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東京地方裁判所 平成10年(レ)128号 判決 1998年10月30日

控訴人(被告) 常総開発株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 猪山雄治

被控訴人(原告) X

右訴訟代理人弁護士 小幡葉子

板垣眞一

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、金一〇万五〇〇〇円及びこれに対する平成九年五月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを四分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、和議債権者である被控訴人が、自己が七年間和議債権元本の返済を猶予した「入会保証金預託債権者」(以下「預託債権者」という。)に当たり、和議条件によれば、和議債権の全額の返済を求めることができると主張して、和議債務につき連帯保証した控訴人に対し、その償還を求めた事案である。

控訴人は、被控訴人は右にいう預託債権者には当たらず、一般の和議債権者に該当するに過ぎないところ、被控訴人の和議債権は、時効により消滅したと主張した。

原審は、被控訴人の請求を全部認容したので、控訴人が不服を申し立てた。

右の控訴人の、主張の当否が本件の争点である。

二  前提となる事実(証拠を摘示しない事実は争いのない事実である。)

1  被控訴人は、昭和四七年七月一〇日、株式会社中央国際カントリー倶楽部(以下「中央国際」という。)との間で、同社の経営するゴルフ場である中央国際カントリークラブへの入会契約(以下「本件入会契約」という。)を締結し、同社に対し、入会保証金として金五〇万円を預託した。(甲一号証)

2  中央国際は、遅くとも昭和五二年末頃には事実上倒産し、日本国土計画株式会社(以下「国土計画」という。)は、昭和五三年八月四日、中央国際からその所有しているゴルフ場用地の譲渡を受けるとともに、中央国際が被控訴人その他の入会契約者に対して負担していた入会保証金返還債務を中央国際と連帯して全て引き受けた。(甲四号証、弁論の全趣旨)

3  被控訴人は、昭和五四年七月一〇日、中央国際に対し、債務不履行(履行不能)を理由として本件入会契約の解除の意思表示をし、昭和五五年八月、国土計画に対し、右契約解除による原状回復請求として、前記入会保証金五〇万円の返還を求める訴えを提訴したところ(東京地方裁判所昭和五五年(ワ)第八六六六号)、国土計画は、昭和五八年六月三〇日、被控訴人の請求を認諾した。(甲四号証)

4  国土計画(その後、商号を昭和五九年六月二九日、東日本観光開発株式会社に、昭和六〇年七月一二日、株式会社ニューセントラルに変更した。以下「和議会社」という。)は、日本ゴルフ倶楽部を経営していたが、昭和五九年五月一九日、和議手続開始の申立をした(東京地方裁判所昭和五九年(コ)第一〇号)ところ、東京地方裁判所は、昭和六〇年三月一三日、右和議申立事件につき、別紙のとおりの和議条件(以下「本件和議条件」という。)をもって和議を認可し、同年四月三〇日、右和議認可決定は確定した(以下「本件和議」という。)。(甲五号証、弁論の全趣旨)

本件和議条件の要旨は、次のとおりである。

(一) 和議債権者は、和議債権元本の七割並びに利息遅延損害金を免除する(一項)。

(二) 和議会社は、和議債権者に対し、免除後の和議債権元本(すなわち、元本の三割相当額)を七年以内に分割して支払う。

なお、和議債権者のうち、預託債権者は、本件和議認可決定確定後一か月以内に和議会社に対し退会届を提出するものとする(二項)。

(三) 預託債権者のうち、和議債権元本の返済を和議認可決定確定後七年間猶予する者には、右猶予期間経過後、退会届が提出された後六か月以内に免除以前の債権元本全額を支払う(三項)。

本件和議認可決定確定後一か月以内に退会届を提出しない預託債権者は、右猶予をしたものとみなす(四項)。

(四) 被控訴人は、本件和議条件における和議会社の債務について連帯保証する(五項)。

5  そして、本件和議によって、被控訴人が和議会社の債務についてした連帯保証は効力を生じた。

6  被控訴人は、平成八年一一月二六日到達の書面で、和議会社に対し、自己は、和議認可決定確定後一か月以内に退会届を提出しなかったため和議債権元本の返済を和議認可決定確定後七年間猶予したものとみなされた預託債権者に当たるとして、中央国際カントリークラブから退会する旨の通知をするとともに、前記入会保証金五〇万円の返還を請求し、更に、平成九年八月二七日到達の書面で、和議会社の連帯保証人である控訴人に対し、右入会保証金五〇万円を返還するよう請求した。(甲九号証)

