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東京地方裁判所 平成4年(ワ)14971号 判決 1993年10月27日

原告 株式会社カゲン

右代表者代表取締役 金児英輔

右訴訟代理人弁護士 齋藤輝夫

志賀剛一

被告 藤商興株式会社

右代表者代表取締役 加藤秀子

佐藤恒幸

右訴訟代理人弁護士 福吉實

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載一の建物を収去して同目録記載二の土地を明け渡せ。

二  被告は、原告に対し、平成四年七月一四日から前項の明渡し済に至るまで一か月金二万円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、第二項につき仮に執行することができる。

理由

第一請求原因について

一  被告が、平成三年五月二四日以降、本件土地上に新建物を所有し、本件土地を占有していることは、当事者間に争いがなく、原告が、平成四年七月一四日、競売により本件土地を買い受けてその所有権を取得し、同年七月一六日、所有権移転登記を経由したことは、成立に争いのない≪証拠省略≫により認めることができる。

二  賃料相当損害金について

前掲≪証拠省略≫によれば、本件土地について、平成三年三月六日受付で、原因を平成二年七月三一日設定、借賃を一か月金二五万円、支払期を毎月末日、存続期間を二〇年、権利者を株式会社大商(以下「大商」という。)とする賃借権設定仮登記(乙区一〇番)がされていることが認められるが、一方、同号証によれば、本件土地については、右仮登記と時期を接して、平成三年三月一日受付で、権利者を小島屋不動産株式会社及び株式会社加藤ハウジングとする二つの抵当権設定仮登記(乙区八番、九番)がされ、また、同年四月五日受付で権利者を国本光雄とする抵当権設定仮登記(乙区一一番)が、同年五月二七日受付で権利者を高橋興業株式会社とする根抵当権設定仮登記(乙区一二番)が相次いでされていることが認められ、これらの事実と後記第三の二2(1)の事実にかんがみると、大商の設定に係る前記賃借権が本件土地の本来の用益を目的とした正常な賃借権であると認めるには、重大な疑問があるといわざるを得ず、他に本件土地の賃料相当額が、平成四年七月一四日以降、月額二五万円であることを認めるに足りる証拠はない。

ところで、被告は、前記のとおり、平成三年四月一〇日、日東エステートから、本件土地を普通建物所有の目的、賃料一か月二万円の約定で賃借した旨を主張しているので、本件土地の賃料相当額が、同日以降月額二万円であるとする限度においては、これを争わないものと認められる。

そうすると、本件土地の賃料相当額は、平成四年七月一四日以降、月額二万円であるとするのが相当である。

第二抗弁について

一  賃借権及び短期賃借権について

原告が平成二年一月一九日本件土地について抵当権設定登記を経由したこと(抗弁3の(1)の事実)は当事者間に争いがなく、被告の主張する本件土地の賃貸借が、民法六〇二条所定の期間を超える土地賃貸借であり、かつ、被告が本件土地上の新建物に所有権保存登記を経由したのが、原告の右抵当権設定登記よりも後であることは、その主張自体から明らかであるから、被告主張の賃借権が抵当権者・買受人である原告に対し、同条所定の期間内においても、対抗できないことは明らかである(最判昭和三八年九月一七日、民集一七巻八号九五五頁参照)。

したがって、被告の賃借権及び短期賃借権の抗弁は、いずれも理由がない。

二  権利の濫用について

被告主張の賃借権が原告の設定登記に係る前記抵当権に後れるものであることは前記のとおりであるから、原告において、被告が日東エステートから本件土地に賃借権の設定を受けその地上に新建物を建築したことを知りながら、右抵当権に基づく競売の申立てをした(当事者間に争いがない。)としても、それだけで原告の本訴請求が権利の濫用となるものでないことは明らかである。

