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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)116号 判決 1996年5月31日

原告

株式会社アサヒコーポレーション

右代表者代表取締役

三枝恒夫

右訴訟代理人弁護士

平尾正樹

被告

特許庁長官

清川佑二

右指定代理人

東亜由美

外三名

主文

一  被告が平成四年一月二四日にした平成一年類似意匠登録願第七二一三号、同第七二一四号、同第二四〇〇〇号、平成二年類似意匠登録願第二五七二七号に関する各類似意匠登録料納付書の各不受理処分をいずれも取り消す。

二  被告が平成七年四月二〇日にした第一項記載の右各不受理処分についての異議申立てに対する決定の取消しを求める訴えを却下する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項と同旨。

二  被告が平成七年四月二〇日にした主文第一項記載の各不受理処分(以下「本件各不受理処分」という。)についての異議申立てに対する決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告がした主文第一項記載の各類似意匠登録出願(以下「本件各類似意匠出願」といい、その類似意匠を「本件各類似意匠」という。)について、各意匠登録をすべき旨の査定がなされ、原告が各登録料納付書(以下「本件各登録料納付書」という。)を提出したところ、被告が、本件各類似意匠出願に係る本意匠の意匠権(登録第四四二三五八号。以下その意匠権を「本件本意匠権」といい、その登録意匠を「本件本意匠」という。)の存続期間が満了したことを理由として、本件各登録料納付書について本件各不受理処分をし、同処分について原告がなした異議申立てについてもこれを却下したため、原告が本件各不受理処分の取消し及び右異議申立てに対する本件決定の取消しを求めたものである。

一  前提となる事実(争いがない。)

1  原告は、運動靴の製造等を目的とする株式会社であり、運動靴に関する意匠四件を創作して、これらを原告の有する本件本意匠の類似意匠として、次のとおり、本件各類似意匠出願をし、各登録査定を得て、各登録料金を納付した。

(一) 出願番号

平成一年意匠登録願第七二一三号

出願日 平成一年二月二七日

登録査定日 平成三年八月二九日

登録査定謄本発送日

平成三年九月二四日

登録料納付日 平成三年九月二六日

(二) 出願番号

平成一年意匠登録願第七二一四号

出願日 平成一年二月二七日

登録査定日 平成三年八月二九日

登録査定謄本発送日

平成三年九月二四日

登録料納付日 平成三年九月二六日

(三) 出願番号

平成一年意匠登録願第二四〇〇〇号

出願日 平成一年六月二八日

登録査定日 平成三年八月二九日

登録査定謄本発送日

平成三年九月二四日

登録料納付日 平成三年九月二六日

(四) 出願番号

平成二年意匠登録願第二五七二七号

出願日 平成二年七月二八日

登録査定日 平成三年八月二九日

登録査定謄本発送日

平成三年九月二四日

登録料納付日 平成三年九月二六日

2  原告の本件本意匠権は、一五年の存続期間を満了し、平成三年一一月一〇日をもって消滅した。

3  被告は、平成四年一月二四日付をもって、次の理由により、本件各類似意匠出願の本件各登録料納付書をいずれも受理しない旨の本件各不受理処分をした。

「1 本件意匠権は消滅した。

本意匠である意匠登録第0442358号は、15年の権利期間を満了し平成3年11月10日をもって消滅した。

なお、予納台帳から徴収した登録料(金6800円×4)は同台帳へ返納する。」

4  原告は、平成四年三月三〇日に、被告の本件各不受理処分に対して、本件各類似意匠出願ごとに異議申立てをした。

5  被告は、右各異議申立てを併合審理したうえ、平成七年四月二〇日付でこれらを却下する旨の本件決定をした。

二  争点

1  訴えの利益

2  本件各不受理処分の違法性

3  本件決定の違法性

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(訴えの利益)についての被告の主張

本件訴えは、本件各不受理処分及び本件決定の取消しを求めるものであるところ、判決により本件各不受理処分又は本件決定が取消されることにより、権利ないし法律上保護された利益の回復の可能性がある場合に限り、本件各不受理処分又は本件決定の取消を求める訴えの利益が認められるというべきである。

類似意匠の意匠権は、本意匠の意匠権と合体するものである以上、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅している場合には、類似意匠の意匠権が発生する余地がないのであるから、類似意匠の意匠権として登録することはできない。すなわち、本件本意匠権が平成三年一一月一〇日をもって消滅している以上、本件各類似意匠の意匠登録を受ける権利も本件本意匠権の消滅とともに法律上当然に消滅しているのであって、現段階で本件各不受理処分又は本件決定を取り消してみても、本件各類似意匠出願に基づいて類似意匠の意匠権を登録する余地は全くない。

したがって、本件訴えは、いずれも訴えの利益を欠く不適法なものであるから、却下されるべきである。

2  争点2(本件各不受理処分の違法性)について

(一) 被告の主張

本件各不受理処分は、次に述べるとおり、適法である。

(1) 類似意匠の意匠権は、意匠登録原簿に類似意匠の意匠権の設定の登録をすることによって発生するものであり、発生した類似意匠の意匠権は、本意匠の意匠権と合体するものである(意匠法(以下単に「法」ともいう。)二二条)。したがって、類似意匠は、合体すべき本意匠の意匠権が消滅したときには、意匠権として成立し得ないものであり、本件のように、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅した場合には、類似意匠の意匠権が発生する余地はない。なお、ここにいう「合体」とは、法律上、類似意匠が本意匠の意匠権と不可分一体の権利となり、本意匠の意匠権と一体として存在することを意味し、本意匠の意匠権の移転、実施権や質権の設定、本意匠の意匠権の存続期間満了や消滅の場合には、類似意匠の意匠権もこれと運命をともにすることを意味する。

このことは、法一〇条一項が、「意匠権者は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠……について類似意匠の意匠登録を受けることができる。」と規定していることからも明らかである。なぜなら、法上、「登録意匠」とは意匠登録を受けている意匠をいい(法二条二項)、「意匠権者」とは「登録意匠」に係る権利者をいう(法二三条等)のであって、意匠登録を受けている意匠が存続期間満了により消滅した場合には、当該意匠はもはや「登録意匠」とはいえないし、その権利者は「意匠権者」ではなく、原意匠権者(法三一条参照)となるからである。

そして、意匠権の設定登録は、意匠権を付与すべき手続の一環をなしているものであって、権利付与行為の一部と解すべきものである(東京地方裁判所昭和四五年一〇月二一日判決・無体財産権関係民事・行政裁判例集二巻二号五二八頁参照)から、右のとおり権利を付与すべきでない出願について、設定登録することができないことは当然である。

(2) 類似意匠登録制度は、原告の主張するように、単に本意匠の意匠権の類似範囲を明確にして、その本来有する範囲を確認するにとどまるものではなく、さらに、類似意匠に類似する意匠にまで類似範囲を拡大することによって、本意匠の意匠権の保護を強化することを目的とするものである。すなわち、類似意匠の設定登録がされると、新たな一つの意匠権(類似意匠の意匠権)が発生し、これが同時に本意匠の意匠権に合体することにより、その保護範囲が拡大されることになる。そこで、法も、このような類似意匠の意匠権を設定登録するための前提要件として、合体し得る本意匠の意匠権が存在することを要求し、類似意匠の設定登録を受ける権利を「登録意匠」を有する「意匠権者」(法一〇条一項)としたものと解される。

