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東京地方裁判所 平成6年(特わ)3277号 判決 1995年5月16日

本籍

東京都豊島区駒込三丁目三二九番地

住居

同都同区駒込三丁目三番九号

医師

加塚祐康

昭和一八年一月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康、弁護人小川英長各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都豊島区駒込三丁目三番九号において、「加塚産婦人科医院」の名称で診療所を開設して医業を営んでいるものであるが、自己の所得を免れようと企て、自由診療収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際所得金額が九一九八万三三二七円(別紙1の(1)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正売上原価計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、同都同区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が三〇八七万六〇三七円で、これに対する所得税額が八一一万一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成七年押第三七九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三八六一万三六〇〇円と右申告税額との差額三〇五〇万二〇〇〇円(別紙2の(1)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が九八七三万一七二八円(別紙1の(2)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正売上原価計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一四日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二九六一万九三一六円で、これに対する所得税額が八〇三万一〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二五三万二〇〇〇円と右申告税額との差額三四五〇万一〇〇〇円(別紙2の(2)のほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が一億〇一〇六万二八二円(別紙1の(3)の所得金額総括表、修正損益計算書及び修正売上原価計算参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が三七一七万〇七七三円で、これに対する所得税額が一〇九五万六四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法廷期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二九〇万二四〇〇円と右申告税額との差額三一九四万六〇〇〇円(別紙2の(3)のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する平成六年一一月二六日付け(但し、一二丁綴りのもの)、同年一二月八日付け(二通)及び同月一〇日付け各供述調書

一  加塚良子の検察官に対する供述調書

一  安西洋一の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察事務官作成の平成六年一二月二日付け各捜査報告書(三通。但し、売上金額についてのもの、賄費についてのもの及び豊島税務署の所在地についてのもの)

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書、賄費(売上原価)調査書、支払手数料調査書、青色専従者給与調査書、事業専従者控除額調査書、青色申告控除額調査書、学校債の利子調査書、雑所得調査書、不動産所得調査書及び所得控除調査書

一  豊島税務署長作成の「証明書」と題する書面

判示第一の事実について

一  押収してる所得税確定申告書一袋(平成七年押第三七九号の1)

判示第二、第三の事実について

一  大蔵事務官作成の貸倒引当金繰入調査書

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の賃貸料調査書、礼金、権利金、更新料調査書および管理費調査書

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成七年押第三七九号の2)

判示第三の事実について

一  木村雄二の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  検察事務官作成の平成六年一二月二日付け(但し、支払手数料の金額についてのもの)及び同月八日付け各捜査報告書

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書及び貸倒引当金繰戻調査書

一  押収してある所得税確定申告書一袋(平成七年押第三七九号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当する(但し、判示第一の罰金刑の寡額については刑法六条、一〇条により、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)ところ、各罪につき、所定の懲役刑と罰金刑を併科するとともに情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、産婦人科医院を経営していた医師である被告人が、三年度にわたり合計九六九〇万円余の所得税を免れた事案であるが、ほ脱税額は決して少なくなく、ほ脱率も通算約七八・一パーセントと相当高率である上、その主たる手口は、人工妊娠中絶処置から得られる現金収入が患者側の事情もあって捕捉されにくいことに目を付けて、医療関係文書の記載を操作するなどの隠蔽工作も行った上、同収入のほぼ全額を診療収入から除外するなどしており、計画的かつ巧妙で悪質であり、脱税の動機についてみても、被告人は医療過誤による損害賠償請求等に備えるため個人資産の蓄積が必要であったなどと述べているが、そのような事情があったにせよ違法な手段による蓄財が許容される訳ではなく、格別斟酌するに値しないものであって、これらの諸点からすると被告人の刑事責任は重いと言うべきである。しかしながら、他方、被告人はその後修正申告の上本件に関する本税、重加算税等を完納していること、税理士の指導を受け二度と同種事犯を犯さないよう努めており、当公判廷においても本件各犯行を認める供述をするなどその非を深く反省していること、被告人には業務上過失傷害罪による古い罰金前科が二件あるものの、それ以外には処罰歴が全くないことなどの諸事情も認められ、その他被告人の家庭環境等本件全証拠から推認される被告人のために酌むべき一切の情状を考慮して、懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金三〇〇〇万円)

(裁判官 平木正洋)

別紙1の(1)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正売上原価計算書

<省略>

別紙1の(2)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正売上原価計算書

<省略>

別紙1の(3)

所得金額総括表

<省略>

修正損益計算書

<省略>

修正売上原価計算書

<省略>

別紙2の(1)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙2の(2)

ほ脱税額計算書

<省略>

別紙2の(3)

ほ脱税額計算書

<省略>

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