大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(行ウ)93号 判決 1993年12月22日

主文

一  被告は、原告に対し、金二万三六九六円及び内金一万一八四八円に対する平成二年一二月一九日から、内金一万一八四八円に対するこの判決確定の日の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  原告の請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  基礎となる事実関係

次の事実は、当事者間に争いがないか、《証拠略》によつて認められる。

1  原告は、平成二年一一月一〇日当時、郵政事務官として京橋郵便局(以下、京橋局という)第一郵便課に所属していた。

2  京橋局は、総務課、会計課、郵便関係二課一室、集配関係五課、貯金課及び保険課が設置され、職員数約五八〇名をもつて構成される集配普通郵便局である。

原告が所属する第一郵便課の主たる取扱業務は、京橋局及び同局管内で引き受けた郵便物を全国の集配郵便局宛に送達するために行う差立区分作業、他局から同局管内に差し出され、同局に到着した郵便物や同局及び同局管内で引き受けた郵便局のうち、同局管内で配達すべき郵便物について集配各課へ交付するために行う到着区分作業、料金受取人払郵便物の処理に関する業務、及び私書箱宛郵便物の交付に関する事務等である。

3  平成二年一一月一〇日当時、第一郵便課の配置人員は、課長である訴外古田土晃(以下、古田土課長という)以下、副課長三名、上席課長代理三名、課長代理五名、総務主任二五名、主任二九名、一般職員八四名、合計一五〇名(郵便調整室兼務の二名を除く)であつた。

4  第一郵便課においては、職員を、A-1ないし4、B-1ないし3、C-1ないし4、D-1ないし3、E-1ないし4、F-1ないし3、G、H、K、L、M-1、2、Oの二八チームに編成(共通するアルファベット記号を冠した、例えばA-1ないし4チームは、Aグループと総称される)している。各チームは、総務主任をリーダーとして、三名ないし八名の職員で構成され、業務遂行は、主にチームを単位として行われている。各チームの担当する具体的業務は、AないしHグループは郵便物差立区分作業及び到着区分作業、Kチームは私書箱郵便物の処理作業、Lチームは料金受取人払郵便物の処理作業、Mグループは郵便用機械の操作・保守点検作業、Oチームは計画係として課内の庶務的な業務である。原告は、Hチームに所属していた。

5  郵便事業においては、利用者の利便に応えるため、日曜日等の休日はもとより昼夜を通して間断なく業務を遂行する必要があり、「国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法」第六条の規定に基づき制定された「郵便事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規定」(昭和三三年五月二四日公達四九号、以下、勤務時間規定という)、及び同規定の運用方針を定めた「郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規定の運用について」(昭和三三年五月二四日郵給第一七〇号、以下、運用方針という)に基づき、早出、日勤、半日勤、中勤、夜勤、一六時間勤務(以下、一六勤という)の六種類の交替制の勤務割体制がとられている。そして、中勤及び一六勤の勤務時間は、以下のとおりであつた。

