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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14238号 判決 1990年10月22日

原告

株式会社第一勧銀ハウジング・センター

右代表者代表取締役

後藤寛

右訴訟代理人弁護士

尾﨑昭夫

川上泰三

額田洋一

右訴訟復代理人弁護士

新保義隆

被告

佐藤哲朗

右訴訟代理人弁護士

森本紘章

被告

酒井雅平

右訴訟代理人弁護士

田淵智久

右被告両名補助参加人

小郷建設株式会社

右代表者代表取締役

小郷利夫

右被告両名補助参加人

株式会社東京企画

右代表者代表取締役

小郷栄子

右両名訴訟代理人弁護士

小山晴樹

渡辺実

主文

一  被告らは、連帯して原告に対し、金一八六四万八八九二円及び内金一八五〇万円に対する昭和五九年七月二三日から完済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

本件請求は、被告佐藤に対しては貸金として、被告酒井に対してはその連帯保証債務の履行として、貸付元金一八五〇万円及び貸付日から弁済期である昭和五九年七月二二日までの約定利息金一四万八八九二円と、弁済期の翌日から完済までの約定遅延損害金の支払いを求めた事件である。

一争いのない事実等

1  原告は住宅ローン貸付等を業とする会社であるが(争いがない。)、昭和五九年六月二一日、被告佐藤との間で、原告を貸主、同被告を借主として、次の内容の金銭消費貸借契約(住宅ローン)を結び、同日その貸金を被告佐藤が指定した第一勧業信用金庫目白支店の同被告名義の普通預金口座へ振り込んだ(本件貸金という。<証拠略>)。

元金 一八五〇万円

利息 月0.765パーセント

遅延損害金 年一四パーセント

2  被告酒井は、前同日、原告に対し、被告佐藤の原告に対する前項の債務を連帯保証した(<証拠略>)。

3  原告の従業員である伊藤九州男は、右貸付に際し、被告佐藤から、同被告が都市開発株式会社から買い受けた不動産の売買代金として同社へ支払うよう依頼を受けて右預金一八五〇万円の払戻請求書の交付を受け、これを都市開発へ交付し、都市開発は右金員の払戻しを受けた(争いがない)。

4  昭和五九年七月二二日が経過し、約定により本件貸金全額につき弁済期が到来した(争いがない。)。

5  本件貸金には、都市開発の連帯保証が付いており、原告は、右連帯保証債務の履行を担保するため付けられた根抵当権に基づき、昭和五九年一〇月二六日東京地方裁判所及び千葉地方裁判所佐倉支部に担保権の実行としての競売を申し立て、その各競売開始決定がされ、右各開始決定正本が、同年一一月一四日及び同年一二月二八日にそれぞれ抵当債務者である都市開発に送達された。そして、本訴提起の日まで右各競売手続は係属していた(<証拠略>、弁論の全趣旨)。

6  被告らは、昭和五九年七月二二日から五年が経過したので本件貸金債務の消滅時効を援用する旨述べた(当裁判所に顕著な事実である。)。

二争点

1  原告の伊藤が被告佐藤から預金の払戻請求書の交付を受けていたことで、原告の同被告に対する貸金の交付は否定されるか。

2  原告が担保権の実行としての競売を申し立て、その開始決定正本が抵当債務者である都市開発へ送達されたことは、連帯保証人である都市開発に対する裁判上の催告にあたるか。

3  伊藤は、右預金を被告佐藤の買い受けた不動産の代金として支払うのではなく、他人が買い受けた不動産の代金として支払ったか。

4  被告佐藤は、伊藤に、同被告が買い受けた不動産の登記書類が整ったことを確認してから右預金を支払うよう依頼したか。

(右の外に、原告が債権計算書を提出したことで消滅時効は中断したか、被告佐藤の受けた損害の額はいくらか等の争いがある。)

三争点に対する判断

1  争点1(貸金の交付)について

原告が本件貸金を被告佐藤名義の預金口座へ振り込む際、伊藤が被告佐藤から右預金の払戻請求書の交付を受けてはいても、被告佐藤は、特段の事情がない限りこれによって右預金の払戻しを受ける権利を失うものではないと解されるところ、右特段の事情の主張はない。