ところが、類似意匠の登録のとき、既に本意匠の意匠権が消滅している場合には、右類似意匠の類似範囲に属する意匠は、本来、法律上保護されるべきものではないことになるにもかかわらず、本件各類似意匠出願につき類似意匠の登録をするときには、事実上、右対象外の意匠にまで法律上の保護を与えたと同様の結果となってしまう。

また、法二〇条一項、二一条、二二条によれば、新たに発生する類似意匠の意匠権の始期は設定登録の日と解されるのであって、実質的にみても、右拡張説の立場によれば、遡って既に消滅した権利の効力範囲を拡大してみても、もはや権利保護を強化することができない以上、類似意匠の意匠権が設定登録により本意匠の意匠権消滅前に遡って発生し、本意匠の意匠権と合体するという解釈は採り得ない。

さらに、当該類似意匠を既に実施している場合には、法二九条の通常実施権により実施が保護されることになることを考えると、被告の解釈が本意匠の意匠権消滅後の類似意匠の実施を妨げるものとはいえない。

(3)(ア) 本件で問題とされている本件各登録料納付書の提出は、予納した見込額からの登録料納付の申出(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律一五条一項、同施行規則四〇条一項四号)であるところ、類似意匠の登録料納付義務を負うのは、「類似意匠の意匠登録を受ける者」(法四二条二項)であるから、原告のように登録を受けられない者からの申出は、本質的要件を欠いた不適法なものであり、右瑕疵は補正によっても治癒され得ないものである。このように、申請が本質的要件を欠き補正によっても治癒され得ない場合には、法律に明文の規定がないとしても、却下処分に付し得ることは、法が当然に予定しているところとみるべきである。

被告は、原告の申出を不適法なものとして拒否する趣旨で本件各不受理処分をしたものであり、同処分は実質的にみて却下処分というべきであるから、被告が法に根拠のない処分をしたものとはいえない(東京地方裁判所昭和四六年一月二九日判決、無体財産関係民事・行政裁判例集三巻一号二頁)。

(イ) 被告は、類似意匠登録出願が登録査定となったにもかかわらず、登録料の納付がないときは、通常、出願無効処分をすべきであるが、本件事例は例外的なものであるため、本件各不受理処分はできても、本件各類似意匠出願を出願無効処分とすることはできないと解される。

また、本件各類似意匠は本件本意匠の類似意匠として登録査定となっており、登録査定時においては拒絶理由がなかったのであるから、もはや拒絶査定をすることもできないと解される。

以上のとおり、法は、本件のような事例に適用すべき規定を設けていないため、被告は、これにつき登録査定を取り消すことなく類似意匠の登録料納付書を不受理処分とし、先願の地位を与える扱いをしている。

(ウ) 法一〇条の類似意匠の登録要件(法一七条、一八条)の実質的審査は、法一六条の規定によって審査官に専属しており、被告は意匠登録令六条の規定によって職権で類似意匠設定登録を行わなければならないものとされている。しかしながら、このことは、登録に当たって被告に何ら審査権や判断権がないということを意味するわけではない。

まず、被告の職権登録義務は、①登録査定がなされ、かつ、②登録料が納付された場合に初めて発生するものであるから、被告が右①、②の点を審査し、職権登録義務の存否(登録の可否)を判断し得ることは明らかである。

そして、被告の職権登録義務の発生要件として法に明示されているのは、右①、②のみであるが、前記の類似意匠制度の趣旨、目的からして、設定登録の日において合体し得る本意匠の意匠権が存在することが必要であり、法は右①、②の要件のいわば前提となる本質的な要件として、本意匠の意匠権が存在していることを要求していると解されるのであるから、被告は、その点について審査して、職権登録義務の存否(登録の可否)を判断することになるのである。

原告が、後記(二)(3)において、被告において事後的審査を行使しない場合として引合いに出す他の事例については、法の解釈上、登録時に被告が審査すべき事項とは解されないのであるから、これらの事例と比較して被告の恣意を指摘する原告の主張は失当である。

(4) 被告が特許権の場合に存続期間満了後の設定登録を認めているのは、特許法の特殊性に鑑みての救済措置であって、法に定める処理として意匠登録に類推し得る処理ではない。

すなわち、特許出願人は、特許出願について出願公告がされると業としてその特許出願に係る発明を実施することができる(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条一項。以下本項について同じ。)という、いわゆる仮保護の権利が与えられる。この権利の効力は、特許権の効力(特許法六八条本文)と性質上同一であり、仮保護の権利者は、第三者に対して、差止請求権、損害賠償請求権を行使することができる(特許法五二条二項)。しかし、仮保護の権利者は、最終的に特許権が付与されなかった場合は、損害賠償責任(無過失責任)を負う(特許法五二条四項)。

ところが、特許出願について、出願公告後、拒絶査定となり、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟等を経て、登録すべき旨の処分がされ、設定登録をするまでに、特許権の存続期間(出願公告の日から一五年、出願の日から二〇年。特許法六七条一項)が満了する場合が生じる。この場合に、最終処分である特許権の設定登録をしないと、出願公告による仮保護の権利及び損害賠償責任の帰趨が極めて不安定になってしまう。そこで、被告はこれらの権利を確定させる必要から、このような場合は設定登録をしているのである。

これに対し、法においては、設定登録前に出願人に特別な権利はなく、特許法におけるような問題は全く生じないのであるから、本意匠の意匠権の存続期間満了後において、類似意匠の意匠登録をする利益はない。

(5) 本意匠の意匠権消滅後に類似意匠の設定登録を行うことができない以上、仮に他に違法事由があったとしても、本件各不受理処分を取り消すことは無意味であるばかりか、逆に、登録できない出願の登録料を納付するという効果を生じることによって、かえって原告に不利益な結果を生じることになってしまう。

また、原告は、本件各類似意匠出願に係る類似意匠の登録について、後記(二)(5)(ア)、(イ)のような利益を有する旨主張するが、登録査定後本意匠の意匠権消滅までに設定登録がされなかった類似意匠は、設定登録がなされないとはいえ、出願無効にもならないため、先願の地位を維持するのであり、永久にその類似範囲を含む範囲まで後願を排斥することができ、他者の後願の意匠権によってその実施が妨げられることはない。

さらに、原告は、後記(二)(5)(ア)で、設定登録に付随する意匠公報により、公知意匠として本件各類似意匠の範囲にまで拒絶範囲を拡大し得る旨主張するが、本件各類似意匠出願に係る意匠は、前記のとおり出願無効とはされておらず、先願の地位が与えられているのであるから、当然に拒絶範囲は拡大されているのである。なお、意匠公報を発行することによる新規性喪失の効果は、反射的利益にすぎないから、これをもって本件各類似意匠出願につき類似意匠の登録をすべきであるとはいえない。