他に原告の本訴請求が権利の濫用であることを認めるに足りる証拠はない。

三  法定地上権について

1  抗弁4の(1)の事実(日東エステート所有の本件土地及びその地上の旧建物についての共同抵当権の設定)、同(2)の事実のうち、旧建物が取り壊されたこと及び被告が日東エステートから本件土地に賃借権の設定を受け、その地上に新建物を建築したことは、当事者間に争いがない。

2  同一の所有者に属する土地及びその地上の建物に抵当権が設定された後、右建物が取り壊されて新建物が建築され、その後土地抵当権が実行された場合に、法定地上権が成立するか否かに関し、大判昭和一三年五月二五日(民集一七巻一一〇〇頁)は、抵当権設定者において自ら再築をすることなく自己の妻に家屋を再築させて土地の使用を許諾し、かつ、自らも妻と共にその家屋に居住してその敷地の利用を継続する場合においても、旧建物を基準とする法定地上権が成立する旨を判示している。

この判旨が、本件のように、建物の再築が土地の本来の用益を目的とするものではなく、かつ、土地抵当権者に著しい損害を及ぼすべきことを熟知しながらされたと認められる場合(後記のとおり)にも妥当するかについては、大きな疑問があるが、これらの事情は、個々具体的な事案において、建物の再築者がする法定地上権の主張が信義則に反し許されないかどうかを判断するに際し考慮すれば足りるものと解される。

そこで、本件においても、右の大判の判旨が妥当し、旧建物を基準とする法定地上権が成立するものとした上で、以下、判断を進めることとする。

第三再抗弁について

一  時機に後れた攻撃防御方法の提出について

被告が本件口頭弁論の当初から法定地上権の主張をすることができたにもかかわらず、弁論終結間際の平成五年六月三〇日付け準備書面をもって、最終弁論期日に初めて右主張をしたことは、記録上及び弁論の全趣旨から明らかであるが、右主張のため特段の証拠調べを要しない以上、右主張が提出されたため訴訟の完結を遅延させるものということはできない。

二  権利の濫用について

1  再抗弁2のうち、原告が本件土地と旧建物を共同抵当として抵当権の設定を受けていたこと、旧建物が取り壊されたこと、建物の再築者が抵当権設定者以外の第三者であること及び被告が本件土地につき賃貸借契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と、前掲≪証拠省略≫、成立に争いのない≪証拠省略≫、原本の存在及び成立に争いのない≪証拠省略≫、原告主張の写真であることに争いのない≪証拠省略≫、被告代表者佐藤恒幸本人尋問の結果(後記信用できない部分を除く。)及びこれにより真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 本件土地及びその地上に存した旧建物は、関根和枝の所有であったが、昭和六三年五月二六日には大商に、同年九月三〇日には株式会社東海不動産に、平成二年一月一九日には日東エステートに、それぞれ売買を原因として所有権移転登記がされている。本件土地は、西武新宿線「野方」駅から徒歩約五分の小売店舗が建ち並ぶ近隣商業地に属するものであり、これらの売買は、いずれも、周辺の細分化された土地を買収して周辺地域を再開発する、いわゆる地上げの目的で行われたものとみられる。

(2) 大商は、被告と本店所在地を同じくし、被告の共同代表取締役である加藤秀子の夫が代表取締役をし、不動産売買等を目的とする会社であり、一方、被告は、金融を目的とする会社であるが、両社は、いわば一つの会社の不動産部門と金融部門ともいうべき密接な関係を有している。

(3) ところで、原告は、平成二年一月一九日、日東エステートに対し、八〇〇〇万円を貸し付け、その債権の共同担保として、同日、日東エステート所有の本件土地及び旧建物について抵当権の設定を受け、同設定登記を経由した。

