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東京地方裁判所 平成10年(刑わ)209号 判決 1998年12月24日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収してある電子辞書一個(平成一〇年押第一五一九号の1)、ネクタイ一本(同押号の2)、スカーフ一枚(同押号の3)、ネクタイ一本(同押号の4)、帽子二個(同押号の5)、ネクタイ二本(同押号の6)、ポロシャツ二枚(同押号の7)、旅行時計一個(同押号の10)、スカーフ一枚(同押号の11)、バッグ一個(同押号の12)、ネクタイ一本(同押号の13)、スカーフ一枚(同押号の14)、札入一個(同押号の15)、ポロシャツ一枚(同押号の19)、コーヒースプーンセット(同押号の16)、皿一枚(同押号の8)、カフス一組(同押号の9)、テーブル時計一個(同押号の17)及びバッグ一個(同押号の18)を没収する。

被告人から金六八四万四五二六円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、平成六年七月一日から平成一〇年二月六日までの間、日本道路公団(以下、「道路公団」という)の経理部担当理事として同公団における政府保証付き外貨道路債券(以下、「外貨道路債券」という)の発行及び償還に関する事務等を掌理し、同債券発行にあたっての引受主幹事等の指名等の業務を統括していたものであるが、右外貨道路債券の引受けに関し、

第一  野村證券株式会社の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするノムラ・インターナショナルPLCが主幹事等の指名等を受けるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表一記載のとおり、平成六年七月二一日ころから平成八年一二月一三日ころまでの間、前後四一回にわたり、東京都千代田区紀尾井町<番地略>ホテルニューオータニガーデンコートビル二九階「ガーデンコートクラブ」等において、野村證券株式会社代表取締役副社長であったA、同会社常務取締役等であったBから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計二五四万六二二五円相当)を受け、

第二  株式会社日本長期信用銀行の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするLTCBインターナショナル・リミテッドが主幹事等の指名等を受けるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表二記載のとおり、平成六年七月三〇日ころから平成八年一一月二〇日ころまでの間、前後八回にわたり、埼玉県東松山市大字神戸<番地略>「清澄ゴルフ倶楽部」等において、株式会社日本長期信用銀行営業第五部部長であったC、Cの後任の同部部長であったDらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計五四万七九二〇円相当)を受け、

第三  株式会社さくら銀行の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするさくらファイナンス・インターナショナル・リミテッドが主幹事等の指名等を受けるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表三記載のとおり、平成六年九月二〇日ころから平成八年一一月二七日ころまでの間、前後一五回にわたり、スイス連邦ジュネーヴ市シャントゥプレ通り一一飲食店「都」等において、株式会社さくら銀行常務取締役であったE、さくら証券株式会社取締役であったFらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計六二万二九九円相当)を受け、

第四  株式会社日本興業銀行の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするIBJインターナショナルPLCが主幹事等の指名等を受けるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表四記載のとおり、平成六年九月二一日ころから平成九年四月上旬ころまでの間、前後二一回にわたり、ドイツ連邦共和国フランクフルトアムマイン市コンラート・アデナウアー通り七飲食店「ダイナスティー」等において、株式会社日本興業銀行常務取締役証券部長であったG、Gの後任の同部部長であったHらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計一五八万八二二一円相当)を受け、

第五  株式会社富士銀行の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするフジ・インターナショナル・ファイナンスPLCが共同主幹事等に選定等されるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表五記載のとおり、平成六年一〇月一〇日ころから平成八年一一月一九日ころまでの間、前後一一回にわたり、前記第二記載の「清澄ゴルフ倶楽部」等において、株式会社富士銀行本店営業第四部長であったJ、Jの後任の同部部長であったKらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計五七万七四六〇円相当)を受け、

第六  大和證券株式会社の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするダイワ・ヨーロッパ・リミテッドが副幹事に選定等されるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表六記載のとおり、平成六年一〇月一六日ころから平成八年一〇月一二日ころまでの間、前後八回にわたり、茨城県新治郡八郷町<番地略>「サミットゴルフクラブ」等において、大和證券株式会社専務取締役であったLらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計七七万一三五〇円相当)を受け、

第七  日興證券株式会社の関連会社として連合王国に設立された、債券の引受けなどを目的とするニッコウ・ヨーロッパPLCが副幹事に選定等されるに際して種々便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに接待等されるものであることを知りながら、別表七記載のとおり、平成六年一二月二一日ころから平成八年九月二九日ころまでの間、前後九回にわたり、東京都港区赤坂<番地略>飲食店「赤坂山崎」等において、日興證券株式会社公共法人部課長代理であったMらから、遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与(価額合計五四万三五八八円相当)を受け、