また、後記(二)(5)(エ)、(オ)の原告の主張は、極めて個人的な事実上の利益であって、登録を妥当とする根拠とはいい難い。

(二) 原告の主張

本件各不受理処分は、次に述べるとおり、違法である。

(1) 類似意匠の意匠登録を受ける権利は、本意匠の意匠権の消長には関わらないから、本件意匠権が平成三年一一月一〇日に存続期間が満了していたとしても、本件各類似意匠の意匠登録をすべきであるのに、被告は、本件各不受理処分によりこの登録を拒絶したのであるから、本件各不受理処分は違法である。

(ア) 意匠法二二条にいう「合体」とは、観念の形象たる権利の合体である。「合体」とは、本意匠と類似意匠の各意匠権が運命をともにすることをいう。そして、運命をともにする理由は、類似意匠が本質的に本意匠と同一であり、それを顕在化したにすぎないものだからである。つまり、登録類似意匠は、本質的に本意匠と同じものであってそれを顕在化しただけであるから、本質的に同じものである類似意匠の意匠権と本意匠の意匠権とを同じに扱うというのが「合体」の意味であり、決して、くっつけたり、かき混ぜたりする意味ではない。したがって、本意匠の意匠権の存続期間内でなくては、類似意匠の意匠権と合体できないなどということはありえない。被告は、「権利として発生する以前に消滅することはありえない」旨主張するが、そもそも発生しなければならないと考えること自体が誤りである。特に、類似意匠は、既に発生している本意匠の意匠権と同じものであり、ただ顕在化するだけなのであって、決して新たに権利が発生するわけではない。そして、既に消滅した権利を顕在化することは十分に可能なことである。

(イ) 被告は、設定登録によって権利を生まない以上、設定登録自体ができないと考えている。しかし、この考えは、一般論としても誤っているし、類似意匠の考え方としても誤っている。

① まず、一般論として、権利を生まない設定登録はできないと解する法文上の根拠は一点も存在しない。法文上、被告のなし得る最終処分としては、出願無効処分、拒絶査定(又は審決)及び設定登録しか定めておらず、法文上、「それにより権利が発生すること」を登録要件として定めていない。被告の挙げる東京地裁昭和四五年一〇月二一日判決も、設定登録は確認的行為ではなく形成的行為であるという登録主義の原理を説明しているのみであり、設定登録により必ず権利が発生しなくてはならないという趣旨を少しも述べてはいない。

また、理論上も、登録主義とは登録しなくては権利の発生しない主義をいい、登録をすれば権利の発生する主義をいうのではない。理論上、設定登録は被告がする単なる一行政処分であって、それを要件(契機)としていかなる内容の権利をいかなる期間付与するかは法が定める事項である。したがって、法の定め方によっては、設定登録があっても権利が付与されないケースも生じ得る。

② 設定登録があっても権利が付与されないケースとは、現行法上は、特許権や実用新案権の存続期間が設定登録以前の日に満了したケースと本件のケース位しか生じない。被告は、前者のケースについて「特殊性に鑑みての救済措置」として設定登録をし、後者のケースでは、不受理処分をしている。しかし、設定登録と権利の発生は、別個の問題であるから、両ケースとも設定登録をすべきである。

なお、被告は、特許権の場合に存続期間満了後の設定登録を認めるのは、出願人の無過失賠償責任を回避するための救済措置であると主張している。しかし、特許手続においても、出願人が設定登録を求め、かつ出願無効理由及び拒絶理由のない出願に対しては設定登録をすることが被告の義務であり、これに特許権を付与するか、いかなる期間付与するかは、それとは別に法が定めることである。したがって、被告が特許権について採っている処理は、法の根拠のない緊急避難的な救済措置などではなく、まさに法の定める処理なのである。

③ 法二〇条一項は、「意匠権は、設定の登録により発生する。」とのみ規定し、類似意匠の意匠権が設定登録により発生するとは書かれていない。同条二項でも、設定登録のための登録料の納付につき、本意匠につき定めた法四二条一項のみを示し、類似意匠について定めた同条二項に触れることなく、「意匠権の設定の登録をする。」と定めている。また、法四二条一項では、「意匠権の設定の登録を受ける者」と書かれているのに、同条二項では、「設定登録」の文言を避けて、「類似意匠の意匠登録を受ける者」と書かれている。この区別は有意的であって、法は類似意匠登録を設定登録とは考えていないのである。したがって、被告のように設定登録は必ず権利が発生すると考えたとしても、類似意匠登録も同様であるとはいえない。

類似意匠の場合は、単なる権利の確認、顕在化であって、新たな権利が発生するわけではないのである。

(ウ) 法一〇条の「意匠権者」とは、意匠権を有している又は有していたその者を特定する意であり、たとえば本件本意匠の「意匠権者」は原告であるから、原告以外の者であってはならないとしてこれを排除する意である。それ以上に、類似意匠を設定登録するその日に本意匠がなお存続期間中でなくてはならない意まで、この「意匠権者」の文言から読み取ることは無理である。たとえば、法三九条の「意匠権者」も損害賠償請求をするその日に意匠権が存続中でなくてはならない意を示しておらず、意匠権を有している又は有していた者の意であるが、法一〇条もこれと同様に解されるのである。

(エ) 法一〇条の「登録意匠」とは、「意匠登録を受けている意匠をいう」(法二条二項)。

そこで、右「意匠登録」の意味について検討する。

普通に考えると、意匠に関する登録とか意匠法による登録の意であろうが、そうであるなら意匠権消滅の登録(意匠法六一条一項一号)も「意匠登録」であり、意匠権消滅の登録を受けた登録もなお「意匠登録」である。意匠権の消滅後はほとんど新たな登録事項が発生しないので、意匠権消滅の登録後は意匠原簿たる意匠登録原簿から同じく意匠原簿たる閉鎖意匠登録原簿へと移記されるが、それは、「当該意匠権に関する登録を閉鎖意匠原簿に移さなければならない。」(意匠登録令四条)とあるように、原簿が代わるだけで登録は存続している。したがって、意匠権消滅の登録を受けた意匠もなお「意匠登録」を受けており、よって「登録意匠」である。あるいは、原簿に、「意匠登録」原簿、「意匠関係拒絶審決再審請求」原簿、「意匠信託」原簿の三種あることにより、論理的には逆であるが、このうちの「意匠登録」原簿に登録されている意匠が「登録意匠」であると解することも可能である。しかし、この場合も、本件本意匠は、平成三年一一月一〇日存続期間満了による消滅の登録を平成五年三月一八日にしているから、その登録日前たる本件処分時には「登録意匠」であった。

いずれにせよ、被告のように、「登録意匠」を「意匠権の存続期間中の意匠」の意と解することは法文上の根拠が皆無である。また、法の他の条文に照らしても、法二四条、二五条(実際にも、被告は、意匠権消滅後の登録意匠も判定対象としている。)、三一条、三二条、三九条等々における「登録意匠」の文言は被告のように解釈されていない。

(オ) 右に述べたように、本意匠権の存続期間中でなければ類似意匠登録を受けられないというのは被告の思い込みであり、被告の前記主張は、法文上の根拠がないだけでなく、後記(5)(ア)、(イ)に指摘した本件のような場合に類似意匠の意匠権の登録を認めるべき必要性、利点について考慮すれば、合理的理由もなく類似意匠登録制度の利用を不当に閉ざすものというべきである。

