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東京地方裁判所 平成7年(ワ)5576号 判決 1997年3月10日

原告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

比佐和枝

外三名

被告

あさひ銀クレジット株式会社

右代表者代表取締役

後藤茂

右訴訟代理人弁護士

山本晃夫

尾崎達夫

杉野翔子

鎌田智

藤林律夫

伊藤浩一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

東京地方裁判所平成四年(ケ)第四四二八号不動産競売事件につき平成七年三月二〇日に作成された配当表のうち、被告に対する配当額が二三〇一万二六七〇円とあるのを二二六八万七三七〇円に、原告(葛飾税務署)に対する配当額が七九万四〇八〇円とあるのを一一一万九三八〇円にそれぞれ変更する。

第二  事案の概要

原告は、数度にわたり一部納付されたものの未納がある租税債権に係る延滞税について、交付要求書に「法律上の金額 要す」と記載して交付要求したが、執行裁判所は、その延滞税の額について、交付要求書の記載に従い、一部納付後の本税額及び法定納期限等の日の翌日を起算日として計算して配当表を作成した。

そこで、原告は、右の交付要求の効力について、右交付要求書に具体的な金額の記載がなくとも、一部納付される前の本税額を基礎とし、本税の法定納期限の日の翌日を起算日として算出される延滞税の額の全額にその効力が及ぶとして、配当表の変更を求めた。

争点は、右の交付要求の効力が、交付要求書の記載に従って算出される額を超えて、一部納付前の本税額及び法定納期限の日に対応する延滞税の額に及ぶか否かである。

一  争いのない事実等

1  東京地方裁判所民事第二一部(以下「執行裁判所」という。)は、平成四年一二月二一日、被告が抵当権に基づき申し立てた訴外藤井健二(以下「滞納者」という。)の所有に係る別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を目的とする不動産競売事件(平成四年(ケ)第四四二八号事件。以下「本件競売事件」という。)について、不動産競売の開始を決定した上、民事執行法一八八条において準用する四九条一項に基づき、配当要求の終期を平成五年七月二六日と定め、執行裁判所書記官において、同年六月四日、葛飾税務署らに対し、債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき旨を催告した。〔甲四〕

2  原告(所管庁葛飾税務署長)は、平成五年三月二三日、国税徴収法(以下「徴収法」という。)六八条及び滞納処分と強制執行等の調整に関する法律(以下「滞調法」という。)三六条において準用する同法二九条一項の規定により、滞納者に係る別紙租税債権目録一記載の租税債権につき別紙物件目録一及び二記載の不動産を差し押さえ、同日、執行裁判所に対し、滞調法三六条において準用する二九条二項及び徴収法八二条一項に基づき、右各不動産を差し押さえた旨及び右各不動産の換価代金につき交付要求をする旨の「差押(通知)書及び交付要求書」を送付し、同書面は、同月二六日、執行裁判所に到達した。〔甲三〕

また、原告は、右と同様、平成五年六月八日、滞納者に係る別紙租税債権目録二記載の租税債権について、別紙物件目録三記載の不動産を差し押さえ、同日、執行裁判所に対し、右不動産を差し押さえた旨及び右不動産の換価代金につき交付要求をする旨の「差押(通知)書及び交付要求書」を送付し、同書面は、同月一四日、執行裁判所に到達した。〔甲七〕

3  ところで、右各書面(以下、併せて「本件交付要求書」という。)には、交付要求に係る租税債権のうち昭和五四年度分の期限後申告に基づく所得税の租税債権(以下「本件租税債権」という。)について、納期限を昭和五七年二月二四日、本税を四万円、延滞税を「法律による金額 要す」、法定納期限等を昭和五七年二月二四日と記載されている。

なお、本件交付要求書に記載された本件租税債権の本税額は、昭和五七年二月二四日においては二七万六二〇〇円であったが、別紙滞納額推移表記載のとおりの納付を受けた結果、平成四年九月三〇日においては四万円となった。〔弁論の全趣旨〕