中勤 符号・中一 午前九時五六分から午後六時三〇分

符号・中一一 午前一〇時五分から午後六時三〇分

符号・中二 午前一〇時二六分から午後七時

符号・中一二 午前一〇時三五分から午後七時

符号・中三 午前一〇時五六分から午後七時三〇分

符号・中一三 午前一一時五分から午後七時三〇分

一六勤 符号・一六 午後四時七分から翌日午前九時五分

なお、一六勤については、午後四時七分から午後一二時までの勤務を一六勤(宿)と、翌日午前〇時から午前九時五分までの勤務を一六勤(明け)と称している。

6  勤務時間規定二六条には、「所属長は、各職員について、四週間を単位として、その期間における各日の勤務の種類、始業時刻及び就業時刻(ただし、勤務の種類により明らかである場合は省略する。)ならびに週休日を定め(以下「勤務の指定」という)、これを当該期間の開始日の一週間前までに、関係職員に周知しなければならない。」と規定され、「所属長」とは、「京橋郵便局職務分任規定」(達第八号)八条二項により、第一郵便課では古田土課長を指すものとされているが、同課における勤務指定表作成の具体的作業手順は、まずAないしFグループの勤務指定について、各グループの総務主任が自分のグループ内の職員の勤務指定の素案を作成し、これが調整担当の課長代理に提出される。右課長代理は、各日における課全体の要員配置状況及び非番・週休の付与状況を点検、確認し、各勤務帯で要員が不足している場合や郵便物増加が見込まれる場合は、要員配置の調整をする。G、Hチームの勤務指定の素案は、この段階において右課長代理により作成される。こうして調整、作成された勤務指定表案は、計画係の上席課長代理及び副課長の査閲を経た後、課長の決裁を受けるというものであつた。そして、素案調整の段階で、勤務指定を訂正する必要がある場合は、変更欄に修正液で訂正するものとされていた。勤務指定に当たつては、AグループとBグループ、CグループとDグループ、EグループとFグループがそれぞれ対になつており、例えばAグループで要員確保が困難な場合には、基本的には対となつているBグループから要員を措置することとし、Bグループからの要員配置も困難な場合には、G、Hチームの中から要員を配置することとしていた。Gチームの栗城喜六及び室橋勝男、Hチームの矢敷武弘、佐々木武雄及び原告は、健康上の配慮を要しない職員であるが、G、Hチームには、健康上配慮を要する職員が多く配置されており、勤務指定表作成の際、一六勤に就くことを前提に編成されたAないしFグループとは、異なつた取扱いがなされていた。

7  平成二年一〇月二八日頃、第一郵便課において、同年一一月四日から同年一二月一日までの勤務指定表が周知されたが、原告は、同指定表上、同年一一月一二日(以下、本件当日という)について「中三」勤務と指定されていた。同日は、月曜日であるが、「即位の礼」の日に当り、休日とされていた。

8  中三勤務者は、主として、京橋局管内の各ポストから取集された郵便物及び同局窓口で引き受けた郵便物並びに局前ポスト及び局箱に差し出された郵便物を、全国の集配局宛に送達するために行う差立区分作業を行うが、差立作業の手が空いたときには、他の郵便局から京橋局に到着し、同局管内で配達される郵便物を集配課へ交付するために行う到着作業を行つていた。各ポストから郵便物を取集してくる便は、休日においては、「取集一号便」及び「取集二号便」があり、「取集一号便」は、午前一一時頃から同一一時三〇分頃にかけて、順次七台の取集自動車が京橋局に到着し、「取集二号便」は、午後五時頃から同五時三〇分頃にかけて、右同様七台の取集自動車が到着する。局前ポストに差し出された郵便物は、取集便の到着時間帯に取集する。また、休日においては、午前九時から午後〇時三〇分までの間、窓口引受郵便物もあり、これらについて差立区分作業を行う。右差立区分作業を経た郵便物は、午後七時二〇分に京橋局を出発する自動車便(「上三号便」新東京郵便局行き)に搭載することとされていた。また、休日において、京橋局に到着する便は、午前一〇時三〇分頃から午後七時三〇分頃までの間に一〇便があり、翌日の午前八時五〇分頃までに配達区分作業を終了して集配課に交付することとされていた。右到着郵便物の配達区分作業には、主として一六勤(宿)勤務者が従事していた。

9  勤務時間規定六三条には、休暇は職員の請求に対する所属長の意思表示によつて与えるものと規定され、同六八条には、「所属長は、前条の規定に該当する休暇(自由付与にかかる休暇)については、職員の請求する時季にこれを与えなければならない。ただし、所属長において、請求された時季に休暇を与えることが業務の正常な運営を妨げると認めた場合においては、第六二条の規定による期間内の他の時季に、これを与えることができる。」と規定されている。また、同規定七〇条一項によれば、「所属長は、前条の規定により、職員から休暇の請求があつた場合において、その請求する時季に休暇を与えるときは、その旨を当該職員に意思表示し、また請求の時季には休暇を与えないで、これを他の時季に与えることとしたときは、その事由の要旨を、当該職員に口頭通知しなければならない。」と規定されている。そして、年休の付与及び時季変更を行う権限は、第一郵便課では、古田土課長に属するものであるが、京橋郵便局職務分任規程一八条により、副課長は、課長不在時の場合その職務を代行するものとされている。

