大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)7544号 判決 1997年4月09日

原告

デジコン電子株式会社

右代表者代表取締役

瀬戸行雄

右訴訟代理人弁護士

山口広

長谷一雄

被告

日本遊戯銃協同組合

右代表者代表理事

国本圭一

右訴訟代理人弁護士

木村晋介

被告

前田徹雄

外三名

右五名訴訟代理人弁護士

腰塚和男

小林郁夫

椙山敬士

右訴訟復代理人弁護士

瀬戸仲男

被告

川島博

主文

一  被告日本遊戯銃協同組合及び被告前田徹雄は連帯して、原告に対し、金一八四六万一六三四円及びこれに対する被告日本遊戯銃協同組合は平成五年五月一一日から、被告前田徹雄は同月二一日から各支払済みまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の一を被告日本遊戯銃協同組合及び被告前田徹雄の連帯負担とし、被告日本遊戯銃協同組合及び被告前田徹雄に生じた費用の各四分の一を右各被告の負担とし、その余の費用は全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、各自金七二九二万五七七五円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日(被告日本遊戯銃協同組合、被告関藤彰及び被告岡井道昭は平成五年五月一一日、被告村田正好は同月一二日、被告川島博は同月一三日、被告前田徹雄は同月二一日)から各支払済みまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。

二  被告日本遊戯銃協同組合は、原告に対し、別紙(一)記載の定期刊行の各雑誌に別紙(二)記載の謝罪広告を、それぞれ各誌一頁大の誌面に掲載せよ。

三  被告日本遊戯銃協同組合は、原告が同被告に加入しておらず、このために原告製品にASGKシールを貼付していないことを理由として、遊戯銃を取り扱う問屋及び小売店に対し、原告製品を取り扱わないよう文書及び口頭による指示又は要請をしてはならない。

第二  事案の概要

本件は、ガス圧又は空気圧を利用してプラスチック製弾丸(以下「BB弾」という。)を発射する機能を有する射的銃(以下「エアーソフトガン」という。)及びBB弾等の製造販売を業とする株式会社である原告が、モデルガン又はエアーソフトガン(以下、併せて「遊戯銃」という。)の製造を行う中小規模の事業者を組合員とし、組合員の取り扱う遊戯銃の改造防止に関する事業等を目的として中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)に基づき設立された協同組合である被告日本遊戯銃協同組合(以下「被告組合」という。)、その代表理事であった被告前田徹雄(以下「被告前田」という。)、遊戯銃を取り扱う問屋の団体である東日本遊戯銃防犯懇話会(以下「東日本懇話会」という。)の当時の会長であった被告川島博(以下「被告川島」という。)、同じく中部遊戯銃防犯懇話会(以下「中部懇話会」という。)の会長であった被告村田正好(以下「被告村田」という。)、平成三年三月まで西日本遊戯銃防犯懇話会(設立時には関西遊戯銃防犯懇話会。以下「西日本懇話会」という。)の会長であった被告岡井道昭(以下「被告岡井」という。)及び平成三年三月から同懇話会の会長であった関藤彰(以下「被告関藤」という。)らが、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)三条(不当な取引制限)、八条一項一号(一定の取引分野における競争を実質的に制限することの禁止)及び同項五号及び一九条(不公正な取引方法の禁止)に違反し、ユーザーの安全を守るという名目の下に原告製品を仕入れ販売しないよう問屋に要請し、また原告製品を販売している小売店に他の製品を供給しないと告げるなどして、原告をエアーソフトガン及びBB弾の共同市場から排除し、その結果、原告製造のエアーソフトガン及びBB弾の売上げが減少し、さらに、被告らにより原告が危険な製品を製造しているかのような誹謗中傷がされたことによって原告の名誉ないし信用が毀損され、被告らの右妨害行為が現在も継続している旨主張して、被告らに対し、共同不法行為(民法七一九条)に基づき、右妨害がなければ得たであろう利益相当額の損害賠償を求め、かつ、被告組合に対し、名誉回復の措置として業界関係雑誌三誌への謝罪広告の掲載と、右妨害行為の差止めとを求めている事案である。

一  争いのない事実等

1(一)  原告は、昭和四八年に設立された株式会社で、平成元年ころまでラジコン模型等の製造販売を行っていたが、昭和六一年六月ころからエアーソフトガン用の直径六ミリBB弾の製造販売を開始し、平成元年ころにはラジコン模型等の製造販売を中止し、平成二年一一月からはほぼ専らBB弾及びエアーソフトガンの製造販売を業としているものである(<書証番号略>)。

(二)  被告組合は、遊戯銃の製造を行う中小規模の事業者を組合員とし、遊戯銃の改造防止等を図ることにより遊戯銃の安全対策の確立に努めるとともに、組合員の相互扶助の精神に基づき、組合員のために必要な事業を行い、もって組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的として設立された協同組合法に基づく協同組合であり、独禁法二条二項に定める「事業者団体」に該当するものであって、平成二年秋ころ、エアーソフトガンを製造販売する事業者のほとんど全てが被告組合に加入していた(平成二年末以降概ね全国の三〇社ないし四〇社が加入しており、平成五年六月二二日現在の組合員数は四六社であった。ただし、零細業者はほとんど加入していないが、その実態は被告組合にも明らかでない。)が、原告は加入していなかった。

被告前田は、被告組合の組合員である有限会社丸前商店(以下「丸前商店」という。)の代表取締役であり、平成二年一月(又は同年五月)ころから平成五年一二月二日まで被告組合の代表理事であり、また、東日本懇話会の会員である有限会社マルゼンの代表取締役でもあった。

(三)  東日本懇話会、中部懇話会及び西日本懇話会(以下、併せて「三懇話会」ということがある。)は、各地域の遊戯銃関係の商品を扱う問屋等を会員とする組織である。

被告川島は、被告組合の組合員であるマルシン工業株式会社(以下「マルシン工業」という。)及び東日本懇話会の会員である問屋の株式会社レプリカ(以下「レプリカ」という。)の各代表取締役であり、東日本懇話会の設立当時からの会長である。また、昭和六一年五月ころから平成二年一月ころ(又は同年五月ころ)まで被告組合の代表理事(被告前田の前任者)であった。

被告村田は、中部懇話会の会員である問屋のメトロ科学模型株式会社(以下「メトロ模型」という。)の代表取締役であり、平成二年三月ころから中部懇話会の会長であったものである。

被告岡井は、西日本懇話会の会員である問屋の株式会社日文模型の代表取締役であり、平成元年一一月から平成四年三月にかけて、西日本懇話会の会長であった。

被告関藤は、西日本懇話会の会員である問屋の株式会社セキトー(以下「セキトー」という。)の代表取締役であり、平成四年三月から西日本懇話会の会長である。また、セキトーは東日本懇話会の会員でもあり、平成三年五月に被告組合に加入した。

三懇話会は、遊戯銃関係のほぼ全国のほとんどの問屋が会員となっており、その傘下の小売店は平成三、四年当時約五〇〇〇店あった。

2  被告組合は、昭和六一年八月八日、同組合規約第一号として「エアーソフトガン自主規約要綱」(<書証番号略>以下「当初規約」という。)を制定し、特にエアーソフトガンにつき、その安全規格、改造防止構造、検査基準等を定め、併せて、検査に合格した製品には所定の合格証紙(後記ASGKシール)を貼付することなどについても定めた。

その後、被告組合は、平成二年一〇月一日、同組合規約第二号としてこれをより詳細に規定し直した「遊戯銃自主規約要綱」(<書証番号略>。正規の名称は「遊戯銃の安全検査に関する規約」。以下「本件自主規約」という。)を制定し、さらに、平成五年四月二一日、本件自主規約を改編した(<書証番号略>。以下「改編規約」という。)。

本件自主規約中の別表一「エアーソフトガンの規格及び細則」において、エアーソフトガンの銃本体はプラスチック製とすること、その威力は発射された弾丸の運動エネルギーが0.4ジュール(以下、右「ジュール」を「J」で表すこととする。)以下とし、ただし、対象年齢一〇歳以上の表示をするものは0.2J以下とすること(被告組合では、銃の一個箱には使用対象年齢として「一八歳以上」又は「一〇歳以上」のいずれかの表示をしなければならないと定めていた。)、弾丸については、材質はオールプラスチックで、重量は0.2グラム以下、直径は5.7ミリメートル以上とすることなどの基準(以下「本件自主基準」という。)を定めていた(なお、右に摘記した内容については、当初規約も同様であった。)。

改編規約においては、新たに競技専用弾丸という種類を設定して、その重量を重くして0.36グラム以下であればよいということとし、また、対象年齢一〇歳以上という表示をするエアーソフトガンの威力は0.18J以下とすることなどの改定がされた(<書証番号略>。以下、右改定後の基準を「改定自主基準」という。)。

そして、前記のとおり、当初規約以降、組合員らに対し、右基準に合致していると認められた製品について、被告組合から「ASGKシール」と称する合格証紙を有料で交付することとし、これを当該製品に貼付して販売することを義務付けていた。

3  原告は、かねてからエアーソフトガンの製造販売を行うことを計画し、平成二年一一月一〇日から実際にエアーソフトガンの製造販売を開始した。原告の製造販売したエアーソフトガンは、アメリカ合衆国陸軍が使用している拳銃を模したベレッタM九二Fと称する製品で、当初発売されたのはノーマルタイプ(小売価格一万四五〇〇円)及びパーカライジングタイプ(スペアグリップパネル付き、小売価格一万七五〇〇円)の二仕様であり、その後、ベレッタM九二Fロングバレル、同ロングバレルパーカライジングタイプ、同ヘビーウエイト、同ヘビーウエイトロングバレル等の各仕様を製造販売した。なお、同ヘビーウエイトはノーマルタイプと性能は同一であるが重量のあるタイプであり、同ロングバレルは銃身が長く威力が強いタイプであり、同パーカライジングタイプはプラスチックを表面加工し実銃に似せて質感を出したタイプである。(<書証番号略>。以下、右各仕様を併せて「本件九二F」と総称する。)

4  原告がエアーソフトガンの製造販売を開始したことを知った被告前田は、平成二年一一月一六日、原告代表者瀬戸行雄(以下「瀬戸」という。)に電話をし、被告組合へ加入するよう要請したが、原告は回答を留保し、直ちに被告組合に加入することをしなかった。すると、被告組合は、原告に対し、同月二六日、文書(<書証番号略>)を送付し、本件九二Fの販売の中止を要求した。

5  また、被告組合は、そのころ、三懇話会及びその会員である問屋に対し、同日付け文書(<書証番号略>。ただし書込み部分を除く。)を送付し、原告製品の仕入れ及び販売を中止し、又はこれを小売店に対して指導することを要請した。

さらに、被告組合は、同年一二月二〇日付け(<書証番号略>)及び同月二八日付け(<書証番号略>)文書により、三懇話会及びその会員である問屋に対して、重ねて原告製品の仕入れ及び販売を中止し、そのことを小売店にも周知させることを要請した。

6  原告は、平成二年一二月、公正取引委員会に対し、被告組合の右各文書の送付等の行為が独禁法八条一項一号のカルテル禁止違反行為であるとし、同法四五条一項所定の措置請求をした(<書証番号略>)。

7  被告組合は、平成三年八月五日、小売店に対し、ASGKシールを貼付していない商品を取り扱った場合には、ASGKシールの貼付された組合の製品の出荷を中止することがある旨の文書を送付した(<書証番号略>はその一例である。)。

被告組合は、同年九月、「アウトサイダー取扱店」と題する文書を三懇話会の会員である問屋に送付した(<書証番号略>)。(以下、右4ないし7の被告組合送付の各文書を併せて「本件取引中止要請文書」ということがある。)

8  しかし、被告組合は、同年一二月一九日ころ、原告製品の仕入販売を中止しない小売店には組合のASGK製品の供給を停止するとしたのは行き過ぎであったから撤回する旨の同日付け文書(<書証番号略>。以下「本件撤回文書」という。)を三懇話会などへ送付した。

9  公正取引委員会は、原告に対し、平成四年五月二七日、「措置をとらないことにしました」という趣旨の通知を、独禁法四五条三項の規定に基づき行った(<書証番号略>)。

二  争点

1  被告らが原告に対し本件九二Fの製造販売中止を要請した行為や、被告らが問屋に対し原告商品の取扱中止を要請した行為などが、不法行為となるかどうか。

2  賠償すべき損害額

3  謝罪広告掲載請求の可否

4  差止請求の可否

三  原告の主張

1  不法行為の成立

(一) 本件不法行為

(1) 被告組合の左記①ないし⑧の各行為は、事業者団体が一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為であり、かつ、事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにする行為に該当し、独禁法八条一項一号及び五号に違反する。

① 平成二年一一月一六日、被告組合理事長である被告前田が、原告に対しASGKシールが貼付されていない商品の製造販売中止を申し入れた行為。

② 被告組合が同月二六日付け文書(<書証番号略>)を原告に送付し、ASGKシールが貼付されていない商品の製造販売中止を申し入れた行為。

③ 被告組合が同日付け文書(<書証番号略>。ただし、書き込みのないもの)、同年一二月二〇日付け文書(<書証番号略>)及び同月二八日付け文書(<書証番号略>)を三懇話会及びその傘下の全国の問屋に送付するとともに、その趣旨を全国の小売店に徹底するよう指示して原告商品を取り扱わないよう全国の問屋及び小売店に圧力をかけた行為。

さらに、東日本懇話会においては、被告組合の作成した同年一一月二六日付け文書に、会長である被告川島名義の「もし万一、デジコン製品をお取り扱いになられる小売店様がございましたら、組合よりの文中にもございます通り、ASGK商品の供給はなさいません様くれぐれもお願いいたします。」などと記載された文書を付して同懇話会加入の問屋及び小売店に送付し(<書証番号略>)、中部懇話会においては被告組合の作成した同年一一月二六日付け文書に中部懇話会のゴム印及び会長被告村田の記名印を押印してその会員に送付し(<書証番号略>)、西日本懇話会において、右同様に懇話会のゴム印及び会長被告岡井の印を押捺してその会員に送付して(<書証番号略>)、もって被告組合の前記意向の徹底を図った行為。

④ 平成三年八月五日付け文書(<書証番号略>)を、原告製品を仕入れ販売していると認められた全国の小売店約一〇〇社に送付して原告商品を扱わないよう暗に圧力をかけた行為。

⑤ 同年九月、「アウトサイダー取扱店」と題する、原告製品を扱っていると認められた小売店の店名及び住所を列挙した文書(<書証番号略>)を全国の問屋に送付して原告商品を扱わないよう暗に圧力をかけた行為。

⑥ 同年一二月一九日付け文書(<書証番号略>)で、「ASGKマーク商品制度の履行」及び「啓蒙運動をさらに強力に推進」する旨を明示し、その後も文書及び口頭(問屋、小売店に対する啓蒙活動名目による働きかけや各種会合における発言等)でASGKシールのない原告商品を取り扱わないよう問屋や小売店に働きかけた行為。

