大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)2795号 判決 1998年12月25日

原告

平井啓之

右訴訟代理人弁護士

黒田泰行

被告

ロイヤルリゾート株式会社

(旧商号・ロイヤル・ウィルソン・リゾート株式会社)

右代表者代表取締役

城嶋渉

右訴訟代理人弁護士

西村國彦

本山信二郎

河合弘之

町田弘香

松村昌人

船橋茂紀

松井清隆

泊昌之

松尾慎祐

蓮見和也

服部弘志

角谷雄志

市村隆行

主文

一  被告は、原告に対し、金九六〇万円及びこれに対する平成一〇年二月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告は、株式会社平井本店の代表取締役であり、被告は、もと東通ロイヤル株式会社の商号によりゴルフ場の経営、会員募集などを行う株式会社であったが、昭和六三年八月、ロイヤル・ウィルソン・リゾート株式会社に、平成一〇年四月、ロイヤルリゾート株式会社にそれぞれ商号を変更した。

2  (ゴルフクラブ会員契約)

原告は、被告との間において、昭和六〇年八月三一日、次の約定で被告が経営するゴルフ場である「東通ロイヤルカントリークラブ」(以下「本件ゴルフクラブ」といい、右ゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の正会員となる旨のゴルフ会員契約(以下「本件会員契約」という。)を締結し、被告に対し、同日、九六〇万円の会員資格保証金(以下「本件保証金」という。)を預託した。

保証金返還 ゴルフ場が正式開場の日の翌日から起算して一〇年間の据置期間経過後、会員からの要求があり次第、返還する。

3  (返還時期到来)

本件ゴルフ場の正式開場の日の翌日から起算して一〇年が経過した。

4  (結論)

よって、原告は、被告に対し、本件会員契約に基づき、本件保証金及びこれに対する本件訴状の送達の日の翌日である平成一〇年二月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全て認める。

三  抗弁

1  運営委員会(旧理事会)及び被告取締役会の据置期間延長決議

(一) 据置期間延長条項

本件ゴルフクラブの会則六条には、「保証金はゴルフ場が正式開場日の翌日から起算して一〇年間据置くものとする。但し本クラブ運営上やむを得ない事情がある場合には、クラブ理事会又は会社取締役会の決議により据置期間を更に一〇年間以内の相当期間延長することができる。」と規定されている。

(二) 延長決議

被告取締役会及び本件ゴルフクラブ運営委員会(旧理事会)は、平成九年三月一二日(被告取締役会)又は同年五月一六日(運営委員会)、右条項に従って、保証金の据置期間を更に一〇年間延長する旨の決議(以下「本件延長決議」という。)をした。

また、本件ゴルフクラブの新運営委員会が会員の選挙により選ばれた委員を構成員として平成一〇年六月一日に発足したところ、右民主的基盤を有する新運営委員会は、前記運営委員会の本件延長決議を追認している。

2  事情変更

バブル経済崩壊は、本件会員契約締結当時、原告も被告も全く予想できなかったし、また、被告の責めに帰すべき事由でもないところ、本件延長決議は、右ごとき事情変更に基づき、保証金の据置期間を延長したものであるから、有効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(運営委員会〔旧理事会〕及び被告取締役会の据置期間延長決議)について

(一) (一)は知らない。

(二) (二)は知らない。仮に、本件延長決議がされたとしても、運営委員会は、被告の意向に沿う代行機関にすぎず、その決議をもって不賛成の会員を拘束できないし、取締役会も、被告内部の機関にすぎないから、同様に本件ゴルフクラブの会員を拘束できない。

2  同2(事情変更)は争う。愛好者の減少その他の社会情勢の変化により、多数の会員から保証金の返還を求められることになったのは、被告の見通しが外れたものにすぎない。ちなみに、原告も、事業を行う者であり、金融機関からの借入金を負担しているが、バブルが崩壊したからといって、金融機関に対する不返済を主張することはしていないのである。右事情に、被告が据置期間延長の代償措置をとっていないことを併せると、保証金の返還義務を負う被告のみが事情変更を理由に保証金の返還義務を免れるのは許されないというべきである。