10  原告は、平成二年一一月一〇日、京橋局長に対し、本件当日を時季指定した年次有給休暇を請求(以下、本件年休請求という)した。これに対し、同局第一郵便課副課長吉田亮一(以下、吉田副課長という)は、業務支障を理由として時季変更権を行使(以下、本件時季変更権行使という)したが、原告は、本件当日に欠勤したため、被告は、右欠勤に相当する金一万一八四八円を同年一二月一八日支給の給与から減額した。

二  争点

本件は、原告が被告に対し、右減額された給与及び同額の付加金の支払を求めた事案であり、争点は、本件時季変更権行使の適法性の有無であるが、具体的には、主として、被告が原告の時季指定に対して代替要員の確保等の措置をとる配慮に欠けていたかどうかである。

三  当事者の主張

1  被告

本件時季変更権の行使は、原告に本件年休を付与した場合、第一郵便課の業務に支障が生ずることが予測されたために行われたものであり、以下に述べるとおり適法なものである。

(一) 日曜日に引き続く祝日における配置人員は、正常な業務運行を確保するために過去の取扱業務量等を勘案して、最低配置人員により対応しており、右最低配置人員とは、具体的には、日勤三名、中勤一三名ないし一四名(内訳は、中一勤務一名、中三勤務一二名ないし一三名)、一六勤(宿)九名、一六勤(明け)九名、合計三四名ないし三五名であつた。しかし、中三勤務に指定されていたGチームの渡辺博(以下、渡辺という)は、平成二年一〇月一六日から病気で休んでいたが、同年一一月九日に至り、「胃潰瘍のため一〇月一六日から約一か月の休養を要する」との診断書が提出され、本件当日は、病休となることが確定していたため、実質的に本件当日の中三勤務は、業務運行上、必要最低限の人員である一二名しか配置されていなかつた。したがつて、原告に本件年休を付与すれば、最低配置人員を確保することができず、円滑な業務運営に支障をきたすことは明らかな状態であつた。

ただし、職員が冠婚葬祭等社会通念上やむを得ないような特段の事情を申し出て年休を請求した場合には、これをしん酌し、日曜、祝日又は平日であるとを問わず、当該日が最低配置人員であつてもできるだけ付与するよう配慮されていたが、本件の場合、右特段の事情はなかつた。

(二) 第一郵便課では、職員から個人的事情による勤務変更の申出があつた場合、職場の実態として、勤務変更を希望する職員が代わりの職員とともに申し出る場合と、勤務変更を希望する職員が代わつてくれる職員の氏名を告げて申し出る場合の二通りがあり、その場合、職員は、変更を希望する日はもちろん、変更を要する具体的理由を併せて申し出ていた。勤務変更を認めるか否かの判断に当たつては、変更を希望する理由、変更する相手の勤務年数等を考慮し、正常な業務運営が確保できる場合は認めることとし、業務に支障が生ずるおそれがある場合は認めていなかつた。

(三) 原告は、平成二年一一月七日、古田土課長に本件当日の勤務変更を申し出たが、その際、本件当日は用事があるから勤務変更してもらいたい、また変更してくれる人がいる旨申し出るのみで、勤務変更を要する具体的理由及び変更の相手の氏名は一切明らかにしなかつた。そこで、古田土課長は、勤務変更に応じるに必要な社会通念上やむをえない事情はないものと判断した。

