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東京地方裁判所 平成6年(ワ)4552号 判決 1997年4月11日

原告

木村正治

右訴訟代理人弁護士

佐藤圭吾

米川長平

渕上玲子

加藤俊子

圓山司

角田淳

松江頼篤

津田和彦

被告

朝日トレーディングサービス株式会社

右代表者代表取締役

石田文男

被告

石田文男

石田惠子

右三名訴訟代理人弁護士

肥沼太郎

三﨑恒夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して、金四三二万五六三二円及びこれに対する平成五年一一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  主張

一  請求原因

1  当事者

被告朝日トレーディングサービス株式会社はゴルフ会員権販売を業とするもの、被告石田文男、被告石田惠子はいずれも被告会社の取締役である。

2  被告会社の原告に対するゴルフ会員権の販売

(一) 原告は、被告会社から、平成三年一月二二日、株式会社広栄観光が開設する飯塚国際ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ場」という)の会員権(以下「本件会員権」という)を代金五五〇万円で購入した。

(二) 勧誘の内容

被告会社は、原告に対し、本件会員権を購入するよう勧誘するに当たり、以下のように説明した。

(1) 株式会社神征國土建設は本件会員権の募集代行業務を行っていたが、本件会員権の購入を勧誘するに当たり、顧客に対して本件会員権について以下のような説明をしていた。被告会社において、原告に対する本件会員権購入の勧誘を担当したのは長尾勘市であるが、長尾も原告に対し、前記神征國土建設と同様の説明を行った。

① 本件ゴルフ場は、パブリックコースから会員制コースに移行する。

会員はゼロからの募集であり、初めに一口五五〇万円で特別会員三〇〇人を募集する。

② 募集に際しては、クラブハウス一棟を新設し、コース改造によりヤーデージの延長工事を行い六六〇〇ヤードのチャンピオンコースに変身する。

③ ゴルフ場は平成四年秋にオープンする。オープン時には最終募集として福岡や地元九州の会員を八〇〇人ほど募集する。最終募集金額は一五〇〇万円とする。その後速やかに名義の書換えに応じる。

④ 九州地区以外は遠隔地会員として年会費が免除される。

⑤ 福岡県では新規のゴルフ場の造成許可が凍結された。そのため、周辺のゴルフ場の会員権の相場はほとんどが一〇〇〇万円以上だ。本件ゴルフ場は改造によりチャンピオンコースに生まれ変わり、地元会員が少ないことからプレーの確保もでき値上がり確実だ。

⑥ 株と異なり本件会員権に投資すれば確実に財産形成ができる。

⑦ 周辺地域にはトヨタ等の工場が進出してきており、ゴルフ場の需要が高くなる。

(2) 長尾は、原告に対し、本件会員権購入の勧誘に際して、以下のような説明を行った。

① 大洋観光は関西では各事業を手広く行っている名の通った会社である。

② 本件会員権は先ず関東で販売し、名の通った大手会社に勤めている人、その他著名人に販売しグレードアップさせ、会員権の価値を上げ、その後関西で販売する。

③ 関東で五五〇万円、次いで関西で販売する時は九〇〇万円位になる。そして、オープンと同時に名義変更を開始して二〇〇〇万円位、低くても一五〇〇万円位にはなる。

3  本件ゴルフ場、会員権の実体

(一) 本件会員権の募集行為は、広栄観光、広栄観光の親会社である株式会社大洋観光、神征國土建設が企てた詐欺商法である。すなわち、本件会員権は無価値又は金五五〇万円より著しく低廉な価値しか有しないものであるにもかかわらず、あたかも金五五〇万円もしくはそれ以上に確実に値上がりするものであると偽って、購入希望者にその旨誤信させ、よって、本件会員権を代金五五〇万円で購入させるものである。

(二) 本件会員権の無価値性

(1) そもそも、大洋観光、広栄観光は本件ゴルフ場改造計画を実行する意思も能力もなく、前記2記載のゴルフ場改造計画は実現不可能な計画であった。

① 福岡県では、条例により、三ヘクタール(三万平方メートル)以上のゴルフ場の造成は、拡張も含め、原則禁止である(福岡県環境保全に関する条例及び同施行規則及び開発事業に対する環境保全対策要領)。本件ゴルフ場の元の面積は四六万平方メートルしかなく、会員の一部に提示した改造計画である六七万平方メートルを超える改造は福岡県の許認可が当然必要であった。

② 広栄観光は平成三年四月にスポーツ新聞紙上で本件会員権の募集記事を掲載し、そのなかで、コース面積84.15平方メートルにすることを表示した。右の大改造を内容とする広告が出たことを知った福岡県保健環境部環境整備局環境保全課は、広栄観光に対し、スポーツ紙等の広告内容について説明を求め、三ヘクタール以上の工事は許可を要する旨の指導を行った。すなわち、広栄観光及び大洋観光は平成三年四月までに、福岡県に対し、許認可に関する打診を一切していなかったものである。

