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東京地方裁判所 平成8年(ワ)23034号 判決 1998年10月30日

原告

アシェット フィリパキ プレス ソシエテアノニム

右代表者代表取締役

ベルナール マンフロア

右訴訟代理人弁護士

関根秀太

藤井康広

惣津晶子

後藤康淑

右訴訟復代理人弁護士

小野顕

被告

丸喜株式会社

右代表者代表取締役

河原啓介

被告

マルチウ産業株式会社

右代表者代表取締役

小川喜清

右両名訴訟代理人弁護士

小池恒明

主文

一  被告らは、運動靴及びその包装箱に別紙第一標章目録記載の標章を付し、又は、これを付した運動靴を譲渡し、若しくは引き渡してはならない。

二  被告マルチウ産業株式会社は、運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ、二本ストッパー付きカジュアルシューズ及びサンダルぐつに別紙第二標章目録記載の標章を付し、又は、これを付した運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ、二本ストッパー付きカジュアルシューズ及びサンダルぐつを譲渡し、若しくは引き渡してはならない。

三  被告マルチウ産業株式会社は、運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ及び二本ストッパー付きカジュアルシューズに別紙第三標章目録記載の標章を付し、又はこれを付した運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ及び二本ストッパー付きカジュアルシューズを譲渡し、若しくは引き渡してはならない。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文と同じ。

第二  事案の概要

一  被告マルチウ産業株式会社(以下「被告マルチウ」という。)が別紙第一ないし第三標章目録記載の標章(以下、それぞれ「被告標章一」、「被告標章二」、「被告標章三」といい、これらを合わせて「被告標章」という。)を、被告丸喜株式会社(以下「被告丸喜」という。)が被告標章一を、運動靴等に付して販売する等した。

原告は、被告らに対し、①主位的に、被告らの被告標章に係る行為は原告の後記商標権を侵害するものであると主張して、商標法三七条及び三六条に基いて、②二次的に、被告マルチウの被告標章二及び三に係る行為は不正競争防止法二条一項二号の定める不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項に基いて、③三次的に、被告らの被告標章に係る行為は同法二条一項一号の定める不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項に基いて、右譲渡等の差止を求めた。

二  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)

1  原告の商標権

原告は左記の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。

登録番号 第二一九三九四一号

出願日  昭和五五年一二月二六日

公告日  平成一年四月二五日

登録日  平成一年一二月二五日

商品区分 第二二類

指定商品 短ぐつ、長ぐつ、編上げぐつ、雨ぐつ、防寒ぐつ、運動ぐつ、作業ぐつ、木綿製くつ、メリヤス製くつ、サンダルぐつ、幼児ぐつ、婦人ぐつ、オーバーシューズ、地下たび、釣り用ぐつ、乗用車ぐつ、極地用防寒ぐつ、地下たび底、くつ中敷き、くつのかかと、半張り底、内底、げた、ぞうり類、かさ

登録商標 別紙第二商標目録記載のとおり

2  被告らの行為

被告マルチウは、平成四年から、運動靴及びその包装箱に被告標章一を付し、これを被告丸喜及びその他の小売店へ販売している。また、平成八年ころから運動靴及びサンダルぐつに、平成九年ころから一本ストッパー付きカジュアルシューズ及び二本ストッパー付きカジュアルシューズに被告標章二を付し、平成八年ころから運動靴のタグに、平成九年ころから一本ストッパー付きカジュアルシューズ及び二本ストッパー付きカジュアルシューズの各タグに被告標章三を付し、これを小売店へ販売している(各被告標章の使用開始時期及びサンダルぐつに関し、乙三、二二、三〇、弁論の全趣旨。なお、枝番号は省略する。)。

