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東京地方裁判所 平成8年(ワ)590号 判決 1997年9月17日

原告 朝銀福岡信用組合

右代表者代表理事 C

右訴訟代理人弁護士 小室貴司

被告 東京ベイ信用金庫

右代表者代表理事 D

右訴訟代理人弁護士 土田吉彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、四六三三万四九八六円及びこれに対する平成七年一一月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、先順位の共同根抵当権者である被告がその権利の一部を放棄し、また債権譲渡をするに際して不当な取扱いをしたことによって、後順位の根抵当権者である原告が本来受けられるべき配当を受けられなくなるという損害(又は損失)を被ったとして、原告が被告に対して選択的に不法行為による損害賠償又は不当利得の返還を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実を含む。)

(証拠により認められる事実については、認定に供した主な証拠を略記して摘示する。また、書証を摘示する場合、成立に争いがないか、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められるときは、その旨の記載を省略する。以下本判決において同様。)

1  当事者

(一) 原告及び被告は、与信及び受信を業とする金融機関である。

(二) 城東信用金庫は、平成六年五月三〇日、被告(旧名称・市川東葛信用金庫)と合併し、解散した。その後、被告は名称を「東京ベイ信用金庫」に変更した。(なお、合併・解散以前の城東信用金庫についても、以下特にこれを区別せず「被告」という。)

2  原告及び被告の担保権

(一) 被告は、昭和五〇年当時、別紙物件目録一ないし三<省略>の各不動産(以下、同目録一<省略>の各不動産を「鎌倉不動産」、同目録二<省略>の各不動産を「西大井不動産」、同目録三<省略>の各不動産を「西五反田不動産」といい、これらをまとめて「本件各不動産」という。)について、極度額一億円の共同根抵当権(以下「被告共同根抵当権」という。なお、各不動産についての根抵当権を個別に指す場合は、単に「被告根抵当権」という。)を有していた。<証拠省略>

(二) 原告は、昭和五七年六月一六日、鎌倉不動産について、被告に次ぐ順位の根抵当権の設定を受け、そのころ、その旨の登記を経由した。

3  被告の競売申立て

被告は、昭和五九年四月、本件各不動産について、競売の申立てを行った。

4  競売申立て後の被告の行為

(一) 被告は、昭和六〇年七月二日、西五反田不動産についての競売申立てを取り下げ、右不動産についての被告根抵当権の設定登記を抹消した。

(二) 被告は、昭和六二年八月二八日、西大井不動産についての競売実行による配当として、五三六六万五〇一四円及び手続費用一二九万一八八六円を受領した。

(三)(1) 被告は、昭和六二年一〇月二八日、鎌倉不動産についての競売申立てを取り下げた。

(2) 被告は、昭和六二年一〇月三一日、被告共同根抵当権の被担保債権五〇〇〇万円が存在するとして、三生興産株式会社(以下「三生興産」という。)に対して右債権を譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)した。

(3) 右債権は、その後、国際観光株式会社へ、さらに株式会社サンセイアクティブ(以下「サンセイ」という。)へと転々譲渡され、これに伴い、被告共同根抵当権も移転した。

5  鎌倉不動産の競売手続の結果

(一) 原告は、昭和六三年一月、鎌倉不動産について、競売の申立てを行った。

(二) 横浜地方裁判所は、平成三年八月一五日、鎌倉不動産の競売手続の配当期日において、サンセイへの配当金を一億円とする内容の配当表を作成した。

原告は、これについて配当異議の申出をし、配当異議訴訟(平成七年一一月九日上告審判決言渡し)の結果、サンセイへの配当金は一億円から四六三三万四九八六円に減少し、原告への配当金は五三六六万五〇一四円増加した。(甲四から六)

