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東京地方裁判所 平成2年(ワ)2524号 判決 1991年6月24日

原告 東和産業株式会社

右代表者代表取締役 岸野禎則

右訴訟代理人弁護士 鈴木醇一

被告 小島太郎

右訴訟代理人弁護士 伊藤まゆ

主文

1. 原、被告間の別紙物件目録記載の店舗の賃貸借契約における賃料(共益費を含む。)が平成二年二月一日以降一か月当たり四〇万九〇〇〇円であることを確認する。

2. 原告のその余の請求を棄却する。

3. 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1. 原、被告間の別紙物件目録記載の店舗(以下「本件店舗」という。)の賃貸借契約における賃料が平成二年二月一日以降一か月当たり四六万四〇〇〇円、共益費が右同日以降一か月当たり三万七三二一円であることを確認する。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者の主張

一、原告の請求の原因

1. (本店店舗の賃貸借契約の締結)

訴外秋場喜好は、昭和五一年一月頃、被告との間において、本件店舗につき、右訴外人を賃貸人、被告を賃借人とし、賃料及び共益費は毎月末日限り翌月分を支払うこと、被告は右訴外人に対して敷金として賃料の六か月を預託するものとすることとの賃貸借契約を締結して、これを貸し渡した。

2. (賃貸人の地位の承継)

原告及び訴外東和ランディック株式会社は、昭和六二年九月四日、訴外秋場喜好から本件店舗を含む専用部分の建物を買い受けて、同月二六日、その旨の所有権移転登記手続を受けた。

さらに、原告は、平成元年三月一七日、訴外東和ランディック株式会社から本件店舗を含む専用部分の建物の所有権持分を買い受けて、同年一二月一一日、所有権持分移転登記を受けた。

これらに伴って、原告は、本件店舗の被告に対する賃貸人たる地位を承継した。

3. (賃料等の額の推移)

ところで、本件店舗の賃料は、昭和六〇年一月一日以降一か月当たり三〇万円、共益費は右同日以降一か月当たり一万一七五五円のままであったので、原告及び訴外東和ランディック株式会社は、昭和六三年一月一一日、被告に対して、賃料を一か月当たり三六万円に増額する旨の意思表示をした。

そして、原告及び訴外東和ランディック株式会社は、被告が右増額の意思表示の効果を争ったので、同年一〇月一四日、被告を相手方として、東京地方裁判所に賃料増額請求の訴えを提起し、その結果、平成元年一〇月三〇日の調停期日において、昭和六三年二月一日以降の賃料を一か月当たり三四万五〇〇〇円、共益費を一か月当たり一万七二五〇円とするとの調停の成立をみた。

4. (賃料等の増額の意思表示)

しかしながら、右賃料及び共益費の額は、その後の敷地価格及び公租公課の高騰、同一専用部分の建物の他の部分の賃借人らの賃料等に比して、著しく低額となったので、原告は、平成二年一月二四日、被告に対して、同年二月一日以降の賃料を一か月当たり四六万四〇〇〇円、共益費を一か月当たり三万七三二一円に増額する旨の意思表示をした。

5. (結論)

よって、原告は、本件店舗の賃料が平成二年二月一日以降一か月当たり四六万四〇〇〇円、共益費が右同日以降一か月当たり三万七三二一円であることの確認を求める。

二、請求原因事実に対する被告の認否

1. 請求原因1(本件店舗の賃貸借契約の締結)の事実は、認める。

もっとも、被告は、昭和五一年一月頃に本件店舗を含む一棟の建物が建築される以前の昭和二一年頃から昭和五〇年二月頃まで、同一所在地にあった木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建店舗二九・七五平方メートルを賃借していたものである。

2. 同2(賃貸人の地位の承継)前段の事実は認めるが、中段及び後段の事実は知らない。

3. 同3(賃料等の額の推移)の事実は、認める。

4. 同4(賃料等の増額の意思表示)の事実中、原告がその主張のような賃料増額の意思表示をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、請求原因1(本件店舗の賃貸借契約の締結)の事実、同2(賃貸人の地位の承継)前段の事実及び同3(賃料等の額の推移)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、甲第四号証及び証人飯田正義の証言によれば、請求原因2(賃貸人の地位の承継)中段及び後段の事実を認めることができる。

