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東京地方裁判所 平成3年(ワ)13743号 判決 1993年3月05日

原告

小塩良次

佐野眞

右両名訴訟代理人弁護士

板澤幸雄

高橋郁雄

橋本正勝

徳田幹雄

被告

鈴木清一

主文

一  被告は、原告小塩良次に対し、

1  別紙物件目録記載二の建物の一階及び二階に設置された窓のうち、別紙図面記載の(1)及び(7)の各窓に接着してその窓全面に高さ1.2メートル、幅1.8メートルの

2  同図面の二階北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの

アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠塀を設置せよ。

二  原告小塩良次のその余の請求及び原告佐野眞の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告小塩良次と被告との間に生じたものはこれを二分し、その一を原告小塩良次の負担その余を被告の負担とし、原告佐野眞と被告との間に生じたものは全部同原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、別紙物件目録記載二の建物の一階、二階及び三階に設置された窓及びベランダのうち、

(一) 別紙図面記載の(1)(6)(7)(12)(15)の各窓に高さ1.2メートル、幅1.8メートルの、

(二) 同図面記載の(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)(14)の各窓に高さ0.7メートル、幅0.4メートルの、

(三) 二階及び三階の北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの

アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠塀を設置せよ。

2  被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する平成二年一二月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  目隠設置請求

(一) 民法二三五条に基づく目隠設置請求

(1) 原告小塩良次(以下「原告小塩」という。)は、東京都文京区千石二丁目四〇番三〇所在の宅地(以下「原告小塩土地」という。)上に建物(以下「原告小塩建物」という。)を所有して居住しており、原告佐野は、原告小塩建物に隣接して原告小塩土地上に建物(以下「原告佐野建物」という。)を所有し、居住している。

(2) 被告は、平成二年一二月二日、原告小塩土地に隣接して、別紙物件目録記載一及び三の宅地(以下「被告土地」という。)上に同目録記載二のアパート(以下「被告建物」という。)を建築完成させ、これを所有している。

(3) 被告建物の一階から三階部分には、原告小塩土地との境界線から一メートル未満の位置に、窓(別紙図面記載の(1)ないし(16)の各窓。以下「本件窓」という。)及びベランダ(別紙図面記載の二階及び三階部分のベランダ。以下「本件ベランダ」という。)がそれぞれ設置されている。

(4) 別紙図面記載の(16)の窓を除く本件窓及び本件ベランダは、それぞれ原告小塩及び原告佐野の各宅地内を観望すべき窓及び縁側に該当し、被告は、民法二三五条により目隠を設置すべき義務を負っている。

(二) 合意に基づく目隠し設置請求

被告は、平成二年七月二日、被告建物建築に関して原告らと話し合った際、原告らに対し、本件窓のうち別紙図面記載の(1)(6)(7)及び(16)の各窓及び本件ベランダに目隠を設置することを約し(以下「本件合意」という。)、平成三年四月二〇日ころ、別紙図面記載の(16)の窓については目隠を設置した。

2  プライバシー侵害に基づく損害賠償請求

(一) 本件窓及び本件ベランダから常に原告らの居宅が観望されることによって原告らのプライバシーが侵害されており、それによる精神的苦痛は、原告らにおいて受忍すべき程度を超えている。

(二) 右プライバシー侵害により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには、それぞれ金五〇万円が相当である。

3  よって、原告らは、被告に対し、民法二三五条に基づき、本件窓のうち別紙図面記載の(1)ないし(15)の各窓及び本件ベランダについて、又は、本件合意に基づき、同図面記載の(1)(6)及び(7)の各窓及び本件ベランダについて、このうち同図面記載の(1)(6)(7)(12)(15)の各窓には高さ1.2メートル、幅1.8メートルの、(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)(14)の各窓には高さ0.7メートル、幅0.4メートルの、二階及び三階の北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルの、アルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠を設置することを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求として、それぞれ金五〇万円及びこれに対する本件不法行為成立の日である平成二年一二月二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)(民法二三五条に基づく目隠設置請求)(1)ないし(3)の各事実は、いずれも認める。(4)は否認ないし争う。一、二階の窓の硝子は曇り硝子であり、通常は締め切ったままになっている上、別紙図面記載の(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)及び(14)の各窓は押し開き式の小窓であって、容易には原告らの宅地を眺望することはできず、いずれも「他人の宅地を観望すべき窓」にはあたらない。