二  争点

1  被告共同根抵当権の一部放棄は、原告に対する不法行為となるか。

2  三生興産に対する本件債権譲渡は、原告に対する不法行為となるか。

3  被告共同根抵当権の一部放棄により、原告の被告に対する不当利得返還請求権が成立するか。

三  原告の主張

1  争点1(共同根抵当権の一部放棄の不法行為該当性)について

(一) 被告の不法行為

先順位の共同根抵当権者である被告は、後順位の根抵当権者である原告に対して担保保存義務を負担していたにもかかわらず、西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄することによって、原告がこれに対して有していた代位の権利を侵害した。後順位根抵当権者の存在は登記によって知り得たから、被告には少なくとも過失がある。

(二) 原告の損害

被告が放棄した右根抵当権は五〇〇〇万円の価値を有していたから、被告の右不法行為により代位の権利を侵害された原告は、右同額の損害を被った。

(三) よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として(右(二)の範囲内である)四六三三万四九八六円及びこれに対する不法行為の後である平成七年一一月一〇日(配当異議訴訟の上告審判決言渡しの日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  争点2(本件債権譲渡の不法行為該当性)について

(一) 被告の不法行為

被告は、譲受人が被告共同根抵当権を利用して権利を行使し、その結果、後順位根抵当権者である原告の有する正当な権利を侵害することになることを知り又は知り得べくして、本件債権譲渡を行ったものである。

(二) 原告の損害

被告による本件債権譲渡とこれに伴う被告共同根抵当権移転の結果、サンセイが四六三三万四九八六円を受領し、原告は右同額を受領できなくなる損害を被った。

(三) よって、原告は、1(三)と同旨の支払を求める。

3  争点3(共同根抵当権の一部放棄と不当利得の成否)について

(一) 被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄したことにより、原告は損失を被り、被告は利得を得たから、原告は、1(三)と同旨の支払を求める。

(二) 後記「被告の主張」2(二)は争う。

原告は、被告に対する不当利得返還請求権を放棄したことはない。

(三) 同2(三)は争う。

時効の起算点は、配当異議訴訟が完結した平成七年一一月九日、さもなければ鎌倉不動産についての配当期日である平成三年八月一五日、さもなければ本件債権譲渡契約が行われた昭和六二年一〇月三一日である。

四  被告の主張

1  争点1(共同根抵当権の一部放棄の不法行為該当性)及び2(本件債権譲渡の不法行為該当性)について

原告の主張はいずれも否認又は争う。

被告共同根抵当権の一部放棄及び本件債権譲渡には何の違法性もなく、これによって原告が損害を受けることもあり得ない。

2  争点3(共同根抵当権の一部放棄と不当利得の成否)について

(一) 原告の主張(一)は否認ないし争う。

(二) 不当利得返還請求権の放棄(抗弁)

原告は、西五反田不動産に対しても後順位の根抵当権を有しており、被告による西五反田不動産についての被告根抵当権の放棄に伴い、その順位が繰り上がるはずであった。ところが、被告が昭和六〇年七月二日に西五反田不動産についての被告根抵当権の抹消登記をした後に、原告も右同日に西五反田不動産に対する後順位の根抵当権の抹消登記をした。これにより、原告は、被告による抹消登記を認容し、不当利得返還請求権を放棄したものということができる。

(三) 消滅時効(抗弁)

仮に、原告が不当利得返還請求権を有するとしても、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権の抹消登記をし、かつ競売申立てを取り下げた昭和六〇年七月二日から起算して一〇年が経過したから、本件訴えの提起前に一〇年の消滅時効が完成している。

被告は、平成九年四月二日の本件口頭弁論期日において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

第三当裁判所の判断

一  判断の前提とすべき基本的な事実の経過

争いのない事実等及び証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

1  被告共同根抵当権の設定

(一) 被告は、本件各不動産について、昭和五〇年四月三日付けで、根抵当権者を被告、極度額を一億円、債務者を新和興産株式会社(以下「新和興産」という。)とする内容の先順位の根抵当権(被告共同根抵当権)の設定を受け、同年四月一六日から同年五月一六日にかけて、右根抵当権設定登記を取得した。<証拠省略>

(二) なお、被告共同根抵当権の被担保債権の債務者は当初新和興産であったところ、被告は、昭和五六年三月三〇日付けで、右の債務者を有限会社大起に変更する内容の合意を関係当事者間で行い、同年四月一四日及び同月二一日に右変更の登記手続を了した。<証拠省略>

