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東京地方裁判所 平成5年(ワ)11215号 判決 1997年9月24日

反訴原告

大阪幸照

反訴被告

諸岡昭久

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金六四三万一九一七円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  反訴訴訟費用は、これを五分し、その一を反訴被告の負担とし、その余は反訴原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一反訴原告の求めた裁判

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金二九八八万二〇六三円及びこれに対する平成三年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴訴訟費用は反訴被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、交通事故により負傷したとする反訴原告(以下、「原告」という。)が、反訴被告(以下、「被告」という。)に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下、「本件事故」という。)の発生

原告は、次の交通事故により負傷した。

(一) 日時 平成三年一一月一二日 午後三時一二分ころ

(二) 場所 東京都八王子市千人町一丁目六番四号

(三) 事故態様 原告が自動二輪車(以下、「原告車両」という。)に乗って進行していたところ、反対車線から路外の駐車場に進入するため右折してきた被告運転の普通貨物自動車(以下、「被告車両」という。)に衝突された。

2  責任原因

被告は、被告車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

3  治療経過

(一) 原告は、本件事故による負傷の治療のため、次のとおり入通院をした。

(1) 興和会右田病院に平成三年一一月一二日から同月二六日まで入院

(2) 同病院に平成三年一一月二七日から平成四年六月一五日まで通院

(通院実日数九日)

(二) 原告の症状は、遅くとも平成四年六月一五日に固定し、後遺障害について自動車保険料率算定会の事前認定において自賠法施行令二条別表の後遺障害等級一二級七号に該当する旨認定されている。

4  損害のてん補

原告は、被告加入の保険から合計金九三万一一八円の支払いを受けた。

二  争点

1  損害額

(一) 原告の主張

原告は、本件事故によって次のとおりの損害を被った。

1 治療費 金六〇万九六四〇円

2  入院雑費 金一万九五〇〇円

3  休業損害 金二二一万四四二五円

原告は、本件事故前三か月間(九二日間)、有限会社高岡青果、株式会社大塚商会でアルバイトをし、それぞれ合計二七万七四三〇円、一二万六〇〇〇円の収入を得ていた(平均日収四三八五円)が、本件事故による傷害のため平成三年一一月一二日から平成五年三月三一日までの五〇五日間休業し、これにより金二二一万四四二五円(四三八五円×五〇五日)の損害を受けた。

4  逸失利益 金四四二七万七二三二円

うち請求額金二二一三万八六一六円

原告は、本件事故により右足首関節機能障害の後遺障害を負った。これは歩行時等に痛みが伴うもので、長時間の歩行を要する作業や日常正座すること等が不可能となった。これによって、予定していた父親の経営する会社への就職を断念し、給与額の低い会社に就職した。これによる収入の差額は事故後二〇年間で本件事故時の現価に換算して四四二七万七二三二円に相当する。

仮に、右金額が認められないとしても、原告は、本件事故当時専門学校生であり、少なくとも症状固定日から二〇年間労働能力の一四パーセントを喪失したから、これによる原告の逸失利益は次のとおり八三八万二九七二円となる。

四八〇万四八〇〇円×〇・一四×一二・四六二二=八三八万二九七二円

(平成三年賃金センサス高専・短大卒男子平均年収×喪失率×二〇年のライプニッツ係数)

5  傷害慰謝料 金一四三万円

6  後遺障害慰謝料 金三〇〇万円

7  弁護士費用 金一四〇万円

8  総損害額 金三〇八一万二一八一円

9  請求額 金二九八八万二〇六三円

総損害額から前記争いのない損害てん補額を差し引いた。

(二) 被告の認否及び反論

1 原告主張の損害はすべて不知又は争う。

2 休業損害について

原告の症状は平成四年三月一三日で治癒しており、原告が休業を要した期間は、最大に見積もっても、本件事故の日から平成四年三月一三日までの期間に、その後の実通院日数三日を加えたものである。

3 後遺障害について

原告の右足関節の機能障害は存せず、仮にあったとしても日常生活に支障のない極めて軽微なものであり、症状の改善も十分期待できるので原告に本件事故による後遺障害は存しない。

2 過失相殺

(一) 被告の主張

本件事故は被告車両が路外の駐車場に入るために右折しようと中央線付近で停止中、渋滞中の反対車線のワゴン車が進路を譲ってくれたため、右折を開始したところ、反対車線を直進してきた原告車両と衝突して起きたものである。原告にも速度の出しすぎ及び前方不注視のために、右折しようとしていた被告車両の発見が遅れた過失がある。また、渋滞中に前方を空けて停止し進路を譲っている車両があるのだから、右折して進入してくる車両のあることを予測することは容易であった。よって、過失相殺として原告の損害の二割を減額されるべきである。

(二) 原告の認否

争う。

第三争点に対する判断

一  原告の損害額(弁護士費用を除く。)

