大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成2年(ワ)16741号 判決 1991年10月14日

原告

株式会社清峰堂

右代表者代表取締役

富本義男

右訴訟代理人弁護士

中野比登志

被告

三蔵産商株式会社

右代表者代表取締役

大原明

右訴訟代理人弁護士

荒井鐘司

被告補助参加人

ファーストファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

白熊衛

右訴訟代理人弁護士

坂東司朗

坂東規子

池田紳

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、二七三二万一一九〇円及びこれに対する平成三年二月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、担保権実行としての不動産競売により土地を買い受けた原告が、土地の実測面積が競売で表示された面積より少なかったとして、競売の債務者兼所有者である被告に対し、右競売がいわゆる数量指示売買であることを理由に数量不足による代金減額請求権に基づき右面積の不足分に相当する代金の返還、又は右競売において被告が面積の表示を誤った過失があることを理由に契約締結上の過失による損害賠償請求権に基づき右代金額相当の損害賠償、及び民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一争いのない事実

1  別紙物件目録記載の土地(本件土地)は、もと被告が所有していたが、原告は、被告補助参加人を債権者、被告を債務者兼所有者とする東京地方裁判所昭和六三年(ケ)第一一六四号不動産競売申立事件(本件競売)において、本件土地につき、平成二年二月一九日に売却許可決定を得、平成二年四月一〇日に代金五億〇二二二万円を納付した。

2  原告は、本件土地の実測面積(252.04平方メートル)が本件競売で表示された面積(登記簿記載の面積と同じ266.54平方メートル)より、14.5平方メートル少ないとして、平成二年一二月七日、被告に対し、右不足分に対応する代金二七三二万一一九〇円の減額請求の意思表示をした。

二争点

本件競売が数量指示売買に当たるかどうか。本件競売において被告が本件土地の面積の表示を誤った過失があるか否か。

第三争点に対する判断

一前記第二の一でみた事実、証拠<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1(一)  平成二年一月八日にされた本件競売の期間入札の公告書においては、本件土地は、いずれも登記簿の記載に基づき、その所在、地番、地目、地積が表示されており、一括競売であることが明示され、最低売却価額が二億九〇五二万円である旨表示されていた。

(二)  右公告書においては、以上のような記載のほか、別途、一般の閲覧に供するため、本件競売物件に関する物件明細書、現況調査報告書、評価書の各写しを執行裁判所の物件明細書等閲覧室に備え置く旨記載されているが、右物件明細書、現況調査報告書、評価書における競売物件の表示もすべて右公告書と同様である。

(三)  右各書面のうち、評価書においては、民事執行規則三〇条二項に規定する不動産の形状を示す図面として、公図写しとともに地積測量図(本件土地を昭和四五年一〇月二七日に東京都世田谷区南烏山三三六番一の土地から各分筆登記する際に使用された同月二〇日付けのもの)が添付されているが、右地積測量図によると、本件土地の面積は別紙物件目録記載三の土地を除き、登記簿記載の面積と同一の面積が表示されており、別紙物件目録記載三の土地については、昭和六二年一〇月二八日に右土地から東京都世田谷区南烏山三三六番二五の土地を分筆する前の面積が表示されている。また、右評価書においては、最低売却価額を定めるための評価額算出の過程として、まず各物件の平方メートル単位価額を決定し、これを基準として各登記簿記載の面積を乗じて算出されており、その合計額二億九〇五二万円をもって一括売却評価額として記載されている。

2  本件土地は、一体をなした画地であり、その境界は現地においても明確である。

3  原告は、不動産取引業者であり、本件土地の買受けに際し、現地を見分したものとみられる。原告は、本件土地を、本件競売において定められた最低売却価額の約1.7倍の代金で買い受けた。

二そこで、右認定事実に基づき、本件競売が数量指示売買に当たるかどうか、及び本件競売において被告が本件土地の面積の表示を誤った過失があるか否かについて判断する。

民法五六五条所定のいわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量(本件では本件土地の面積)を確保するため、その一定の数量を売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた場合をいい、土地の売買において目的物を特定表示するのに、登記簿に記載している所在、地番、地目、地積をもって表示したとしても、それだけでは直ちに売主が右地積のあることを表示したものと解することはできないのであって、当該売買が数量指示売買であるか否かはその売買におけるその他の諸般の事情をも総合してこれを決するのが相当である(最高裁昭和四三年八月二〇日第三小法廷判決・民集二二巻八号一六九二頁参照)。また、この理は、同法五六八条一項によって前記法条が適用される担保権実行としての不動産競売においても原則的には同様であると考えられる(大審院昭和一四年八月一二日判決・民集一八巻一二号八一七頁参照)。

これを本件についてみるに、土地の競売は、筆単位で行われるものであり、また競売開始決定がされると直ちに差押えの登記がされるが、その登記の関係からも物件を特定表示するために登記簿記載の所在、地番、地目、地積を用いるのが通例である。競売事件における評価書の作成及び公開は、評価の基礎及び評価額の算出過程を公開することによって最低売却価額の決定の適正さを制度的に保障するためにされる執行裁判所の執行処分であるが、法律上その記載内容に公信力を与えたものとまでいうことはできず、本件競売の評価書において添付されている地積測量図についても、本件土地の実際の面積が地積測量図に記載された面積どおりであることを保証する趣旨で添付されているのではなく、本件土地の形状を示す図面として添付されているに過ぎない。また、一般に、土地登記簿の記載ことにその地積の記載が実際の面積と符合しないことが多いことは公知の事実であり、それゆえ、土地売買においては、特段の事情がない限り、売買土地が登記簿の所在、地番、地目、地積の記載によって表示される場合でも、それは単に当該土地を特定表示するものに過ぎず、実際の土地の面積を確保するためのものではないと解される。そして、本件土地は一体をなした画地であり、その境界は現地においても明確であって、また、原告は、不動産取引業者であり、本件土地の買受けに際し、現地を見分したものとみられるのみならず、本件土地を、本件競売において定められた最低売却価額の約1.7倍の代金で買い受けているのであるから、原告は、区画された本件土地を全体として独自に評価して、これを買い受けたものということができる。

以上の点を考え合わせれば、本件競売が民法五六八条一項、五六五条所定の数量指示売買に該当するということはできない。

また、右でみたところによれば、被告が本件競売において本件土地の面積の表示を誤った過失があるということもできない。

三結論

よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判官中村也寸志)

別紙物件目録

一 東京都世田谷区南烏山三丁目三三六番一一

宅地 122.38平方メートル

二 東京都世田谷区南烏山三丁目三三六番一二

宅地 31.68平方メートル

三 東京都世田谷区南烏山三丁目三三六番一八

宅地 12.70平方メートル

四 東京都世田谷区南烏山三丁目三三六番一九

宅地 18.64平方メートル

五 東京都世田谷区南烏山三丁目三三六番二〇

宅地 81.14平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例