被告丸喜は、被告マルチウより購入した被告標章一の付された運動靴を多数の小売店に販売している。

運動靴、一本ストッパー付きカジュアルシューズ、二本ストッパー付きカジュアルシューズ及びサンダルぐつは、いずれも本件商標権の指定商品の範囲に含まれる。

3  被告マルチウの有する商標権

被告マルチウは左記の商標権(以下「被告商標権」といい、その登録商標を「被告登録商標」という。)を有している(乙三一)。

登録番号 第一八七四四八三号

出願日  昭和五五年一二月二五日

公告日   昭和五八年二月一五日

登録日   昭和六一年六月二七日

更新登録日 平成八年一〇月三〇日

商品区分  第二二類

指定商品  はき物、かさ、つえ、これらの部品及び附属品

登録商標  別紙第三商標目録記載のとおり

三  争点

1  商標権に基づく請求について

(一) 被告標章は、本件登録商標に類似するか。

(1) 原告の主張

(ア) 本件登録商標は、欧文字の「ELLE」を横書きし、「LL」の下方に、右「ELLE」よりも小さめの片仮名の「エル」を横書きしたものである。本件登録商標の欧文字部分は、①その文字が縦長であること、②各欧文字のセリフ、すなわち欧文字「E」を構成する三本の横線の右端部分の縦方向に拡大されたひげ及び欧文字「L」を構成する横線の右端部分の縦方向に拡大されたひげがあること、③欧文字四字の各文字の縦線は、横線に比して太いことにおいて、際だった特徴がある。また、本件登録商標の欧文字部分は、原告が世界各国において、様々な商品に使用し、「エル」の称呼をもって知られる字体と同一である。

本件登録商標からは、「エル」の称呼を生じる。

(イ) 被告標章は、いずれも「ELLE」及び「MARINE」の綴りを大文字又は小文字を交えて表示されるものである。被告標章のうち、「ELLE」は、本件登録商標の欧文字部分「ELLE」と同じ綴りであり、原告商標が著名であることから、被告標章においては「ELLE」の部分が顕著に目に映る。これに対し、「MARINE」が「海の」「海上の」という意味の単語であることはよく知られているので、被告標章が履物について用いられると、「MARINE」は商品の使用場所を示唆しているものと認識され、自他商品の識別機能を有するものとは理解されない。したがって、被告標章は、「ELLE」の部分が要部をなすものと認められ、この部分からは、「エル」の称呼が生ずる。

よって、被告標章は、本件登録商標と称呼が同一であり、本件登録商標と類似する。

(2) 被告らの反論

本件登録商標の欧文字部分の書体は、バスカビル・オールド・フェイスとほぼ等しく、また、写研のE18―24の書体と限りなく近似したものである。

本件登録商標は、「エル」の二音からなり、そのように称呼されているものであるのに対し、被告標章は、「エレマリーン」の五音からなり、そのように称呼されているものであり、それぞれ二音と五音からなる点において相違するのみならず、共通音は語頭音の「エ」のみであり、それ以外の音は全く共通しない点において相違する。また、本件登録商標と被告標章とは外観も異なる。観念については、本件登録商標は「彼女」であるのに対し、被告標章は、実質的に造語に近い用法であって、観念を生じない。したがって、被告標章は本件登録商標と類似しない。

(二) 被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たるか否か。

(1) 被告らの主張

被告マルチウが被告標章を使用する態様は、同被告の有する被告登録商標の使用と解される。すなわち、被告登録商標と被告標章とは、全く同じではないが、社会通念上、同一のものと評価できるものである。本件商標権は、被告商標権の出願日よりも後の出願に係る商標権であり、原告が、被告らに対して、後願である本件商標権に基いて、被告標章の使用の差止めを求めることは許されない。また、被告丸喜の使用態様も、同様の理由により、適法である。

(2) 原告の反論

被告マルチウが被告標章を使用する態様は、被告登録商標の使用ということはできない。すなわち、被告登録商標は同一の大きさからなるブロック体の欧文字及び片仮名からなるものであるのに対し、被告標章は、字体も極めて異なるものであり、文字相互の大きさも異なり、被告登録商標と類似ではあるが、同一ではない。

ところで、商標法上、商標権者が指定商品について独占的使用権を有するのは登録商標に限られ、類似商標はその対象から除外されていることに照らすならば、原告が、被告らに対し、被告登録商標と同一とはいえない被告標章の使用の差止めを求めることは許される。

2  不正競争防止法に基づく請求について

(一) 原告商標は、著名性ないし周知性を取得したか。

(1) 原告の主張

(ア) 原告は、昭和二〇年(一九四五年)、フランスで、原告が発行する女性向けファッション雑誌(以下「原告雑誌」という。)の題号として別紙第一商標目録記載の商標(以下「原告商標」という。)の使用を開始した。原告雑誌は、被服、身回品、化粧品、履物、家具、食品等ファッション性のある商品に関する記事を掲載する女性向けファッション週刊誌であり、フランスにおいては第二次世界大戦前から発行されており、現在は合弁事業として活動している各企業により、各国において発行されている。

