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東京地方裁判所 平成3年(特わ)532号 判決 1991年10月29日

本店所在地

東京都新宿区新宿一丁目一三番一二号

株式会社徳商

右代表者代表取締役

引地昭一

本籍

東京都渋谷区代々木二丁目一八番地

住居

同都新宿区新宿七丁目二六番五七-二〇八号

会社役員

引地昭一

昭和二三年九月一七日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について当裁判所は検察官西村逸夫、弁護人嶋田喜久雄各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社徳商を罰金二〇〇〇万円に、被告人引地昭一を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人引地昭一に対し、この裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社株式会社徳商は東京都新宿区一丁目一三番一二号(昭和六一年一〇月三日以前は同都同区新宿五丁目八番二号)に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人引地昭一は被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人引地昭一は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、収入の一部を借名の普通預金口座に入金し、かつ同会社の収支を明らかにする帳簿を作成しなかったばかりか、架空の領収書を入手して多額の経費の存在を仮装するなどしてその所得を秘匿した上、昭和六一年三月六日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億四〇八五万四七二六円(別紙修正損益計算書のとおり。)であったのにかかわらず、右法人税の納期限である同六二年二月二八日までに東京都新宿区三栄町二四番地所轄四谷税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで、もって不正の行為により同会社の右事業年度における法人税額六〇一六万三六〇〇円(別紙脱税額計算書のとおり。)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人引地昭一の当公判廷のおける供述

一  被告人引地昭一の検察官に対する各供述調書(五通)

一  成瀬孝(五通。うち四通は謄本)、三條直義(五通。謄本)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書

一  大蔵事務官作成の家賃収入調査書

一  大蔵事務官作成の立退料調査書

一  大蔵事務官作成の交渉料調査書

一  大蔵事務官作成の役員報酬調査書

一  大蔵事務官作成の給与手当調査書

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書

一  大蔵事務官作成の旅費交通費調査書

一  大蔵事務官作成の通信費調査書

一  大蔵事務官作成の交際費調査書

一  大蔵事務官作成の賃借料調査書

一  大蔵事務官作成の保険料調査書

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書

一  大蔵事務官作成の水道光熱費調査書

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書

一  大蔵事務官作成の租税公課調査書

一  大蔵事務官作成の事務用品費調査書

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書

一  大蔵事務官作成の新聞図書費調査書

一  大蔵事務官作成の地代家賃調査書

一  大蔵事務官作成の会議費調査書

一  大蔵事務官作成の減価償却費調査書

一  大蔵事務官作成の雑費調査書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書

一  大蔵事務官作成の交際費損金不算入額調査書

一  大蔵事務官作成の法人税額から控除する所得税額調査書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

一  検察事務官作成の平成三年九月四日付捜査報告書

(法令の適用)

被告人引地昭一の判示所為は法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人引地昭一を懲役一年に処し、被告人引地昭一の判示所為は被告会社徳商の業務に関してなされたものであるから被告会社徳商については同法一六四条一項、一五九条一項により罰金刑に処せられるところ、情状により同条二項を適用し、その所定の罰金刑の範囲内で被告会社徳商を罰金二〇〇〇万円に処し、被告人引地昭一に対し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予することする。

(量刑の理由)

