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東京地方裁判所 平成7年(ワ)2708号 判決 1999年11月30日

原告

【A】

右訴訟代理人弁護士

関根志世

右補佐人弁理士

【B】

【C】

被告

興研株式会社

右代表者代表取締役

【D】

右訴訟代理人弁護士

河合弘之

清水三七雄

河野弘香

本山信二郎

船橋茂紀

木下直樹

松井清隆

右補佐人弁理士

【E】

【F】

主文

一  被告は、別紙物件目録二記載の方法により同目録一記載の構造の防塵マスクを製造し、又は、右方法により製造した防塵マスクを使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。

二  被告は、前項記載の物件(完成品)を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金四一七七万九三六四円及びこれに対する平成九年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙原告目録二記載の方法(以下「原告主張方法」という。)により同目録一記載の構造の防塵マスク(以下「原告主張製品」という。)を製造し、又は、右方法により製造した防塵マスクを使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。

二  被告は、前項記載の物件(完成品)を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金四一七七万九三六四円及びこれに対する平成七年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)を有している。

特許番号   第一八六一一七三号

発明の名称  複合プラスチック成形品の製造方法

出願日    昭和六〇年三月一九日

出願番号   特願昭六〇ー五七三八三号

出願公告日  平成二年二月二六日

出願公告番号  特公平二ー八五七二号

登録日    平成六年八月八日

特許請求の範囲第1項

「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に融着成形させることを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法。」

2  原告は、被告からされた無効審判請求(平成九年審判第三三二〇号)において、右特許請求の範囲第1項につき、次のように訂正請求した。

「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、何らの接着剤を使用しないで、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に融着成形させることを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法(但し融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く)。」

右事件について平成一一年七月一五日にされた審決(以下「本件審決」という。)において、右訂正が認められ、無効審判請求は、成り立たないものとされた。

被告は、本件審決に対して審決取消訴訟を提起し、これは、係属中である。

3(一)  本件発明の訂正前の構成要件を分説すると、次のとおりである。

a ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、固化させる。

b その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面にスチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的かつ一体的に融着成形させる。

c 右a及びbのことを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法。

(二)  本件発明の訂正後の構成要件を分説すると、次のとおりである(弁論の全趣旨)。

a ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、固化させる。

b その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、何らの接着剤を使用しないで、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的かつ一体的に融着成形させる。

c 右a及びbのことを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法(ただし、融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く。)。

4  被告は、防塵マスクを製造、販売している。

二  本件は、本件特許権を有している原告が、被告に対し、原告主張方法により原告主張製品を製造すること、又は、右方法により製造した製品を使用すること、譲渡すること、貸し渡すこと又は譲渡若しくは貸渡しのために展示することの差止め、原告主張製品(完成品)の廃棄を求めるとともに、特許権侵害による損害の賠償を求める事案である。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  争点

1  被告の防塵マスクの製造方法及び被告の製造販売している防塵マスクの特定

2  被告が防塵マスクの製造に使用している「スチレンポリマーとランダムーエチレン・ブチレンコポリマーとのブロックコポリマー」(以下「被告ブロックコポリマー」という。)が、本件発明の構成要件bの「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー」(以下「本件ブロックコポリマー」という。)を充足するか

3  本件特許権の特許請求の範囲は、公知技術により、限定解釈すべきか

4  被告の防塵マスクの製造方法が、訂正後の構成要件cのうち「融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く。」を充足するか

5  損害の発生及び額

二  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

被告の防塵マスクの製造方法及び被告の製造販売している防塵マスクは、別紙原告目録のとおりに特定される。

(被告の主張)

被告が原告主張方法で原告主張製品を製造販売していることは否認する。

被告の防塵マスクの製造方法及び被告の製造販売している防塵マスクは、別紙被告目録のとおりに特定される(以下、別紙被告目録記載の防塵マスクの製造方法を「被告主張方法」、同目録記載の防塵マスクを「被告主張製品」という。)。