1  治療費 金六〇万九六四〇円

証拠(甲五、乙一ないし一二)によって認められる。

2  入院雑費 金一万九五〇〇円

原告が、本件事故により負傷し、興和会右田病院に平成三年一一月一二日から同月二六日まで一五日間入院したことは当事者間に争いがなく、その間一日当たり一三〇〇円、合計一万九五〇〇円の入院雑費を要したものと認めるのが相当である。

3  休業損害 金五五万二五一〇円

(一) 証拠(乙一四、一五、二〇、三四、原告本人)によれば、原告は本件事故当時、日本工学院八王子専門学校の学生であったが、アルバイトとして、本件事故前の三か月間、有限会社高岡青果で月平均一五日稼働して合計二七万七四三〇円、株式会社大塚商店で月平均七日間稼働して合計一二万六〇〇〇円の各給与を得ていたことが認められ、本件事故に遭わなければ平均的に一日当たり四三八五円の収入を得られたものと推認できる。

(二) 原告の入通院状況は、前記争いのない事実に記載のとおりであるところ、証拠(甲五、乙一ないし一三、原告本人)によれば、原告は本件事故により、右足打撲挫創、右足関節重度捻挫、右脛骨前下端部骨折、左第一中手骨骨折等の傷害を負い、投薬、ギプス療法等の治療を受けて症状が軽快し、退院後の平成三年一二月六日ころにギプスが除去され、平成四年一月一七日ころ松葉杖の必要がなくなったこと、その後、骨形成の観察を受けていたが、経過は良好であり、平成四年三月一三日で、骨癒合良好、右足関節可動域良好、痛みなしでほぼ治癒と診断されたこと、その後同年四月二二日、同月三〇日の二回通院し、歩行時等の痛み等を訴えているが、特段の症状の変化はなく、平成四年六月一五日に症状固定の診断を受けていること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件事故によって、休業を要した日数は、本件事故の日(平成三年一一月一二日)から症状固定日(平成四年六月一五日)までの間のうち、通算して、本件事故の日から平成四年三月一三日までの一二三日にその後の通院日三日を加えた一二六日間と認めるのが相当である。

(三) よって、原告の休業損害は、合計五五万二五一〇円(四三八五円×一二六日)と認められる。

4  逸失利益 金二九三万一七二二円

(一) 原告の後遺障害の程度について判断する。

原告の入通院状況及び治療経過については、右3(二)に示したとおりであり、原告は平成四年六月一五日に症状固定の診断を受けている。証拠(甲五、乙一三)によれば、その当時、原告は歩行時や階段下降時等の右足関節痛を訴え、右足関節等の軽度の圧痛のほか、いずれも他動で左足関節が背屈二五度、底屈四〇度(合計六五度)に対し、右足関節が背屈一五度、底屈三〇度(合計四五度)と健側である左足に比べて関節可動域が四分の三以下に制限されていることが認められる。また、鑑定嘱託及び調査嘱託の各結果によれば、原告は、左下肢についてペルテス病に罹患したことがあるが、右症状固定時の右足関節の可動域は、健常人の可動域六五度に比較しても四分の三以下に制限されていることが認められる。この右足関節可動域制限について、自動車保険料率算定会の事前認定において自賠法施行令二条別表の後遺障害等級一二級七号に該当する旨認定されていることは当事者間に争いがない。以上によれば、原告には本件事故により自賠法施行令二条別表の後遺障害等級一二級七号に該当する後遺障害があることが認められる。

これに対し、被告は、原告の右脛骨下端部骨折の程度は軽微であり、関節可動域制限の原因とはならないこと、関節可動域制限の原因となりがちな関節の拘縮がないこと、平成七年一二月の診断によれば、健常人に比較して右足関節可動域の制限は認められないこと等を根拠に後遺障害等級に該当するような後遺障害はないと主張している。

たしかに、証拠(甲五、乙一ないし一三、原告本人)によれば、原告の右脛骨下端部骨折の治療経過は良好に推移し、骨融合は良好であり、担当医師により関節の拘縮はなく明らかな不安定症もないと診断されていることが認められる。しかしながら、こうした事情は、症状固定時に原告の右足関節の可動域制限があったことを否定する事情とまではいえず、そのほか、症状固定時における右足関節可動域の診断(甲五、乙一三)について疑いを生じさせる事情は本件各証拠からは窺われない。

また、鑑定嘱託及び調査嘱託の各結果によれば、平成七年一二月二一日の浅沼医師の診察の結果では、いずれも他動で右足関節が背屈〇度、底屈五〇度(合計五〇度)であり、健常人の可動域六五度に比較すると、約七六・九パーセントにしか制限されていないことが認められるが、この診断は前記症状固定の日から三年以上後の診断である上、調査嘱託の結果によれば、測定誤差を許容すると後遺障害等級一二級七号に該当することを一概に否定できないことが認められる。したがって、この診断結果から、症状固定時の右足関節の可動域制限があったことを否定することはできない。