③ 大洋観光は、福岡県の指導に対し、改造内容を簡単に変更し、2.7ヘクタールの改造であるという極めて簡単な報告書を右保全課に提出しただけであり、それ以後は福岡県に対する改造工事に向けた具体的な準備活動をしていない。

④ 現実に本件ゴルフ場の改造工事は現在に至るまで全く着手されていない。

広栄観光は平成三年二月から改造のためと称して本件ゴルフ場を閉鎖しているが、クラブハウスは屋根の一部が損壊し青いシートで覆われ、塗装ははげて廃屋同然である。コースは人の背丈よりも高い雑草で覆われ、ティーグランド、フェアウェイ、グリーン、バンカーの区別がつかない状態である。また、台風による倒木、崖崩れなどもあり、到底ゴルフ場とは見えない状況である。

⑤ 大洋観光及び広栄観光には前記のゴルフ場改造計画を実施する資力もなかった。

大洋観光は昭和五八年三月三〇日近畿相互銀行で第一回目の手形不渡りを出し倒産状態となった。そして、大洋観光は平成三年五月二度目の手形不渡りを出し倒産した。子会社である広栄観光も同じく倒産状態である。

⑥ 広栄観光は、株式会社オールコーポレーションに対し、平成元年九月二九日、本件ゴルフ場用不動産について、大洋観光を債務者とする極度額金四五億円の根抵当権を設定した。そして、オールコーポレーションは大洋観光に対して平成元年九月二九日から平成三年五月二四日までの間五回にわたって総額三六億三一二〇万円の融資をした。その間、オールコーポレーションに対して、平成二年八月八日、本件ゴルフ場用不動産について譲渡担保を原因とする所有権移転登記がなされた。そして、オールコーポレーションは福岡地裁飯塚支部に対し、平成四年一〇月二六日本件ゴルフ場用不動産について競売申立てをし、同月三〇日受付で、競売開始決定を原因とする差押登記が経由された。右競売に基づき本件ゴルフ場が第三者に売却されてしまうと、本件会員権は無価値なものとなる。

(2) 本件ゴルフ場における旧会員の存在

会員数はゼロからの募集であるとの説明は事実と異なる。

大洋観光は本件ゴルフ場の旧会員らからゴルフ会員権確認並びに預託金返還請求権確認請求訴訟を提起され敗訴している(福岡地方裁判所飯塚支部平成二年(ワ)第五六号)。右訴訟の証拠によると、大洋観光は、広栄観光、日本ファイナンス株式会社らと和解契約を締結し、一五〇〇名以上に上る旧会員一切については大洋観光と広栄観光に引き継がれた旨の合意をなしている。したがって、旧会員の権利は本件ゴルフ場に対して存在していたものであり、前記の説明が虚偽であることは明白である。

4  被告らの責任

(一) 被告会社の債務不履行責任

(1) 被告会社の注意義務

ゴルフ会員権業者がゴルフ会員権を販売し又は会員権募集の代行をするときは、ゴルフ場開設者の経済的・社会的信用、ゴルフ場の設計・監理・施行者の信頼性、ゴルフ場の歴史、設備、会員数、利用の利便性、会員権の販売価格・販売方法の妥当性、業界における当該ゴルフ場に対する評価等について調査を行い、当該ゴルフ会員権が募集要領等に記載されたとおりの価値を有するものかを確認した上で販売する義務がある。

① ゴルフ会員権業者に右の注意義務が課される根拠

(a) ゴルフ会員権は、権利であって形のないものであり、ゴルフ場開設者の経済的・社会的信用、ゴルフ場の設計・監理・施行者の信頼性、ゴルフ場の歴史、設備、会員数、利用の利便性、会員権の販売価格・販売方法の妥当性、業界における当該ゴルフ場に対する評価等によってその価格が著しく異なり、そのことは調査をしなければ客観的には分からない。

(b) ゴルフ会員権の販売や会員募集は広く一般大衆を相手とする取引であり、一般大衆には、それぞれのゴルフ場に関する前記のような情報を収集することは容易でないのに対し、ゴルフ会員権業者は専門業者であって情報収集能力も一般人より優れており、両者の能力の定型的差異から取引の相手方に対して信義誠実の原則にしたがって業務を行う必要がある。

(c) 一般人がゴルフ会員権業者によせる「専門家に対する信頼」は法的保護に値するものである。

(d) ゴルフ会員権業者に支払われる報酬は、通常は会員権販売代金の中から支払われるのだから、実質的にみれば、取引の相手方である購入者から報酬を得ているものとみることができる。

(e) 実際上、ゴルフ会員権業者は、会員権についての情報を得て取引の相手方に対して説明をしているのであるから、その内容について責任がある。

② 本件における注意義務の発生原因事実

(a) 本件ゴルフ場は、前記のとおり、相当程度大規模な改造工事を経た上でパブリックコースから会員制コースへ移行するという新規開設するゴルフ場に準じたものといえるから、このような相当程度の工事を要するゴルフ場の会員権を販売する場合は、既存の流通している会員権を販売する場合とは異なり、ゴルフ場開設業者の資力、改造工事の実現可能性等について調査を要する。