2  争点2について

(原告の主張)

本件ブロックコポリマーは、以下の理由から、被告ブロックコポリマーを意味する。

(一) 原告は、本件特許の出願時から現在に至るまで、本件ブロックコポリマーを被告ブロックコポリマーと認識している。

なお、原告は、本件特許の審査過程において、特許異議に対する答弁書や拒絶査定に対する審判請求書の中で、本件ブロックコポリマーが被告ブロックコポリマーでないかのような主張をしたことがあったが、その後の右審判手続において、本件ブロックコポリマーが被告ブロックコポリマーを意味することを明らかにしている。また、原告は、平成五年一二月八日付けの手続補正書によって、特許請求の範囲を補正したが、この補正は、特許請求の範囲を減縮し、他のエラストマーを排除したものにすぎず、本件ブロックコポリマーから被告ブロックコポリマーを排除したものではない。

(二) 本件特許の審査過程において、旭化成工業株式会社ら九社が特許異議を申し立てたが、右九社は、本件ブロックコポリマーを被告ブロックコポリマーと認識していた。

(三) 本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件ブロックコポリマーとして、「住友TPEーSBシリーズ」が例示されているが、右商品は被告ブロックコポリマーである。

(四) 熱可塑性エラストマーに関する名著として当業者が広く認識している書籍には、被告ブロックコポリマーを本件ブロックコポリマーと同様の化学構造式で表し得るような説明がされている。

(被告の主張)

(一) 本件ブロックコポリマーが、スチレン、エチレン、ブチレンの各モノマーに基づく繰り返し単位がそれぞれブロックを構成して連結されたコポリマーを意味することは、その文言から一義的に明らかである。

このように、特許請求の範囲の記載が一義的に明白な場合は、明細書の他の部分の記載等を参照することなく、特許請求の範囲の記載の意義を定めるべきである。

したがって、本件ブロックコポリマーは、被告ブロックコポリマーとは異なるものである。

(二) 原告は、本件特許の審査過程において、特許異議に対する答弁書や拒絶査定に対する審判請求書の中で、本件ブロックコポリマーが被告ブロックコポリマーではない旨の主張をしていた。

また、原告は、その後の右審判手続において、「住友TPEーSBシリーズ」が被告ブロックコポリマーであることを認めたうえで、平成五年一二月八日付けの手続補正書によって、特許請求の範囲を補正したが、その際、改めて、特許請求の範囲記載の物質に特定した。

したがって、原告は、意識的に、本件ブロックコポリマーから被告ブロックコポリマーを排除したものということができる。

3  争点3について

(被告の主張)

本件特許出願前に発行された公開特許公報(昭五三ー五六八八九)には、本件発明と同一の発明が開示されているから、本件特許権の特許請求の範囲には、右公報記載の発明が含まれないように解釈しなければならない。したがって、本件ブロックコポリマーが被告ブロックコポリマーを含むような解釈をすることはできない。

(原告の主張)

右公報記載の発明は、本件発明と同一ではない。

4  争点4について

(原告の主張)

原告主張製品のマスク本体1と顔当て部2の接合面Aは、別紙接合面断面図のとおり、両者の周縁部分が平面的に重なり合った構造で、オスーメス型の凹凸形状や入り組んだ接合面になっていないから、原告主張方法は構成要件cを充足する。

なお、平成一〇年三月二日付け特許無効理由通知書は、「凸凹又は入り組んだ接合面」ではない接合面のうち、分かり易い一例として、「水平面」を挙げたにすぎず、「凸凹又は入り組んだ」と「水平面で」ないという文言を全くの同義語として用いているわけではない。

(被告の主張)

