大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)24638号 判決 1998年10月14日

原告

大髙康博

被告

小黒明弘

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、三八九万一八二七円及びこれに対する平成七年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、金六四七万九一二二円及びこれに対する平成七年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により負傷した被害者が、加害者及び加害車両の保有者(兼加害者の使用者)に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成七年七月二五日午後〇時四〇分ころ

(二) 場所 水戸市見和町一丁目四五五八番地先吉田商店前路上

(三) 態様 原告運転の普通乗用自動車(足立三三ら八三五一。以下、「原告運転車両」という。)の直前に被告小黒明弘運転の原動機付自転車(水戸市ぬ三二一三)が吉田商店の駐車場内から飛び出したので、原告は、衝突を回避するため右に急転把し、原告車両は道路縁石に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告小黒明弘は、駐車場内から公道に進入するに際して、右方確認を怠った過失により本件事故を生じさせたものであり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(二) 被告関東銀行は、被告小黒明弘の使用者であり、本件事故はその業務中の事故である。また、被告関東銀行は、加害車両である原動機付自転車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、民法七一五条及び自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

二  争点(損害額)

1  原告の主張

原告は、本件事故により、腰椎捻挫、頭部打撲、頸椎捻挫の傷害を負い、平成七年八月九日結城クリニックで通院加療を受け、同月一〇日島村病院で通院加療を受けた後同病院に同月一二日から同年九月二〇日まで入院加療を受け、同月二一日から平成八年一月三一日まで(実通院日数三三日)通院加療を受け、次のとおりの損害を被った。

(一) 治療費 一五六万三六二二円

内訳 結城クリニック分 一二万二五七〇円

島村病院分 一四四万一〇五二円

(二) 休業損害 二一一万〇五〇〇円

平均給与一日二万八一四〇円×七五日(入院日数四〇日+通院日数三五日)

(三) 慰謝料 一二九万円

(四) 評価損 五一万五〇〇〇円

原告運転車両の修理費一六六万〇一四三円及び代車料一一七万九三五〇円については支払を受けたが、原告運転車両の損傷は大きく、右の評価損が生じた。

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

2  被告らの認否

(一) 原告が平成七年八月一二日から同年九月二〇日まで島村病院に入院した事実は認めるが、その余は不知又は否認する。

(二) 原告の治療開始は、本件事故の一〇日以上も後であり、原告の症状は本件事故と因果関係がない。

第三争点に対する判断

一  治療費

1  本件事故の状況

本件事故の態様は、前記第二・一争いのない事実1のとおりであるが、さらに、証拠(甲一、四の1ないし6、五、六、二三、乙一の1ないし7、原告本人)によれば、本件事故の具体的状況は次のとおりと認められる。

(一) 原告は、普通乗用自動車を運転して、赤塚方面から自由ヶ丘方面に向けて本件事故現場手前の交差点を進行中、交差点向こう側の左前方の吉田商店の駐車場内から被告小黒明弘運転の原動機付自転車が飛び出したので、原告は、衝突を回避するため右に急転把したところ、原告運転車両は、反対車線を横切り、交差点北東隅付近の縁石に乗り上げて、停止した。

(二) 原告運転車両は、車体下部を相当程度縁石に打ち付けて、バンパー、ラジエーター、サスペンションなどかなりの部分が修理を要するような損傷を受けた。

2  原告の治療状況

証拠(甲九、一〇、一二、一三、一六、一七、一九、二〇、二三、二四、乙二、四ないし六、証人松本悟、同羽木穣、原告本人)によれば、本件事故後の原告の治療状況は次のとおりと認められる。

(一) 原告は、本件事故から約二週間後の平成七年八月九日になって結城クリニックを受診し、その際、結城医師に対し、同年八月八日から頭痛、腰痛が出現したと訴えた。しかし、同医師により、神経的には異常を認めないと診断された。同医師の画像所見によると、X線撮影、CTスキャンの結果では特に異常は認められなかったが、腰椎MRIの結果では第五腰椎/第一仙骨の間に中心性のヘルニアが認められた。また、これらの画像を松本悟医師が分析した結果によると、右に加えて、腰椎X線で第四腰椎/第五腰椎の椎間板の狭小化、腰椎MRIで第三腰椎/第四腰椎、第4腰椎/第五腰椎、第五腰椎/第一仙骨の各椎間板に軽度の変性が認められた。

