大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)22906号 判決 1997年7月29日

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

一  被告株式会社谷脇建築設計事務所は、原告に対し、別紙鉱泉地目録(二)記載の土地内に存する温泉孔及び揚湯施設の改修工事をし、同土地からの温泉を別紙授権者目録記載の各区分所有者らに供給せよ。

二  被告らは、原告に対し、各自、金五億円及びこれに対する平成八年一二月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告株式会社谷脇建築設計事務所は、原告に対し、金一億円及び平成八年一二月一一日から第一項の改修工事が完了するまで一か月金四二五〇万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告株式会社谷脇建築設計事務所(以下「被告谷脇建築設計」という。)が分譲した熱海市所在の温泉付きコンドミニアムの各区分所有建物について、その利用が集中する時期に温泉の湯量が低下したり温泉の供給が停止するなど安定的な供給がなされていないとして、右区分所有者全員で構成する管理組合が、<1>各区分所有者との問に温泉供給契約を締結している右被告谷脇建築設計に対し、右温泉供給契約に基づいて、故障中の温泉施設の改修及び温泉の供給を求めるとともに、<2>同被告及び右コンドミニアムの販売代理に当たった被告住友不動産販売株式会社(以下「被告住友不動産」という。)に対し、当初から安定的な温泉の供給が不可能であったにもかかわらず、これを秘してコンドミニアムを分譲し、各区分所有者と温泉供給契約を締結した不法行為に基づく損害賠償を求めている事案である。

これに対し、被告らはいずれも、右請求を争うものであるが、それに先立つ本案前の主張として、原告は本件の各訴えについて当事者適格を有していない旨主張し、本件訴えの却下を求めている。

一  争いのない事実等(証拠等により認定した事実は末尾に証拠等を掲げた。)

1  原告

原告は、別紙物件目録記載の二七九戸の大規模コンドミニアム「熱海パサニアクラブ」(以下「本件建物」といい、その区分所有の対象となる部分を「本件区分住戸」という。)の区分所有者全員によって構成される管理組合である。

2  本件温泉供給契約の締結

別紙授権者目録記載の各区分所有者は、それぞれ、被告谷脇建築設計又はその後の転得者から本件区分住戸についての売買契約(以下「本件不動産売買契約」という。)を締結する際、被告谷脇建築設計の代理人である被告住友不動産との間で、左記の内容を含む温泉供給契約(以下「本件温泉供給契約」という。)を締結した(契約内容につき甲二の三)。

第一条 被告谷脇建築設計は本件建物の区分所有者に対し、本件区分住戸で使用する温泉を供給する。

第二条 本件建物の区分所有者は、被告谷脇建築設計に対し、温泉保証金として一五〇万円を預託する(一項)。

第六条 被告谷脇建築設計は、温泉源及び温泉源から本件区分住戸メーターボックス内の計量器までの温泉施設(以下「給湯施設」という。)を所有し、当該施設の維持管理等は被告谷脇建築設計の責任と負担において行う(一項)。

本件建物の区分所有者は、本件区分住戸メーターボックス内の計量器に接続する配管から先の温泉施設を所有し、当該施設の維持管理等は右所有者の責任と負担において行う(二項)。

第一〇条 本件建物の区分所有者は、温泉につき、基本使用量月間三〇立方メートル以下に対する基本使用料金として月額一万一二三〇円を支払い、月間使用量が三〇立方メートルを超える場合には超過料金を支払う。

第一二条 本件建物の区分所有者は、休止栓の場合以外は、温泉使用量の有無にかかわらず基本使用料金を支払わなければならない(三項)。

3  温泉の状況

(一) 源泉

別紙鉱泉地目録(一)記載の源泉(以下「第二源泉」という。)

温泉台帳番号 一五三

掘削許可 昭和九年六月三〇日

竣工 昭和一〇年五月二〇日

深さ 五〇三・五メートル

湧出(揚湯)量及び温度

平成二年二月一日調査時 五七リットル毎分、摂氏七六・八度

平成三年二月一日調査時 六〇リットル毎分、摂氏七六・六度

別紙鉱泉地目録(二)記載の源泉(以下「第一源泉」という。)