また、被告は、本件ゴルフ場の預託金(保証金)として集めた資金四〇億円を後続のゴルフコースに投下して資金を滞留させるという野放図な経営をしてきたにもかかわらず、事情変更を理由に本件保証金の返還を免れようというのは、モラルハザードというほかない。

付言するに、原告は、頸椎を傷めたほか、原告経営に係る会社のために個人資産である本件保証金を活用する必要が生じたので、本件ゴルフクラブからの退会を決意して本件保証金の返還を求めているのであって、投機目的で本件会員契約を締結したものではない。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

請求原因は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  抗弁1(運営委員会〔旧理事会〕及び被告取締役会の据置期間延長決議)について

(一)  (一)(据置期間延長条項)は、甲七号証(会則)により認められる。

(二)  (二)(延長決議)は、乙一一号証(運営委員会議事録)、一二号証(取締役会議事録)及び弁論の全趣旨により認められる。

しかし、原告は、本件延長決議は、本件ゴルフクラブの会員である原告を拘束しない旨主張するので、当裁判所は、本件延長決議の効力について、次のとおり判断する。

保証金(預託金)返還請求権は、会員の基本的権利であるから、著しい事情変更等の合理的な理由がない限り据置期間の延長を認めることができないと解される。したがって、据置期間延長決議は、延長事由に合理性があり、かつ、その延長期間が会員の権利に著しい変更を生じさせない等その決議の内容が合理性を有する場合にのみ有効であると解すべきである。

証拠(甲七、八、乙三、一〇、一一、一二、一九、二〇、二二、二三)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフクラブは、いわゆる預託金制ゴルフクラブ(会員の預託金総額は、計一六七億九一二六万円である。)であるところ、本件延長決議は、いわゆるバブル経済崩壊により、本件ゴルフクラブの会員権の価格が低落(ピーク時の約一八分の一)したほか、本件ゴルフ場の入場数も激減し、経営環境の悪化によりゴルフ場料金の価格破壊が進行した結果、被告の経済状態(被告は、本件ゴルフ場の開発資金等に計一二七億九一二六万円を使用している。)が保証金の返還(本件延長決議の対象となる会員の預託金は、計一三〇億六二三一万円であり、現在、計二〇名の会員が保証金返還請求の訴えを提起している。)に応ずる状態ではないことを理由とするものであることが認められる。

しかし、ゴルフ会員権価格が預託金額を下回るなどの被告の経済状態を悪化させた右事情は、据置期間経過後には預託金(保証金)を返還する旨約しているゴルフ場の経営者として、当然予測すべきことであるから、本件延長決議の延長事由に合理性があるとはいえない。

なお、被告は、本件保証金請求に応ずることによって多数の会員が保証金の返還を求めることとなり、その結果被告が倒産し、他の会員のゴルフプレー権を侵害することとなる旨主張する。しかし、本件保証金の返還に応ずることが被告の倒産を招くことになると認めるに足りる証拠はない。

また、被告は、新運営委員会が会員の選挙により選ばれた委員を構成員として平成一〇年六月一日に発足し、右民主的基盤を有する新運営委員会が前記運営委員会の本件延長決議を追認したから、本件延長決議は有効である旨主張する。しかし、そもそも本件ゴルフクラブからの退会を表明して、保証金(預託金)の返還を請求している原告に対し、その後にされた右追認決議の効力が及ぶとは必ずしもいえないし、証拠(乙一一、一三の1、2、一五)及び弁論の全趣旨により認められる右新運営委員会の構成(委員計一九名中、選挙で選ばれた委員は、七名にすぎないなど)に照らすと、直ちに右新運営委員会が保証金の本件延長決議を正当化できるほどの民主的基盤を有するものともいえない。

2  抗弁2(事情変更)について

右認定のとおり、本件延長決議により本件会員契約の内容を変更し得る程度の事情変更があったとは認められないから、抗弁2も理由がない。

三  結語

以上によれば、原告の本件請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官西口元)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例