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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)165号 判決 1995年5月17日

原告 学校法人白金幼稚園 外二七六名

被告 運輸大臣

主文

一  別紙第二目録記載の原告らの訴えをいずれも却下する。

二  その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成五年三月二五日付けでした原告らの審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の答弁

1  本案前の答弁

(一) 原告らの訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五九年四月二〇日、帝都高速度交通営団(以下「営団」という。)に対し、昭和六一年法律第九二号による廃止前の地方鉄道法(大正八年法律第五二号)一二条一項に基づき、起点「東京都品川区上大崎二丁目(目黒)」から終点「東京都北区岩淵町(岩淵町)」まで、主たる経過地「港区白金台、港区六本木、千代田区永田町、新宿区四谷、文京区後楽、文京区本駒込、北区王子、北区志茂」とする営団地下鉄七号線(以下「本件路線」という。)についての事業免許を行った。

2  被告は、平成三年四月五日、鉄道事業法(昭和六一年法律第九二号・以下「法」という。)八条二項に基づき、営団に対し、本件路線のうち起点「東京都品川区上大崎四丁目二番地先」から終点「東京都港区赤坂二丁目一一番地先」までの区間(以下「本件区間」という。)について工事の施行を認可した。

その後、営団は、右認可に係る工事計画を変更することとし、法九条一項に基づきその旨の認可を申請したところ、関東運輸局長(法九条一項の認可については、法六四条及び法施行規則七一条一項により地方運輸局長に権限の委任がされている。)は、平成四年六月二二日、右変更の認可(以下「原処分」という。)をした。

3  原告らは、平成四年一二月四日、被告に対し、行政不服審査法五条に基づき、原処分について審査請求をしたが、被告は、平成五年三月二五日、原告らには原処分について不服を申し立てる法律上の利益がなく、原告らの審査請求は不適法であるとして、これを却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

4  原告学校法人白金幼稚園(以下「白金幼稚園」という。)は、東京都港区白金台五丁目(一部は東京都品川区上大崎二丁目)に所在する国立科学博物館付属自然教育園(以下「自然教育園」という。)に隣接した場所にあり、自然教育園を含む豊かな自然環境の中で自然環境そのものを教材とした園児教育を実践しているものである。

その余の原告らは、白金幼稚園に通園する園児、その園児の父母を中心として構成される「自然と子どもを守る会」に所属する者、白金幼稚園の卒園生の父母で構成される「椎の木会」に所属する者、あるいは本件路線のうち東京都港区白金二丁目所在の清正公前交差点から東京都品川区上大崎二丁目所在の目黒駅に至る通称「目黒通り」の沿線の住民である。

5  原処分は、本件区間における鉄道施設の工事計画の変更を認可するものであるが、右認可された工事計画のとおりの工事(以下「本件工事」という。)が行われた場合には、自然教育園の南側の目黒通りの地下にトンネルを掘って鉄道路線が敷設されることになり、その付近の地下水脈が遮断されることになる結果、近隣の地盤沈下、水質汚濁及び土壌汚染をもたらし、自然教育園を中心とする自然環境に悪影響を与え子供達の成育環境を破壊するといった被害(以下「環境被害」という。)が生じることは明らかである。

原告らは、原処分によって右のような環境被害を受けることとなるが、かかる環境被害を受けない利益(以下「環境利益」という。)も法によって保護されているものであるから、原告らは、行政不服審査手続によって原処分の取消しを求める法律上の利益を有するものであり、原告らの審査請求を却下した本件裁決には、行政不服審査法の解釈適用を誤った違法がある。

よって、原告らは、本件裁決の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  行政事件訴訟法三条三項の裁決の取消しの訴えは、裁決が取り消されることにより審査庁の再度の実体的な審査を受けることを目的とするものであるから、裁決の取消しの訴えを提起することができるのは、処分につき不服申立人適格を有する者に限られるところ、後記のとおり、原告らは、いずれも原処分につき不服申立人適格を有しないから、本件裁決の取消しを求める原告適格がなく、本件訴えは不適法として却下されるべきである。

2  別紙第二目録記載の原告らは、原処分について審査請求をしていないから、本件裁決の取消しの訴えを提起することはできず、右原告らの訴えは不適法として却下されるべきである。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの認否

1  被告の本案前の主張1は争う。

2  同2のうち、別紙第二目録記載の原告らが原処分について審査請求をしていないことは認める。

四  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、別紙第二目録記載の原告らが審査請求をしたことは否認するが、その余の事実は認める。