⑦ 被告組合において、ASGKシールを貼っていない原告商品を扱わないように指導する行為が、あたかも行政官庁の指導に基づくものであるかの如く文書及び口頭で問屋及び小売店に説明し、三懇話会会長らがこれを小売店らに徹底した行為。

⑧ 業界雑誌の出版社を被告組合の賛助会員として加盟させ、ASGKシールが貼付されていない商品の広告をしない旨確約させ、原告や小売店がASGKシールを貼っていない原告商品について業界雑誌で広告することにつきこれを妨害した行為。

(2) 右のとおり、被告組合は、独禁法に違反し、原告商品のボイコットを要請する文書を三懇話会及び全国の問屋・小売店に直接間接に送付し、また、原告商品の業界雑誌への広告掲載を妨害し、原告商品を市場から排除したが、右は私法上の不法行為にも該当する。

(3) 被告前田は、被告組合の理事長として、被告組合の右方針決定及びその実施に責任があり、被告川島及び被告関藤も右組合の構成員(の代表者)として右方針決定に責任がある。

被告川島、被告村田、被告岡井及び被告関藤は、被告組合と密接不可分の関係にある三懇話会の会長ないし副会長として、被告組合の方針を全国の問屋・小売店に通知し実行させるにあたって指導的な役割を果たし、被告組合と共同して原告製品をエアーソフトガン及びBB弾の市場から排除しようとしたものであるから、共同の不法行為責任がある。

また、被告前田、被告川島、被告村田、被告岡井及び被告関藤の各行為は不当な取引制限(独禁法三条後段、二条六項)にも該当する。

(二) 違法性

(1) 被告らは、後記のとおり、ASGKマーク制度及び本件各取引中止要請文書の配付等は、遊戯銃の安全基準を定め、これを遵守していない遊戯銃を市場から排除することによって遊戯銃の社会的信用を確立し、市民生活の安全と業界の発展を図る正当な目的を有すると主張する。

しかし、事業者団体が定めた規格等の自主基準を口実にしてアウトサイダーを市場から排除したり、当該規格の認証が得られないことによって事業の遂行を困難にすることは不当であり、特に、当該規格による認証制度が公正公平で非差別的でなく、恣意的・差別的運用がされている場合には独禁法違反となる。

(2) 本件自主基準の不明朗性

本件自主基準のうち最も重要なのは、エアーソフトガンから発射された弾のエネルギーであり、同基準は0.4J以下であることを条件としている。(J=MV2÷2。なお、Mは弾丸の質量・単位キログラム、Vは速度・単位メートル/秒)

しかし、フロンガスの圧力で発射されるタイプのエアーソフトガンは、気温により威力が大きく上下し、夏には強力なものが冬には非常に弱くなるにもかかわらず、本件自主基準ではどの温度によるのかが明確ではなく、また炭酸ガス(被告組合は「グリーンガス」と呼称している。)を使用すると威力が増加する。

また、本件自主基準は各都道府県で制定されている有害玩具条例や青少年健全育成条例で定められている基準とは無関係で、通産省、警察庁等の認可を受けたものでもなく、法律上行政上何ら根拠のないものである。

さらに、製品自体は本件自主基準を充たしていても、改造の容易な製品であれば市民生活に危険をもたらすことになるところ、被告前田の経営する丸前商店の製品をはじめ、多くの被告組合の組合員の製品は改造して威力を増すことが容易なものである。

(3) 被告前田らによる本件自主基準の恣意的な運用

東京都消費者センターの検査結果(<書証番号略>)から見ても、被告組合加入者の製造販売しているASGKシールが貼付されたエアーソフトガンについても実際には0.4Jを超える威力を持つものが大半で、本件自主基準は遵守されていない。

エアーソフトガンが本件自主基準に適合しているか否かを検査する第三者機関は財団法人日本文化用品安全試験所があるだけで、同所にはエアーソフトガンの検査をする技術員は一人しかおらず弱体であって、公正公平で差別的でない検査が制度的に担保されていない。その結果、本件自主基準は、実際には被告前田ら一部事業者の利益のため恣意的に運用され、被告前田ら一部事業者以外の事業者が新商品について検査を受けようとしてもなかなか取り次いでもらえずASGKシールが交付されなかったり、逆に同基準に合致しない商品にまで同シールが貼付されたりしている。

2  損害

(一) 主位的算定方法

(1) BB弾についての損害

① 原告は昭和六一年六月ころからエアーソフトガン用の直径六ミリBB弾を製造販売してきたが、被告らの前記不法行為(以下「本件不法行為」という。)によって、従前からの得意先の中に、取引を中止したものや、大幅に減少させたものがある。

② 原告は、BB弾について、本件不法行為以前である昭和六三年一二月一日から平成元年一一月三〇日までの一年間(以下「前期」という。)に一億六一七七万五三八七円、平成元年一二月一日から同二年一一月三〇日までの一年間(以下「後期」という。)に一億五六〇六万九二九二円の各売上げがあった。

③ 原告は、BB弾について、本件不法行為の開始直後の平成二年一二月一日から平成三年一一月三〇日までの一年間(以下「A期間」という。)には一億一九〇七万五九一三円、それ以降の平成三年一二月一日から平成五年三月三〇日(以下「B期間」という。)には金一億一六五六万六〇一八円の各売上げがあった。

④ A期間の売上減少については、本件不法行為が直接影響したものであるから、本来であれば後期売上額に売上伸び率(又は減少率)を掛けた額の売上げがあったものと考えられ、売上伸び率は「後期売上額÷前期売上額」の算式により0.965である。

原告の被った損害は、推定売上額(後期売上額×0.965)と実際の売上額との差額三一五三万〇九五三円に原告の控え目に見た粗利益率五〇パーセントを乗じた額である一五七六万五四七六円である。

数式 156,069,292×0.965−119,075,913=31,530,953(小数点以下切捨て。以下同じ)

31,530,953×0.50=15,765,476

⑤ B期間については、A期間と同様の算定方法で算定することは適切と思われないので次の方法による。

例えば、株式会社ケイスタッフ(以下「ケイスタッフ」という。)、有限会社フジカンパニー(以下「フジカンパニー」という。)、サープラス・レオパルド及び株式会社むげんの四社は、長年の間原告とBB弾について取引のあった代表的な得意先であるが、別紙一覧表1のとおり本件不法行為の開始と同時に売上げが激減した。

また、その他の主要取引先三五社へのBB弾の売上げは、別紙一覧表2のとおり、後期は合計三三二二万八八六七円の売上げがあったが、本件不法行為開始後のA期には二〇三二万九八六八円、B期間には一七四四万八六七三円(一年間ベースでは一三〇八万六五〇四円)の売上げに減少した。他の約一〇〇〇社については正確に数値化することは困難であるが、右同様の影響があったと考えられる。

右の要素を考慮すれば、同期間の実際の売上額の0.2倍の売上げが失われたと見るのが合理的であり、損害額は右に粗利益率五〇パーセントを乗じた額である一一六五万六六〇一円である。

数式 116,566,018×0.2×0.50=11,656,601

⑥ したがって、被告らの不法行為により原告がBB弾について被った損害は、右④⑤の合計二七四二万二〇七七円である。

(2) 本件九二Fの損害

① 前記のとおり、原告は、平成二年一一月一〇日に本件九二Fの発売を開始したものであり、発売直後に本件不法行為が開始されたものであるから、過去の売上実績から直接損害額を推定することはできない。しかし、本件九二Fは一般からも高い評価を受けており、被告らの妨害にもかかわらずある程度の売行きを確保していたものであるから、もし被告らの妨害がなければ、本件九二Fは爆発的な売行きを示していたと考えられ、従来原告のBB弾を扱っていた販売店が本件九二Fを扱わないことはあり得ない。

したがって、本件九二Fについての損害額は次の方法で算定するのが合理的である。

② (1)の⑤記載の前記主要四社及び三五社の合計三九社(以下「主要三九社」という。)への後期のBB弾売上合計(五五三四万一九九三円)の、主要三九社以外への同期間売上合計(一億七二万七二九九円)に対する比率は、0.549であるが、これをA期間中の実際の本件九二Fの売上額に乗ずることによって、左の算式のとおりBB弾と同一の売上傾向があったとすれば主要三九社に対して売り上げたはずの本件九二Fの売上額を予測しうる。

数式 88,034,542×0.549=48,330,963

よって、主要三九社に対するA期間中の本件九二Fの売上推定額は四八三三万〇九六三円であるところ、実際の売上げは三九二万三四八九円であるので、その差額四四四〇万七四七四円に粗利益率五〇パーセントを掛けた金二二二〇万三七三七円がA期間中の本件九二Fについての損害である。

なお、右数字には主要三九社以外の約一〇〇〇社に対する本件不法行為の影響は反映されておらず、実際の損害はこの二倍以上になっていたであろうと推認されるが、計上しないことにする。

③ B期間は原告が本件九二Fを発売して二年目以降の時期であり、通常であれば同業者の製品が発売されるために、売上げは相当減るはずである。しかし、本件九二Fは、本件不法行為にもかかわらず、一般の愛好家に根強い人気があり、この時期に逆に売上げを伸ばしているから、B期間についてもA期間と同様の算定方法を取るのが合理的である。

B期間中の本件九二Fの総売上額は一億一三八〇万五九三五円であるから、主要三九社に対する同期間中の売上推定額は五六八五万一三九八円である。

数式 (113,805,935−10,251,475)×0.549=56,851,398

そして、実際には右三九社に対して一〇二五万一四七五円の売上げがあったから、これと右推定売上額との差額四六五九万九九二三円が売上喪失額であり、これに粗利益率五〇パーセントを掛けた二三二九万九九六一円がB期間中の本件九二Fについての損害である。

④ したがって、本件不法行為により原告が本件九二Fについて被った損害は、右②③の合計四五五〇万三六九八円である。

(3) 損害総合計 七二九二万五七七五円

(二) 予備的算定方法

(1) BB弾についての損害

① 原告は、本件不法行為以前には、約一〇〇〇社の販売店と取引を行っていたが、そのうち後期に二〇万円以上の取引のあった四五社を抽出した。右四五社は本件不法行為開始後売上げが異常に減少した取引先でもある。本件不法行為によるBB弾の売上減少を、右四五社に対する売上げとそれ以外の取引先(以下「非四五社」という。)に対する売上げとの間の比を求め、右四五社に対する妨害のない正常販売期間と妨害のあった販売期間を対比する方法(いわゆる前後理論)で算定する。

② 後期の四五社に対するBB弾の売上げは五三八三万七二一三円、非四五社に対する売上げは一億二二三万二〇七九円であり、同時期の四五社に対する売上げの非四五社への売上げに対する比率は0.527であった。

③ これに対し、A期間の四五社に対する売上げは一九七一万一二円、非四五社に対する売上げは九九三六万五九〇一円であった。妨害がなければ四五社に対する売上げは妨害以前と同じ割合を占めるであろうから、左の算式により、四五社に対する推定売上額は五二三五万五八二九円となる。

数式 99,365,901×0.527=52,355,829

これに対し、実際の売上額は、右のとおり一九七一万一二円であったから、その差額三二六五万五八一七円が売上喪失額であり、原告の粗利益率五〇パーセントを掛けた一六三二万七九〇八円がA期間の損害額である。

④ また、B期間の四五社に対する売上げは一五九七万二九七二円、非四五社に対する売上げは一億五九万三〇四六円であり、同様の計算により求められる四五社に対する推定売上額は五三〇一万二五三五円である。

数式 100,593,046×0.527=53,012,535

そして、実際の売上額は一五九七万二九七二円であったから、その差額三七〇九万九五六三円である。原告はB期間中、BB弾を値下げしたため、同期間の粗利益率は四〇パーセントとして計算した一四八一万五八二五円がB期間の損害額である。

⑤ したがって、本件不法行為により、原告がBB弾について被った損害は、右③④の合計三一一四万三七三三円である。

(2) 本件九二Fについての損害

① 原告は、被告らの妨害行為の影響が生じる以前の平成二年一一月一〇日から同年一二月一日までの二二日間(「正常販売期間」)に、本件九二Fを一四六六丁(一営業日当たり九二丁)売り上げた。

② ASGKシールの発給枚数から推計されるエアーソフトガンの市場規模は、平成二年一二月一日から平成三年一一月三〇日まで(A期間)が二九〇万一二一二丁、平成三年一二月一日から平成四年一一月三〇日までが二三三万四一一四丁、平成四年一二月一日から平成五年三月三一日まで(四か月)が六八万九六二四丁である。

③ 原告の年間平均営業日数は年間二七〇日であるから、正常販売期間の一日当たり九二丁の割合で計算すると、本件九二Fの一年間の推計販売数量は二万四八四〇丁であり、市場占有率は0.85862パーセントとなる。

④ 従って、A期間までの本件九二Fの推計販売数量は二万四八四〇丁(売上額二億一七四九万九〇四〇円)、B期間の推計販売数量は二万五八九〇丁(売上額二億二六六九万二八四〇円)であるところ、実際の売上げは各九一九五万八〇三一円、一億一三八〇万五九三五円である。一方原告の粗利益率はA期間が51.2267パーセント、B期間が54.01パーセントであるから、原告の損害額はA期間が六四三一万〇五一六円、B期間が六〇九七万〇二一七円の合計一億二五二八万〇七三三円を下らない。

(3) 損害額総合計 一億五六四二万四四六六円

(三) よって、原告は被告らに対し、主位的には共同不法行為に基づき(被告組合に対しては協同組合法四二条によって準用される商法二六一条、七八条二項、民法四四条に基づき)、右損害の賠償を求める。なお、前記予備的算定方法により損害額を算出したとすると請求額はこれを大きく下回るが、その場合は内金請求として行うものである。

3  謝罪広告

被告組合は、前記のとおり、原告製品が本件自主基準に適合しないと一方的に決めつけ、根拠なく消費者にとって危険な商品と公言した内容の平成二年一一月二六日付け文書を被告川島、被告村田及び被告岡井をして三懇話会会員に送付させ、さらに、原告が消費者の安全を無視して利得を追及する悪徳メーカーであるという旨の内容の同年一二月二〇日付け文書を三懇話会会員らに配付するなどして、原告の名誉及び信用を毀損した。

よって、原告は、被告組合に対し、原告の名誉及び信用を回復するため、民法七二三条に基づき「第一 請求」欄第二項記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

4  不法行為の差止め

被告組合は、前記のとおり、平成元年以来現在に至るまで、小売店に対し文書や業界誌を通じてASGKシールの貼付されていない商品を取り扱わないよう繰り返し要請し、今後も同様の不法行為が継続することは確実である。