以上のとおり、被告の主張は採用できない。もっとも、右平成七年一二月二一日の診察の結果は、時の経過により、原告の右足の可動域制限が緩和されつつあることを示すものということができ、前記のとおり治療経過が良好であったことを合わせ考慮して、後記のとおり労働能力喪失期間を限定する事情とはなるものということができる。

(二) 次に、右認定の後遺障害による原告の逸失利益について検討する。

証拠(甲五、乙一三、二〇、原告本人)によれば、原告は昭和四八年二月二四日生まれで、本件事故当時日本工学院八王子専門学校の学生であり、本件事故後は、中立電気に就職し、電気関係の設計と管理の仕事をしているところ、仕事中や歩行時に右足首が痛む、階段の登り降りに苦痛を感じ、重いものを持てないなどの就労制限のあることが認められる。

ところで、原告は、本件事故の後遺障害がなければ、父親の経営する電気工事会社に入社して就労することができ、これによって中立電気におけるよりも高額の収入を得ることができ、将来の昇給を勘案すれば、それによる逸失利益は本件事故後二〇年間で本件事故時の現価に換算して四四二七万七二三二円に相当する旨主張する。しかし、右の将来の収入見通しは客観的な裏付けに乏しいものであり、右(一)で述べたとおり、原告の右足の可動域制限が緩和されつつあることに照らすと、かかる主張は採用できない(なお、将来の昇給の可能性は、賃金センサス全年齢平均の統計値を基礎収入とすることで配慮することとする。)。

そこで、以上に述べた事情を総合すると、原告は、本件事故による右(一)認定の後遺障害のため、症状固定時の平成四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規摸計・高専・短大卒・全年齢平均男子労働者の平均賃金年額四八三万六九〇〇円を基礎収入として、症状固定時から五年間にわたり一四パーセントに相当する労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり、二九三万一七二二円となる(一円未満切捨て)。

四八三万六九〇〇円×〇・一四×四・三二九四=二九三万一七二二円

5  傷害慰謝料 金一〇〇万円

右3(二)で認定した本件事故による傷害の部位・程度、治療経過、前記争いのない事実に記載のとおりの原告の入通院状況等を考慮すると傷害慰謝料としては一〇〇万円を相当と認める。

6  後遺障害慰謝料 金二四〇万円

右4認定の原告の後遺障害の内容と程度、その他本件審理に顕われた一切の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料は二四〇万円と認めるのが相当である。

二  過失相殺

1  本件事故の態様

本件事故が、直進進行中の原告運転の自動二輪車と、反対車線から路外の駐車場に進入するため右折してきた被告運転の普通貨物自動車との衝突事故であることは当事者間に争いがない。

さらに、証拠(甲三の1ないし8、原告本人)によれば、本件事故の態様等につき、次の事実が認められる。

(一) 本件事故のあった道路は、車道の幅員約一四・七メートル・片側二車線・制限速度時速五〇キロメートルの直線道路であった。

(二) 原告の進行方向の中央線寄りの車線は渋滞中であり、原告車両は駐車車両を避けて歩道寄りの車線の中央付近を時速約四〇ないし五〇キロメートルで進行していた。

(三) 被告車両は、原告と反対方向の中央線寄りの車線を進行してきて、原告進行車線を横切って、路外の駐車場に右折進行するため、同車線上にて停止中、原告の進行方向の中央線寄りの車線上のワゴン車が停止して、道を譲ってくれたため、被告は、原告進行車線について十分注意を払うことなく右折を開始し、対向進行してきた原告車両と衝突した。

2  右認定事実を基礎として過失相殺について判断すると、被告には、渋滞中の中央線寄りの車線上の車両が道を譲ってくれたとしても、歩道寄りの車線から進行してくる車両のあることは予想できるのにこれに十分注意を払わずに右折を開始した過失があり、これが本件事故の基本的原因であると解されるところ、原告にも中央線寄りの車線上の車両が停止したのであるから、その車両の前から対向車両等が進行してくることを予見できたから、制限速度内といえどもそうした車両に対処できるようさらに減速すべきであるのに、これを怠った過失があるから、これらを比較し、右1の事故態様を総合考慮すると、過失相殺として原告の損害額の一割を減ずるのが相当と認められる。

三  損害額の計算

被告において賠償を要すべき原告の損害額は、前記一の合計七五一万三三七二円から一割減額した六七六万二〇三五円となる。ここから当事者間に争いのない損害てん補額金九三万一一八円を差し引くと残額は五八三万一九一七円となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六〇万円とするのが相当であると認められる。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、損害賠償金六四三万一九一七円及びこれに対する本件不法行為の日である平成三年一一月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 松谷佳樹)

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