3  同4の事実のうち、自然教育園が原告ら主張の位置に存在することは認めるが、その余の事実は知らない。

4  同5は争う。

五  被告の主張

1  行政不服審査法四条一項にいう「行政庁の処分に不服がある者」とは、当該処分により直接に自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。

そして、右の法律上保護された利益とは、行政法規がその保護を直接の目的として行政権の行使に制約を課すことによって保障される私人の利益であって、行政法規が一般的な公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果、付随的、反射的に保護されることになる利益は含まれない。

2  法は、鉄道等の利用者の利益を保護し、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進するという一般公益の実現を目的としたものであり(法一条)、鉄道事業者の行う鉄道施設の工事についても、これが適正かつ合理的に行われることによって一般公益の実現が図られるよう、被告の認可を受けるものとされているのである。

鉄道施設の工事計画の変更を認可する場合の要件についてみても、法は、工事計画が事業基本計画及び鉄道営業法一条の命令で定める規程に適合することと定めているだけであるし(法九条二項、八条二項)、他の関連条文及び関連法規を通覧しても、法が鉄道施設の周辺住民の環境利益を個別的・具体的に保護していると解する根拠は見いだせない。

これらの点からすると、法は、鉄道施設周辺の環境利益を個別的・具体的に保障する趣旨で行政権の行使に制約を課しているものではなく、原告ら主張の環境利益は法律上保護された利益とはいえない。

3  したがって、原告らは、原処分の取消しを求める不服申立人適格を有しないのであって、本件裁決には、行政不服審査法の解釈適用を誤った違法はない。

六  原告らの反論

1  行政不服審査法による不服申立人適格を有する者とは、当該処分の根拠法規によって保護された個々人に帰属する利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者であり、ある行政法規が、不特定多数者の具体的利益を、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該法規及びそれと目的を共通にする関連法規によって形成される法体系の中において、そのような趣旨の規定として位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべきであって、単にその趣旨を謳った明文の規定があるかどうかによって判断されるものではない(最高裁第二小法廷平成元年二月一七日判決・民集四三巻二号五六頁―新潟空港訴訟判決、最高裁第三小法廷平成四年九月二二日判決・民集四六巻六号五七一頁―もんじゅ訴訟判決)。

2  法は、国鉄民営化政策により、日本国有鉄道法及び地方鉄道法を廃止し、新たに、全鉄道事業に関する基本法として、昭和六一年一二月に制定された法律であり、わが国の未来の鉄道事業をも念頭に置いたものであって、都市開発といった国益ないし公益だけでなく、周辺住民の憲法上保護された生命、身体、財産、教育に関する基本的人権に対する侵害の防止等も十分に考慮したものである。

そのことは、法一条が「この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする」としていることから明らかであり、右の「公共の福祉」という文言は、周辺住民の憲法上保障された権利利益を個別的、具体的に保護する趣旨と解すべき根拠となるものである。また、法五条一項は、鉄道事業者に免許を付与する基準として、運送需要に対する適切性等のほかに、「その事業の開始が公益上必要であり、かつ、適切なものであること」(同項五号)を定めているが、この「適切なものであること」という基準は、周辺住民の権利利益への影響を個別的に考慮して判断することによって判明する事柄であるというべきである。さらに、被告は、公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、列車の運行計画を変更する事業改善命令を発することができるとされているが(法二三条一項二号)、このような規定は地方鉄道法には存在しなかったものであり、この命令が「公共の福祉の増進」を目的とする法の趣旨を実現するために設けられたことは明らかであって、「公共の利益を阻害している事実」とは、沿線住民の生命、身体、財産、教育に関する基本的人権という権利利益を侵害する可能性を一つの要素として含むことも明らかなことである。

3  以上のとおり、法の制定経過及び目的規定、事業免許や事業改善命令の規定などに照らせば、法は、鉄道施設の建設工事によって周辺住民が環境被害を受けないよう、鉄道施設の建設工事につき認可制度を設け、その規制を通じて、周辺住民個々人に帰属する環境利益(これは憲法上保障された基本的人権である。)を個別的に保護することとした趣旨と解すべきであり、したがって、原処分によって環境被害を受ける原告らは、原処分の取消しを求める不服申立人適格を有するというべきである。

このことは、航空法に基づく定期航空運送事業免許の取消しを求める付近住民の原告適格を肯定した前記新潟空港訴訟判決や、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく原子炉設置許可の無効確認を求める付近住民の原告適格を肯定した前記もんじゅ訴訟判決の趣旨に照らしても明らかであるといわなければならない。