2  原告共同根抵当権の設定

(一) 原告は、本件各不動産について、昭和五七年六月一六日付けで、根抵当権者を原告、極度額を二億円、債務者を小倉中央霊園販売株式会社とする内容の次順位の共同根抵当権(以下「原告共同根抵当権」という。なお、各不動産についての根抵当権を個別に指す場合は、単に「原告根抵当権」という。)の設定を受け、右同日及び同月二一日に、右根抵当権設定登記を取得した。<証拠省略>

(二) なお、原告共同根抵当権の設定契約締結当時の本件各不動産の所有名義人は、鎌倉不動産が有限会社丸三屋、西大井不動産が国際観光開発株式会社、西五反田不動産がEであったが、本件各不動産について、右契約締結と同じ昭和五七年六月一六日付けで、大幸開発株式会社(以下「大幸開発」という。)への売買が行われ、同年七月二二日及び同月二七日に、同社への所有権移転登記がなされた。これにより、本件各不動産はいずれも大幸開発の所有となった。<証拠省略>

3  被告による本件各不動産の競売申立て(被告共同根抵当権の確定)

(一)(1) 被告は、昭和五九年四月四日、西大井不動産及び西五反田不動産について、東京地方裁判所に対して不動産競売の申立てをした。同裁判所は、右同日、競売開始決定をし、右決定に基づいて、同月七日、西大井不動産及び西五反田不動産について、差押の登記がなされた。<証拠省略>

(2) また、被告は、昭和五九年四月一九日、鎌倉不動産について、横浜地方裁判所に対して不動産競売の申立てをした。同裁判所は、同月二〇日、競売開始決定をし、右決定に基づいて、同月二三日、鎌倉不動産について、差押の登記がなされた。<証拠省略>

(二) なお、西五反田不動産については、昭和五九年一一月七日付けで売買されたことを原因として、同月一二日、F(以下「F」という。)に対する所有権移転登記がなされた。<証拠省略>

4  被告共同根抵当権の処分等

(一) 西五反田不動産関係

(1) 被告は、昭和六〇年七月一日付けで西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄し、同月二日右根抵当権抹消の登記をした。<証拠省略>

(2) また、原告は、昭和六〇年六月二八日付けで西五反田不動産についての原告根抵当権の設定契約を解約し、同年七月二日右根抵当権抹消の登記をした。<証拠省略>

(二) 西大井不動産関係

被告は、昭和六二年八月二八日、西大井不動産の競売の実行による配当として、五三六六万五〇一四円を受領した。右配当金は、西大井不動産の競落代金から手続費用を除いた全額であり、次順位の担保権者である原告に対する配当は〇円であった。<証拠省略>

(三) 鎌倉不動産関係

(1) 被告は、昭和六二年一〇月二八日、鎌倉不動産についての不動産競売の申立てを取り下げ、同月三〇日差押登記抹消の登記がなされた。<証拠省略>

(2) また、被告は、昭和六二年一〇月三一日付けで、三生興産との間で、被告共同根抵当権の被担保債権である五〇〇〇万円の貸付金債権を鎌倉不動産についての被告根抵当権と共に譲渡する旨の契約(本件債権譲渡)を締結し、昭和六三年一月二一日、右根抵当権移転の登記をした。<証拠省略>

二  争点1(共同根抵当権の一部放棄の不法行為該当性)について

1  原告は、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄したことをもって、原告に対する担保保存義務を怠り、原告の有していた代位の権利を侵害したものであると主張する。

