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東京地方裁判所 平成8年(ワ)24945号 判決 1997年7月25日

原告 株式会社ワイケイケイエーピー東京

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 鍛冶良道

同 鍛冶良明

被告 株式会社アイ・ライフ

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 茂木洋

被告 株式会社ツネミ

右代表者代表取締役 C

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告と被告らとの間において、別紙目録記載の債権が原告に帰属することを確認する。

二  被告株式会社ツネミは、原告に対し、金二四四万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成八年一二月二二日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  右第二項につき仮執行宣言。

第二事案の概要

本件は、別紙目録記載の訴外D(以下「D」という。)の被告株式会社ツネミ(以下「被告ツネミ」という。)に対する金銭債権(以下「本件債権」という。)の譲渡を受けた原告が、右債権譲渡に優先して本件債権の譲渡を受けたと主張する被告株式会社アイ・ライフ(以下「被告アイ」という。)及び被告ツネミに対し、本件債権が原告に帰属することの確認を求め、被告ツネミに対し、本件債権の履行(及び商事法定利率による遅延損害金の支払)を求めている事案である。

本件の主たる争点は、被告アイに対する右債権譲渡の存否ないし効力と、原告に対する右債権譲渡との間の優劣である。

(争点に係る原告の主張)

一  原告は、建材の組立加工、販売及び施工等を業とする会社で、昭和六二年ころからDと取引をし、継続的に建材の売買及び工事請負等の取引をしていたが、平成八年ころからDの経営が悪化し、原告に対する支払が滞るようになった。当時、原告はDに対し総額六〇〇〇万円以上の債権を有しており、この債権の一部に充当するため、同年二月二日、Dから本件債権の譲渡を受け、同月五日被告ツネミに対しDからの右債権譲渡の通知が到達した。(甲一)

二  次の被告アイ主張の本件担保契約は、被告ツネミのみならず複数の第三債務者に対する債権につき、その債権の内容を特定しないで包括的に譲渡したもので無効であり、本件担保契約に基づいてされた本件債権の譲渡も無効である。なお、本件担保契約の契約書(乙三)によれば、五社が明示されており、特定されているかのようであるが、被告アイは、次の予め預った債権譲渡通知書を利用して右五社以外の「株式会社三設」に対しても債権譲渡の通知をしているものである(甲三)。したがって、実際には第三債務者不特定のものであった。そして、被告アイは、その主張に係る五九八万円の債権を遥かに上回る債権譲渡の複数の通知を、各通知間に一切の順序立てをしないまましており、このように、自己の債権額を上回る債権を取り立て、そこから随意に充当することが可能な債権譲渡は「過大な狙い撃ち」にほかならず、無効である。

三  本件担保契約に際し、被告アイはDから予め第三債務者の住所氏名、譲渡債権額、被告アイの債権額及び発送年月日を空白とし、D代表者印を押印した数通の債権譲渡通知書を預っており(甲二ないし四)、次の被告アイ主張の本件通知は被告アイが右を用いてしたものである。そして、本件通知の内容は、「種類 売掛債権、金額 譲受人に対して負担する債務五九八万円に満つるまで、本日まで及び以後発生する売掛債権」と記載されているのみで、債権の特定性を欠いており、無効であり、日付けが早くとも原告の右債権譲渡の通知に劣後するものである。

(争点に係る被告アイの主張)

一  被告アイはDに対し、平成七年一二月一三日金五〇〇万円を利息及び損害金年三七・七四パーセント、支払方法平成八年一月から同年一〇月まで毎月末日限り五九万九〇〇〇円(ただし、最終回は五八万九九七三円)とする約定で貸し付けた(以下、この貸金を「本件貸金」という。)。

そして、Dと被告ツネミとの間では建材の売買等の取引が継続的にされており、右貸付日に、原告はDとの間で、本件貸金の担保として、Dが被告アイに対して有する右取引に関する売掛債権を譲渡する旨の債権譲渡契約(以下「本件担保契約」という。)を締結した。当時、右売掛債権の金額は五一二万三〇七七円であった。