理由

第一本案前の主張について

一  行政事件訴訟法三条三項の裁決の取消しの訴えは、その取消判決の効力により当該裁決がない状態を形成し、原告に改めて裁決を受ける地位を回復させることを目的とするものであるから、行政庁の処分に対して行政不服審査を申し立て、棄却又は却下の裁決を受けた者がその裁決の取消しを求める法律上の利益を有することは明らかであり、処分について不服申立人適格を欠く者は裁決の取消しを求める原告適格を有しないとする被告の本案前の主張は理由がない。

二  もっとも、別紙第二目録記載の原告らが原処分について審査請求をしていないことは、当事者間に争いがないから、審査請求をしていない右原告らが本件裁決の取消しを求める原告適格を有しないことは明らかである。

したがって、別紙第二目録記載の原告らの訴えは不適法なものとして却下すべきである。

第二その余の原告らの不服申立人適格について

一  請求原因1、2の事実及び原告ら(別紙第二目録記載の原告らを除く。以下、理由第二において同じ。)が原処分について審査請求をし本件裁決がされたことは、いずれも当事者間に争いがない。

行政不服審査法による不服申立ては、違法又は不当な行政処分によって侵害された国民の権利利益を救済するためのもので、右権利利益の救済と離れて一般的な行政の適正な運営の確保自体を目的とするものではないから、同法四条一項にいう「行政庁の処分に不服がある者」とは、当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきである。

ところで、右にいう法律上保護された利益は、当該処分の本来の法的効果として実体法上制限されることになる利益(この場合の行政処分は、いわゆる侵害処分として、私人に対し、実体法上の利益が制限されることを受忍すべき義務を課すものである。)に限られるものではなく、当該処分の根拠をなす行政法規が個人の具体的利益を個別的に保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されることになる利益(すなわち、その制約に違反しないで行政権が行使されることにより当該行政法規を通じて保障されることになる利益であって、この場合は、行政処分の法的効果として、実体法上の利益が制限されることを受忍すべき義務が課されるわけではない。)も含まれると解される。そして、行政権の行使に制約を課すことにより保障される利益が不特定多数者の利益である場合であっても、当該行政法規の趣旨・目的、当該処分を通して保障しようとしている利益の内容・性質等を考慮して、当該行政法規がその不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめることなく、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるときは、かかる行政法規を通じて保障される利益もまた右法律上保護された利益に当たり、右の制約に違反して処分が行われ行政法規による利益の保護を無視されたとする者は、法律上保護された利益を侵害された者として、当該処分について行政不服審査における不服申立人適格を有するものと解するのが相当である。

二  そこで、以下、原告らの不服申立人適格の有無について判断する。

1  原処分は、鉄道施設の工事施行認可後に、その工事計画の内容を変更することの認可であって、営団に対し、変更された工事計画のとおりの鉄道施設の工事を施行することに同意を与えるものであり、当該鉄道施設の周辺住民に対し、右認可の法的効果として、その実体法上の権利、利益に制限を加える処分でないことは明らかである。したがって、原告らは、原処分によって、その主張する地盤沈下などの被害を受忍すべき義務が課されることになるものではなく、仮に、本件工事によって、原告らの実体法上の権利、利益が侵害されるとすれば、原処分の取消しを待つまでもなく、その権利、利益に基づいて、その侵害の回復を求めることが可能なのであって、原処分があることによってその権利、利益の侵害を甘受しなければならない地位に立たされるわけでないことはいうまでもない。

2  そこで、次に、鉄道施設の工事計画の変更の認可制度が、当該工事計画に係る鉄道施設周辺の一定範囲の第三者の具体的利益を個別的に保護する趣旨をも含むといえるかどうかについて検討する。

鉄道事業は、大量の旅客や貨物を安全に輸送するという国民の日常生活及び経済活動に必要不可欠の需要に応じるものであり、その性質上、輸送の安全を確保し、良質な輸送を安定的かつ継続的に提供することが極めて重要であることから、免許制とされ、適切な計画と事業遂行能力を有する者に対してのみ事業経営が認められている(法三条ないし六条)。そして、免許を受けた鉄道事業者は、鉄道線路、停車場等の鉄道施設について工事計画を定め、工事の施行について被告の認可を受けなければならないこととされ(法八条)、また、右認可を受けた後に、その認可に係る工事計画を変更しようとするときは、一定の軽微な変更の場合を除き、その変更について被告の認可(法六四条、法施行規則七一条一項により地方運輸局長に権限が委任されている。)が必要とされている(法九条一項)。右鉄道施設の工事施行の認可及び工事計画の変更の認可を申請するときは、鉄道事業者は、法施行規則別表第一所定の事項につき工事計画を定め、所定の添付書類及び添付図面を提出するものとされており(法施行規則一〇条二項、一一条二項、一四条二項)、被告は、当該工事計画が事業基本計画(法四条一項五号)及び鉄道営業法一条の命令で定める規程に適合すると認めるときは、認可をしなければならないものとされている(法八条二項、九条二項)。