(一) 原告は、本件特許の無効審判請求事件の手続において、特許庁からの平成一〇年三月二日付け特許無効理由通知書を受けて、特許請求の範囲を訂正し、「融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く。」との文言を付加したのであるが、右通知書においては、「凸凹又は入り組んだ」という文言が、「水平面で」ないという文言と全くの同義語として用いられているから、右通知書を受けて訂正された本件特許請求の範囲の「凹凸形状または入り組んだ接合面」との記載も、「水平面でない接合面」と同義ということができる。

また、「凹凸形状または入り組んだ接合面」の解釈は、程度や形態を問題にすると、その判断基準が漠然で不明確なものになるから、定性的に、「水平面でない接合面」と解すべきである。

しかるところ、被告主張製品のマスク本体1と顔当て部2の融着面Aは水平面でないことが明らかである。

(二) 被告主張製品のマスク本体1と顔当て部2の融着面Aは、排気弁7の周辺で典型的なオスーメス型の「凹凸形状」になっているほか、それ以外の周縁部分でも、L字型の接合面となっており、L字型の接合面は凹凸形状の一種であるから、全体として凹凸形状又は入り組んだ接合面になっている。

(三) したがって、被告主張方法は、構成要件cのうち「融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く。」を充足しない。

5  争点5について

(原告の主張)

(一) 原告主張製品の一個当たりの卸価格は一〇三〇円であるところ、本件特許の実施料相当額は、製品の一部に本件発明が利用されていることに鑑み、その利用の程度を考慮すると、右卸価格の六割である六一八円の五パーセントに当たる三〇・九円とするのが相当である。

なお、本件特許は、原告主張製品の一部品である面体の製造方法に関する特許であるが、面体は、防塵マスクの根幹的役割を果たす部分で、その原価の製品原価に占める割合も六一・二三パーセントにも及ぶ。

(二) 被告は、原告主張製品を、平成三年五月から平成九年九月までの五三か月間にわたり、一か月平均二万五五一一個製造販売した。

(三) そうすると、右期間に被告が得た利益は、三〇・九円に五三か月及び二万五五一一個を乗じた四一七七万九三六四円となる。

(被告の主張)

(一) 本件特許は、防塵マスクの一部品である面体の製造方法に関する特許であるから、損害額の算定に当たっては、防塵マスクの価格ではなく、面体の価格を基礎とすべきであるところ、面体の原価の製品原価に占める割合は、二九・七パーセントにすぎない。

(二) 本件発明の効果は、従来の嵌合法のような複雑で高価な金型の使用が不要となり、接着剤も使用する必要がないので、極めて経済的に一体化した複合プラスチック成形品を提供することが可能になった点にあるとされているところ、被告が使用する金型の値段は、旧型の製品よりも高価であり、また、被告は、旧型の製品のころから接着剤を使用していなかったから、本件発明の効果を享受していない。本件発明によるメリットは、製品の重量が若干軽くなったことくらいであり、末端技術的価値しか認められない。

したがって、本件特許の実施料率は、一パーセントとするのが相当である。

第四当裁判所の判断

一  争点1について

証拠(乙三五、検甲一、検乙一、二)と弁論の全趣旨によると、被告の防塵マスクの製造方法及びそれによって製造され、被告が販売している防塵マスクは、別紙物件目録のとおりであると認められる。

なお、右各証拠によると、融着面Aの形状は、排気弁7の周辺(第一のオス型部13及び第一のメス型部14)及び顔あて部2の下部(第二のオス型部16及び第二のメス型部17)において、オス型部とメス型部による凹凸の形状になっているが、マスク本体1の周縁部においては、別紙接合面断面図のBーB断面若しくはCーC断面のような形状(以下「L字型」という。)の曲面になっていることが認められる。

二  争点2について

1  以下の証拠によると、次の事実が認められる。

(一) 本件明細書には、本件ブロックコポリマーの例として、「住友TPEーSBシリーズ」が挙げられているが、右商品は、被告ブロックコポリマーに他ならない(甲二、三、七、八、乙三、四)。

