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東京地方裁判所 平成11年(ワ)70198号 判決 1999年7月28日

平成一〇年(手ワ)第九二八号、平成一一年(ワ)第七〇一九六号、第七〇一九七号、第七〇一九八号、第七〇一九九号事件各原告

乙野二郎

右訴訟代理人弁護士

高橋勉

平成一〇年(手ワ)第九二八号事件被告

株式会社フジテレビジョン

右代表者代表取締役

日枝久

右訴訟代理人弁護士

松尾翼

森田貴英

村上義弘

加藤君人

吉田昌功

右株式会社フジテレビジョン補助参加入

國新産業株式会社

右代表者代表取締役

須藤國夫

右訴訟代理人弁護士

内藤貞夫

財津守正

田中昭人

平成一〇年(ワ)第七〇一九六号事件被告

株式会社フジアール

右代表者代表取締役

片貝憲二

平成一〇年(ワ)第七〇一九七号事件被告

理想科学工業株式会社

右代表者代表取締役

羽山昇

平成一〇年(ワ)第七〇一九八号事件被告

株式会社永瀬工業所

右代表者代表取締役

永瀬英一

平成一〇年(ワ)第七〇一九九号事件被告

株式会社三国製作所

右代表者代表取締役

渡邉正宏

右被告四名訴訟代理人弁護士

内藤貞夫

財津守正

田中昭人

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  平成一〇年(手ワ)第九二八号事件(関係する手形は別紙手形目録一の手形)

被告株式会社フジテレビジョンは、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月三一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  平成一一年(ワ)第七〇一九六事件(関係する手形は別紙手形目録二①ないし③の手形)

被告株式会社フジアールは、原告に対し、金二三八五万七一七五円及び内金三八五万七一七五円に対する平成一〇年四月三〇日から、内金二〇〇〇万円に対する平成一〇年五月三一日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え

3  平成一一年(ワ)第七〇一九七号事件(関係する手形は別紙手形目録三①②の手形)

被告理想科学工業株式会社は、原告に対し、金六〇一万二七八五円及びこれに対する平成一〇年四月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  平成一一年(ワ)第七〇一九八号事件(関係する手形は別紙手形目録四の手形)

被告株式会社永瀬工業所は、原告に対し、金一三万円及びこれに対する平成一〇年四月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え

5  平成一一年(ワ)第七〇一九九号事件(関係する手形は別紙手形目録五①ないし④の手形)

被告株式会社三国製作所は、原告に対し、金一四六八万五〇〇〇円及び内金七〇二万五〇〇〇円に対する平成一〇年四月三〇日から、内金七六六万円に対する平成一〇年五月三一日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、被告ら振出にかかる別紙手形目録一ないし五記載の手形(合計一一通。以下「本件手形」という。)について、それぞれの手形金とこれに対する満期からの手形法所定の年六分の利息の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実(請求原因)

1  原告は本件手形を所持している。

2  被告らは本件手形を振り出した。

3  本件手形は、支払呈示期間内に支払場所に呈示された。

二  争点(抗弁)

本件手形一一通は、被告ら振出にかかるものであるが、これらを補助参加人國新産業株式会社が会社建物内金庫に保管中、他の手形七八通とともに平成一〇年二月二三日夜から翌二四日早朝にかけて盗難にあったもので(盗難手形の合計枚数は八九通)、盗難後に本件手形を取得した者は、原告も含めて盗難手形であることを知りながら又は重大な過失によりこれを取得したものであるか否かである。