(四) 本件当日にかかわる四週間分の勤務指定表の案では、機械担当(M-1、2チーム)を除く中三勤務者一一名については、これまでの勤務指定のローテーションでは、Aグループから指定することとなつていたが、各チームの総務主任が作成した素案によれば、Aグループの職員一八名のうち、日曜日(一一月一一日)が一六勤(明け)に当たつているため、健康上の配慮から本件当日が週休日に指定されていた六名、及び予め連休で予定を組んでいることが分かつていた四名を除く八名が中三勤務に指定されていた。不足する残りの中三勤務者三名については、本来ならAグループと対になつているBグループの職員一四名のうちから措置すべきであるが、本件当日が週休日に指定されていた者が一一名、予め連休で予定を組んでいた者が三名であり、措置できない状況であつた。

そこで、調整担当の舘野克二課長代理は、G、Hチームの中から、健康上、特段の配慮を要しない職員であるGチームの室橋勝男、Hチームの矢敷武弘及び原告を中三勤務者に指定した。

(五) 職場の実態として、年休を付与するために週休、非番又は祝日という「休み」に指定されている職員を出勤させる取扱いをこれまでしていなかつたことから、このような職員を代替要員として確保することはできなかつた。

また、非常勤職員については、採用に当つて日曜日及び祝日は基本的に休みであることを通知しており、本件当日の前々日の一一月一〇日には、約六〇名の非常勤職員に翌一一日にも出勤してくれるよう要請した結果、ようやく一三名を確保したという経緯もあり、原告に本件当日に年休を付与するため、非常勤職員を出勤させることは到底できない状況にあつた。

なお、本件当日には、古田土課長及び第一郵便課副課長田中宏(以下、田中副課長という)が差立区分作業の応援に入つたが、本来管理者は、代替要員として予定していない。

(六) 吉田副課長は、以上のように、代替要員確保の具体的対応は行わなかつたが、勤務変更等を行い、代替勤務者を確保することは、客観的に不可能な状況にあつた。

2  原告

本件時季変更権行使は、原告が平成二年一一月一〇日にした本件当日の年休時季指定に対し、当局が、代替要員確保の検討すらすることなく、即時にこれを拒絶してされたものであることが明らかであり、以下に述べるとおり違法なものである。

(一) 本件時季変更権行使は、その前段での勤務変更の申出の拒絶と同様に、予め上より指示され決められていた、一切の指定勤務の変更を認めない勤務凍結の方針によるものであつて、勤務変更や非常勤職員の確保等、代替要員の確保等の年休を付与する方向での措置を何ら検討すらせずに即時になされたものである。結局、本件時季変更権の行使は、成田空港の空港建設反対派の集会や狭山事件の集会に出たことのある原告をして、本件当日の「即位の礼」反対の集会やデモに参加させまいとして、上局指示による「勤務凍結」の方針に基づいてなされたものであることは明らかである。

(二) 労基法の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者の指定した時季に休暇を取ることができるように状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができ、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右法の趣旨に反する。年休の利用目的は、労基法の関知しないところであつて、それをどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由である。休暇の利用目的いかんによつて、右のような配慮をすることなく時季変更権を行使するということは、利用目的を考慮して年休を与えないというに等しく、許されない。

本件においては、当局は、原告の時季指定に対して、できる限りその時季に原告が休暇を取れるように状況に応じた配慮をすべきであつたにもかかわらず、それを一切することなく、予め決められていた対応策に基づいて即時に時季変更権の行使に及んだものである。仮に当局が右のような配慮をしようと思えば、原告が同僚の承諾を得てその同僚との勤務の交替による指定勤務の変更の申出の経過や、非常勤職員が多数いることなどから代替勤務者を確保することは、優に可能な状況であつたことは明らかである。それにもかかわらず、当局は、その検討すらすることなく、原告に休暇を与えれば、原告が一一月一二日当日予定されていた「即位の礼」反対集会に参加すると考え、そうなれば職員への呼びかけ文にも示されている服務規律の厳正化の指示に反すると判断し、右指示の一環として当局より出されていた「勤務凍結」の方針に基づいて本件時季変更権を行使したものであつて、これが労基法三九条四項の趣旨に違反し、本件時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらず無効であることは明らかである。

