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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19268号 判決 1993年8月30日

原告

岩本洋祐

右訴訟代理人弁護士

藤田吉信

被告

株式会社ベストライフ

右代表者代表取締役

渡邉均

右訴訟代理人弁護士

齋藤敏博

主文

被告は、原告に対し、三五〇万円及びこれに対する平成四年九月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物の外壁に取り付けたアルミサイディングを撤去せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一争いのない事実

1  被告は、建築一式工事等の設計監理施工並びに内装及び外装用建築資材の販売等を目的とする会社である。

原告は、別紙物件目録記載の建物(本件建物)を所有している。

2  原告は、平成四年六月一三日(以下、同年は月日のみ記載する。)原告方において、被告の従業員で被告のためにアルミサイディングの取付工事附帯売買契約を締結する権限を有する八ツ田誠(八ツ田)の訪問を受け、同日その場で被告に対し、被告を売主兼請負人、原告を買主兼注文者として、契約代金三七三万円で本件建物の外壁にアルミサイディングを取り付けることを内容とするアルミサイディングの取付工事附帯売買契約(本件契約)の申込みをし、同日その場で原告と被告との間で、本件契約が締結され、合わせて右契約代金の支払方法について株式会社アプラスのリビングローンを利用することが合意された。

その際被告は、原告に対し、本件契約の契約書(お客様用・<書証番号略>)と右ローンの申込書(お客様用・<書証番号略>)を交付した。なお、右ローンの利用については後日原告の申し出によりこれを取り消した。

3  被告は、六月一六日アルミサイディングの取付工事(本件工事)に着手し、七月一六日ころまでに本件建物の外壁にアルミサイディングを取り付けた(被告は、七月一六日取付工事を完了したと主張している。)。

4  原告は、七月一六日被告に対し本件契約代金の内三五〇万円を振込送金の方法により支払い、同日被告との間で残金二三万円は同月二〇日限り支払うことを合意した。その際被告は、原告に対し、右合意内容を記載した契約書(<書証番号略>)を原告に交付(郵送)した。

5  原告は、被告に対し、八月三一日発信の書面で、訪問販売等に関する法律(法)六条一項に基づき本件契約を解除する旨の意思表示(本件解除の意思表示)をした。

二本件事案の基礎的な法律関係

1  証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、本件契約は、「ユニウォール21」なる名称のアルミサイディング(本件商品)の販売契約とその販売に係る本件商品の取付工事という役務の提供契約とが一体となった混合契約であり、本件商品は、法二条三項に基づき指定商品として法施行令二条別表第一の二七号に掲げる「壁用のパネルその他の建築用パネル」に該当し、本件商品の取付工事は、法二条三項に基づき指定役務として法施行令二条別表第三の八号ホに掲げる「物品の取付け又は設置」に該当するものと認められる。

2 前示一2の事実によれば、法四条ただし書、五条一項一号、法施行規則三、四条の規定に従い、被告は、原告に対し、六月一三日原告方で本件契約が締結された際、被告の名称及び住所の外次の事項を記載した書面を直ちに原告に交付すべきものである。

(一) 商品の販売価格及び役務の対価

(二) 商品の代金及び役務の対価の支払の時期・方法

(三) 法六条一項の規定による売買契約及び役務提供契約の解除に関する事項

(四) 売買契約及び役務提供契約の締結を担当した者の氏名

(五) 商品名及び商品の商標又は製造者名

(六) 商品の型式又は種類及び役務の種類

(七) 商品の数量

三原告の主張

原告は、六月一三日被告から、書面二通(<書証番号略>)を受領したが、右書面は、次の事項の記載を欠き、法四条の書面にも法五条の書面にも該当しない。

商品の販売価格及び役務の対価(合計額のみ記載)

商品の代金及び役務の対価の支払方法

担当者の氏名(氏のみ記載)

商品の商標又は製造者名

役務の種類及び商品の数量(一式とのみ記載)