(二)  同1(二)(本件合意に基づく目隠設置請求)の事実のうち、被告が同図面記載の(16)の窓について目隠を設置したことは認め、その余は否認する。右窓については、入居者の希望により被告が自主的に目隠を設置したに過ぎず、原告らとの間で目隠設置について合意したことはない。

2  同2(プライバシー侵害)(一)及び(二)はいずれも否認ないし争う。

3  同3は争う。

三  抗弁

1  異なる慣習の存在(請求原因1(一)に対し)

被告建物が所在するような都市部においては、民法二三五条一項の規定と異なり、目隠を設置しない慣習が存在するものというべきである。

2  建築基準法六五条による民法二三五条の規定の排除(請求原因1(一)に対し)

被告建物は、建築基準法六五条に従って建築されたものであり、同条は民法二三四条及び二三五条の特則であるから、境界線との間に間隔を開ける必要もなく、また、目隠設置の義務もないものと解すべきである。

3  本件合意の撤回(請求原因1(二)に対し)

仮に本件合意が成立しているとしても、その後、被告は、原告らとの間で、従前の交渉は一切白紙に戻す旨合意したのであるから、本件合意はそれによって撤回されたものである。

4  権利濫用(請求原因1(一)及び(二)に対し)

本件窓及び本件ベランダに目隠を設置することによって被告が被る不利益は、本件窓及び本件ベランダが境界線から一メートル未満の位置にあることによって原告らが被る不利益に比して甚大であり、また、原告小塩建物及び原告佐野建物も、境界線から一メートル未満の位置に窓を有していることからしても、原告らの主張は、権利の濫用である。それに加えて、被告は、被告建物を建築する以前から被告土地上に二階建木造建物(以下「被告旧建物」という。)を所有し、居住していたところ、原告小塩は、昭和五八年二月ころに原告小塩建物を建築し、その際、被告土地との境界線から一メートル未満の位置に窓を設置しながら、被告に対して、これは明かり取りのための窓である旨述べた。それにもかかわらず、新築後の被告建物の窓及びベランダについて目隠設置を要求するのは権利の濫用であって許されない。仮に本件合意が成立しているとしても、その後、被告は、原告らとの間で、従前の交渉は一切白紙に戻す旨合意したのであるから、本件合意はそれによって撤回されたものであり、本件合意によって原告らの目隠し設置請求が権利濫用にあたらないということはできない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(異なる慣習の存在)は否認する。

2  同2(建築基準法六五条による民法二三五条の規定の排除)は、否認ないし争う。建築基準法六五条は、民法二三四条の規定の特則であるに過ぎず、同条によって民法二三五条規定の目隠設置義務が排除されるものではない。

3  同3(本件合意の撤回)は否認する。

4  同4(権利濫用)のうち、被告が被告旧建物を所有して居住していたこと、原告小塩が昭和五八年二月ころ原告小塩建物を建築したこと及び原告ら所有建物の窓が境界線から一メートル未満の位置に設置されていることの各事実は、明らかに争わない。その余は否認ないし争う。原告小塩建物新築に際し、被告から目隠設置を要求されたことはなく、また、原告らは、被告との間で、本件窓のうち別紙図面記載の(1)(6)(7)及び(16)の各窓及び本件ベランダに目隠を設置する旨の本件合意を成立させており、右約束が撤回されたことはないのであるから、原告らの被告に対する目隠設置請求は権利濫用にあたらない。

第三  証拠<省略>

理由

一目隠設置請求について

1  請求原因について

(一)  請求原因1(一)(民法二三五条に基づく目隠設置請求)(1)ないし(3)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

本件窓及び本件ベランダが原告小塩及び原告佐野の各宅地を観望すべき窓に該当するか否かについて判断する。

(1) 当事者間に争いがない事実に、<書証番号略>、原告小塩及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