そして、ここで本件店舗の賃貸借契約の経緯等についてみておくと、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和五一年一月頃に本件店舗を含む一棟の建物が建築される以前の昭和二四年頃以降、同一所在地にあった木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建店舗二九・七五平方メートルを所有者の訴外秋場徳次郎から賃借して、そこで呉服商を営んでいたものであるが、訴外秋場徳次郎が右建物を取り壊し、その子の訴外秋場喜好が跡地に本件店舗を含む一棟の建物を建築することを企画するに至ったところから、昭和五〇年一月二〇日の裁判上の和解において、新たに建築される一棟の建物のうちの本件店舗部分を訴外秋場喜好から引き続いて賃借することを前提として、従前の店舗の賃貸借契約を合意解除し、昭和五一年一月頃、本件店舗を含む一棟の建物が建築されたのに伴い、訴外秋場喜好との間において、一か月当たりの賃料を二四万四〇〇〇円(三・三平方メートル当たり二万一〇〇〇円)、共益費を一万一七五五円、預託すべき敷金を賃料六か月分とするとの約定によって本件店舗の賃貸借契約を締結し、そこでピザ、スパゲティ等を販売する飲食店を経営しているものであること、他方、訴外秋場喜好は、昭和五六年四月頃以降本件店舗を含む専用部分の建物の一階部分のその余の部分四八・四六平方メートルを訴外合資会社桂花に、昭和五四年一二月頃以降地下一階部分九三・八八平方メートルを訴外野田一彦にそれぞれ賃貸し、訴外合資会社桂花は右賃借部分でラーメン店を、訴外野田一彦は右賃借部分で居酒屋をそれぞれ経営していたが、原告は、前記のとおり、右専用部分の建物を買い受けたのに伴って、右訴外人らに対する右各建物部分の賃貸人たる地位をも承継したものであることの各事実を認めることができる。

二、そして、原告が平成二年一月二四日被告に対して同年二月一日以降の賃料を一か月当たり四六万四〇〇〇円に、共益費を一か月当たり三万七三二一円にそれぞれ増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないところであるので、その適否及び適正賃料額の如何について判断する。

先ず、原告は、賃料と共益費とについてそれぞれ別途に増額の意思表示をしその結果としての賃料及び共益費それぞれの額の確認を求めるけれども、<証拠>によれば、訴外秋場喜好と被告、訴外合資会社桂花又は訴外野田一彦との間の前掲専用部分の建物の建物部分の各賃貸借契約においては、賃借人が一定額の共益費を支払う旨の合意がなされていたけれども、その性質や共益費に含まれる費目についてはなんらの合意もなく、単に一坪当たり又は全体の共益費の額が定められていたに過ぎないのであって、共用部分の維持・管理に要した費用の実額清算を基礎としたものではなかったこと、ところが、原告は、今般の共益費の増額請求に際しては、近年における建物管理委託費、共用部分の清掃費、共用設備の設置、維持、点検費用等の実額費用の合計の四〇パーセントを全賃借人に一律に、三〇パーセントを各賃借人の賃借部分の面積比により、三〇パーセントを各賃借人の営業時間比により、賃借人がそれぞれ按分すべきものとして、被告に対して、前記のとおりの共益費の増額請求の意思表示をしたものであることが認められる。

しかしながら、建物の賃料は、もともと建物及びその敷地の経済価値に即応した純収益部分と必要経費部分とから構成されるのであって、当事者が右必要経費部分の特定の費目を賃料とは別個に管理費又は共益費として授受することを合意したような場合においては、借家法七条の規定を適用又は類推適用して、賃貸人は、当該費用の変動に応じた管理費又は共益費の増額請求をすることができるものと解するのが相当であるけれども、本件におけるように、管理費又は共益費として単に一定額を支払うことが合意されているにとどまって、そこに含まれるべき費目、積算方法、負担割合等についてなんらの合意がないような場合においては、管理費又は共益費を賃料と区別して別異に取り扱うべき理由や合理性は存在しない。

したがって、本件においても、原告がした前記の賃料及び共益費の増額の意思表示はこれを一体としての賃料の増額請求の意思表示としてとらえ、その適否及び両者を含むものとしての適正賃料額について検討すべきである。

