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東京地方裁判所 平成5年(ワ)21801号 判決 1994年9月13日

原告

中川清

ほか一名

被告

吉田孝佑

主文

一  被告は、原告中川清に対し金三七三万四四三五円、同中川順子に対し金一一九万二四二〇円、及びこれらに対する平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告中川順子に生じた分は被告の負担とし、その余の分はこれを五分し、その二を被告の、その三を原告中川清の各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告中川清(以下「原告清」という。)に対し金九四八万二一二五円、同中川順子(以下「原告順子」という。)に対し金一二八万二四二〇円、及びこれらに対する平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言

二  被告

請求の棄却及び訴訟費用の原告らの負担

第二当事者双方の主張

一  請求原因

1  事故の発生等

(一) 原告らは、左記の事故により負傷した。

事故の日時 平成四年一二月六日午後五時二五分ころ

事故の場所 東京都大田区大森南五―二、首都高速一号線上り路上

加害者 被告(加害車両を運転)

加害車両 普通乗用車(大宮五四ち七八五八)

被害者 原告清(被害車両を運転)、原告順子(被害車両に同乗)

被害車両 普通乗用車(習志野三三の四三八七。原告清所有)

事故の態様 前記首都高速道路を横浜方面から船橋方面に走行中の被害車両の後部に、加害車両が追突した。

(二) 原告らは、本件事故により次のとおりの傷害を受け、治療を受けた。

(1) 原告清

<1> 傷病名 頸椎捻挫

<2> 治療状況

通院期間 平成四年一二月七日から平成五年八月三〇日まで

医療機関 熱田胃腸科外科病院 一七日

高根台クリニツク 一七日

合計三四日

(2) 原告順子

<1> 傷病名 頸椎捻挫、腰椎捻挫

<2> 治療状況

通院期間 平成四年一二月七日から平成五年八月三〇日まで

医療機関 熱田胃腸科外科病院 三二日

高根台クリニツク 七六日

H・S・T河口 二六日

合計一三四日

2  損害賠償請求の根拠

被告は、車間距離を十分にとつて加害車両を運転すべきところ、これを怠り、居眠り状態に陥つて前方不注視のまま走行した過失により、被害車両に追突したから、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務を負う。

3  本件事故による損害額

(一) 原告清

(1) 立替治療費(熱田胃腸科外科病院分) 一万二六四〇円

(2) 交通費 一〇六〇円

ただし、事情聴取のため高速道路公団に出頭した時の電車代

(3) 慰謝料 九九万円

通院(九月)慰謝料である。

(4) 物損

<1> 修理費用(消費税込み) 四五九万八二五九円

被害車両は、モノコツクボデイ工法より製造された高級外車ベンツであるところ、本件事故のため、後部フエンダー部分全般の修理を要し、また、色調の一体性を確保するため全面塗装の必要がある。

<2> 評価損(修理費用の二割) 八九万二八六六円

<3> 代車料 一七五万円

被害車両と同車種のベンツはレンタカー市場で確保が可能であるから、ベンツのレンタルを前提とした一日当たり三万五〇〇〇円を基礎とし、また、本件では被害車両の修理態様に争いがあつたから五〇日間の修理期間を要したというべきであるから、一七五万円が本件事故と相当因果関係のある代車料である。

<4> 車両管理料 九三万七三〇〇円

(5) 弁護士費用(着手金) 三〇万円

(二) 原告順子

(1) 立替治療費

熱田胃腸科外科病院分 一万三三六〇円

H・S・T河口分(三〇〇〇円×二六回) 七万八〇〇〇円

(2) 交通費 一〇六〇円

ただし、事情聴取のため高速道路公団に出頭した時の電車代

(3) 慰謝料 九九万円

通院(九月)慰謝料である。

(4) 弁護士費用(着手金) 二〇万円

よつて、原告らは、被告に対し、右各合計金及びこれらに対する本件事故の日である平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1(一)の事実は認める。

同(二)のうち、原告順子がH・S・T河口で治療を受けたことを知らないが、その余の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3について

(一) 請求原因3(一)のうち、(1)、(2)の事実は認める。

同(3)を争う。通院慰謝料としては六一万円が相当である。

同(4)物損について

<1> 修理に要する費用を争う。本件事故による被害車両の修理にはフロア交換やリア・クオーターパネル右部の着脱は不要であり、また、修理箇所の塗装で足り全面塗装は必要でなく、結局、本件事故による被害車両の修理には一四九万五七三五円を要するに止まる。

<2> 評価損は、二〇万円が相当である。

<3> 代車料は、四五日間の修理期間をベースに、一五日分は原告主張の一日当たり三万五〇〇〇円の小計五二万五〇〇〇円、三〇日分は国産高級車レベルの四〇万円の合計九二万五〇〇〇円を超えることはない。

<4> 車両管理料は、本件事故と相当因果関係を欠く。

同(5)の事実は、知らない。

(二) 請求原因3(二)(1)のうち、H・S・T河口分は知らないが、その余の事実を認める。

同(2)、(3)の事実は認める。

同(4)の事実は、知らない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生等

請求原因1、2の事実のうち原告順子がH・S・T河口で治療を受けたことを除き、当事者間に争いがない。甲八の1ないし9、一二の1、2によれば、原告順子は、H・S・T河口で気康による治療を受け、二六回分七万八〇〇〇円を支払つたことが認められる。

