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東京地方裁判所 平成元年(ワ)15317号 判決 1991年10月11日

原告 福田孝一

右訴訟代理人弁護士 門馬博

岩崎昭

被告 清水正

右訴訟代理人弁護士 内野繁

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告は、原告に対し、金六七〇万六七一四円の支払いと引換えに、別紙物件目録一ないし五八記載の土地建物について昭和六三年六月三〇日宇都宮地方法務局今市出張所受付第八一二〇号根抵当権設定登記の抹消登記手続、別紙物件目録五九及び六〇記載の土地建物についての昭和六三年六月三〇日宇都宮地方法務局今市出張所受付第八一二〇号根抵当権設定登記の抹消登記手続、別紙物件目録六一記載の土地についての昭和六二年四月一日宇都宮地方法務局受付第一〇〇号根抵当権設定仮登記の抹消登記手続及び別紙物件目録六二記載の土地についての昭和六三年七月六日宇都宮地方法務局受付第九七三号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

三  原告のその余の予備的請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について判断する。

1  抗弁1については、各最終弁済期の定めを除き、当事者間に争いがなく、各最終弁済期の定めについては、いずれも成立に争いのない≪証拠≫、原告本人尋問の結果(≪証拠≫)及び被告本人尋問の結果(≪証拠≫)によりこれを認めることができる。

2  抗弁2及び3について判断する。

(一)  抗弁2及び3のうち、原告が被告に対して本件全不動産の登記済証を交付したこと、本件不動産六、一〇、一一、五九、六〇ないし六二に根抵当権設定仮登記手続きがなされたこと、被告と原告との間で、昭和六二年三月三一日、本件不動産五九ないし六二について限度で極度額を金一五〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結したこと及び被告が昭和六三年六月三〇日、本件不動産六一を除く本件全不動産について、根抵当権設定登記を経由したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  右当事者間に争いがない事実に、いずれも成立に争いのない≪証拠≫、原告の署名、捺印部分については成立に争いがなく、その余の部分については被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる≪証拠≫、証人宮本龍蔵の証言並びに原告及び被告本人尋問の各結果を総合すると、抗弁2及び3の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  以上の事実によれば、抗弁は理由があり、被告と原告とが本件不動産五九ないし六二に限って極度額を金一五〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結したことを前提とする原告の主位的請求はその余の点について判断するまでもなく、失当というべきである。

三  再抗弁について判断する。

1  被告が、原告に対し、抗弁1記載の各貸金債務について、いずれもその弁済期のころ、原告の電話による弁済期の猶予の求めを承諾し、もって、昭和六三年六月二七日までは抗弁1記載の各貸金債務の支払いを猶予したこと、原告が被告に対し、抗弁1記載の各貸金契約の債務について、その弁済として、別紙返済表の「返済日」欄及び「金額」欄記載のとおり、金員を支払ったこと、利息制限法の適用があると仮定した場合に昭和六三年六月一七日現在における各貸金契約の残金の合計額は、元金が六五七万七五〇〇円であり、未払利息一〇万三〇三八円であること、原告代理人が昭和六三年六月八日に抗弁1記載の各貸金契約に基づく借入金について、全額返済の意思があること、元利金の残金について計算に必要な書類を送付されたい旨の通知をしたこと、被告が同月一七日までに返済残合計が金八五〇万円である旨主張したこと、被告が同月一七日までに原告代理人の求める資料を提示しなかったこと、原告代理人において同月一七日、残元金六三六万九九四六円及び未払利息について弁済する旨被告に告げたこと及び被告が金八五〇万円の支払いがない限り受け取らない旨回答したこと及び原告代理人が昭和六三年六月二七日に被告に送達された書面で残元金六五六万三一四七円及び右金員に対する同日までの利息合計金について弁済の用意がある旨通知して、その受領を催告したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いがない事実に、いずれも成立に争いのない≪証拠≫、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる≪証拠≫、原告及び被告本人尋問の各結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  被告は、原告に対し、抗弁1記載の各貸金債務について、いずれもその弁済期のころ、原告の電話による弁済期の猶予の求めを承諾し、もって、昭和六三年六月二七日までは抗弁1記載の各貸金債務の支払いを猶予した。

原告は、被告に対し、抗弁1記載の各貸金契約の債務について、その弁済として、別紙返済表の「返済日」欄及び「金額」欄記載のとおり、金員を支払っていたが、原告が利息の高いところで金を借りていることを心配した親類の者から弁護士に相談することを勧められ、昭和六三年六月ころ、原告代理人に相談したところ、高利の利息を払っていることを指摘され、その善処方を原告代理人に委任した。