第三  争点に対する判断

一  労働者の有する年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件を充足する限り、法律上当然に発生するものであり、労働者は、その請求により休暇の時季を指定することができるところ、同条四項但書(勤務時間規程六八条但書)にいう「事業(業務)の正常な運営を妨げる」場合に当たるかどうかは、事業の規模、年休請求権者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代替勤務者の配置の難易等諸般の事情を考慮して年休制度の趣旨に反しないよう合理的に決定すべきものである。そこで、この観点から、吉田副課長が平成二年一一月一〇日にした本件時季変更権の行使が適法であるかどうかを判断する。

1  被告は、日曜日に引き続く祝日における配置人員は、正常な業務運行を確保するために過去の取扱業務量等を勘案して、三四名ないし三五名の最低配置人員により対応していた旨主張する。

(一) 日曜日に引き続く祝日には、連休で予定を組む職員が多いことが当然予想されるところ、《証拠略》によれば、京橋局第一郵便課では、過去の同様の祝日における郵便物取扱業務量を勘案し、祝日給を支給しなければならなくなるという予算上の制約も考慮して、円滑かつ効率的な業務運営が可能となるように、必要最低配置人員をもつて対応しており、本件当日の直近の日曜日に引き続く祝日であつた平成二年九月二四日においても、日勤三名、中勤一三名(内訳は、中一勤務一名、中三勤務一二名)、一六勤(宿)九名、一六勤(明け)九名、合計三四名の最低人員配置で運営されていたことが認められ、後記のとおり、本件当日、原告が欠勤したため、古田土課長及び田中副課長が差立区分の応援作業を行うことにより、ようやくこれを処理し終えたこと(原告は、「室橋から本件当日の仕事は暇であつたと電話で聞いた」旨供述するが、採用しない)に照らしても、人員配置に関する右取扱いは、合理的かつ相当なものというべきである。

(二) そして、《証拠略》によれば、中三勤務に指定されていたGチームの渡辺は、平成二年一〇月一六日から病気で休んでいたが、同年一一月九日に至り、同人から「胃潰瘍のため一〇月一六日から約一か月の休養を要する」との診断書が提出され、本件当日は、病休となることが確定し、同年一一月一〇日頃、勤務指定表の本件当日の勤務変更欄に病休の表示がされたことから、本件当日の中三勤務は、必要最低限の人員である一二名しか実質的に配置されていなかつたことが認められ、原告に本件年休を付与すると、最低配置人員を欠くこととなることが明らかである。ただし、第一郵便課では、職員が冠婚葬祭等社会通念上やむを得ないような特段の事情を申し出て年休を請求した場合には、これをしん酌して日曜、祝日又は平日であるとを問わず、当該日が最低配置人員であつても、できるだけ付与するよう配慮していたことが認められるが、本件において、右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

2  しかし、業務運営が最低配置人員で対応していても、使用者において、年休の時季指定に対し、通常の配慮をして勤務割を変更し、原告の代替勤務者を配置することができるならば、業務の正常な運営が阻害されることはない。もつとも、使用者が代替勤務者確保のための配慮をせずに時季変更権を行使した場合であつても、当該事業場における勤務割の変更の方法及びその頻度、使用者の従前の対応、代替勤務の可能性、週休制の運用、当該時季指定の時期などに照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にないときは、右時季変更権の行使は適法なものと解すべきである(最高裁判所平成元年七月四日第三小法廷判決・民集四三巻七号七六七頁)。