第三  争点に対する判断

一  前提事実

証拠(甲一の1ないし3、五、六、丙一の1ないし15、二の1ないし28、四の1・2、五の1ないし63、六の1・2、七ないし一一、一二の1ないし3、一八の1ないし22、一九の1ないし5、三三ないし三五、三八、証人川田寛、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件手形一一通は、補助参加人國新産業株式会社が取引先から振出又は裏書交付を受けて東京都北区東田端<番地略>所在の補助参加人会社事務室金庫内に保管していたところ、平成一〇年二月二三日夜から翌二四日朝にかけて事務室が荒らされ、他の約束手形七八通、補助参加人の社判及び代表印とともに盗難にあったものである(盗難にあった手形の枚数は八九通、額面金額合計一億九九〇七万三五四五円)。補助参加人國新産業株式会社は、盗難発覚後直ちに警察に被害届を提出するとともに、東京簡易裁判所(手形六〇通)、立川簡易裁判所(手形七通)、町田簡易裁判所(手形一通)、川口簡易裁判所(手形四通)、久喜簡易裁判所(手形一通)、千葉簡易裁判所(手形一通)、土浦簡易裁判所(手形一通)、真岡簡易裁判所(手形一通)、足利簡易裁判所(手形二通)、群馬富岡簡易裁判所(手形一通)、桐生簡易裁判所(手形二通)、名古屋簡易裁判所(手形三通)、大阪簡易裁判所(手形三通)、藤岡簡易裁判所(手形一通)に対しそれぞれ盗難手形についての公示催告の申立てをする手続をした。

2  本件手形の振出人である被告らを含め八九通の盗難手形の各振出人や裏書記載のある補助参加人國新産業株式会社の下には、同年三月初旬から下旬にかけて、全国各地から割引依頼を受けたと名乗る金融業者等から振出確認の電話や問い合わせが頻繁にあったが、被告らを含む各振出人や裏書記載のある補助参加人國新産業株式会社は、それらの確認や問い合わせを受けた場合には、盗難手形である旨を明確に説明した。

3  右盗難後、何者かが、別紙手形目録一の手形については第二裏書人欄に、同目録二ないし五の各手形については第一裏書欄に、それぞれ窃取した補助参加人國新産業株式会社の社判と代表印を用いて補助参加人の裏書を偽造した本件各手形を流通においた(また、本件手形と同時に盗まれたその余の七八通の手形についても、第一裏書人欄又は第二裏書人欄に同様の方法で補助参加人の裏書記載がされて流通におかれた。)。

4  原告は、本件手形の入手状況等につき、概ね次のように述べている(甲六の陳述書及び原告本人尋問)

「原告は、暴力団「乙野」の組長であるところ、訴外川田寛(以下「川田」という。)とは二〇年位前からの知り合いであり、川田に対しては三〇〇〇万円位の貸金があった。これまで手形を扱ったことは一、二回あるが、自ら大量の手形を受け取り、自己の名で取り立てに出したのは今回が初めてである。平成一〇年三月二〇日ころ、川田から上場会社振出の手形を割ってほしいと依頼があった。当日前橋の東急インで川田が相手と取引するというので東急インまで行ったところ、総額一億五〇〇〇万円から二億円位の手形を割り引くので八〇〇〇万円位用意してくれとの話であった。

その場で数枚の手形を見せてもらったところ、手形の中にはフジテレビなどの有名企業振出の手形も含まれていたので、五〇〇〇万円を準備することとした。三月二〇日深夜に知人等から借りて一五〇〇万円を用意して川田に渡した。その後親しくしている金融業者一倉信夫から三〇〇〇万円を借りるなどして三五〇〇万円の資金を作り、これを三月二四日に川田に渡した。このようにして川田には合計五〇〇〇万円を渡した(但し、川田は原告からは三〇〇〇万円又は四〇〇〇万円を受け取ったとして原告と食い違う供述をしている。また、原告からは、その主張に係る川田に対する合計五〇〇〇万円の金員交付を裏付けるような適確な客観的証拠は提出されていない。)。川田からは翌二五日に自宅で本件手形を含む八〇通の手形(額面合計約一億五〇〇〇万円)を受け取ったが、その殆どにつき川田に裏書をしてもらった(その八〇通の手形の明細は別紙手形一覧表A記載のとおりであると推定される。)。自分としては、長年の知人の川田の持ち込んだ話であり、これらの手形は振出人がしっかりした会社で間違いなく決済されるであろうと信じ、これらが決済されれば川田に対する貸金合計八〇〇〇万円や金利も回収できるので、前記のような経緯で川田から本件手形を含む八〇通の手形の裏書譲渡を受けたものである。」

