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東京地方裁判所 平成8年(ヨ)20123号 決定 1997年3月27日

主文

一  債権者が、本決定送達の日から一〇日以内に債務者各自に対し各二〇万円の担保を立てることを条件として、次のとおり決定する。

1  債務者中島新は、別紙物件目録記載の建物につき、ビラ・モデルナ管理組合代表者理事長の名を用いて、管理費等の徴収、文書の頒布、会議の開催及び出席その他一切の管理行為をしてはならない。

2  債務者松本智子は、別紙物件目録記載の建物につき、ビラ・モデルナ管理組合副理事長の名を用いて、管理費等の徴収、文書の頒布、会議の開催及び出席その他一切の管理行為をしてはならない。

3  債務者山本達之、同井内哲夫、同岸聡、同清水徹、同村松和江、同加田修及び同剱持寛昭は、別紙物件目録記載の建物につき、それぞれビラ・モデルナ管理組合理事の名を用いて、管理費等の徴収、文書の頒布、会議の開催及び出席その他一切の管理行為をしてはならない。

4  債務者井尻源之丞及び同戸田敦也は、別紙物件目録記載の建物につき、それぞれビラ・モデルナ管理組合監事の名を用いて、管理費等の徴収、文書の頒布、会議の開催及び出席その他一切の管理行為をしてはならない。

二  申立て費用は債務者らの負担とする。

理由

第一  申立ての趣旨

主文第一項1ないし4と同旨

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有権者である債権者が、管理規約設定決議及び同規約を前提とした管理組合役員選任決議の不存在確認請求権を被保全権利として、債務者らによる管理規約の存在を前提とした管理行為の差止めの仮処分を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実及び証拠によって認められる事実

1  債権者は、昭和四九年、「ビラ・モデルナ」と称する本件建物を建築し、その専有部分の一部を他に分譲するとともに、各区分所有者と建物管理請負契約を締結し、本件建物の管理業務を行ってきた。債権者は、本件建物の専有部分の床面積の過半数を有する区分所有者であり、債務者井尻源之丞は、本件建物の区分所有者富士越産業株式会社の代表者であり、松村和江は、本件建物の区分所有者松村福護郎の妻であり、その余の債務者は、本件建物の区分所有者である。

2  債務者清水徹らは、本件建物につき、管理規約を設定し管理組合を設立しようとして、平成六年三月五日、ビラ・モデルナ管理組合設立総会を開催し、債権者の代理人も出席した。債務者清水徹らは、右会議当日、自らが作成した管理規約案を配布した。同管理規約案においては、管理組合の総会における組合員の議決権につき一の組合員が一の議決権を有する旨が定められていた。

3  債務者清水徹らは、同月一〇日ころ、本件建物の各区分所有者に対し、同月五日にビラ・モデルナ管理組合が設立されたこと等を記載した文書を配布した。これに対し、債務者は、債務者清水徹に対して、同月二三日付内容証明郵便で、右書面が虚偽であり、本件建物につき管理規約は設定されず、管理組合は設立されていない旨の文書を送付した。

4  債務者清水徹らは、本件建物の区分所有者に対し、同年四月二八日付で、同年三月五日に管理規約が成立しなかったとして、同年五月一三日に管理組合臨時総会の招集通知を配布し、同年五月二二日付で、ビラ・モデルナ管理規約が設定され発効した旨の「ビラ・モデルナ管理組合臨時総会議事録」を配布した。

5  平成八年七月二〇日、ビラ・モデルナ管理組合第二期定期総会が開催され、理事長に債務者中島新が、副理事長に債務者松本智子が、理事に債務者山本達之、同井内哲夫、同岸聡、同清水徹、同村松和江、同加田修及び同剱持寛昭が、監事に債務者井尻源之丞及び同戸田敦也が、それぞれ選任されたとして、その旨の議事録が作成された。

二  被保全権利について

1  債権者の主張

平成六年三月五日のビラ・モデルナ管理組合設立総会において、本件建物の専有部分の床面積の過半数を有する債権者の代理人上原は、ビラ・モデルナ管理規約の設定に賛成せず、同規約は決議されなかった。

2  債務者らの主張

平成六年三月五日に開催された本件建物の区分所有者の集会において、債権者の代理人上原は、組合活動を行うことに賛成し、理事選任、規約設定等の決議に参加し、賛成した。

三  保全の必要性についての債権者の主張

債務者らは、ビラ・モデルナ管理組合が成立したとして、本件建物の区分所有者に対して専有部分一平方メートルあたり八〇〇円の管理費を徴収し、債権者に対しては、管理費の未払いがあるとして、請求書を送付し続けている。平成六年六月三日までに、本件建物の区分所有者らのうち三四名から、債権者に対して、管理請負契約の解除通知が送付されてきた。

債権者は、管理請負契約の解除の通知をしてきた区分所有者に対しても、平成八年一一月三〇日に債権者から管理請負契約を解除するまで、本件建物の管理を続け、その後も、債権者に管理代金を支払っている本件建物の区分所有者のために管理業務を行っている。債務者らを中心とする区分所有者のグループは、債権者の管理業務にただ乗りし、平成八年一一月三〇日以降も、共用部分の清掃や、エレベーターの保守等の管理業務にただ乗りしている。

債務者らは、管理業務を行っていなかったが、平成九年一月一三日、本件建物の地下一階入り口付近にビラ・モデルナ管理組合フロントなる受付を設置し、「管理組合で管理人を雇いました」と題する書面を本件建物の区分所有者に配布した。

このままでは、本件建物の他の区分所有者も、正規の規約に基づいた理事長、副理事長、理事、監事の人的構成をもったビラ・モデルナ管理組合が存在するものと誤信し、自称ビラ・モデルナ管理組合の存在が既成事実化するおそれが大きい。

第三  当裁判所の判断

《証拠略》によれば、平成六年三月五日に本件建物の区分所有者らによるビラ・モデルナ管理組合設立総会が開催され、ビラ・モデルナ管理組合設立委員会からビラ・モデルナ管理規約案が会場で配布され提案されたが、債権者の代理人として出席した上原は、管理組合の総会の議決権につき一つの組合員が一つの議決権を有すると定めた同案の四三条について賛成できない旨を述べ、同月一二日に予定する集会までに債権者としての提案をすることとなったことが一応認められる。

もっとも、乙六号証の録音反訳書によれば、右総会において、債務者清水徹から、債権者から一週間以内に管理規約案に対する検討結果の答えがない場合は、右管理規約案がすでに発効するものとして運営するとの動議が出され、参加者が賛成したという状況が記載されている。しかし、他方、右総会の議事録には右動議に沿う記載がないこと、債権者から債務者清水徹に対して、同月二三日付で、右集会の決議の効力を否定する書面が送付されていること、同年四月二八日付のビラ・モデルナ管理組合設立委員会が本件建物の区分所有者に宛て配布した臨時総会招集通知には、三月五日に管理規約が成立しておらず、右委員会による管理規約案にとどまる旨が記載されていたことが一応認められることに照らすと、右動議が成立したと一応認めることはできない。

右によれば、債務者らが主張する組合規約のうち少なくとも議決権につき法律と異なる定めをした四三条の規定に関するかぎり、区分所有者の集会における決議があったことを一応認めることはできない。

二 《証拠略》によれば、債権者の主張する保全の必要性を一応認めることができる。

三 よって、本件申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木芳胤)

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