本件において、代替要員確保のため具体的に他の職員への打診を行つていないことは、被告の自認するところであるが、第一郵便課において、一六勤(明け)の翌日は休みに指定する、週休に指定されている者を代替要員とすることはない、非常勤職員は祝日を休みとする、管理職が代替要員として配置されることはない、との職場の運用実態があることを認めることができるから、A、Bグループに所属する一般職員、非常勤職員及び管理職が、原告に本件年休を付与するために代替要員となることはできなかつたものということができる。しかし他方、原告は、平成二年一一月七日に、関口上席課長代理や古田土課長に、代替要員がいるので本件当日の勤務変更を認めてほしい旨の申出をしており、これを認めることができるのであれば、代替要員の配置は可能であつたというべきである。

そこで、勤務変更の取扱い及び本件時季変更権行使の経過についてみるに、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 勤務時間規定二八条一項によれば、「所属長は、欠務の発生もしくは業務ふくそうの場合または急速処理を要する業務のある場合において、人員のくり合わせ上必要あるときに該当すると認めた場合は、勤務の指定の一部または全部について、これを変更することができる。」とされ、また運用方針二八条、一九条によれば、「所属長は、勤務の指定の変更を行うに際し、本人から個人的な事情について申出があつたときは、社会通念にしたがい、できるだけ、これをしん酌して行うようにすること。」と規定されている。勤務変更を行う権限は、第一郵便課では古田土課長に属するものであるが、同課長が不在の場合などには、課長代理以上の役職者がこれを行うこともあつた。そして、従前、勤務変更を希望する職員が代わりの職員とともに、あるいは勤務変更を希望する職員が代わりの職員の氏名を告げて、勤務変更を申し出ており、その際に、勤務変更を希望する日及びその理由も告げていた。勤務変更が行われた場合は、勤務変更簿に勤務変更前後の勤務指定等及び勤務変更者を記載し、勤務変更者及び勤務変更権者がそれぞれ捺印するものとされ、また勤務指定表の変更欄に変更後の勤務指定を記載する取扱いとされていた。

(二) 平成二年一〇月二八日頃、第一郵便課において、同年一一月四日から同年一二月一日までの勤務指定表が周知された。同指定表素案の調整は、舘野課長代理が担当した。そして、同年一〇月三〇日、原告は、計画係の島田上席課長代理に対し、本件当日である同年一一月一二日の勤務指定について異議を述べた。その理由は、前回の勤務指定表作成時、G、Hチームの原告及び渡辺について、祝日である同月一〇日に出勤の勤務指定となつていたが、原告は、同上席課長代理に対し、同日は勤務に服するから、次回以降の勤務指定表作成の際、祝日は休めるよう配慮してほしいと申し出ていたことがあつたからである。右異議に対し、同上席課長代理は、「考えるとはいつたが、やつてあげるとはいつていない」として、本件当日は勤務に就くことを指示した。

(三) 同年一一月一日頃、京橋局の掲示板に同局長名で、一一月一二日の「即位の礼」及び同月二二日の「大嘗際」についての阻止行動には参加しないよう呼びかける掲示がなされた。同様の掲示は、同月五日頃、東京中央郵便局でもなされた。

(四) 同月七日、原告は、関口上席課長代理に対し、勤務を交替してくれる人が見つかつたから、本件当日の勤務変更を認めてほしい旨の申出をしたが、同上席課長代理は、「課長から、一二日は凍結しろといわれた」としてこれを拒否した。そこで原告は、同日、古田土課長に対し、「一二日の勤務、ちよつと用事があつて代わりたいんだけど。勤務変更をしていけないというのはおかしい、何か法的根拠があるのか」と問いただしたが、同課長は、「一二日は、指定表どおりやつていただく」と繰り返すのみであつた。さらに原告が、「年休もだめなのか」と問いただしたところ、同課長は、「最低限度の要員配置がなされているから、勤務指定表どおりやつて下さい」と答えた。