ところで、右の事業基本計画とは、鉄道事業の種別ごとに、鉄道の種類、単線・複線の別、動力の種類、軌間、設計最高速度及び設計通過トン数、運送区間、計画供給輸送力、駅の位置及び名称などの事業の基本となる事項に関する計画を定めたものであり(法四条一項五号及び法施行規則五条)、また、鉄道営業法一条の命令で定める規程とは、鉄道施設及び車両の構造について準拠すべき技術基準を定めたものを意味し、本件路線のような法施行規則四条一号所定の普通鉄道にあっては、普通鉄道構造規則(輸送の安全を図るため、普通鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造を定めたものである。)がこれに当たる。

3  法は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする旨定めており(法一条)、その文言からすれば、法は、鉄道事業が国民の日常生活及び経済活動に必要不可欠な役割をになっていることに鑑み、輸送の安全と安定的かつ継続的な輸送の提供を確保することを目的として所用の規制を行うこととしたものであって、国民個々人の具体的利益を個別的に保護することをも目的としているものと解することはできない。

そして、工事施行の認可及び工事計画の変更の認可も、事業基本計画及び普通鉄道構造規則等への適合性のみを認可の要件としていることから明らかなように、専ら輸送の安全等の見地から、鉄道施設の工事の適正な施行を確保することを目的としたものであって、建設される鉄道施設の周辺住民の具体的利益を直接保護することも目的としているとみることは困難である。

また、法及び法施行規則等には、鉄道施設の工事について、その周辺住民の具体的利益を保護することを念頭において設けられたと窺わせるような規定は全く見当たらないし、その認可手続においても、周辺住民からの意見書提出手続や聴聞手続などの第三者保護の手続の履践が要求されているわけでもない。

以上のような、法の立法趣旨、目的、認可に関する規定の内容等からすれば、法八条、九条による鉄道施設の工事施行の認可及び工事計画の変更の認可は、免許を受けた鉄道事業者の設置しようとする鉄道施設が、免許の内容を的確に具体化する施設として計画、設計され、施設として必要な技術基準に適合しているかどうかを、あらかじめ審査、確認するためのものであり、被告(又は地方運輸局長)としては、事業基本計画及び普通鉄道構造規則等に適合している以上は、その認可をしなければならないとされているのであって、右認可制度が当該鉄道施設の周辺住民の具体的利益を個別的に保護することをも目的としている規定と解することはできないといわなければならない。

三1  原告らは、法一条が、法の目的を「公共の福祉を増進することを目的とする」としていること、法五条一項五号が鉄道事業の免許の要件として「事業の開始が・・・・適切なものであること」と規定していること、法二三条一項が事業改善命令の要件として「公共の利益を阻害している事実」と規定していることからすれば、法八条及び九条の認可制度は、鉄道施設の建設工事によって周辺住民が環境被害を受けないように、その住民個々人に帰属する環境利益を保護する趣旨で行政権の行使に制約を課したものと解すべきであると主張する。

しかしながら、右各規定は、「公共の福祉」、「適切なもの」、「公共の利益」などという抽象的な文言を用いて規定されていることからも明らかなように、いずれも鉄道事業が適正かつ合理的に運営されるよう行政的な規制を加えることにより、不特定多数人のために一般公益を確保しようとする趣旨の規定と解するのが相当であって、法八条、九条の規定を原告ら主張のように理解することは困難である。

2  また、原告らが引用する新潟空港訴訟判決、もんじゅ訴訟判決は、いずれも当該行政法規の目的、規定の内容、当該処分の性質、内容などに照らし、それぞれの処分の根拠となった行政法規が、「飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によって著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含む」、あるいは「原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む」と解することができる場合であって、右各判決が飛行場あるいは原子炉といった施設の周辺住民の原告適格を肯定しているからといって、処分の根拠法規を全く異にする本件にこれをそのまま当てはめることができないことはいうまでもない。

四  以上のとおりであるから、原処分に係る鉄道施設の周辺住民等である原告らは、いずれも原処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがある者に当たらないというべきであるから、原処分について行政不服審査を求める不服申立人適格を有しないといわなければならず、原告らの審査請求を却下した本件裁決には、行政不服審査法の解釈適用を誤った違法はない。

第三結論

よって、別紙第二目録記載の原告らの本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、その余の原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤久夫 橋詰均 武田美和子)

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