5  次に、川田は、本件手形を含む盗難手形八九通の入手状況等につき、概ね次のように述べている(甲五の陳述書及び川田の証言)。

「自分(川田)は、昭和五二年ころ独立してトラック部品の製造販売等を目的とする会社を経営する傍ら、不動産や金融ブローカーの仕事もしている。乙野とは約二〇年位前からの知り合いで、同人には約三〇〇〇万円位の借金がある。平成一〇年三月中ばころ、かねてからの新潟の知人である青瀬氏(サッシ会社取締役)に紹介された、新潟県土木建設事業協同組合の理事長で岩室村村議会議長をしているという芹澤強から電話があり、「上場会社振出の手形二億円を割り引いてくれ」との内容であった。当初は一億円位で割り引いてくれとの話であった。それは無理と断ると、とにかく急いでいるので半分の五〇〇〇万円位でも、それ以下の四〇〇〇万円でもいいという話であった。自分としても悪くない話なので同月二〇日に手形の確認方々前橋市内の東急インホテルで会うこととなった。当日約束の場所に赴いたところ、芹澤や会田次一郎ら四名が来ていた。東急インで芹澤らから手形を見せられ、この手形をどのように入手したのか尋ねたところ、「知り合いから割引を頼まれている。」と言うのみであった。芹澤らは当日四〇〇〇万円を要求したが、自分としては二〇〇〇万円しか準備できなかった。芹澤から数枚の手形を預かり、原告に手形を見せて四〇〇〇万円の金策を依頼したところ、二四日まで待ってくれとのことであったので、この旨芹澤らに伝えて二四日に決済することとなった(川田は、証言の中で、事前に二〇日当日に四〇〇〇万円用意する約束を芹澤らとしていたが、それができなかったのでペナルティーとして二〇日に一〇〇〇万円支払った旨述べるが、内容的に不合理で、客観的裏付けがなく、到底信用できない。)。そして、二〇日深夜に原告から一五〇〇万円を借り、更に二四日に二五〇〇万円を借りた。二四日に四〇〇〇万円を用意し、高崎駅東口のファミリーレストラン「スカイラーク」で芹沢の代理人として来ていた三名の者に四〇〇〇万円を渡し、本件手形を含む八九通の手形を受領した。その後すぐに原告の家を訪れ、八〇通の手形を渡した。残りの九通は自分が手元に留保した(なお、川田から原告に交付された手形八〇通が別紙手形一覧表A記載のものであり、同一覧表B記載の八通とその他一通が川田の手元に留保されたものと推定される。)。」

6  本件手形を含む八九通の手形の中には、株式会社フジテレビジョン、理想科学工業株式会社、株式会社バンダイなど著名企業のものが含まれている。また、右八九通の手形の満期は、川田や原告が本件手形を取得した三月二四日には既に満期が来ているものが三通ある(額面合計約一一〇〇万円、丙一二の1ないし3)。また、満期到来まで一週間足らずの三月末日のものが七通(額面合計約三二〇〇万円、丙五の6、7、56、57、61、62、63)、四月二日のものが二通(額面合計約八〇〇万円、丙五の58、59)あり、上記手形を含めて半数以上の四五通が四月末日までに満期が到来する。

7  本件手形を含む八九通の手形には、補助参加人國新産業株式会社以降の裏書人として、「東京都世田谷区北烏山<番地略>三井田商店 金澤光二」又は「千葉市大宮町<番地略>清水春吉」の記載がされ、それに引き続く裏書人として川田又は「新潟市月見町<番地略>イストワール三〇三株式会社チュウエイクリエント 代表取締役中村舜次郎」の記載がされたものが多数ある(本件目録一の手形は、「補助参加人→清水春吉→チュウエイクリエント→川田→原告」、同目録二①②③の手形は「補助参加人→三井田商店(金澤光二)→川田→原告」、同目録三①の手形は「補助参加人→清水春吉→チュウエイクリエント→川田→原告」、同三②の手形は「補助参加人→川田→原告」、同目録四の手形は「補助参加人→三井田商店(金澤光二)→川田→原告」、同目録五①の手形は「補助参加人→清水春吉→チュウエイクリエント→川田→原告」、同五②③の手形は「補助参加人→三井田商店(金澤光二)→川田→原告」、同五④の手形は「補助参加人→川田→原告」という裏書記載となっている。)。