日本においては、平凡出版株式会社(以下「平凡出版」という。)が、原告の許諾の下に、昭和四五年三月、雑誌「an.an(アンアン)」を日本語版原告雑誌と位置づけて創刊し、以来昭和五七年に至るまで「アンアン」には毎号フランス語版原告雑誌の記事が多数掲載されるなど「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には必ず特徴ある原告商標と同じ字体をもって「ELLE JAPON」の商標を付してきた。また、平凡出版は「アンアン」誌のみにとどまらず、その発行に係る雑誌「クロワッサン」等他の出版物にも、原告雑誌の記事を多数原告商標を付して掲載したが、昭和五七年四月に至り雑誌「ELLE」を発刊し、現在では、株式会社タイム アシェット ジャパンが同雑誌の編集発行を承継している。

(イ) 原告は、昭和三九年以降、帝人株式会社(以下「帝人」という。)に対し、原告商標の独占的使用を許諾するとともに「ELLE」ファッションの商品化活動を推進してきた。帝人は、自ら「ELLE」ファッションに係る被服を製造・販売する一方、その独占的使用権に基づきイトキン株式会社他五社に原告商標の再使用を許諾した。帝人とこれら各再使用権者は、共同して「ELLE」ファッションの宣伝・販売・普及に努め、その製造・販売に係る商品に原告商標を使用した。その後、昭和五九年七月に至り、原告は帝人との関係を解約し、自ら東洋ファッション開発株式会社(以下「東洋ファッション」という。)を設立し、帝人の再使用権者を引き続き使用権者として原告商標の普及に努めた。また、その後新たに、被服、アクセサリー、バッグ、はき物、生活用品等他種類の分野の商品につき、多数の企業に原告商標の再使用を許諾している。

日本において、原告商標が靴類に使用されたのは、昭和六三年より前からである。しかし、靴類は被服、バッグ類と並びファッション性の高い商品であり、ブランドビジネスの多くは、同一の商標をもって、これらの商品を販売するのが普通である。したがって、ファッション性の高い商品のいずれかに使用されている商標を目にする顧客は、同一の商標が同一の企業又は関連会社により、被服、バッグ類、靴類に使用されていると考えるのが普通である。

したがって、日本において、原告商標は、靴類について遅くとも「アンアン」が創刊された昭和四五年三月までに周知性を、また、雑誌「ELLE」が創刊された昭和五七年四月までに著名性を取得していたというべきである。

(2) 被告らの反論

原告商標が、靴類について、遅くとも昭和四五年三月までに周知性を、また、昭和五七年四月までに著名性を取得していたことは否認する。

原告が、昭和二〇年フランスで、雑誌のタイトルとして「ELLE」を使用し始めたことは認めるが、その使用はファッションの紹介誌であり、原告雑誌の日本版が創刊されたのは昭和五七年であったから、被告が被告商標を出願した後であった。

原告が帝人と原告商標について、使用許諾契約を締結し、さらに帝人が再使用の許諾をしたことは不知。原告がブランドビジネスに靴類が加わったと主張する昭和六三年には、被告商標は既に登録済みであった。

(二) 被告標章は、原告商標に類似するか。

(1) 原告の主張

前記1(一)(1)のとおり、被告標章のうち「ELLE」の部分は著名な原告商標と同じ綴りであり、一方「MARINE」は商品の使用場所を示唆しているものと認識される。原告商標は、単独で使用するほかに「JUNIOR」あるいは「PETITE」等の商品ライン又は品質を示唆する文字を付加して使用することがある。したがって、被告標章を目にする顧客は、「MARINE」が商品ライン又は品質を示唆するものであり、「ELLE」部分が本来の出所表示部分と認識するものと認められる。

よって、被告標章は、原告商標と類似する。

(2) 被告らの反論

前記1(一)(2)のとおり、被告標章は原告商標と類似しない。

(三) 被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たるか否か。

(1) 被告らの主張

前記1(二)(1)のとおり、被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たり、被告商標権の正当な権利行使であると解される。前記(一)(2)のとおり、原告がブランドビジネスに靴類が加わったと主張する昭和六三年には、被告商標は既に登録済みであった。