さらに、消費者が原告商品を知る有力な契機となる業界雑誌への広告掲載も被告組合の圧力により拒否されている。

よって、原告は、被告組合に対し、「第一 請求」欄第三項記載のとおりの妨害行為の差止めを求める。

四  被告らの主張

1  不法行為の成否

(一) 事実関係について

(1) 東日本懇話会及び西日本懇話会が原告主張の平成二年一一月二六日付け文書を送付したのは、三懇話会の会員である問屋のみであって、小売店には送付していない。西日本懇話会は、一部小売店に対して原告商品の取扱中止を要請したが、これは当時関西においてエアーソフトガン及び改造銃による事故が頻発していたためである。

また、中部懇話会は右文書を理事会において理事に配付したのみであって、問屋にも小売店にも同文書を送付していない。

(2) 被告組合は、原告主張の同年一二月二〇日付け文書及び同月二八日付け文書を三懇話会及び問屋に送付したが、小売店には送付していないし、原告商品を仕入販売する小売店をなくそうとしたわけではない。また、原告製品を取り扱っている小売店に対し、実際に取引中止の措置が取られたことはない。

(3) 被告組合は、原告主張の平成三年八月五日付け文書を小売店に送付したが、これは改造パーツを使用した再生品銃の防止を目的として行ったもので、原告商品の仕入販売の中止を求めたものではない。原告主張の同年九月の「アウトサイダー取扱店」と題する文書についても、問屋に送付したことは認めるが、同様に改造パーツ銃の防止目的で行ったものであって、原告商品の取扱中止を求めたものではない。

(4) 被告組合は、平成三年一二月一九日、三懇話会の事務局を通じ、本件撤回文書の配付を要請した。東日本懇話会は、本件撤回文書をほぼ全ての協力店に配付し、中部懇話会は少なくとも防犯協力店のうち取引中止要請文書を配付した小売店には本件撤回文書を配付し、西日本懇話会は、当時会長職にあった被告岡井が、本件撤回文書の小売店への配付を徹底した。

また、被告組合は、本件撤回文書配付後、原告製品に対し三懇話会及び小売店らに対し、原告製品の取引中止を要請するような指導を一切行っていない。

(5) 原告製品の販売経路は三懇話会を構成する問屋を通すことなく、直接小売店に販売する方式であるため、被告組合は原告製品を扱っている小売店を把握できていない上、小売店に対しては協力をお願いするという程度であってその取引内容を強制することはできない。

(二) 違法性の不存在

(1) ASGK制度の意義・目的

被告組合は、遊戯銃の改造防止等を図ることにより遊戯銃の安全対策の確立に努めるとともに、組合員の相互扶助の精神に基づき組合員のために必要な共同事業を行い、もって組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。

右目的を達成するため、被告組合は、組合員の取り扱う遊戯銃の改造防止、遊戯銃の構造に関する基準の作成、遊戯銃(原材料も含む)の共同検査、組合員の取り扱う遊戯銃の適正使用に関する啓蒙活動等の事業を行っている。

被告組合の設立前は、エアーソフトガンの改造又は不適正な取扱いによる事故が多発していた。被告組合に加入しない業者が製造するエアーソフトガンは安全検査を経る必要がなく、そのことを目的に被告組合に加入しない業者もいるため、組合非加入業者のエアーソフトガンの規格及び性能は被告組合の認めるエアーソフトガンより危険性が高いことが多い。

そして、右非加入業者のエアーソフトガンが威力を増すように改造されて使用されるという事故が発生した場合、エアーソフトガンそのものの危険性が社会問題化され、エアーソフトガンが一般に認知されないばかりか、当該エアーソフトガンのみならず安全基準に適合した他のエアーソフトガンも批判の対象とされ、結果的に全てのエアーソフトガンが法的規制の対象とされるおそれが強い。実際に、かつてモデルガン業界においては、モデルガンを使用した犯罪が頻発したため、警察庁からの指導を受けて日本モデルガン製造協同組合が結成され、同組合は自主基準を設け銃砲への改造が不可能で安全と認められる製品に「SM(セイフティ・モデルガン)マーク」を交付するなどの態勢を作ったが、同組合は強制加入ではなかったため非組合員に右自主基準を守らせることができず、また、組合員の中にも右自主基準を遵守しないものが現れるなどしたため、結局、警察庁は同組合による自主基準では安全性の確保はできないと考えるに至り、昭和五二年の銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)改正により同法二二条の三が新設されて、危険性のないものも含めモデルガンについて包括的な規制がされることとなったため、モデルガン業界が壊滅したという経緯がある。

したがって、エアーソフトガンを製造する事業者が主体となってエアーソフトガンの安全性に関する自主的規制により必要な規格性能を規制し、次いで流通過程における問屋小売店及びユーザーの理解と協力を求め、組合員以外の事業者からも協力を得る必要がある。そのため、被告組合においては、非加入業者に加入を求めることや、安全検査を経ていないエアーソフトガンについて慎重な対応を求めることも重要な使命としているものである。

また、通産省及び警察庁も、エアーソフトガンの担当官庁として責任ある行政指導を行う立場から、被告組合の設立及びその後の啓蒙活動について指導的役割を果たし、被告組合及び三懇話会の活動を側面から援助してきた。

(2) 本件自主規約等は社会的正当行為である。

一般の商品であれば機能を向上させることが消費者の利益に適うが、エアーソフトガンの場合、威力を増し機能を向上させることは、消費者の要求に適うとしても、国民の安全を脅かし、銃刀法における銃と認定されるおそれがあり、許されないことである。

銃の威力を増す方向での競争は、国民の安全を脅かし、エアーソフトガンに対する法的規制を招き、業界の存続自体を危うくさせるものであるため、被告組合は銃刀法違反になる線よりも厳しい本件自主基準を制定して銃刀法規制対象物との間に空白領域を設けたのである。

ASGKシールは、安全性に関する被告組合の自主規約に基づくものである。ASGKシールを貼付していない原告製品は安全性の検査を経ていない上、販売方法及び販売後の取扱いについての指導を含めて安全性に問題があるが、少なくともASGKシール貼付の製品は安全性が担保されている。

(3) しかるに、原告は被告組合に加入する資格があるにもかかわらず、敢えて加入しないで本件自主基準に違反した強力なエアーソフトガンや重量BB弾を製造販売している。原告は被告組合に加入しないことで安全性に関する啓蒙活動等の費用労力を負担せずにエアーソフトガンの販売をしているものであり、また、三懇話会加入の問屋を通さず小売店に販売しているものであるから、原告は被告組合の組合員と競争する立場にあるというよりも、むしろ優位な立場にあるというべきである。

そして、原告は、被告組合への加入を重量BB弾の独占販売のために拒否するような独善的な姿勢を有し、敢えて前記空白領域に属する強力なエアーソフトガンを製造販売して被告組合の安全対策の努力を無にし、エアーソフトガン業界にも法的規制を招来しようとしているものであって、右事態を防ぐためには多少の強制的手段を取らないと実効性はなく、他に取りうる方法はなかった。

被告組合らの本件各文書の配付等の行為は、消費者の安全確保及び法的規制の防止を目的とする社会的規制であって、経済的規制ではなく、また、社会的に相当な行為であるから違法性はない。

(4) 被告組合の本件自主基準が公正を欠き、恣意的に運用されているという原告の主張は争う。

0.4J以下という本件自主基準は、通産省の指導に基づき、ボン大学教授医学博士カール・ゼリエアの論文を参考に、被告組合の技術委員会が検討した上でドイツ連邦共和国におけるエアーソフトガンの威力の基準(0.5J以下)の二割減としたものである。

また、重量弾丸は軽量のものに比較して危険性が高く、また、エアーソフトガンの威力を増す違法な改造を誘発するおそれがあるので、エアーソフトガン用の弾丸(BB弾)の重量を0.2グラム以下(ただし、平成四年三月以降は競技専用弾に限り、事業上0.36グラム以下)に規制している。

そして、検査は、猟用資材工業会及び文化用品試験所に委託して行っており、客観的なものである。また、被告組合は、右のようなハード的規制に加え、ユーザーへのマナー指導などのソフト的規制も行っている。

(三) 個別の被告らの主張

(1) 被告前田

被告組合は、「遊戯銃の改造防止等を図ることにより遊戯銃の安全対策の確立に努めるとともに組合員の相互扶助の精神に基づき、組合員のために必要な共同事業を行い、もって組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的」として設立された協同組合であり、総会で選任された理事が理事会を構成して業務の執行に必要な事項を議決し、これを受けて理事長が業務を執行している。原告が不法行為であると主張する各行為は、被告前田が被告組合の総会及び理事会で決定された方針にしたがって、理事長の業務執行行為として行ったものであるから、被告前田個人に対する訴えは不当である。

(2) 被告村田及び被告岡井

中部懇話会及び西日本懇話会は、「遊戯銃の安全対策と遊戯銃による事件、事故防止及び青少年の非行防止」を主要な目的として設立された遊戯銃卸業者の団体で、権利能力なき社団であり、会長はその業務執行機関である。

原告が不法行為であると主張する各行為は、被告村田及び被告岡井が、中部懇話会及び西日本懇話会のそれぞれ会長として、三懇話会の総会、例会、役員会で決定承認された事項、方針に基づいて業務を執行したものであるから、被告村田及び被告岡井個人に対する訴えは不当である。

(3) 被告関藤

被告関藤は、平成二年当時は被告組合の役員ではなく、西日本懇話会の会長に就任したのは平成四年三月である。

よって、被告関藤は、本件取引中止要請文書の作成配付に関与していないから、被告関藤個人への訴えは不当である。

2  損害の不発生(原告の売上減少と被告の行為の間の相当因果関係の欠如)

(一) 本件取引中止要請文書と本件撤回文書の配付状況

被告組合は、本件取引中止要請文書を問屋に対して配付したが、小売店にはさほど配付していない。原告製品の販売経路は、三懇話会を構成する問屋を通すことなく直接小売店に販売する方式であるから、本件取引中止要請文書の効果は上がっていない。

原告製品の取扱いを中止した小売店は、ASGK制度の趣旨を理解賛同して自主的に中止したものである。

一方、被告組合は、平成三年一二月一九日付けで、三懇話会及び一部の問屋に対し、本件撤回文書を送付し、三懇話会も加入の問屋、防犯協力店らに対しその趣旨を徹底した。三懇話会及び問屋は原告商品の取扱中止要請に関しては徹底していないが、撤回文書の送付周知については徹底し、その後は取扱中止要請を一切していない。

(二) 景気の動向

遊戯銃関係商品全体の販売量は、被告組合のASGKシールの発行枚数から見ても、全般に平成二年ころからの経済情勢の悪化にともない年々減少しているから、原告製品の売上減少も右経済変動の影響であって、被告らの行為とは因果関係がない。

(三) 原告の損害算定方法の問題点

(1) BB弾について

① 競争者の出現

被告組合は、平成四年三月以降、組合員が原告BB弾に相当する0.2グラムを超える重量BB弾を競技専用弾として製造販売することを認めたため、同年四月から平成五年三月までのエアーソフトガン用の右重量弾丸の販売量はBB弾全体の三分の一を占めるに至った。

原告は、それまでの粗利益率が五〇パーセントであることを自認しているように、重量BB弾については独占販売に安住していたが、右のような競争者の出現によって販売量が減少し、また平成四年四月六日より大幅値下げを行ったことから、販売量は同じでも売上高は減少したものである。

したがって、原告のBB弾の売上減少は被告組合の行為と因果関係がない。

② 原告主張の主位的算定方法について

原告は、A期間の損害を、それ以前の前期と後期の前年対比売上減少率と比較して算出しているが、右は、前期と後期の前年対比売上減少率と、後期とA期間のそれが必ず一致するとの前提があって初めて成立する主張である。しかし、実際には原告のBB弾の売上げの大幅な減少は、いずれも本件取引中止要請文書の配付と無関係に平成元年三月から四月ころまでの間、及び平成三年五月から六月ころの間に生じているから、原告の右主張はA期間も当然に前年と同一の比率で売上げがあるというその前提からして誤っている。

また、B期間については、原告は、主要三九社に対する売上減を根拠にして損害額を算定しているが、右三九社の売上減少と本件取引中止要請文書の配付などの被告らの行為との間には因果関係がない。

③ 原告主張の予備的算定方法について

原告は、被告らの妨害行為により売上げが異常に減少したと主張する主要取引先四五社を選定して主張に係る損害額を算定しているが、右四五社の仕入傾向などから見て、右売上減少と被告らの行為との間に因果関係が認められない。

(2) 本件九二Fについて

① ベレッタ九二Fは、昭和六一年ころ、二社により発売が開始されて以来、消費者の人気が高いこともあって発売が相次ぎ、特に株式会社エムジーシー(以下「エムジーシー」という。)の製品は高い評価を受けていたが、現在は一〇社から約二四種類が販売されており、うち九種類は本件九二Fと同様のガス式である。原告製造の本件九二Fは、先行販売されていた業界大手である右エムジーシーの同種製品等と比較して、取扱業者からいまだ高い評価は得るに至っておらず、消費者にとって必ずしも魅力のある商品ではなかった。

右状況の下では、後発メーカーの原告が市場に参入するのは困難であり、前記の遊戯銃関係商品の全般的な売上減少という市場状況からしても、本件九二Fの売上算定につき、従前の販売実績があるBB弾と同一の販売傾向を前提とすることはできない。

すなわち、新製品の販売は、その製品自体の評価に加えて、迅速なアフターサービス、小売店の品揃え、消費者間における会社の信頼、実績の評価なども重要な要素となっており、概して、新規加入メーカーの新製品が既存メーカーの製品に打ち勝つことは容易ではない。

② 加えて、新製品の販売に際しては一定期間が経過しなければ消費者の間で一定の評価を得ることはできない。

新製品を発売したメーカーは、多くの小売店に製品を扱ってもらう必要があり、小売店からすれば、消費者からの注文はなくともこの程度ならば販売できるだろうと見越して見込注文を行うのが通常である。したがって、見込注文をした小売店は、売れ行きに応じて次の注文を調整することが多く、売り切れるまでに時間がかかれば、次の注文までの時間もかかるものである。

右のとおり、新製品の販売数量は、消費者の新製品に対する評価がいまだ定まらず、小売店の見込注文が多いことからして、発売当時の数量をそのままその後の平均的な実績と見ることができないものである。

3  謝罪広告について

(一) 原告の重量BB弾は重金属である鉛を含むため、使用者が飲みこんだ場合危険である。また、原告の重量BB弾は、人に向けて発射した場合危険であり、エアーソフトガンの威力を増す改造を誘発するおそれもある。

本件九二Fは、威力が被告組合の本件自主基準である0.4Jを超え0.6ないし0.7Jあり、本件九二Fにより重量BB弾が人に向けて発射された場合は相当危険である。それにもかかわらず、本件九二Fには安全に関する取扱い説明書が添付されていない上、原告はその販売に際して如何なる指導も行っていない。なお、平成五年六月二四日に発生し、テレビ等によって大きく報道されたエアーソフトガンによる犯罪は、本件九二Fによるものであり、本件九二Fはマスコミでも危険な商品として指摘されたものである。