そこで、以下、被告による右根抵当権の放棄が原告の権利を侵害する不法行為となりうるかについて検討する。

2(一)  先順位の共同抵当権の目的たる甲・乙両不動産が債務者又は同一の物上保証人の所有に属し、甲不動産に次順位の抵当権が設定されている場合において、先順位抵当権者Aが甲不動産の代価だけから配当を受けるときは、次順位抵当権者Bは、先順位の共同抵当権者Aが民法三九二条一項の規定に従い乙不動産から弁済を受けることができた金額に満つるまで、Aに代位して乙不動産についての抵当権を行使することができる(同条二項後段)。これは、先順位の共同抵当権の負担が甲・乙不動産の価額に準じて配分され甲不動産の担保価値に余剰が生ずることをBにおいて期待して抵当権の設定を受けるのが通常である(以下このような期待を「次順位者の期待」という。)から、Aが甲不動産の代価につき債権の全部(共同根抵当権の場合は極度額まで)の弁済を受けるためにBの有する次順位者の期待が害されるときは、右の期待を保護しようとする趣旨のものと考えられる。

(二)  そうすると、AがBの代位の対象となっている乙不動産についての抵当権を放棄したときは、Bの有する次順位者の期待を保護する意味で、Aは、Bが乙不動産上の右抵当権に代位し得たはずの限度で、甲不動産につき、Bに優先することができなくなると解するべきである。したがって、それにもかかわらず、右の場合において、Aが甲不動産からBの有することになるはずの右の優先額についてまで配当を受けたときは、Aは、これを不当利得として、Bに返還しなければならないと解するべきである(大判昭和一一年七月一四日民集一五巻一七号一四〇九頁、最一小判昭和四四年七月三日民集二三巻八号一二九七頁、最二小判平成三年三月二二日民集四五巻三号三二二頁、最二小判平成四年一一月六日民集四六巻八号二六二五頁参照)。

したがって、Aによる共同抵当権の一部の放棄自体は、未だBの有する次順位者の期待を侵害するものではなく、直ちにBに対する不法行為となるものではないというべきである。

3  これを本件についてみると、本件各不動産は、原告共同根抵当権の設定前はそれぞれの所有者が異なっていたが、右設定と前後して大幸開発がその全てを所有するに至ったから、本件各不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合と同視することができる(なお、正確にいえば、西五反田不動産の所有名義人はその後大幸開発からFに変わっているが、Fへの所有権移転登記は原告根抵当権設定登記よりも後なので、このことによって原告が有していた次順位者の期待が害されるものではないというべきである。)。

したがって、右2で述べたとおり、被告による西五反田不動産についての被告根抵当権の放棄は、未だ原告に対する不法行為に該当するものではない。

三  争点3(共同根抵当権の一部放棄と不当利得の成否)について

1  原告は、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄したことにより、原告に不当利得返還請求権が発生すると主張する。

2  前記二2のとおり、そこに記載したような事案において、Aによる乙不動産についての抵当権の放棄があった場合には、甲不動産に対して一定限度でBの優先権が認められるのであり、それにもかかわらずAが甲不動産の代価につき債権の全部の配当を受けるときは、右優先権を侵害する限度でAに不当利得が生じると解される。そして、前記二2のとおり、右のように解されるのは、そのようにしなければ、Bが乙不動産について三九二条二項後段の規定に従った代位をすることができなくなり、Bの次順位者の期待が害されることになるからである。

そうすると、仮に、右事案において、Bが乙不動産についてAの抵当権に次ぐ順位の抵当権を有しており、Bの甲不動産についての次順位抵当権と右の抵当権とが共同抵当の関係にあって、Aによる乙不動産についての抵当権の放棄によって乙不動産についてのBの抵当権の順位が繰り上がる場合には、Bは乙不動産についてAの抵当権に代位した場合以上の利益を得ることになるので、もはや甲不動産について前記のような優先権を認めてBの次順位者の期待を保護すべき必要性はないというべきである。この点は、端的に、先順位共同抵当権者による抵当権の一部放棄により次順位共同抵当権者は利益を受けるだけで不利益を受けることはないと考える方が分かり易いかもしれない。

したがって、いずれにしろ、次順位抵当権者Bが乙不動産についてAに次ぐ順位の抵当権(ただし、甲不動産についての抵当権と共同抵当の関係にあるもの)を有しているといった特段の事情がある場合には、Bについては前記二2で述べたような優先権又は不当利得返還請求権は認められない。

