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東京地方裁判所 平成5年(ワ)6949号 判決 1994年6月29日

原告

平山京子

右訴訟代理人弁護士

寒河江孝允

安藤憲一

被告

貝印株式会社

右代表者代表取締役

遠藤宏治

右訴訟代理人弁護士

小池恒明

右輔佐人弁理士

浅村皓

岩井秀生

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、カミソリ刃及びその包装について、別紙目録二記載の標章(以下「被告標章」という。)を付し、又はこれを付したカミソリ刃を製造、販売してはならない。

第二事案の概要

一本件は、原告が被告に対し、後記商標権に基づき、被告標章を使用することの差し止め等を求めている事案である。

二争いのない事実

1  原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

登録番号 二五二一七五〇

出願日 昭和六二年二月一八日

出願公告日 平成二年一月三一日(商公平二―八七七〇)

登録日 平成五年三月三一日

指定商品 第一三類 手動利器、手動工具、金具(ただし、平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令、平成三年通商産業省令第七〇号による改正前の商標法施行規則の各別表によるもの)

構成 別紙目録一記載のとおり

2  被告は、平成元年ころから、カミソリ刃及びその包装に被告標章を付し、また、これを付したカミソリ刃を製造、販売している。

3  被告標章を付したカミソリ刃は、本件商標権の指定商品の範囲に属する。

三争点

1  被告標章は本件商標に類似するか。

(一) 原告の主張

本件商標は、外観上、やや図案化したアルファベットの「K」及びローマ数字の「Ⅱ」を互いに接合してモノグラム化した標章であり、外観上は「K」及び「Ⅱ」の接合体として看取できる。他方、被告標章は、アルファベットの「K」とローマ数字の「Ⅱ」を横に並立させ、かろうじて接合はしていないが、全体として観察すると、外観上は「K」と「Ⅱ」を組合わせた一体的な標章として構成されている。右から明らかなように、本件商標と被告標章は、いずれもアルファベットの「K」とローマ数字の「Ⅱ」を用いて接合し、モノグラム化したものであり、両者は外観上類似する。なお原告は、称呼及び観念の類似の主張はしない。

(二) 被告の主張

原告は、本件商標の出願登録過程の異議答弁書において、本件商標は図形商標であると主張し、「直ちに構成文字を明確に判断することはできないものであり、全体として一種の図形よりなる商標と認識される。」と主張していた。その結果、異議決定はこれを受け、本件商標は、「アルファベットの一文字「K」とローマ数字の「Ⅱ」とを普通の態様で表したものとは認識し得ない程度に、特異に構成されているから、出願人の創作に係る特殊な図形というを相当とする。」とし、これにより原告は本件商標の登録を得たものである。そうしてみると、「K」と「Ⅱ」の文字を普通のブロック活字体で表示した被告商標に対し本件商標の類似の範囲が及ぶとする原告の主張は許されない。

2  被告標章は出所表示機能を有する商標として使用されているか。

(一) 原告の主張

被告標章は商標として使用されているものである。被告標章を、二枚刃カミソリであることを示す記号であるとか、被告商品の品質を表示するものにすぎないとは言えない。

(二) 被告の主張

被告標章は、普通の活字体を用いてアルファベットの一文字の「K」とローマ数字の「Ⅱ」を並記したもので二枚刃カミソリである商品の品質を表示する記号として一般に使用される態様で用いられているにすぎず、商品の出所表示の標識たりえない。

第三争点1に対する判断

一1  被告標章は、アルファベットの文字「K」とローマ数字の「Ⅱ」とを普通の活字体で表示し、これらを近接させて横に並立させたものである(別紙目録二)。

2  本件商標の構成は、別紙目録一記載のとおりであり、虚心に見れば、左辺が太く、右辺が細く、上辺、下辺がより細い縦長の長方形の左側に、長方形の左辺を一辺とし、右上から左下へ向かう細線の斜上辺と右下から左上へ向かうより細い線の斜下辺とからなる三角形が接し、その左方にやや離れて、右側が細く、左側が太い二本の縦の平行線があり、前記三角形の斜上辺の左下方への延長が、二本の縦の平行線の上下の中央部に達しているという一個の特殊な図形である。

本件商標の右構成は、予めそのようなものとして説明を受ければ、縦長長方形の左辺の左側で左右に分割して、ローマ数字の「Ⅱ」の左側にアルファベットの文字「K」が接合したものと判別できないわけではない。しかし、右のように分けた場合の「K」に該当する部分の縦線が、太線とその右側の細線からなっているのに対し、右のように分けた場合の右側部分は、左側が太く、右側が細い縦の平行線の上端同士、下端同士をより細い線で結んでなるところ、本件商標においては、「K」に該当する部分の縦線のように、一本の縦線は左が太く右が細い一組の縦平行線で表現されているとの理解を前提として右側部分を見るとアルファベットの「Ⅰ」、ローマ数字の「Ⅰ」のようにも見えるが、二本の縦の間隔が広いため違和感があり、また、右側部分をローマ数字の「Ⅱ」と読むには、左右の線の太さに大差がありこれまた違和感があり、しかも全体が連続して一体となっているために、予断なく虚心に見れば、前記のような特殊な図形と認識される。