(二) したがって、本件九二F及び重量BB弾は、被告組合の本件自主基準に適合せず、危険な商品であるというべきであって、本件各文書の内容はいずれも真実であり、また、その交付は被告組合の啓蒙活動の一環としてされたものであって、原告に対する誹謗中傷を目的としたものではないから、許される範囲内の行為であり、違法性がなく、謝罪広告を求める原告の請求は理由がない。

(三) なお、謝罪広告については、最高裁判例の反対意見においても学説においても有力な違憲説が存在し、それだけに謝罪広告を命ずるに当たっては必要性の範囲を超えてはならないのであり、本件は問屋及び小売店に関する問題であるのだから、一般消費者向けの雑誌において謝罪広告を掲載する必要性、妥当性はない。

4  差止請求について

被告組合は、各問屋及び小売店に対し、直接又は間接に本件撤回文書を送付しその趣旨を徹底しており、その後新たな妨害行為は行われていないから、原告の差止請求はその理由及び必要性がない。

第三  争点に対する判断

一  本件の経緯

前掲争いのない事実等に、証拠(<省略>)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  原告の経歴等

原告の代表者である瀬戸は、少年時代から模型工作マニアであり、模型飛行機やテレビ等を自作していたが、二〇歳であった昭和二七年に家電修理販売業を始め、その後昭和四二年ころからは模型飛行機及び模型飛行機用ラジコン無線機等の製造販売も手掛けるようになり、昭和四八年には右事業を法人化して原告を設立した。また、瀬戸は、ラジコン飛行場で知人が持っていたエアーソフトガンに興味を持ち、昭和六一年ころから原告においてBB弾の製造販売も行うようになった。

原告は、昭和五五年以前は模型飛行機等の製品を問屋を通じて小売店に販売していたが、同年ころ、直接製品を小売店に販売しようとして、問屋との関係が悪化し、問屋から取引を拒絶されたことを契機に、小売店に直接販売する方法を取るようになり、BB弾の販売方法についても、従前の模型飛行機製造販売の時代に取引のあった小売店や、サンプルを送付するなどの方法で開拓した小売店に、問屋を経由せず直接卸し販売していた。

原告のBB弾は、平成二年ころまでは他の業者の製造するBB弾と比較して品質が優れており、かつ安価であったため、小売店や消費者から高い評価を得て、平成二年ころまでに、原告はBB弾の製造の有力企業となるに至った。もっとも、原告の製造販売するBB弾の主力は0.2グラムを超える重量BB弾であり、重量BB弾を製造販売しているのは、平成四年三月以前は、原告とカナマル商事以外には存在しなかった。なお、原告製造の重量BB弾のうち最も重い0.43グラムのものにはプラスチックに亜鉛の粉末が混入されていたが、鉛が含有されているということはなかった。

(<書証番号略>)

2  被告組合の設立と活動

(一) 設立の経緯

従前、エアーソフトガンの製造業者の団体としては、被告組合の前身で昭和五〇年六月二八日に設立された「日本モデルガン製造協同組合」と、「エアーソフトガン協議会」の二者が存在したが、それぞれの自主基準は統一されていなかった。

しかし、昭和六〇年ころ、サバイバルゲーム(遊戯者が敵味方に分かれ、エアーソフトガンで撃ち合う戦争ゲーム)の競技中に眼に被弾して負傷したり、エアーソフトガンを使用して通行人等を狙撃するなどの事故や事件が続発し、また市販のエアーソフトガンを改造して威力を増したものを製造する業者らも現われるなどして、エアーソフトガンに対する社会的批判が強まり、国会でも取り上げられるに及んで、通産省生活産業局文化用品課は、エアーソフトガンの安全確保の目的で、右二団体に対し、統合した組合を設立して統一した自主基準を作成し、また、改造防止の要請を行い、改造業者の広告を掲載しないよう専門誌に働きかけ、消費者や小売店に正しい取扱いの指導を徹底することなどの行政指導を行い、その結果「日本モデルガン製造協同組合」が「エアソフトガン協議会」を吸収合併し、かつその名称を「日本遊戯銃協同組合」に変更して、現在の被告組合となり、理事長には被告川島が就任し、昭和六一年七月一四日、右合併が認可された。

(<書証番号略>)

(二) 自主基準の統一

(1) 被告組合は、エアーソフトガンのユーザーは、一般に、より強力で実銃に近い性能を有する製品を嗜好するため、製品の威力等につき規制を設けなければ各メーカーが競ってより威力のある製品を開発することになり、消費者の安全を損ない、また、昭和五二年五月の銃刀法改正(同年法律第五七号)により同法二二条の三が新設され、モデルガンについての所持販売を包括的に規制する立法がされてモデルガン業界が大きな打撃を受けたことから、エアーソフトガン業界についても右同様の規制がされることを防ぐために、昭和六一年八月八日、従前二通り存在した自主基準を統一し「エアーソフトガン自主規約要綱」(当初規約)を作成し、発射された弾丸の運動エネルギー(以下単に「威力」ということがある。)が常温(摂氏一七度ないし二七度。以下同じ)において0.4J以下(対象年齢一〇歳以上の表示をするものは0.2J以下)、エアーソフトガン用の弾丸(BB弾)の材質はプラスチックで重量については0.2グラム以下とすることなどの基準(本件自主基準)を定めた。

(<書証番号略>)

(2) 通産省生活産業局文化用品課は、昭和六一年一〇月二一日、被告組合に対して、本件自主基準及びエアーソフトガンの正しい扱い方、マナーを問屋、小売店及び消費者に対し周知徹底するように文書により協力要請を行った(<書証番号略>)。

(3) そこで、被告組合は、昭和六一年一一月から、本件自主基準に適合した製品につき合格証紙を貼付することとし、組合員の製造した製品の威力等の検査を社団法人日本猟用資材工業会(以下「猟用資材工業会」という。)及び財団法人日本文化用品試験所(以下「文化用品試験所」という。)に委託し、合格した製品については合格証紙を有償で交付して、組合員に各製品に右証紙を貼付の上販売することを義務付けた(<書証番号略>)。

(三) 防犯懇話会の設立

(1) 被告組合は、主にエアーソフトガンを製造する業者の団体であり、製造業者レベルでの安全対策を行っているが、問屋レベル及びユーザーレベルにおいても安全対策を行うため、全国のエアーソフトガン及びその関連商品を扱う問屋らを組織して、銃の取扱指導、マナー指導、改造防止等の啓蒙活動を行う防犯懇話会という団体を作ることとし、平成元年一〇月二四日に西日本懇話会(会員は一一であるが、後記「西日本遊戯銃専門店会」という別組織もあった。)が、平成元年一二月一五日に中部懇話会(一六の会員の下に、防犯協力店が平成二年九月当時九七店、平成三年の最盛期に約三〇〇店あった。)が、平成二年二月二八日東日本懇話会(三六の会員と一四の準会員の問屋で構成されているが、その傘下の防犯協力店は約一五〇〇店であった。)がそれぞれ設立された。なお、設立時の三懇話会の役員は、西日本懇話会の会長は被告岡井、副会長は被告関藤(平成四年三月から会長)、中部懇話会の会長は訴外酒井秀雄、副会長は被告村田(平成二年三月から会長)、東日本懇話会の会長は被告川島であり、会長は権利能力なき社団である三懇話会の業務執行機関であった。さらに、懇話会会員である問屋らは、取引のある小売店を防犯協力店(約五〇〇〇店)とした。

なお、被告関藤は、平成元年以前から、セキトーの取引先で遊戯銃を販売している約一〇〇店の小売店等を組織して「西日本遊戯銃専門店会」を設立しその会長を務めており、右専門店会においても改造防止などの啓蒙活動を行っていた。

(<書証番号略>)

(2) 三懇話会は、基本的には、被告組合の方針を問屋レベルで実施するための機関であり、その会則等は被告組合とほぼ共通のものであった。三懇話会は、小売店に対し「マナー指導書」を配付したり、射撃大会、小売店の研修会等を被告組合の援助協力のもとに主催するなどの活動を行い、右研修会等には、地方自治体職員及び警察の銃器担当者などが参加し、通産省担当官も、従前懇話会に対して安全対策の充実を要請していたこともあって、右研修会等に随時参加し指導していた。

(<書証番号略>)

(四) ASGKマーク制度

前記のとおり、被告組合は、本件自主基準に適合した製品にASGKシールと題する合格証紙を貼付して販売していたが、平成二年七月二七日の例会で、ASGK制度の趣旨に賛同する小売店を「遊戯銃防犯協力店」とし、その店舗に所定のステッカーを貼付してもらうことを定め、また、懇話会会員以外の問屋に対しては製品を販売しないことを決め、その後、同年八月から一〇月にかけて、被告組合の要請により、三懇話会は、同年一〇月一日からASGKシールの貼付されていない製品については取り扱わないことを申し合わせた。

さらに、被告組合は、株式会社ワールドフォトプレス発行の「コンバットマガジン」、国際出版株式会社発行の「月刊GUN」、株式会社ホビージャパン発行の「月刊アームズマガジン」(以下「業界誌三誌」という。)との間で、ASGKシール貼付の製品以外の広告を掲載しないことを申し合わせた。

(<書証番号略>)

3  被告組合の実情

(一) 銃の威力及び検査の不徹底

しかし、右のように本件自主基準が制定されたにもかかわらず、ユーザーの間では威力の強い製品を求める傾向が強いため、実際には組合員の中には本件自主基準に違反し0.4Jを超える威力の製品を製造販売する者が多く、本件自主基準を遵守した0.4J以下の威力の製品では売れ行きが伸びないという状況が生じ、平成二年ころには、組合員の製品でも0.4Jを超える威力を有するものが多くなっており、平成四年に東京都消費者センターにより行われた威力の測定によれば最も強い製品は条件によっては1.0Jを超える威力を有していた。

これら自主基準に違反する製品を製造している組合員らは、試験結果が0.4J以下となるような特別に調整した銃を提出して試験に合格し、いったんASGKシールの発給を受けてから自主基準違反の製品を製造していたため、そのような基準違反製品にもASGKシールが貼付されて販売されているというのが実情であった。被告組合は、いったん検査を通過した製品に対してはその後は無条件でASGKシールを交付しており、当初規約において既に検査合格後にも年一回試買検査をすることが定められていたが、実際にはほとんど行われていなかったため、右違反行為は半ば公然と見過ごされていたものである。

組合員の多くは、本件自主基準の必要性のあることは認識しており、他社が本件自主基準を守るならば自社も守ろうという考えであったものの、他の組合員が自主基準を遵守していない状況下で自社のみ自主基準に合致した製品を製造すれば、当該製品の売れ行きが伸びず競争に負けるという理由で、本件自主基準に違反する0.4Jを超える威力を有する製品を製造販売し、その結果、平成二、三年当時、組合員が製造しASGKシールが貼付された製品でも0.4Jを超える威力を有する製品が多数を占めるという状況にあった。

また、BB弾を発射するエネルギー源(パワーソース)を従来のフロンガスから炭酸ガス(被告組合では「グリーンガス」という名称を使用している。)に代えた場合には、より威力が高まる場合があった。

(<書証番号略>)

(二) 組合運用の問題点

被告組合は、定款上、通常総会を年一回開催し、他に必要があれば臨時総会を開催することになっている(<書証番号略>。定款三四条)が、その他にも、定款に明文の定めがない「例会」が総会と同様の意味合いをもって開催されていた。

また、被告組合には、定款の目的を達成するため、被告組合の発足直後から広報委員会、事故対策委員会、改造銃撲滅委員会等の各委員会及び各部会を設けて、実際に活動をしていたが、右各委員会等の規約は平成五年に「部会及び委員会規約」(<書証番号略>)として明文化されるまでは事実上のものにとどまった。

また、平成二年一月(又は同年五月)、被告前田は、被告組合の理事長に就任したが、その後次第に、被告前田ら執行部は、役員選挙を行わなかったり、本来被告組合資格のない者を加入させたりするなどし、組合の定款に従わず、また、明白に本件自主基準に違反する鉄製の銃身を有する遊戯銃製品にASGKシールを発給したり、一部の組合員に対し正当な理由なくASGKシール発給を遅らせるなどの恣意的な運用を行うようになった。

(<書証番号略>)

(三) 原告製品への反応

被告組合の組合員は本件自主基準によって0.2グラムを超えるエアーソフトガン用の弾丸(BB弾)を製造することができないとされていたため、重量BB弾については原告がほぼ独占的に販売しており、被告組合の組合員の中には、原告だけに独占的な利益を得させているのは面白くないから自分たちも重量BB弾を製造することにしたいという意見が持ち上がっていた(<書証番号略>)。

また、原告は問屋を通さず小売店に直接販売することを主としていたため、被告組合の組合員の中には、原告が従来の流通秩序を乱しているとして非難する意見を表明する者もあった。

4  本件九二Fの販売開始

(一) 原告は、昭和六三年一月ころ本件九二Fの開発に着手し、平成二年三月二一日に発売予告広告を行い、当初のロットとして一万丁分の部品を用意した上、同年一一月一〇日に発売を開始した。

本件九二Fの威力は、初期のロットの製品では約0.58J(原告測定値)であったが、その後のロットの製品では通常タイプで0.75J(原告測定値。東京都消費者センター測定では最高で0.692Jであった。<書証番号略>)、ロングバレルタイプで1.02J(原告測定値)の製品も製造された。

本件九二Fは、アメリカ合衆国陸軍の使用している拳銃ベレッタM九二Fを模したもので、原告発売開始時においてエムジーシーをはじめとする他社から多くの種類の同種製品が発売されており、その後も同種製品の発売は相次いだが、それらの同種製品の中でも命中精度が高く、平成二年一一月ころの水準からすれば相当程度に優秀な製品であった。(なお、被告らは、本件九二Fは先行販売されたエムジーシーの同種製品のコピーである旨主張するが、原告はエムジーシーが右製品を発売する前に金型を製作していること、本件九二Fとエムジーシーの九二Fの間には構造上も差異があることなどからして、右コピーの事実は認められない。)

ただし、原告は、BB弾メーカーとしては有力であったが、エアーソフトガンを製造するのは本件九二Fが初めてであったため、小売店及び消費者の間に、エアーソフトガンメーカーとしての高い評価はいまだ得ていなかった。

(<書証番号略>)

(二) 原告は、当時の本件自主基準である0.2グラムを超える重量BB弾を主力製品として製造販売していたため、被告組合に加入することによって右重量BB弾の製造販売を中止しなければならなくなることを恐れ、また、原告は前記1のとおり製品を問屋を通さず直接小売店に卸販売していたところ、被告組合の組合員は懇話会加入の問屋以外に製品を販売してはならなかったため(<書証番号略>)、被告組合に加入しないまま本件九二Fを発売することに踏み切った。

