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東京地方裁判所 平成7年(ワ)9308号 判決 1996年10月31日

原告

甲田一郎

右訴訟代理人弁護士

米川長平

被告

甲田次郎

右訴訟代理人弁護士

川島俊郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成三年六月ころ、被告に対し、金一〇〇〇万円を左記の約定で貸し渡した。

返済期限 被告の石材業が軌道に乗ったとき

利息 利息付きとする

2  被告は、平成六年五月二四日、石材の加工及び販売等を目的とするA株式会社の全株式を、訴外乙川三郎から譲り受け、そのころA株式会社の代表取締役社長に就任し、A株式会社の経営を通じ、被告の石材業は、同年七月末日ころ、軌道に乗った。そうでないとしても、同年一二月末ころには軌道に乗ったものであり、又は、平成八年七月三日当時には軌道に乗った。

3  よって、原告は、被告に対し、利息付き金銭消費貸借契約に基づき、貸金一〇〇〇万円及びこれを貸し付けた日の後である平成三年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による右貸金に対する利息の支払を求める。

二  請求原因に対する認否等

1  請求原因1のうち、原告が、平成三年六月ころ、被告に対し、金一〇〇〇万円を貸し渡したことは認め、その余は否認する。返済時期及び利息について合意はなく、返済期限を約したと評価されるとしても、被告の石材業が成功したときといういわゆる出世払いの合意がされたにすぎない。

2  同2のうち、被告が、平成六年五月二四日、訴外乙川から、石材の加工及び販売等を目的とするA株式会社の全株式を譲り受け、その代表取締役社長に就任したことは認め、その余は否認する。

三  抗弁(一部弁済)

被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円の借金債務の返済として、平成三年七月から平成六年四月まで毎月二〇万円ずつ合計金六八〇万円を支払った。

四  抗弁に対する認否等

被告主張のとおり合計金六八〇万円を受け取ったことは認めるが、その余は否認する。原告は、被告の石材業の仕事を手伝った給与として、右金員を受け取ったにすぎない。

第三  証拠<省略>

理由

一  原告が、平成三年六月ころ、被告に対し、金一〇〇〇万円を貸し渡したことは、当事者間に争いがない。

右貸渡金(以下「本件金員」という。)の返済期限については、原告及び被告の各本人尋問の結果によれば、被告は、本件金員を、被告が独立して石材卸売業を開業する資金の一部として、養親であり、かつ、その独立開業の利益を被告とともに少なからず享受する見込みがあった石工である原告から融通を受ける際に、被告の当該石材卸売業が軌道に乗ったときに返す旨を原告に約束したことが認められ、他に右認定を左右すべき証拠はない。

原告は、本件金員の貸借を利息付きとする旨を被告が約定したと主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに副う供述部分があるが、右供述部分によっても、その利率及び付利息の始期は判然とせず、かつ、原告が本件金員を貸し渡した後平成六年末ころまでの約三年半の間全く利息の支払いを請求した跡がないことに照らすと、原告本人尋問の結果中の右供述部分は不自然で信用できず、他に被告が本件金員に利息を付して支払う旨を約束したことを認めるに足る証拠はない。

二  そこで、被告の本件金員の返済期限が到来したかどうかについて検討するに、被告が、平成六年五月二四日、訴外乙川から、石材の加工及び販売等を目的とするA株式会社の全株式を譲り受け、その代表取締役社長に就任したことは、当事者間に争いがない。

原告は、右事実をもって被告が個人営業として平成三年六月ころから独立して開始した石材卸売業が会社組織となったことを示すものであり、石材センターとしての営業の展開により平成六年七月末ころ若しくは同年末ころ又は遅くとも平成八年七月ころには、その石材卸売業が軌道に乗ったものと主張する。