(カ) なお、被告は、類似意匠本質論に関する拡張説を採り、一部それを前提とした主張を展開するが、被告の右主張は、拡張説を前提としても誤っているし、そもそも本件の問題は、類似意匠に関する拡張説、確認説の争いとは関係がない。

また、被告の述べる拡張説の論拠は、いずれも失当である。類似意匠制度の沿革、趣旨(旧々法当時より新規性喪失の例外事由として発足した制度である)、法条の解釈(例えば、法二〇条、四二条の規定、登録料金が低額であること、存続期間が短いこと)からしても、法は、類似意匠制度を独立の意匠登録とは考えておらず、類似意匠制度は、確認説のように解釈すべきである。

また、拡張説に立脚したとしても、被告の主張は正しくない。被告は、類似意匠登録制度は、従前の効力範囲を拡大させることを目的とするのに、本意匠消滅後は、設定登録により権利として発生させることができないものであるから、効力範囲の拡大ができない旨主張するが、拡張説に立った場合でも、類似意匠制度の最大の機能は、本意匠の類似範囲の確認にあるのだから、この最大の機能を発揮できる限り類似意匠登録の利益があるのである。被告の解釈は、拡大効果がないから確認効果まで与えないというものであり、本末を転倒している。

(2) 本意匠の意匠権の存在が類似意匠登録の要件であるとしても、次に述べるとおり、その登録要件の判断主体は審査官であり、判断時は登録査定時であるから、登録査定時に本意匠の意匠権が存在していて審査官が登録査定をした以上、審査権限をもたない被告がその事後的審査により設定登録を拒むことは違法である。

(ア) 法一六条は、「特許庁長官は、審査官に意匠登録出願を審査させなければならない。」と定めて、審査権限の審査官専属を定めている。ここに「審査」とは登録要件の実質的審査をいい、形式的要件の審査は被告又は審判長の権限とされ(法六八条二項で準用する特許法一七条二項、三項)、また、登録は被告の義務とされ(意匠登録令六条)、その他の権限や義務は多く被告に属するとされている。

このように、特許庁の行なう各種手続のうち、審査(及び審判)だけは審査官(審判官)の専属とされており、また、審査官の資格及び除斥事由を法定している(法一九条で準用する特許法四七条二項、同法四八条。意匠法施行令③で準用する特許法施行令第三章。)これらは、審査(審判)が行政の干渉を排して公正中立に行われるための担保であり、国民のための手続保障である。さらに、審査に際しては、求意見及び不服申立ての各手続を法定し、これら手続保障が相まって国民の権利保障が図られている。

(イ) また、公正中立な審査官による専属審査を法定した以上、その判断時は審査官の審査時であることが必然である。つまり、「査定時にどうか」が問われているのであり、「登録時にどうか」が問われているのではない。被告による審査が禁止されている以上、このことは全く当然である。

(ウ) 本件各不受理処分は、「本意匠権は消滅した」ことを理由としているが、それは「本意匠権は消滅したから本件各出願は登録要件を具備しなくなった」の意である。また、本件決定は、「法に定めのない登録をすることはできない」(決定書四頁四行ないし五行)と述べているが、そこに「法」とは、法一〇条の登録要件のことである。すなわち、本件各不受理処分によって実質的に判断されているのは登録要件であるとすれば、本件各不受理処分は、審査権限をもたない被告による事後的な登録要件審査に基づく不受理処分であるといわざるを得ず、公正中立な審査官による審査、求意見及び不服申立ての各手続の保障といった国民の権利を全く無視してなされたものであり、明白に違法なものである。

(エ) なお、不受理処分という制度は、旧法時に存在し、旧意匠法施行規則三条ノ二の引用する旧特許法施行規則一〇条ノ二は、不受理事由を定めていた。ところが、現行法制定に際してこれは削除され、現行法では、被告又は審判長が「手続の補正をすべきことを命ずることができる。」(法六八条二項、特許法一七条三項)と規定された。ここに「命ずることができる」というのは、命じないこともできる趣旨ではなく、被告に命ずる権限を与えた規定であるから、補正命令は被告の裁量行為ではなく羈束行為である。このような現行法制定の経緯に照らせば、現行法は不受理処分を廃して補正命令に代えたのであり、現行法上不受理処分の法的根拠はない。

仮に、現行法下でも不受理処分を肯定する考えに立ったとしても、それが肯定されるのは重大な形式的瑕疵がある場合であるのに、被告は、本件において実体的な登録要件を判断して、その実体的瑕疵を理由として本件各不受理処分をなしたのである。

(オ) 以上のとおり、類似意匠登録出願は、出願無効処分又は拒絶査定(又は審決)が確定した場合以外は取下げ等がない限りすべて登録されるものと定めていて、それ以外の最終処分形態を定めていない。しかるに、被告は、出願無効理由も拒絶理由もないのに、本件各登録料納付書の不受理処分などという法の根拠のない処分をした。したがって、本件各不受理処分は、明白に法定手続に反する。

(3) 被告は、他のあらゆるケースにおいて登録要件の事後審査をしないのに、本意匠消滅後の類似意匠登録のケースだけはその登録を拒絶するのであり、法適用が恣意にすぎ、かつ、不平等で違法である。

査定時後に登録要件を欠くに至る場合としては、たとえば、査定時後に他人の業務に係る物品との混同を生じるに至った場合(法五条二号)、査定時後に慣習上組物として販売、使用されなくなった場合(法八条一項)、査定時後に意匠登録を受ける権利が共有になった場合(法一五条一項、特許法三八条)等があるが、被告は、これらの場合において、それら事実が明白であって被告(登録官)がそれをたまたま知っていたときも、登録を拒絶できないし拒絶しない。

このように、被告が本件のケースだけ登録を拒絶しようとするのは、このケースだけは登録に際して被告(登録官)に明白に判明するからという理由であろうが、それでは同じ登録要件なのに、法適用が恣意にすぎ、かつ、不平等である。

(4) 法二〇条二項は、「登録料の納付があったときは、意匠権の設定の登録をする。」と定め、これを受けた意匠登録令六条は、意匠権の設定の登録は「特許庁長官が職権でしなければならない。」と定め、相まって登録料納付のあったときは被告に登録義務が発生する旨を定めている。

なお、被告が本件決定(三頁末尾二行)で「意匠登録に関する手続の取扱いには一定の事務処理期間を要する」と述べるように、全意匠を登録料納付と同時に登録することはできず、二、三か月の合理的期間内に登録すればそれで義務の履行があったといえようが、それは通常の意匠登録の場合、権利の始期が遅れた分終期も延びるから、合理的期間内に登録の状態、効果を生じさせさえすれば、格別に国民の権利を侵害することはないからである。ところが、類似意匠登録の場合は権利の終期は定まっており、しかも、その期間の経過によって登録不能になると考えるのならば(民法上の「定期行為」)、その期間内に登録して登録の状態、効果を生じさせる義務が被告にはある。