(2) 原告の反論

前記1(二)(2)のとおり、被告標章の使用は、被告登録商標の使用に当たらず、被告商標権の行使ではない。

のみならず、平成五年法律第四七号による改正前の不正競争防止法(以下「旧不正競争防止法」という。)六条には「第一条第一項第一号及第二号‥ノ規定ハ‥商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為ニハ之ヲ適用セズ」との規定があったが、権利の濫用等の理由から、右条項に基づく主張を認めない判例が時折公表されるようになり、また、右条項の存在を疑問とする傾向が強くなってきたことから、現行法においては、右条項に相当する条項は残されなかった。この法改正の経緯に照らすと、たとえ被告標章の使用が被告商標権の行使であったとしても、不正競争行為を理由とする差止請求は認められるものと解される。

第三  争点に対する判断

一  商標権に基づく請求について

1  争点1(一)(本件登録商標と被告標章との類似性)について

(一) 本件登録商標は、欧文字の「ELLE」を横書きし、「LL」の下方に、欧文字よりも小さめの片仮名の「エル」を横書きしたものである。右「ELLE」は、縦長の欧文字で構成されており、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、また、各欧文字の縦線は、横線に比べて太いという特徴がある。本件登録商標からは、「エル」の称呼を生じる。

(二) 他方、被告標章一は、欧文字の「ELLE Marine」を横書きしたものであり、「ELLE」の部分は縦長の欧文字であり、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、各欧文字の縦線は、横線に比べて太い。また、「Marine」のうち小文字の「arine」部分は、他の文字に比べ小さい文字で構成されている。

このように、被告標章一は「ELLE」の語が先頭にあり、「Marine」の語との間に空白があること、「ELLE」を構成する各文字は全体が大文字であり、その字体が本件登録商標の欧文字部分と共通の特徴を有していること、「ELLE Marine」は一つの熟語としてまとまったものではなく、「ELLE」と「Marine」とが別々の単語として認識されるものであること、更に、原告商標は著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、一般消費者は被告標章一のうち「ELLE」の部分こそが、商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章一の要部は「ELLE」の部分であると認められる。

そこで、本件登録商標と被告標章一の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章一の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章一は、本件登録商標と類似する。

(三) 被告標章二は、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きしたものであり、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比べ大きい文字で構成されている。

被告標章二についても、「ELLE」の語が先頭にあり、「MARINE」の語との間に空白があること、「ELLE MARINE」は、「ELLE」と「MARINE」とが別々の単語として認識されるものであること、原告商標が著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、(二)と同様、被告標章二の要部も「ELLE」の部分であると認められる。

そこで、本件登録商標と被告標章二の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章二の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似する。したがって、被告標章二は、本件登録商標と類似する。

(四) 被告標章三は、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約二倍の大きさとし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下に、それぞれ一本ずつ横方向に直線を引き、上下二本の直線と左右二つの「E」の文字により、他の文字を囲むように配置したものである。

被告標章三についても、「ELLE」の語が先頭にあり、「MARINE」の語との間に空白があること、「ELLE MARINE」は、「ELLE」と「MARINE」とが別々の単語として認識されるものであること、原告商標が著名であり、「ELLE」は原告商標と同じ綴りであることを考慮すると、(二)と同様、被告標章三の要部も「ELLE」の部分であると認められる。

そこで、本件登録商標と被告標章三の要部とを対比するに、その称呼は「エル」であって同一であり、本件登録商標の欧文字部分と被告標章三の要部の外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似する。したがって、被告標章三は、本件登録商標と類似する。

2  争点1(二)(被告登録商標の使用)について

(一) 前記のとおり、被告マルチウは、被告商標権を有している。商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであるから、被告マルチウが被告標章を使用する態様が、自己の被告登録商標の使用と認められるような場合は、そのような使用態様に対し、原告の有する本件商標権の禁止的効力が及ばないことはいうまでもない。したがって、原告は、本件商標権に基づき、そのような被告標章の使用行為については差し止めることはできない。