四被告の主張

被告は、原告方で本件契約を締結した際、直ちに法四、五条及び法施行規則三、四条の要件を満たした書面を原告に交付した。したがって、本件解除の意思表示は、法六条一項一号に該当し、無効である。

第三判断

一六月一三日被告が原告に交付した書面(契約書)には、本件契約に係る商品及び役務について、品名(規格、仕様)欄に「ユニウォール21」、数量欄に「一式」、小計欄と合計欄にそれぞれ「三七三〇〇〇〇」、商品引渡し及び工事予定欄に「六月一六日〜六月三〇日迄」、備考(附帯事項)欄に「アイボリー」の記載しかなく(<書証番号略>)、その後被告が原告に交付(郵送)した書面も、商品引渡し及び工事予定欄が「六月一六日〜七月一九日」に、備考(附帯事項)欄が残金の支払時期に関する記載に変わっている以外、商品及び役務に関する記載は<書証番号略>の記載と同じである(<書証番号略>)。

そこで、本件解除の意思表示が法六条一項に基づく解除権の行使として有効であるか否かは、原告が本件契約に係る商品及び役務について右のような記載の書面を受領したことが同項一号にいう「第五条の書面」の受領に当たるか否かにかかるものといえる。

二法が訪問販売を行う販売業者又は役務提供事業者に前示第二の二2のような事項を記載した書面を契約の申込み又は契約締結の相手方に交付することを義務付けている趣旨は、販売する商品又は提供する役務について購入者等に正確な認識を与えることにより、取引を公正なものにし、購入者等の利益を保護しようとしているものであると考えられる(法一条)。

したがって、販売業者又は役務提供事業者が、法の趣旨に反して不公正な取引をし、かつ、契約の目的たる商品又は役務について購入者等が当該商品の製造者名(当該商品の商標が広く知られている場合は当該商標が責任ある製造者名を表章しているものといえよう。)やその販売価格又は当該役務の対価につき正確な認識を得られないような記載しかしていない書面を交付した場合には、右書面は、法六条一項一号にいう「第五条の書面」に該当せず、同項に基づく解除の期間は進行しないものと解するのが相当である。

三証拠(<書証番号略>、証人岩本紀子、同八ツ田)によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告の従業員で八ツ田の部下である島靖幸(島)は、六月一三日午後四時ころ原告方を訪問し、原告の妻紀子に対し、パナホームですが、東村山に限定で三棟モデルハウスを探しています、と挨拶し、クリアーブックに入ったモデルハウスのカラー刷り写真を示して、東村山にアルミサイディングのモデルハウスを限定で三棟探しています、材料費は当社で負担させてもらいます。詳しいことは後で営業の者が伺います、などと一〇分くらい話して帰った。

2  八ツ田は、島から右訪問の際の報告を受け、これは注文をもらえそうだと思い、同日午後七時ころ原告方を訪問した。八ツ田は、原告夫婦に、上部に太文字で「PanaHome」と印刷した名刺(<書証番号略>)を差し出し、私はパナホームの出向社員です。こちら(右名刺の八ツ田の氏名の下に印刷された被告の名称を指す。)はパナホームの代理店です、お客さんの家にアルミサイディングをはり、それをモデルハウスにすると、広告宣伝費で材料費が落とせるので、材料費がただになります、材料はナショナルのものを使用します、板厚は二mmもあるアルミ製で、このような製品はナショナルしか出していない、四〇年間の耐久性がある、などと説明した。

3  その際、原告がナショナルの製品のパンフレットを見たい旨要望したのに対し、八ツ田は、パンフレットでは製品の良さを判断できないので、現物のサンプルで判断した方がよいと述べ、黒のブリーフケースからどこにも商標等の表示のないサンプルを二片取り出し、外壁が白色で内部が黄色の方をナショナルの製品、外壁がベージュ色の方をトーヨーサッシの製品であると説明し、この二片を比較しながら、後者はスチール製品であり板厚が0.7mmしかないため錆やすく耐久性に劣るとし、ナショナルの製品がいかに優秀であるかを説明した。しかし、ナショナルの製品であると説明されたサンプルの方を原告が手に取って見ようとしたところ、八ツ田は、これはサンプルですから、と言って仕舞い込んでしまった。