しかし、「三井田商店」に関しては、右所在地における店舗や営業の形跡はなく、右所在地に「金澤光二」の住民票はない。また「清水春吉」についても該当の住所地に住民票はない。丙三八によれば、株式会社チュウエイクリエントは、賃借したビル事務室賃料を平成九年四月分から平成一〇年三月分まで約一年滞納した上夜逃げ同然に退去したことが認められ、巨額の手形割引ができるような経済状態になかったと推認される。また、川田と本件手形を含む八九通の手形の割引依頼をした芹澤は今回が初めての取引であったと認められるところ、芹澤についてはその素性はともかく信用、資産等は、明らかでなく、本件手形不渡りとなった後、原告や川田において不渡りとなったことの責任追求を芹澤らに行った形跡はない。なお、芹澤は、平成一〇年一〇月ころ病気により死亡した。

二  以上の事実に基づき判断する。

1  川田の悪意又は重過失について

(一)  本件手形を含む八九通の手形の中には株式会社フジテレビジョン、株式会社バンダイ、理想科学工業株式会社等著名企業が含まれ、その他の振出人もこれに準ずる優良企業であることが窺われるところ、川田に本件手形を持ち込んだ芹澤らがどのような経緯でこれら手形を入手したかは判然としないが、一般的に金融機関でもない者がこのような上場会社振出の手形も混じった優良企業振出にかかる額面総額二億もの多額、大量の手形(しかもその中には後記のように既に満期が到来していたり、満期が間もなく到来するものが多数ある)を所持していること自体異常なことといわなければならない(一般に、優良企業振出の手形は受取人から直接銀行等の金融機関に割引ないし取立てに出されるのが普通であり、いわゆる回り手形として銀行以外の町の金融業者により割引されたり、振出人や受取人の取引先以外の法人又は個人を転々流通することは稀であることは公知の事実である。なぜなら、そのような信用のある手形を取得した者としては、満期まで現金入手の必要がない場合は自己又は銀行等に預けて手形を保管することで足り、満期前に現金入手の必要が生じた場合には銀行等の金融機関により低い割引率で容易に割り引いてもらうことができ、これを高額の割引料を支払って町の金融業者その他の者に割り引いてもらう経済的必要がないからである。)。

(二)  これを、本件手形を含む八九通の手形について具体的に検討すれば、

ア  一般に上場企業やこれに準ずる企業振出の手形は、前記のように個人や取引先以外の第三者を被裏書人として転々流通することは極めて稀であるのに、本件手形を含む八九通の手形の中には個人である清水春吉や三井田商店(金澤光二)の裏書記載がされたものが多数ある(なお、本件訴訟で問題になっている手形に関しては、清水春吉の裏書のあるものは目録一、三①、五②の各手形であり、三井田商店(金澤光二)の裏書のあるものは目録二①②③、四、五②③の各手形である。)、

イ  右八九通の手形の満期は、川田や原告が本件手形を取得したという平成一〇年三月二四日には、既に満期が来ているものが三通あり(額面合計約一一〇〇万円、丙一二の1ないし3)、満期到来まで一週間足らずの三月末日のものが七通(額面合計約三二〇〇万円、丙五の6、7、56、57、61、62、63)、四月二日のものが二通(額面合計約八〇〇万円、丙五の58、59)あって、ことさら高額の割引料を支払って他に割り引いてもらう必要がないものがある。また、半数以上の四五通が約一か月強後の四月末日までに満期が到来する、

ウ  本件手形を含む八九通の手形の額面総額は約二億円に近いが、振出人が優良企業であることは芹澤らや川田も認めているところ、優良企業振出の満期の近い手形をそのまま額面の五分の一近い四〇〇〇万円で割引依頼してくること自体通常では考えられない異常な申し出である、などの事情がある。

(三)  これらからすれば、川田は、芹澤らが本件手形を含む八九通の手形を持っていること自体、更にそれら額面約二億円もの手形をわずか四〇〇〇万円の金額で割引してもらいたいとの依頼をすることの異常性を十分認識し得たというべきであり、芹澤らがこれら手形を正常な取引により入手したのかについて強い疑問を持って然るべき状況にあったと認められる。