そこで、被告標章の使用態様が、本件商標権の禁止的効力を排除し得るような、被告登録商標の使用と認められるか否かについて検討するに、一般に、商標権者が登録商標を使用する場合には、必ずしも、登録商標と全く同じ商標を用いるとは限らず、商品の種類・性質に応じて、また消費者の趣向や流行等に合わせて、創意工夫して使用することが行われていること等の諸事情を総合的に考慮するならば、被告マルチウが使用する標章が、被告登録商標と全く同一でなくとも、取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば、原告の本件商標権に基づく差止請求は許されないものというべきである。

そこで、右の観点から、被告標章と被告登録商標との異同について判断する。

(二) 被告標章一と被告登録商標とを比較する。

被告登録商標は、欧文字の「ELLE MARINE」を、いわゆるブロック体で横書きし、その中央下方に小さな文字で片仮名の「エレマリーン」を横書きしたものである。被告登録商標からは、「エレマリーン」の称呼を生じる。

他方、被告標章一は、前記1(二)のとおり、欧文字の「ELLE Marine」を横書きしたものであり、「ELLE」の部分は縦長の欧文字であり、各欧文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、各欧文字の縦線は、横線に比べて太い。また、「Marine」のうち小文字の「arine」部分は、他の文字に比べ小さい文字で構成されている。

被告標章一と被告登録商標と比較すると、確かに、両者は、欧文字一〇字を共通とし、「ELLE」「MARINE」の二語を共通としており、その観念、称呼において同一ということができる。しかし、前者は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がないこと、前者が肉太の字体であるのに対し、後者欧文字部分がブロック体であり、双方の字体が多少異なること、前者は「Marine」のうち「arine」の部分が小文字で、しかも、他の文字に比べ小さい文字で構成されていること等、その外観において相違点が存する。したがって、被告標章一は被告登録商標と社会通念上同一の商標ということはできない。

よって、被告らが被告標章一を使用することは、被告登録商標の使用態様であるとは認められず、原告は、被告らに対し、本件商標権に基づき、被告標章一についてその使用の差止めを求めることができる。

(三) 被告標章二と被告登録商標とを比較する。

被告登録商標は前記(二)のとおりであり、他方、被告標章二は、前記1(三)のとおり、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きしたものであり、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比較し、大きい文字で構成されている。

被告標章二と被告登録商標とを比較すると、確かに、両者は、欧文字一〇字を共通とし、「ELLE」「MARINE」の二語を共通としており、その観念、称呼において同一ということができる。しかし、被告標章二は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がないこと、双方の字体が異なること、被告標章二は、「ELLE」及び「MARINE」の各頭文字である「E」及び「M」が、その他の文字に比較して、拡大されていること等、その外観において相違点が存する。したがって、被告標章二は、被告登録商標と社会通念上同一と認識される商標ということはできない。

よって、被告マルチウが被告標章二を使用することは、被告登録商標の使用態様であるとは認められず、原告は、被告マルチウに対し、本件商標権に基づき、被告標章二についてその使用の差止めを求めることができる。

(四) 被告標章三と被告登録商標とを比較する。

被告登録商標は、前記(二)のとおりであり、他方、被告標章三は、前記1(四)のとおり、欧文字の「ELLE MARINE」を横書きし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約二倍の大きさの文字とし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下に、それぞれ一本ずつ横方向に直線を引き、上下二本の直線と左右二つの「E」の文字とで、他の文字を囲むように配置したものである。

被告標章三と被告登録商標とを比較すると、被告標章三は欧文字の下方に片仮名の「エレマリーン」の文字がないこと、双方の字体が異なっていること、前者は、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を他の文字に比べ約二倍の大きさの文字とし、先頭の「E」の文字と最後の「E」の文字を除いた「LLE MARIN」の部分の上下にそれぞれ一本ずつ横に直線を引き、前後の各「E」の文字と上下の線によって全体を囲むように配置して、デザイン面で独特の工夫を凝らしていること等、その外観において相違点が存する。したがって、被告標章三は被告登録商標と社会通念上同一の商標であるとはいえない。

よって、被告マルチウが被告標章三を使用することは、被告登録商標の使用態様であるとは認められず、原告は、被告マルチウに対し、本件商標権に基づき、被告標章三についてその使用の差止めを求めることができる。

二  結論

以上のとおり、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)

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