もって、それぞれ自己の前記職務に関して収賄したものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人らの主張に対する判断)

一  弁護人らは、本件公訴事実のうち、多くの部分は、社交儀礼として、慣行として、又は当事者間の懇親を目的とした個人的な交際として行われたものであり、当時の社会風土、接待慣行の実態からして、これらの行為は、社会的相当行為として違法性を欠くとして、一部無罪の主張をし、なお、その行為当時、被告人は、違法性の認識を欠いており、そのことについて相当な理由があったと主張する。そして、具体的に右の社会的相当行為に当るものとして、(1)社交儀礼、慣行として行われた海外接待であるとして、別表(略)、(2)慣行、社交儀礼として行われた担当者の交代に伴う顔合わせであるとして、別表(略)、(3)当事者間の個人的な懇親を目的とした個人的な交際であるとして、別表(略)を挙げて、無罪を主張するので、以下検討する。

二  まず、関係各証拠によれば、本件各事案の全体的特徴として、次の事情を認めることができる。すなわち、本件各利益供与をした金融機関各社の目的が、いずれも、道路公団が発行する外貨道路債券の引受けに関し、単に当面する起債において便宜な取り計らいを受けることや受けたことに対する謝礼の趣旨だけでなく、被告人の在任中になされる次回以降の起債においても便宜な取り計らいを受けたいという趣旨をも併せ持つものであり、本件各利益供与の目的の同一性、連続性が明らかである。また、その利益供与の態様においても、本件各利益供与が、いずれも継続的に被告人との親密な関係を保つために、様々な機会をとらえて、飲食接待、ゴルフ接待、観劇やコンサート観賞などを手段として、繰り返し行われたものであり、態様の反復継続性も明らかである。

三  次に、弁護人らが、(1)社交儀礼、慣行としての海外接待である、(2)慣行、社交儀礼として行われた担当者の交代に伴う顔合わせである、(3)当事者間の懇親を目的とした個人的な交際であると主張する利益供与をそれぞれ検討する。

(1) 海外接待についてみると、関係各証拠によれば、その内容は、本件各会社の担当者が、外貨道路債券の調印式が行われる現地の空港等に道路公団の担当者を出迎えた上、同人らをリムジン等でホテルまで送迎したり、宿泊予定のホテルの部屋に予め贈答品を届けたりし、また、調印式自体とは別の機会に、飲食を供したり、観劇等でもてなしたり、諸外国を案内したりしていたというものである。これらの利益供与は、調印式とは直接関係のないものであるばかりでなく、内容的にも明らかに行き過ぎた過剰なものであって、社会通念からみて、社交儀礼の範囲を超えたものであることはいうまでもない。このことは、被告人自身が当公判廷で、「初めて海外の調印式に出席した時に、これは行き過ぎであり、これほどまでお祝いとか何かということをやる必要はないと思った。」旨述べてその華美性、行き過ぎを自認しているものである(第四回公判調書)。

右のとおり、これらの海外における利益供与は、到底社交儀礼あるいは慣行として許容されるようなものでなかったことが明らかといわなければならない。

(2) 次に、弁護人らが慣行、社交儀礼として行われた担当者の交代に伴う顔合わせと主張するものをみると、関係各証拠によれば、そのいずれもが各会社の費用負担でなされたものであり、また、その内容もゴルフや高級飲食店における宴会で、しかも土産付きであったというものであって、その実態に照らせば、到底単なる担当者の交代に伴う顔合わせとみることはできない。これらの利益供与は、各会社が被告人との親密な関係を作り、これを維持することを目的として、各担当者の変更を捉えて顔合わせという名目のもとに行ったもので、その実質は、各会社側から被告人に対してなされた一方的な利益供与であることは明らかである。

(3) さらに、弁護人らが個人的な付き合いと主張するものをみると、関係各証拠によれば、本件会社の担当者の中に、以前に被告人と多少の面識があった者も含まれているが、いずれも本件で問題とされているような交際が始まったのは被告人が道路公団の理事に就任してからのことであるばかりか、その費用はすべて各会社の経費から支出されたもので、個人的な負担はなく、供与者側はいずれも自社に対する被告人の便宜な取り計らいを得るなどの目的で専ら自社のために行動していたことが認められ、その実態は、到底懇親を目的とする個人的な付き合いなどとはいえないことも明らかである。

