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東京地方裁判所 平成3年(ワ)7753号 判決 1991年7月19日

原告(反訴被告)

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

久留達夫

被告(反訴原告)

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

平井直行

木村雅行

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録(1)及び(2)の各土地について東京法務局府中出張所平成元年六月一四日受付第一九五六五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  前項の各土地が被告(反訴原告)の所有であることを確認する。

三  訴訟費用は、本訴、反訴を通じて、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

事実

第一  請求

一  原告(反訴被告)

(本訴)

主文第一項と同旨

二  被告(反訴原告)

(予備的反訴)

主文第二項と同旨

第二  当事者の主張

一  本訴の請求原因

1  (原告、被告間の婚姻及び原告の家出)

原告(反訴被告)(以下「原告」という。)は、被告(反訴原告)(以下「被告」という。)と、昭和三〇年ころ事実上の婚姻をし、昭和三二年九月九日婚姻届をし、その間に、長男春夫(昭三三年八月一七日生まれ)及び長女夏子(昭和三四年一二月七日生まれ)を設けたが、原告は、昭和四二年四月三一日、突然家出をし、乙山アキと同棲し、最終的に鹿児島県に同女と落ち着き、同居し、現在に至っている。

2  (本件各土地の購入)

その間、原告と被告は、昭和三三年五月に、建物付の別紙物件目録(1)の土地(本件土地(1))を、原告は親元等から借り受けた三〇万円を、被告は結婚前から貯金していた三〇万円を、それぞれ出し合って、合計六〇万円で購入し、同所に居住し、昭和三六年三月には、右土地と地続きの同目録(2)の土地(本件土地(2))を購入し、本件土地(1)については、昭和三三年七月二五日、本件土地(2)については、昭和三六年八月一五日、いずれも原告名義に所有権移転登記手続を受けた。

3  (原告の被告に対する財産分与)

(1) そして、被告は、昭和六〇年、本件土地(1)上の建物を取り壊し、右両地に、被告と長男春夫との共有の建物を新築した。

(2) その際、被告は、本件各土地の登記名義を原告から被告に変えてもらおうと考え、その件について、弁護士丙川一男に原告との折衝を依頼し、同弁護士が原告と折衝した結果、協議離婚を求めた原告の希望を入れ、原告は、平成元年三月二四日、被告と協議離婚すると共に、本件各土地を被告に同日付けで財産分与(本件財産分与)することとし、同年六月一四日本件財産分与を原因として、被告に対し主文第一項の所有権移転登記(本件所有権移転登記)手続をした。

4  (本件財産分与に伴う課税)

その後、平成二年、原告に対し、本件財産分与に伴い、譲渡所得税として一一〇二万七二〇〇円、住民税として五〇二万五一〇〇円が課税された。

5  (動機の錯誤による本件財産分与の無効)

原告が、本件財産分与に応じるに当たって、原告は、前記弁護士丙川から「本件財産分与に伴い譲渡所得税等が原告に対して課されることがない。」旨の説明を受け、原告に譲渡所得税等が課されないことを合意の動機として表示したものであり、多額の課税がされることを知っていたならば、右意思表示はしなかったから、本件財産分与の意思表示は、要素の錯誤で無効である。

したがって、本件財産分与を原因としてした本件所有移転登記は、無効であり、その抹消登記手続を求める。

二  本訴の請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は、認める。

2  同3の事実中、(1)の事実は不知、(2)の事実は認める。

3  同4の事実は認める。

4  同5の事実は否認する。

三  予備的反訴の請求原因

1  本訴の請求原因1(原告、被告間の婚姻及び原告の家出)の事実と同じ。

2  本訴の請求原因2(本件各土地の購入)の事実と同じ。

3  (原告から被告に対する贈与)

(1) 昭和四九年三月三一日、原告と被告間の長女夏子が生死が危ぶまれる程の交通事故に遇ったが、被告側の連絡で右事故を聞きつけた原告が、同年五月一〇日長女を入院先の病院に見舞った。

(2) その折り、原告は、被告に対し、自分の妻子を置き去りにして、別の女性と生活していることを詫び、その償いとして、「建物付の本件土地(1)の二分の一の原告の持分及び本件土地(2)を被告に贈与する。」旨述べた。