(4) その後、平成三年三月七日以前に、旧建物は、何者かによって取り壊された。

(5) 被告は、日東エステートに対し、数千万円の手形割引等の債権を有していたところ、平成三年四月一〇日、日東エステートとの間に、本件土地について、普通建物所有の目的、期間同日から平成一三年四月九日までの一〇年間、賃料一ヵ月二万円(五年分前払)、権利金二五〇〇万円、転貸借ができるとの約定による賃貸借契約を締結し、平成三年五月二七日、右権利金二五〇〇万円を日東エステートに支払った。被告は、右賃貸借契約締結当時、本件土地について原告の前記抵当権設定登記が経由されていたことを知っていた。

(6) 被告は、平成三年四月二六日ころ、代金六一八万円で本件土地上に新建物を建築することを請け負わせ、同年五月一五日ころ、完成された新建物の引渡を受け、同年五月二四日、新建物につき所有権保存登記を経由した。新建物は、軽量鉄骨造平家建のいわゆるプレハブ式建物である。新建物には、同年六月三日受付で、債務者日東エステートのため、債権額二〇〇〇万円の抵当権設定登記がされている。

(7) 原告は、平成三年七月一〇日、東京地方裁判所(以下「執行裁判所」という。)に対し、前記抵当権に基づき、本件土地について競売の申立てをし、執行裁判所は、同日、競売開始決定をした。

(8) 東京地方裁判所執行官は、本件土地の現況調査のため、平成三年八月六日、現地に赴いたところ、新建物(事務所)には施錠がしてあり、誰も居らず、また、被告の会社名を表示する看板等は存在しなかった。そして、同執行官は、聞き込み調査により、近隣の者から、新建物には週に二、三回、社員らしき者が出入りするのみで、営業活動はしていない旨の回答を受けた。

(9) 評価人は、本件土地の評価に当たり、新建物のために法定地上権が成立するとした場合と成立しないとした場合との二通りの評価をした上、前者を採用して、本件土地の評価額を一二二四万円と定めた。そして、新建物のために法定地上権が成立しないとした場合においても、新建物による場所的な占有を考慮する必要があるものとし、建付減価として五パーセント、場所的な占有価値として二〇パーセント、市場性減価として三〇パーセントの各控除を要するとした上、本件土地の評価額を、その更地価格(八五八九万二〇〇〇円)に対して約五三・二パーセントに当たる四五六九万円とした。

(10) これに対し、執行裁判所は、被告の前記賃借権を非正常な賃借権と認め、また、新建物のために法定地上権は成立しないとした上で、本件土地の最低売却価格を四五六九万円と定めた。

(11) 被告は、右最低売却価格に五万円を加えた四五七四万円で本件土地の買受けの申出をしたが、原告は、八千数百万円の最高価で買受けの申出をし、平成四年七月一四日、本件土地を競売により買い受けた。

以上のとおり認めることができ、被告代表者佐藤恒幸本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲採用各証拠に照らし、信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上認定の事実によれば、被告の前記賃借権は、本件土地の本来の用益を目的とするものではなく、被告は、本件土地を含む周辺地域を買収して再開発をするため、原告の前記抵当権が実行された場合に本件土地を廉価にて競落する目的で、本件土地に前記賃借権の設定を受けた上、その地上に新建物を建築したものであり、かつ、新建物の建築により、土地抵当権者である原告に対し、著しい損害を及ぼすべきことを熟知していたものと推認される。そして、本件土地は、新建物が建築されずに更地であれば、原告の申立てに係る競売において、八五八九万二〇〇〇円の評価がされ、最低売却価格も同額に定められたであろうと考えられるのに対し、新建物の存在により、最低売却価格が四五六九万円と定められたのであり、これによって、原告に対し、右差額分である約四〇二〇万円相当の被担保債権の回収を困難にさせたものというべきである。

これらの諸点その他前記認定説示の事実関係にかんがみると、本件において、被告が新建物のため法定地上権の主張をするのは、信義則に反し、許されないものというべきである。

原告の再抗弁2は理由がある。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、新建物の収去・本件土地の明渡し及び平成四年七月一四日から右明渡し済に至るまで一か月二万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する

(裁判官 橋本和夫)

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