであり、被告らには侵害行為について過失があったものと推定されるから、被告らには、右侵害によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

二  争点2について

本件各実用新案侵害による損害額等について検討する。

1  被告三甲に対する補償金請求について

(一) 被告三甲が遅くとも平成三年二月五日までには本件各考案が出願公開されたこと及びその内容を知っていたこと、被告三甲が、右同日から本件各考案の出願公告日の前日である平成五年四月一一日までの間、被告器具の製造販売により、合計五二二八万〇五八七円の売上金を取得したことは当事者間に争いがない。

(二) 証拠(甲三五)によると、原告は、小原産業に対し、平成三年三月以来、実施料率を五パーセントとして、本件各考案を含む工業所有権を実施許諾していることが認められ、この事実及び弁論の全趣旨によると、本件各考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、販売額の五パーセントと認めるのが相当である。

そうすると、原告が被告三甲から本件各考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する金額は、右売上金の五パーセントに当たる二六一万円四〇二九円となる。

(三) したがって、原告は被告三甲に対して二六一万四〇二九円の補償金請求権を有する。

2  被告らに対する損害賠償請求(逸失利益に基づく主張)について

(一) 証拠(甲三七ないし三九)によると、(1)原告は、昭和六二年ころから原告器具を製造、販売していること、(2)原告は、原告器具の原材料を下請け業者である株式会社オオヤマに提供して、右下請け業者に原告器具を製造させ、これを自動車用品の取扱代理店に販売していること、(3)株式会社オオヤマが有する成型機は、原告器具を一か月当たり一万五〇〇〇セット生産する能力を有していること、(4)原告は、昭和六三年には、年間一万五〇〇〇セットの原告器具を販売したこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によると、原告は、被告三甲が平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に製造販売した被告器具七万〇三八五セットについて、製造販売する能力を有していたものと認められる。

(二) 原告は、被告三甲が平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に製造販売した被告器具七万〇三八五セットのうち三万五一九三セットについては原告が、三万五一九ニセットについては小原産業が、それぞれ製造販売できたはずであると主張する。

ところで、証拠(甲三五、三八、乙二七)と弁論の全趣旨によると、原告から本件各考案について通常実施権の設定を受けた小原産業は、平成三年から、本件各考案の実施品である製品を製造、販売していること、原告器具は、主に原告系列のガソリンスタンドにおいて販売されており、小売価格は、一セット三五〇〇円であったこと、小原産業が製造販売していた製品(以下「小原産業器具」という。)は、主にホームセンター等の量販店で販売されており、小売価格は二〇〇〇円以上であったが、原告器具より価格が低かったこと、被告器具は、主にホームセンター等の量販店で販売されており、小原産業器具よりも更に価格が低かったこと、以上の事実が認められる。

以上の事実からすると、原告器具と小原産業器具の製造販売割合がおおむね一対一ということはあり得ず、原告器具の数量を多めに見ても、原告一(二万三四六二セット)に対して小原産業二(四万六九二三セット)の割合であると認められ、この限度では、原告が原告器具を販売することができなかった事実が存するものと認められる。

(三) 証拠(甲三七)によると、原告は、原告器具の製造販売により、一セット当たり七九〇円の利益を得ることができたものと認められる。また、右(二)認定の事実に弁論の全趣旨を総合すると、小原産業による小原産業器具の販売価格は一セット当たり一四五〇円であったことが認められる。

(四) 以上の事実に基づき原告が被った損害の額を算出すると、原告器具については、その一セット当たりの利益額七九〇円に右二万三四六二セットを乗じた一八五三万四九八〇円となり、小原産業器具については、一セット当たりの販売価格一四五〇円に右四万六九二三セットと右1(二)認定の実施料率五パーセントを乗じた三四〇万一九一七円となり、その合計は、二一九三万六八九七円となる。

被告ホーマックは、右二一九三万六八九七円の損害のうち、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に被告ホーマックが被告三甲から購入した三万〇〇五一セット分の損害九三六万五九九六円について、被告三甲と連帯して責任を負う。

3  被告らに対する損害賠償請求(侵害者利益に基づく主張)について

(一) 被告三甲に対する請求について

右2(二)で述べたとおり、小原産業器具が存することを考慮すると、被告らが販売した被告器具について、原告がその全てを販売することができたとは認められず、原告器具と小原産業器具の販売割合は、原告器具の数量を多めに見ても、原告一に対して小原産業二の割合であると認められるから、侵害者利益に基づく損害額の推定は、その数量の三分の二については、小原産業器具が存することによって覆されるというべきである。