二  その後、Dは本件貸金の返済を全くしないまま、平成八年一月一八日銀行取引停止処分を受けたので、本件担保契約に基づき、同月一九日Dから被告ツネミに対し本件債権の譲渡通知(以下「本件通知」という。)がされ、同月二二日に到達した。本件貸金の元利金が五九八万円であった関係上、本件通知においては、譲渡する債権額を右金額に満つるまでとされたものである。

三  本件担保契約が一種の集合債権の譲渡担保契約であるとしても、そのような契約も有効であり、右経緯によってされた本件担保契約及び本件通知に基づく被告アイに対する債権譲渡が無効とされる理由がなく、本件通知が原告に対する債権譲渡の通知よりも早く被告ツネミに到達している以上、被告アイに対する債権譲渡が優先するから、原告の請求は失当である。

(争点に係る被告ツネミの主張)

被告ツネミは本件債権の帰属を争っているわけではなく、ただ分からないだけである。

第三争点についての当裁判所の判断

一  <証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すると、

1  被告アイがDに対し本件貸金を実行したこと、当時、Dの経営状態が悪く、被告アイから高利の融資を受けざるを得ない状況にあったこと、<証拠省略>

2  本件貸金に際して、被告アイとDとの間に、本件貸金の担保とする目的で、本件担保契約が締結されたこと、本件担保契約の趣旨及び内容は、取引約定書(乙七)第六条の期限の利益喪失条項に該当した場合は、将来発生する債権を含めて債権譲渡することを予め承諾し、右期限の利益喪失時の被告アイのDに対する債権額を譲渡金額として、次の五社に対し、遅滞なく債権譲渡の通知をすることにDは異議がないというもので、右通知をするため、被告アイはDから予め第三債務者の住所氏名、譲渡債権額、被告アイの債権額及び発送年月日を空白とし、D代表者印を押印した数通の債権譲渡通知書を預ったこと(甲二ないし四)、また、譲渡する債権は売掛債権で、譲渡する債権の債務者(第三債務者)は、被告ツネミ、訴外株式会社明豊、訴外株式会社アイテック、訴外株式会社桜和建設及び訴外株式会社海山建設の五社であったこと、(乙三)

3  Dの第八期(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)決算報告書(乙四)によれば、決算期に、被告ツネミに対し、五一二万三〇七七円の売掛金があるとされていること、

4  その後、Dは本件貸金の返済を全くしないまま、平成八年一月八日銀行取引停止処分を受け、被告アイとDとの間の取引約定書(乙七)第六条により本件貸金につき当然に期限の利益を失ったので、本件担保契約に基づき、同月一九日Dから(ただし、右3のとおり予め被告アイがDから預っていた前記債権譲渡通知書を利用して被告アイが執行したものである。)被告ツネミに対し本件通知がされ、同月二二日に到達したこと、本件貸金の元利金が五九八万円であった関係上、譲渡する債権額を本件担保契約に基づき右金額に満つるまでとして譲渡され、その旨通知されたものであること、

5  本件債権は、別紙目録記載のとおり、平成七年一二月に売り渡された建具等金属製品一式の代金二四四万円の売掛金債権であるが、本件通知のあった当時Dが被告ツネミに対し他の売掛金債権を有していたことを認めるべき主張立証は全くないこと、また、右4と同様の方法で被告アイの執行によってDから被告ツネミ以外の第三債務者に対し債権譲渡の通知がされ、その中には、右2の契約書(乙三)に記載されていない者に対する通知すらあるものの、右の方法によってDに代行して被告アイが執行した債権譲渡の通知及びこれに係る債権譲渡のうち本件債権以外にどれだけの債権が実在したのかについての主張立証が全くなく、右によって被告アイが本件貸金につき幾らの債権を回収することができたのかについては全く不明であること、(原告は、前記決算書(乙四)等に依拠して、被告アイが受けた債権譲渡は二四〇〇万円を上回ると推論するが、右決算書のみによって被告アイが譲受した現実の債権の名目額を推論することは相当でなく、また、右譲受債権の回収可能性については全く不明というほかない。)