そうであれば、原告が貸金を被告佐藤名義の預金口座へ振り込むことで同被告の右金員に対する実効的支配が成立し、これによって原告の同被告に対する貸金の交付がなされたと認めることができる。

2  争点2(裁判上の催告)について

担保権の実行としての競売申立は、執行裁判所に対する担保権の実現の申立であるが、被担保債権の満足を求めてするのであるから、その申立には、手続の対立当事者である抵当債務者に対して支払を求める意思が含まれていると解される。そして、右申立に基づく競売開始決定の正本を執行裁判所から抵当債務者へ送達すべきことが法律上定められているところ(民事執行法一八八条、四五条二項)、これらの事実によれば、差押債権者としても、通常、自己の申し立てた競売事件が抵当債務者を埒外に置くものではなく、自己が競売を申し立てた旨を執行裁判所により抵当債務者へ通知されることを認識、意欲していると解するのが相当である。

そうであれば、担保権の実行としての競売申立は、執行裁判所を通じてなす抵当債務者に対する被担保債務の支払の催告であり、競売開始決定正本が抵当債務者に送達されることで、支払を求める意思が実際に抵当債務者に到達すると解するのが相当である。

そして、右催告は、競売申立という裁判上の手続をもってするものであるから、いわゆる裁判上の催告として、競売手続が係属中は催告の効力も継続していると解することができる。

被告らは、民法は時効の中断事由としての差押と請求を峻別し、多数当事者の債権関係において差押と請求とで絶対効に差異を設けているから、差押が同時に請求であるという解釈は許されない旨主張する。

確かに、多数当事者の債権関係において絶対効を認められているのは請求のみで、民法が差押と請求とをその効果において峻別しようとしていることは明らかである。しかし、債権者が権利実現に向けてなした行為が時効の中断事由としての何に該当するかは、右行為がそれぞれの中断事由の要件を満たすか否かによって個別に判断されるべき事柄であり、担保権の実行としての競売申立が差押に該当するからといって、それが請求の一態様としての催告の要件を満たしているにもかかわらずこれに該当することを否定されねばならないいわれはないというべきである。

そうであれば、原告が昭和五九年一〇月二六日に前記の根抵当権の実行を各裁判所に申し立てその競売開始決定が抵当債務者である都市開発へ送達されたことにより、原告は、本件貸金の連帯保証人である都市開発に対し連帯保証債務の履行を裁判上催告したというべきであるから、右催告が有する時効中断の効果は民法四五八条、四三四条により、主債務者である被告佐藤及び他の連帯保証人である被告酒井にも及んでいるところ、右各競売手続が係属中に本訴が提起されたから、これによって、右被告両名の各債務の消滅時効は確定的に中断したというべきである。

したがって、これらが時効により消滅したとする被告らの主張は結局理由がない。

3  争点3(他人の売買代金のための支払の有無)について

本件全証拠によるも、争点3の事実を認めることはできない。

4  争点4(登記書類確認の依頼の有無)について

被告佐藤と都市開発間の売買契約書(<書証番号略>)には、売買残代金一八五〇万円は、売主たる都市開発が所有権移転登記手続を完了すると同時に都市開発に支払う旨の記載がある。

しかし、原告が、昭和五九年八月一一日到達の内容証明郵便にて、被告佐藤に対し、本件貸金を担保するため売買目的不動産に抵当権を設定するよう催告したにもかかわらず、同被告からは本訴提起までの五年余の間、原告に対し、伊藤が登記書類の確認を怠って支払をなしたことへの何らの異議も苦情もなかったこと(<証拠略>、弁論の全趣旨)からすると、伊藤と被告佐藤との間ではこの点は依頼の対象ではなかったとの疑いがあるから、契約書の右記載から直ちに争点4の事実を認めることはできないところ、他にこれを認めるべき証拠はない。

右3、4によれば、被告佐藤の有する反対債権との相殺の主張はその前提を欠くので、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

(裁判官畑中芳子)

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