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東京地方裁判所 平成10年(ワ)26638号 判決 1999年7月23日

原告

竹井機器工業株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

武田仁宏

右補佐人弁理士

【B】

被告

コダック株式会社

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

鈴木修

大平茂

右補佐人弁理士

【D】

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七五五七万円及び内金六七二〇万円に対する平成一〇年九月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告が後記標章を付したレンズ付フィルムを製造、販売する行為が、原告の商標権を侵害すると主張して、原告が被告に対し、損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)

1  原告の商標権

原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している(甲一、二、五)。

登録番号 第二二三七七九六号

出願日 昭和六三年二月二四日

登録日 平成二年六月二八日

指定商品 旧第一〇類 理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するものおよび電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品および附属品(他の類に属するものを除く)写真材料

登録商標 別紙商標目録記載のとおり

2  被告の行為

被告は、別紙被告標章目録記載のとおりの標章(以下「被告標章」という。)を付したレンズ付フィルム(以下「被告商品」という。)を製造、販売している。

二  争点

1  被告標章は、本件登録商標と類似しているか。

(原告の主張)

本件登録商標からは「キューティ」の称呼が生じ、被告標章からも「キューティ」の称呼が生じる。被告標章は、本件登録商標と称呼が同一であるから、本件登録商標と類似する。

(被告の反論)

被告標章から、「キューティ」の称呼が生じることは認める。

被告標章を構成する「Q」及び「t」の欧文字二文字の組合せは、識別力を有するとはいえない。被告標章は、その称呼においては、識別力を有し得ず、専らデザイン化された外観において識別力を有する。また、本件登録商標は「かわいい女の子」という観念を有するのに対し、被告標章からは何らの観念も生じない。

被告標章と本件登録商標とは、外観を異にすることは明らかであり、観念も異なり、被告標章は本件登録商標と類似しない。

2  損害はいくらか。

(原告の主張)

(一) 逸失利益

原告は、本件登録商標の使用を許諾するについては、販売額の四パーセントを使用料としている。本件のような無断使用についての使用料は、販売額の八パーセントを下らない。

平成九年五月から平成一〇年四月までの間における被告のレンズ付フィルム(一〇機種)の販売数量は、全体で七〇〇万個であり、このうち、被告商品の販売数量は三五〇万個を下らないと推測される。被告商品の販売価格は、一個一二〇〇円と推認できる。

販売個数を、その一部の七〇万個として算定すると、原告が受けた使用料相当の損害金は、次のとおり、六七二〇万円である。

1,200×700,000×0.08=67,200,000

(二) 弁護士費用

原告は、本件訴訟につき、原告代理人に訴訟遂行を委任し、勝訴時に着手金及び報酬合計八三七万円を支払う旨約した。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

原告は、本件登録商標をその指定商品中のカメラに使用していない(被告は、原告が本件登録商標を使用していないことを理由として一部取消審判請求をしている。)ので、被告の行為と原告の損害との間には相当因果関係がなく、原告に損害は発生しない。したがって、原告は損害賠償請求権を有しない。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告標章と本件登録商標との類否)について判断する。

1  本件登録商標は、欧文字の「Cutie」を、丸みを帯び、右に傾けた字体を用いて横書きしたものである。本件登録商標からは、「キューティ」ないし「キューティエ」の称呼を生じ、また、「かわいい」ないし「かわいい娘」等の観念を生ずる場合がある。

なお、原告は、本件登録商標を原告の販売に係る三脚の外箱に使用していると主張し、本件登録商標のシールを張り付けた三脚用の外箱を証拠として提出するが、取引の実情に照らして不自然な点が多く、本件登録商標の使用状況の詳細については、必ずしも明らかでない(甲六、検甲一)。

2  被告は、包装袋上に数箇所、被告標章を付した上、被告商品を販売している(甲三)。

被告標章の形状は、別紙被告標章目録記載のとおりである。被告標章は、以下の各図形から構成される。①一つは、長方形の長辺一側のみを三角形(三個)で切り欠き、右四五度だけ下方に傾け、小さい水玉の模様を配置した図形部分を、右下方を切り欠いた太い輪状の図形部分にはめ込んだ図形である。右図形を一体的にみると、欧文字(大文字)の「Q」であるとの印象を与える。②他は、右図形の右側に、右図形よりやや小さく、欧文字(小文字)の「t」を太く描いたとの印象を与える形状で、縞模様が施された図形である。

なお、被告商品の包装袋上には、被告標章が付されている他に、「Kodak」、「スナップキッズ」、「ADVANTIX」、包装袋の中央にデザイン化した「Q」の図形の標章等が付されている(甲三)。また、被告がインターネット上で行った被告商品の広告においては、被告標章の他に、「クールなフェイスの、キュートなQt。」「おしゃれ心いっぱい!ちょっぴり大人のキュートなQt」、「FUN COLORS、APS対応レンズ付きフィルムQt」等の表示がされたり、「Qtははずせない」等の台詞が流されたりしている(甲一〇、一二ないし一五)。

3  右認定した事実を基礎に、被告標章と本件登録商標の類否について検討する。

被告標章は、前記のとおり、欧文字の「Q」及び「t」との印象を与える図形から構成されるが、それぞれの図形は、一部に奇抜な形状を用いたり、水玉や縞模様による装飾を施したりして、全体としては、やや統一性に欠け、多様性を重視したような図柄が選択され、そのために、「にぎやか」、「はなかや」あるいは「雑然とした」印象を与え、主に若者に対し、強い訴求力を持つものとなっている。

そうすると、本件登録商標が、さほど特徴があるとはいえない欧文字の「Cutie」からなるのに対し、被告標章は、前記のような特徴を備えた特有の図形からなるものであり、両者は、その外観において著しく異なり、前記取引、広告等の状況等を考慮すると、一般消費者が、商品の出所について、誤認混同する恐れはないと解される。したがって、被告標章は本件登録商標と類似しない。

確かに、被告標章からは「キューティ」の称呼が生じ、被告標章と原告登録商標とは称呼において類似するといえるが、両者の外観における相違点が著しい点に照らすならば、称呼が類似する点を考慮してもなお商品の出所の誤認混同を来すことはないと解され、したがって、前記の判断を左右するものとはいえない。

また、被告は、被告商品の広告において、装飾を施さない欧文字「Qt」を用いたりした例があるが、この点も、格別、前記の判断を左右するものではない。さらに、被告は、被告商品の広告において、「キュートな」との点を強調している例があるが、そのような修飾語が付加されたとしても、被告標章に「キュートな」との観念が生ずるとまではいえない。したがって、このような事情も、前記の判断を左右するものとはいえない。

二  以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 石村智)

<以下省略>

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