4  さらに八ツ田は、右上部に太文字で「PanaHome」と印刷した見積書(<書証番号略>)に金額を書き入れ、一般価格は九七四万六〇〇〇円ですが、モデルハウス宣伝費として三八八万八〇〇〇円、地区宣伝費として二一五万八〇〇〇円を値引きします、などと説明した。

5  以上のような八ツ田の説明のため、原告夫婦は、パナホームの代理店により、ナショナルの製品であるアルミサイディングの取付工事が、今ならモデルハウスということで安価に契約できる、という認識を形成させられるに至り、その認識の下に本件契約を締結した。

そして、本件契約締結の際、八ツ田は、契約書の品名(規格、仕様)欄に「ユニウォール21」と記載したが、これがどういう製品なのかは原告夫婦に何も説明せず、原告夫婦は、当然これはナショナルの製品名を示すものだと考えていた。

6  さらに被告は、本件工事の着工前原告方の近所に「PanaHome」の名称の入った熨斗(<書証番号略>)に包んだタオルを持参して工事の挨拶に回り、本件工事の着工の際には大工に「パナホーム」の名称の入ったブルーのユニフォームを着せていた。

また、被告は、残代金の支払に関し原告との合意内容を記載した契約書(<書証番号略>)を郵送した際も、太文字で「PanaHome」と印刷した封筒(<書証番号略>)を使用していた。

7  しかし、真実は、被告は「パナホーム」や「ナショナル住宅」の代理店ではなく、「ナショナル」はアルミサイディングを製造販売していない。被告が原告に本件商品のパンフレット(<書証番号略>)を示したのは八月一一日であるが、右パンフレットにもその製造者名や販売価格は表示されていない。被告の従業員が六月一三日原告方を訪問した時から原告が本件解除の意思表示をするまでの間、被告から原告に対し、本件商品の真実の製造者名やその販売価格が開示されたことはない。

原告の調査によれば、本件商品は株式会社ユニオンがアキレス株式会社に製造させて販売している製品であり、価格は二〇mm×三六九mm×三八〇〇mmのパネルで五万八〇〇〇円である。

四以上の事実によれば、被告は、「パナホーム」の代理店であるかのように欺き、かつ、本件商品についてナショナルの製品であるかのように偽って、その旨原告を誤信させ、本件契約を締結し、契約代金の内三五〇万円を支払わせ、他方で原告に前示のような記載しかしていない書面を交付したことが明らかである。このような取引は、正に法がその制定により購入者等の損害の防止を図っている不公正な取引に該当し、かつ、被告が原告に交付した書面は、本件契約に係る商品及び役務について購入者等が当該商品の製造者名やその販売価格及び当該役務の対価につき正確な認識が得られないような記載しかしていないものというべきである。

そうすると、原告は、いまだ法六条一項一号にいう「第五条の書面」に該当する書面を受領したものとはいえないから、同項に基づく解除権を失ったものとはいえない。

五以上の次第であるから、本件契約は適法に解除されたものというべく、被告に対し、原状回復として、原告が支払った三五〇万円の返還及びこれに対する支払日の後である九月一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による利息(民法五四五条二項、商法五一四条)の支払並びに本件建物の外壁に取り付けたアルミサイディングの撤去を求める本訴請求は、理由がある。

(裁判官石川善則)

別紙物件目録

所在 東村山市青葉町一丁目二番地二三

家屋番号 二番二三

種類 居宅

構造 木造スレート葺二階建

床面積

一階 53.90平方メートル

二階 56.17平方メートル

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