しかしながら、本件金員がその事業資金の一部となった被告の石材卸売業は、被告がそれ以前約一〇年間勤務した石材卸売業者であるB有限会社を退社の上独立して一から開始した事業であり、本件金員のほか、被告自身の自己資金六〇〇万円と母C子からの援助金四〇〇万円が資金となっていること、A株式会社の前オーナーの乙川も被告がB有限会社時代からの知り合いであり、被告が独立後も被告との取引を続けてくれた客であること、被告がその乙川から譲り受けたA株式会社の発行済み株式全部の六〇株の譲受代金が二一〇〇万円であることは、当事者間に争いがないところ、これらの事実に加え、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右の二一〇〇万円のうち被告本人の自己資金は四〇〇万円にすぎず、内金七〇〇万円はB有限会社時代からの知り合いの墓園業者から借り入れ、内金六〇〇万円は被告の妻の実家から借り入れ、内金四〇〇万円をA株式会社自体の現金を借りて合計二一〇〇万円を調達したこと、そして、これらの借入金が平成八年初めのころにおいてもなお数百万円分残っていること、A株式会社の平成七年度の申告法人所得は七〇〇万ないし八〇〇万円であるが、格別の不動産その他の固定資産はなく、流動資産等を中心として総資産から負債総額を控除した純資産額が簿価においてなお数百万円程度にとどまっていることが認められ、これらの事実をも合わせ考慮すると、被告の石材卸売業は、なお、本件金員一〇〇〇万円を即時に返済することができる程度にその純利益を蓄積するには至らず、また、本件金員一〇〇〇万円を返済するためその金額を他から借り入れても経営上の不安定要因とならない程度にその営業が軌道に乗るには至っていないものというべきである。すなわち、被告がA株式会社の全株式を取得してその代表取締役社長となり、その営業を展開して平成八年七月ころに至ったとしても、なおその経営基盤は個人営業の域、水準を大きく抜け出ておらず、被告の石材卸売業が軌道に乗ったということはできない。そして、以上に見たものの他に被告の石材卸売業が本件金員一〇〇〇万円を即時に返済することができる程度に軌道に乗ったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告の原告に対する本件金員の返済期限は、未だ到来していないものといわなければならない。

三  ところで、原告が平成三年七月から平成六年四月まで、被告から、毎月二〇万円合計六八〇万円の支払を受けていた事実は、当事者間に争いがない。

原告本人尋問の結果によれば、原告が、平成三年七月から被告の営業事務所に朝早くから詰めて電話番や掃除をしたり、種々の雑務を手伝い、平成四年五月ころから同五年四月ころまでの間には、右電話番等以外に、被告が他に取り次ぐべき建て込み仕事を特段の報酬を受け取ることなく果たしていたこと、そして同年五月ころからは、原告は、被告から一件当たり二〇万円程度の報酬を受けながらその建て込み仕事を請け負うようになったこと、しかし、被告から毎月二〇万円の支払が続けられ、原告が電話番等の雑務を続けていたこと、原告が被告の他の従業員から会長と呼ばれ、一緒に被告の石材卸売業のために働く同士と見られていたことが、それぞれ認められる。このような事実にかんがみると、前記合計六八〇万円の支払は、石材卸売業を経営する被告からの原告に対する給与であったと認めるのが相当である。

これに対し、被告は、右支払は、給与ではなく、本件金員の一部弁済金であると主張するが、本件金員の返済が前記のとおり被告の石材卸売業が軌道に乗るまで猶予されていたのに、毎月二〇万円という定額で一部弁済を続ける合理的理由がないこと、原告が毎月支払われる二〇万円に見合う労力を提供していたと認められる期間が、前記のとおり毎月の二〇万円の範囲内で建て込み仕事に従事していた平成四年五月ころから同五年四月ころまでであり、それ以外の期間については、必ずしも二〇万円に見合う労力が原告によって提供されていたとはいいがたいものの、原告が被告の養父であって、被告が石材卸売業者として独立する際に本件金員の融通を含め多大の援助を受けており、原告と被告の関係がA株式会社買収の半年位後ころまでは非常に良好であったため、被告が原告を会長として遇し、給与として月々二〇万円程度の手当を給することは十分道義に適っていることに照らすと、被告の前記主張は採用の限りでない。

よって、被告の一部弁済の抗弁は、理由がない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官雛形要松)

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