(五) 原告は、本件当日について、勤務指定表の変更欄に、訴外野口隆が休日から週休に、訴外畠中充が週休から休日に勤務変更した旨記載され、勤務変更簿にもその旨記載され、右野口と畠中の捺印がなされているのを発見した。そこで、原告は、同月七日、島田上席課長代理に、「一二日に勤務変更している人がいるのに、何で俺だけだめなのか」と問いただしたところ、同上席課長代理は、「変わつていない。これはだめだといつてある」との返答であつた。さらに原告は、同日、古田土課長に対しても、「一二日に勤務変更している人が二人もいる」と問いただしたが、同課長は、「同勤務変更は、認めてない」との返答であり、「一二日は、勤務指定表どおりやつてもらう」と述べた。そして、野口と畠中の右勤務変更は、直ちに取り消された。

(六) 原告は、同月八日午後一時三〇分頃、古田土課長に対し、「俺出番でいいから、野口さんの勤務変更は認めてやつてよ」と申し出たが、同課長の返答は、「一二日はどういう事情があろうとも、社会通念上ということはあつても、一応凍結されている」とのことであり、「一二日拘束される事情があつて、一三日、一四日なつてみると残念だけどな、郵政省職員が云々だなんて新聞報道されたりなんかあるんだよな」などと述べた。原告は、「結果論としていろいろそういうのが出てきたとしても、その都度勤務変更認めませんとか、年休認めませんとかやつたら、協約上もおかしいんじやない」と追及したが、同課長の返答は、「そんなことで俺のしばりをかけないでくれよ。まずいつていうのは上の判断で」とのことであつた。

(七) 原告は、同月一〇日午後八時過ぎ頃、吉田副課長に対し、「年休下さい」といいながら、年休請求書を提出したが、同副課長は、「一二日、出せない」と答え、本件時季変更権を行使した。そして、同副課長は、「あなたが課長のとこに来たのも知つているよ。この日は、勤務のさし繰りできないから。あさつて非常勤については、これからやるの。だけど、職員については年休はとれない。非常勤が五〇人来てもだめだよ。業務上の支障ということで」などと述べた。さらに原告は、「何で相対の勤務変更も許されないわけ」などと追及したが、同副課長は、「当日勤務指定ということで話を出してるわけだから、理解してくれということなの。課長がだめだといつているのを俺がいいというわけにはいかないじやないか」と述べた。その後原告は、年休請求書を課長代理席横の机上に置いて立ち去つたが、同日午後九時三〇分の勤務終了間際に、同年休請求書を持ち去り、これを課長の机上に置いて帰宅した。

(八) 同月一一日(日曜日)午前八時過ぎ、吉田副課長は、古田土課長の机上に、本件年休請求書が置かれているのを発見し、在宅中の古田土課長の電話による指示を受け、自宅にいた原告に対し、第一郵便課長名で「一一月一二日中三で勤務せよ」との電報による就労命令を発したが、原告は、本件当日、欠勤し、「即位の礼」反対集会に参加した。

(九) 古田土課長は、本件当日は本来休日であつたが、午前八時三〇分頃出勤した。そして、田中副課長とともに、差立区分の応援作業を行つた。同日、同郵便課で取り扱つた差立関係の業務量は、大口の別後納郵便物が約六万六三〇〇通、取集郵便物が約一万七七〇〇通(内訳は、取集一号便が約九〇〇〇通、取集二号便が約八七〇〇通)、合計約八万四〇〇〇通であつたが、差立区分作業の業務運行に支障はきたさなかつた。また到着関係の業務量は、約一七万七三〇〇通あつたが、配達区分作業に支障はきたさなかつた。しかし、私書箱郵便物約五万五〇〇〇通のうち、約二万三〇〇〇通が未処理のまま残つた。

3  右認定事実によれば、第一郵便課においては、勤務変更を希望する職員は、代わりの職員とともに、あるいは勤務変更を希望する職員が代わりの職員の氏名を告げて、勤務変更を申し出る方法を取るのが実態であるが、原告は、平成二年一一月七日に、関口上席課長代理や古田土課長に対して本件当日の勤務変更を認めてほしい旨の申出をした際、「代わつてくれる人を見つけた」と述べるだけで、代替職員の氏名を告げていないし、勤務変更の具体的理由も告げていない。そこで、このような場合に、原告に対し勤務変更の措置をとるための配慮をする必要があるかどうかについて検討する。

