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東京地方裁判所 平成8年(ワ)20236号 判決 1997年7月15日

原告

清原恵

被告

住田裕子

主文

一  被告は原告に対し、金二六万七八六五円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、五分して、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告は原告に対し、金一九六万五五〇〇円及びこれに対する平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告

請求棄却

第二事案の概要

本件は、交通事故により受傷した原告が、被告に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

以下のとおりの交通事故が発生した。

(一)  日時 平成八年五月二七日午後四時一五分ころ

(二)  場所 東京都台東区松が谷四丁目一番一三号先歩道上(以下「本件事故現場」ということがある。)

(三)  加害車両 被告運転に係る自転車

(四)  事故状況 被告が自転車を運転して、歩道上を進行していたところ、対向して歩行してきた原告と接触ないし衝突した。

二  争点

1  原告の主張

(一) 事故態様及び責任原因

本件事故現場の歩道中央を、自転車に乗車して、進行する場合には、前方及び左右を注視して走行すべき義務があるにもかかわらず、被告は、前方注視義務を怠ったまま漫然と進行した過失があり、右過失によって、対向して歩行してきた原告と衝突ないし接触し、原告を負傷させたものであるから、被告は、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。

(二) 損害

本件事故により、原告は、臀部挫傷、尾骨骨折の疑いと診断される傷害を受け、台東区元浅草所在の永寿総合病院に、平成八年七月一五日まで通院した(実通院日数一〇日)。その損害の内訳は次のとおりである。

(1) 通院交通費 一万三〇〇〇円

(2) 休業損害 一六〇万〇〇〇〇円

原告は、事故直前、ホステスとして就業し、一日当たり、二万円の収入があった。本件事故により、原告は、八〇日の休業を余儀なくされた。

(3) 慰謝料 一五万二五〇〇円

(4) 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

(5) 以上合計 一九六万五五〇〇円

2  被告の主張

(一) 事故態様及び責任原因

被告は、本件事故現場の歩道中央を、自転車にまたがり、足で地面を歩行しながら進行していたところ、反対方向から歩行してきた原告が、上着を加害車両の後部補助椅子にひっかけて、転倒した。したがって、被告には、過失はない。また、仮に、被告に過失があったとしても、原告にも相当程度の過失があり、損害額の算定に当たっては、原告の過失を斟酌すべきである。

(二) 損害

争う。

第三争点に対する判断

一  事故状況、被告の責任の有無及び過失相殺について

1  甲第一、二号証、第五号証、乙第一号証ないし第一〇号証(いずれも枝番号の表示は省略)及び原告、被告各本人尋問の結果並びに前記争いない事実を総合すると、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

被告は、平成八年五月二七日午後四時一五分ころ、本件事故現場の歩道中央付近を、南側から北側に向かって、自転車を運転して進行した。本件事故現場は、にぎやかな商店街の中にあり、歩行者も多く、商品が歩道上にはみ出して、陳列されていたり、駐車自転車が置かれていたりして雑然としていた。一方、原告は、本件事故現場を、北側から南側へ向かって歩いていた。原告は、三、四メートル先を歩行していた長女(四歳)を注視しながら歩いていた。原告と加害車両とは、相互に、相手を右に見る位置関係ですれ違った。ところが、原告のジャケットの内ポケットの縫い目部分が、加害車両の後部補助椅子右側部分に引っかかって、原告は、一、二歩後退した後、転倒して、その衝撃で負傷した。

なお、被告は、本件事故の直前は、自転車のペダルを踏んでいたのではなく、またがったままの状態で、歩行しながら、自転車を進めていた旨主張し、被告本人は、これに沿った供述をする。しかし、原告本人尋問の結果及び転倒の状況に照らして、被告の右供述は不自然であり、採用できない。

2  右認定した事実を基礎として、被告の責任の有無及び過失相殺について判断する。

本件事故現場のような、にぎやかな歩道上を、自転車を運転して、進行する場合には、前方及び左右を十分に注視して、歩行者等との衝突、接触がないように走行すべき義務があるというべきところ、被告は、反対方向から歩行してすれ違った原告の動静を十分に注視せずに、漫然と加害車両を進行したのであって、右の点で過失があり、これにより、自車の後部補助椅子部分を原告の上着に引っかけて、原告を負傷させたものであるから、被告は、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。

他方、歩行者である原告にも、周囲の動静を十分に注視して、自転車がすれ違うような場合には、衝突ないし接触を回避するよう間隔を空けて進行すべきであるところ、同伴していた長女に注意を注ぐあまり、自己の周囲の動静を十分に注視しなかった落度があったというべきである。

以上の被告の過失と原告の落度の双方を対比して勘案すると、本件事故で原告の被った損害について、相当程度の割合を過失相殺によって減ずるのが妥当である。そして、過失相殺の割合については、<1>加害車両は、直進しており、左右に進路を変更した形跡は窺えないこと、<2>加害車両の接触部分は、補助椅子部分であって、被告の運転席より後方に位置していること、<3>加害車両の後部補助椅子右側は、格別、横にはみ出した構造となっていないこと、<4>本件事故の態様は、原告の身体が、直接加害車両に接触したのではなく、上着がひっかかったものであること等の事実に照らすと、被告の過失の程度は、さほど大きくないものと考えられ、このような諸点を考慮すると、過失相殺として五割を減ずるのが相当であると考えられる。

二  損害額について

前掲各証拠及び甲第三、四号証、乙第一一号証、証人住田明彦の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下のとおりの事実が認められる。

1  通院交通費 一万三〇〇〇円

原告は、右事故により、傷害を受けて、台東区元浅草所在の永寿総合病院に、平成八年七月一五日までの間通院した(実通院日数一〇日)。本件事故と相当因果関係のある通院交通費に係る損害として、右金額を認めることができる。

2  休業損害 三〇万二七三〇円

原告は、クラブホステスとして就業していたところ、本件事故直前の収入については、給料支払明細書(乙第一一号証)には、同年二月分は三七万六〇〇〇円(就業日数一九日)、三月分は三〇万〇〇〇〇円(就業日数一七日)、五月分は(就業日数一〇日、但し、事故前日である五月二六日まで)一三万八〇〇〇円との記載がされているが、他方、四月分の収入金額、就業状況が不明であること、各月の就業日数にばらつきがあることなどから、右金額を基礎として、休業損害額を算定することは、必ずしも相当でないと考えられる。

そこで、本件事故と相当因果関係のある休業損害については、基礎収入額を賃金センサス平成七年女子三〇歳ないし三四歳の平均値である三六八万三四〇〇円、休業期間を三〇日(実通院日数の三倍)として算定した金額である三〇万二七三〇円と認めるのが相当である。

3,683,400÷365×30=302,730

3  慰謝料 一二万〇〇〇〇円

通院日数、治療の経緯等一切の事情を考慮すると、慰謝料としては、右金額が相当と認められる。

4  過失相殺

前記のとおり、右損害合計額四三万五七三〇円から、原告の被った損害の五割を過失相殺によって減じた後の損害額は、二一万七八六五円となる。

5  弁護士費用 五万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過、認容額その他一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害額は、五万〇〇〇〇円と認めるのが相当である。

6  以上合計 二六万七八六五円

第四結論

よって、原告の請求は、二六万七八六五円及びこれに対する不法行為の日である平成八年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。

(裁判官 飯村敏明)

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