(三) 被告前田は、原告が本件九二Fを発売したのを知り、本件九二Fの威力については測定したことがなく全く知らなかったが、被告組合の理事会に相談の上、平成二年一一月一六日、原告に電話をかけ、対応に出た瀬戸に対し、以前モデルガンについて法規制ができたことによってモデルガン業界が壊滅的な打撃を受けた経緯があり、そのため、エアーソフトガンについてまで法規制がされることがないように本件自主基準を設け、業界全体で守っているのであるから、原告も被告組合に加入し協力してほしい旨を要請した。

これに対し、瀬戸は、原告が0.2グラムを超える重量BB弾を主力製品として製造している事情を考慮して、原告において右のような重量BB弾の製造を継続することを条件に、エアーソフトガンに関してのみ被告組合に加入したいと返答したが、被告前田は右条件を拒否し、BB弾及びエアーソフトガン双方について加入することが必要であると述べた。

瀬戸は、被告前田に対し、原告は重量BB弾が主力商品であって、この製造販売を中止しては会社が成り立たないから、エアーソフトガンの製造販売だけで経営が成り立つようになるまで一年待ってほしいと提案したが、被告前田は一週間以内に返答するように要求し、「もし組合に入らなければ九二Fの高価な金型が無駄になりますよ」などと申し向けた。

5  本件取引中止要請文書

(一) 原告は、その後も結局被告組合に加入しなかったところ、被告前田は、被告組合の理事会に諮った上、平成二年一一月二六日、理事長である被告前田の名前で、原告に対し、「エアーソフトガンユーザーの安全を守る為に今後当業界において販売の中止を要請いたします」と記載した文書を送付した。なお、被告前田は、右文書の作成及び配付について、三懇話会に事前に相談したことはなかった。また、被告川島はそのころからの被告組合の組合員であったが、被告前田が右について理事会に諮ったことを知らなかった。

(<書証番号略>)

(二)(1) 被告組合は、平成二年一一月二六日付けの「デジコン(株)製品について」と題する文書(<書証番号略>。ただし、「中部遊戯銃防犯懇話会会長村田正好」との記載のないもの)を三懇話会会長及び株式会社三ツ星商店など会員の一部に送付して、三懇話会及び懇話会の会員である問屋において、その傘下の小売店に対し原告製品の仕入れ販売を即時中止するように指導することや、原告製品を取り扱っている小売店に対してはASGKシール付き商品の出荷停止処置を取ることなどの要請をした。右文書には、本件九二Fを「非常に危険な商品」であるとした上で、「この様な商品が消費者に販売されますと、消費者の安全を守ることが非常に難しくなります」などという記載がある。

(<書証番号略>)

(2) 右被告組合の要請を受けて、東日本懇話会会長の被告川島は、「(デジコン製品の仕入、販売中止)」と題する文書(<書証番号略>)を作成し、前記「デジコン(株)製品について」と題する文書のコピーと合わせて、同懇話会の会員三六社及び準会員一六社に配付し、原告製品の仕入販売を中止し、これを遵守しない小売店に対してはASGKシール付き商品を供給しないようにすることを要請した。東日本懇話会の会員のうちの相当数の問屋は、右要請に従い、取引のある小売店に対し原告製品についての取引を中止することを要請した。

(<書証番号略>)

(3) 中部防犯懇話会会長の被告村田は、被告前田に対し、被告組合から送付された前記「デジコン(株)製品について」と題する文書の扱いについて電話で問い合わせたところ、被告前田は会員に配付してほしい旨返答した。また、被告村田は、同年一二月五日、被告組合の例会において、被告前田に対し、右文書を配付することは問題があるのではないかと質問したが、被告前田は問題ない旨回答し、右例会において同趣旨の議案が了承された。

そこで、被告村田は、右文書に「中部遊戯銃防犯懇話会会長村田正好」とのゴム印を押捺した上でそのコピー(<書証番号略>)を取り、同月一一日ころ、同懇話会の臨時の理事会を開き、その席上で会員らに右コピーを配付し、「取引先の小売店でデジコン製品を扱っている店があったら、コピーを渡してほしい。なければ結構です」と説明し、右要請をした。そして、被告村田は、その後、メトロ模型の取引先小売店のうち原告製品を扱っているものに対して右コピーを配付した。

また、中部懇話会会員で右コピーを受け取った問屋のうちの相当数は、右要請に従い、取引のある小売店に対し、原告製品についての取引を中止することを要請した。

(<書証番号略>)

(4) 西日本懇話会会長の被告岡井は、被告組合から送付された前記「デジコン(株)製品について」と題する文書に、西日本懇話会のゴム印と自己の印鑑を押捺し、同懇話会の会員及び一部の小売店に対して配付した。その結果、西日本懇話会の会員のうち相当数は、右要請に従い、取引のある小売店に対し原告製品についての取引を中止することを要請した。

(<書証番号略>)

(三) 被告組合は、前記のとおり、同年一二月五日に例会を開き、その席上被告前田が三懇話会に対し原告製品の取引中止を要請した件を報告し、その了承を得た。

(<書証番号略>)

さらに、被告組合は、同月二〇日ころ、三懇話会会長に対して、「デジコン(株)製品について」と題する同日付け文書(<書証番号略>)を送付し、原告製品についての取引中止を小売店にも周知させるよう重ねて要請した。

右文書には、同年一一月二六日付け文書(<書証番号略>)により原告製品(重量BB弾及び本件九二F)の取扱中止について大多数の小売店の理解を得たが、非常に少数の小売店の理解をいまだ得ていないとした上で、「消費者の安全を守る事は、業界の発展、維持が期することであり、個人の利益だけしか理解していない様な、デジコン社については業界として非常に迷惑な商行為だと思います」との記載があり、同部分は下線を付されて強調されていた。

次いで、被告組合は、同年一二月二八日ころ、三懇話会会員である問屋に対し、重ねて原告製品についての取引中止を求める同日付け文書(<書証番号略>)を送付した。右文書の宛名は、三懇話会のほか「全国遊戯銃防犯協力店各位」と記載されており、被告組合は、三懇話会会員に対し、右文書と同時に、「デジコン社製品について」と題する同日付け文書(<書証番号略>)を送付し、右「全国遊戯銃防犯協力店各位」との宛名がある同日付け文書(<書証番号略>)をコピーした上で、傘下の防犯協力店に配付するように依頼し、その結果、相当多数の小売店へ右文書のコピーが配られた。

(<書証番号略>)

(四)(1) 前記(二)(三)の各要請等により、原告と取引のあった小売店のうち相当数は、原告製品についての取引を中止するに至り、前記通知等を理由にして本件九二Fを返品する小売店もあった(<書証番号略>)。

また、そのころ、原告が業界誌三誌に本件九二Fの広告を掲載するよう求めたところ、右三誌は、前記のASGKシール貼付製品以外の広告を掲載しないとの被告組合との申し合わせを理由にして掲載を拒絶した(<書証番号略>)。

(2) しかし、被告組合や三懇話会からの前記要請通知などにもかかわらず、一部の小売店では原告製品についての販売が継続されていたため、被告組合は、平成三年二月六日及び同年七月二三日の例会、並びに同年二月六日及び同年三月一二日の懇話会会員の研修会の席上においても、原告製品を取り扱わない方針についての再確認をした。

また、同年五月被告組合に加盟した被告関藤は、同年七月二三日の例会の席上で、特に発言を求め、原告製品の取引中止についてより強力な手段を講じるように要請し、そのころ、被告組合の組合員及びセキトーの取引先に対し「御願書」と題する文書(<書証番号略>)を送付し、アウトサイダー製品の取扱中止についての徹底を訴えた。

(<書証番号略>)

(3) 例会における右のような発言を受けて、被告組合は、原告製品の取引中止をより徹底するため、各小売店が現在もなお原告製品の販売を行っているか否かについての調査を行うことにし、三懇話会会員である問屋の従業員が営業活動として小売店を訪れる際に、実際に店頭で原告製品があるかどうかを確認するなどの方法で調査し、それによって、なお原告製品を販売している小売店についてのリストを作成した。

そして、平成三年八月五日、被告組合は、原告製品を販売していると認められた小売店に対し、ASGKシールが貼付していない商品を取り扱った場合にはASGKシールが貼付された組合の製品の出荷を中止することがある旨の個別的な警告文書を送付した。さらに、そのころ、右個別的な警告文書の宛名を「販売店各位」とした文書並びに前記リストを基に原告製品を取り扱っている小売店の名称及び所在地を列挙した「アウトサイダー取扱店」と題する文書を作成した上、三懇話会会員である問屋に同文書を送付した。

(<書証番号略>)

(なお、被告らは、右各文書は改造パーツについてのものであり、原告製品を念頭においたものではない旨主張する。確かに、平成三年八月五日付け文書及び「アウトサイダー取扱店」と題する文書には原告の名前が明示されていない。

しかし、右平成三年八月五日付け文書中には、「しかし一部のメーカーの中に、この検査を受けると威力が制限されるため、敢えて組合に加入せず、威力が強いことを売物にしている製品があります」という記載があることからすれば、右文書は、改造パーツについてというよりも、組合未加入のアウトサイダー的業者の製造しているエアーソフトガンについての取扱いの中止を求める趣旨であることが明らかであり、当時被告組合に加入していないエアーソフトガンメーカーは原告のみであったことからすれば、右文書及び右文書と同一の時期に配付された「アウトサイダー取扱店」と題する文書が、いずれも原告及び原告の製造する本件九二Fを念頭に置いて、各小売店に対し、その取扱いの中止を求めたものであることは明らかというべきである。)

6  中止要請の浸透状況

(一) 本件九二Fについて

前記被告らの各措置により、従前原告製品を販売していた小売店のうちの相当数が原告との取引を中止したが、被告組合に隠れて取引を継続した小売店もあった。(被告らは、小売店らが原告製品の取扱いを中止したことは、当該小売店がASGK制度の趣旨を理解賛同して自主的に行ったにすぎず、被告組合の中止要請によるものではない旨主張する。しかし、前記のとおり、平成二年一二月から平成三年にかけて、エアーソフトガンを製造販売している業者は原告を除きほとんど全てが被告組合に加入していたものであり、被告組合の配付した前記各中止要請文書には、原告製品を取り扱った場合には被告組合員の製造したASGKシール付製品の出荷を中止することがある旨の警告が記載されていることに照らせば、仮に原告製品を取り扱った場合には、被告組合に加入する業者に取引を中止され、当該小売店の営業に重大な支障を来す危険のあることが警告されていたにほかならないのであって、多くの小売店は、その不利益を恐れて原告製品の販売を中止したものと認められる。このことは、被告組合が、原告製品の取扱いを継続した小売店を対象に、前記のとおりアウトサイダー販売店のリストを作成し、個別的に中止要請文書を送付していることからも明らかである。)

(<書証番号略>)

本件九二Fの売上高は、発売直後であり、かつ、被告らによる本件中止要請文書配付前である平成二年一一月一〇日から同月三〇日までの期間(二一日間。うち営業日は一六日)は一三四五万八四八〇円(パーツ含む)、売上丁数は一四六六丁(一営業日当たり約九二丁)であったが、本件取引中止要請文書配付後である同年一二月の売上高は一一七八万六六〇五円、平成三年一月は六九二万六七二〇円、同年二月は六一八万二〇七八円と減少し、その後も多少の増減はあったが全体として漸減傾向を示した。

(<書証番号略>)

(二) BB弾について

(1) 原告製造のBB弾の売上高は、平成元年三月には二三二九万二〇二六円に上ったが、その後は漸減し、被告らによる本件中止要請文書配付前の半年間(平成二年六月から同年一一月までの六か月間)の毎月の売上高の平均は約一二二〇万円であったが、被告の本件中止要請文書配付開始後の半年間(平成二年一二月から同三年五月までの六か月間)の毎月の売上高の平均は約一一五〇万円であった。平成三年六月以降は、さらに売上高が減少し、毎月平均一〇〇〇万円を下回るようになった。(<書証番号略>)

(2) 原告の従来の大口取引先のうち、「ケイスタッフ」、「フジカンパニー」、原告が抽出した別紙取引先一覧表3のうち番号5「模型のコージヤ」、番号6「一文字屋」、番号22「松村屋玩具店」の五店は、本件取引中止要請文書が配付された平成二年一二月から本件撤回文書が配付された平成三年一二月までの間、一切原告とBB弾についての取引をしなくなったが、それ以外の右一覧表記載の各小売店は、原告製造のBB弾の仕入販売を継続した(<書証番号略>)。

もっとも、右のうちケイスタッフの取引中止は、本件中止要請文書配付以前に被告組合の行っているASGK制度の趣旨に賛同し、自主的に行った措置である(<書証番号略>)。また、右「模型のコージヤ」についても、同様の取引高の変動を示しているが、同店は、平成二年九月に原告から四九万七四六二円に上る仕入れを行っており、右金額が同店の従前の仕入れ状況からみて相当に多額であることを考慮すれば、同年一二月以降一年以上にわたって原告との取引が途絶えたことは、右九月の仕入分の在庫が残存していたためであると考えられる(<書証番号略>)。

したがって、原告の従来の大口取引先のうち、本件取引中止要請文書の配付によりBB弾の取引が途絶えたのは、「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の三店である。

7  本件撤回文書の配付

(一) 原告は、平成二年一二月三日、被告組合の右各文書の送付等の行為が独禁法に違反すると主張し、公正取引委員会に対し同法四五条一項所定の措置請求を行った(<書証番号略>)。

(二) 被告組合による原告製品取引中止要請を知った通産省生活産業局文化用品課担当官は、右要請は行き過ぎであるとして、平成三年夏ころ、被告前田らを呼び出して事情を聞いた上、右取引中止要請文書を撤回するように指導した。

被告前田は、右指導に従い、撤回文書の草案を作成し、平成三年九月一八日ころから三、四回にわたって通産省生活産業局文化用品課担当官の指導を受け、右草案を修正した文案を作成した上、同年一二月四日の被告組合理事会に報告してその了承を得、同月一九日ころ、三懇話会会長に対し、「デジコン(株)の仕入販売中止の撤回について」と題する文書(<書証番号略>。本件撤回文書)を交付し、先に本件取引中止要請文書を配付した懇話会会員及び小売店に配付するよう指示し、一部の懇話会会員には直接郵送した。(<書証番号略>)

本件撤回文書には、「さて、当協同組合では、エアーソフトガン及びその関連製品が安全性等の面で関係法令に抵触するか否かは関係当局の判断に委ねられるべきものであるにもかかわらず、自主基準の周知徹底を図るために流通段階においてASGKシール商品以外扱わせないことを決定し、この方針の下に平成二年一一月二六日、平成二年一二月二〇日、及び平成二年一二月二八日付けの文書により、ASGKシール商品でないことをもってデジコン(株)製品を流通段階で扱わないように小売店等に対しその仕入販売中止を求め、これを遵守しない者には組合員のASGKシール商品の供給を停止することをお知らせいたしました。このことは、協同組合の活動としては行き過ぎでありましたので、これを撤回いたしますとともに、その旨小売店等に周知いただくようにお願い申し上げます」、「当協同組合といたしましては今後ともASGKマーク商品制度の履行とともに同商品の適正な取扱いのための適法な啓蒙活動をさらに強力に推進します」という趣旨の記載がある。