(二) 「住友TPEーSBシリーズ」の商品パンフレットには、「スチレンーエチレンーブチレンブロック共重合体」と記載され(甲一〇)、また、文献にも、被告ブロックコポリマーについて、「スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン ブロックコポリマー」(乙一一、乙一四の二)、「ポリブタジェンの1・4結合部分がポリエチレンに、また1・2結合部分がポリブチレンとなり」(甲八)と記載されるなど、被告ブロックコポリマーは、スチレン、エチレン、ブチレンの各モノマーがそれぞれブロックを形成しているかのような表記がされることがあった。

(三) 本件明細書には、本件ブロックコポリマーが熱可塑性エラストマーである旨記載されているところ、被告ブロックコポリマーは、熱可塑性エラストマーである(甲二、三、六ないし八、乙一一、乙一四の二)。被告ブロックコポリマー以外に、本件ブロックコポリマーのような表記をする熱可塑性エラストマーが当業者間で知られていたことを認めるに足りる証拠はない。

(四) 本件特許が公告された後、旭化成工業株式会社らから特許異議が申し立てられたが、異議申立てをした各社は、本件ブロックコポリマーを被告ブロックコポリマーと認識していた(甲一二、一三、弁論の全趣旨)。原告は、特許異議に対する答弁書及び特許異議の申立てが認められて拒絶査定された当該査定に対する審査請求書において、本件ブロックコポリマーは被告ブロックコポリマーと同一でないかのような主張をしていた(乙七、八、乙一四の四)が、その後、右審判請求手続において、本件ブロックコポリマーは被告ブロックコポリマーであるとの主張をするようになった(甲一六、一七、乙九、一〇、乙一四の四)。その後、原告が右主張を変更したことを認めるに足りる証拠はない。

2  以上のような本件明細書の記載、文献等の記載、当業者の認識、本件特許出願の経過を参酌すると、本件ブロックコポリマーは、被告ブロックコポリマーを表すものと認めるのが相当である。

なお、被告は、本件ブロックコポリマーに関する特許請求の範囲の記載が一義的に明白であるから、明細書の他の部分の記載等を参照することなく、特許請求の範囲の記載の意義を定めるべきであると主張するが、右1(二)記載の事実に照らすと、本件ブロックコポリマーに関する特許請求の範囲の記載が一義的に、被告が主張するようなブロックコポリマー、すなわち、スチレン、エチレン、ブチレンの各モノマーに基づく繰り返し単位がそれぞれブロックを構成して連結されたコポリマーを指すものと認めることはできないから、右主張を採用することはできない。

また、証拠(乙二九の一)によると、旭化成工業株式会社の社員の陳述書には、被告が主張するようなブロックコポリマー、すなわち、スチレン、エチレン、ブチレンの各モノマーに基づく繰り返し単位がそれぞれブロックを構成して連結されたコポリマーが製造可能である旨記載されていることが認められるが、右陳述書には、単に被告が主張するようなブロックコポリマーが生産可能であるとの記載があるのみであるから、その記載のみで、本件ブロックコポリマーは、被告ブロックコポリマーではなく、被告が主張するようなブロックコポリマーであると認めることはできない。

さらに、原告が、平成五年一二月八日付けの手続補正書によって行った特許請求の範囲の補正は、審判請求手続において、本件ブロックコポリマーは被告ブロックコポリマーであるとの主張をするようになった後にされたものであって、本件ブロックコポリマーが被告ブロックコポリマーであることを前提として、特許請求の範囲から他の熱可塑性エラストマーを排除するなどしたものと認められる(甲三、一六、一七、乙七、九、一〇、乙一四の一、五)から、原告が、右補正により、特許請求の範囲から被告ブロックコポリマーを排除したと認めることはできない。

