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東京地方裁判所 平成11年(ワ)11776号 判決 1999年11月15日

原告

桐浴良安

被告

旭化成工業株式会社

右代表者代表取締役

山口信夫

右訴訟代理人弁護士

三宅雄一郎

苅野浩

西舘勇雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、退職金二七〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月一六日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合で複利計算をして求めた遅延損害金を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案の答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三六年四月に被告に入社した後継続して勤務していたが、被告が平成五年一二年一五日付けで原告に対してした解雇の意思表示(以下「本件解雇」という)により被告を退職した。

2  本件解雇は不当解雇であり、原告は、被告の不当解雇により、定年年齢である満六〇歳前の平成五年一二月一五日時点の五六歳四か月で退職したものであるから、早期退職により優遇された退職金が支給されるべきものである。

原告は、被告の満五五歳到達時の早期退職の優待退職金は、満五五歳到達直前の給与(月額総額)の五〇か月分に早期退職による優待加算分を加えたものと聞いており、原告の満五五歳到達直前の給与月額は、本給三九万二〇〇〇円、総額(本給に諸手当を加算したもの)四四万〇七七〇円であった。

また、原告は、原告の満五五歳の誕生日の少し前である平成四年八月五日に、上司の大園正樹川崎製造所所長から、原告が満五五歳到達時に退職する場合には退職金二七〇〇万円が支給される旨言い渡されており、原告の退職はその後一年以上勤務した後であるから、その間の原告の貢献及び被告の不当解雇によるペナルティを加えると、原告の退職金額は二七〇〇万円を上回ることは明らかである。

3  原告は、被告に対し、平成一〇年一二月三日付けで退職金支払の催告をした。また、原告は被告に対し、退職金の支給遅延による損害金は一年ごとに元金に組み入れる旨の連絡をしており、原告に支給されるべき退職金と支給遅延損害金の合計額は複利計算をして求めた額となる。被告の支払うべき遅延損害金の利率は、退職金については給与と同様に扱うべきことから、賃金の支払の確保等に関する法律六条所定の年一四・六パーセントである。

4  よって、原告は、被告に対し、退職金二七〇〇万円及びこれに対する弁済期の後である平成五年一二月一六日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合で複利計算をして求めた遅延損害金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件訴えは、別件訴訟の確定判決の既判力に抵触し、不適法であり却下されるべきである。

被告のグループ会社所属の社員で構成されている旭化成グループ福祉共済会(以下「訴外共済会」という)が、本件原告を被告として提起した住宅ローン借入金の代位弁済に基づく求償金請求訴訟において、原告は訴外共済会が原告の所有不動産に仮差押を行ったこと及び右仮差押申立事件において本件解雇は被告が原告に対し諭旨解雇処分としておこなったものであると指摘したことが不法行為に該当するとして損害賠償請求の反訴(以下本訴反訴を併せて「別件<1>求償金訴訟」という)を提起するとともに、被告のした本件解雇の効力を争い、被告に対する退職金請求権が存在するとして訴外共済会の原告に対する求償金債権との相殺を主張したが、訴外共済会は、被告のために本件解雇の有効性及び退職金請求権の不存在を主張して被告の訴訟担当者として訴訟追行を行った。その結果、本件解雇の有効性を認め、原告の退職金請求権は不存在であるとする判決が言い渡され、右判決は原告の上告棄却により確定しているが、本件訴えは、別件<1>求償金訴訟の既判力に抵触する不適法なものである。

2  本件訴訟は訴訟提起権の濫用であり、不適法である。

(一) 原告は、被告に対し、本件解雇前の平成五年一〇月一八日に被告が原告に対してした出勤停止処分(以下「本件出勤停止処分」という)が違法で無効であるとして損害賠償請求訴訟(以下「別件<2>出勤停止訴訟」という)を提起したが、右事件において、被告のした出勤停止処分は有効であるとして、原告の請求棄却の判決が言い渡され、原告の上告棄却により確定している。

(二) 原告は、被告に対し、原告が被告に対して提起した適格年金支払請求訴訟(以下「別件<3>適格年金訴訟」という)において、被告が原告を諭旨解雇処分により解雇したと主張したことが、原告の名誉を毀損する不法行為に該当するとして、損害賠償請求訴訟(以下「別件<4>損害賠償訴訟」という)を提起したが、右事件についても、原告の請求棄却の判決が言い渡され、原告の控訴も棄却されている。