(<書証番号略>)

(三)(1) 東日本懇話会の事務局は、本件撤回文書のコピーを作成して各会員に配付し、各小売店に配付するように依頼した。しかし、被告川島及び事務局は、小売店への右文書の配付を徹底するための特段の措置は取らず、また、実際に配付されたかどうかについても確認しなかった(<書証番号略>)。

(2) 被告村田は、平成四年一月二三日、中部懇話会の遊戯銃関係の問屋の新年会の席上で、二名の同懇話会会員に本件撤回文書を交付し、これを本件取引中止要請文書を配付した小売店に対して配付するよう依頼したが、実際に右配付がされたかどうかについて確認したことはなかった(<書証番号略>)。

(3) そのころ、被告岡井は、右撤回文書の趣旨を西日本懇話会の会員に対し口頭で告げたが、同会員及び小売店に対し、撤回文書のコピーを配付したことはなかった。また、被告関藤は、自分が代表を務めるセキトーの営業担当者に対し、小売店に右撤回について口頭で説明するよう指示したが、実際に右説明がされたかどうかについて確認したことはなかった。(<書証番号略>)

(4) 右のとおり、本件撤回文書は、三懇話会会員である問屋に対しては、文書が配付されるなどして一応撤回の趣旨が伝達されたものの、取引中止要請文書の場合と異なり、その趣旨を徹底するための特段の措置が取られなかったため、小売店には必ずしも周知徹底されず、小売店の中には右撤回のあったことを知らないものもあった(<書証番号略>)。

(5) 原告は、平成三年一二月ころ、本件撤回文書を入手し、そのコピーを従来の取引先である一一〇〇店を含む合計約一三〇〇ないし一五〇〇店に送付した。

(四) 公正取引委員会は、原告に対し、平成四年五月二七日、「措置をとらないことにしました」という通知を、独禁法四五条三項の規定に基づいて行った。

原告は、右に不服で、平成五年一月四日、被告組合らの営業妨害行為が現在も継続していると主張して再度の審査請求を行ったが、公正取引委員会からはいまだ(平成八年一二月一八日現在)通知がされていない。

(<書証番号略>)

8  被告組合における重量BB弾の解禁

前記のとおり、平成三年ころまでは、0.2グラムを超える重量BB弾を原告がほぼ独占的に販売しており、これに対し被告組合の組合員の中から対抗措置として被告組合も重量BB弾の販売を認めるべきであるとの意見が上がっていたため、平成四年一月二〇日ころ、被告組合は、0.2グラムを超え0.36グラム以下のエアーソフトガン用弾丸を競技専用弾という限定付きで同年三月末から製造販売することを事実上認める決定をしたが、右の決定は被告前田ら一部組合員以外には事前に知らされていなかった(<書証番号略>)。

右解禁後、複数のメーカーが重量BB弾を製造販売するようになって、その間の競争が始まり、重量BB弾についての原告の従前のほぼ独占的製造販売状況がなくなり、0.2グラム以下のBB弾についても、平成二年ころから、株式会社トイテック、有限会社サンエイなどが高品質で安価な製品を製造販売するようになったため、原告製造のBB弾の売行きは徐々に低下した。そこで、原告は、平成四年四月ころ、右の対抗措置として原告製造のBB弾の大幅な値下げを行った(<書証番号略>)。

9  組合運営の混乱と日本エアースポーツガン製造振興会の設立

(一) 被告組合における右重量BB弾の製造販売の解禁から約一年を経た平成五年四月二一日、本件自主規約が改編規約(<書証番号略>)に改定され、前記競技専用弾としての0.36グラム以下の重量BB弾の製造販売が正式に解禁されるに至ったが、それ以前に、前記のとおり、競技専用弾として0.36グラム以下の重量BB弾の発売が事実上認められていたことにより、本件自主基準中のBB弾の重量についての0.2グラム以下という部分は事実上無視された状態になっていた(<書証番号略>)。

そして、前記3(二)のとおり、被告前田ら被告組合の執行部は定款に従わずやや独善的な組合運営を行っていたため、平成二年ころから、株式会社トイテック(代表取締役永吉勝美)ら一部組合員の中から、被告組合の運営の正常化を求める声が上がるようになり、平成五年五月一七日には、通産省生活産業文化用品課から、規約要綱についての運営方法の改善、製品の検査態勢の確立、組合員資格の厳密化、総会、理事会等の民主的運営などについて改善努力を行うように指導されるに至った。

それにもかかわらず、平成五年七月、株式会社ジェーエーシー(JAC)は、本件自主基準に明らかに違反する鉄製銃身を有する「BAR」と称する製品を販売し、被告前田は、これに対してもASGKシールを発行するなどし、当初規約以来の自主基準すら遵守されず、被告組合の自主基準は一層形骸化の度合を増した。

(<書証番号略>)

(二) 平成五年一〇月、被告組合の組合員の一部は、前記0.4Jという自主基準に縛られずにエアーソフトガンを製造するため、日本エアースポーツガン製造振興会(以下「スポーツガン振興会」という。)を設立し、同振興会はエアースポーツガンの威力の基準を0.8J以下と定めた。スポーツガン振興会において、被告前田が専務理事に、セキトーの子会社である株式会社エスツーエスの笠井昇が常務理事に就任している。

同会に加入する業者の製造するエアースポーツガンは、構造はエアーソフトガンと同一であるが、スポーツガン振興会は、右銃は射的競技専用の銃であり、サバイバルゲームなどにおいて人に向けて発射するため使用するものではないとし、銃身にシリアルナンバーを打刻して登録し、かつ、右基準に合致した製品にはJASGと称する検定シールを貼付することとしている。しかし、エアースポーツガンのそれ以外の外形はエアーソフトガンと同一であり、エアースポーツガンの購入者らがサバイバルゲームなど射的競技以外の用途に使用しないという保証は全くないものである。

(<書証番号略>)

右のような被告組合の組合員の一部の身勝手な行動に危機感を覚えた被告川島らは、エムジーシー代表取締役檜山憲弘らとともに被告組合の刷新運動を起こし、被告前田に対し被告組合からの脱退を勧告するに至った。平成五年一一月、被告前田は被告組合の理事長を辞任し、そのころ被告川島が再度被告組合の理事長に就任した。

(<書証番号略>)

10  景気の動向

エアーソフトガン及びBB弾の市場は平成二年ころが最盛況で、その後景気が悪化し、エアーソフトガン市場全体の売上丁数とほぼ比例する関係にある被告組合のエアーソフトガンに関するASGKシール発給枚数は、平成元年四月から平成二年三月までが三六四万九二二〇枚、同年四月から平成三年三月までが二九七万四二六〇枚、同年四月から平成四年三月までが二八六万四六九〇枚、同年四月から平成五年三月までが二〇六万八八七〇枚、同年四月から平成六年三月までが二〇七万三八八二枚であった(<書証番号略>)。

11  他社の九二Fの登場

平成五年になって、ウエスタンアームズが実銃と同様に発射の際スライドが後退する機能を備えたベレッタM九二Fを発売し、また、マルシン工業は電動ハンドガン(以前は電気回路がかさばるため拳銃タイプのエアーソフトガンの電動ガンは存在しなかった)を発売した。

また、平成六年になってからは、ホップバレル(銃身に工夫をし、発射されたBB弾に上向きに回転をかけることによって飛距離を増す装置)付きのエアーソフトガンが人気を集めるようになった。右のような新種の多様な他社製品の販売によって、本件九二Fの優位性がなくなり、人気が低下した。(<書証番号略>)

12  現在の状況

被告川島が前記経緯によって被告組合の理事長に再度就任して以降、被告組合は、従来の方針を転換して、問屋及び小売店がASGKシールの貼付していない製品を販売したり、雑誌において右貼付のない製品の広告を掲載することも自主的判断に任せるという考え方を採るようになり、その一方で、平成六年七月二一日ころ、同日付けの「組合のめざすものと今後の運営」と題する書面(<書証番号略>)を組合員に配付し、「青少年の健全な育成のために「安全」な玩具を提供することが被告組合の社会的存在意義であり、同時に社会的責任である。組合が自主的に定めた「安全基準」の遵守はその生命線である。「安全なおもちゃの供給」に徹することを通じて青少年の健全育成、市民社会の安寧を守る、業界の健全な発展をめざす、これが組合活動の支柱でなければならない。」旨を冒頭で掲げた上、「組合健全化への道標」「組合運営の基本条件」「自主規約の厳格な遵守システムの確立」「組合員資格・定款変更の推進」「事務局の強化」などの項目について具体的な指針を表明した。

右のころから、原告の製造販売に係る製品に対する小売店等の村八分的な対応は少なくとも表面的にはなくなったが、「扱うとちょっとまずい」製品である(<書証番号略>「フロントライン渋谷店」)とか、「入れたいというのが本音なんですけれども、(中略)ちょっとまあ入れずらい」(<書証番号略>「ミスタークラフト」)「あそこのものを扱うとほかのものが止められる」(<書証番号略>「B・J・M通販部」)などとして、ASGKシールを貼付していない製品を取り扱うと被告組合傘下の問屋からASGK製品の仕入れができなくなるなどの不利益があると考えている小売店もいまだ少数は存在しており、そのような関係で、原告の前記製品に対する差別的な取扱いが全くなくなったわけではない。

(<書証番号略>)

二  検討

1  不法行為の成否

(一) 独禁法の要件該当性

(1) 共同ボイコット行為

①  原告及び被告組合の組合員らは、互いに競争関係に立つ業者であるところ、前記認定の被告組合の行為のうち、平成二年一一月二六日付け文書(<書証番号略>)、同年一二月二〇日付け文書(<書証番号略>)及び同月二八日付け文書(<書証番号略>)を三懇話会及び全国の問屋に送付するとともに、その趣旨を全国の小売店に徹底するよう指示して原告商品を取り扱わないよう全国の問屋及び小売店に要請した行為、三懇話会に被告組合の作成した右平成二年一一月二六日付け文書を各会員に送付させるなどして被告組合の意向の徹底を図った行為、平成三年八月五日付け文書(<書証番号略>)を、原告製品を仕入れ販売していると認められた小売店らに送付して原告製品を扱わないように要請した行為、同年九月ころ「アウトサイダー取扱店」と題する原告製品を扱っていると認められた小売店の店名及び住所を列挙した文書(<証番号略>)を全国の問屋に送付して原告商品を扱わないように要請した行為は、事業者団体である被告組合が、互いに競争者の関係に立つ事業者である被告組合の組合員、及び同様に競争者の関係に立つ事業者である三懇話会会員に要請し、一致して、小売店に対し、特定の事業者である原告との取引を拒絶させる行為(昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号(以下「一般指定」という。)一項二号)をさせるようにする行為であって、独禁法の定める事業者団体の禁止行為である「事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること」(以下「不公正な取引方法の勧奨」という。独禁法八条一項五号、二条九項)という構成要件に形式的に該当すると認められる。

(以下、被告組合の右各妨害行為を併せて「本件妨害行為」という。)

②  そして、前記認定のとおり、平成二年一一月ころ、原告を除くほとんど全てのエアーソフトガン製造業者は被告組合の組合員であって、そのシェアの合計は一〇〇パーセントに近い数字であり、また、エアーソフトガンを取り扱う全国の問屋についてもその大部分が三懇話会に加入していたものであったから、前記のとおり、被告組合が組合員である問屋ら及びこの問屋らを介して小売店らに対し、原告と取引をした場合には被告組合員の製品を供給しない旨を告げて原告製品の取引中止を要請したことにより、原告が自由に市場に参入することが著しく困難になったことが認められる。したがって、本件妨害行為は、独禁法の定める事業者団体の禁止行為である「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(以下「不当な競争制限」という。同法八条一項一号)の構成要件にも形式的に該当すると認められる。

(なお、原告は、被告前田が瀬戸に対し、平成二年一一月一六日に電話し、さらに、同月二六日付け文書を送付して、原告が被告組合へ加入することを要請し、加入しない場合には原告製品の製造販売を中止するよう要請した行為についても、独禁法に違反する行為である旨主張する。しかし、被告組合への加入を勧誘することが独禁法に違反するとは到底いえず、また、被告組合に加入しない場合には原告製品の製造販売を中止するよう要請した行為も、右行為により直ちに問屋及び小売店において原告との取引を拒絶することを来すような行為とはいえないから、被告前田の右行為がそれ自体で前記不公正な取引方法の勧奨又は不当な競争制限に該当するとは到底いえない。

また、原告は、本件撤回文書の配付自体も不公正な取引方法の勧奨又は不当な競争制限に該当するかのように主張し、右配付以後も、被告らは、問屋、小売店に対する啓蒙活動という名目による働きかけや各種会合における発言をもって、原告製品を取り扱わないよう問屋や小売店に働きかけた旨主張しているが、右事実についてはこれを認めるに足りる的確な証拠がない。前記のとおり、本件撤回文書の交付は独禁法違反の状態を解消するために行われたものであって、それ自体が不公正な取引方法の勧奨又は不当な競争制限に該当するとは到底いえない。

さらに、原告は、被告らが本件妨害行為があたかも行政官庁の指導に基づくものであるかの如く問屋及び小売店に説明した行為、及び被告組合が原告のASGKシールを貼っていない商品について業界雑誌で広告することを妨害した行為も、不公正な取引方法の勧奨に該当するかのように主張するが、結局のところ、右各行為は、被告らが一連の本件妨害行為を実行するに際しての一手段又は一態様であるとみるべきであり、その私法上の違法性の有無は本件妨害行為の違法性の判断を離れて判断されるべきものではないから、被告らの右各行為はそれ自体を独立して論ずるまでもなく、以下では独立して論及しないことにする。)

(2) 正当な理由及び公共の利益の有無

① 以上のとおり、本件妨害行為は、不公正な取引方法の勧奨ないしは不当な競争制限という前記独禁法の構成要件に形式的に該当すると認められる。

しかし、共同の取引拒絶行為であっても、正当な理由が認められる場合は、不公正な取引方法に該当しないと解される(一般指定一項)。

また、形式的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に該当する場合であっても、独禁法の保護法益である自由競争経済秩序の維持と当該行為によって守られる利益とを比較衡量して、「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進する」という同法の究極の目的(同法一条)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、当該行為は、公共の利益に反さず、結局、実質的には「一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為」に当たらないものというべきである(最高裁第二小法廷昭和五九年二月二四日判決・刑集三八巻四号一二八七頁参照)。