温泉台帳番号 一五五

掘削許可 昭和九年六月三〇日

竣工 昭和一一年一二月二〇日

深さ 五〇〇メートル

湧出 (揚湯) 量及び温度

平成二年二月一日調査時 六六・六リットル毎分、摂氏七三度

平成三年二月一日調査時 六三リットル毎分、摂氏七二・四度

なお、平成五年五月以降、第一源泉は、その側壁が崩れて使用できなくなった(被告住友不動産との関係では弁論の全趣旨)。

(二) 温泉貯湯槽

右二本の源泉から汲み上げられた温泉は、いったん容量七二立方メートルのタンクに貯えられた後、そこから、本件建物の屋上に設置された高層階用の容量一六立方メートルのタンク、本件建物の一六階に設置された低層階用の容量八立方メートルのタンク及びクアハウス用の容量四立方メートルのタンクにそれぞれポンプで送られ、そこから各戸に給湯される(被告住友不動産との関係では弁論の全趣旨)。

二  原告の本訴請求の概要

1  温泉供給上の欠陥

本件各区分住戸の引渡しは平成元年一〇月末ころから行われたが、同年暮から平成二年正月の休みにかけて、温泉の出ない住戸が現れ、その後、ゴールデンウィークや盆休みなど、リゾート用として本件建物の利用者が集中する時期に、温泉が全く出ない、温泉の温度が低い、温泉が濁る、温泉に油が浮く、温泉に砂が混じる等のトラブルが発生し、七〇世帯程度が宿泊した程度でも、同様の事態が生じた。特に平成六年一月一三日から同月二一日まで、同年三月二三日から同年四月一日、同年八月四日から同月一〇日までの間には、本件建物全体の温泉の供給が停止する事態にまで至った。

2  温泉供給量の原始的不足

前記のとおり、本件温泉供給契約は、一戸当たり一か月三〇立方メートルまでを基本使用量として基本使用料金が定められるという内容となっているから、被告谷脇建築設計は、各区分所有者に対し、一か月三〇立方メートルの基本量の温泉を供給する義務を負っているというべきである。

一方、第一源泉及び第二源泉による温泉湧出量について、本件建物の右引渡時にもっとも近い平成二年二月一日当時の温泉湧出量を基準に計算すると、一日の湧出量は一七七・九八四立方メートルとなり、一か月あたりの湧出量は五三三九・五二立方メートルとなる。

(57リットル+66.6リットル)×60分×24時間÷1000=177.98立方メートル/日

しかるに、本件建物二七九戸のうち販売用住戸である二七〇戸(二七九戸のうち九戸は、被告谷脇建築設計の従業員寮で温泉は供給されていない。)に対し、本件温泉供給契約の基本量である一か月当たり三〇立方メートルの温泉を供給するには、八一〇〇立方メートルの湧出量が必要であり、さらに、販売用住戸とは別個の、本件建物に接続するクアハウスにも同じ源泉から温泉が供給されるので、それ以上の湧出量が必要となる。

したがって、前記源泉二本では、本件建物の住戸に一か月あたり三〇立方メートルの温泉を供給することは原始的に不可能であった。

3  住戸としての瑕疵

本件各区分住戸に設置されている浴槽用の水栓では、温泉と水のみが供給される配管となっているため、温泉供給がないと事実上入浴できないことになる。したがって、右に述べた温泉供給量の不足は、本件区分住戸で入浴ができないことに直結するという点で本件区分住戸の入浴設備には瑕疵があり、住居としての機能が損なわれている。また、前記1のような問題から、定住者は不安な生活を余儀なくされ、また、リゾートとしての利用者は利用を控えるような状況も生じている。

