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東京地方裁判所 平成7年(特わ)2597号 判決 1996年1月12日

国籍

韓国

住居

東京都大田区南千束三丁目二一番一〇号

会社役員

春岡広志こと陳鶴春

一九三八年一一月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官竹田邦彦、弁護人神宮壽雄各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都大田区南千束三丁目二一番一〇号に居住し、同都世田谷区大原二丁目一七番一二号ほか三か所において「パチンコジャンボ代田橋店」等の名称で遊戯場を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年分の実際総所得金額が一億六二〇三万二六四〇円(別紙1の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、東京都大田区雪谷大塚町四番一二号所轄雪谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が五一四五万八六七八円でこれに対する所得税額が二〇五六万三五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成二年分の正規の所得税額七五八五万〇五〇〇円と右申告税額との差額五五二八万七〇〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が一億一七五三万二五二九円(別紙2の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一二日、前記雪谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が四九五四万八一五六円でこれに対する所得税額が一九三二万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額五三三一万七〇〇〇円と右申告税額との差額三三九九万二五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が一億〇八六五万八九〇八円(別紙3の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記雪谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が七九九〇万三八六二円でこれに対する所得税額が三四八四万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額四九二二万二五〇〇円と右申告税額との差額一四三七万七五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  佐藤芳明(三通)及び春岡序旺の検察官に対する各供述調書

一  鈴木治行の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書、通信費調査書、給料賃金調査書、雑費調査書、青色申告控除額調査書及び領置てん末書

一  雪谷税務署長作成の証明書

一  検察事務官作成の税務署所在地に関する捜査報告書

判示第一及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の仕入金額調査書

判示第二及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書及び利子割引料調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書

一  押収してある平成二年分の所得税確定申告書等一袋(平成七年押第一八一六号の1)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の2)

判示第二の事実について

一  押収してある平成三年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の3)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の4)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の期末商品棚卸高調査書、荷造運賃調査書、水道光熱費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、地代家賃調査書、支払手数料調査書及び諸会費調査書

一  検察事務官作成の売上金額に関する捜査報告書

一  押収してある平成四年分の所得税確定申告書等一袋(同押号の5)及び所得税青色申告決算書等一袋(同押号の6)

(法令の適用)

※ 以下の「刑法」は、平成七年法律第九一号による改正前のものである。

一  罰条

いずれも所得税法二三八条一項(第一の罪の罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)、二項(情状による)。

二  刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科。

三  併合罪の処理

刑法四五条前段。懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)。罰金刑につき同法四八条二項。

四  労役場留置 刑法一八条。

五  刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

(量刑の理由)

本件は、パチンコ店を経営していた被告人が、三年度にわたり、合計一億〇三六五万円余の所得税をほ脱した虚偽過少申告ほ脱犯の事案である。ほ脱税額は決して少ないとはいえず、犯行態様も、従業員に対して売上を一部除外し、除外した分を現金で持参させた上、不正な売上帳・出納帳を作成させるなどしたものであり、相当悪質である。他方、本件のほ脱率は通算約五八・一パーセントであり、同種事犯の中ではさほど高率とはいえないし、しかも、ほ脱率は平成二年分が約七二・九パーセントと最も高く、平成四年分が約二九・二パーセントと最も低くなっている。被告人は事実を認めて反省の態度を示しており、国税当局の指導に従い、本件三年分の所得税のほか地方税も、各附帯税を含め完納している。被告人には古い罰金前科以外には前科がない。

以上のほか一切の事情を総合考慮し、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 安廣文夫)

別紙1

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙2

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙3

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

春岡広志こと

陳鶴春

(1) 平成2年分

<省略>

(2) 平成3年分

<省略>

(3) 平成4年分

<省略>

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