4  執行裁判所は、本件不動産が二四五八万円で売却されたので、その配当期日を平成七年三月二〇日と定めた上、各債権者に対し、同年二月二二日付けの「配当期日呼出状及び計算書提出の催告書」を送達した。

そこで、原告は、同年三月二日、執行裁判所に対して、右各交付要求に係る租税債権について、滞納現在額計算書(以下「本件計算書」という。)を提出した。本件計算書には、本件租税債権について、納期限を昭和五七年二月二四日、本税を四万円、延滞税を三九万九七〇〇円、法定納期限等を昭和五七年二月二四日と記載されている。〔甲九〕

なお、右の延滞税の額は、国税通則法(以下「通則法」という。)に従い、一部納付される前の本税額である二七万六二〇〇円を基礎とし、法定納期限の翌日である昭和五五年三月一六日から計算した額である。〔弁論の全趣旨〕

一方、被告は、前記の抵当権によって担保される債権額を記載した債権計算書を執行裁判所に提出した。

5  執行裁判所は、平成七年三月二〇日の配当期日において、本件競売事件において原告の受けるべき配当の額を七九万四〇八〇円とし、被告の受けるべき配当の額を二三〇一万二六七〇円とする別紙配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。

本件配当表においては、本件租税債権に係る延滞税について、本件交付要求書に記載された本税四万円及び法定納期限等昭和五七年二月二四日を基礎として、七万四四〇〇円と計算している。〔弁論の全趣旨〕

6  原告は、平成七年三月二〇日の本件競売事件の配当期日において、民事執行法一八八条において準用する八九条一項に基づき、原告の受けるべき配当の額を一一一万九三八〇円とし、被告の受けるべき配当の額を二二六八万七三七〇円とすべき旨の配当異議の申出をした。

右の主張に係る原告の受けるべき配当の額は、本件配当表上の配当の額に、本件計算書に記載された本件租税債権に係る延滞税額三九万九七〇〇円と配当表上の前記延滞税額七万四四〇〇円の差額三二万五三〇〇円を加算したものである。

二  争点に関する当事者の主張

(原告)

1 本件租税債権の延滞税の額の計算において、その基礎とすべき本税額は、交付要求書に記載された一部納付後の残本税額四万円ではなく、一部納付前の本税額二七万六二〇〇円である。その理由は、以下のとおりである。

(一) 延滞税は、その計算の基礎となる本税の未納が続く限り、その本税の未納額について未納期間に対応して発生するものであって(通則法六〇条、六二条)、本税が完納された時点で初めて具体的金額が確定するものであるから、本税の完納日を予測できない交付要求時点においては、延滞税の確定額を交付要求書に記載することは不可能である。

したがって、原告は、本件交付要求書において、本件租税債権に係る延滞税につき、通則法の規定により算出される金額を要求する趣旨で「法律による金額 要す」と記載した。

(二) 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)三六条一項二号によれば、交付要求書に記載すべき事項として、「交付要求に係る国税の年度、税目、納期限及び金額」と定め、他方、法定納期限、本税が確定した経緯及び重加算税対象本税額の記載を求めていないことからすると、右の趣旨は、交付要求書において、その記載自体から当該交付要求に係る国税を特定し、いかなる税のいかなる額を要求するかを明らかにすることにあり、交付要求に係る延滞税の額の計算を可能とすることにあるものではない。

(三) 税額未確定の延滞税について、各税目の年度及び納期を明らかにした上、税額について「要」と記載する取扱いは、現行の徴収法が施行されたときから三〇有余年の長期にわたり、また民事執行法が施行された後からでも約一三年の長期にわたって、執行実務上適法と認められている。それにもかかわらず、右交付要求の効力を否定することは、従前の慣行を無視し、徴収実務の秩序を乱すもので、徴収法一条の趣旨に反する。