四  以上によれば、弁護人が社交儀礼として、慣行として、又は当事者間の懇親を目的とした個人的な交際として無罪を主張するところのものは、いずれも社会的相当行為とは認められず、賄賂であることは明らかであって、弁護人の一部無罪の主張は理由がない。

五  なお、弁護人らは、前記各犯行時に被告人が違法性の認識を欠いていた旨も主張するが、本件では被告人が道路公団の経理部担当理事という外貨道路債券に関する実質的な決定権者という公職にあり、相手方である本件各会社がいずれも被告人自身が直接所管する職務の取引相手であり、その相手方から前記認定のような度を超えた利益供与を受けていた被告人が違法性の認識を欠いていたとは到底認められず、違法性を認識していたことは証拠上明らかである。

以上によれば、弁護人らの主張はいずれも理由がなく採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為のうち、判示第一の別表一番号一ないし一四、判示第二の別表二番号一ないし三、判示第三の別表三番号一ないし五、判示第四の別表四番号一ないし八、判示第五の別表五番号一ないし三、判示第六の別表六番号一ないし四、判示第七の別表七番号一ないし三の各所為はいずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下、「改正前の刑法」という) 一九七条一項前段に、その余の各所為はいずれも刑法一九七条一項前段に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第六の別表六番号三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、なお、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してある電子辞書一個(平成一〇年押第一五一九号の1)は判示第一の別表一番号三の、ネクタイ一本(同押号の2)は同表番号四の、スカーフ一枚(同押号の3)及びネクタイ一本(同押号の4)は同表番号一二の、帽子二個(同押号の5)は同表番号一九の、ネクタイ二本(同押号の6)は同表番号二一の、ポロシャツ二枚(同押号の7)は同表番号三三の、旅行時計一個(同押号の10)及びスカーフ一枚(同押号の11)は判示第二の別表二番号二の、バッグ一個(同押号の12)は同表番号六の、ネクタイ一本(同押号の13)及びスカーフ一枚(同押号の14)は同表番号八の、札入一個(同押号の15)は判示第三の別表三番号四の、ポロシャツ一枚(同押号の19)は同表番号六の、コーヒースプーンセット一組(同押号の16)は同表番号一一の、皿一枚(同押号の8)は判示第四の別表四番号一八の、カフス一組(同押号の9)は同表番号一九の、テーブル時計一個(同押号の17)は判示第五の別表番号一一の、バッグ一個(同押号の18)は判示第七の別表七番号三の各犯行により被告人が収受した賄賂であるから、右各押収物のうち、電子辞書一個(同押号の1)、ネクタイ一本(同押号の2)、スカーフ一枚(同押号の3)、ネクタイ一本(同押号の4)、旅行時計一個(同押号の10)、スカーフ一枚(同押号の11)、札入一個(同押号の15)及びバッグ一個(同押号の18)は改正前の刑法一九七条の五前段により、その余の押収物は刑法一九七条の五前段により、いずれもこれらを被告人から没収し、前記各押収物以外の被告人が判示各犯行により収受した別表記載の賄賂は、その性質上あるいは費消されたことにより、いずれも没収することができないので、判示第一の別表一番号一、二、四ないし一四、判示第二の別表二番号一ないし三、判示第三の別表番号一ないし三及び五、判示第四の別表四番号一ないし八、判示第五の別表五番号一ないし三、判示第六の別表六番号一ないし四並びに判示第七の別表七番号一及び二記載の各賄賂については改正前の刑法一九七条の五後段により、判示第一の別表一の番号一五ないし一八、二〇、二二ないし四一、判示第二の別表二番号四ないし八、判示第三の別表三番号七ないし一〇、一二ないし一五、判示第四の別表番号九ないし一七、二〇及び二一、判示第五の別表五番号四ないし一〇、判示第六の別表番号五ないし八並びに判示第七の別表七番号四ないし九記載の各賄賂については刑法一九七条の五後段により、それらの価額合計金六八四万五二六円を被告人から追徴することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が、道路公団経理部担当理事として外貨道路債券の発行及び償還に関する事務を掌理するとともに同債券発行のための引受主幹事等の指名等の業務を統括する職務を担当していたところ、その債券発行に関する事務手続を銀行や証券会社に委託するに際し、判示のとおり、野村證券等七社の民間金融機関から、その主幹事等への指名、選定等について便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに、多数回にわたる遊興飲食、ゴルフ等の接待あるいは商品券等の供与を受けたという事案である。