被告人は内妻の経営するクラブを手伝うヒモのような生活に嫌気がさしていた折から、かってクラブを経営していた時代に見知った不動産会社である株式会社三條の代表取締役の三條直義から不動産取引を勧められたことに雀躍して、右三條直義から借り入れた現金二〇〇〇万円を元手に昭和六一年三月六日不動産取引を目的とする資本金五〇〇万円の被告会社を設立した。そして、被告会社は株式会社三條から依頼を受け、同社が地上げするために買い受けた土地上の共同住宅等の居住者に対する立退交渉を行うほか、中興商事株式会社、有限会社明治屋商事などから依頼された立退交渉、不動売買仲介などにより合計一億一二三〇万円の売上を得、又地上げした渋谷区笹塚二-四三-一の野村荘、同区千駄ヶ谷四丁目の藤田マンション、同区笹塚二-二〇-一二などの各居住者らから立退きまでの間の賃料六八万七七四九円を受け取り、或は株式会社三條が行っていた脱税のための架空経費及び経費の水増しを計上するための簿外資金作りに協力して被告会社名義の架空、或は水増しした仲介手数料等の名目の領収書を作成交付して雑収入となるいわゆるB勘手数料九九七〇万円を得ていた(なお、右B勘手数料はあらかじめ被告人と三條との間でその金額を決め、一旦株式会社三條から被告会社に対して架空・水増手数料等の全額を現金或は銀行振り込みによって交付し、その上で被告会社が取得すべき謝礼金を除く金額(合計一億三三五〇万円)を被告人が三條直義に手渡していた)ものである。

被告人は設立して間もない被告会社が税務申告を怠っても目立たないと考え、同社の将来のため、脱税をして資金を蓄えておこうとなどと企て、前記立退交渉料、家賃収入、B勘手数料などの所得があったのにこれを秘して昭和六一年一二月期にかかる法人税の納期限である同六二年二月二八日までに同社の法人税確定申告書を提出しなかったものであるが、税務調査に備え、いわゆる利益消しを行うため知人等に依頼して金額白地の領収書の発行を受け、適宜金額を書き入れてあたかも経費を支払ったように仮装し、簿外に回した金員を借名の普通預金口座に預け入れて所得を秘匿していた。

なお、被告人は株式会社三條の経理課長成瀬孝から同社に交付した領収証などの関係から申告を求められ、同六二年六月八日所得金額一四一七万四九七九円、法人税額を五三一万七四二四円とする確定申告書を四谷税務署長に対して提出した。

その後、被告会社は平成元年七月六日に修正申告をしたものの申告した本税六一八一万四四〇〇円のうち約一パーセント強の六六万六〇〇〇円を納付したにとどまり、その余の本税、加算税二一六六万四五〇〇円のほか延滞税を全く納付していないのである。

右のような被告人の所為は一般納税者、殊に勤労者の申告納税制度に対する信頼を揺るがせ、かつ担税力に応じて租税を負担する租税負担公平の原則に悖る所為であって犯情悪質というべきである。

しかしながら被告人は当公判廷において反省の情を披瀝していること。被告会社が所有する函館市船見町三番地一〇に所在する五階建てのタオコート函館山の二階部分九九・二八平方メートルを処分し(但し、抵当権四五〇〇万円が設定されている。)、納税に充てる旨約していること。右函館において購入した物件に要した費用のほかの利益は、本件後の不動産取引の失敗などによりすべて消失、或いは消失同然で、資金を惜しんで滞納しているものではないこと。昭和四七年三月、日本大学経済学部を卒業後、サラリーマン、バーテン、同和運動員などをしたものの、いずれもうまく行かず、或いは肌に合わずに前記のとおりの生活を送っていたもので、初めて設立した被告会社に愛着があり、今後は地道な努力をして会社を隆盛させ、税金を完納する決意を示しており、その決意に信用が措けること。従前、昭和四八年八月九日東京地方裁判所で競馬法違反により懲役六月及び罰金二〇万円(懲役刑につき二年間執行猶予)に、同四九年三月二八日同裁判所で道路交通法違反により懲役三月執行猶予三年に、同五七年三月九日東京簡易裁判所で関税法違反により罰金六万八〇〇〇円に各処されたものの他に格別の前科はないこと、前記内妻と同女の長女と真面目に生活を過ごしていることなど酌むべき事情も存する。

以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、それぞれの刑を定めたうえ、被告人に対し、特に今回に限り、その刑の執行を猶予した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤正髙)

別紙 修正損益計算書

<省略>

別紙 脱税額計算書

<省略>

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