本件では、開設業者である広栄観光、大洋観光らの経営状態が悪いことは調査すれば容易に判明する事柄であった。

(b) 本件ゴルフ場は、前記のとおり既に存在していたゴルフ場を改造してオープンする予定のものであるから、それまでの本件ゴルフ場の営業内容、改造可能性等について地元のゴルフ会員権業者や近隣のゴルフ場等へ問い合わせるなどすれば、本件ゴルフ場の歴史、設備、会員数、利用の利便性、会員権の販売価格の妥当性、業界における当該ゴルフ場に対する評価等は容易に知りえた。近隣のゴルフ場への問い合わせは単に電話を架けるだけで容易になしうる。

実際、本件ゴルフ場については、近隣の麻生飯塚カントリー倶楽部の総務課長は、本件ゴルフ場の会員権に関して電話での問い合わせがあったときには「勧めない」「買わないほうが良い」と回答していたのであるから、電話一本を架けるだけで本件ゴルフ場が問題のある物件であることの端緒を容易につかむことができた。

(2) 被告会社の債務不履行

被告会社には、原告に対し、本件会員権を販売するに当たり、前記のような調査を全く行わず、漫然と顧客への配付用のパンフレットを鵜呑みにしてその記載内容の説明をしただけで本件会員権の購入を勧誘したという注意義務違反がある。

被告会社は、それによって、原告に本件会員権を代金五五〇万円で購入させて同額の損害を被らせたものである。

(二) 被告会社の不法行為責任

被告会社は、原告に対し、前記3(一)記載のとおり、本件会員権の募集行為が広栄観光、大洋観光、神征國土建設が企てた詐欺商法、すなわち、本件会員権は無価値又は金五五〇万円より著しく低廉な価値しか有しないものであるにもかかわらず、あたかも金五五〇万円もしくはそれ以上に確実に値上がりするものであると偽って、購入希望者を欺岡し本件会員権を代金五五〇万円で購入させるものであることを知りながら又は前記4(一)記載のような過失によりこれを知らずに本件会員権の購入を勧誘し、原告に本件会員権を右代金額で購入させて同額の損害を被らせたものである。

(三) 被告文男の責任

被告文男は、被告会社の代表取締役としてその業務を執行していた者であるから、ゴルフ会員権の販売という業務の執行に当たっては前記のとおりの調査・説明の注意義務を尽くすべき職務上の義務があるのに、これを怠り、被告会社の営業方針として、前記のような調査を行わず漫然と本件会員権の勧誘を行った職務執行上の重大な過失があった。

したがって、被告文男は原告に対し、民法七〇九条又は商法二六六条の三により損害賠償責任を負う。

(四) 被告惠子の責任

被告惠子は、被告会社の取締役として、代表取締役の職務執行を監督すべき職務上の注意義務があるのにこれを怠り、代表取締役である被告文男に対して前記注意義務を尽くさせるためにその監督権限を行使せず又は自らの取締役としての権限を行使して前記の調査等の義務を尽くすことなく、被告文男の違法な職務執行を放置した職務執行上の重大な過失があった。

したがって、被告惠子は原告に対し、民法七〇九条又は商法二六六条の三により損害賠償責任を負う。

5  損害の発生と数額

(一) 会員権購入代金の支払

原告は、本件会員権の販売者である広栄観光に対して、本件会員権購入代金を以下のとおり支払った。

(1) 平成三年一月二二日、入会金一〇〇万円及び消費税三万円合計一〇三万円を広栄観光の銀行口座に送金した。

(2) 同日、預託金四五〇万円に金利を加えた額について、以下のとおり、原告振出の約束手形を交付し、それを決済した。

①手形金額 二一万三七五〇円

支払期日 毎月二八日

決済回数 平成三年二月から同年一〇月まで合計九回

支払合計額 一九二万三七五〇円

②手形金額 六万三二八二円

支払期日 毎月二八日

決済回数 平成四年三月から平成五年一一月まで合計二一回

支払合計額 一三二万八九二二円

(3) 原告は手形の手数料として四万二九六〇円を支払った。

(二) 前記3記載のとおり、本件会員権は無価値又は殆ど価値がなく、したがって、原告は、被告らの債務不履行又は不法行為により、5(一)(1)ないし(3)の合計額四三二万五六三二円の損害を被った。

6  よって、原告は被告ら各自に対し債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき金四三二万五六三二円及びこれに対する最終損害発生の日の翌日である平成五年一一月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

同2(二)(1)の事実のうち、神征國土建設がそのような説明をして本件会員権の購入を勧誘していた事実は知らず、被告会社がそのような説明をして本件会員権の購入を勧誘した事実は否認する。同2(二)(2)の事実は否認する。