3  これを本件についてみると、原告は、被告が西五反田不動産についての先順位の被告根抵当権を放棄する以前に、西五反田不動産についての次順位の原告根抵当権を有しており、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄すれば、それによって原告根抵当権の順位が先順位に繰り上がるという関係にあったものである。

したがって、このような地位にあった原告については、不当利得返還請求権は認められない。

4(一)  もっとも、前記一4(一)認定の各事実によれば、原告は、西五反田不動産について、被告による被告根抵当権放棄の三日前に自己の次順位の原告根抵当権の設定契約を解約し、根抵当権者でなくなっていたという事情がある。

(二)  しかしながら、この点に関し、<証拠省略>によれば、次のような事実を認めることができる。

(1) 西五反田不動産についての被告の被告根抵当権の放棄及び原告の原告根抵当権設定契約の解約(実質的には原告根抵当権の放棄)は、いずれも、西五反田不動産を任意処分して被担保債務の弁済に充てようとする債務者側との協議の中で決定された。

(2) 登記簿上は原告による原告根抵当権の解約が昭和六〇年六月二八日、被告による被告根抵当権の放棄が同年七月一日となっているが、実際には、原告は、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄する意向であることを確認したうえで、同年七月二日に自己の根抵当権を放棄することを決定し、その登記手続をしたものである。

(3) 被告は、西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄するに際して債務者側から二五〇〇万円の一部返済を受けたが、原告も、西五反田不動産についての原告根抵当権を放棄するに際して債務者側から右同額の一部返済を受けた。

(三)  そうすると、原告は、被告の放棄によって西五反田不動産についての先順位の根抵当権を保有できる地位にあったにもかかわらず、被告が西五反田不動産についての被告根抵当権を放棄しようとしていることを知りながら、西五反田不動産の任意処分によって自己の債権の一部弁済を受けることを企図して、結局のところは自らの計算と判断によって自己の根抵当権を放棄したものといわざるを得ない(なお、原告は、西五反田不動産についての原告根抵当権の放棄は被告からの要請によるものであったと主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はなく、また、仮にそうだとしても、原告がそれに応じるべき義務はないのであるから、原告自らの計算と判断によって原告根抵当権を放棄したことに変わりはない。)。

このような事情の下にあっては、原告が何らかの損失を被ることがあったとしても、それは、自らが西五反田不動産についての原告根抵当権を放棄したことの直接の結果に他ならないというべきであるから、原告の次順位者の期待を改めて保護するにはあたらない。そして、不当利得返還請求に関し、原告からは他に格別の主張もない。

したがって、原告被告間に不当利得の問題は生じないというべきである。

四  争点2(本件債権譲渡の不法行為該当性)について

1  原告は、本件債権譲渡により、後順位根抵当権者である原告の有する正当な権利が侵害されたと主張する。

しかしながら、被告共同根抵当権のうち、本件債権譲渡時になお残存していたのは鎌倉不動産についてのものだけであり、本件債権譲渡は、その債権五〇〇〇万円と共に右担保権を譲受人に移転するというだけのことであって、債権者(担保権者)が交代する以外には何らの権利内容の変更も伴わないものである。したがって、その時点で仮に被告根抵当権が消滅していれば譲受人は鎌倉不動産の競売手続から優先弁済を受けることができないし、譲渡の対象となった債権が実際には存在していなければ譲受人がその債権を行使することはできないのであるから、鎌倉不動産の後順位根抵当権者としての原告が本件債権譲渡によって何らかの不利益を受けることは通常考えられない。

2  原告は、また、右三4(二)(3)のとおり西五反田不動産についての被告根抵当権の放棄に際し債務者側から二五〇〇万円の弁済を受け、一4(二)のとおり西大井不動産についての競売手続で約五三〇〇万円の配当金を受領した被告が、なお五〇〇〇万円の債権があるとして極度額一億円の鎌倉不動産についての被告根抵当権と共にこれを譲渡した点を問題とするようでもある。

しかしながら、この点が理由のないことは、既に別件において判断されているとおりである(甲四から六)。そして、本件債権譲渡の問題に関し、原告からは他に格別の主張もない。

五  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 庄司芳男 杉浦正典)

<以下省略>

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