東京地方裁判所 平成元年(ワ)9454号 判決 1990年5月28日
東京都杉並区荻窪三丁目七番二三号三〇二
原告
日下正一
東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
長谷川信
右指定代理人
田中治
同
小野雅也
同
遠藤家弘
同
白石信明
東京都千代田区麹町三丁目二番地
被告
財団法人土木建築厚生会
右代表者理事
熊崎正夫
右訴訟代理人弁護士
横大路俊一
主文
原告の訴えをいずれも却下する
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 原告と被告らとの間で、原告の昭和五六年三月分から同年一〇月分までの源泉徴収所得税額二万七一一〇円が無効であることを確認する。
2 原告と被告らとの間で、原告の昭和五六年三月分から同年一〇月分までの原告の源泉徴収所得税額が五七万三七〇五円であることを確認する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告国
(本案前の申立て)
主文同旨。
(本案の答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 被告財団法人土木建築厚生会
(本案前の申立て)
主文同旨。
(本案の答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告
1 原告は、昭和五六年三月一一日から同年一〇月三一日まで被告財団法人土木建築厚生会(以下「被告厚生会」という。)に雇用され、被告厚生会の経営するホテル白鳥のフロント業務に従事した。
2 原告の基本給は月額一二万五〇〇〇円(昭和五六年一〇月は一二万八〇〇〇円)であり、原告は雇用期間中、休日労働を二〇六時間、休日残業を五八一・五時間、残業労働を七二六時間深夜労働を六九五時間したから、これらの労働に対する超勤手当は合計三六一万七四六一円となる。したがつて、原告の収入は基本給、当直兼務手当、休業手当、超勤手当を合計すると四九八万三五三九円となり、右収入金額から社会保険料を控除した所得税法上の給与所得は四六四万六八九九円であり、これに対する源泉徴収所得税額は五七万三七〇五円である。
3 ところが、被告厚生会は、二万七一一〇円しか源泉徴収をしなかつた。
4 よつて、原告は、被告らとの間で、被告厚生会がした二万七一一〇円の源泉徴収税所得額が無効であり、真実の額が五七万三七〇五円であることの確認を求める。
二 被告国
1 源泉徴収における租税法律関係は、専ら国と源泉徴収義務者との間で成立するものであるから、給与所得者である、原告には、国と源泉徴収義務者との間の源泉所得税額の確認を求める利益は存しない。
請求の趣旨第1項は、既に支払を受けた給与に対する源泉所得税額を争うものであり、その法律上の利益がないことは明らかであり、同第2項は、本訴において源泉所得税額を確認しても、原告と被告国との間はもちろん、被告厚生会との間でも法律関係の確定になんら資するところがないから、これも確認の利益を欠く。
2 原告の主張事実は、いずれも不知。
三 被告厚生会
1 源泉徴収による所得税の納税義務は、源泉徴収すべきものとされている所得の支払の時に確定し、国の権利は、法定納期限から五年間行使しないことによつて時効により消滅するから、五六年三月から同年一〇月までの給与に関する源泉徴収所得税額の確定等を求める本訴請求は、原告の権利の実現とは関係がなく、訴えの利益を欠く。
2 原告の主張第1項及び第3項の事実は認め、第2項の事実は否認する。
理由
一 源泉徴収における租税法律関係は、被告国の主張するとおり、専ら国と源泉徴収義務者との間に成立し、給与所得者と国又は源泉徴収義務者との間にはなんら法律関係が生じないものと解される。したがつて、本訴において源泉所得税額を確認しても、原告と被告らとの間に法律関係の確定又は紛争の解決に資するところがないから、原告の本訴請求は、いずれも確認の利益を欠き、不適法である。
二 よつて、本訴請求をいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 相良朋紀)