(一) この点につき、職員が個人的な理由で勤務変更を申し出た場合は、その理由が冠婚葬祭等の社会通念上勤務を交代することが相当であると認められる場合に、例外的に承認する職場実態がある旨の供述があるが、右供述は、所属長において代替要員を確保すべき義務がない場合において勤務変更を許可する際の裁量の指針を示したものと解すべきであり、所属長において通常の配慮をして勤務割を変更し、原告の代替勤務者を配置することができる場合には、時季変更権の行使をするに当たつて、年休の利用目的を考慮することは許されないのであるから、年休取得のために勤務変更を要する場合に右目的を告知することは必要でないと解される。

(二) ところで、右代替要員の氏名について、原告は、当裁判所において「右代替職員は、D-3チームの関口裕司であり、一一月七日に関口上席課長代理に勤務変更の申出をした際、右関口裕司の印鑑も預かつていた」旨供述するところ、原告が右供述において虚言を弄したとは窺えないし、右供述内容を否定する証拠もない。

(三) しかるに、原告の勤務変更申出に対する平成二年一一月七日の関口上席課長代理や古田土課長らの対応、及び同月一〇日の吉田副課長らの対応は、終始、本件当日の勤務変更は凍結されているからこれを認めることができないとして、原告の右申出を一切受け付けない頑なものであつたと認められる。運用方針二八条、一九条の規定によれば、勤務変更の許否に当たり、職員側の事情も可能な限りしん酌するよう要請しており、申出に当り、書面等厳格な方式を要求しているものでもなく、第一郵便課において、本件と直近の日曜日に引き続く祝日である平成二年九月二四日に、Eチームの鈴木が一六勤(宿)から祝休へ、Fチームの谷内が祝休から一六勤(宿)へと勤務変更が認められており、職員側の事情・申出による勤務変更が少なからず行われ、相対の勤務変更者間の合意がある限り、できるだけこれを認める方向で柔軟に対応していたことが窺われる。それ故、勤務変更を申し出る職員があくまで代替要員の氏名を告げることを拒絶するであろうと予測されるような場合は別として(本件がそのような場合であつたとは認められない)、勤務変更を申し出る方法が第一郵便課の実態と異なり代替要員の存在のみを告げるだけでその氏名を開示しないでされたからといつて、課長らにおいて右勤務変更申出者に対し代替職員の氏名を確認することは一挙手一投足で足りるのであるから、課長らにおいて右代替職員の氏名を尋ねる等した上で、その代替職員に勤務変更した場合、業務に支障をきたすことがあるかどうか検討すべきであると考えられる。にもかかわらず、吉田副課長らは、右のような頑な対応に終始したのであるから、原告は代替職員の氏名を告げる機会も与えられなかつたものというべきであつて、古田土課長らは、原告の年休の時季指定に対し、代替勤務者確保のために通常なすべき配慮を怠つたというべきである。したがつて、原告が勤務変更の申出をするに当たり代替勤務者の氏名を告げていなかつたことは、実態に沿つたものとはいえず、不備があつたというべきであるが、そうであるからといつて、その勤務変更を認めない理由とするのは相当でない。そして、関口裕司が代替要員として不適格であるとの事情は認められないから、古田土課長らが、通常なすべき配慮をしておれば、勤務割を変更し、代替要員を確保することが客観的に可能な状況にあつたというべきである。

(四) そうすると、吉田副課長のした本件時季変更権行使は、その要件を欠き違法なものというほかない。

二  以上によれば、賃金減額分金一万一八四八円及びこれに対する支払期日の翌日である平成二年一二月一九日から、右と同額の付加金一万一八四八円及びこれに対するこの判決確定の日の翌日から、各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由がある。仮執行宣言は必要がないものと認める。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤賢治 裁判官 吉田 肇 裁判官 塩田直也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例