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東京地方裁判所 平成3年(ワ)11053号 判決 1995年1月26日

原告

荒川賀世

外一九名

右原告ら訴訟代理人弁護士

益田昴

被告

株式会社相馬ハイランド

右代表者代表取締役

田村武美

右訴訟代理人弁護士

須藤英章

岸和正

被告

三友物産株式会社

右代表者代表取締役

平沼孝之

被告

平沼孝之

右両名訴訟代理人弁護士

福岡清

平田厚

被告

株式会社コマ・エンタープライズ

右代表社代表取締役

新井喜源

右訴訟代理人弁護士

須藤英章

岸和正

被告

株式会社ニッコウ協会

右代表者代表取締役

立町健一

右訴訟代理人弁護士

矢田次男

右訴訟復代理人弁護士

栃木敏明

主文

一  被告株式会社相馬ハイランドは、別紙当事者目録原告番号1ないし8の原告らそれぞれに対し金二七万円、同目録原告番号9ないし20の原告らそれぞれに対し金二〇万円及びこれらに対する平成元年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三友物産株式会社及び同平沼孝之は、別紙当事者目録原告番号1ないし8の原告らそれぞれに対し各自金五三万円、同目録原告番号9ないし20の原告らそれぞれに対し各自金四〇万円及びこれらに対する平成元年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告らそれぞれに対し、各自金三〇〇万円及びこれに対する平成元年九月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、被告株式会社相馬ハイランド(以下「被告相馬ハイランド」という。)が、相馬ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営していた訴外株式会社丸相(以下「訴外丸相」という。)の全株式を被告三友物産株式会社(以下「被告三友物産」という。)に譲渡し、また被告三友物産は、本件ゴルフクラブの敷地及び建物を単なる不動産売買の形式で被告株式会社コマ・エンタープライズ(以下「被告コマ・エンタープライズ」という。)に譲渡し、さらに被告コマ・エンタープライズは、被告三友物産から右土地建物を単なる不動産売買の形式で譲り受け、被告株式会社ニッコウ協会(以下「被告ニッコウ協会」という。)は、被告コマ・エンタープライズから右土地建物を単なる不動産売買の形式で譲り受け、その後訴外西島富造(以下「訴外西島」という。)に譲渡したことにより、本件ゴルフクラブの正会員である原告らが、同ゴルフクラブの会員権を侵害されたとして右被告四社に対しては民法七〇九条に基づき、被告三友物産の代表取締役である被告平沼孝之に対しては商法二六六条の三第一項又は民法七〇九条に基づき各損害賠償を求めた事案である。

二  前提事実(特に書証を掲記した点以外は当事者間に争いはない。)

1  本件ゴルフクラブの前身は、南仙台ゴルフクラブという名称であり、訴外丸相が経営母体であった(甲二三)。

2  被告相馬ハイランドは、訴外丸相の全株式を取得し、相馬ゴルフ倶楽部という名称に変更した(甲二三)。

3  被告相馬ハイランドは、昭和五七年五月四日、原告らと何ら協議することなく、訴外丸相の全株式を被告三友物産に譲渡した。

4  被告三友物産は、昭和五八年一〇月二七日、本件ゴルフクラブの敷地と建物を被告コマ・エンタープライズに譲渡したが、その際被告コマ・エンタープライズは本件ゴルフクラブにゴルフ場のコース及びクラブハウスが設置され、クラブ会員が存在することは知っていた。

5  被告コマ・エンタープライズは、平成元年六月二一日、本件ゴルフクラブの敷地と建物を被告ニッコウ協会に譲渡したが、その際被告ニッコウ協会は本件ゴルフクラブにゴルフ場のコース及びクラブハウスが設置され、クラブ会員が存在することは知っていた(甲三〇、証人日高)。

6  原告らは、昭和五五年に被告相馬ハイランドから各八〇万円又は各六〇万円(別紙当事者目録原告番号1の荒川賀世から同番号8の湯藤進までは各八〇万円、同番号9相澤昭男から同20の古川洋太郎までは各六〇万円)を預託することにより本件ゴルフクラブの会員となった者である(甲一ないし二〇)。

三  争点

1  被告らの行為は原告らに対する不法行為といえるか。もし不法行為ならば共同不法行為といえるか。

(原告ら)

(一) 被告相馬ハイランドに対し

被告相馬ハイランドは、本件ゴルフクラブを経営していた訴外丸相の全株式を殆ど実体のない被告三友物産に譲渡すれば、本件ゴルフクラブの会員は権利行使が不可能となることを認識又は認識しえたにもかかわらず、被告三友物産に譲渡したことにより、原告らの本件ゴルフクラブの会員権を侵害した。

(二) 被告三友物産及び被告平沼に対し

被告三友物産は、被告相馬ハイランドから訴外丸相の全株式を譲り受けたのであるから本件ゴルフクラブの会員に対し権利行使を認める義務があり、本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で他に譲渡すれば、原告らが会員権行使が困難になることを認識、又は認識しえたにもかかわらず、本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で被告コマ・エンタープライズに対し譲渡したことにより原告らの会員権を侵害した。