本件は、被告が原告の本件各登録料納付書を四六日間も処理しなかった結果、本件本意匠権の存続期間が満了したのである。原告が登録納付書を提出した段階では完全に有効な納付書だったのであり、したがって、本件の登録納付書は、受領時には一点の不受理事由も存せず適法に受理されている。本件の登録納付書は、受領時に適法に受理された以上、それが後発的に瑕疵を帯びるに至ったと考えるとしても、それはもはや不受理処分をもって対応できる場合ではなく、受理後の不受理などあり得ない。

仮に、本意匠の意匠権の存在が類似意匠登録の要件であり、かつ、被告の事後的審査による登録の拒絶が許容され適法であるとしても、本件処分は被告自身の登録義務の履行遅滞により生じた登録要件の事後的違反を理由とするから違法である。

なお、本件本意匠権は、本意匠の存続期間経過後の現在は、閉鎖意匠原簿に登録中であるから、この第二表示部に所定の事項を記入し、類似意匠の公報を発行して原告の地位を守ることは今からでも十分に可能である。

(5) 被告は国民全体の奉仕者(憲法一五条)たる行政官吏であるから、その提供する行政サービスは、それにより法の規定に明白に違反するとか他者の権利を侵害するといった事情にもない限り、国民の権利、ニーズにきめ細かに対応するものであることが要請される。また、法解釈が一律に決し得ないときは、対立利益(当該処分をすること又はしないことによる利益と不利益)を詳細に検討して解釈を検討することが原則である。本件においては、本件各類似意匠出願の類似意匠登録をすることによって、原告は次に述べる(ア)ないし(オ)の種々の利益を享受し得る一方、それによって被告及び第三者が被る不利益は皆無である。本件各不受理処分は、何人にも何の不利益も与えず、法の規定にも違反せず、本件各不受理処分をしなくてはならない差し迫った理由もなくして、一方的に原告の重大な利益を奪うものであるから、法の解釈運用を誤った違法なものである。

(ア) 法が工業所有権中意匠にのみ類似意匠制度を採用して権利の顕在化を認めたのは、意匠の類似範囲の認定がとりわけ困難なことに鑑み、その困難な類似範囲を予め確認することにより紛争の未然防止を意図したものである。原告は、過去、現在において本件各出願に係る意匠を実施してきたが、この原告の過去、現在における実施に対して第三者より権利侵害の訴えを受けるおそれがある。このような場合に類似意匠の登録を得ておけば、そのような争いを未然に防止できる。このように、この確認の利益、必要性は、意匠権存続期間中に限られず、意匠権の存続期間経過後も変わることがないのである。

(イ) 知的創作物の創作者は、創作者固有の権利として、その創作物の未来永劫にわたる実施が保障されなくてはならない。この権利を守るために法が定めるのが三一条実施権であり、この三一条実施権によって、意匠権者は自己の創作意匠を、一五年間の独占期間経過後も長きにわたって実施できるのである。そして、意匠は時代の変化、流行の変化に応じて種々改変を施していくものであるから、その改変を施した意匠が原権利の範囲内であって、三一条実施権で守られていることを対世的に確認する重大な利益がある。

なお、被告は、法二九条実施権がある旨主張するが、同実施権は、「善意に」、「事業又はその準備をしている場合に」「その実施又は準備及び事業の範囲内で」与えられるにすぎないものであるから、三一条実施権に代替できるものではない。

(ウ) 設定登録に付随する意匠公報発行(法二〇条三項)により、本件各類似意匠出願に係る意匠を公知意匠としてそれらの類似範囲にまで拒絶範囲を拡大することができ(法三条一項三号)、また右三一条実施権の存在を公示できる。

なお、被告は、本件各類似意匠には先願の地位が与えられる旨主張するが、その法的根拠は何か不明であり、また、将来変更不能なのか、本件各類似意匠出願の出願書類は、将来何年間保存しておくのか、将来紛争が生じたときに、本件各類似意匠につき、登録査定がなされた事実を被告が公的に証明することが可能か等の疑問が残る。被告が類似意匠の意匠権の設定登録をし、類似意匠の意匠公報を発行し、対世的な確認を得られてこそ原告の地位が守られ、第三者に対し原告の権利の主張、証明が容易に可能となるのである。類似意匠の意匠公報発行は、単なる反射的利益ではない。

(エ) 類似意匠登録により意匠登録証が交付され(法六二条)、そこに意匠権者及び創作者の氏名を記載することによって、それらの者の名誉を讃え得る。

(オ) 類似意匠登録により従業員規則に従って創作者に報奨金が支給され、勤務評定上有利な取扱いがなされる。

3  本件決定の違法性

(一) 原告の主張

本件決定には決定形式を誤った違法がある。本件決定は、「類似意匠の意匠権を設定登録する余地はないから、……申立ての利益を欠く不適法なもの」(決定書三頁九ないし一一行)として却下している。しかし、本件の各納付書を不受理とされた当の本人が異議申立てをしているのに、どうして異議申立ての利益がないのか理解することができない。本件の各納付書不受理処分の取消しが必然的に本件各類似意匠出願に係る類似意匠登録を意味するという当然の事理を理解すれば、本件各異議申立ての却下は法的にあり得ないのに、被告はこの点を理解せず、決定形式を誤っている。

(二) 被告の主張

本件異議決定には、原告主張の違法はないが、この点はともかく、本件異議申立ての却下決定は、被告が本案の判断事項について検討し、その結果に基づいてされたものであるから、形式的には却下の決定であって、実質的に棄却の決定と同視し得るものであるから(名古屋高等裁判所昭和四二年三月一六日判決、訟務月報一三巻五五一頁)、仮に決定形式に誤りがあったとしても、同決定を取り消すべき違法事由とはならない。

第三  当裁判所の判断

一  本件各不受理処分の取消請求について

1  訴えの利益について

被告は、本件各不受理処分又は本件決定を取り消してみても、本件各類似意匠出願に基づいて類似意匠の意匠権を登録する余地は全くないのであるから、本件訴えは、いずれも訴えの利益を欠く不適法なものである旨主張する。しかしながら、後に検討するとおり、本件各不受理処分が取り消されたときには、被告は、本件各類似意匠出願に基づいて本件各類似意匠の意匠権を登録すべきものと解されるので、被告の右主張には理由がなく、原告が本件各不受理処分の取消しを求める本件訴えには訴えの利益がある。

2  本件各不受理処分の処分性について

類似意匠の意匠権は、設定の登録により発生するものであることは後記3(二)(3)のとおりであり、また、前記第二、一の事実及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件各類似意匠の本件各登録料納付書を本件各不受理処分としたことは、単に登録料納付書を受理しないということだけでなく、本件本意匠権が存続期間満了により消滅した以上、本件各類似意匠について設定の登録をしないという趣旨の処分であることは明確である。したがって、本件各不受理処分は、本件各類似意匠の意匠権の発生、不発生に直接影響を与える処分であるから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと認められる。

3  本件各不受理処分の違法性について

被告は、前記第二、一のとおり、本件各類似意匠出願について、審査官が意匠登録をすべき旨の査定をし、原告が法定の期間内に本件各登録料納付書を提出した後に、本件本意匠権が存続期間の満了により消滅したために、本件各登録料納付書について、本件各不受理処分をしたものであるから、本件本意匠権が存続期間満了により消滅したことが本件各不受理処分をなしうる根拠となるか否かについて判断する。