3  以上によると、被告ブロックコポリマーは、本件ブロックコポリマーを充足する。

三  争点3、4について

1  証拠(甲二二、二五、二六、乙六、乙一四の七、乙三一の一、乙三二の一、二、乙三四の一)によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件特許の無効審判請求事件において、平成九年七月七日付け訂正請求書により、特許請求の範囲に「何らの接着剤も嵌合技術をも使用しないで」との文言を付加する訂正を申し立てるとともに、右訂正は、「2種類の部材の融着成形において接着剤の使用や嵌合技術の使用を明瞭に排除」するためのものであると主張した。

(二) これに対し、右事件の平成一〇年三月二日付け特許無効理由通知書(以下「本件通知書」という。)により、特許庁審判官から原告に対し、以下の求釈明がされた。

「この「嵌合技術の使用を排除」するという意味が、たとえ射出成形を使用していても、凸凹又は入り組んだ接合面を有する部品の製造を排除すること(両樹脂の接合面が図1に示されるように水平面であることを意味する)なのか、または、通常の嵌合技術【凸凹を有する異なる部品を製造しておいて物理的に組み合わせることによる接合で、射出成形の融着による接合を使用しない。ーこの場合は射出成形等融着技術を使用していれば、凸凹、又は、入り組んだ接合面を有する部品の製造は排除されない。】の排除を意味するか訂正の意図が不明である。

前者の場合は、減縮となるが、その場合は、特許請求の範囲において、【両樹脂の接合面が図1に示されるように水平面であって、凸凹又は入り組んだ接合面を有する部品の製造を排除する】ことを明記する必要がある。」

また、本件通知書には、右の後者の意味の場合、本件特許は、本件特許出願前に発行された公開特許公報(特開昭五三ー五六八八九)に記載された公知技術や先願(実願昭五九ー一〇七九六九)の明細書に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一である旨の記載がされている。

(三) 原告は、特許請求の範囲に「何らの接着剤を使用しないで、」及び「(但し融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く)」との文言を付加する訂正を行い、本件審決がされた。

2  証拠(乙一四の七)によると、公開特許公報(特開昭五三ー五六八八九)に記載された公知技術は、注射器のプランジャに係るもので、剛性のポリメリック樹脂によって軸と一体となった相互連結部を成形し、その固化後、スチレンーブタジエン共重合体を溶融射出して、剛性のポリメリック樹脂の表面に、スチレンーブタジエン共重合体を立体的かつ一体的に成形して、ピストンを形成する複合プラスチックの製造方法が開示されており、剛性のポリメリック樹脂の例として、ポリプロピレンが、スチレンーブタジエン共重合弾性体の例として、シェル化学株式会社製クレートンGー二七〇五が、それぞれ挙げられていることが認められる。証拠(甲七、八、乙三、四、一一、乙一四の二)によると、シェル化学株式会社製クレートンGは、被告ブロックコポリマーであると認められる。以上の事実に、証拠(甲二二)と弁論の全趣旨を総合すると、本件審決で認められた訂正前の本件発明は、右公知技術によって公知になっていたものと認められる。しかし、証拠(乙一四の七)によると、右公知技術において、剛性のポリメリック樹脂とスチレンーブタジエン共重合体の接合面は、後者が前者にからみ合い、かつ包囲する形状で、物理的な破壊によらなければ両者を分離することができないものであると認められ、接合面が入り組んだ状態となっているということができる。

証拠(甲二二、乙六)によると、先願発明は、注射液又は輸液用容器の薬栓に係る発明であって、ポリエチレン、EVA又はポリプロピレンからなる皿状の形状をしている本体の凹部に、別紙先願発明図面のとおり、被告ブロックコポリマーを主原料とする粘弾性体を一体に融着させる技術が開示されており、その融着方法の例として、インサート成形等が挙げられている。以上の事実に、証拠(甲二二)と弁論の全趣旨を総合すると、本件審決で認められた訂正前の本件発明は、右先願発明と同一のものであると認められる。しかし、証拠(乙六)によると、右先願発明において、ポリプロピレン部材と被告ブロックコポリマーを主原料とする粘弾性体の接合面は、オスーメス型の凹凸の形状になっているものと認められる。