したがって、本件は、被告組合がエアーソフトガンの安全に関する品質基準を設けて、これに合致しない商品の取扱いを中止するよう問屋及び小売店に要請したという事案であるから、本件自主基準設定の目的が、競争政策の観点から見て是認しうるものであり、かつ、基準の内容及び実施方法が右自主基準の設定目的を達成するために合理的なものである場合には、正当な理由があり、不公正な取引方法に該当せず、独禁法に違反しないことになる余地があるというべきである。

さらに、自由競争経済秩序の維持という法益と、本件妨害行為により守られる法益を比較衡量して、独禁法の究極の目的に反しない場合には、公共の利益に反さず、不当な競争制限に該当せず、独禁法に違反しないことになる余地があるというべきである。

以下、これらの点について検討することとする。

③  本件自主基準の目的の合理性

前記のとおり、昭和六〇年ころからエアーソフトガンに関係する事件や事故が続発し、エアーソフトガンに対する社会的批判が強まり、国会でも取り上げられるに及んで、通産省生活産業局文化用品課の安全確保の目的での行政指導もあって、昭和五〇年六月二八日に設立された「日本モデルガン製造協同組合」が昭和六一年に「エアソフトガン協議会」を吸収合併して現在の被告組合となったものである。そして、前記認定事実及び前掲各証拠によれば、被告組合は主として右安全確保の目的のためにASGK制度を設けたものであり、本件自主規約において、ASGKシールの貼付されていないエアーソフトガンの製造販売をしないように申し合わせている行為は、安全検査を経ていないエアーソフトガンによる事故を防止して消費者及びその周辺の安全を確保すること並びに事故発生により広範な規制が行われ業界全体が打撃を受けることを防止する目的であると認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

そして、前記のとおり、独禁法は、自由競争経済秩序の維持を保護法益としているか、その究極の目的は、一般消費者の利益確保及び国民経済の民主的で健全な発達の促進にあるというべきであるから(同法一条)、安全性の確保されない製品の流通による事故の防止は消費者の利益に適うことであり、本件自主基準の目的は、独禁法の精神と何ら矛盾するものではないというのが相当である。

したがって、被告組合の本件自主規約及びこれに係る本件自主基準の設置目的は、正当なものであるということができる。

②  本件自主基準の内容の合理性

前記のとおり、本件自主基準において、エアーソフトガンの発射された弾丸の威力は、対象年齢一八歳以上のものは0.4J以下(対象年齢一〇歳以上の表示をするものについては0.2J以下。ただし、改定自主基準によって平成五年四月二一日以降は0.18J以下)、弾丸の材質はプラスチックで重量については0.2グラム以下(平成四年三月以降は0.36グラム以下)と定められている。

a  エアーソフトガンの威力に関する自主基準

被告組合の本件自主基準では、エアーソフトガンの威力の基準を発射される弾丸の威力に基づいて定めているところ、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、弾丸の威力(運動エネルギー)と貫通力は完全には一致しないが、弾丸の大きさ及び材質が一定であればほぼ比例する関係にあり、エアーソフトガンから発射された弾丸の危険性は運動エネルギーにほぼ比例すると認められるから、弾丸の運動エネルギーを安全性の基準と考えることには合理性があり、少なくとも不合理なものではないといえる。

ついで、本件自主基準が運動エネルギーの基準を0.4Jにしていることの合理性について検討する。

確かに、弾丸の運動エネルギーが0.4Jを超えたからといって、直ちに人体に対し傷害を負わせる威力を有し、銃刀法に違反するということはできない(<書証番号略>)。したがって、そのことのみに着目する限りでは、右自主基準の数値が0.4Jであることには格別の根拠はないというべきである。

しかし、前記認定のとおり、エアーソフトガンの消費者の多くは、可能な限り威力の高い製品を嗜好するのが一般的であるから、威力の上限の数値を設けない場合には、各メーカーが他社よりも威力の強い製品を製造販売しようとし、結果的に無制限な威力強化競争を招き、消費者の安全を害する蓋然性が高いこと、前記のとおり、モデルガン業界が立法により広範な規制を受けて大打撃を受けた経緯があることなどを考慮すれば、被告組合がエアーソフトガンの威力について0.4Jという上限を定め、エアーソフトガンと銃刀法に違反する実銃との間に相当広い空白の領域を設けようとしていることには理由があり、右のような本件自主基準の趣旨は一応合理的であるというべきである。

この点につき、原告は、前記のとおり、被告組合の組合員らの製品の中にも実際には0.4Jを超える威力を有するものが多数存在すること、被告前田らがスポーツガン振興会を結成し、エアーソフトガンとほとんど同一の商品であるエアースポーツガンの威力基準を0.8Jと定めたことなどを根拠として、本件自主基準には合理的な根拠がない旨主張する。しかし、右は、単に本件自主基準が遵守されていないというにすぎず、右を根拠として本件自主基準に合理性がないということはできないものというべきである。

b  エアーソフトガン用弾丸(BB弾)の重量に関する自主基準

前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、一般に、エアーソフトガンから発射される弾丸の威力はJ=MV2÷2の数式で求められるが、同一のエアーソフトガンから発射されたとしても、弾丸が軽ければ初速が速く、重ければ初速が遅いという関係にあるから、必ずしも弾丸が重いほど威力が大きいということはできないものであり、また、発射するエアーソフトガンの威力に比較して弾丸が軽すぎると、弾丸に十分なエネルギーが伝達される前に発射されてしまうことによって効率が悪くなり、逆に重すぎると弾丸の加速に時間がかかることによって、その間にBB弾と銃身の間から空気ないしはガスが漏れて右同様に効率が悪くなることがあるため、結局、最大の威力を出すことのできる弾丸の重量は当該エアーソフトガン毎に異なるというべきであることが認められる(<書証番号略>)。

なお、被告らは、原告製造の重量BB弾は、強力に改造されたエアーソフトガンに使用されるのに適しているから、エアーソフトガンの違法な改造を誘発するという趣旨の主張をしているが、重量BB弾が右のような違法な改造を誘発した事実を認めるに足りる的確な証拠は全くない。

もっとも、0.4Jを超える威力のあるエアーソフトガン、特に一J以上の威力を有するように改造されたエアーソフトガンについては、重量BB弾を発射する場合でもその加速が短時間にされるため、前記のエネルギー効率の悪化が小さく、一般的に、弾丸が重い方が威力が増し、危険性が増加するといえる。

(<書証番号略>)

右のとおりであるから、本件自主基準がBB弾の重量について制限を設け、右制限を0.2グラム以下(平成四年三月以降0.36グラム以下)と定めたことについても、合理性がないとはいえない。

④  本件自主基準の実施方法の相当性

前記のとおり、本件自主基準の目的は主として消費者及びその周辺の安全の確保にあると認められ、その目的が不合理なものでないことからして、その実施方法が社会的に相当である限り、一定の限度において取引制限等の方法を用いたとしても、実質的違法性を欠く場合があり得るというべきである。したがって、本件九二Fの流通により、消費者及びその周辺社会の安全という法益に重大な危険性が認められ、右危険を未然に防止するため他に適当な方法が存在しない場合には、問屋及び小売店に対し、本件九二Fの取扱いの中止を要請することはやむを得ないものであって、正当な理由があり、公共の利益に反しないものと認めるべきである。

しかしながら、前記のとおり、本件自主基準中の前記0.4Jという威力の基準については、合理性がないとはいえないものの、必ずしも格別の根拠があるとはいえず、右基準に違反した製品が直ちに社会的に著しく危険であるともいえないこと、被告組合においては一度検査を通過した製品についてはその後ほぼ無条件でASGKシールが交付され、規約に定められた試買検査はほとんど行われていなかった結果、被告組合の組合員の製造販売にかかるASGKシール貼付の製品であっても、0.4Jを超える威力を有するものが現実には多数存在していたことなどに照らせば、本件九二Fが被告組合員らの製造販売に係る製品と対比して格別に消費者及びその周辺社会に重大な危険を与えるものであるとは到底いえないものである。

この点について、被告らは、原告は本件九二Fが業界一の威力であることを売り物にしており、本件九二Fは消費者に危険を与えるものである旨主張しているが、前記認定のとおり、東京都消費者センターや「アームズマガジン」の測定の結果によれば、ASGKシール貼付の製品の中にも本件九二Fより強力なものが存在することが明らかであるから、右主張は採用の限りではない。

右のとおりであるから、本件九二Fが流通することによって消費者及びその周辺社会に重大な危険を及ぼすことになるとはいまだ到底認められないものである。

しかも、前記のとおり、被告組合は、本件九二Fの威力を正確に測定した上で威力の強い危険な銃であると認めたわけではなく、原告が被告組合に加入しておらずASGKシールを貼付していないという、まさに排他的な事由をもって本件妨害行為に及んだものである。

したがって、たとえ本件自主基準の設定目的が正当なものであり、本件自主基準の内容も一応の合理性を有するものであっても、本件妨害行為は、右目的の達成のための実施方法として相当なものであるとは到底いえないというべきであり、正当な理由があるとはいえず、独禁法が禁止している前記「不公正な取引方法の勧奨」に該当するものである。

また、本件妨害行為は、自由競争経済秩序の維持という独禁法の保護法益を犠牲にしてまで、消費者及びその周辺社会の安全という法益を守るため必要不可欠なやむを得ない措置としてされたものであるとは到底認められないから、前記独禁法の究極の目的に実質的に反しない例外的な場合であるとは認められず、ひいては公共の利益に反しないものとはいえないから、本件妨害行為は独禁法が禁止している前記「不当な競争制限」に該当するものというべきである。

なお、被告らは、本件妨害行為は通産省の行政指導に基づいてASGK制度による啓蒙活動を推進した一環であるかのような趣旨の主張をしているが、通産省の指導は右制度を推進すべしという内容にすぎないことが明らかであって、非組合員の製造したASGKシールを貼付していない製品をボイコットすることまで指導したものとは到底認められない(<書証番号略>)から、右行政指導によって本件妨害行為の違法性が阻却されることはおよそあり得ないことというべきである。

(二)  私法上の不法行為該当性

独禁法は、原則的には、競争条件の維持をその立法目的とするものであり、違反行為による被害者の直接的な救済を目的とするものではないから、右に違反した行為が直ちに私法上の不法行為に該当するとはいえない。

しかし、事業者は、自由な競争市場において製品を販売することができる利益を有しているのであるから、右独禁法違反行為が、特定の事業者の右利益を侵害するものである場合は、特段の事情のない限り、右行為は私法上も違法であるというべきであり、右独禁法違反行為により損害を受けた事業者は、違反行為を行った事業者又は事業者団体に対し、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。

そして、本件においては、本件妨害行為により、原告の自由な競争市場で製品を販売する利益が侵害されていることは明らかであり、私法上の違法性を阻却するべき特段の事情は何ら認められないから、民法上の不法行為が成立するというべきである。

(三) 各被告の責任

(1) 被告前田

被告前田は、本件妨害行為当時の被告組合の代表理事であり、前記のとおりの本件妨害行為を代表理事として推進したものであるから、本件不法行為につき、原告に生じた損害を賠償すべきものである。

これに対し、被告前田は、本件妨害行為は被告組合の総会及び理事会で決定された方針に従い、被告組合の業務執行行為として行ったものであるから、被告前田個人は責任を負わない旨主張する。しかし、当該不法行為が、法人の理事により職務を行うについてなされたからといって、理事が個人としての責任を免れる理由はない(大審院昭和七年五月二七日判決・民集一一巻一〇六九頁参照)から、被告前田は被告組合とともに損害賠償責任を負うというべきであって、被告前田の右主張は採用できない。

(2) 被告組合

本件妨害行為は、被告組合の代表理事である被告前田が、被告組合の業務執行行為として行った不法行為であるから、被告組合は協同組合法四二条、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項、七〇九条により、右不法行為によって原告に生じた損害を賠償しなければならない。

(3) 被告川島、被告村田、被告岡井及び被告関藤

被告川島は、本件妨害行為の際、被告組合の組合員であるマルシン工業の代表取締役であり、また、東日本懇話会の会長を務めていたものであって、被告組合の作成した本件取引中止要請文書を東日本懇話会の会員らに配付したものであるが、前記認定のとおり、三懇話会は、基本的には被告組合の方針を問屋レベルで実施するための機関であって、被告組合の方針決定に参画するものではなく、右文書に関してもその作成過程には関与しておらず、単に被告組合が作成し東日本懇話会に配付を要請したことを受けて、権利能力なき社団である同懇話会の業務執行機関として、これに従ったにすぎないものと認められる。

右事情からすれば、被告川島が本件取引中止要請文書を東日本懇話会の会員らに配付したことをもって、直ちに被告川島が本件妨害行為につき被告前田ないし被告組合と共謀したものとはいまだ認められず、他に被告川島が本件妨害行為につき被告組合ないし被告前田と共謀したと認めるに足りる証拠はない。よって、被告川島は原告に対し共同不法行為責任を負うということはできない。

また、被告村田、被告岡井及び被告関藤も、前記のとおり、本件取引中止要請文書を所属する懇話会の会員らに配付したものであるが、被告川島の場合と同様に、共同不法行為責任を負うとはいえない。

なお、原告は、被告川島、被告村田、被告岡井及び被告関藤らの行為が不当な取引制限(独禁法三条、二条六項)に該当する旨主張するが、前記認定のとおり、同被告らは三懇話会の業務執行機関である会長又は副会長として、被告組合からの要請に従い被告組合の方針を実施するために本件妨害行為を行ったものであるというべきであるから、同被告らが相互に意思を連絡して競争を実質的に制限したものであり同被告らの行為自体が不当な取引制限に該当するとまでは容易に認められず、結局、これを認めるに足りる証拠はないに帰する。

2  賠償を命ずべき損害額

(一) BB弾について

(1) 前記認定のとおり、原告の従前の取引先のうち、「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の三店については、本件妨害行為によりBB弾の取引がなくなったと認められる。

(2) 一方、前記認定のとおり、原告のBB弾の売上げは漸減傾向にあったことが認められるものの、本件取引中止要請文書が配付された直後の平成二年一二月は前月に比較して売上げがやや増加し、その後平成三年一月ないし二月は売上げが減少したが、その後同年三月ないし五月には回復し、同年六月以降再び減少に転じていることが認められる(<書証番号略>)。したがって、右の売上げの推移から本件妨害行為による直接の影響を読み取ることはできない。

また、前記認定のとおり、平成四年三月末被告組合においても重量BB弾が事実上解禁され、複数の業者が重量BB弾を発売するに至ったこと、他の業者が高品質で安価な製品を製造販売するようになったこと、エアーソフトガン及びBB弾の市場の景気は平成元年から翌二年ころを境に悪化していることなどが認められる。(<書証番号略>。なお、BB弾は消耗品であってエアーソフトガンと必ずしも同一の売上傾向を示すとはいえないが、関連商品であり、その売上げ傾向に密接な相関関係があることは容易に推認できる。)

(3) さらに、本件妨害行為は本件九二Fの発売直後に開始されていること、本件取引中止要請文書中の<書証番号略>には「ベレッタ92F」との記載があることなどからすれば、本件取引中止要請文書の主たる目的は本件九二Fの取引中止にあったものと認められる。

