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東京地方裁判所 平成元年(ワ)16602号 判決 1991年5月28日

原告(反訴被告)

東日本プラスチック再生協同組合

右代表者代表理事

中村昌光

右訴訟代理人弁護士

八戸孝彦

被告(反訴原告)

株式会社銭屋商事

右代表者代表取締役

坂本昭男

外三名

被告

渡邊漾子

右訴訟代理人弁護士

小畑祐悌

主文

一  被告(反訴原告)株式会社銭屋商事、同坂本昭男、同東日本物産有限会社、同佐藤清は、原告(反訴被告)に対し、各自、金三三〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和六三年九月一日から支払済に至るまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告渡邊漾子は原告(反訴被告)に対し、金一一〇万円及び内金一〇〇万円に対する昭和六三年九月一日から支払済に至るまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)の被告渡邊漾子に対するその余の請求を棄却する。

四  被告(反訴原告)株式会社銭屋商事、同坂本昭男、同東日本物産有限会社、同佐藤清の原告(反訴被告)に対する反訴請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は一二分し、その一を原告(反訴被告)の、その一を被告渡邊漾子の、その余を被告(反訴原告)株式会社銭屋商事、同坂本昭男、同東日本物産有限会社、同佐藤清の各負担とする。

六  この判決の第一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(本訴)

被告(反訴原告)株式会社銭屋商事、同坂本昭男、同東日本物産有限会社、同佐藤清及び被告渡邊漾子は、原告(反訴被告)に対し、各自、金三三〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和六三年九月一日から支払済に至るまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

(反訴)

原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)株式会社銭屋商事、同坂本昭男、同東日本物産有限会社、同佐藤清に対し、各金五〇万円を支払え。

第二事案の概要

一事件の経過

1  当事者(<証拠>、弁論の全趣旨)

(一) 原告(反訴被告)(以下「原告」という。)は、プラスチック再生業者で構成する協同組合である。

(二) 有限会社佐藤樹脂工業(以下「訴外会社」という。)は本店が宮城県亘理郡亘理町長瀞字町南五四番三号にあったプラスチック類の再生及び販売を業とする会社で、原告の組合員であったが、平成元年二月一〇日午後〇時、仙台地方裁判所で破産宣告を受けた。

(三) 佐藤利喜雄(以下「利喜雄」という。)は訴外会社の代表者であったが、平成元年五月二四日午前一〇時、仙台地方裁判所で破産宣告を受けた。

(四) 被告(反訴原告)東日本物産有限会社(以下「被告東日本物産」という。)は同佐藤清(以下「被告清」という。)が代表取締役となって昭和六三年八月一九日設立された、訴外会社と同様の業務を行う会社であり、被告清は利喜雄の次男であり、訴外会社に通称常務として勤務していたものである。

(五) 被告(反訴原告)株式会社銭屋商事(以下「被告銭屋商事」という。)は、被告(反訴原告)坂本昭男(以下「被告坂本」という。)の経営する会社である。

(六) 被告渡邊漾子(以下「渡邊」という。)は、別紙物件目録記載の物件の競落名義人である。

2  譲渡担保契約の締結(<証拠>)

原告と訴外会社は、昭和六二年八月二六日、訴外会社が原告との間の継続的売買契約、消費貸借契約、手形行為その他一切の取引行為によって原告に対して現在負担し、又は将来負担することのある債務を担保するため、訴外会社の所有する機械類の譲渡担保に関し、要旨次のとおりの契約(以下「本件譲渡担保契約」という。)を締結した。

(一) 訴外会社は、原告に対し、別紙物件目録記載の機械類(以下「本件物件」という。)を譲渡担保として差し入れる。

(1) 本件譲渡担保の限度額は八〇〇万円とする。

(2) 被担保債権の範囲は前記取引行為から生じる債権とする。

(3) 訴外会社が定められた各債務の弁済期日にその債務の弁済を遅滞したときは、訴外会社は原告に対し、年一五パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(二) 訴外会社は、これに基づき、原告に差し入れた本件物件の所有権及びこれに付帯する一切の権利を原告に譲渡し、訴外会社は本件物件を占有改定の方法によって原告に引き渡し、以後訴外会社が原告に代わってこれを占有する。

(三) 訴外会社は、原告の指示に従い、本件物件をその保管場所で無償で保管し、その保管中は本件物件を善良な管理者の注意義務をもってその用法に従って使用収益できるが、第三者から差押え等原告の権利を害する行為を受け、又はそのおそれがあるときは、速やかに原告に通知し、原告の指示に従って対抗措置を講じ、緊急を要する場合は適宜措置を講じ、速やかに原告に通知する。

(四) 訴外会社は、本件物件が原告の所有に属するものであることを明示する表示を適当な方法でしなければならない。

(五) 訴外会社が手形等を不渡りとする等支払停止、支払不能に陥ったときなどは、原告からなんらの通知催告なしにすべての債務について期限の利益を失い、一時に全債務を履行しなければならず、原告から本件物件の即時引渡請求を受けても異議を申し立てないものとする。