4  したがって、本件各土地の所有権は、右昭和四九年五月一〇日の時点で、すべて原告から被告に移転した。

そこで、被告は、本件各土地が被告(反訴原告)の所有であることの確認を求める。

四  予備的反訴の請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は、認める。

2  同3の事実中、(1)の事実は認め、(2)の事実は否認する。

理由

一本訴の請求に対する判断

1  請求原因1(原告、被告間の婚姻及び原告の家出)及び2(本件各土地の購入)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  同3の事実(原告の被告に対する財産分与)中、(2)の事実は当事者間に争いがなく、(1)の事実に関しては、次の事実が認められる。すなわち、被告は、本件土地(1)上の建物が古くなっていたので、長男春夫が昭和六〇年結婚するのを機会に建て直し、春夫と共有名義の建物を新築した(被告本人)。

3  同4(本件財産分与に伴う課税)の事実は当事者間に争いがない。

4  そこで、請求原因5(動機の錯誤による本件財産分与の無効)について、判断する。

まず、その前提として、原告が、被告の代理人である丙川弁護士の申し入れを受けて、本件財産分与をするに至った経過について判断するに、以下の(1)から(6)までの事実が認められる。

(1)  被告が前記2の本件土地(1)上の建物を新築した昭和六〇年ころから、春夫らとの間で、本件各土地の名義を、原告から被告に変えておいてもらったほうがよいということになり、被告は、昭和六三年ころから、小金井市役所の法律相談に出かけ、担当の丙川弁護士と何回か相談の上、本件各土地の登記名義を原告から被告に変えることについて、弁護士丙川に原告との折衝を依頼するに至った(前記2の争いのない事実、被告本人)。

(2)  同弁護士は、原告が鹿児島県に住んでいることから、平成元年一月二〇日付けで、「本件各土地の所有名義を原告から被告に変えていただきたい。」旨の手紙(<書証番号略>)を原告宛に出し、併せて数日後、原告に電話をした(原告本人)。

(3)  原告は、同弁護士から電話を受けた時点で、本件各土地の所有名義を原告から被告に変更することについては、承諾する旨の意向を伝えたが、本件各土地の所有名義を原告から被告に変更すれば、原告は、確定的に被告の下に戻れなくなるので、「被告と協議離婚をしたい。」旨の希望を同弁護士に申し入れた(<書証番号略>、原告、被告各本人)。

(4)  同弁護士は、原告との(3)のやりとりの経過、内容を被告に報告し、その結果被告も、原告との協議離婚に応じることとし、丙川弁護士にそのために必要な手続を任せることとした(被告本人)。

(5)  そこで、丙川弁護士は、原告に対し、平成元年二月二三日付けの手紙(<書証番号略>)に離婚届用紙(<書証番号略>は、その控え)を同封し、その離婚届用紙と共に、前記平成元年一月二〇日付けの手紙(<書証番号略>)に同封した本件各土地の所有権移転登記に必要な書類を、同弁護士に返送するよう依頼した(<書証番号略>、原告本人)。

(6)  原告は、右離婚届用紙控え(<書証番号略>)及び所有権移転登記に必要な書類の所定の欄に署名、押印をし、同弁護士に対し、返送した(原告本人)。

そこで、原告は、「被告へ本件各不動産の所有権を移転(「本件財産分与」の意味)するについて、丙川弁護士に電話で税金問題について質問し、同弁護士から税金が原告に課されることは、ない旨の回答を得たので、本件財産分与を承諾した。」旨の供述をしているので、右供述の信用性について判断するに、以下の(1)から(6)の各事実が認められる。

(1)  本件財産分与は、前記のとおり、原告は、被告の申入れに対し、比較的短期間に円滑に承諾をした。

(2)  原告は、昭和四二年に被告の下から無断で家出をして昭和四八年まで、名古屋でタクシーの運転手をし、同年鹿児島県に移転し、家出以来同棲している乙山アキ経営の飲食店の手伝いをして、生活をしている状況で、さして収入があるとも思われない(原告本人)。

