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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)105号 判決 1991年7月10日

東京都目黒区五本木三丁目四番一〇号

原告

嘉茂陽一

東京都新宿区西新宿二丁目八番一号

被告

東京都知事

鈴木俊一

東京都新宿区西新宿六丁目二番五号

被告

学校法人 新宿学園

右代表者理事

森本家則

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税庁長官 角谷正彦

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  本件請求の趣旨及び原因は、別紙訴状記載のとおりであり、右記載及び本件記録中の各資料によれば、請求の趣旨一項の請求は、被告東京都知事及び被告学校法人新宿学園(設立当時の名称は学校法人嘉茂学園。以下、旧称当時をも含めて「被告学園」という。)との間において、亡嘉茂勝治(以下「勝治」という。)が被告学園を設立するため、私立学校法三〇条一項に基づき、寄附行為(以下「本件寄附行為」という。)について被告東京都知事に対して認可を申請したのに対し同被告が同法三一条一項に基づいてした認可(以下「本件認可処分」という。)が無効であることの確認を求めるというもの、同二項の請求は、被告国税庁長官との間において、勝治が被告学園に不動産を譲渡するについて、租税特別措置法四〇条一項後段に基づいてした承認の申請に対し、被告国税庁長官がした承認(以下「本件承認処分」という。)が無効であることの確認を求めるというものであると解される。

そこで、以下、右各訴えの適否について検討する。

二  本件認可処分の無効確認を求める訴えについて

1  処分の無効確認の訴えは当該処分をした行政庁を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法三八条一項、一一条一項)。被告学園は本件認可処分をした行政庁ではないから、被告学園との間において本件認可処分の無効確認を求める訴えは不適法である。

2  被告東京都知事との間において本件認可処分の無効確認を求める訴えについては、右訴状の記載及び本件記録中の各資料によれば、原告は、これによって、本件寄附行為を無効とし、もって、本件寄附行為により被告学園に譲渡された勝治の財産を取り戻すこと又は端的に被告学園の設立を無効とすることを目的とするものと解される。

私立学校法三四条及びその準用する民法四二条一項によれば、寄附財産は学校法人成立の時から当該学校法人の財産を組成するものとされている。他方、学校法人は、設立の登記をすることによって成立するものとされ(私立学校法三三条)、右設立の登記の申請書には寄附行為を添付しなければならないものとされている(組合等登記令一六条一項)。これらの規定によれば、寄附行為に対する所轄庁の認可は、寄附財産の所有権移転の前提要件となるものであって、右認可が無効とされれば寄附行為による財産の移転の効果もまた否定されることとなるものと解される。

そうすると、本件寄附行為によって被告学園に譲渡された勝治の財産を取り戻すという原告の目的は、端的に、右所轄庁の認可の無効であることを前提として右財産の引渡し又は所有権移転登記の抹消登記手続を求める等現在の法律関係に関する訴えを提起することによって達することができると考えられる(行政事件訴訟法三六条)。

また、学校法人は、前示のとおり、組合等登記令の規定により設立の登記をすることによって成立するものであって、いったんそのように設立された学校法人は、後に寄附行為の認可が無効とされたからといって直ちにその設立が無効になる等その存在が否定されることとなるものではないと解される。

3  以上のとおり、原告の右訴えは、その目的とするところが、現在の法律関係に関する訴えによって達せられるものであるか、又は右訴えによっては実現しえないものであるかであって、結局、原告には本件寄附行為の無効確認を求める利益がないという外はなく、被告東京都知事との間において本件認可処分の無効確認を求める訴えは不適法である。

二  本件承認処分の無効確認を求める訴えについて

処分の無効確認の訴えを提起するためには、原告が当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であることを要する(行政事件訴訟法三六条)。右の法律上の利益を有する者に当たるとされるためには、その者が当該処分の法律上の効果によって、自己の権利又は利益を侵害されることとなる者であるかもしくは侵害されるおそれのある者でなければならないと解される。

所得税法上、居住者がその有する譲渡所得の基因となる資産を法人に贈与した場合においては、その者の譲渡所得・雑所得等の計算については、当該贈与等の事由の生じたときにおける価額に相当する金額により当該資産の譲渡があったものとみなされるため(所得税法五九条一項一号)、当該資産の譲渡等に係る譲渡所得等の所得が生ずることとなるが、その例外として、民法三四条の規定により設立された法人その他の公益を目的とする事業を営む法人に対する財産の贈与等で当該贈与等が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することその他の政令で定める要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについては、所得税法五九条一項一号の適用については当該財産の贈与等がなかったものとみなされ(租税特別措置法四〇条一項後段)、右譲渡所得等の所得が生じなかったものとして扱われる。すなわち、租税特別措置法四〇条一項後段に基づく国税庁長官の承認は、専ら所定の要件を満たした財産の贈与等につき、これに係る譲渡所得等の所得が生じなかったものとして、所得税を軽減する法律上の効果を有するに過ぎないのであって、当該贈与等の私法上の効力等に何ら影響を及ぼす性質のものではない。

そして、その主張によれば、原告は勝治の子であり、被告学園の設立当時、その評議員であった者というのであって、このような地位にあるに過ぎない者が、被告国税庁長官のした本件承認処分の法律上の効果として、自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者に当たるということのできないことは、右の説示に照らして明らかであるから、原告が、被告国税庁長官との間で本件承認処分の無効確認を求める訴えはやはり不適法であるといわなければならない。

三  以上によれば、本件訴えは、いずれも不適法であってその欠缺を補正することができないものであるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二〇二条を適用していずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)

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