(二) 原告は、結城クリニックを受診した翌日である平成七年八月一〇日、同病院から紹介を受けて、島村病院を受診し、その際、羽木医師に対し、本件事故の一週間後位から腰重感、頭重感があったが、同年八月九日から腰痛が高度になったとの経過を伝えた後、後頭部から項部にかけての重圧感、両側の項部から肩にかけての緊張感、腰痛、左下肢のだるさ、歩行時の両下肢の放散痛を訴えた。羽木医師は、原告の腰痛の訴えが強く、原告の住居から島村病院が遠距離であり、通院が困難と考えたことから、入院が必要と判断した。

(三) 原告は、平成七年八月一二日島村病院に入院し、消炎鎮痛に対する静脈注射、内服薬、理学療法等の治療を受けた。これにより、同年八月二四日の時点でラセグー氏徴候が右四五度、左七〇度であったのが、同年九月七日の時点で右六〇度、左七五度となり、更に、同年九月一一日の時点では、右下肢痛や腰痛があったものの歩行状態はほとんど正常となるなど、次第に症状が軽減し、同年九月二〇日同病院を退院した。

(四) 原告は、退院後も平成七年九月二五日から平成八年一月三一日まで(実通院日数三三日)島村病院に通院し、腰痛、項部から右肩の緊張感、頭重感等の症状を訴えて内服薬及び理学療法の治療を続けたが、同日症状固定の診断を受けた。

3  本件事故と治療との因果関係

右2(一)の画像所見で認められた第五腰椎/第一仙骨の間のヘルニア、第四腰椎/第五腰椎の椎間板の狭小化、第三腰椎/第四腰椎、第四腰椎/第五腰椎、第五腰椎/第一仙骨の各椎間板の軽度の変性は、右2掲記の各証拠によれば、疾患とまでは至っていないが、いずれも本人の素因に基づくもので、直接本件事故など外傷によって生じたものではないと認められる。してみると、原告の症状は他覚的所見に乏しいものであり、また、右2のとおり、原告が医療機関を受診したのが、本件事故後約二週間後であったことから、本件事故と原告の訴えた症状との因果関係が問題となる。

これについて、整形外科医師松本悟は、頸部、腰部捻挫の場合、受傷直後に発生する症状は比較的少なく、その程度も軽度の場合が多いが、約八五パーセントの症例で三日内に症状が出現し、ほとんどの症例で一週間以内に症状に症状が出現するとして、原告の症状出現が遅延した点について疑問の余地があるとするが、同医師も、原告を診療した結城クリニック及び島村病院の診療録、画像所見等を分析した上、事故以外にはっきりとした原因がないため事故により症状が出現したと考えた(乙四、証人松本悟)と結論付けている。一方、島村病院の医師羽木穣の診断においても、本件事故がきっかけとなって腰椎のヘルニア等による痛みが増悪した可能性が考えられるとしている(甲二四、証人羽木穣)。また、前記1の本件事故の状況に照らすと、本件事故による衝撃は決して小さいものでなく、原告の訴える症状と矛盾するものではない。これらを総合すると、少なくとも、本件事故と原告の症状との間には、因果関係が肯定されるというべきである。

そこで、次に、原告の治療のために、入院の必要性があったか、通院による加療で十分であったかが問題となる。

この点について、松本医師は、<1>受診時本件事故から二週間経過していること、<2>他覚所見に乏しいこと、<3>患者の希望で入院紹介された感があること、<4>診療録からみて通院でも可能な治療を行ったにとどまることなどを根拠として、入院の必要性について疑問を呈している(乙二、四、証人松本悟)。しかし、島村病院の医師羽木穣によれば、原告が高度の腰痛を訴え、原告の自宅から通院することが困難であったため、入院の必要性を認めたとしており、(甲二四、証人羽木穣)。右は、直接に原告本人を診察した医師の判断であるから、診療録や画像所見から事後的に評価した結果と比べて、十分に尊重されるべきものと解する。また、原告が入院していなければ、通院加療が長びき、かえって損害が拡大した可能性も否定できない。したがって、原告の治療のための入院の必要性については、一応、肯定されるものと考える。

もっとも、原告の症状が客観的な所見に乏しいことから、その訴える症状の程度に照らしても、果たして四〇日も入院の必要があったか疑問の余地がないではなく、通院の困難性については、自宅の近所の病院を選択することによって対処する方法がなかったのか疑問の余地があるから、入院に要した費用の全額を加害者に負担させることは、公平の見地から相当でないものと考える。

そこで、原告が入院治療中に支出した費用のうち、実際の施療等にかかった費用については、その全部が本件事故と相当因果関係があると認められるが、入院料については、その七割についてのみ本件事故と相当因果関係があると認められる。