(六) 訴外会社が右に該当するに至ったときは、原告の選択により、原告は本件物件の所有権を確定的に取得するか、処分権を取得するものとし、これに基づき原告から本件物件の引渡請求があったときは訴外会社は直ちに現状有姿のまま本件物件を原告又は原告の指示する第三者に引き渡さなければならない。

3  原告と訴外会社との消費貸借契約(<証拠>)

原告は、本件譲渡担保契約に基づき、昭和六三年二月二〇日、訴外会社に対し、次の二口の貸付をした。

(一) 金額 二〇〇万円

弁済期 同年八月二〇日

(二) 金額 三〇〇万円

弁済期 同年八月三一日

4  訴外会社の破産に至る経過(<証拠>)

(一) 訴外会社は、昭和六三年四月三〇日と同年五月三一日に手形不渡りを出し、事実上倒産した。

(二) 訴外会社は、昭和六三年六月四日、仙台地方裁判所に対し、和議手続き開始の申立て(同裁判所昭和六三年コ第二号)をした。

(三) 同年九月一〇日原告の組合員である商栄プラスチックこと高山国雄から訴外会社に対し破産宣告の申立てがなされた。

(四) 訴外会社は、和議開始決定を取得できる見込みが立たず、平成元年一月一七日和議開始の申立てを取り下げた。

(五) その結果、訴外会社は、平成元年二月一〇日午後〇時、破産宣告を受けた。

5  本件物件の競売(<証拠>)

(一) 被告銭屋商事は、昭和六三年九月一六日、仙台地方裁判所に別紙物件目録一記載の訴外会社の本社及び長瀞工場内の物件について競売の申立てをし(同年執イ第二七六七号)、本件物件を含めて本社及び長瀞工場内の物件は同年一〇月三一日被告渡邊名義によって代金五八万円で競落された。

(二) 被告銭屋商事は、昭和六三年九月一七日、仙台地方裁判所大河原支部に別紙物件目録二記載の訴外会社の槻木工場内の物件について競売の申立てをし(同年執イ第三〇号)、本件物件を含めて同工場内の物件は同年一〇月二一日被告渡邊名義で代金三九万円で競落された。

(三) なお、より正確には、右(一)の競売によって被告渡邊が競落した物件は別紙物件目録一記載の物件のうち1(二)の押出機を除く全部と、別紙物件目録二記載の1(一)の押出機、2(一)のモルタルミキサー、4の粉砕機であり、(二)の競売によって被告渡邊が競落した物件は別紙物件目録二記載の物件のうち1(一)の押出機、2(一)のモルタルミキサー、4の粉砕機を除く全部と、同目録一記載の1(二)の押出機である。

6  原告は、被告銭屋商事による右競売の申立ての事実を知らず、第三者異議の申立てをする機会を逸したため、前項の被告らの行為は不法行為であるとして、本訴において三三〇万円の損害賠償を求めている。

7  被告銭屋商事、同坂本、同東日本物産、同清は、原告に対し、原告の本訴請求は被告らに対する名誉毀損であるとして、反訴において各五〇万円の損害賠償を求めている。

二主な争点

1  原告と訴外会社との間の本件譲渡担保契約の対象となった物件と被告東日本物産が被告渡邊名義で競落した物件との関係。

2  被告らの一連の行為が原告に対する不法行為を構成するか。

3  被告らの行為により原告に生じた損害額。

4  原告による本訴の提起等が被告らに対する不法行為を構成するか。

第三争点に対する判断

一原告と訴外会社との間の本件譲渡担保契約の対象となった物件と被告東日本物産が競落した物件との関係については、第二の一の5のとおりであり、原告が訴外会社から譲渡担保の設定を受けた本件物件は、いずれも被告東日本物産が被告渡邊名義で競落した物件の対象になっているものと認めるのが相当である。

二被告らの一連の行為が原告に対する不法行為を構成するか否かについて検討する。

まず、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

1  被告銭屋商事は、原告に対し融資をし、あるいは、被告坂本及びその子が福島県相馬市内において観光ホテル「夕鶴」を経営し、同ホテルは訴外会社が来客の宿泊や接待等で使用するなどしていることから、被告坂本と利喜雄とは昭和六一年ないし六二年頃からの付き合いであった。

2  利喜雄は、訴外会社について和議開始を申し立てた直後の昭和六三年六月一八日に、長男昌利、被告坂本、被告渡邊の夫昭一を同行して上京し、原告訴訟代理人事務所において、原告側の代表者、吉野谷甫事務局長、大口債権者である高山国雄、原告訴訟代理人と面談し、原告に対し、譲渡担保に提供している本件物件を引き上げられると訴外会社の再建ができなくなるので、本件物件を訴外会社が引き続き使用できるようにしてほしい、と強く要請し、被告坂本も訴外会社の再建の協力者として利喜雄と同様の要請をした。そこで、原告代表者はその場で利喜雄らに対し訴外会社の再建案を示したが、その後利喜雄は右提案を拒否してきた。