7  控訴人は、和議会社担当者作成のメモに基づき、平成九年一一月一〇日、被控訴人に対し、被控訴人は右の預託債権者には当たらないと主張し、かつ、請求債権のうち四万五〇〇〇円については消滅時効が完成したとして、一〇万五〇〇〇円に限り支払義務のあることを認めた。(甲一〇号証)

8  被控訴人は、平成九年一〇月二三日、本訴を提起した。

二  争点

1  被控訴人は、本件和議条件三、四項にいう支払猶予をした預託債権者に当たるか。

(被控訴人の主張)

被控訴人は、本件和議認可前に本件入会契約を解除し、会員としての地位は失ってはいるが、契約解除によって本来の債務の法的性質を失うものではないから、被控訴人が有する原状回復請求権は、なお入会保証金預託債権としての性質を有するものであり、したがって、被控訴人は本件和議条件にいう支払猶予をした預託債権者にあたる。

控訴人は、預託債権者が一般債権者と区別される理由は、和議申立会社の弁済原資を作ることに協力するからである旨主張するが、和議条件にはそのような理由は全く記載されておらず、仮に和議会社の内心においてそのような理由が存在したとしても、和議条件の解釈に影響を与えるものではない。

(控訴人の主張)

本件和議条件にいう預託債権者は、本件和議成立後退会届を提出することができる者のみを指し、本件和議成立時までに、すでに会員契約が終了している者は他の一般の和議債権者と同一に扱われる。

そして、被控訴人は、本件和議成立の時点ですでに退会していたのであるから、本件和議条件にいう預託債権者ではなく、本件和議条件二項が適用される一般の和議債権者であり、和議債権額は債権額の三割に相当する一五万円となる。

2  被控訴人の有する債権につき消滅時効が成立しているか。

(控訴人の主張)

(一) 被控訴人が行使する債権は、本件和議条件二項の債権であり、和議認可決定が確定したのが昭和六〇年四月三〇日であるから、その弁済期日及び支払すべき額は次のとおりである。

第一回弁済期日

昭和六一年四月三〇日 二万二五〇〇円

第二回弁済期日

昭和六二年四月三〇日 二万二五〇〇円

第三回弁済期日

昭和六三年四月三〇日 二万二五〇〇円

第四回弁済期日

平成元年四月三〇日 二万二五〇〇円

第五回弁済期日

平成二年四月三〇日 二万二五〇〇円

第六回弁済期日

平成三年四月三〇日 二万二五〇〇円

第七回弁済期日

平成四年四月三〇日 一万五〇〇〇円

(二) 控訴人は、ゴルフ場の経営を主たる業務とする株式会社であり、控訴人が和議会社のために連帯保証したことにより発生した債務は商行為により生じたものであるから、その消滅時効期間は五年であるところ、被控訴人が行使する本訴請求債権は、本訴提起以前に前記弁済期日から五年以上経過している。

控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年二月六日、原審第二回口頭弁論期日において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

(三) 消滅時効の援用が認められないとの被控訴人の主張は争う。

(被控訴人の主張)

仮に、被控訴人が行使する本訴請求債権が本件和議条件二項の債権であり、控訴人主張のとおりの弁済期日が経過していたとしても、控訴人は、被控訴人に対し平成九年一一月一〇日頃、控訴人の債務として第三回弁済期以降の支払分合計一〇万五〇〇〇円の支払義務のあることを認めて債務の承認をしたのであるから、右一〇万五〇〇〇円については、消滅時効の援用は認められない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(被控訴人と本件和議条件にいう預託債権者)について

1  本件和議条件の内容は前記のとおりである。

そこにおいては、一般の和議債権者と預託債権者とで返済条件を異にしている。

すなわち、一般の和議債権者に対しては、和議債権元本の三割相当額を七年間に分割して支払うべきものとされている(一項)のに対し、和議債権者のうち、和議債権元本の返済を七年間猶予する者に対しては、右猶予期間経過後退会届が提出された後六か月以内に和議債権全額を一括して支払うものとされ(三項)、和議認可決定確定後一か月以内に退会届を提出しない者はこの猶予者とみなすものとされている(四項)。