三、先ず、鑑定人小谷芳正は、本件店舗に帰属する建物及びその敷地の最終合意時点である昭和六三年二月一日における基礎価格を三億〇〇三七万円、本件増額請求時点である平成二年二月一日におけるそれを三億一九一二万円と鑑定したうえ、最終合意時点における利回りを一バーセントと算定している(ただし、総収益を支払賃料年額四一四万円と被告が原告に預託している敷金一四六万四〇〇〇円の年六パーセントの割合による運用益八万七八四〇円の合計四二二万七八四〇円、総費用年額を一一二万八〇〇〇円としたもの。)が、右総収益には管理費年額二〇万七〇〇〇円を加えるべく、その結果、最終合意時点における利回りを一・一パーセントとすべきほかは、右推論の過程は合理的であって、これを肯認することができる(鑑定人小谷芳正は、本件店舗が間口が約二・八メートル、奥行約一三・七メートルの形状であることから、基礎価格の算定上、一五パーセントの減価を施しているが、本件店舗の店舗としての効用に照して、もとより正当ということができる。)。

そして、鑑定人小谷芳正は、これを前提として、本件増額請求時点における本件店舗の賃料年額につき、最終合意時点と同率の利回りによる利回り法を適用して、これを年額四四一万八三六〇円(月額三六万八〇〇〇円)と算定し(ただし、総費用年額を一三一万五〇〇〇円としたもの。)、また、総理府統計局発表の東京都区部における消費者物価指数又は家賃指数によるスライド法を適用して、四四八万一九九二円(月額三七万三〇〇〇円)又は四三四万四〇〇〇円(月額三六万二〇〇〇円)と試算し、さらに、いわゆる差額配分法(ただし、土地の期待利回りを二パーセント、建物の期待利回りを八パーセントとし、配分割合についてはいわゆる三分法によったもの。)によって、これを五四六万三〇〇〇円(月額四五万五〇〇〇円)と算定しているが、これらは、前記のとおり最終合意時点における利回りを一・一パーセントとすべきことに伴い、利回り法による賃料年額を四七三万七四八〇円(月額三九万五〇〇〇円)とすべきほかは、いずれも相当として是認することができる。

これらの試算結果に照すと、本件増額請求時点における本件店舗の賃料は、もはや不相当になったものということができ、本件店舗の賃貸借契約が締結されるに至った前記のような経緯、本件店舗の賃貸借契約が居住目的のものではなく、商業目的のものであることなど、前記認定のような諸事情に鑑みて、右時点における本件店舗の賃料(共益費を含む。)年額は、右試算結果の最高値五四六万三〇〇〇円と最低値四三四万三〇〇〇円とのほぼ中間値である四九〇万八〇〇〇円(月額四〇万九〇〇〇円、三・三平方メートル当たり約三万五〇〇〇円)とするのが相当である。

もっとも、<証拠>によれば、本件店舗の属する専有部分の建物の一階の他の部分を賃借している訴外有限会社桂花の賃料は平成二年四月頃以降一か月、三・三平方メートル当たり約五万八〇〇〇円に、同建物の地下一階部分を賃借している訴外野田一彦の賃料は平成元年一二月一日以降一か月、三・三平方メートル当たり約二万八五〇〇円にそれぞれ改定されたことを認めることができ、前記認定、判断にかかる被告の本件店舗の賃料は、特に訴外有限会社桂花の右賃料との対比において、低廉であることを否定できないけれども、右のような結果は、前記のような賃貸借契約締結の経緯から、当初から本件店舗の賃料が低額に設定されたことに負うところが大きいものと認められるのであって、借家法七条の定める賃料増額請求の制度が基本的には最終合意賃料がその時点以降における事情の変更によって不相当になった場合においてこれに応じた賃料の増額を認めるものである以上、右の程度の差等はやむを得ないものというべきである。

四、以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、原、被告間の本件店舗の賃貸借契約の賃料(共益費を含む。)が平成二年二月一日以降一か月当たり四〇万九〇〇〇円であることの確認を求める限度において認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却することとして、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条及び九二条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上敬一)

<以下省略>

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