(四) 執行裁判所が、不動産競売手続を実施するに当たり、売却条件、超過売却の可能性の存否(民事執行法七三条)及び剰余の有無(同法六三条)を検討するため、債権届出額や交付要求額を概ね把握することが実務上行われていることは確かであるが、あくまで概ねの債権額による概ねの配当を想定して売却を実施しているにすぎないから、交付要求権者が本税に附帯する延滞税の金額を交付要求していることが明らかであり、その交付要求している範囲も右記載から合理的に予測されるにもかかわらず、単に具体的金額が定かではないからといって、その交付要求を無視して配当することは、不合理であり、徴収法施行令三六条一項二号の解釈において重大な誤りをおかしている。

2 本件租税債権の延滞税額の計算に当たっては、本税の法定納期限(通則法二条八号に規定する法定納期限をいう。所得税法一二〇条)の日(昭和五五年三月一五日)の翌日を起算日とすべきであり、その法定納期限等(徴収法一五条一項に規定する法定納期限等をいう。)の日(昭和五七年二月二四日)の翌日を起算日とすべきではない。

延滞税の額は、通則法六〇条二項の規定により、法定納期限の翌日から計算されなければならないものであり、国税と質権との優先劣後を判断するための基準となる徴収法一五条一項に定める法定納期限等に拠るものではない。

3 以上のとおり、執行裁判所の作成した本件配当表は、本件租税債権に係る延滞税について徴収法及び通則法の適用を誤ったものであるから、法令に従い、原告の受けるべき配当額を一一一万九三八〇円、被告の受けるべき配当額を二二六八万七三七〇円と変更すべきである。

(被告)

1 本件租税債権に係る延滞税について、本件交付要求書において、昭和五四年分の申告所得税欄の本税の欄に「四万円」と、その延滞税の欄に「法律による金額 要す」と記載されているのみであるから、右延滞税についての交付要求の効力は、本件交付要求書に記載された本税額四万円に限られると解するべきである。

(一) 延滞税の性格から、交付要求時にその額を確定することができないとしても、少なくとも交付要求時の一時点に限定すれば未納の本税額を確定することができるのであるから、交付要求書の延滞税の欄に延滞税の計算の基礎となるべき本税額を記載すべきである。これは、私債権者が、その配当要求において、利息又は遅延損害金の計算の根拠として、配当要求時の元本額、利率及び期間を明示して配当要求書に記載し、その後の任意弁済等の事情による元本額の変動等については債権計算書で調整していることとの均衡からしても、当然である。

(二) 徴収法施行令三六条一項二号において、交付要求に係る国税の金額を記載しなければならないとする趣旨は、右金額をもって配当表の作成の基礎とすることにあるのみならず、配当要求の終期における各債権者の総債権額を把握することによって、差押債権者が他の差押目的物を捜す必要性を判断し、債務者が交付要求に対する不服申立てをする必要性を判断するほか、差押債権者や配当要求債権者が徴収法八五条一項の規定による交付要求を解除すべきことを請求する機会を与えることにあるから、交付要求書における金額の記載は、明確でなければならない。

2 延滞税の計算の起算点についても、本件交付要求書の記載によるべきであるから、昭和五四年の申告所得税について、納期限の欄及び法定納期限等の欄において記載されている「昭和五七年二月二四日」によるべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  担保権の実行としての不動産競売手続において、競売開始決定に係る差押えの効力が生じた場合に、執行裁判所により配当要求の終期が定められたときは、民事執行法一八八条において準用する四九条二項の規定により、裁判所書記官によって届出の催告を受けた債権者らは、債権(利息その他の附帯の債権を含む。)の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届出をしなければならず、右事項の届出をしなかったとき又は不実の届出をしたときは、これにより生じた損害賠償義務を負い(同五〇条)、他方、配当要求の終期までに配当要求をしなかった債権者は、強制競売等を申し立て、又は配当要求をしない限り、売却代金等の配当等を受けることはできない(同法八七条一項二号)。また、租税債権の徴収権者も、交付要求により配当を受けるためには、配当要求の終期までにこれをしなければならない(最高裁昭和六三年(オ)第三五号平成二年六月二八日第一小法廷判決・民集四四巻四号七八五頁)。そして、執行裁判所は、不動産の最低売却価額で手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権を弁済して剰余が生じる見込みがないと認めるときは、その旨を差押債権者に通知するとともに、差押債権者が保証の提供等をしないときは差押債権者の申立てに係る競売の手続を取り消さなければならず(同六三条)、また、数個の不動産が売却された場合において、あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは、他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならない(同七三条一項)。