4  したがって、被告谷脇建築設計は、各区分所有者に対し、二本の源泉から温泉供給をすべき義務、すなわち、平成五年五月から故障により休止している一号源泉孔及びその揚湯施設、給湯施設を改修して、一号源泉からの温泉を各区分所有者に供給する義務がある。

5  また、被告らは、共同して、各区分所有者ら本件区分住戸の購買予定者に対し、各戸への温泉供給をセールスポイントとし、かつ、温泉供給量に心配がない旨説明したものであり、右購買予定者は右説明を信頼して、被告谷脇建築設計の代理人であった被告住友不動産との間で、本件不動産売買契約の締結と同時に本件温泉供給契約を締結した。各区分所有者は、前記のような温泉の状況が起こり得ることの説明を受けていれば、本件区分住戸を購入するはずはなかった。被告らは、いずれも、前記温泉の状況を知りながら、各区分所有者に対し、本件不動産売買契約及び本件温泉供給契約を締結させたのであって、右行為は違法である。

仮に、被告住友不動産が、被告谷脇建築設計から温泉の内容について知らされていなかったとしても、十分な調査もせず、供給できないものをできると説明して各契約を締結したことには重大な過失がある。

また、被告住友不動産は不動産取引業者であり、温泉は風呂に用いられる生活用水であるから、飲用水と同様ないしそれに準じて説明すべき重要事項であって、被告住友不動産の説明は、宅建業法四七条一号違反である。

6  被告らの右違法行為により各区分所有者の被った損害は以下のとおりである。

(一) 本件区分住戸における温泉の風呂は、熱海という温泉リゾート地の特色を備えたものとして付加価値を有しており、その価値は各戸につき一〇〇〇万円以上と評価することができる。各区分所有者はその付加価値を含めて平均七〇〇〇万円台の高額の本件区分住戸を購入したのである。しかし、その価値も前記の温泉が全く出ない等の瑕疵によって半減しており、また、本件区分住戸をリゾートと使用している者からすれば、本件区分住戸を使用したいときにも温泉の供給に不安があるということで付加価値は零に等しい。そこで、前記瑕疵による付加価値の低下は、五〇パーセント減と一〇〇パーセント減の平均の七五パーセント減と考えられるから、その損害は各戸につき七五〇万円となる。

また、建物の資産価値としても、入浴設備に瑕疵があり、住居としての機能が損なわれていることにより、一戸あたり少なくとも五〇〇万円の損害が生じている。

したがって、各区分所有者は、各戸につき、被告らに対し、少なくとも右合計一二五〇万円の損害賠償請求権を有している。

原告は、一三六戸分の各区分所有者からの授権によって合計一七億円の損害賠償請求権を有していることになるが、本訴においては、そのうち五億円の損害賠償を求める。

(二) 被告谷脇建築設計が一号源泉を改修せずに放置しているため、各区分所有者は、温泉に入れず、また、砂や油の浮く温泉しか出ないという心配から本件区分住戸の利用を差し控えるなどの対応をしており、その傾向は、平成六年一月の温泉供給休止のころから顕著である。各区分所有者は、利用できなくなるような本件区分住戸を購入しなかったはずであるから、本件区分住戸の売買代金を一戸平均七五〇〇万円として、それぞれ、本件区分住戸購入当時、これを購入せずにその分を定期預金にしておけば年五パーセント程度の利息がついたはずであるから、一戸につき平均毎年三七五万円程度、月額三一万二五〇〇円程度の損害が生じている。

したがって、各区分所有者は、各戸につき、被告らに対し、遅くとも平成六年一月から右被告が一号源泉の改修工事を完成するまでの間、一戸一か月三一万二五〇〇円の損害賠償請求権を有するのであり、各区分所有者は、各戸につき、平成六年一月から本訴提起前の平成八年一〇月までの三四か月分の一〇六二万五〇〇〇円の損害賠償請求権を有している。

原告は、一三六戸分の各区分所有者からの授権によって合計一四億四五〇〇万円の損害賠償請求権を有していることになるが、本訴においては、そのうち一億円及び本訴提起後は一か月四二五〇万円(一三六戸分合計)の割合による損害賠償を求める。