そして、本件取引中止要請文書の配付以降に本件九二Fについての取引を中止したと認められる小売店も、その後BB弾の取引は継続しており(<書証番号略>)、本件取引中止要請文書以降に本件九二FのみならずBB弾についてまで取引が全くなくなった小売店は、前記「フジカンパニー」「一文字屋」「松村屋玩具店」の三店だけである(証拠上、他の小売店は見当たらない。)。

(4) 右事情からすれば、原告のBB弾に関する損害については、本件中止要請文書の配付以降にBB弾の取引が完全に中止されるに至った前記三店についてのみ認められ、それ以外の小売店についてはBB弾に関する損害の発生は認められないというべきである。

けだし、仮に本件妨害行為によって、小売店においてASGK製品の仕入れができなくなることを恐れて原告との間のBB弾の取引を中止したとすれば、前記三店のようにBB弾についての取引全部を中止するのが自然であり、その効果が取引量の減少にとどまるということは考え難いからであり、少なくとも、前記三店以外の小売店については、仮に原告のBB弾の売上げが減少したとしても、それが本件妨害行為に起因するものであることについて疑いが残るというべきであって、いまだ容易に認定することができないものである。

(5) そこで、BB弾の取引が完全に中止された右三店に関する売上減を算定する。

① 「フジカンパニー」については、本件取引中止要請文書配付直前の一年間(平成元年一二月から翌二年一一月)のBB弾の売上合計が四九七万三三〇八円であるところ、同店における原告のBB弾取引が再開したのは平成四年一〇月であるため、本件中止要請文書が配付された平成二年一二月から本件撤回文書が配付された直前である翌三年一一月までの一二か月間についても、同様に四九七万三三〇八円程度の売上げが期待できたとも考えられる。

しかし、前記認定のとおりのBB弾の市況の悪化の影響等を総合的に考慮すると、本件妨害行為によって原告の失った同店における売上げは、右金額から二割を減じた三九七万八六四六円であると認めるのが相当である。

なお、被告らは、フジカンパニーが平成二年一一月を最後に原告との取引を中止したのは、同社への小売店からの注文がなくなったからであって、いずれも本件中止要請文書によるものではない旨主張する。しかし、それまで継続的にあった小売店からの注文が本件取引中止要請文書の配付の時期に、突如完全に途絶したというのは、他の多くの小売店において原告のBB弾の販売が継続していることと対比して明らかに不自然であって、右は本件妨害行為に起因すると認めるのが相当であり、<書証番号略>中の右認定に反する部分は根拠が薄弱であって採用することができない。

② 「一文字屋」については、本件取引中止要請文書配付直前の一年間(平成元年一二月から平成二年一一月まで)のBB弾の売上合計が一九万八六六〇円であるから、同様に、本件妨害行為によって原告が失った同店への売上げは一五万八九二八円と推定するのが相当である。

③ 「松村屋玩具店」については、本件取引中止要請文書配付直前の一年間(平成元年一二月から同二年一一月まで)のBB弾の売上合計が四五万二六一〇円であるから、本件妨害行為によって原告が失った同店への売上げは三六万二〇八八円と推定するのが相当である。

(6) 原告の平成二年一二月から平成三年一二月ころまでの粗利益率は五〇パーセントを下らないと認められる(<書証番号略>)から、原告の損害額は前記売上減の五割と見るのが相当であり、結局、原告のBB弾に関する売上喪失額は四四九万九六六二円、損害額は二二四万九八三一円を下らないと認めるのが相当である。

(7) なお、本件撤回文書配付後の売上減については、右三店舗も原告のBB弾の取引を遅くとも平成四年一〇月までには再開していることが認められ、前記認定のとおり他社製品の品質向上、景気の悪化等の要素も考慮すれば、原告の売上減は他の要素によるものと疑われ、少なくとも、本件妨害行為に起因するものと認めるに足りる的確な証拠がないと言わざるを得ない。

(二) 本件九二Fについて

(1) 原告は、主位的な損害算定方法として、本件九二Fが原告のBB弾と同一の売上傾向を示すことを前提の計算をしている。しかし、同一メーカーの製品であっても、それまでの販売実績があり小売店や消費者から信用を受けていた原告のBB弾と原告が新しく開発し発売したエアーソフトガンとが同一の売上傾向を示すとは到底認められないから、原告の主張する主位的算定方法を用いて本件九二Fに関する損害を算定するのは相当ではない。

(2)  そこで、原告の主張する本件妨害行為前の市場占拠率による売上げの推計という予備的算定方法を用いて、損害額を算定することにする。

被告は、右のような算定方法について、発売当時の数量を実績と同視することは相当ではなく、右数量を基に損害額の算定をすることは合理的でない旨主張する。しかし、本件九二Fが発売されてから本件妨害行為の影響が発現するまでには約二〇日間の期間が存在し、右期間は、前後理論に基づき本件九二Fのシェアを判断するにおいては一応十分な期間というべきである。確かに、被告主張のように、小売店は新たに発売される製品については見込注文を行うため、発売直後の売上げは当該製品の本来のシェアに比較して大きくなる可能性は高いと考えられるが、右の点については後述の修正を行うことで考慮することとする。

①  本件九二Fの推定シェア

原告の本件九二Fの売上丁数は、発売直後であり、かつ、本件妨害行為の開始前である平成二年一一月一〇日から同月三〇日までの期間(二一日間。うち営業日は一六日)は一四六六丁(営業日一日当たり約九二丁)であり、仮に、同一の割合で一年間販売を継続すると原告の営業日数は年間約二七〇日であるから、年間二万四七三八丁を売り上げる計算になるところ、平成二年四月一日から平成三年三月三一日のエアーソフトガン市場全体での販売丁数は約二九七万四二六〇丁であるから、右数値に基づく発売直後の本件九二Fのシェアは約0.83パーセントと認められる。(<書証番号略>)

しかしながら、前掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、小売店は、新製品について、消費者からの注文はなくともこの程度ならば販売できるだろうと見越して試験的に見込注文を行い、売れ行きを見て追加注文をすることが多いと考えられることなどを考慮すれば、発売後一か月以内の販売実績がそのまま継続すると見ることは相当ではない。

そこで、前記認定のとおり、本件九二Fは精度が高く相当程度に優秀な製品であり、エアーソフトガンとしては相当程度に長期間販売できた製品であること、原告が本件九二F発売以前に製造販売していたBB弾は消費者の間でも評価が高かったこと、本件九二Fの発売以前にも他社から同種製品が先行販売されていたこと、原告は、それまではBB弾メーカーとしては定評があったものの、エアーソフトガンを製造するのは本件九二Fが初めてであり、エアーソフトガンに関してはいまだ必ずしも高い評価を得るに至っていなかったことなどの事情を総合的に考慮すると、本件九二Fの推定されるシェアは、前記発売直後のシェアから約三割を減じた約0.6パーセントと認めるのが相当である。

②  右推定シェアの継続期間

ついで、本件九二Fが右推定シェアをどの程度の期間にわたり維持できたと考えられるかについて検討する。

前掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、一般に、新規に発売されたエアーソフトガンの売上げは、発売後半年程度を経過すると減少傾向が見られるといえる。本件九二Fは、前記認定のとおり、相当程度に優秀な製品であったと認められるが、同様に優秀な製品との評価が高かった前記エムジーシーのべレッタM九二Fも発売後約半年で売上げが減少し始めた(<書証番号略>)ことに照らして、仮に本件妨害行為がなかったとしても、本件九二Fも発売当時の売上げを維持できたのは約半年間であったと見るのが相当である。(<書証番号略>)

なお、本件九二Fは、半年を経過してからも、売上げが減少しなかったが、右は、「アームズマガジン」の平成三年一〇月号及び平成四年一〇月号に本件九二Fのテストリポートが掲載され、精度が高く優秀な製品であると紹介されたことや、本件九二Fの発売当初は本件妨害行為のため流通量が少なく、消費者の中には発売直後に購入できず時間が経ってから購入した者も相当数いることなどによるものと推認され、原告主張のようにその後も同様の売上げを維持できたと認めるに足りる的確な証拠はない。(<書証番号略>)

③  したがって、原告は、本件九二Fに関して、本件妨害行為によって、平成二年一二月から平成三年五月までの半年間にわたり、前記推定シェアと販売実績の差額相当の売上げを喪失したと算定し、同年六月以降の売上実績についてはいまだ相当因果関係について証明がないものとして考慮しないことにするのが相当である。そこで、被告らの妨害行為がなかったと仮定した場合の右半年間の売上げを計算する。

平成二年一二月から平成三年三月までの市場全体の月平均売上丁数はおよそ二四万七八五五丁(平成二年度のシール発給枚数二九七万四二六〇枚÷一二か月。<書証番号略>)であり、そのうち本件九二Fが0.6パーセントのシェアを占めたとすれば売上げは毎月平均一四八七丁、四か月で五九四八丁であると推定できる。

また、平成三年四月及び同年五月の市場全体の月平均売上丁数はおよそ二三万八七二四丁(平成三年度のシール発給枚数二八六万四六九〇枚÷一二か月)であり、同様に本件九二Fの売上げは毎月一四三二丁、二か月で二八六四丁であると推定できる。

したがって、平成二年一二月から平成三年五月までの半年間の本件九二Fの売上げは、合計八八一二丁、金額にして七七一五万七八七二円と推定される(正常販売時期の数値から計算すれば一丁あたりの平均価格は八七五六円であると認められる。<書証番号略>)。

これに対して、同期間の実際の売上げは四四七三万四二六六円(<書証番号略>)であったから、その差額である三二四二万三六〇六円が売上喪失額と認めることができる。

原告の平成二年一二月から平成三年五月ころまでの粗利益率は五〇パーセントを下らないと認められるため(<書証番号略>)、原告の損害額は右売上喪失額に0.5を乗じた額であるというべきであるから、原告の本件九二Fに関する損害額は、少なくとも一六二一万一八〇三円を下らないと認めるのが相当である。

(三)  したがって、本件妨害行為と因果関係のある原告の損害額は、BB弾と本件九二Fを併せて、合計一八四六万一六三四円となる。

3  謝罪広告の是非

(一) 社会的評価の低下の有無

前記認定のとおり、被告組合の配付した本件中止要請文書のうち、平成二年一一月二六日付け文書(<書証番号略>)中には、本件九二Fが非常に危険な商品であると断定する部分が、同年一二月二〇日付け(<書証番号略>)及び同月二八日付け文書(<書証番号略>)中には、原告を自己の利益しか考えていないメーカーであると断定する部分がそれぞれ存在することが認められ、右各文書は、当該文書の一般読者であるエアーソフトガン関係の問屋及び小売店の通常の注意と読み方を基準にして判断すれば、右読者らに対し、原告が自己の利益のために危険な製品を製造しているメーカーであるとの印象を与えるものであり、原告の社会的評価を低下させる内容であるというべきである。

(二) 違法性阻却事由の有無

右につき、被告組合は、原告の製品である本件九二Fは威力が強く、また、原告の重量BB弾は鉛を含有し、エアーソフトガンの違法な改造を誘発する危険な製品であるから、右文書の内容は真実である旨主張する。

しかし、前記認定のとおり、本件九二F及び原告の製造したBB弾は、被告組合の組合員らが製造しているASGKシールが貼付された製品と対比して、特に危険な製品であるということはいまだ到底認められないから、右文書の内容が真実であるとはいえない。

したがって、前記各文書は、原告の名誉及び信用を違法に毀損するものというべきである。

(三) 名誉回復方法としての謝罪広告の是非

しかし、前記一7(二)認定のとおり、被告組合は、平成三年一二月一九日付けの本件撤回文書によって、平成二年一一月二八日付け、同年一二月二〇日付け及び同月二八日付けの取引中止要請文書を撤回したことが認められる。

もっとも、本件撤回文書中には今後もASGK制度を推進していく旨の表現が見られ、本件撤回文書の配付後の三懇話会等の席上でも同趣旨の発言が行われていることが認められるが、前記のとおり、本件撤回文書は、ASGK制度自体を撤回し廃止するという趣旨ではなく、ASGKシールを貼付していない原告製品についての取引中止の要請を撤回する趣旨のものであり、かつ、自主基準を設けその遵守を奨励すること自体は何ら違法性が認められないのであるから、右をもって本件妨害行為及び原告に対する名誉、信用毀損行為の撤回が行われていないと評価することはできない。

加えて、前記のとおり、被告らが右撤回の趣旨を小売店等に徹底するための特段の措置をとらなかったことなどから、いまだ中止要請文書の効果が残存し、原告製品を取り扱うと不都合があると誤解している小売店も少数ながら存在していることが認められるものの、それは例外的な現象というべきであって、前記のとおり被告組合において現実に本件撤回文書を配付したのみならず、原告においても本件撤回文書のコピーを約一三〇〇ないし一五〇〇店の取引先に送付しており、右各措置により原告の名誉及び信用は既に相当程度回復したと認められること、本件は名誉毀損というよりも信用毀損の事案というべきところ、原告の信用が毀損されたことと密接に関連する前記売上げの減少についての財産的損害については、損害賠償請求が認容されて補填されることになること、原告が謝罪広告の掲載を求めている三誌は、いずれも一般消費者向けの雑誌であり(<書証番号略>)、問屋及び小売店に対して配付された文書による名誉及び信用の毀損の回復方法として、右三誌に謝罪広告の掲載を命ずることは均衡を失し必ずしも合理的でないことなどを総合的に考慮すれば、結局、被告組合に謝罪広告を命ずることを求める原告の請求はいまだ理由があるとはいえないというべきである。

4  差止請求の是非

前記認定のとおり、本件撤回文書配付以降、被告らによって新たな妨害行為が行われたと認めることはできず、殊に、現在もなお本件妨害行為が継続していると認めるに足りる的確な証拠は全くないというべきである。

原告は、本件撤回文書配付後も、三懇話会の席上等で、ASGK制度の推進、アウトサイダーの製品は取り扱わないなどという趣旨の発言がされていることを根拠として、本件妨害行為がなお継続されている旨主張をするが、前記のとおり、現時点において、被告組合はASGKシールを貼付していない商品も販売できるという認識であり、また、三懇話会が使用している「アウトサイダー」という表現も、エアーソフトガンに組み込むと威力を増加する部品のことを指していると考えられる(<書証番号略>)ことに照らせば、結局のところ、本件撤回文書配付以降は、原告製品に対する前記認定に係るような違法な妨害行為はされておらず、右が継続していると認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。

したがって、原告の差止請求は、その前提を欠き、理由がない。

三  結論

以上のとおりであって、原告の請求は、被告組合及び被告前田に対して金一八四六万一六三四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(原告の請求日)以降の民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤剛 裁判官本多知成 裁判官中村心)

別紙(一)、(二)<省略>

一覧表1〜3<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例