右の制度の趣旨は、不動産競売手続において、債権者らに対し配当要求の終期までに債権の届出、配当要求又は交付要求を義務づけ、これによって、売却手続に入る前に、執行裁判所が、執行の対象となる不動産に関する権利関係や配当手続に参加することができる債権者等の範囲、交付要求のある租税債権の優先性及び総債権額等の情報を収集するとともに、これを債権者らに開示し、もって、無益な手続を回避するとともに、租税債権に劣後する担保権実行者の不利益を防止し、ひいては民事執行手続の円滑な進行を図ることにある。

2  右の趣旨からすると、債権の届出、配当要求又は交付要求をする者は、執行裁判所に対し、右の届出等をする時点において可能な限りその債権額を明確にして右届出等をするべきであるといわなければならない。これを交付要求についてみると、交付要求とは、滞納者の財産につき、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売等の強制換価手続が行われた場合に、税務署長が、執行機関に対し、滞納に係る国税につき配当等を求める申立てであるから(徴収法八二条)、交付要求をするに当たっては、滞納に係る国税につきその内容を明示することが必要であり、したがって、延滞税額について、その計算の根拠として、基礎となる本税額及びその起算点となるべき法定納期限の日を明示するか、あるいは交付要求書等作成日現在において本税が完納されたものと仮定して計算される延滞税相当額を記載すべきである。

なお、右の剰余の有無あるいは超過売却の可能性の存否についての判断は、なるほど原告の主張するとおり、概ねの把握に留まらざるを得ないものであるが、そのことをもって、債権の届出等も恣意に概算で足りるとするものでないことはいうまでもない。

3  続いて、原告の主張について検討を進めると、延滞税をその額の計算の基礎となる国税にあわせて納付すべき場合において、納税者の納付した金額がその延滞税の額の計算の基礎となる国税の額に不足するときは、その納付された金額はその本税に充てられたものとされるので(通則法六二条二項)、当該本税が完納されるまでは、延滞税の額を確定することができないことは、原告の主張するとおりである。

しかしながら、延滞税の額について、本税が完納される前であっても、交付要求書作成の時のものとして、法定納期限から既に経過した期間に対応する額を計算することは可能であり、かつ、容易にすることができるから、交付要求書に右金額又はその算出の根拠となる本税額等を記載することを妨げる理由はない。

4  また、交付要求書に「交付要求に係る国税の年度、税目、納期限及び金額」を記載すべき旨を定める徴収法施行令三六条一項二号の趣旨についても、交付要求を配当要求と別異に解する理由を見出しがたいから、前記のとおり、執行裁判所及び債権者に対して、交付要求のある租税債権の優先性及びその総額等についての情報を与え、もって無益な手続を回避すること等の目的のために、交付要求書において、優先する租税債権の額について可能な限り具体的に記載させることにあるものと解すべきであり、単に、当該交付要求に係る国税を特定し、いかなる税のいかなる額を要求するかを明らかにすることに留まるものではないというべきである。

国税徴収法施行規則三条により定められている別紙第七号書式は、滞納国税等のうち延滞税につき「法律による金額 円」と定め、また、執行実務上、税額の未確定の延滞税についての交付要求に際し、交付要求書の延滞税の欄に「法律による金額 要す」との記載を許容する取扱いがされていたことは、当裁判所に顕著であるが、いずれも右の記載のみに従って延滞税の額を計算しうる一般的な場合を想定したものであって、本税について数度にわたり一部納付がされたことにより交付要求書に記載された本税の額が延滞税の額の計算の基礎となる本税の額と乖離するような事例を想定したものではないと解することができる。