3  同3(一)の事実は否認し、(二)の各事実は知らない。

4  同4の各主張は争う。

5  同5(一)(1)の事実は認める。同5(一)(2)の事実のうち、原告が広栄観光に対し①の手形を交付した事実は認め、その余の事実は知らない。同5(一)(3)の事実は知らない。

同5(二)の主張は争う。

三  被告らの主張

1  被告会社による本件会員権販売の経緯と注意義務

(一) 被告会社による本件会員権販売の経緯

(1) 被告会社は、平成元年一二月一六日設立され、スポーツ用品等の販売を業としていたが、平成二年一二月ころから、ゴルフ会員権の販売を開始した。

(2) 本件ゴルフ場は、大洋観光の系列会社である広栄観光が従来パブリックコースとして運営されていたものを会員制コースに移行する計画の下に新規会員募集を行ったものであり、大洋観光及び広栄観光は、本件会員権販売に当たって、当初は神征國土建設に新規会員募集を独占的に委託していたが、後にそれを解消し、マイフィット及び株式会社日本ゴルフ証券に会員募集を委託した。マイフィット等はさらに下請業者に販売を委託し、その下請業者も順次販売業者を募集する形で本件会員権の販売が行われた。

(3) 被告会社は、ゴルフ会員権販売の独自の販売提携先もなかったことから、新聞広告で東京ゴルフ会員権・用品協同組合(関東通商産業局認可)加入者である株式会社アームプロジェクトを知り、同社の取り扱うゴルフ会員権の下請販売を行うこととした。当時、アームプロジェクトは、末端の販売業者として本件会員権等のゴルフ会員権を取り扱っていた。アームプロジェクトの社長佐藤義昭は、被告会社に対し、本件会員権の説明を行い、アームプロジェクトとしても推奨できる会員権であるといった。

そこで、被告会社は、本件ゴルフ場がゴルフダイジェスト等の市販本にパブリックコースとして掲載されている内容を確認し、パブリックコースを改修するのであれば全くの新設コースより良いのではないかと判断して、本件会員権の下請販売を行うこととした。

(二) 被告会社の会員権販売上の注意義務

(1) 被告会社は、本件ゴルフ場の改修、会員募集を行った大洋観光及び広栄観光とは何ら関係がなく、大洋観光等と本件会員権の販売について直接販売代理店契約を結んでいた神征國土建設やマイフィットなど大手販売業者とも何らの関係もなかった。すなわち、被告会社は末端の一販売業者であった。

(2) ゴルフ場の開発あるいは改修事業の計画、資金計画等が確実に履行されうるか否かについては、事業主体会社の幹部ら極く一部の者又はそれらの者と特別な関係を有する者のみしか知りえないのが実情であり、末端の販売業者としてその実態を知ることは至難である。

また、前記のような多層的下請販売形態の下では、原告のような、ゴルフ場開設業者である広栄観光と直接の契約関係にない下請業者は、ゴルフ場の内容について直接開設業者に問い合わせても、直属の元請け業者から説明を受けるように指示されるだけであった。

本件ゴルフ場についても、被告会社が、原告への本件会員権販売に先立って、直接現地を見たり、近隣業者に聞き込み調査をしても、広栄観光において平成三年二月に本件ゴルフ場を閉鎖し、同年五月ころ事実上倒産に至る事態の発生を予想しえたとはいえず、将来の改修工事やオープンが不可能になるとの判断材料を確実に見いだすことは不可能なことであった。現に、地元の碓井町の議会においては平成三年度当初予算に本件ゴルフ場の利用税収入を見込んだ予算を計上しているのであって、地元においてもゴルフ場改修工事の成功を信じていたことが窺われる。

(3) したがって、被告会社に原告主張の調査義務を課することは不可能を強いるものであって、被告会社には原告主張のような注意義務はなく、その注意義務は、顧客に交付するパンフレットの募集案内、会員規則等の内容を誠実に説明することに尽きるというべきである。

(三) 被告会社は、原告に対し、本件ゴルフ会員権の内容について、アームプロジェクトから説明・交付を受けた本件ゴルフ場の募集案内、会則、パンフレットに基づきそれらの資料をそのまま顧客に説明・交付しており、前記1(二)(3)の注意義務を尽くしている。

(四) 被告惠子の責任

被告惠子は被告文男の妻で被告会社の名目上の取締役であって、被告会社の業務執行には全く関与しておらず、かつ、本件会員権販売に関する職務上の重大な過失はない。

2  損害の拡大についての原告の責任

(一) 大洋観光は平成三年五月下旬に手形の不渡りを出し、広栄観光の経営悪化も巷間に伝えられるようになった。

被告石田は、その情報を耳にして、本件会員権の販売を中止するとともに、平成三年秋ころから、原告ら本件会員権を購入した顧客に対し、分割払いのため交付した手形の手形金を供託するように勧めた。