(一)  不受理処分とは、一般に、行政庁に対して申請権を有する私人がする行政庁への申請に形式的な瑕疵があるために、当該行政庁が申請の実体について審理その他の行為をすることなく、形式的な瑕疵があることを理由にその申請を拒否する却下処分であり、意匠法においてこれを認める明文の根拠はないものの、申請が申請として成立するために法によって要求される本質的要件を備えておらず、しかも、その瑕疵が補正によって治癒され得ないような場合には、これを認めることができるものと解される。

(二) そこで、原告の本件各登録料納付書が、法によって要求される本質的要件を備えておらず、しかも、その瑕疵が補正によって治癒され得ないものといえるか否かについて判断する。

(1) 類似意匠登録の要件

類似意匠の制度は、本意匠の類似範囲を明確にするとともに、意匠権の保護を強化しようとしたものである。

法一〇条は、類似意匠登録の要件として、「意匠権者は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠(以下「類似意匠」という。)について類似意匠の意匠登録を受けることができる。」と規定している。既に公知となった意匠や先願の意匠と類似する意匠については、法三条、九条の規定により意匠登録出願が拒絶されるのが原則であるが、類似意匠については、その原則の例外を認めて、自己の登録意匠にのみ類似する意匠について別に類似意匠登録を受けることができるようにしたものである。

(2) 類似意匠登録の要件の審査主体、審査の基準時

法一六条は、「特許庁長官は、審査官に意匠登録出願を審査させなければならない。」と規定している。そして、法一七条は、「審査官は、意匠登録出願が次の各号の一に該当するときは、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。一 その意匠登録出願に係る意匠が第三条[意匠登録の要件]……第九条第一項若しくは第二項[先願]、第十条第一項[類似意匠]……の規定により意匠登録をすることができないものであるとき。二 ……」と規定し、また、法一八条は、「審査官は、意匠登録出願について拒絶の理由を発見しないときは、意匠登録をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定しているのである。したがって、法は、審査官が、類似意匠登録出願について、法三条[意匠登録の要件]、九条[先願]、及び、一〇条[類似意匠]その他の各要件について審査をしたうえで、拒絶査定ないし登録査定をすべきことを明記しているものである。すなわち、審査官は、類似意匠登録の出願時を基準時として、法三条(公知意匠か、周知意匠から創作容易か)、九条(先願と同一ないし類似か)、及び、一〇条(類似意匠が本意匠にのみ類似するか)の各要件について審査をすると同時に、右査定時において、類似意匠登録出願人が「自己の登録意匠」に係る本意匠権を有しているかとの法一〇条一項についての要件、及び、その他の法一七条一号ないし四号の各要件を審査し、右各号に該当する事由があるときには、拒絶査定をし、拒絶の理由を発見しないときには意匠登録をすべき旨の査定をする義務を負うものである。

また、法四六条は、「拒絶をすべき旨の査定を受けた者は、その査定に不服があるときは、その査定の謄本の送達があった日から三十日以内に審判を請求することができる。」と規定しており、審判官の合議体は、続審として、意匠登録出願の実体的要件、すなわち、法一七条一号ないし四号の各要件の存否を判断し、審判の請求が理由がある場合には意匠登録をすべき旨の審決をし(法五〇条二項、一八条、五二条、特許法一三六条一項、一五八条)、また、拒絶査定を取り消して再度審査に付するべき旨の審決をすることもでき(法五二条、特許法一六〇条一項)、さらに、審判請求が理由がない場合には、審判請求が成り立たない旨の審決をする。このように、審判官の合議体は、拒絶査定不服の審判において、審査官と同様に法一七条一号ないし四号の各号の要件の存否を判断して、意匠登録をすべき旨の審決をするかどうかを判断するものである。

そして、審査官及び審判官は、このように意匠登録出願の実体的要件の審査を行ない、意匠登録出願について審査官の名前で拒絶査定又は登録査定をしたり、審判官の合議体として審決をすることから、この審査官及び審判官の職務の重要性に鑑み、審査官及び審判官については、法一九条で準用される特許法四七条二項ないしは法五二条で準用される特許法一三六条三項において、その資格を政令で定めることとし、また、法一九条で準用される特許法四八条ないしは法五二条で準用される特許法一三九条で審査官、審判官の除斥事由を定めて、審査ないし審判の公正を担保するための規定を設けているのである。

これに対し、法六八条で準用される特許法一七条三項及び四項、一八条一項及び二項によれば、意匠登録出願に関する手続の方式違反及び登録料の不納付については、被告が補正命令をだし、指定した期間内に補正書が提出されない場合、あるいは、登録料が納付されない場合は、出願無効処分をすることができる旨規定しており、法は、意匠登録出願の手続の方式違反及び登録料の不納付を理由とする出願無効処分については、被告の権限としている。

(3)  登録料の納付と登録手続について

意匠権の設定の登録を受ける者又は意匠権者は、一件ごとに、各年度によって定められた登録料を納付する義務があるのに対し(法四二条一項)、類似意匠の意匠登録を受ける者は、登録料として、一件ごとに八五〇〇円を納付する義務が定められている(同条二項)。そして、法四二条一項の第一年分の設定登録の登録料又は同条二項の類似意匠の意匠登録の登録料は、登録査定又は審決の謄本の送達があった日から原則として三〇日以内に納付すべき義務が定められており(法四三条一項)、前記第一年分の設定登録の登録料の納付があったときは、意匠権の設定の登録をすべきこと(法二〇条二項)、及び、意匠権の設定、移転、消滅又は処分の制限については、特許庁に備える意匠原簿に登録すること(法六一条一項一号)、意匠権の設定、消滅(放棄によるものを除く。)又は回復についての登録は、被告が職権でしなければならないこと(法六一条三項、意匠登録令六条一号)、並びに、意匠権は設定の登録により発生すること(法二〇条一項)が各規定されている。また、法二二条の本意匠権と類似意匠の意匠権との合体の規定を受けて、意匠登録令施行規則五条は、「類似意匠の意匠権の設定の登録をするときは、その意匠権が合体する意匠権の登録に第二表示部として意匠登録出願の年月日、意匠登録出願の番号、査定または審決があった旨およびその年月日、意匠法施行規則第五条の規定による物品の区分ならびにその意匠権が類似意匠の意匠権である旨およびその登録番号を記録しなければならない。」と規定し、類似意匠の意匠権が本意匠の意匠権の第二表示部に登録されること、及び、その登録が類似意匠の意匠権の設定の登録であることを明記している。

右によれば、類似意匠の意匠登録については、被告は、登録査定又は審決があり、かつ、その謄本の送達があった日から原則として三〇日以内に登録料の納付があったときは、類似意匠の意匠権を本意匠の意匠権の登録の第二表示部に類似意匠の意匠権として設定の登録をすべき義務を負うことが規定されているものと解すべきである。