以上のとおり、原告は、前記1の別件<1>求償金訴訟並びに別件<2>出勤停止訴訟及び別件<4>損害賠償訴訟において、本件解雇の有効性及び原告の退職金請求権の不存在につき確定判決を受けているのに、本件解雇をめぐる問題を蒸し返しては訴訟提起する行為を繰り返しているもので、本件訴えは訴訟提起権の濫用に該当する。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

1  別件<1>求償金訴訟の原告(反訴被告)は、訴外共済会であり、本件訴えは右訴訟の既判力によって遮断されない。

2  別件<1>求償金訴訟、別件<2>出勤停止訴訟及び別件<4>損害賠償訴訟のいずれにおいても、原告と被告間における本件解雇の効力及び原告の退職金請求権の存否につき既判力を生じておらず、本件訴えの提起は訴訟提起権の濫用に当たらない。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実のうち、原告が、被告に対し、平成一〇年一二月三日付けで退職金支払いの催告をした事実及び原告主張の複利計算に関する一方的通告をした事実は認め、その余は否認する。

五  抗弁

1  被告は、次のとおりの事実関係の下で、平成五年一二月一日、原告に対し、諭旨解雇処分として本件解雇をおこなったものである。

(一) 原告は、被告の川崎製造所に勤務中、根拠もなく社内秩序の維持が自分の職務であると称して、上司の業務指示を無視して、指示された業務を全く行わず、被告の組織批判を行ったり、何の根拠もなく被告の特定の社員を懲戒処分対象者であると公言し、文書で個人攻撃をして右社員の懲戒を要求し、あるいは上司からの文書による正式な業務命令及び警告に対し、これを偽の文書であるとする文書を発信するなどの行為を継続し、職場秩序を乱す行為を繰り返したため、被告は、右一連の行為を行った原告は、被告の就業規則九九条三号所定の「職責者の正当な業務命令に従わない者」に該当するとして、平成五年一〇月一八日、就業規則一〇〇条二号により、本件出勤停止処分に付した。

(二) これに対し、原告は、本件出勤停止処分の懲罰処分状も偽物であると主張してこれに従わず出勤を強行しようとした上、原告の出勤強行を阻止した者の処罰を求める行動をしたり、出勤停止処分中に公用研究のために出張したなどと称して交通費を要求したりし、本件出勤停止処分を無視する態度に終始した。また、原告は、その後の上司からの文書による業務指示及び警告に対しても、再度偽文書であると主張してこれらを無視し、上司こそ懲戒対象者であるとしてその懲戒処分を求める行動を展開するなど、改悛の可能性すらも全く認められなかった。

(三) 右(二)の原告の行為は、業務指示に従わない点は諭旨解雇又は懲戒解雇事由を定めた就業規則九九条三号の「職責者の正当な業務命令に従わない者」に、出勤停止処分を受けた後も勤務態度が改まらなかった点は同条一六号の「勤務態度が著しく不良で、戒告されたにもかかわらず改悛の情を認めがたい者」に、上司の業務指示文書及び警告文書等の社内文書を偽文書とし、上司を懲戒対象者であるとするなどの文書を発信した点は同条二九号の「前各号に準ずる程度の不都合の行為があった者」にそれぞれ該当することから、被告は、原告に弁明の機会を与えた上で、所定の手続を踏み、原告は被告会社において主事の地位にあり、その職責にある原告が一連の行為により被告会社の秩序を著しく混乱させた責任は極めて重く、懲戒解雇に相当するところであるが、原告の年齢、勤続年数等を考慮してその懲戒処分を一段階下げた諭旨解雇処分にすることとし、かつ、諭旨解雇の場合は、退職金規程四条本文により、原則として退職金は支給されないが、同条ただし書により諭旨解雇の場合に限って情状により一定の範囲内で退職金を支給するとされていることから、結論として、平成五年一二月一日に、同月一五日付けで原告を諭旨解雇処分とする、ただし、原告が退職・清算手続に協力し、同月一五日までに一切の手続を完了する場合には情状酌量を認め、退職金規程に基づき退職金を支給する旨の決定をして、同月一日原告に対し告知したものである。

2  ところが、原告は、諭旨解雇の懲罰処分状についても偽文書であるとして受領を拒否する態度をとり、さらに同年一二月一五日までに退職に伴って行うべき諸手続に応じようとせず、被告会社の担当者が円満な手続の進行を図るために原告の説得を行い、退職及び清算手続の期間についても同月二四日まで延長して手続の履行を促したが、原告は全く応じようとせず、同月二四日が経過したことにより、原告に対する退職金は支給されないことが確定した。