① 被告建物は、原告小塩土地との境界線から約三五センチメートル離れた位置に存在する三階建てのアパート兼居宅(一、二階部分が賃貸用アパートであり、三階部分に被告が家族とともに居住している。)であって、本件窓は、いずれも、別紙図面記載のとおり、被告建物の一階から三階にわたって、原告小塩建物及び同佐野建物と面する壁一面に設置されている。

② 本件窓のうち、別紙図面記載の(2)ないし(5)、(8)ないし(11)、(13)及び(14)の各窓(以下「本件小窓」という。)は、いずれも、縦約五〇センチメートル、横約四〇センチメートルの押開き式の小窓であり、そのうち(2)、(5)、(8)及び(11)の各窓は各室の便所に設置された換気用窓であって、便器越しに身を乗り出すような姿勢でわざわざ覗き込まない限り、原告ら宅地内を見ることはできず、他の(3)、(4)、(9)及び(10)の各窓は各室の浴室に設置された換気用の窓であって、同様に、浴槽内からわざわざ覗き込まないかぎり原告ら宅地内を見ることはできない。

③ 本件窓のうち、別紙図面記載の(1)、(6)、(7)、(12)、(15)及び(16)の各窓(以下「本件引戸窓」という。)は、縦約一〇〇センチメートル、横約九〇センチメートルの大きさの曇りガラス二枚の引戸窓であって、そのうち一階の(1)及び(6)の窓並びに二階の(7)及び(16)の窓は、いずれも、アパート四所帯の各ダイニングキッチンの窓となっており、三階の(12)及び(15)の窓は、被告の応接室及び居室の窓となっている。原告小塩建物及び同佐野建物はいずれも二階建てであるため、三階に設置された(12)の窓からは、右各建物の屋根及び庇並びに下方を覗いた際に原告小塩建物の裏側及び原告佐野建物の軒下が見えるにすぎず、(15)の窓からは、同様に下方を覗いた際に原告佐野建物の裏側が見えるにすぎない。

本件引戸窓のうち、(6)の窓は原告佐野建物の壁に面しており、(1)の窓は原告小塩建物の脱衣所の窓に、(7)の窓は原告小塩建物の居室の引戸窓に、(16)の窓はその南側半分が原告佐野建物の居室の窓にそれぞれ面しているが、(16)の窓には既に目隠が設置されている。

④ 本件ベランダは、本件窓が設置されている北東側の壁と直角に、南東側の道路に面して被告建物の二階及び三階部分に設置されており、二階のベランダの高さは、ほぼ原告小塩建物の二階居室の畳の上の高さと等しく、ベランダ伝いに原告小塩建物を見ると、原告小塩建物の壁及び戸袋の一部が見えるほか、右戸袋の隣に設置された原告小塩建物の引戸窓を開け放した場合には、原告小塩建物の居室の一部がわずかにその視界に入る。三階のベランダからは、原告小塩建物の屋根が一部見えるのみであり、ベランダの原告小塩建物側まで行って覗いた場合に原告小塩建物の裏庭の一部をみることができるに過ぎない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  右事実によれば、本件小窓及び三階に設置されたベランダについては、通常の状態で原告小塩宅地内を眺望しうるものではないから、民法二三五条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当しないといわざるを得ない。さらに、二階ベランダと本件引戸窓のうち(6)、(12)及び(15)を除く窓については、原告佐野宅地内を眺望しうるものではなく、また、(6)及び(15)の本件引戸については原告小塩宅地内を眺望しうるものではないから、右各原告との関係においては、いずれも同様に、民法二三五条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当しないといわざるを得ない。しかしながら、本件引戸窓のうち(1)、(7)及び(12)の各窓及び二階ベランダからは原告小塩宅地内の一部を、本件引戸窓(6)、(12)及び(15)からは原告佐野宅地内の一部をそれぞれ眺望しうるものであるから、民法二三五条にいう「他人の宅地を観望すべき窓」に該当する。もっとも、本件引戸窓は、いずれも曇り硝子がはめこまれていて締め切った状態では硝子を通して外部を見ることができないものの、右各窓はいわゆるはめ殺し窓ではなく、換気のため等の理由で開けることを日常的に予定されているものと考えられるから、本件引戸窓が曇りガラスであるというだけでは右の判断を左右するものではない。

(二)  請求原因1(二)(本件合意に基づく目隠設置請求について)