被告平沼は、被告三友物産が原告らに対し会員権を行使させる義務及び預託金について返還義務があり、本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で他に譲渡すれば、原告らが会員権行使が困難になることを認識、又は容易に認識しえたにもかかわらず、右敷地等を単なる不動産売買の形式で被告コマ・エンタープライズに対し譲渡したことにより原告らの会員権を侵害した。

(三) 被告コマ・エンタープライズに対し

被告コマ・エンタープライズは、本件ゴルフクラブの敷地と建物を単なる不動産売買の形式で取引すれば原告らの会員権が侵害されることを認識、又は認識しえたのに被告三友物産から右敷地等を単なる不動産売買の形式で譲り受けたことにより原告らの会員権を侵害した。

(四) 被告ニッコウ協会に対し

被告ニッコウ協会は、本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で取引すれば原告らの会員権が侵害されることを認識、又は認識しえたのに被告コマ・エンタープライズから右敷地等を単なる不動産売買の形式で譲り受け、その後訴外西島に譲渡したことにより原告らの会員権を侵害した。

2  被告らの行為が不法行為となる場合、原告らの損害額はいくらか。

(原告ら)

原告らの本件ゴルフ会員権の価値は、被告らの権利侵害がなければ訴外株式会社暖海荘(以下「訴外暖海荘」という。)が、本件ゴルフクラブを天明ゴルフクラブと名称を変え、預託金五〇〇万円で会員を募集していることから五〇〇万円を下らないから、一部請求として三〇〇万円を請求する。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  被告相馬ハイランドの責任について

原告らは、被告相馬ハイランドに保証金を預託し、本件ゴルフクラブの会員となったものであるから、被告相馬ハイランドは原告らに会員権の行使ができるようにすべき義務があるというべきである。

被告相馬ハイランドは、訴外丸相の全株式を被告三友物産に売却し、その後同被告は本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で他に譲渡したことから原告らは会員権行使ができなくなった。

被告相馬ハイランドは、被告三友物産に訴外丸相の全株式を譲渡する際には会員に関する権利義務を同被告に引き継がせる合意があったから被告相馬ハイランドには責任がない旨主張する。

しかし、訴外丸相の全株式の売却を契約上の承継とみるか免責的債務引受とみるかはともかくとしても会員に対する義務を他の者に移転させ、自己が債務者たる地位から離脱するためには、会員権者の承諾を必要とするというべきであるが、会員権者である原告らが右承諾をした事実は、本件全証拠によっても認められない。

また、甲二三、乙イ一ないし六によれば、被告相馬ハイランドは、事前に被告三友物産の資力、信用等について十分な調査をしないまま、同被告の言を軽信して訴外丸相の全株式の売却を行ったことが認められる。

そうすると被告相馬ハイランドは、会員権者である原告らに対し不法行為責任を負うというべきである。

2  被告三友物産及び被告平沼の責任について

被告三友物産は、同相馬ハイランドから本件ゴルフクラブを経営している訴外丸相の全株式を譲り受け、同クラブの経営を承継したのであるから被告三友物産は原告らに会員権の行使ができるようにすべき義務があるというべきである。

被告三友物産が、本件ゴルフクラブの敷地等を単なる不動産売買の形式で被告コマ・エンタープライズに対し譲渡したことにより原告らは会員権の行使ができなくなった。

被告三友物産及び被告平沼(以下「被告三友物産ら」という。)は、原告らは正規に預託金を支払い会員となったものではなく、また、被告三友物産が、被告相馬ハイランドから訴外丸相の株式を買うときに承継した会員の中に原告らは含まれてはいない旨主張する。

しかし、甲一ないし二〇、二三によれば、原告らの会員券には被告相馬ハイランドの社印が押捺されており、かつ、会員名も各々記載されていることからみて原告らは被告相馬ハイランドに保証金を預託した正規の会員と認めることができ、右認定に反する被告平沼の供述は信用できない。

また、被告三友物産が、被告相馬ハイランドから訴外丸相の株式を買うときに承継した会員の中に原告らは含まれない旨の合意があったとしても、被告相馬ハイランドと同様に被告三友物産が会員に対する義務を負う地位から離脱するためには、会員権者の承諾を必要とするというべきであるが、被告三友物産が会員に対する義務を負う地位から離脱することについての会員権者である原告らの承諾は本件全証拠によっても認められない。

甲二三、乙ロ一、乙ニ一、三によれば、被告相馬ハイランドから同三友物産に対する訴外丸相の全株式の売買価格は、四億五〇〇〇万円であること、被告三友物産が被告相馬ハイランドから訴外丸相の株式を譲り受けた当時会員に対する預託金返還債務が二二億円位であったにもかかわらず、被告三友物産の被告コマ・エンタープライズに対する本件ゴルフクラブの敷地等の売買価格は八億円であること、かつ、訴外丸相、被告相馬ハイランドの発行した会員権者からの権利行使については被告三友物産が責任を持つ旨契約書に明記されていることが認められ、右認定に反する被告平沼の供述は信用できない。