なお、平成六年九月二二日付け国税庁長官通達により、右書式における延滞税欄には、「法律による金額」の下部に「要す」と記載するとともに、交付要求書等作成日現在において本税が完納となったと仮定して計算した延滞税の金額を記載(かっこ書き)し、欄外又は備考欄に、「延滞税欄の「要す」の記載は、国税通則法所定の全延滞税額の交付を求めているものである。また、()内の金額は、便宜、交付要求書作成日までの延滞税を概算したものである。」旨を記載するとの取扱いに改められている。

5 以上のとおり、延滞税の額の計算の基礎となる国税の一部が納付されたにとどまる場合に、一部納付前の本税額を基礎として算出された延滞税全額について交付要求の効力を及ぼすためには、交付要求書に、その計算の根拠となる本税額及び起算日となる法定納期限の日又は交付要求書等作成日現在において本税が完納されたと仮定して計算される延滞税相当額を記載するべきであるにもかかわらず、本件租税債権に係る延滞税については、本件交付要求書において、「法律による金額要す」とのみ記載し、本税として一部納付後の額を記載したにとどまるから、本件配当表において、右延滞税の額について、交付要求書に記載されていた一部納付後の残本税額を基礎として計算したのは、正当といわざるをえない。

なお、この点に関し、一般的にみれば、本件配当表の作成は、原告の主張するとおり、当該執行裁判所における従来の取扱いが変更されたと窺えるものであり、これによって原告に対して不意打ちを与えるものであるとみる余地があることは否定しえず、徴収事務が大量かつ画一的に取り扱わざるをえないことに照らせば、徴収事務の運営に混乱を来し、その秩序を乱しかねない側面があるが、そのことと具体的な配当表の適否とは別論であって、右の点をもって、本件配当表に過誤があるということはできない。

二  争点2について

甲第二号証及び第六号証によれば、本件交付要求書には、滞納国税等として、前記書式に従い、不動文字で、年度、税目、納期限、本税、加算税、延滞税、利子税、滞納処分費、法定納期限等及び備考の欄を設けていることが認められ、前記のとおり、本件租税債権について、年度を五四、税目を申告所得税、納期限を五七年二月二四日、本税を四万円、延滞税を「要す」、法定納期限等を五七年二月二四日、備考として確定分と記載されている。

ところで、延滞税の額は、通則法六〇条二項に規定するとおり、国税の法定納期限の翌日から起算されるものである。そして、交付要求書に不動文字で記載される法定納期限等は、徴収法一五条一項に規定する法定納期限をいい、国税と質権との優劣を判断するための基準時となるものであることは、原告の主張するとおりである。交付要求書においては、前示のとおり、執行機関に対して、交付要求に係る滞納税の内容及び金額を明示すべきであり、他方、執行機関にあっては、交付要求書の記載に従い、配当表を作成することになるが、本件交付要求書についてみると、右の「法定納期限等」の字義が原告の主張するとおりであるとしても、「納期限」の記入が、それのみでは、法定納期限を示すものか、具体的納期限を示すものか、必ずしも明らかではなく、したがって、執行裁判所においては、交付要求書の記載に従わざるをえないといわなければならない。なぜならば、昭和五四年度の申告所得税について、原則として、翌五五年三月一五日が確定申告書の法定申告期限とされるものの(所得税法一二〇条一項)、居住者が年の中途において死亡した場合(同法一二五条一項)や年の途中で出国する場合(同法一二七条一項)等の例外があることから、その法定納期限は、なるほど、本件においては昭和五七年であることは考えがたいとしても、それを昭和五五年三月一五日と確定することは必ずしもできず、滞納税額証明書(甲一)を併せて検討することにより初めて、その法定納期限が右同日であって、交付要求書に記載された納期限が具体的納期限を意味することが判明するのである。

以上によれば、本件配当表において、交付要求書の記載に従い、納期限の日の翌日を起算日として計算された金額の限度でしか交付要求の効力が及ばないとしたことをもって、未だ不当であるということはできず、この点に関する原告の主張も、採用の限りでない。

三  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官門口正人 裁判官小林元二 裁判官松山遙)

別紙<省略>

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