二  原告清の人損

請求原因3(一)の(1)、(2)の事実は、当事者間に争いがない。

甲二、三、六によれば、原告清は、頸椎捻挫の治療のため平成四年一二月七日から平成五年二月一〇日まで三、四日に一日の割合で熱田胃腸科外科病院に通院し(合計通院日数一七日)、また、首、肩、腕の痛みの治療のため同年三月三日から同年八月三〇日まで六日に一日の割合で(ただし、四月と五月は各一日ずつ)高根台クリニツクに通院した(合計通院日数一七日)ことが認められ、右事実によれば、原告清の通院慰謝料としては、七〇万円が相当である。

そうすると、原告清の傷害による損害額は、七一万三七〇〇円となる。

三  原告清の物損

1  修理費用

甲九、乙二の1ないし3、四、五によれば、被害車両は、昭和六三年五月二日に新車登録されたメルセデスベンツであつて、本件事故に遇うまでに三万八〇〇〇キロメートル以上を走行していたこと、本件事故により右後部を六時方向から追突され、主としてトランクルーム部分とバンパー部分に損傷を来し、損傷は右リアフエンダー及びリヤエンドフロアーまで及んでいること、原告清が株式会社シユルテン中央に修理費用を見積もらせたところ、同会社の担当者は、全部塗装(七二万八三〇〇円と塗装のための部品脱着費七万九五〇〇円)、リヤエンドフロアー交換(六六万四三〇〇円)、左リヤクオーターパネル交換(一四万)、リア・アクスルキヤリアの点検のための脱着費用(八万四〇〇〇円)を要することを前提として二七一万四三三〇円(消費税抜き)と見積もつたこと、他方、被告が被害車両の修理費用の見積もりを同和火災海上保険株式会社に依頼したところ、同社の担当アジヤスターは、周辺部分のぼかし塗装を含む部分塗装(三五万円)で足りること並びにリヤエンドフロアー交換、左リヤクオーターパネル交換及びリア・アクスルキヤリアの点検のための着脱に代えてリヤエンドフロアーの板金修理(三万五〇〇〇円)で足りることを前提として、一四九万五七三五円(消費税込み)と見積もつたことが認められる。

右認定事実に基づき、修理費用を検討すると、塗装費用については、前示のとおり本件事故による損傷は後部に限定されていることから、部分塗装で足りるというべきである。原告は、被害車両がモノコツクボデイであり、経年変化によりボデイ塗装色が新車製造時と異なることから全部塗装の必要があると主張するが、周辺部分にぼかし塗装を施せば足りるから、右主張に理由がない。前示シユテルン中央の担当者も、ぼかし塗装で足りることを認めている(甲一一)。

次に、リヤエンドフロアー交換の要否であるが、なるほど本件事故による損傷はリヤエンドフロアーまで及んでいるが、板金修理以上にこれを交換すべきことを認めるに足りる証拠はない。左リヤクオーターパネルは、損傷部位ではなく、これを交換すべきことを認めるに足りる証拠はない。また、リア・アクスルキヤリアについても、乙四に添付の写真により認められる被害車両の損傷部位に照らし、点検の必要性が認められない。

そうすると、右の各点を考慮した同和火災海上保険株式会社の担当アジヤスターの見積りにより、被害車両の本件事故による修理費用を一四九万五七三五円と認めるのが相当である。

2  評価損

前認定のとおり、被害車両は、本件事故当時、新規登録後約四年半を経ており、その間三万八〇〇〇キロメートル以上を走行したこと、前認定の被害車両の損壊状況、修理費用の額及びその内訳(特に、部分塗装であること、リヤエンドフロアーを板金修理に止めたこと)を総合すれば、修理費用の約二割に相当する三〇万円をもつて評価損と認めるのが相当である。

3  代車料

被告は、四五日間の修理期間について代車が必要であること、そのうち一五日分は原告主張の一日当たり三万五〇〇〇円の小計五二万五〇〇〇円の代車料が、また、三〇日分は国産高級車レベルの四〇万円の代車料がそれぞれ相当であることを自認しているところ、甲九によれば、原告は、株式会社シユルテン中央から代車としてベンツを一日三万五〇〇〇円の割合で合計五〇日間借り受け、このために一七五万円を要したことが認められる。しかしながら、右被告自認にかかる九二万五〇〇〇円を超えて、本件事故と相当因果関係のある代車料を要する代車を必要とした事由を認めるに足りる証拠はない。

4  保管料

甲一〇、一一、弁論の全趣旨によれば、原告は、被告との間で修理の態様及びその費用につき折り合いが付かないことから、平成四年一二月三〇日から株式会社シユルテン中央に被害車両の保管を依頼していることが認められる。保管料(消費税抜き)については、甲一〇では月額七万円、甲一一では月額五万円と相違があり、いずれが真実かは不明であるが、いずれにせよ、原告清において速やかに被害車両を修理すればそのような保管料が生じないのであり、民法四一九条一項本文の趣旨に照らし、本件事故と相当因果関係にある損害ということができない。また、前示のとおり原告清主張の修理費用は過大であるから、被告がその支払いを拒んだことも正当であり、いわゆる拡大損害としても認められない。

5  右認定にかかる損害の合計金額は、二七二万〇七三五円である。

四  原告順子の人損

原告順子がH・S・T河口に通院し、七万八〇〇〇円を支払つたことは前認定のとおりであり、その余の請求原因3(二)の(1)ないし(3)の事実は、当事者間に争いがない。

そうすると、原告順子の傷害による損害額は、一〇八万二四二〇円となる。

五  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額、弁護士費用の請求額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、次の金額をもつて相当と認める。

(1)  原告清 三〇万円

(2)  原告順子 一一万円

六  結論

以上の次第であるから、原告らの本件請求は、被告に対し、原告清において金三七三万四四三五円、原告順子において一一九万二四二〇円、及びこれらに対する本件事故発生の日である平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。

なお、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文及びただし書、九三条ただし書を適用した。

(裁判官 南敏文)

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