三  原告の当事者適格についての各当事者の主張

本件各訴えについて原告が当事者適格を有するか否かについての各当事者の主張は次のとおりである。

1  原告

原告は、次のとおり、本件各請求に係る訴えについて当事者適格を有している。

(一) 本件温泉供給契約に基づき温泉の供給を受ける権利は各区分所有者に帰属するが、本件建物のうち一三六戸の各区分所有者は、本訴提起時までに、本件温泉供給契約及び本件不動産売買契約に関し、被告らを相手に訴訟を提起して、温泉の供給を含む給湯施設の修復改善等の請求及び損害賠償の請求を行い、右訴訟を追行する権限を原告に授権するとともに、右訴訟の成果については、それが本件建物の全区分所有者のために総有的に原告に帰属することを承諾した。

したがって、原告は、右の授権に基づいて本件訴えについて当事者適格を有している。

(二) また、右のとおり、各区分所有者は、訴訟の結果得られた成果について、それが原告に総有的に帰属することを承諾しており、直接的に各区分所有者に還元されることを求めていないのであるから、各区分所有者は右授権をもって原告に対し被告らに対する損害賠償債権を譲渡したものということができる。

したがって、原告は、自らが損害賠償債権の権利者として実体法上の利害(管理処分権)に基づく訴訟追行権を有しているというべきである。

(三) さらに、原告は、平成九年四月二三日、本件建物一六一二号室の共有者である山岸物産株式会社、岸田一郎及び岸田昭子らから本件の損害賠償債権を譲り受け、右譲渡については、同年五月七日までに、これらの譲渡人らから被告らにその旨の通知がなされた。その結果、原告は、実体法上の損害賠償債権の帰属主体として自己固有の訴訟追行権を有しており、かつ、他の各区分所有者と共通の利益を有する者として、選定当事者となり得る立場にある。そして、各区分所有者の原告に対する前記授権は、選定行為とも解釈できるので、原告は、選定当事者として訴訟追行権を有すると解すべきである。

なお、右損害賠償債権を譲り受けることは、管理組合の規約によって認められており、管理組合の権限の範囲内に属する行為である。

2  被告ら(ただし、(二)は被告谷脇建築設計の主張)

原告は、次のとおり、本件各請求に係る訴えについての当事者適格を欠いているから、右各訴えはいずれも却下されるべきである。

(一) 管理組合が区分所有者のために訴訟追行できる範囲は、その職務に関する共用部分についての訴訟に限られており、各区分所有者の専有部分に関する法律関係についての任意的訴訟担当をすることは許されていない。

しかるに、本件各訴えは、いずれも本件建物の各区分所有者の専有部分に関するものであって、原告の職務に関する共用部分についての訴訟とはいえないから、原告が任意的訴訟担当をすることは許されない。

(二) 各区分所有者の授権をもって、原告への損害賠償債権の譲渡と評価することはできないし、仮に、そのような評価が可能だとしても、そのような債権譲渡は、原告が本件訴訟を追行するためのものであるから、信託法一一条の訴訟信託の禁止に該当することは明らかである。

また、管理組合である原告が右債権を譲り受けることは、管理組合の目的、権限の範囲外であるから無効であり、原告の当事者適格を基礎付けることにはならない。

(三) 本件建物の各区分所有者のうち山岸物産株式会社、岸田一郎及び岸田昭子らによる原告への債権譲渡は、本件口頭弁論において被告らから当事者適格の欠缺を主張された後になされたものであるから、信託法一一条の訴訟信託の禁止に該当することは明らかであり、無効である。