このような法の定めからみると、法は、方式違反等の形式的要件の審査は、被告に委ね、類似意匠も含め、意匠登録をすべきかどうかの実体的要件の審査は、審査官ないしは審判官に委ねていること、及び、本意匠の意匠権が存在すること等も含め、類似意匠についての登録要件の審査は、審査官が査定時に判断すべきこと、あるいは審判官が審決時に判断すべきこと、そして、登録査定後は、法の定める額の登録料が法定期間内に納付されれば、被告は、類似意匠の意匠権の設定の登録をすべき義務を負うとしているものであり、被告が類似意匠を登録すべき時点において、改めて類似意匠の登録要件、例えば、本意匠権が存在すること等について審査をすることを法は予定していないものと解すべきである。

以上によれば、被告は、本件各類似意匠出願については、前記認定のとおり、審査官による登録査定時に本件本意匠権が存在していたのであり、審査官が他の実体的要件も含めて審査をしたうえで登録査定をし、出願人が法定期間内に法の定める額の登録料を納付していたのであるから、本件各類似意匠出願に基づく類似意匠の意匠権の設定の登録をすべきものであったのであり、本件本意匠権が登録時において存在しているかどうかを審査し、本件本意匠権が期間満了により消滅していたことを理由として、本件各登録料納付書について本件各不受理処分をなすべき法的な根拠を有していなかったものといわざるを得ない。

なお、意匠登録令四条は、「特許庁長官は、意匠権(類似意匠の意匠権を除く。)の消滅の登録をしたときは、通商産業省令で定めるところにより、意匠登録原簿における当該意匠権に関する登録を閉鎖意匠原簿に移さなければならない。」と規定しており、本件本意匠権も存続期間満了により消滅した後に、被告が職権により消滅の登録をし、これを既に閉鎖意匠原簿に移しているのであるが、このような場合においても、前記の意匠登録令施行規則五条に従って、本件本意匠権の閉鎖意匠原簿に類似意匠の意匠権の登録をすることは可能である。

(4) 被告は、「類似意匠は、合体すべき本意匠の意匠権が消滅したときには、意匠権として発生し得ないものであり、本件のように、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅した場合には、類似意匠の意匠権が発生する余地はない。……そして、意匠権の設定登録は、意匠権を付与すべき手続の一環をなしているものであって、権利付与行為の一部と解すべきものであるから、右のとおり権利を付与すべきでない出願について、設定登録することができないことは当然である。」としたうえで、「原告のように登録を受けられない者からの申出は、本質的要件を欠いた不適法なものであり、右瑕疵は補正によっても治癒され得ないものである。」旨主張するが、本件のように、類似意匠登録出願の登録査定及び類似意匠の登録料納付の時点において本意匠権が存在していたものの、類似意匠の意匠権を登録する時点において、本意匠権が存続期間満了により消滅している場合については、前記のとおり、類似意匠登録出願について適法に登録査定がなされ、法定の期間内に適法に登録料が納付されている以上、これについて登録時にさらに本意匠に係る意匠権の存在等も含めた実体的要件の審査をすることは法が予定していないものであるから、被告が本件各登録料納付書について本件各不受理処分をなしうる理由はないものといわざるを得ない。

また、本件各類似意匠の意匠権は、既に存続期間満了により消滅している本件本意匠権に合体すべき類似意匠の意匠権として発生するものであり、その発生と同時に存続期間が満了している本件本意匠権と合体して存続期間が既に消滅している権利となると解することは、意匠法全体の構成と特に矛盾するものではない。すなわち、類似意匠の意匠権は、本意匠の意匠権と合体するものであるから、その存続期間は本意匠の意匠権の存続期間により決定されるのであるところ、意匠登録をすべき旨の査定後、登録料の納付書の提出と意匠権の設定登録までに一定の期間が経過せざるを得ない以上、本件のように類似意匠の意匠権を設定登録する時点で既に本意匠の意匠権の存続期間が満了している意匠権が生じることは、意匠法上予想されるところであるのに、意匠法がこのような場合について、被告が類似意匠の意匠登録を拒否できる等の特段の手当をしていないこと、及び、意匠権の合体といっても、観念的な意味での合体であり、本意匠の意匠権が無効審決の確定により遡及的に消滅しているような場合を除き、過去の存続期間内において本意匠の意匠権として存在していた権利と類似意匠の意匠権とを観念的に合体させることは可能であることからすれば、既に消滅した本意匠権と類似意匠権とを合体させることは不可能であるとの考えに基づき、本件各類似意匠出願について設定登録を否定するのは相当ではない。

また、被告は、特許権の場合に存続期間満了後の設定登録を認めているが、特許権も設定の登録により発生するものであり(特許法六六条一項)、設定の登録により発生したにもかかわらず、既に存続期間が満了しており、存続期間満了の特許権として登録されるものがあることをその取扱いとして認めているのであるから、類似意匠の意匠権の場合においても、設定の登録による権利の発生と権利の存続期間とは観念的に別個のものとして考えるべきであり、存続期間満了の意匠権として登録されるものがあることをその取扱いとして認めない理由はない。

なお、被告は、存続期間満了後の特許権の設定登録の問題について、これは、「特許法の特殊性に鑑みての救済措置であって、法に定める処理として意匠登録に類推し得る処理ではない」旨主張する。すなわち、「特許出願人は、特許出願について出願公告がされると業としてその特許出願に係る発明を実施することができる(平成六年法律第一一六号による改正前の特許法五二条一項。以下本項について同じ。)という、いわゆる仮保護の権利が与えられるところ、仮保護の権利者は、第三者に対して、差止請求権、損害賠償請求権を行使することができる(特許法五二条二項)ものの、最終的に特許権が付与されなかった場合は、損害賠償責任(無過失責任)を負う(特許法五二条四項)ものであり、そして、特許出願について、出願公告後、拒絶査定等により、設定登録をするまでに、特許権の存続期間が満了する場合が生じ、この場合に、最終処分である特許権の設定登録をしないと、出願公告による仮保護の権利及び損害賠償責任の帰趨が極めて不安定になってしまうという事態が生じるのに対し、法においては、設定登録前に出願人に特別な権利はなく、特許法におけるような問題は全く生じないのであるから、本意匠の意匠権の存続期間満了後において、類似意匠の登録をする利益はない」との主張である。

確かに、意匠法においては、仮保護の権利を認めていないことは被告の主張するとおりである。しかし、特許法五二条四項は、「第一項の権利を有する者がその権利を行使した場合において、当該特許出願が放棄され取り下げられ若しくは無効にされたとき、又は当該特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したときは、その者は、その権利の行使により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。」と規定しているのであり、この規定によれば、「特許出願が放棄され取り下げられ若しくは無効にされたとき」又は「拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき」に損害を賠償する責めに任ずるのであって、例えば、「特許査定」があったものの出願から二〇年の期間が経過している場合には、本件と同じように特許料納付書を不受理処分として特許権の設定の登録をしないとの措置を取ったとしても、特許査定があったのであり、拒絶査定若しくは審決が確定しているわけではないので、仮保護の権利を有する者が、同条項によって、損害を賠償する責めに任ずると解する必要はないのである。したがって、被告が特許権の場合を類似意匠の意匠権の場合と区別して取扱い、特許権の場合においてのみ設定の登録を認める理由は、十分なものであるということはできず、むしろ、特許権の場合と同様に、類似意匠の意匠権の場合でも、意匠登録をすべき旨の査定後に存続期間が満了したとしても、類似意匠の意匠権の設定の登録を認めるべきである。