以上の事情が認められる。

二  以上の事実関係を前提として判断する。

1  まず、本件担保契約における担保とされた譲渡債権の特定性について見るに、本件担保契約の文言自体からすれば、第三債務者とされる五社間の順序立てがなく、しかも各第三債務者中にDに対し本件貸金ないし本件通知において債権譲渡額とされた五九八万円を上回る売掛金債務を負うものがある場合の順序立てもないから、現実に、右第三債務者に対するどの債権が譲渡されたのか特定できないことが生ずるときには、右に係る債権譲渡が無効とされることはあり得る。しかし、本件の場合においては、右のような事情によって譲渡された債権が不特定であることは何ら主張立証されておらず、本件担保契約に基づいてされた本件通知に係る債権譲渡中に既に発生している特定の債権というべき本件債権が含まれていることは本件の当事者及び関係当事者が容易に判別し得るものである。したがって、本件通知に係る債権譲渡が不特定というべき事情は認められないところ、その前提とされる本件担保契約に右のような譲渡債権の不特定によって債権譲渡が無効とされる要素があるからといって、それのみで直ちに現実にされた本件通知に係る債権譲渡が無効であるとすることはできないものというべきである。

2  右と関連して、原告は本件担保契約が「過大な狙い撃ち」をもたらすので無効である旨主張する。確かに、前記認定事実からして、本件担保契約にそのような危険があり、現実に被告アイがしたその後の措置もそのような効果を狙ったものと疑われ、やや不健全というほかないが、右一の5記載のとおり、本件担保契約について、実在する債権について被告アイが得た債権譲渡は本件債権のみであり、これを否定すべき証拠は全くないものである。そして、Dは、本件担保契約締結当時その経営状態が悪く、それゆえ明らかに高利の本件貸金を受ける必要があり、そのためには本件担保契約を締結するほかなかったものであり、一方、被告アイとしては、本件担保契約によって現実にどれほどの債権回収が可能となるのか、その担保価値について疑問があったため、いわば網を大きくした本件担保契約を締結することによって本件貸金を実行したものである(弁論の全趣旨)。そして、現実には、証拠上、本件債権のみが譲渡されたものである。

そうであれば、本件担保契約は一面過大な狙い撃ちを企図したものともいえるが、実際にはどれほどの担保価値があるのか不明の債権について、他に担保提供をすることができない債務者(D)がそれを利用して債権者(被告アイ)から融資を受ける手段としたにすぎないものともいえる。そして、Dは本件貸金につき全く返済しないまま、本件貸金から約一か月後に銀行取引停止処分を受けたものであり、契約自由の原則からしてそのような契約も原則として有効であって、当然に公序良俗に反するものではなく、本件担保契約が過大な狙い撃ちであることからその契約自体が無効といえるかどうかは、当該契約締結当時の契約当事者の事情及びその後に現実に生じた債権譲渡の結果を事後的に総合して客観的に判断すべき事項というべきである。本件においては、右によって本件担保契約を無効とすべき事情は全く認められないというほかない。

3  したがって、本件担保契約は有効であり、これに基づいてされた本件通知も有効であり、本件通知に係る債権譲渡中に本件債権が含まれていることも明らかというべきである(前記のとおり、不特定と認めるべき事情について具体的な主張立証がない。)から、右債権譲渡は、原告が受けたDからの本件債権の譲渡についての被告ツネミに対する通知よりも本件通知のほうが早いことから、原告に対する債権譲渡に優先することになる。

4  よって、争点に係る原告の主張は採用することができない。

三  以上により、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤剛)

<以下省略>

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