第三  本案前の主張(原告の当事者適格)についての当裁判所の判断

一  本件において原告の主張する給湯設備の修復改善等の請求の根拠とされている温泉供給契約は、各区分所有者が個々的に被告谷脇建築設計との間で締結したものであり、また、《証拠略》によれば、右の給湯施設は、被告谷脇建築設計の所有に係ることが認められ、共用部分には当たらない。したがって、右温泉供給契約の履行請求としての給湯施設の修復改善等の請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権は、いずれも、本来個々の各区分所有者に帰属する権利であることは明らかである。

ところで、《証拠略》によれば、各区分所有者らは、原告に対し、被告らを相手方として右の給湯施設の修復改善等の請求及び損害賠償請求について訴訟を提起し追行する権限を授権するとともに、右訴訟の成果を原告に帰属させることを承諾したことが認められる。

しかし、建物区分所有等に関する法律(以下「建物区分所有法」という。)その他の法令上そのような訴訟担当を許容する規定はない。また、任意的訴訟担当は、民事訴訟法が訴訟代理人を原則として弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないものの、一般に無制限にこれを許容することはできないと解すべきである(最高裁判所昭和四五年一一月一一日大法廷判決・民集二四巻一二号一八五四頁参照)。

そこで本件についてみると、管理組合である原告の業務は、共用部分並びに管理組合の管理に係る敷地及び付属施設の保安、保全、保守などの保存行為等であって(建物区分所有法三条及び原告の管理組合規約)、温泉の給湯設備の修復改善等の請求権の行使及び前記の各区分所有者らが被告らに対して有する損害賠償請求権の行使がこれらの業務の範囲に含まれると認めることはできない。また、右損害賠償請求権は、損害を被ったと主張する各区分所有者が個別に行使すれば足り、温泉の供給を含む給湯施設の修復改善請求についても、被告谷脇建築設計と本件温泉供給契約を締結した個々の区分所有者が行使すれば足りるのであるから、これらの請求に係る訴えについて管理組合である原告に任意的訴訟担当を許容する合理的必要があるとも認め難い。

したがって、本件は任意的訴訟担当が許される場合には当たらないと解すべきであり、各区分所有者から授権がなされたことを理由として本件各訴えについて原告の当事者適格を肯定すべきであるとする原告の主張は採用できない。

二  また、原告は、右授権は各区分所有者が被告らに対する損害賠償債権を原告に譲渡したものと評価できるから、原告は自ら損害賠償債権の権利者として実体法上の利害(管理処分権)に基づく訴訟追行権を有していると主張する。

しかし、各区分所有者らが作成した「訴訟授権の承諾書」と題する書面には、右の損害賠償債権に基づく請求について「提訴・訴訟遂行の一切の権限を原告に授権します」と明記されており、また、そのころ、被告らに対して、これらの債権について譲渡通知がなされたことも認められないから、右授権をもって、各区分所有者が原告に対し損害賠償債権自体を譲渡したものと認めることは困難である。

したがって、右の原告の主張は採用できない。

三  さらに、原告は、本件区分住戸の区分所有者である山岸物産株式会社、岸田一郎及び岸田昭子らから損害賠償債権を譲り受けたから、固有の訴訟追行権を有すると主張する。

《証拠略》によれば、右山岸物産株式会社、その代表取締役である岸田一郎及び岸田昭子らが、平成九年五月七日、被告らに対し、右債権譲渡の通知をしたことが認められるが、右債権譲渡は、本件の訴訟手続において、被告らから原告には当事者適格がないとの本案前の主張がなされた後に行われたものであり、右債権譲渡の対価等が譲渡人に支払われたものでもないことは弁論の全趣旨により明らかである。

したがって、こうした事情の下でなされた右債権譲渡は、原告が本件訴訟を追行することを目的としてなされたものであると推認され、原告が本件訴訟を追行する合理的必要が認められないことは前と同様であるから、信託法一一条の規定の趣旨に反する無効なものであり、右債権がなされたことをもって原告の当事者適格を肯定することはできない。

四  以上のとおり、原告には本件各訴えについての当事者適格が認められないから、本件訴えはいずれも不適法であるといわざるを得ない。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 石橋俊一 裁判官 山崎栄一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例