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東京地方裁判所 平成3年(特わ)645号 判決 1991年10月30日

本籍

茨城県石岡市国府一丁目一六四〇番地の二

住居

オーストラリア連邦ニュー・サウス・ウェールズ州ノースブリッジ ナラニクレセント四六

無職

富嶋次郎

昭和二五年七月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

検察官 立澤正人 西村逸夫 出席

弁護人 新井旦幸 石井春水 島村芳見 出席

主文

被告人を懲役一年一〇月及び罰金八〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、航空測量業界の大手国際航業株式会社の子会社であるウイング株式会社の代表取締役であったが、特定の仕手グループが国際航業株式会社の株買占めを図っていることを知り、それに協力便乗する意図で、単独であるいは国際航業株式会社の役員である石槁紀男及び濱口博光と共同して、国際航業株式会社の株式を大量に売買することにより、営利を目的として継続的に株式の売買を行っていたものであるが、それら株式売買による所得等に対する自己の所得税を免れるため、右株式売買を親族や関係する会社の従業員等の名義で行って、その株式売却益による所得を秘匿し、自己の所得については一切所得税の申告を行わないこととし、昭和六二年分の実際総所得金額が四億六一七七万五四八二円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、所得税の納期限である昭和六三年三月一五日まで、東京都世田谷区松原六丁目一三番一〇号所轄北沢税務署長に対し、所得税確定申告書を提出せず、もって不正の行為により、同六二年分の所得税額二億六六〇四万三〇〇〇円(別紙2の脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  次の者らの検察官に対する各供述調書

長谷川宏之、定塚淳一、菊地賢一、菊地眞吉、島田ふみ子、三輪勝枝、山口知恵子、中川良美、片倉久雄、三輪善夫、西川文享、川邊恒男、小谷光浩、酒井永治(謄本)、新井重春(謄本)、石槁紀男(抄本三通)、濱口博光(抄本一通、謄本三通)

一  大蔵事務官作成の次の各調査書

給与収入調査書、給与所得控除調査書、有価証券売買益調査書、有価証券取引税調査書、支払利息調査書、共同取引分配調査書、謝礼金調査書、社会保険料控除調査書、扶養控除調査書、給与所得源泉税調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

(適用法令)

罰条 所得税法二三八条一項、二項(懲役と罰金を併科)

労役場留置 刑法一八条

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑理由)

本件は、株買い占めに協力便乗して大量の株式の売買をし、その売却益に対する税金を当初から免れるため意図の下に、多額の脱税を行った事案であり、約二億六〇〇〇万円という脱税額からして個人の脱税事犯としては多額であって悪質であり、動機も、労せずに多額の利得をしようとした利己的なものであり、態様も、当初から脱税をもくろみ、発覚しないようあれこれ工作するなど、強い非難に値し、納税についての全くの不遜な態度を窺わせる犯行であって、本件のようなあさましいといえる脱税事犯が多く行われるなら、一般国民の納税意識に悪影響を及ぼすことも見逃せず、本件は厳しく責められるべき悪質な事案といわざるを得ない。

しかしながら、現在まで脱税額の九割までは納めており、今後も納税に誠意をもって努める旨誓っていること、起訴後すでに相当期間身柄拘束を受けていることなど、被告人のため酌むべき事情を考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松浦繁)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

脱税額計算書

<省略>

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