六  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。被告のした諭旨解雇処分は、その理由とする事実関係がいずれも存在しないから無効であり、本件解雇は、諭旨解雇処分としてされたものではなく、被告のした事業主都合による普通解雇であり、被告は原告に対する退職金の支給を拒否することはできない。

第三理由

一  本案前の被告の主張について

被告は、本件訴えが、別件<1>求償金訴訟の既判力に抵触する旨主張するが、右訴訟の当事者は原告と訴外共済会であり、被告の主張は失当である。

また、本件訴えは、原告が被告を退職したことに基づく退職金請求権を訴訟物とするところ、原告と被告間の、別件<2>出勤停止訴訟及び別件<4>損害賠償訴訟は、いずれも訴訟物及び争点について本件訴えと異なっていると認められるから、本件記録上、本件訴えの提起が訴訟提起権の濫用であるような事情も認められず、被告の主張を採用することはできない。

二  本案請求について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の事実のうち、退職金額の算定の内容について争いがあるが、被告は、そもそも本件解雇は諭旨解雇処分によるものであり、被告会社の退職金規程上、諭旨解雇による退職の場合は退職金は不支給とされていると主張するので、まず、被告の原告に対する諭旨解雇処分の成否につき判断する。

(一) 本件証拠によれば、以下の各事実が認められる(各認定事実末尾に記載したものの他、(書証略)による。なお、原告は、(書証略)は偽造文書であるとして成立を否認しているが、これらは、いずれも被告会社の取締役又は社員を作成名義人とする懲罰処分状、警告書及び業務指示書等の文書で被告が提出しているものであり、成立に争いのない(書証略)並びに弁論の全趣旨により、真正に成立したものと認められる)。

(1) 原告は、昭和五二年から被告の川崎製造所内の研究所等に勤務していたが、周囲とのトラブルにより、平成元年四月から川崎製造所の所付に配置転換となった。所付の職務は、川崎製造所のスタッフとして、上司から与えられたテーマを調査研究する業務であり、その業務指示は、川崎製造所副所長から直接原告に対して出されていた。

平成五年当時の原告の職階は主事であり、記号では「F1」の職階で課長相当の資格であったが、被告では慣行として、係長相当以上の資格の者を職責者と呼んでいた。

(2) 原告は、川崎製造所所付となった後、自己の職務は社内秩序維持であるとして、上司から指示された業務を全く行わず、被告の組織批判を行ったり、被告の特定の社員を懲戒処分対象者と公言し、文書で右社員の懲戒を要求するなどしていた。

(3) 被告の川崎製造所所長である大園正樹(以下「所長」という)及び原告の直接の上司である副所長の藤田忠宏(以下「副所長」という)は、次のとおり、原告に対し、上司の業務指示に従って正常業務に従事するよう再三注意・指導を繰り返したが、原告はこれに従わず、副所長を上司と認めることも拒否し、さらには副所長も懲戒対象者と主張するなどの行為を行った。

<1> 所長は、原告に対し、平成五年三月二三日付けの「指揮命令系統の件」と題する書面を送付して、原告の一次上司は副所長、最終上司は自分であり、今後副所長の業務指示に従うよう指示した。これに対し、原告は、同月二二日、所長宛てに「偽の書類について(連絡)」と題する文書を発信し、所長が送付した文書は偽の文書であると主張して、所長の指示を無視してこれに従おうとしなかった(書証略資料一、二。以下単に「資料一、二」等と記載する)。

<2> 所長は、原告に対し、同年八月一二日付けの「業務命令」と題する書面により、再三にわたる注意、指導にもかかわらず、一次上司である副所長の業務指示に従わず、さらには暴言を吐き、反抗的態度をとることは言語道断で看過できないとして、厳重に注意し、副所長の業務指示に従い業務を行うよう命ずるともに、経営状況に鑑み、原告のソフトウエアを被告の費用により購入することは予算執行上認めることはできない旨伝達したが、原告は、右文書についても再び所長宛てに文書を発信して、偽文書であると主張し、所長の指示に従おうとしなかった(資料三、四)。

<3> 所長は、同年九月一日付けの「業務命令」と題する書面により、原告が副所長からの業務指示を拒否した事実四件について指摘するとともに、所長が既に口頭及び文書により申し渡しているように、所長及び副所長の業務指示に従って職務を遂行するよう命じ、併せて、どのようにすれば社員として被告に貢献できるか良く考え、良識ある行動をとるよう命令した。これに対し、原告は、同月二日付けで右も偽文書であるとの文書を発信し、所長の指示に従おうとしなかった(資料五、六)。