右事実によれば、被告三友物産らは、本件ゴルフクラブの敷地等を被告コマ・エンタープライズに単なる不動産売買の形式で譲渡することにより、原告らの本件ゴルフクラブの会員権が侵害されることを認識していたにもかかわらず利益を得る目的から被告コマ・エンタープライズに譲渡したものと認められる。

したがって、被告三友物産らは、原告らに対し、共同不法行為責任を負うというべきである。

なお、被告三友物産らの前記共同不法行為と同相馬ハイランドの前記不法行為とは、被告三友物産らが本件ゴルフクラブの敷地等を被告コマ・エンタープライズに譲渡した時期と被告相馬ハイランドが被告三友物産に訴外丸相の株式を譲渡した時期は異なり、両者の共謀の事実も認められないので両者の関係は共同不法行為とはいえない。

3  被告コマ・エンタープライズ及び被告ニッコウ協会の責任について

被告コマ・エンタープライズ及び被告ニッコウ協会(以下「被告コマ・エンタープライズら」という。)は、本件ゴルフクラブにゴルフ場のコース及びクラブハウスが設置されており、クラブ会員が存在することを認識の上同クラブの敷地と建物を単なる不動産売買の形式で被告コマ・エンタープライズは被告三友物産から、被告ニッコウ協会は被告コマ・エンタープライズからそれぞれ譲り受け、その結果原告らの本件ゴルフクラブ会員権を侵害したものである。

被告コマ・エンタープライズらの右行為は、債権侵害の一態様であるといえるが、問題は、単なる不動産売買の形式で取引した被告コマ・エンタープライズらが不法行為責任を負うかである。

ゴルフ会員権自体、債権であり排他性のない第三者とは直接関係を持たない権利であること、また、他人の権利が侵害される場合であっても自由経済競争の枠内の行為についてはこれを容認すべきであることからすると、会員に対し会員権を行使させる債務を負っているゴルフクラブ経営会社が、所有者としての自由意思に基づき、ゴルフクラブの敷地等を第三者に売却する場合、それを第三者が買うことは、結果的に会員権の侵害になるとしても通常は自由競争の枠内の行為として許されるといわなければならず、例外的に、第三者が不法行為責任を負う場合は、第三者の行為態様が自由競争の枠内とはいえないような違法性が強度に認められる場合、例えば、第三者が殊更ゴルフクラブの会員を不当に苦しめる目的で右敷地等を譲り受けたり、第三者が詐欺、脅迫に類する手段を用いて敷地等を取得した場合等に限られるべきである。

ところで、被告コマ・エンタープライズらは、本件ゴルフクラブにゴルフ場のコース及びクラブハウスが設置されており、クラブ会員が存在することを認識してはいたが、それ以上に違法性を基礎付ける事実は本件全証拠によっても認めることはできない。

そうすると、被告コマ・エンタープライズらには原告らの本件ゴルフクラブ会員権を侵害したことを理由に不法行為は成立しないというべきである。

二  争点2について

原告らは、甲二一に基づき本件ゴルフクラブの敷地及び建物を最終的に取得し、天明ゴルフクラブという名称でゴルフクラブを経営している訴外暖海荘が預託金五〇〇万円で個人会員を募集したことから被告らの不法行為により同額の損害を受けたと主張する。

しかし、甲二一、二三、乙イ二によれば、原告らが、本件ゴルフクラブ会員権を取得した当時、訴外丸相の株式を有していた被告相馬ハイランドは、代表者が短期間に変わるなど経営状態が不安定であったこと、本件ゴルフクラブの敷地については、暴力団が占拠したり、民事刑事事件が係属していたこと、天明ゴルフクラブと本件ゴルフクラブでは会員数や設備においても大きく異なることが認められるから、原告らの損害が五〇〇万円と見ることはできない。

そして、原告らは、訴外暖海荘を被告とした別訴において総額一〇〇〇万円の解決金を受領していること等も考慮すれば、原告らの損害は原告らの拠出した預託金の額を超えるものではないと認められ、被告らの行為内容に従い、原告らの損害を判断すると、預託金として八〇万円を拠出した(甲一ないし八)別紙当事者目録原告番号1ないし8の原告は、被告相馬ハイランドの不法行為により二七万円、被告三友物産と被告平沼の共同不法行為により五三万円の損害を、預託金として六〇万円を拠出した(甲九ないし二〇)同目録原告番号9ないし20の原告は、被告相馬ハイランドの不法行為により二〇万円、被告三友物産と被告平沼の共同不法行為により四〇万円の損害をそれぞれ受けたと認められる。

三  結論

右事実によれば、原告らの被告相馬ハイランドに対する請求は、別紙当事者目録原告番号1ないし8の原告らそれぞれについて二七万円の限度において、同目録原告番号9ないし20の原告らそれぞれについて二〇万円の限度において、また、原告らの被告三友物産及び被告平沼に対する請求は、同目録原告番号1ないし8の原告らそれぞれについて各自五三万円の限度において、同目録原告番号9ないし20の原告らそれぞれについて各自四〇万円の限度において理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官田中治)

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