その結果、原告は、平成三年一一月から平成四年一月までの三か月分六四万一二五〇円を供託し、その後右金額は原告に戻っている。

(二) ところが、原告は、直接広栄観光の社長信貴秀元と面談し、信貴から「本件ゴルフ場は飽くまでも作る」と説得された上、前記2(一)記載の被告会社の勧めによって行っていた手形金の供託を中止し、分割金の支払について自ら信貴と交渉して、既発行の手形を回収し新たに平成四年三月から平成九年二月まで毎月二八日を支払期日とする、額面六万三二九二円の約束手形六〇通を広栄観光に交付し、平成四年三月から二一回にわたって右手形の決済をしていた。

したがって、原告が右のような行動をとらず、従前のとおり手形金の供託を続けていれば原告の損害が供託開始時のそれより拡大しなかったことは明らかであり、原告が手形金の供託を中止し新規に手形を発行して、その決済を行った分は、原告自らの責任と判断によって支払ったものというべく、当該部分の損害は原告の責任により拡大したものであって、被告会社らの責に帰するものではない。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1(一)(1)、(3)の各事実は知らない。同1(二)(2)、(3)、(三)の主張は争う。右は無責任極まりない主張である。同(四)の主張は争う。

2  同2(一)の事実は否認する。同2(二)の事実のうち、原告が信貴と面談した事実は認め、その余の事実は否認し、主張は争う。原告が信貴と面談した結果、新たに手形を振出すことになったのは、原告は退会を主張したものの信貴の同意を得られず、残金が残り一年分位であったことからとにかく引き延ばすつもりでそのようにせざるをえずに行ったものである。原告は専門的な知識もなく、当時としては毎月の金額を減らすのが精一杯の行為であり、無価値な商品を売りつけておきながら何らの損害回復措置をせずに放置していた被告が、それを原告自らの責任であると主張するのは著しく信義則に反する。

第三  理由

一  前提事実

請求原因1、2(一)の事実は当事者間に争いがない。

同5(一)(1)の事実及び同5(一)(2)の事実のうち、原告が広栄観光に対し、預託金四五〇万円に金利を加えた額について、原告振出の約束手形を交付した事実は当事者間に争いがなく、甲三九及び弁論の全趣旨によれば、右手形のうち、平成三年九月二八日満期までの八通が決済されたことが認められる。

二  ゴルフ会員権業者の会員権販売上の注意義務について(請求原因4(一)(1)、被告の主張1(一)、(二))

請求原因4(一)(1)①(a)記載のとおり、ゴルフ会員権は、権利であって形のないものであって、その価値は、ゴルフ場開設者の経済的・社会的信用、ゴルフ場の設計・監理・施行者の信頼性、ゴルフ場の歴史、設備、会員数、利用の利便性、会員権の販売価格・販売方法の妥当性、業界における当該ゴルフ場に対する評価等によって異なる。

しかし、甲九、乙三、被告会社代表者兼被告石田文男本人及び弁論の全趣旨を総合すると、被告が本件会員権の販売をすることになった経緯は被告の主張1(一)の各事実のとおりであったことが認められ、さらに、ゴルフ会員権の販売等を行うことについては特別な資格は必要ではないし、会員権業者の協同組合に加盟していることも必要ではなく、その結果、ゴルフ会員権に関する十分な知識のない者も販売等を行いうること、被告会社のような、開設業者から販売の委託を受けた大手の販売業者が下請業者に販売を委託し、そこからさらにいくつかの下請業者へと段階的に販売網が拡大されて下請が多層化した場合の末端の販売業者においては、開設業者との繋がりは全くなく、ゴルフ場や会員権の内容について開設業者から直接情報を得ようと問い合わせをしても、右下請業者の直属の元請業者から説明を受けるよう指示されるだけであることが認められる。

一方、本件全証拠によっても、一般の新聞・雑誌、ゴルフ業界の情報を掲載した雑誌・書籍その他末端のゴルフ会員権業者が容易に入手しうるの情報源に、本件ゴルフ場・会員権の状況が請求原因3記載のとおりであるのではないかとの疑問を抱かせるものが存在したことは認められない。

以上を総合すると、被告会社には、単に同社がゴルフ会員権を販売するというだけで、ゴルフ場開設者の経済的・社会的信用、ゴルフ場の設計・監理・施行者の信頼性、ゴルフ場の歴史、設備、会員数、利用の利便性、会員権の販売価格・販売方法の妥当性、業界における当該ゴルフ場に対する評価等について調査を行い、当該ゴルフ会員権が募集要領等に記載されたとおりの価値を有するものかを確認した上で販売する義務があるというわけではなく、一般のゴルフ会員権業者にとって、本件会員権募集行為の実体が請求原因3記載のとおりであるのではないかとの疑問を抱く端緒となりうる具体的事実が存在したときに、右義務を負うというべきである。