<4> 所長は、同年九月八日付けで、原告に対し、「警告書」及び「業務指示書」と題する各書面により、原告の業務命令拒否、上司に対する反抗的言動は許し難い服務規律違反であり、反省なくこのような行動を繰り返す場合には就業規則により懲戒処分を行わざるを得ない旨警告し、上司の業務命令に従うよう命じるとともに、経費節減につき、不要不急のものは購入しないよう指示しているにもかかわらず、原告が図書室に常置してある高額外国文献を購入しようとし、総務担当の女性社員から図書室備付けのものを利用するよう言われたのに対し、「図書室等にいけるか」との暴言を吐いて拒否した言動につき、厳重に注意し、以後経費削減に努力するよう命じた。ところが、原告は、同月八日、所長に対し、右各書面が偽文書であるとの文書を発信し、所長の指示に従おうとしなかった(資料七ないし九)。

<5> 副所長は、同年九月一〇日付けで、原告に対し、「業務指示」と題する書面を送付し、廃棄物対策及びコスト低減問題について議論するために、同月一四日午前八時四五分に副所長室に出頭するよう指示したが、原告は、同月一〇日付けで所長宛てに右書面は偽文書であるとの文書を発信し、副所長の指示に従わなかった(資料一〇、一一)。

(4) 被告の川崎製造所の勤労担当課は、同年九月一七日、被告の東京本社の人事部長宛てに、原告の右の一連の行為は被告の就業規則九九条三号所定の「職責者の正当な業務命令に従わない者」に該当するので、原告を懲戒処分に付するよう提案したため、人事部社員の山本益嗣が同月二一日に調査のため川崎製造所に赴き、所長及び原告から事情聴取をした。

その結果、被告は、原告の一連の業務命令違反行為を認定し、その違反の程度からして懲戒解雇処分にも相当するが、原告にとっては初めての懲戒処分であることを考慮し、原告に真摯な反省を促すため情状酌量の余地があると認め、同年一〇月一八日付けで、就業規則九九条三号及び一〇〇条二号に基づき、始末書を取り、同月一九日から二五日までの土、日を除く五日間の出勤を停止する本件出勤停止処分に付することとし(就業規則九六条三号。出勤停止処分は、始末書を取り七日以内の期間につき出勤を停止し、停止期間中の賃金は支給しない。資料一二)、その旨記載された懲罰処分状を原告に交付しようとしたが、原告はその受領を拒否し、コピーをとってコピーのみを持帰った上、所長宛てに、「懲罰処分状の件について」と題する文書を発信し、懲罰処分状は偽物であると主張した(資料一三、一四)。

原告は、本件出勤停止処分は無効であるとして出勤を強行しようとし、本件出勤停止処分が明けた一〇月二六日、所長らに宛てて、「業務妨害者の処罰について」と題する書面を提出して、原告の出勤を阻止した者の処罰を求め(資料一七)、また、同月二八日及び一一月一日には、本件出勤停止処分の期間中に公用で外出したと称して交通費及び費用を請求した(資料一八、一九)。

(5) 副所長は、同年一〇月二六日付けで、原告に対し、「業務指示」と題する書面を交付し、エネルギー効率化活動に関する調査等の業務の遂行を命じるとともに、同月二七日午後三時三〇分に副所長室に出頭するよう命じたが、原告は、同月二六日付けで所長宛てに、右書面は偽文書であるとの文書を発信し、副所長の指示に従わなかった(資料一五、一六)。

(6) 所長は、同年一一月八日付けで、原告に対し、「業務指示」と題する書面を交付し、本件出勤停止処分にかかる始末書を提出するよう指示するとともに、出勤停止中の費用の請求を行わないこと及び一次上司である副所長の指示に従うことを指示した。また、副所長も同日付けで、原告に対し、「業務指示並びに警告」と題する書面を送付し、同年一〇月二六日付けで指示した内容のエネルギー効率化に関する詳細打ち合わせのため、同年一一月九日午前九時一五分に副所長室に出頭するよう命じ、原告がなお右の指示を無視して服しない場合には、懲罰規定の適用もあり得る旨警告した。しかし、原告は、同月八日付けの文書により、右二通の書面は偽文書であり、副所長が自分の上司であることは認められず、副所長は解雇処分の対象者であるとする主張を行った(資料二二ないし二四)。

(7) 被告の従業員に対する懲罰に関し、F1職階以上の従業員の懲罰の決定権限は、被告の懲罰権限等に関する内規により、人事担当役員とされており、平成五年一二月一日当時の人事担当役員は、代表取締役副社長清水弘敏であった(資料二七)。