被告人は、道路公団の理事として、部下職員の模範となるべき立場にある上、法律により公正にその職務を行うことが求められていたにもかかわらず、判示各会社が競って行った度重なる過剰な接待等の利益供与を、ほとんど何らの抵抗感もなく、安易に受け入れていたものである。本件の接待等利益供与は、二年数か月の期間に合計一一三回、金額にして合計七一九万五〇六三円相当にのぼるものであり、その期間、回数及び価額においてまさに接待漬けというべきものであり、被告人の行為は厳しく非難されなければならない。

被告人は、本件の動機について、当公判廷において、道路公団理事に就任した際、大蔵省を退職し純粋な公務員の地位を去った後だったので多少気が楽になり、これが後に接待を受ける要因になったと述べるが、このような姿勢は、道路公団理事という責任のある公職に就いたことの自覚に欠けたものというべきであり、本件の動機として酌量すべき事情とはいえない。

本件の背景に関して、弁護人は、専ら飲食やゴルフを共にするといった接待については、いわゆる官民の接待慣行として、ある程度社会的に容認されてきた実態は否めないと主張し、被告人も、公判廷でこのような付き合い文化なるものが存在すると供述する。しかしながら、民間金融機関が公的機関の職員に対して様々な形でいわゆる接待等を行うような慣行が存在したとしても、悪しき慣行はむしろ廃止されるべきものであって、被告人の本件行為を正当化しあるいは責任を軽減する理由にはなり得ない。しかも、近時、官公庁職員による汚職事犯が多数摘発され、そのたびに公職にある者の廉潔性が求められ、綱紀の粛正が叫ばれてきた状況に鑑みても、被告人の言い分は、道路公団の理事という重職にあることを忘れた弁解にすぎず、端的に被告人の規範意識の鈍麻を示すものである。そして、本件における接待等の利益供与は、その期間、回数及び価額からしても、到底社会通念の容認するところではなく、はるかに度を超えた弁解の余地のないものであるというべきである。

また、弁護人は、被告人が本件各会社に便宜供与したことはないと主張し、被告人もこれに沿う供述をする。しかしながら、関係各証拠によれば、道路公団が外貨道路債券を起債するに当っては、これを引き受けるシンジケート団を編成する必要があったところ、どの会社を主幹事、共同主幹事、副幹事等に指名、選定するかについては、道路公団側の裁量によるところが大であり、実態としては、被告人の統括の下、いわゆるビディング等を行ったりして同公団にとって最も好ましい編成を目指し、各会社から情報を収集するとともに、道路公団側の起債の条件や要請等を伝え、各会社にそれに沿った条件を整えさせてシンジケート団の編成を行っていたことが認められる。会社側としては、右のような道路公団の提示する条件や要請を早期に把握することにより、これに応じて自社の体勢を整備して主幹事等の指名、選定を受けたり、場合によっては断念することもできるのであるから、各会社にとっては本来の目的である主幹事等に指名、選定されることはもとより、そのための事前準備として、被告人の指示ないし示唆等により起債の条件や道路公団の要望、方針等を把握することもまさに便宜であり、実際に各会社の担当者はそのように受け止め、このような被告人の行為に対する謝礼や今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨で本件利益供与をしていたことが明らかである。

被告人の本件行為によって、道路公団の理事という重職の職務の公正さが著しく害されたばかりでなく、同公団自体に対する国民の信頼をも損なう結果となったものであり、被告人の刑事責任は重大といわなければならない。

しかしながら、他方で、被告人が本件において接待等の見返りとしてその職務を歪めたり、ことさら特定の会社に対して特別な便宜を図ったものとまでは認められないこと、被告人は第一回公判から本件利益供与の事実関係を認め、最終陳述では本件犯行の重大性と自己の責任を自覚した反省の弁を述べていること、大蔵省造幣局長を最後に退官するまで長年大蔵行政に尽くしてきたこと、被告人には前科前歴がないことなど被告人に有利な情状も認められ、なお、本件が広く報道されるなどして社会的非難を浴び、一定の社会的制裁を受けているとみられること、本件により道路公団の理事を解任されていることなど考慮すべき事情も存在する。

そこで、以上の諸事情を総合考慮し、被告人に対しては主文の刑を量定した上、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田耕平 裁判官 傳田喜久 裁判官 下津健司)

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