三  被告会社の本件会員権販売上の具体的注意義務

1  本件会員権の募集の経過について

甲一、六、七、九、一二、一四の1、一八の1ないし3、一九、二〇の1、2、二五、乙八によれば、本件会員権の募集の経過について以下の事実が認められる。

本件ゴルフ場は昭和四九年に開場したが、その後本件ゴルフクラブの名称や経営主体は転々と代わり、昭和六三年当時は、松山市所在の日本ファイナンス株式会社が不動産及び動産を、松山市所在の友和観光株式会社及び広栄観光が経営権ないし営業権等を有していた。また、本件ゴルフクラブは、昭和五五、六年ころ、九州ゴルフ連盟に参加しようとしたが、会員数が多すぎたため推薦を断られ、これを果たせなかった。さらに、本件ゴルフクラブの旧会員が日本ファイナンスの前前所有者に対し、訴訟を提起するなどしていた。

大洋観光は、昭和六三年七月五日、日本ファイナンス及び友和観光との間で、日本ファイナンスから本件ゴルフ場の不動産及び動産を代金一〇億円で、友和観光株式会社及び広栄観光から営業権等を代金一三億円で購入することを骨子とする和解譲渡契約を締結した。しかし、大洋観光が予定していたオリエントファイナンスからの借入ができなかったこと等から右当事者間の関係が悪化し、訴訟が係属するに至った。その後、平成元年五月二四日に、大洋観光と日本ファイナンス、友和観光、広栄観光及び友和観光・広栄観光の実質的経営者である稲田信男らとの間で訴訟上の和解が成立した。右和解においては、前記の契約を合意解約した上で、大洋観光において、日本ファイナンスから本件ゴルフ場の不動産を一〇億円で、稲田信男側から本件ゴルフクラブの経営権等と広栄観光の全株式を一二億七〇〇〇万円で購入すること、本件ゴルフクラブの旧会員から本件ゴルフ場の前前所有者に対する訴訟事件については、全面的に大洋観光の危険と責任で解決することとし、日本ファイナンスから右訴訟の被告知人の地位を承継することが確認された。

大洋観光は、販売手数料を預託金の一〇パーセントとして本件ゴルフクラブの会員権の販売業者を探していたが、受託業者は現れず、ようやく、平成二年三月二八日、神征國土建設との間で、神征國土建設に新規会員募集を独占的に委託すること、募集手数料は募集販売した保証預託金の二五パーセントとすること等を内容とする会員募集委託契約を締結した。しかし、大洋観光、広栄観光と神征國土建設との間でトラブルが生じ相互の関係が悪化したことから、大洋観光及び広栄観光は、神征國土建設に対し、平成二年一一月二七日、前記委託契約を同年九月四日に遡って解除する旨の通知をした。大洋観光及び広栄観光は、本件ゴルフクラブの会員募集をマイフィット及び株式会社日本ゴルフ証券に委託した。

しかし、大洋観光は、昭和六二年までに手形の不渡り事故を起こしたり、租税を滞納して差押えを受ける等継続的に資金繰りが苦しい状態にあり、昭和六二年七月期から平成元年七月期にかけて不動産賃貸業を縮小したことに伴い営業損益が急激に悪化し、不動産売却益で当期利益を確保したものの、平成元年六月当時の大洋観光グループ全体の借入金が約二〇〇億円にのぼり、平成二年三月に約二五〇億円、平成三年五月には約三二〇ないし三五〇億円に急増していること、平成二年五月以後固定資産税を滞納し、平成二年七月までに大阪府堺市内の不動産にも合計五二億二〇〇〇万円の担保権が設定されていること、その間、大洋観光は、昭和六三年七月に本件ゴルフ場等の購入契約を締結しながら代金の決済ができず、株式会社アイチからの借入によりようやく本件ゴルフ場等を取得したこと、右借入金利が高率であったため、本件ゴルフ場の土地について、株式会社不動産ローンセンター(現商号株式会社オールコーポレーション)に対し極度額四五億円の根抵当権を設定し、約四九億円を借り入れたが、そのうち約一七億円は静岡県内のゴルフ場の買収等大洋観光グループの運転資金として支出し、平成二年六月以降は不動産ローンセンターから改造工事に必要な程度の纒まった金額の借入もできず、富国開発株式会社からの融資もアイチから借り換え、その結果不動産ローンセンターに対し、大洋観光に対する債権保全のため本件ゴルフ場不動産の譲渡担保権の設定をせざるをえなかったこと、平成二年三月の神征國土建設との前記委託契約に当たり一〇ないし一五億円の拠出を要求していたこと等の事情があり、広栄観光を含む大洋観光グループとして、遅くとも平成二年三月ころには、新たに本件ゴルフ場の改造工事に必要な資金を投下することは極めて困難な状況にあった。