3  被告は、平成二年三月一六日、原告の本件商標出願について、登録異議の申立てをし、本件商標は、アルファベットの「K」とローマ数字の「Ⅱ」をくっつけて構成したものであるから、極めて簡単で、かつ、ありふれた商標であって商標法三条一項五号に該当し、また、片仮名で「ケイツウ」と横書きしてなる構成の被告の登録商標(一八六三二三五号)と類似し指定商品も抵触するから、同法四条一項一一号の規定に該当するので、商標登録は拒絶されるべきである旨主張した(<書証番号略>)。

4  原告は、平成二年九月一九日付けの、商標登録異議答弁書において、「仮に本願商標が被告がのべるような、図案化されたアルファベットの「K」と数字の「Ⅱ」の組み合せであるとしても、両者はモノグラム化して表したものであるから、これを一見して、直ちに構成文字を明確に判断することはできないものであり、全体として一種の図形よりなる商標と認識されるものとみるのが自然である。したがって、本願商標を、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標とは判断できない。また本願商標からは特定の称呼、観念は生じないもので、引用商標とは称呼、外観及び観念のいずれにおいても類似しない。」旨答弁した。

5  特許庁の審査官は、平成四年九月二五日付けの登録異議の申立てについての決定において、「本願商標は、アルファベットの一文字「K」とローマ数字の「Ⅱ」とを普通の態様で表したものとは認識しえない程度に、特異に構成されているから、原告の創作に係る特殊な図形というを相当とする。してみれば、本願商標は極めて簡単で、かつ、ありふれた標章よりなるものではない。本願商標からは特定の称呼及び特定の観念を生ずるとはいい難い。本願商標と引用商標とはその外観、称呼、観念のいずれよりみても非類似の商標である。」旨判断して、登録異議申立てが理由がないものと決定し、同年九月二八日本件商標を登録する旨の査定をした(<書証番号略>)。

二原告は、本件商標と被告標章の称呼及び観念の類似を主張しないので、外観の類否について検討する。

被告標章は右一1認定のとおり「K」と「Ⅱ」の二文字を近接させて横に並立させたものであることは明らかであるのに対し、本件商標は右一2認定のとおりの一個の特殊な図形であり、両者を構成するものが文字か図形か、二個か一個かの相違点は一般の需要者にも明白であることを考慮して両者を対比すると、その外観は類似するものとは認められない。

なるほど、右一2に判断したとおり、予めそのようなものとして説明を受けて見れば、本件商標は、ローマ数字「Ⅱ」の左側にアルファベットの「K」が接合したものと判別できないわけではない。しかしながら、本件において、原告が右の点を指摘して、本件商標が、アルファベットの「K」の右にローマ数字の「Ⅱ」を並記した被告標章と外観上類似しているものと主張することは、法の一般原則としての信義誠実の原則に反し許されない。すなわち、右一3認定のとおり被告が登録異議申立ての理由とした、本件商標は「K」と「Ⅱ」をくっつけた構成であるとの主張に対し、原告は右一4認定のとおり異議答弁書において、本件商標はモノグラムであって構成文字を明確に判断することはできないもので一種の図形よりなる商標であり、「K」と「Ⅱ」の極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなるものではなく、「ケイツウ」の称呼も生じないとの趣旨の主張をしていたもので、登録異議の申立てについての決定において、原告の右主張が認められ、本件商標は、アルファベットの一文字「K」とローマ数字の「Ⅱ」とを普通の態様で表したものとは認識しえない程度に、特異に構成されているから、原告の創作に係る特殊な図形と判断されて異議申立ては理由なしとされ、本件商標を登録する旨の査定がされたことは、前記一5認定のとおりである。

右のように出願登録の過程においては、本件商標はモノグラムであって一種の図形よりなる商標であるとして、それを構成する「K」、「Ⅱ」の文字をくっつけたものであることを実質上否定する主張をして、それが認められて本件商標権を取得した原告が、本件訴訟においては掌を返すように本件商標は外観上「K」と「Ⅱ」の接合体と看取できると主張して、被告標章はこれに類似する旨主張することは信義誠実の原則に反し許されないものであることは明らかである。

したがって、本件商標が外観上アルファベットの「K」とローマ数字の「Ⅱ」の接合体と看取できるとして、被告標章の外観がこれに類似するとの原告の主張は採用できない。

よって、争点2について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官髙部眞規子 裁判官櫻林正己)

目録一

目録二

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