(1) <書証番号略>、原告小塩及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告と原告らを含む近隣の住民らとの被告建物の建築をめぐる交渉の中で(その経緯は後記のとおり。)、被告は、平成二年七月二日、建築会社の担当者から、原告小塩の要求のうち、被告建物一階のダイニングキッチンの東側窓(本件引戸窓(7))、同二階のダイニングキッチン東側窓(本件引戸窓(1))及び同二階ベランダについて目隠しの設置に応じる旨記載した回答書を受け取り、それを原告小塩に渡すよう依頼して原告佐野に渡した事実が認められる。

被告は、その本人尋問において、目隠設置については建設会社が独断で回答したものであって被告はこれに同意していない旨供述するけれども、他方、同尋問の結果によれば、原告会社において記載した前記の回答書の内容を認識した上で、それを自ら原告佐野に渡していることが認められるのであって、かかる事実に照らせば、前記回答書の記載は被告の意思に基づくものと推認するほかはなく、被告の右供述は採用することができない。

本件引戸窓(6)及び(16)の目隠設置については、その合意を認めるに足りる証拠はない。

(2) したがって、原告小塩については、民法二三五条とともに、本件合意に基づき、本件引戸窓(1)、(7)及び二階ベランダについて目隠設置請求権の存在が認められる。

2  抗弁について

(一)  異なる慣習の存在について

被告は、被告建物が所在するような都市部においては民法二三五条一項と異なる慣習が存在する旨主張し、被告本人尋問の結果により被告建物の近隣を撮影したものと認められる<書証番号略>によれば、隣地との境界線からの距離が一メートル未満であって目隠を設置していない建物があることが認められるけれども、右事実のみでは、被告建物が所在する地域に右条項と異なる慣習が存在するとまでいうことはできず、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  建築基準法六五条と民法二三五条の関係について

建築基準法六五条は、「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」と規定しており、これは、隣地との境界線から五〇センチメートル以上離して建物を建築すべきことを定めた民法二三四条一項の特則と解されるけれども、同条は、単に隣地境界線に接して建物を建築することを認めているに過ぎず、その場合の目隠設置義務の存否・要件等については何も触れるところがないのであるから、目隠設置義務に関しては民法二三五条一項の規定がそのまま適用になるものと解するのが相当であって、建築基準法が民法二三五条一項の特則である旨の被告の主張は、採用することができない。

(三)  本件合意の撤回について

(1) 当事者間に争いがない事実に、<書証番号略>、原告小塩及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

① 被告は、平成二年五月ころ、被告建物建築の基礎工事を開始したが、翌六月ころ、原告らを含む近隣の住民ら六世帯から、説明会を開催するよう要請され、同月一五日及び二六日の二回にわたって説明会を開き、建築会社の担当者から住民らの要求・質問等に対して説明・応答を行った。被告も同席していた第二回説明会の席上で、原告小塩からの要求として、被告建物の窓の硝子を透明でないものにすること、北東側の一、二階のダイニングキッチンの窓及びベランダの袖に目隠をすること等の要求が出され、それらに対する回答を第三回説明会で提出することとなった。

② 第三回説明会は、同年七月二日に開催される予定であったが当日になって中止された。被告は、同日、前記1(二)のとおり、建築会社の担当者から、原告小塩の要求のうち、被告建物一階のダイニングキッチンの東側窓、同二階のダイニングキッチン東側窓及び同二階ベランダについて目隠の設置に応じる旨記載した回答書を受け取り、それを原告小塩に渡すよう依頼して原告佐野に渡した。原告らは、被告からの右回答をみて納得し、それ以降は、本件訴訟に至るまで、他の付近住民らによる建築続行禁止仮処分申立及び訴訟提起等の要求運動に加わることはなかった。

以上の事実が認められる。

(2) 被告は、結局第三回説明会は開催されず、それ以前の交渉は白紙に戻して訴訟で争うことになったのであるから、前記回答書記載の合意は撤回された旨主張するけれども、前記②認定のとおり、原告らは、前記回答書を受け取って後は、付近住民らによる運動からは手を引いており、従前の交渉を白紙に戻して訴訟で争うとの話にも加わっていなかったのであるから、原告小塩との関係では、これによって本件合意が撤回されたということはできず、他に、本件合意が撤回されたことを認めるに足りる証拠はない。