(二)  原告の委任を受けた原告代理人は、昭和六三年六月八日に被告に到達した内容証明郵便(甲第三号証)で、「福田氏は貴殿との間に昭和六二年頃から消費貸借契約を締結し、現在まで利息を支払って参りました。しかし、福田氏に事情があって、今回を限りに一括して返済をしたい旨の希望をもっております。そこで、当職は左の書類をご請求申し上げます。一、昭和六〇年以降貴殿と右福田氏との間に締結された一切の契約書の写し。二、昭和六〇年以降右福田氏が貴殿に支払った金額、及びその内訳。三、右福田氏が貴殿にあずけてある書類一切の写し。右書類到着次第、一括返済額を提示したいと思います。」と通知し、抗弁1記載の各貸金契約に基づく借入金について、全額返済の意思があること、元利金の残金について計算に必要な書類を送付されたい旨の通知をした。

被告は、原告代理人に対し、同月一七までに返済残合計が金八五〇万円である旨述べるにとどまり原告代理人の求める資料を提示しなかった。

なお、利息制限法の適用があると仮定した場合に昭和六三年六月一七日現在における抗弁1記載の各貸金契約の残金の合計額は、元金が六五七万七五〇〇円であり、未払利息が一〇万三〇三八円である。

(三)  その後、原告代理人は、同月一七日、被告より先に受け取った借用証書の明細を資料に、原告が約定どおり債務を支払ったことを前提として、利息制限法に基づいてその返済金額を計算し、残元金六三六万九九四六円及び未払利息について弁済する旨被告に告げたが、被告は、これに対し、金八五〇万円の支払いがない限り受け取らない旨回答した。そこで、原告代理人は、同月二〇日、更に被告に対し、「先日お送りいただきました借用証書の明細から、当方で利息制限法の規定に基づき返済残金を算出致しました。その写しを同封致しますのでご査証下さい。」と記載した連絡文書(甲第一六号証、乙第二三号証)と計算書(甲第一七号証と推認される。)を送付した。

(四)  原告代理人は、被告と右のような交渉を続ける一方で、被告に対する弁済に備えるため、同月二五日ころ、原告に金七〇〇万円を用意させ(甲第八号証の一、二)、同月二八日ころ、原告より右七〇〇万円を預かり金として受領した(甲第九号証)。

その一方で、原告代理人は、同月二五日に発信し、被告に同月二七日到達した書面に「貴殿と福田氏の金銭消費貸借につき左記のようにご通知致します。一、右福田氏が昭和六二年三月三一日から四回にわたる借入金の元金合計八五〇万円の残金は、昭和六三年六月一七日現在金六三六万九九四六円であること。一、昭和六二年三月以来、現在までの利息の支払いは利息制限法に基づいて計算致しました。一、右残金六三六万九九四六円及び昭和六三年八月一八日以降本通知書到達までの利息制限法に基づく利息は、当職が預かっております。貴殿が保管中の、福田氏が預けた一切の書類及び今回弁済による債務完済領収書と引換に右金額を持参しお支払い致しますので、受領の意思があるかどうかお知らせ下さい。一、なお、本通知書到達後三日以内に何らの連絡がなければ、右金員の受領の意思がないものとみなし、履行の提供が行われましたので以後一切の利息の支払いはお断り申し上げます。」と記載するほか、貸金業規制法四三条については、本件貸付にその適用のない旨を指摘して、その弁済の受領を催告した(甲第五号証)。なお、右の書面の記載内容のうち、昭和六三年六月一七日時点における残債務額については原告代理人の計算誤りが存するものと認められる。

(五)  右を受けて、被告は、原告代理人に対し、昭和六三年六月二八日、遅延損害金の計算書を送付し、返済金額が約七四〇数万円であるとしたため、原告代理人は、同月三〇日、「(1)昭和六三年六月二八日に貴殿から送られた遅延損害金の計算書を受け取りました。それによりますと、約七四〇数万円が遅延損害金と元金との合計として記載されております。そこで、当方でも遅延損害金を三〇%として計算した計算書を送付致します。これによりますと、合計額は六、五六三、一四七円ということになります。従いまして、当方では現在六、五六三、一四七円の金額を預かっておりますので、連絡があり次第直ちに持参し弁済致します。(2)前回連絡の金額六、三六九、九四六円と今回連絡の金額六、五六三、一四七円の差額である一九三、二〇一円につきましては、本連絡書到達後の利息の支払いは、履行の提供がなされましたのでお断り申し上げます。(3)当職としましては、双方のためにも和解で解決したいと思いますので、和解のご意見がございましたら当方へご連絡下さい。こちらの方でもなるべく譲歩して和解したいと思います。」と記載した連絡書(甲第一一号証)を被告に送付した。

その後も、原告代理人は、調停を申し立てる一方で、昭和六三年七月一日に送付した書面や同年八月一一日に送付した書面で、被告に利息制限法の適用を前提とした金員の受領を促した。