また、大洋観光は、平成二年二月ころ、株式会社松村組との間で改造工事の交渉をしながら、神征国土建設と前記委託契約が締結されると、その後松村組との交渉を進めず、神征国土建設に対する前記委託契約上の義務に反して改造工事について何ら具体的な説明をすることなく、その後も具体的に改造工事を進行させていないし、コース改修工事についても、改修面積を福岡県において施行可能な三万平方メートル以下にした場合は、六二〇〇ヤード程度が限界であると考えられるのに、作成したパンフレットには六八四七ヤードへの改造を記載するなどしており、大洋観光が真剣に改造工事の実行を検討していたとは認めがたい状況にあった。

すなわち、原告が本件会員権を購入した時点においては、大洋観光グループにおいて本件ゴルフ場改造工事を実行する必要な資金を投下することは極めて困難な状況にあり、本件ゴルフ場の改造工事のみならず会員制への移行自体が不確定であったと認められ、本件会員権の募集行為の実体は、大洋観光・広栄観光の関係では概ね請求原因3記載のとおりであったと認められる。

2  被告会社の注意義務とその違背の有無

(一) 被告会社にとって、被告会社が原告に対し本件会員権を販売しようとしていた平成二年一二月から平成三年一月ころに、一般のゴルフ会員権業者の注意力をもってすれば、本件会員権募集の実体が請求原因3記載のとおりであることを認識することが可能であったか否か、すなわち、そのころに、一般のゴルフ会員権業者が本件会員権募集の実体が請求原因3記載のとおりであるのではないかとの疑問を抱く端緒となりうる具体的事実は存在したか否か、その事実を元に本件会員権募集行為の問題点を探ることは可能であったか否かについて検討する。

(1) 大洋観光、広栄観光の経営状況について(請求原因4(一)(1)②(a))

① 本件ゴルフ場用の不動産に関する担保設定状況

甲一によれば、請求原因3(二)(1)⑥記載のとおり、右不動産には不動産ローンセンターに対する根抵当権設定登記、譲渡担保を原因とする所有権移転登記がなされていることが認められる。

しかし、そもそも、平成二年一二月から平成三年一月ころに、大洋観光グループの資力の不安を示す、登記簿謄本以上に容易に入手しうる資料が存在したことについては何らの主張・立証もないから、被告会社に登記簿謄本を調査することを期待するのは困難であるといわざるをえない。

そして、単にゴルフ場用不動産に担保権が設定されているというだけでは、直ちにゴルフ場開設者である大洋観光・広栄観光等にゴルフ場改造のための資力に問題があるということはできず、結局は、開設者の資力に問題が有るか否かは、右担保権設定により融資を受けた資金の使途、その返済の可能性等によって決せられることになるから、開設者の資力に問題が有るか否かは右の諸事情を調査しないとなお判明しないこととなる。

したがって、仮に、被告会社がゴルフ場用の不動産の登記簿謄本を調査し右のような担保権の設定状況を知ったとしても、そこから、直ちに、被告会社が本件会員権募集行為の問題点を探ることは可能であったとはいえない。

② 大洋観光グループの過去の手形事故

甲七によれば、大洋観光は昭和五八年に手形の不渡り事故を起こし、大洋観光グループの複数の関連会社も過去に手形の不渡り事故を起こしていた事実が存在することが認められる。

しかし、そもそも、被告会社が原告に対し本件会員権を販売しようとしていた平成二年一二月から平成三年一月ころに、大洋観光グループの資力の不安を示す容易に入手しうる資料が存在したこと及び被告会社が大洋観光グループの過去の手形事故について調査するための容易な手段が存在することについては何らの主張・立証もないから、被告会社に大洋観光グループの過去の手形事故について調査することを期待するのは困難であるといわざるをえない。

仮に、被告会社において、大洋グループの過去の手形事故についての情報を得たとしても、それが現在の同グループの資力の問題の有無とどのような関係にあるかについては、なお調査が必要となる。

③ 前記①、②に説示したように、被告会社が不動産登記簿謄本、過去の手形事故の調査を行ったとしても、大洋グループの資力に問題があるか否かは、前記①記載の融資金の使途・返済の見込み、②末尾記載の事情を調査しないと把握しえない。それらの事情を調査する方法としては、甲七のように、企業の信用の調査を行う専門業者に依頼する方法が考えられる。しかし、右の方法は費用の面で採用可能なものであるか疑問があるし、甲七によれば、右の方法を採ったとしても、なお調査の対象である企業の信用度の把握を十全に行えないことがあることが認められ、結局それらを総合すると、被告会社が登記簿謄本や大洋観光等の過去の手形事故歴を調査しても、その結果を元に本件会員権募集行為の問題点を探ることは著しく困難であったといわざるをえない。

④ 大洋観光等の代表者らの過去の検挙歴

甲七、弁論の全趣旨によれば、大洋観光の代表者である信貴久治は公職選挙法違反で逮捕され自宅等の捜索を受けたことがあり、その他暴力団抗争事件で自宅等の捜索を受けたことがあることが認められる。しかし、そのことから、直ちに、大洋観光や広栄観光の資力に問題があるということはできないから、仮に、被告会社が調査によって右事実を把握したとしても、そこから、大洋観光等の資力に問題があることを探ることができるというものではない。