被告は、同年一二月一日、原告の一連の行為は、副所長及び所長の指示に従わなかった点は諭旨解雇又は懲戒解雇事由を定めた就業規則九九条三号の「職責者の正当な業務命令に従わない者」に、本件出勤停止処分を受けた後も勤務態度が改まらなかった点は同条一六号の「勤務態度が著しく不良で、戒告されたにもかかわらず改悛の情を認め難い者」に、本件出勤停止処分後も上司の作成した文書が偽文書であるとする文書の発信行為を継続している点は同条二九号の「前各号に準ずる程度の不都合の行為があった者」にそれぞれ該当し、主事という職責者の立場にあることを併せ考えれば、その情状は極めて重く、懲戒解雇にも相当するが、原告の年齢・勤続年数を考慮し、諭旨解雇処分に留めることとし、同年一二月一五日付けで諭旨解雇処分に付し、原告が退職・清算手続に協力し、同月一五日までに一切の手続を完了する場合には情状を認め、退職金規程に基づき退職金を支給するが、手続を完了しない場合は退職金は不支給とすることを決定し、代表取締役副社長清水弘敏が決済を行った(資料二五、二八。なお、被告の就業規則九六四号所定の「諭旨解雇」処分は、「諭旨退職」ではなく、懲戒解雇を退職金支給等の点で軽減した懲戒処分であると認められる。資料一二、二六)。

(8) 被告は、同月一日、原告に対し、右の諭旨解雇処分の内容を口頭で告知し、「懲罰処分の件」と題する被告人事部長作成の懲罰理由を記載した書面及び代表取締役副社長清水弘敏名義の「懲罰処分状」を交付しようとしたが、原告は偽文書であるとして受領を拒否した。

(9) 原告は、同月四日までは出勤していたが、その後体調不良であるとして欠勤したが、その間、被告の川崎製造所の勤労担当社員が原告の自宅を数度訪問するなどして、退職手続を進めるよう伝え、原告が退職・清算手続に応じないまま同年一二月一五日が経過したが、被告は退職・清算手続の期限を同月二四日までに延長し、同月二一日にも担当者が原告の自宅に赴き手続を行うよう促したが、原告は退職・清算の手続に応じなかった。

(10) 被告が作成した、原告の雇用保険被保険者離職票-2には、離職理由として「イ 解雇」に丸印が付されており、具体的な事情としては「諭旨解雇」と記載した(書証略)。

また、延岡公共職業安定所長作成名義の雇用保険被保険者離職票-1には、原告の被保険者資格の喪失原因として、「3 事業主の都合による離職」と記載されている(書証略)。

(11) 被告は、平成六年八月一二日、原告に対し、解雇予告手当として平均賃金一六日分から源泉徴収税を控除し、平成六年八月一二日までの利息を付した一五万一八五八円を支払った(書証略)。

(二) そこで、以上認定した事実により判断するに、原告は、本件出勤停止処分を受けたにもかかわらず、前記(一)(4)ないし(6)認定のとおり、本件出勤停止処分の懲戒処分状自体が偽物で処分は無効であると強弁して出勤を強行しようとするなどし、出勤停止期間経過後も副所長が自分の直接の上司であることを認めず、所長及び副所長の業務指示に全く従わない態度をとり続けた上、上司の作成文書が偽文書であるとする文書の発信を継続したものであるから、原告の右一連の行為は、被告の就業規則九九条三号、同条一六号、同条二九号に該当するものと認められ、被告が原告を諭旨解雇処分としたことは相当であると認められる。

そして、被告の退職金規程上、懲戒解雇又は諭旨解雇された社員には退職金は支給しないとされており、ただし、諭旨解雇の場合は、情状により一定の範囲内で退職金を支給することができると定められているところ、被告は、原告の年齢及び勤続年数を考慮し、情状により、原告が退職・清算手続に協力し、同月一五日までに(その後同月二四日までに延長)手続を完了した場合には、退職金規程に基づき退職金を支給するとしていたものであり、これに対し原告が退職・清算手続を行わないまま同月二四日を徒過したために、原告に対する退職金の不支給が確定した事実関係に照らせば、本件において被告がした諭旨解雇処分に伴う退職金支給条件に関する決定も相当で有効なものというべきである。

なお、原告は、被告が、その後予告手当を支払っていることからも、被告の諭旨退職処分は無効である旨主張するが、原告の右主張は失当であり採用できない。

三  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないから主文のとおり判決する。

(裁判官 矢尾和子)

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