3  前記第二の一の事実(争いがない事実等)に、右1、2で述べたところを総合すると、本件審決は、確定していないから、本件審決で認められた訂正が効力を生じたということはできないが、右2で述べたところからすると、本件発明は、右訂正前の発明から、少なくとも、融着面がオスーメス型の凹凸形状又は入り組んだ接合面となっているものを除いたものとして解釈すべきであるということができる。

被告は、本件通知書において、「凸凹又は入り組んだ」という文言が、「水平面で」ないという文言と全くの同義語として用いられているから、「凹凸形状または入り組んだ接合面」は、「水平面でない接合面」と同義であると主張する。しかしながら、右2で述べたところからすると、右訂正前の発明から「融着面がオスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面になっている」ものを除けば、接合面を水平面のみに限定しなくても、前記公知技術や先願発明との抵触は回避し得ると認められるから、接合面が水平面のもののみに限定して解釈すべき理由はない。右訂正後の特許請求の範囲における「オスーメス型の凹凸形状または入り組んだ接合面」という構成についても、同様に、接合面が水平面のもののみに限定して解釈すべき理由はない。なお、本件通知書の記載は、「凸凹又は入り組んだ」と「水平面で」ないという文言を全くの同義語として用いているとは直ちに認められないが、そうであるとしても、本件通知書の記載は、通知を出した時点における審判官の見解を示したものに過ぎないから、直ちに右認定を覆すものではない。

4(一)  前記一認定のとおり、別紙物件目録記載の製品の融着面Aのうち、排気弁7の周辺(第一のオス型部13及び第一のメス型部14)及び顔あて部2の下部(第二のオス型部16及び第二のメス型部17)は、オス型部とメス型部とからなる凹凸の形状であるから、「オスーメス型の凹凸形状」に当たると認められる。

(二)  前記一認定のとおり、別紙物件目録記載の製品の融着面Aのうち、マスク本体1の周縁部は、L字型の曲面であり、オスーメス型の凹凸の形状でも複雑に入り組んだ形状でもないから、「オスーメス型の凹凸形状」にも「入り組んだ接合面」にも当たらないものと認められる。

5  弁論の全趣旨によると、別紙物件目録記載の方法は、本件発明のその余の構成要件を充足するものと認められる。

四  争点5について

以上によると、別紙物件目録記載の方法は、本件発明の構成要件を充足するから、被告が別紙物件目録記載の製品を製造販売する行為は、本件特許権を侵害するものである。そして、被告には右侵害行為につき過失があったものと推定されるから、被告は、右侵害によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

(一)  弁論の全趣旨によると、被告の別紙物件目録記載の製品の卸価格は一個当たり一〇三〇円であり、被告は平成三年五月から平成九年九月までの五三か月間にわたり、一か月平均二万五五一一個の右製品を製造販売したことが認められる。

(二)  そこで、本件特許権の実施に対して受けるべき金銭の額に相当する額について検討するに、証拠(甲二一の一)によると、原告は、大日本印刷株式会社に本件特許の実施許諾をしているが、その実施料として許諾製品の正味販売価格(許諾製品の総販売価格から包装・梱包費及び運送費を控除し、かつ、消費税を含まない価格)に三パーセントに相当する金額を定めていることが認められる。

右事実に加え、本件発明が別紙物件目録記載の製品の一部の製造に用いられているにすぎないことなど諸般の事情を考慮すると、本件特許権の実施に対し受けるべき金銭の額は、右販売価格に三パーセントの実施料率を乗じて算出するのが相当である。

そうすると、原告の受けるべき実施料相当の損害額は、一〇三〇円に五三か月及び二万五五一一個を乗じ、さらに実施料率である三パーセントを乗じた四一七七万九三六四円となる。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由がある(遅延損害金の起算日は、右製造販売の終期である平成九年九月三〇日とする。)。なお、仮執行宣言は付さないこととする。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 岡口基一)

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