ところで、手形所持者が手形を適法に所持するについて疑問があるときは、割引を依頼された者としては、当該手形の入手経路について納得し得る説明を求めるべきであり、もし合理的な説明を得られない場合は更に適宜振出人や受取人、支払銀行等に正常な手形であるかどうか、盗難や紛失などの届けは出されていないかどうか照会するなどの調査を行うべきであって、こうした調査を怠った場合には、仮に善意であったとしても、重過失あるものとして善意取得の成立が否定されることもあるといわなければならない(なお、手形所持人の手形所持について疑念があるときは、振出確認などの調査義務があるとした最高裁昭和五二年六月二〇日判決、判例時報八七三号九七頁参照。)。しかるに、本件の場合、川田は、芹澤らに本件手形の入手経路について質問はしたものの、同人らの「知り合いから割引を頼まれた。」との説明を聞いたのみで、それ以上の振出人に対する確認などの作業を行っておらず、これらの事実に照らすと、川田は本件手形を含む八九通の手形が盗難手形であることを予知していたか、少なくとも芹澤らが右八九通の手形を適法に所持することについて相当の調査を怠ったもので、重過失があることは明らかである。

2  原告の悪意又は重過失について

そして、原告は、川田とは二〇年前位から知り合いで、川田の経営する会社の監査役となる(丙八)など極めて親しい関係にあったところ、平成一〇年三月二〇日に川田と芹澤らの取引が行われた前橋の東急インに赴き、数枚の手形を示されて四〇〇〇万円又は五〇〇〇万円の融資依頼をされるなどしており、これらからして原告は、川田から、川田の取引の相手方、川田と割引依頼者との取引の内容などについては説明を受けて、その概要の把握をしていたとみるのが相当であって、原告としては、川田に本件手形等の割引依頼をした者が一流企業振出の手形も混じった額面総額約二億円もの多数の手形を所持していることの異常性を十分認識し得る立場にあったと認められる。しかも、原告は、川田から、本件手形を含む八〇通(額面総額約一億五〇〇〇万円)の手形を交付されたものであるが、その対価として原告が川田に渡したのは原告の供述するところによっても五〇〇〇万円であり(仮に、原告がそれまで川田に貸し付けていた三〇〇〇万円を加えても八〇〇〇万円)、上場企業やそれに準ずるような優良企業振出の手形にかかる割引金額としてはその額面に比し異常に低い金額である上、右八〇通の手形の中には、裏書人に個人が記載されていたり、満期が既に到来していたり間もなく満期が到来する手形が多数含まれているなどの1(二)アイに記載したような正常な手形割引取引とみるにはあまりに不自然な諸事情があることも容易に看取し得たと認められるのである。以上からすれば、原告も川田に割引依頼をした人物が本件手形を含む多数の手形を所持するについてその適法性について強い疑問を抱いて然るべきであって、単に川田から「一流企業振出の手形の割引依頼を受けている。」旨の説明を聞いただけでは足りず、川田本人や川田を通じて川田に割引依頼をした者から手形の入手状況について納得し得る説明を求めるべきであって、納得し得る説明が得られない場合には適宜振出人や受取人、支払銀行等に正常な手形であるかどうか、盗難や紛失などの届出はされていないかどうか照会するなどの調査を行うべき立場にあったといえる。しかるに、原告が川田や川田への割引依頼人に対してこのような説明を求めず、振出人や大部分の手形の受取人である補助参加人國新産業株式会社、支払銀行に前記のような確認をしていないことは原告の自認するところであって、原告としても本件手形取得につき少なくとも重過失は免れない。

3  なお、本件手形の補助参加人國新産業株式会社以降の裏書人として記載されている「清水春吉」や「三井田商店(金澤光二)」は、本件手形上の住所に住民票がなく、右住所地における営業の形跡もなく、このような存在するかもわからないような素性のわからない者から手形の裏書譲渡を受けた「株式会社チュウエイクリエント」も正当な取引による手形被裏書人と認めることはできず、川田に手形割引依頼をした芹澤らもその手形金額、枚数、手形の裏書人記載や満期の記載から正規の取引により本件手形を含む八九通の手形を入手したものではないことが容易に推認されるから、これらの者について善意取得を認めることは到底できない。

三  以上によれば、本件手形は、補助参加人國新産業株式会社が被告らから振出された手形を会社事務室金庫内に保管中盗難に遭ったものであり、原告はこれらを所持しているが、盗難後本件手形の裏書譲渡を受けた者は、原告を含めていずれも善意取得が成立しないから、原告の請求は理由がないというべきである。

第四  結論

よって、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官豊田建夫)

別紙手形目録<省略>

別紙手形一覧表<省略>

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