(5) 本件のような場合において、本意匠権の存続期間満了後に類似意匠の意匠権を登録することを認めるとすれば、次のような利益が意匠権者側に生じるのに対し、このような登録を認めることによって被告あるいは第三者が被る不利益は特に見当たらないものであるから、この点からも、本件について類似意匠権の設定登録を拒否することは相当ではない。

(ア) 類似意匠とは、そもそも本意匠の類似範囲を明瞭に把握することが困難であることから、本意匠の類似範囲を明確に確認するための制度であり、本意匠の意匠権が消滅した後でも、第三者に対し、本意匠の意匠権が消滅する以前の過去の意匠権の侵害行為を理由として損害賠償を請求する場合があったり、逆に、第三者が有する意匠権に基づき、本意匠の意匠権が消滅する前の行為について意匠権侵害の主張をされるおそれがあることを考えると、本意匠の類似範囲を明確にする必要性が存するのであり、類似意匠の意匠権を登録し、意匠公報を発行して、既に存続期間満了により消滅した本意匠の意匠権の類似範囲を対外的に明示する意味が存する。

(イ) 法三一条は、登録意匠相互間で類似意匠の範囲が抵触する場合に、同日出願又は先願の意匠権の存続期間が満了したときは、その原意匠権者は、原意匠権の範囲内において、当該意匠権又はその意匠権の存続期間の満了の際現に存する専用実施権について通常実施権を有する旨規定しているものであり、この三一条実施権によって、意匠権者は自己の登録意匠を類似意匠の範囲も含めて、意匠権の存続期間満了後も将来にわたって実施できるのであるところ、意匠は、時代の変化、流行の変化に応じて種々改変を施していくものであるから、登録意匠の類似の範囲を確認し、これが三一条実施権で守られていることを第三者に示すために、本意匠の存続期間の経過後であっても、類似意匠を登録する利益があるということができる。

(ウ) 設定登録に付随する意匠公報発行(法二〇条三項)により、本件各類似意匠出願に係る意匠を公知意匠としてそれらの類似範囲にまで拒絶範囲を拡大することができ(法三条一項三号)、また右三一条実施権の存在を公示することができる。

(6) 被告は、本件各類似意匠出願について登録をなしえない根拠として、法一〇条一項について「「登録意匠」とは意匠登録を受けている意匠をいい(法二条二項)、「意匠権者」とは「登録意匠」に係る権利者をいう(法二三条等)のであって、意匠登録を受けている意匠が存続期間満了により消滅した場合には、当該意匠はもはや「登録意匠」とはいえないし、その権利者は「意匠権者」ではなく、原意匠権者(法三一条参照)となる」旨主張するが、法一〇条の要件中、出願人が「意匠権者」であり、「登録意匠」を有しているかどうかについては、審査官が登録査定ないし拒絶査定をなすとき、ないしは、審判官が審決をなすときに判断すべき事項であることは前記のとおりであり、本件のように登録査定時に右要件を具備しているものについては、その登録を妨げる事由は存在しないのであり、被告の右主張は、類似意匠について、登録時において法一〇条の右要件を具備しているかどうかを被告が審査すべきことを前提としているものであるから、これを採用することはできない。

また、被告は、第二、三1において、本件本意匠権が平成三年一一月一〇日をもって消滅している以上、本件各類似意匠の意匠登録を受ける権利も本件本意匠権の消滅とともに法律上当然に消滅している旨主張する。しかし、法二二条は、類似意匠の意匠権は、本意匠の意匠権と合体する旨を規定しており、本意匠権について生じた一定の法律上の効果、例えば、権利の移転、実施権又は質権等の設定、及び、無効審決の確定、登録料不納付による出願無効処分等により生じる法律上の効果は、類似意匠の意匠権についても及ぶものである(法四九条二項も、「本意匠の意匠登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは、その類似意匠の意匠登録は、無効になる。」と明文で規定している。)が、本意匠権について生じた一定の法律上の効果が、類似意匠の創作により生じるとされている類似意匠の意匠登録を受ける権利についても当然に及び、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅したときに、類似意匠の意匠登録を受ける権利が法律上当然に消滅するものと解すべきではない。すなわち、法二二条は、「類似意匠の意匠権」が本意匠の意匠権と合体する旨を規定しているのであり、類似意匠の意匠登録を受ける権利が本意匠の意匠権と合体するとは規定していないものであること、及び、法四九条二項も「類似意匠の意匠登録」が無効になると規定しており、類似意匠の意匠登録を受ける権利が無効になるとは規定していないものであること、さらに、類似意匠の意匠登録を受ける権利は、類似意匠の創作により生じるものであって、これは、設定登録により発生する類似意匠の意匠権とは法的に異なるものであることからすれば、類似意匠の意匠登録を受ける権利が本意匠の意匠権と合体することは、そもそも法二二条が予定していないところであると解すべきであり、したがって、類似意匠の意匠登録を受ける権利は、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅した場合に法律上当然に消滅するものということはできない(類似意匠の意匠登録出願中で査定前に、本意匠の意匠権が存続期間満了により消滅した場合には、当該出願は、法一〇条の要件等を具備しないものとして、拒絶査定を受けるとの手続を経て処理されるべきであり、類似意匠の意匠登録を受ける権利が法律上当然に消滅し、これについては、何等の処分をすることも要しないと解することはできない。)。

(7)  被告は、類似意匠制度について、類似意匠の意匠権は、本意匠の範囲を確認するだけのものではなく、その範囲を類似意匠の類似の範囲まで拡張するものであるとするいわゆる拡張説の立場から、既に本意匠の意匠権が消滅している場合には、遡って既に消滅した権利の類似範囲を拡大しても意味かない旨主張するが、類似意匠の意匠権について、被告が主張するような拡張説の立場は採りえず、本意匠の類似範囲を確認するだけのものにすぎない旨の確認説の立場を明示する裁判例(東京高判平成六・三・九判時一五〇六号一三六頁)があるだけでなく、本件は、そもそも登録査定後に本意匠の意匠権の存続期間が満了した類似意匠の意匠権について設定の登録をすべきかどうかの問題であり、設定登録により生じた類似意匠の意匠権についてどのような効果を認めるべきかの問題ではないのであるから、いわゆる拡張説と確認説の問題とは本来別個の問題としてその結論をだすべきであり、本件について、類似意匠制度の本質論である拡張説と確認説について判断する必要はないというべきである。

(三) 以上によれば、本件各不受理処分は、何ら本質的瑕疵を有しない登録料納付書についてされたものであるから、その要件を欠き違法であることが明らかである。

二  本件決定の取消請求について

本件においては、原処分たる本件各不受理処分が違法であって、これを取り消すべきことは、前記一認定のとおりであるから、これとは別に本件決定の取消しを求める訴えの利益はない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官設樂隆一 裁判官橋本英史 裁判官大須賀滋は、転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官設樂隆一)

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