そうすると、原告の主張する被告三甲及び被告ホーマックの各利益の合計額は五三四九万七〇六三円であるところ、その全額が認められたとしても、その三分の二について推定が覆されるから、結局、右額の三分の一に相当する一七八三万二三五四円の範囲で損害額が認められることになる。

しかるに、右2において、被告三甲に対する逸失利益に基づく請求について、右額を上回る損害額を認定したから、被告三甲に対する侵害者利益に基づく請求については、その余の点につき判断する必要がない。

(二) 被告ホーマックに対する請求について

(1) 被告ホーマックが被告器具を販売したことによる損害について

ア 被告ホーマックが平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計三万〇〇五一セットの被告器具を販売したこと、被告ホーマックによる被告器具の販売価格が一セット当たり平均一七八四円を下らないことは当事者間に争いがない。そうすると、被告器具の販売価格総額は、五三六一万〇九八四円となる。

イ 被告ホーマックの被告器具一セットの購入原価が一一九八円で、これが販売価格から控除すべき経費に当たることは、当事者間に争いがなく、右経費の総額は、三六〇〇万一〇九八円となる。

ウ 弁論の全趣旨によると、被告ホーマックは、いわゆるホームセンター等の量販店を経営し、悪路脱出具等を一般消費者に販売していることが認められる。

一方、原告は、前記認定のとおり、その製造した原告器具を自動車用品の取扱代理店に販売しているにすぎず、一般消費者に対し原告器具を販売しているわけではない。

そうすると、被告ホーマックが、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に販売した被告器具(個数三万〇〇五一セット、平均販売価格一七八四円)については、原告は、新たな投資を要さずに、右販売価格で右の個数販売できたとは認められないから、被告ホーマックの販売費及び一般管理費を経費として控除することが相当である。

被告ホーマックの第四六期(平成八年二月二一日から平成九年二月二〇日まで)及び第四七期(平成九年二月二一日から平成一〇年二月二〇日まで)の販売費及び一般管理費の平均は、販売価格の21.45パーセントであると認められる(乙二六)から、被告器具一セット当たり、その平均販売価格一七八四円の21.45パーセントである382.67円を、販売費及び一般管理費として、右販売価格から控除すべきであり、右経費の総額は、一一四九万九六一六円となる。

エ 右アの販売価格総額五三六一万〇九八四円から右イ及びウの経費総額四七五〇万〇七一四円を控除した六一一万〇二七〇円が侵害者利益に基づく原告の損害額が推定されるが、右(一)で述べたとおり、右推定は、その数量の三分の二については、小原産業器具が存することによって覆されるというべきであるから、被告ホーマックの被告器具の販売による原告器具の損害額は、右額の三分の一である二〇三万六七五六円になる。

(2) 被告三甲が被告器具三万〇〇五一セットを被告ホーマックに製造販売したことによる損害について

右(一)で述べたとおり、侵害者利益に基づく損害額の推定は、その数量の三分の二については、小原産業器具が存することによって覆されるというべきであることろ、原告の主張する被告三甲が被告ホーマックに被告器具を製造販売したことによる利益額は一五三〇万〇八一六円であるから、その全額が認められたとしても、その三分の二について推定が覆され、結局、右額の三分の一に相当する五一〇万〇二七二円の範囲で損害が認められることになる。

しかるに、右2において、被告ホーマックに対する逸失利益に基づく請求について、右額と右(1)で認定した損害額の合計額である七一三万七〇二八円を上回る損害額を認定したから、被告ホーマックに対する侵害者利益に基づく請求については、その余の点につき判断する必要がない。

4  弁護士費用について

原告が、本件訴訟の提起、維持のために弁護士である原告訴訟代理人らを選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、審理の経過、訴訟の結果及びその他諸般の事情を考慮すると、被告三甲については三〇〇万円(うち一〇〇万円は被告ホーマックと連帯)、被告ホーマックについては一〇〇万円をもって、本件侵害行為と相当因果関係のある損害(弁護士費用)として、賠償する義務があるものと認められる。

5  以上の次第で、被告三甲は、右1、2及び4の合計額である二七五五万〇九二六円(内一〇三六万五九九六円は被告ホーマックと連帯)及びこれに対する平成八年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金(内一〇三六万五九九六円に対する部分は被告ホーマックと連帯)を支払う義務があり、被告ホーマックは、被告三甲と連帯して、右2及び4の合計額である一〇三六万五九九六円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由がある。

(裁判長裁判官森義之 裁判官榎戸道也 裁判官岡口基一)

別紙物件目録<省略>

別紙物件説明書<省略>

別紙第一〜一〇図<省略>

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