3  和議手続きの資料として訴外会社のために被告清が作成した債権者一覧表<証拠>の中には被告銭屋商事の債権は一切記載されておらず、また、訴外会社の破産手続きにおいても被告銭屋商事は破産債権の届出をしていない。

また、被告銭屋商事が主張する債権とは、訴外会社が第一回目の不渡りを出したのと同じ昭和六三年四月三〇日作成の公正証書<証拠>によるものである。

4  前記のように、訴外会社は、原告との本件譲渡担保契約により、第三者から差押え等の処分を受けたときは、原告に対しその旨通知すべき義務があったにもかかわらず、本件においては、被告銭屋商事から昭和六三年九月一六日、同月一七日の二度にわたり競売の申立てを受けながら、原告に対しては何らの通知をしていなかった。

5  本件物件の競落にあたり、被告清は、被告渡邊に対し、迷惑をかけないから名前を貸してほしい旨依頼し、被告渡邊がその旨信じ、競落人となることの意味については必ずしも十分な認識を有していたとはいえない状況にあったにもかかわらず競落手続きを進めた。

そして、右競落後は被告東日本物産において本件物件を使用もしくは管理し、訴外会社と同様の営業をしている。

以上の事実に、前記第二の一の1ないし5の各事実を総合すれば、利喜雄は、高山国雄が昭和六三年九月一〇日にした破産申立てに対する対抗策として、早晩訴外会社の破産は避けられないと察知して被告清を代表者として予め設立(昭和六三年八月一九日)していた被告東日本物産において競落することを企図し、被告坂本に本件物件の競売申立てを依頼し、被告坂本もこれを受けて被告銭屋商事名義で競売の申立てをし(なお、被告銭屋商事の主張する債権については、その存在自体に疑いなしとしない。)、利喜雄の意を受けた被告清が知人である被告渡邊に名義借用方を依頼して同人名義で本件物件を競落し、結果的に被告東日本物産が本件物件を使用、管理して訴外会社と同様の営業を継続し、目的を達したものと認めるのが相当である。そして、これにより、原告の譲渡担保権者としての権利を侵害したものというべきである。

したがって、被告坂本、同清は直接の行為者として、被告銭屋商事、同東日本物産は民法四四条により、原告に対し、共同不法行為の責任を免れない。なお、被告渡邊は、被告清に頼まれ、迷惑をかけないとの言を信じ、その意味を十分認識しないまま自己の名義で競落することを承諾したのであるが、行動において軽率の誹りを免れないのであり、本件不法行為の中で同人の寄与した割合は他の被告らの三分の一とみるのが相当であり、その限度で他の被告らとともに共同不法行為を構成するというべきである。

三そこで、被告らの不法行為により原告に生じた損害額について検討する。

<証拠>によれば、原告の訴外会社に対する貸金元金は、訴外会社の破産宣告時において五〇〇万円であったが、うち二〇〇万円の貸金については原告の組合員二名が連帯保証人となっており、回収見込みが立っているが、三〇〇万円の貸金については本件物件の担保権が侵害されたことにより回収不能となったのであるから、右金額と約定の遅延損害金(弁済期後の昭和六三年九月一日から年一五パーセントの割合)が被告らの行為によって原告が被った損害ということができる。

また、原告は本訴を原告訴訟代理人に依頼しているが、弁護士費用としては、事案にかんがみ、認容額の一〇パーセントを損害として認めるのが相当である。

なお、原告の損害額について、被告渡邊は、同人が競落した対象物件の価格は本件物件が含まれるとしても合計九七万円であり、原告には三〇〇万円もの損害が生じたということはできない旨主張する。しかしながら、前記のように本件譲渡担保契約における限度額は八〇〇万円であったこと、<証拠>によれば、右限度額は右契約当時訴外会社から本件物件の時価が右金額以上であるとの説明があったからであり、本件譲渡担保契約から競落時点まで一年強しか経過していないこと、訴外会社の和議手続き中の昭和六三年一〇月二六日に整理委員が仙台地方裁判所に提出した調査報告書には、当時の原告の債権額五〇〇万円に対し、担保財産価格が一三〇二万八〇一〇円であると記載されていること<証拠>、関係業者の評価によれば、平成二年六月二〇日現在の本件物件の時価は合計九〇三万円であること<証拠>、競落価格は一般に時価を大幅に下回ることは周知のことであること等に照らすと、本件物件の時価が原告請求の三〇〇万円に満たないという被告らの主張は採用できない。

四被告銭屋商事、同坂本、同東日本物産、同清は、反訴において、原告による本訴の提起が同被告らに対する不法行為を構成する旨主張するが、その理由がないことは、既にみたところから明らかであり、右反訴請求はその余の点を判断するまでもなく棄却を免れない。

第四結語

以上によれば、原告の本訴請求は、被告銭屋商事、同坂本、同東日本物産、同清に対しては全部認容すべきであるが、被告渡邊に対しては一一〇万円と内金一〇〇万円に対する遅延損害金の限度で認容し、その余は棄却すべきであり、被告銭屋商事、同坂本、同東日本物産、同清の原告に対する反訴請求は、全部棄却すべきである。

(裁判官石垣君雄)

別紙<省略>

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