4  計算

そこで、右に述べた検討結果に従い、さらに、以下かっこ内の証拠を合わせると、本件事故と相当因果関係のある原告の治療費は次のとおりと認められる。

(一) 結城クリニック分(甲一〇) 一二万二五七〇円

(二) 島村病院 一一一万七四三九円

初診時から退院時までの治療関係費合計一二五万〇八一〇円から、右3の理由により、入院料一〇七万八七一二円の三割に相当する三二万三六一三円(円未満切捨て)を差し引くと、残額は九二万七一九七円となる(甲一三)。これにその後の通院期間中の治療関係費合計一九万〇二四二円(甲一七、一八)を加える。

(三) 右(一)と(二)の合計 一二四万〇〇〇九円

二  休業損害

1  前記一の検討結果、とりわけ前記一2認定の原告の治療状況に照らすと、本件事故により、原告は、少なくとも入院日数四〇日に通院日数三五日(入院前通院日二日と退院後通院日三三日の合計)を加えた七五日間休業を要したものと認められるところ、前記一3と同様の理由から、入院期間に生じた休業損害のうち、その七割について本件事故との相当因果関係が認められる。

2  次に、原告の得べかりし収入について検討するに、証拠(甲一四の1、2、二一の1ないし3、二三、原告本人)によれば、原告は、本件事故の前である平成七年四月一〇日有限会社ティー・エヌ・コーポレーションに営業部長として雇用され、平成七年五月一日から本件事故の前日である同年七月二四日までの八五日間の給与合計額は、一九九万八〇〇〇円であったことが認められるから、本件事故に遭わなければ、少なくとも退院日までの休業期間中、少なくとも一日当たり二万三五〇五円(円未満切捨て)の収入を得ることができたものと認められる。

ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告は、右会社を平成七年九月に自ら申し出て退職したことが認められるが、前記一2のとおり、九月ころには原告の症状もある程度軽減してきたから、退職の必要まであったか疑問であり、原告が退職したことと事故による治療との関係がはっきりしない。そこで、退院後の休業期間中については、少なくとも平成七年賃金センサス男子労働者・学歴計・三〇ないし三四歳平均年収額五一三万九四〇〇円を三六五日で除し、一日当たり一万四〇八〇円(円未満切捨て)の収入を得ることができたものと認めて、これによって休業損害を算定するのが相当である。

3  計算

そこで、本件事故と相当因果関係の認められる原告の休業損害を計算すると次のとおりとなる。

(一) 入院前通院日 四万七〇一〇円

(日額二万三五〇五円×二日)

(二) 入院期間 六五万八一四〇円

(日額二万三五〇五円×四〇日×〇・七)

(三) 退院後の通院日 四六万四六四〇円

(日額一万四〇八〇円×三三日)

(四) 以上合計 一一六万九七九〇円

三  慰謝料

右一で認定した本件事故による治療状況等、本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、本件事故による原告の傷害慰謝料としては八〇万円を相当と認める。

四  評価損

前記一1認定のとおり、原告運転車両は、車体下部を相当程度縁石に打ち付けて、バンパー、ラジエーター、サスペンションなどかなりの部分が修理を要するような損傷を受けたものであり、さらに、証拠(甲四の1ないし6、五ないし七)によれば、次の事実が認められる。

(一)  右損傷によって、原告運転車両は、フレーム修正、ボディーアライニング修正、フロントバンパー、フロントサスペンション等の部品取替え等の修理を要し、これにより原告は修理費合計一六六万〇一四三円を支出し、これについては後日被告から全額賠償金の支払を受けた。

(二)  原告運転車両は、平成四年一〇月初年度登録、走行キロ数約四万三千キロメートルのトヨタ・セルシオであるが、右修理によっても高速走行時に横振動が生じるという不具合が残った。

ところで、財団法人日本自動車査定協会東京都支所の査定によれば、右損傷による原告運転車両の本件事故による減価額は、五一万五〇〇〇円とされる(甲七)。しかし、右査定は、評価手順の一般論を記述するのみで、原告運転車両のどの部分をどのような根拠に基づいてどのように評価したのかなど、具体的な評価過程を明らかにしていないから、右査定どおりの評価損を認めるのに十分な根拠を示す証拠とはいい難い。

もっとも、右に認定した各事実によれば、原告運転車両には修理によってもなお回復しがたい機能上の不具合が残り、加えて、事故自体による市場評価の低下もあり得るものということができるので、これらを総合すると、原告運転車両は、本件事故によって少なくとも三三万二〇二八円(修理費の二割相当)の評価減が生じたものであり、これが本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

五  損害額の計算及び弁護士費用

1  損害額合計

右一ないし四の各損害を合計すると、三五四万一八二七円となる。

2  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三五万円とするのが相当であると認められる。

六  結論

よって、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して三八九万一八二七円及びこれに対する本件不法行為の日である平成七年七月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 松谷佳樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例