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東京地方裁判所 平成2年(ワ)14652号 判決 1991年11月19日

原告 葵ビル株式会社

右代表者代表取締役 矢部均

右訴訟代理人弁護士 福田耕治

被告 小畑久美子

右訴訟代理人弁護士 小澤徹夫

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録二記載のバルコニーから同目録三記載の物置を撤去せよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録二記載のバルコニー(以下「本件バルコニー」という。)を含む、同目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

2  被告は、賃借人として、本件建物七階七〇一号室に居住する者であるが、平成二年三月末日頃右七〇一号室の南側にある本件バルコニーの西側部分に別紙物件目録三記載の物置(以下「本件物置」という。)を設置し占有している。

3  よって、原告は被告に対し、本件建物の所有権に基づき、本件バルコニーから本件物置を撤去するよう求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2記載の事実は認める。

三  抗弁

本件バルコニーについては、原告と被告の間で、本件建物賃貸借契約に伴う賃借人の従たる権利として、右賃貸借契約の終了時期を返還時期とする、物置の設置を含む使用ができる旨の黙示の使用賃借契約が締結されたものというべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実については当事者間に争いがない。

二  被告は本件物置を設置する権原として、黙示の使用貸借契約に基づく本件バルコニーの利用権を主張する。

1  マンション等の居室の賃貸借において、構造上、当該目的物たる居室の専用的な利用に供されるバルコニーがこれに接続している場合には、居室のみについて賃貸借契約が締結されたときでも、特に反対の意思表示がない限り、バルコニーについても居室の利用権と同一期限の専用使用権が設定されたと認めるのが相当である。

これを本件についてみると、《証拠省略》によれば、本件バルコニーは、広さ約一四・五平方メートルで、七〇一号室の南側に接続し、構造上七〇一号室からの出入りができるだけであること、また、平成元年一〇月ころ、被告が、原告の要請に応じて、もとの住居たる三階のB室から七〇一号室に移転することを合意するに先立ち、原告側の担当者河村某と共に七〇一号室内とバルコニーの構造を現認したことが認められ、他方バルコニーの利用につき特段の制限が付されたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告は被告に対し、七〇一号室の賃貸借契約締結の際、これに付随して、本件バルコニーについて黙示的に専用使用権を設定していたと認めるのが相当である。

2  しかしながら、バルコニーは建築構造上躯体の一部であり、管理上も共用部分と考えるのが一般的であるから、居室の居住者の専用使用権が認められるとしても、建物の居住者等の、緊急時の避難を妨げ、もしくは建物自体の維持、管理を妨げ、老朽化の原因となり、あるいは建物の美観を害するような利用は、その性質に照らしても予定されていないものと解するのが相当である。

《証拠省略》によれば、本件物置はスチール製で間口一・五メートル、奥行九〇センチメートルであり、人の背丈程度の高さを有するものであり、取り外して移動させるには相当な時間と労力が必要であること、さらに、この物置の設置により、物置と床あるいは外壁との隙間に落ち葉等のごみが溜まり、排水の妨げとなるなど建物の老朽化を促す一因ともなりうること、防水工事自体は不可能ではないが、本件物置のような重量の物に対応させるには、より高度の工事が必要となり、原告に予想外の出費を強いることになること、また、外観の点でも、本件建物はオフィス街に立地するので、住宅地以上にバルコニーに物を置かない等の配慮をし、美観を保つことが賃貸物件としての価値の維持に必要であることが認められる。

そうだとすると、本件物置の設置は、本件バルコニーの性質に照らして通常の利用の範囲を超えているものというべきである。

なお、《証拠省略》によれば、被告が七〇一号室に入居する以前に、元の居住者がバルコニーに物置を設置しており、被告入居時にも、その土台のブロックが残っていたこと、右ブロックは七〇一号室の元の居住者が設置したものではあるが、原告担当者は室内及びバルコニーの改装工事の見積りの際右ブロックの存在を予め知りうる状況にあったことが認められるが、このことをもって、直ちに原告が物置の設置を黙示的に承諾していたと判断するのは相当でない。そして、他に、原告が本件物置の設置を黙認していたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の抗弁は採用できない。

三  結論

以上のとおり、原告の本件請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石垣君雄)

<以下省略>

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