⑤ 以上を総合すると請求原因4(一)(1)②(a)のようにいうことはできない。

(2) 本件ゴルフ場の問題点(請求原因4(一)(1)②(b))

① 旧会員問題

甲一二、一四の1、乙八によれば、前記二1認定のとおり、本件ゴルフ場には「会員」が存在したことが認められる。

しかし、本件全証拠によっても、右旧会員の存在の問題を疑う端緒となるに足りる事実が存在したことは認められず、かえって、甲二五、二六、乙三、被告会社代表者兼被告文男本人によれば、被告文男はアームプロジェクトの佐藤社長から、本件ゴルフ場は従前パブリックコースであったとの説明を受けていた事実が認められ、しかも、弁論の全趣旨によれば、各ゴルフ場を紹介した書籍であると認められる甲九には、本件ゴルフ場はパブリックコースとして紹介されており、乙三、被告会社代表者兼被告文男本人によれば、被告文男は右乙九の書籍を見て本件ゴルフ場がパブリックコースであると認識したのであるから、被告らが、本件ゴルフ場に旧会員問題が存在しているとの疑問をもつことを期待することはできないといわざるをえない。

たしかに、甲一四の1によれば、近隣のゴルフ場に問い合わせの電話を架けることによって、旧会員問題の存在を容易に把握しえた可能性があったことは認められる。しかし、そもそも旧会員問題の存在を疑わせる事情がなく、かえってパブリックコースであると信頼することを相当だと評価する事情が存在したのであるから、被告らに近隣のゴルフ場に問い合わせの電話を架けることを期待することもできないといわざるをえない。

② 経営主体の変転の激しさ

甲一からは、本件ゴルフ場の経営主体の変転が激しいことを窺うことができる。しかし、過去の経営主体の変転の激しさと今後の経営の安定の見込みは一応別の問題だといえるから、右事実をもって、本件ゴルフ場が問題のあるゴルフ場であり請求原因3記載のような事情が存在するとの疑問を抱くに足りる事実であるということは到底できず、被告会社に本件ゴルフ場に関する更なる調査を行う義務を課することはできない。

③ 以上を総合すると請求原因4(一)(1)②(b)のようにいうことはできない。

(3) コース改修計画の実施可能性

甲三、四、五の1ないし6、二五によれば、前記二1認定のとおり、改修面積を福岡県において施行可能な三万平方メートル以下にした場合は、六二〇〇ヤード程度が限界であると考えられるのに、大洋観光等はその作成したパンフレットに六八四七ヤードへの改造を記載するなどしていた事実が認められ、この事実からは、大洋観光らが真剣に改造工事の実行を検討していたとは考えがたいことを窺い知ることができる。

しかし、末端のゴルフ会員権業者に、各自治体のゴルフ場開発の規制に関する条例等に関する具体的な知識を持つことやゴルフ場面積とヤーデージの関係を的確に把握することを期待するのは酷にすぎるというべきである。したがって、本件コース改修計画に前記のような問題があることは、被告会社に対し、本件コース改修計画の実施可能性に疑問を抱く端緒となるに足りる事実であるとはいえず、被告会社に、さらなる調査をする義務を課することはできないといわざるをえない。

(4) 小括

以上によれば、被告会社にとって、本件会員権募集行為の実体が請求原因3記載のとおりであるのではないかとの疑問を抱く端緒となるに足りる具体的事実が存在したとはいえないし、その事実を元に本件会員権募集行為の問題点を探ることは可能であったともいえず、本件会員権募集行為の実体が請求原因3記載のとおりであることを認識することが可能であったとはいえない。

(二) 被告会社の注意義務とその違背の有無

したがって、被告会社に原告主張の調査義務を課することは不可能を強いるものであって、被告会社には原告主張のような注意義務はなく、その注意義務は、ゴルフ業界で通常入手しうる資料や元請業者から入手したパンフレットの募集案内、会員規則等の資料や情報を検討し、その内容を誠実に説明することに尽きるというべきである。

そして、甲九、乙三、被告会社代表者兼被告文男本人によれば、被告会社は右注意義務は尽くしていたものと認められるから、被告会社には、本件会員権販売上の注意義務違反があったとはいえないといわざるをえない。

なお、原告の陳述書である甲二一中には、長尾が原告に対して本件会員権の購入を勧誘する際に、請求原因2(二)(2)②、③のような説明をしたとの記載がある。しかし、原告本人自身も、本件会員権購入の主たる動機はプレー自体と将来預託金が返還されることにあったことを認めているから(三六、五二項)、長尾が前記のような説明を行ったとしても、特にそれが問題になるものではない。

3  小括

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告らには、会員権販売上の注意義務違反による債務不履行責任又は不法行為責任は成立しない。

四  被告らが本件会員権募集が請求原因3記載のようなものであることを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告らには故意による不法行為責任も成立しない。

五  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

(裁判官永井秀明)

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