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東京地方裁判所 平成2年(ワ)4174号 判決 1990年10月25日

原告 株式会社 ベンカン

右代表者代表取締役 中西真彦

右訴訟代理人弁護士 石井藤次郎

被告 源田明一

右訴訟代理人弁護士 助川正夫

主文

一  被告が訴外株式会社透信に対する東京法務局所属公証人柏原充作成昭和六三年二七七号譲渡担保付金銭消費貸借契約公正証書に基づき平成元年七月三一日後記目録記載の債権についてした強制執行は許さない。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  本件について当裁判所が平成二年四月一八日にした強制執行停止決定は認可する。

四  前項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文一、二項同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、訴外株式会社「東辰」に対する債務の弁済に充てるつもりでいた五五八万三〇三〇円の金員につき、誤って株式会社富士銀行上野支店の訴外株式会社「透信」名義の普通預金口座に振り込む手続をしてしまったため、右銀行は、右振込金を右口座に入金記帳した。

2  被告は、「透信」に対する前記公正証書に基づいて、平成元年七月三一日後記目録記載の債権について強制執行をした。

3  「透信」は、右振込金につき、右銀行に対して、払戻の手続をしたことはない。

二  争点

右五五八万三〇三〇円について、「透信」の預金債権が有効に成立しているものといえるか、有効に成立していない場合に原告は、被告に対して第三者異議の訴えを提起して強制執行の排除を求めることができるか、提起できるとすれば、それは原告のどのような権利に基づくものであるか。

第三争点に対する判断

振込における受取人と被仕向銀行との関係は、両者間の預金契約により、あらかじめ包括的に、被仕向銀行が為替による振込金等の受入れを承諾し、受入れの都度当該振込金を受取人のため、その預金口座に入金し、かつ、受取人もこの入金の受入れを承諾してこれについて預金債権を成立させる意思表示をしているものであり、右契約は、準委任契約と消費寄託契約の複合的契約であると解される。

ここで、両者が、預金債権を成立させることにつき事前に合意しているものは、受取人との間で取引上の原因関係のある者の振込依頼に基づき仕向銀行から振り込まれてきた振込金等に限られると解するのが相当である。

正常な取引通念、当事者の合理的意思に合致すると思われるからである。

本件では、原告と「透信」との間に右取引上の原因関係がないことは明らかであるから、本件振込金について「透信」と前記銀行との間では預金契約は締結されていないことになる。

本件振込金は、「透信」が、前記銀行から、預金として払戻を受ける前であれば、「透信」の右銀行に対する他の預金との分別が実質的には可能である。

後記目録記載の債権は、「透信」が前記銀行に対して持っている預金債権の中から本件振込金に関する部分を実質的に分別したものと認められるので、前記理由により、預金債権としては有効に成立していないから、外観上は存在するが、実際には、存在していないものである。

不当利得制度の趣旨を考えた場合、原告は、「透信」が払戻を受ける前であれば、本件振込金の所有者である前記銀行に対して、払戻の後であれば、「透信」に対して、振込金と同額の金銭の返還を請求できると解するのが相当である。

本件振込金は、寄託者がいないのに前記銀行において寄託物と扱われているものであるから、その価値の保留を右銀行(「透信」が払戻を受けているときは「透信」)に許すことは、法律上の理念より生ずる公平の理想に反することになるからである。

本件強制執行の目的物は、後記目録記載の債権であるところ、前記のようにこの債権は実存しないものであるから、原告は、これについて「その譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者」(民執法三八条)であると直接的にはいえないかも知れないが、本件のように目的物そのものが実存しない場合には、右目的物に準ずるものとでもいうべき本件振込金につきこれと同額の金員の返還請求権を有しているのであるから、これを根拠に、右条文を類推して、右第三者に当たると解することができる。

存在しない債権が差し押さえられているという外観を取り除くため、そしてこの外観を放置することにより今後発生が予想される複雑な法律関係を未然に防止するために、原告に第三者異議を認めることは有益である。

以上の理由により、原告の被告に対する本件第三者異議の訴えを認容することにした。

(裁判官 北村史雄)

<以下省略>

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