(四)  権利濫用について

(1)  前記1(一)(1)認定の各事実及び右(三)(1)認定の事実を前提に、原告らによる目隠設置請求が権利の濫用にあたるかについて検討する。

① 本件引戸窓のうち、三階に設置された別紙図面記載の(12)及び(15)の各窓は、前記1(一)(1)認定のとおり、原告ら建物の屋根・庇及び下方を覗いた際に(12)の窓からは原告小塩建物の裏側と原告佐野建物の軒下が、(15)の窓からは原告佐野建物の裏側がみえるにすぎない。また、一階に設置された(6)の窓は、原告佐野宅の壁に面していて原告佐野建物の内部を観望することができるものではなく、右窓に目隠が設置されていないことによって原告佐野が日常的に被る不都合は、さほど重大なものとは考えられない。以上の事実に、原告小塩建物及び同佐野建物自体も、境界線から一メートル未満の位置に被告宅地を観望することのできる窓を設置していること、被告の側でも、被告建物を建築するに際し、原告らからの要求に応じて、窓の硝子を曇り硝子にし、一部の窓を小窓に変更するなど一定の配慮を示していることをあわせ考えると、民法二三五条一項が互譲の精神から相隣接する不動産相互の利用関係を調整しようとしている趣旨及び本件合意に照らし、原告らの目隠設置請求は、少なくとも別紙図面記載の(6)(12)(15)の各窓については権利の濫用として許されないものと認めるのが相当である。

② しかしながら、同図面記載の(1)、(7)の各窓及び二階に設置されたベランダについての原告小塩の目隠設置請求は、前記1(一)(1)及び右(三)(1)認定の事情(特に、被告自身、原告小塩に対して本件合意に基づいて目隠設置を約している。)のもとではこれを権利の濫用とまでいうことは困難である。なお、被告は、本人尋問において、原告小塩は、被告旧建物に向けて窓を設置した際にこれは明かり取りの窓であると述べた旨供述しているけれども、他方、同尋問の結果によれば、右窓について被告から原告小塩に目隠を設置するよう要請したことも、それが話題になったこともなかったことが認められるのであるから、原告小塩が同人宅の窓について明かり取りの窓であると述べたことがあったとしても、これをもって直ちに原告らから被告に対する目隠設置請求が権利濫用になるということはできない。

(3) したがって、被告の権利濫用の抗弁は、原告らの被告に対する別紙図面記載(12)の窓及び原告佐野の被告に対する同図面記載(6)及び(15)の窓についての目隠設置請求に対する限度で理由があるが、その余は理由がない。

二プライバシー侵害について

1 前記一1(一)(1)認定のとおり、別紙図面記載の(1)及び(7)の窓は原告小塩建物の居室の窓と向かい合っており、それによって原告小塩が日常生活上不便を感じたことは推認できるが、本件全証拠によっても、原告小塩のプライバシー侵害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えるものであったことを認めることができず、その他本件の各窓やベランダの設置によって原告らのプライバシーが侵害されたことを認めるに足りる証拠はない。

2  したがって、原告らのプライバシー侵害による損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三以上の次第で、原告小塩の本訴請求は、被告に対し、別紙図面記載の(1)及び(7)の各窓に接着してその窓全面に高さは1.2メートル、幅1.8メートルの、同図面の二階北東側に面するベランダの端の手すりに高さ1.5メートル、幅1.2メートルのアルミまたはステンレス製の格子状フレーム付きの不透明のアクリル樹脂製波板又はこれに類するものをもって目隠塀を設置すること(目隠設置の方法、目隠設置物の材質等については本件証拠によって原告らの請求が是認できる。)を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告佐野の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれを適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官天野登喜治 裁判官加々美博久 裁判官増森珠美)

別紙物件目録<但し、一及び三省略>

二 所在 文京区千石弐丁目四〇番地参壱・四〇番地参七

家屋番号 四〇番参壱の弐

種類 共同住宅

構造 鉄骨造陸屋根参階建

床面積 壱階 99.95平方メートル

弐階 95.63平方メートル

参階 95.63平方メートル

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