3  以上の事実によれば、被告は、昭和六三年六月一七日、原告代理人の利息制限法を前提とする支払いの申し出を拒絶し、もって、弁済の受領を拒否したこと、一方、原告代理人は、原告から金七〇〇万円を預かったうえ、昭和六三年六月二七日に被告に送達された書面で残元金六五六万三一四七円及び右金員に対する同日までの利息合計金について弁済の用意がある旨通知して、その受領を催告したこと、昭和六三年六月一七日現在における各貸金契約の残金の合計額は、元金が六五七万七五〇〇円であり、利息が一〇万三〇三八円であり、右に基づいて計算した昭和六三年六月二七日現在における各貸金契約の残金の合計額は、元金が六五七万七五〇〇円、利息が一二万九二一四円の合計金六七〇万六七一四円であり、原告代理人が昭和六三年六月二七日に提供した金額は、同月一七日を基準として計算した金額に計算の誤りがあったため、同日現在における各貸金契約の残金の合計額には若干満たないこと、右金額の開きは僅少であるうえ、原告代理人においては、昭和六三年六月三〇日に被告に送付した書面においても譲歩の余地があるとしており、また、従前の言動からして利息制限法を前提にした金額については支払いの意思があったと認められ、右は被告にも了解可能であったと認められること、そして、原告代理人において用意していた金額は昭和六三年六月二七日現在における各貸金契約の残金の合計額を越える金額であったことがそれぞれ認められる。

右事実によれば、再々抗弁に理由がない限り、原告代理人が、既に受領拒否の状態にあった被告に対して昭和六三年六月二七日に口頭の提供をなしたと認められ、その原告代理人による被告に対する口頭の提供は有効というべきである(なお、原告の被告に対する予備的請求は、原告代理人が被告に対して昭和六三年六月二七日に口頭の提供をなしたことを前提にしながらも、引換給付として被告に支払うべき金額が同月一七日現在の金額であるため、再々抗弁に理由がない場合においても、原告の被告に対する予備的請求を全部認容することはできないが、原告の従前の主張に照らして考えると、引換給付として被告に支払うべき金額が原告の主張額を超えようと、利息制限法の適用を前提とする金額である以上は、原告の申立ての趣旨に反せず、一部認容とて許容されるものと解される。)。

四  再々抗弁について判断する。

1  貸金業規制法四三条一項は、「貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)第三条の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、同法第一条第一項に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。一 第十七条第一項又は第二項(第二十四条第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十七条第一項又は第二項に規定する書面を交付している場合におけるその交付をしている者に対する貸付けの契約に基づく支払 二 第十八条第一項(第二十四条第二項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定により第十八条第一項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支払」と規定する。

2  そして、右貸金業規制法四三条一項の解釈として、右条項が適用され、利息制限法の制限額を超える利息又は損害金の支払いが有効な利息又は損害金の債務者の弁済とみなされるための要件は、① 消費貸借契約(利息・損害金契約)の締結のときに貸主が貸金業者であること、② 業として行う金銭消費貸借上の利息又は損害金の契約に基づく支払いであること、③ 利息制限法に定める制限額を超える金銭を、債務者が利息又は損害金と指定して任意に支払ったこと、④ 法一七条の規定により法定の契約書面を交付している者に対する支払いであること、⑤ 法一八条の規定により法定の受取証書を交付した場合における支払いであることであると解される。

なお、③は同法四三条一項の「債務者が利息として任意に支払った」との文言の解釈から導かれるものである。すなわち、右は、単なる弁済充当の指定の問題ではなく、本来利息制限法の関係から無効な利息、損害金債務の弁済を有効とする要件の一つであるから、債務者の積極的な意思を要すると解するのが従来の判例、貸金業規制法の立法趣旨等に照らして相当であるからである。

3  以上の貸金業規制法四三条一項の適用要件を本件についてみるに、③の利息制限法に定める制限額を超える金銭を、債務者が利息又は損害金と指定して任意に支払ったとの要件については主張もないうえ、これを認めるに足りる証拠もない。そうであれば、その余の点について判断するまでもなく、再々抗弁は理由がないことは明らかである。

五  結論

以上の事実によれば、原告の被告に対する主位的請求は理由がないから、これを棄却することとし、原告の被告に対する予備的請求は、被告が原告に対して金六七〇万六七一四円の支払いと引換えに、別紙物件目録一ないし五八記載の土地建物について昭和六三年六月三〇日宇都宮地方法務局今市出張所受付第八一二〇号根抵当権設定登記の抹消登記手続、別紙物件目録五九及び六〇記載の土地建物についての昭和六三年六月三〇日宇都宮地方法務局今市出張所受付第八一二〇号根抵当権設定登記の抹消登記手続、別紙物件目録六一記載の土地についての昭和六二年四月一日宇都宮地方法務局受付第一〇〇号根抵当権設定仮登記の抹消登記手続及び別紙物件目録六二記載の土地についての昭和六三年七月六日宇都宮地方法務局受付第九七三号根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却する

(裁判官 深見敏正)

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