(3)  原告は、平成二年度の納税申告をするに当たって、本件財産分与に伴う譲渡所得税等の申告をしていない(<書証番号略>、原告本人)。

(4)  原告は、平成二年三月一〇日ころ、所轄の鹿児島県伊集院税務署の担当者葦刈から呼出しを受けて、本件財産分与に関して、税金が課される旨を知らされた(原告本人)。

(5)  原告は、右葦刈から本件財産分与に関して、税金が課される旨を知らされて直ちに、丙川弁護士に対して、「本件財産分与に伴い税金が課されてきた。」、「もし、原告に課税されるのなら、本件各土地の所有権を原告に戻してもらいたい。」旨の抗議を電話でし、同弁護士から鹿児島県伊集院税務署の担当者葦刈に数回電話がなされ、本件財産分与に関する税金について照会がなされており、原告は、葦刈から「丙川弁護士は、本件財産分与に伴い、原告に税金が課される旨を知らなかった様子である。」旨を聞かされている(原告本人)。

(6)  丙川弁護士は、その後、原告から「本件各土地の所有権を原告に戻してもらいたい。」旨の申入れを被告に伝えたが、被告は、この申入れを拒否したため、最終的に同弁護士は、原告に「被告がいうことを聞かないので、被告と二人で話し合ってほしい。」旨を原告に電話で伝えた(原告、被告各本人)。

以上(1)から(6)までの各事実に照らすと、原告の前記供述は、信用できる。すなわち、原告が、本件財産分与に応じるに当たり、被告の代理人である弁護士丙川一男が原告に、「本件財産分与に伴い譲渡所得税等が原告に課されることがない。」旨の説明があり、原告に譲渡所得税等が課されないことを合意の動機として表示したことが認められる。

そうだとすれば、原告としては、本件財産分与に伴い譲渡所得税等が原告に課されることがないと理解していたところ、前記3のとおり課税されることとなり、課税の有無につき誤解していた(錯誤があった)というべきところ、本件財産分与に伴う課税額が、前記3のとおり、譲渡所得税として一一〇二万七二〇〇円、住民税として五〇二万五一〇〇円という原告にとり相当高額にのぼるから、原告とすれば、前記の誤解(錯誤)がなければ、本件財産分与の意思表示をしなかったものと認められる。

以上の次第で、本件財産分与の意思表示は、要素の錯誤があり、無効であるので、本件各土地の所有権移転の抹消登記を求める原告の本訴請求は、理由がある。

二予備的反訴の請求に対する判断

1  請求原因1(原告、被告間の婚姻及び原告の家出)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2(本件各土地の購入)の事実は、当事者間に争いがない。

3  同3(原告の被告に対する贈与)の事実中、(1)の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、同3の(2)の事実について検討するに、前記1の原告の家出の事実及び被告本人の供述から、原告が、昭和四二年四月、妻である被告と小学生の子供二人を残して、突然家出をし、他の女性と同棲し、昭和四八年二月まで毎月三万円余りを被告に送金したものの、それ以後送金も止め、被告らを遺棄して、被告に対し、妻としての苦しみ及び子供の養育等長年にわたり、苦労をかけてきたこと、加えて、交通事故により生死をさまよう長女の容体を目の当たりにして、被告に長年被告に苦労をかけてきた原告の非を詫び、その償いとして、建物付の本件土地(1)の二分の一の原告の持分及び本件土地(2)を被告に贈与した事実が、認められる。

したがって、被告は、昭和三三年五月に建物付の本件土地(1)を購入するに当たって、購入代金を、前記2のとおり、半額の三〇万円を拠出しており、右時点で本件土地(1)について二分の一の持分を取得していることになる。また、右3の事実から、被告は、建物付の本件土地(1)の二分の一の原告の持分及び本件土地(2)について、原告から贈与を受けた昭和四九年五月一〇日時点で、本件各土地の所有権は、すべて原告から被告に移転したことになる。

以上の次第で、本件各土地が被告の所有であることの確認を求める、被告の予備的反訴も、理由がある。

三結論

以上の一及び二のとおり、原告の本訴の請求及び被告の予備的反訴の請求は、いずれも理由があるので、これらをいずれも認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官宮﨑公男)

別紙物件目録<省略>

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