そして、和議認可決定確定後一か月以内に退会届を提出した預託債権者は、一般和議債権者として、和議債権元本の三割相当額を七年間に分割して支払を受けるものとされている(一項)。

2  このような本件和議条件の文言からすると、本件和議条件にいう預託債権者は、和議認可決定確定後一か月以内か、七年間の支払猶予期間経過後かのいずれかの時点で退会届を提出することが予定されている者を指すと解されるのであって、和議認可決定確定時より前にすでに退会している者は、右にいう預託債権者には当たらないと解するのが相当である。

これを本件和議条件を定めた趣旨、目的の面から検討しても、この解釈は是認できる。

すなわち、和議会社の和議後の基本的再建策は、当時、和議会社が唯一所有していた日本ゴルフ倶楽部の経営を継続して再建を計るというものであった(乙一号証)。そして、本件和議条件を検討した整理委員であるB弁護士の意見書(乙二号証)及び鑑定人C公認会計士の調査結果に基づく同弁護士の意見書の抜粋(乙三号証)並に原審における控訴人代表者の供述の反訳書(乙四号証)によれば、和議会社に対する一般債権のうち、日本ゴルフ倶楽部の会員の預託債権が約三〇億円、それ以外の一般和議債権が約三六億円であったところ、本件和議条件は、右の預託債権の返済を七年間回避するとともに、他の一般和議債権に対しては、主として日本ゴルフ倶楽部の営業売上金及びゴルフ会員の年会費によって分割して支払うこと、右入会預託債権者に対しては、返済猶予の見返りとして、その期間中、ゴルフプレー権を保証することを骨子とするものであったと認めることができる。このような、本件和議条件の趣旨、目的に照らすと、七年間支払猶予をし、その期間経過後に和議債権の元本全額を返済することを予定する預託債権者とは、日本ゴルフ倶楽部の会員であり、和議認可決定確定後も退会届を提出せずに会員として留まり年会費を負担する者を指すことが明らかというべきである。

3  前記の事実関係によると、被控訴人は、日本ゴルフ倶楽部の会員ではなく、和議会社が入会保証金返還債務を引き受けた中央国際の会員であったが、昭和五四年七月一〇日に本件入会契約を解除して中央国際を退会し、その後年会費を負担することもなかったものであることは明らかであるから、前記の説示に照らし、本件和議条件にいう支払猶予をしたものとみなされた預託債権者に該当するものではなく、一般の和議債権者にとどまるものというべきである。

したがって、被控訴人の和議会社に対する債権は、本件和議の認可によつて元本の七割及び遅延損害金が免除された結果一五万円となり、本件和議条件二項のとおりの弁済条件によって支払われるべき債権となったというべきである。

二  争点二(消滅時効)について

1  前記の事実関係によれば、被控訴人の控訴人に対する連帯保証債務履行請求権は、商行為によって生じた保証債務であるから、その消滅時効期間は五年である(商法五二二条)。

したがって、被控訴人の本訴請求債権は、控訴人の前記主張のとおりの弁済期に分割弁済されるべきものであったから、本訴提起の段階において、債権全額について時効期間が経過していたものである。

2  しかし、控訴人が、被控訴人に対し、平成九年一一月九日、本件一五万円の債務のうち一〇万五〇〇〇円の限度でその債務を承認したことは前記のとおりである。

そして、債権の消滅時効が完成した後に、債務者が債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、以後その完成した消滅時効の援用をすることは許されないと解するのが信義則に照らして相当であるから(最高裁大法廷昭和四一年四月二〇日判決・民集二〇巻四号七〇二頁)、控訴人の援用した時効の主張は、四万五〇〇〇円の限度において採用すべきであるが、その余の一〇万五〇〇〇円の部分については許されないものというべきである。

三  結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求は、金一〇万五〇〇〇円及びこれに対する弁済期の後である平成九年五月二七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

よって、これと一部異なる原判決を右の限度で変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 小西義博 栩木純一)

<以下省略>

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